大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所 平成24年(ワ)2423号 判決 2013年5月22日

甲事件原告、乙事件被告

甲事件被告

Y1

乙事件原告

Y2

主文

一  甲事件被告は、甲事件原告に対し、八五万二九三九円及びこれに対する平成二二年一〇月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件被告は、乙事件原告に対し、二万六三九二円及びこれに対する平成二二年一〇月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件原告、乙事件原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、甲事件については、これを二〇分し、その一七を甲事件被告の負担とし、その余を甲事件原告の負担とし、乙事件については、これを五分し、その四を乙事件原告の負担とし、その余を乙事件被告の負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

【甲事件】

一  甲事件被告は、甲事件原告に対し、一〇三万円一一四八円及びこれに対する平成二二年一〇月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は甲事件被告の負担とする。

三  仮執行宣言

【乙事件】

一  乙事件被告は、乙事件原告に対し、一一万八九六六円及びこれに対する平成二二年一〇月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は乙事件被告の負担とする。

三  仮執行宣言

第二事案の概要等

一  事案の概要

本件は、甲事件原告、乙事件被告(以下「原告」という。)が運転する自動車と乙事件原告が所有し、甲事件被告(以下「被告」という。)が運転する自動車が少なくとも二度衝突した交通事故について、原告と乙事件原告がそれぞれ民法七〇九条に基づき、損害賠償と交通事故の発生の日から支払済みまで民法所定の遅延損害金の支払を求めた事案である。

二  前提事実―交通事故の発生(以下、全体を「本件事故」といい、発生した場所を「本件事故現場」という。)

日時 平成二二年一〇月二三日午前六時三〇分頃

場所 埼玉県川口市大字赤山三七七付近(首都高速川口線上)

当事者 乙事件原告(被告と乙事件原告を併せて「被告ら」という。)が所有し、被告が運転する中型貨物自動車(車両総重量七八二〇キロ。以下「被告車」という。)と原告が運転する普通乗用自動車(ステーションワゴン。以下「原告車」という。)

三  主な争点及びこれに対する当事者の主張

(1)  第一事故の態様、過失割合

【原告の主張】

ア 原告が、原告車を運転して首都高速川口線を川口市から足立区方面に走行し、新井宿料金所(以下「本件料金所」という。)を通過後本線に合流しようとしたところ、車列が渋滞していたため、右側の渋滞車列の間に自車の前部を入れた状態で停止待機していたところ、渋滞車列が進み、後方から進行してきた被告車が原告車に接触し、同車を損傷させた。

イ 被告は、前方に別の停止車両が存在する場合には、自車の車幅等を考慮してこれに接触させないようにして注意して進行すべき注意義務を負っていたにもかかわらず、これを怠ったもので、第一事故は、被告の全面的な過失に基づく。

【被告らの主張】

ア 原告の上記主張アのうち、原告が原告車を運転して首都高速川口線を川口市から足立区方面に走行し、本件料金所を通過後本線に合流しようとしたこと、車列が渋滞していたこと、原告車と被告車が接触したことは認めるが、その余は否認する。原告は、ゆっくり進んでいる渋滞車列に方向指示器を出すことなく、幅寄せしてきた。被告車は、原告車による幅寄せにより右方向へ追いやられ、原告車と並走しながら中央分離帯付近まで寄ってしまった。その後、前方の車両が動き始めたので、被告車がゆっくり進行した際、原告車のドアミラーと被告車の左前部が接触した。

イ 原告の過失は七割である。

(2)  第二事故の態様、過失割合

【原告の主張】

ア 第一事故後、被告は「急いでいる」と言って、被告車で立ち去ろうとした。原告は、被告車がそのまま逃走することを阻止するため、原告車を発進させて被告車の前に回り、最終的に両車両は、高速道路の左側端部に、原告車が前、被告車が後ろという形で縦に並んで停止した。ところが、被告車が発進して停車中の原告車に故意に追突した(以下「第二事故A」という。)。仮に故意でないにしても、被告の一方的な過失によるもので、過失相殺をするのは相当でない。

イ 被告らが主張する後記第二事故Bは存在しない。

【被告らの主張】

ア 被告車が走行していたところへ原告車が右車線から被告車の通行する車線前方に車線変更して急停車した。そのため、被告は、慌ててブレーキを踏んだが、停まりきれず原告車に追突した(第二事故A)。第二事故Aは、被告の故意によるものではなく、過失によるものである。第二事故Aの原告の過失は九割である。

イ 同事故後、被告が被告車を発進させ、原告車の右側を抜けて発進しようとしたところ、過って被告車の左後部が原告車の右前部に接触した(以下「第二事故B」という。)。

(3)  損害

【原告の主張】

ア 第一事故、第二事故Aにより原告車は損壊し、原告は修理に九三万七四〇八円を要する損害を被った。なお、原告車はAが使用者と登録されているが、所有者は原告である。

イ 弁護士費用相当額は九万三七四〇円である。

【被告らの主張】

ア 第二事故Aにより、被告車は、左ミラー及びその周辺に損傷を受けた。修理費は一一万九九六三円である。過失相殺後の金額は一〇万七九六六円である。

イ 弁護士費用相当額は一万一〇〇〇円である。

ウ 原告の上記主張は争う。第一事故による損害が二万五五七〇円(税別。甲五の一のうちコード三二五〇。)、第二事故Bによる損害が二二万四五七一円(税込。甲五の一のうちコード三二五〇以外の修理。)で、第二事故Aによる損害が六八万七二六七円(税込。甲五の二、三)である。

第三当裁判所の判断

一  認定事実

前提事実、証拠(甲一ないし三、六、九、一〇、乙一、三、四(書証は枝番を含む。以下、同じである。)、原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1)  第一事故

ア 本件第一事故は、土曜日である平成二二年一〇月二三日午前六時三〇分頃、首都高速川口線上りの本件料金所を過ぎた付近で起きた。当時、夜は明けていた。

被告は、解体工事を業としており、被告車に三トンのパワーショベルを積載して午前八時までに千葉市に行く予定であった。被告は本件料金所の左から三番目あたりの「ETC」ゲートを通過した。本件料金所を通過すると、道路は左側から狭くなり二車線になることから、運転手は右側に進路を切ることが必要であった。そのため、被告は、上記ゲートを通過後、進路を右側に切り、当時渋滞のため先行車両が停止していたことから、走行車線の第一通行帯(左)に続く渋滞車列の後ろに停車した。

原告はとび職をしており、当日、職長免許の更新手続を行うため原告車を運転していた。原告は、現場見取図(甲一〇の一)記載の一番左の「一般・ETC」ゲートを通過し、現場見取図(甲一〇の一)記載の一番目の<ア>、二番目の<ア>付近を通過した後、三番目の<ア>付近まで進行し、既に停車していた被告車とその先行する停車車両との間に一定の距離があったことから、自車の前部付近をその間に進入させるようにして停車した。その位置は概ね現場見取図(甲一〇の一)記載の三番目の<ア>付近であった。当時、走行車線の第二通行帯(右)に続く車列も同様に渋滞していた。

イ 被告は、前記のように停止していたが、原告が動く前に発進し、進路を右側にとり、走行車線の第二通行帯(右)の方向に向かって進行させた(原告は、第二通行帯に続く車列の方が先に動き出したので、被告は同通行帯に向かって進行したのではないかと供述する。)。その際、被告車の左側面と停止していた原告車の右前側部付近が接触した(第一事故)。これにより、原告車の右前側部付近が損壊した(この点、被告らは、原告は、ゆっくり進んでいる渋滞車列に方向指示器を出すことなく、幅寄せしてきた、被告車は、原告車による幅寄せにより右方向へ追いやられ、原告車と並走しながら中央分離帯付近まで寄ってしまった、その後、前方の車両が動き始めたので、被告車がゆっくり進行した際、原告車のドアミラーと被告車の左前部が接触したと主張し、被告はその旨供述する。しかし、原告と被告はもともと何ら利害関係のない他人であり、原告は、本件事故当日、所用のため原告車を運転し、本件事故の現場を通り過ぎたもので、敢えて被告に対し、同人が供述するような異常な運転方法を取る理由は見当たらず、被告の前記供述は採用できない。)。

ウ ところが、第一事故発生後、被告車は停止せず、被告は被告車から降りてくることもなかった。そこで、原告は、被告車を追跡することとした。

(2)  第一事故後の両者の行動

ア 原告は第一車線を進行することによって、第二車線を進行する被告車を追い越し、被告車より前に進行し、進路を右に変え、中央分離帯に近い場所で原告車を停止し、被告車を停車させた。両者は、それぞれの自動車から降りた。原告は被告に対し、「交通事故であるから、警察に通報する。」と言った。これに対し、被告は原告に対し、「急いでいる。」などと言って、原告の上記要請に応じない意思を明らかにし、被告車に戻り、同車を発進させようとした。このため、原告も、原告車にすばやく戻り、被告が逃走しないように原告車を発進させた。

イ 原告は、被告車より原告車を先行させ、被告車が逃走しないように自車の進路を左右に移動させながら低速で原告車を走行させた。被告車は、原告車が上記行動を取ったため、走り去ることができず、原告車の後方付近を同様に低速で走行することとなった。そして、原告は、本件料金所のパーキングからの合流路が本線と一体化する直前の地点付近で、道路左側にどうにか停車するスペースがあったこと(乙一の現場写真(その九、その一〇)に写っている鉄柱の右手前付近)から、車線変更して第二車線から第一車線に入った後、ほどなく上記スペースに原告車を停車し、被告車を停車させようとした。

(3)  第二事故A

原告車が停止すると、その後方を走行していた被告車も減速した。ところが、被告車前部が原告車の後部に衝突し、同車後部が損壊し、被告車前部付近も損壊した(これについて、原告は、被告車は一旦停止した後、故意に発進し、原告車後部に追突させたもので、故意による事故であると主張し、供述する。しかし、原告本人尋問の結果によると、同人は被告が第二事故Aの直前に一旦停車したことを確実に目視していないものと認められる。さらに、第二事故Aに至るまでの経緯は前記認定のとおりであり、被告は第一事故後警察への通報をすることもなく、原告の要請も無視してその場を走り去ろうとしていたことから、故意による犯行ということもあり得ないわけではないが、故意に追突すれば、自車も損傷することは必至であるから、そのような行為は容易に行えることではない。以上から、故意による事故であるとの原告の主張は採用できない。)。

(4)  第二事故B(被告らは、第二事故A発生後、被告が被告車を発進させ、原告車の右側を抜けて発進しようとしたところ、過って被告車の左後部が原告車の右前部に接触した(第二事故B)と主張し、被告はその旨供述する。)

第二事故Bがあったとされるとき、原告は原告車の運転席におり、被告車が原告車の右横を通り過ぎる際、被告車の動きを上記運転席から間近で見ていた。しかし、原告は、第二事故Bの存在を一貫して否定している。原告車は第二事故Aの発生直前、道路にほぼまっすぐに停車し(原告本人、被告本人)、被告車が原告車に追突した後、被告は被告車を一旦後退させた上、右にハンドルを切ってその場から走り去った。さらに、被告は、本件事故後の平成二三年四月二八日、被告車が加入する任意保険の保険会社から依頼を受けた調査会社の担当者に対し本件事故の状況を伝えたが、その際、第二事故Bについては言及しなかった(乙一)。本訴において、被告は、本件事故Bの内容の重要な部分において主張を変遷させた(当初は原告車の右後ろに衝突したと主張した(平成二四年五月一一日付け準備書面一)が、その後、被告車の左後部が原告車の右前部に接触したと主張するに至った(反訴状))。そして、以上のような第二事故A発生前後の両車の動きを前提に考えると、被告車の左後部が原告車の右前部に接触するという本件事故Bが発生したとは考え難い。

(5)  その後の行動

第二事故A発生後、被告は被告車を一旦後退させた上、右にハンドルを切ってその場から走り去った。原告は原告車により被告車をさらに数キロメートルほど追跡した。同時に、原告は、警察に携帯電話で通報し、被告車の車両番号を伝えた。しかし、原告は、警察官から諭され、被告車の追跡を止めた。

二  主な争点に対する判断

(1)  第一事故について

前記認定事実を前提とすると、第一事故は、主に被告の過失により発生したものであると認められる。しかし、被告車とその先行する車両との間に一定の距離があったことから、原告が原告車の前部をその間に進入させるようにして停車させたのであるが、原告車と被告車との距離はかなり接近していたと推認される。原告の上記運転行為が第一事故の発生の原因となったことも否定できない。そして、第一事故の発生原因、本件事故現場の状況、原告と被告の上記運転方法などを考慮すると、原告と被告の過失割合は、一対九であると認める。

(2)  第二事故Aについて

ア 前記のとおり、第一事故は被告の過失による交通事故(道路交通法六七条二項)であるから、当事者は、直ちに車両の運転を停止し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じ、最寄りの警察署の警察官に当該交通事故の発生を報告しなければならない(同法七二条一項)。ところが、被告は、上記報告義務を履行することなく、本件事故の現場から合理的な理由なく(被告は、第一事故、その直前の原告の運転方法が普通ではなく、第一事故発生後の原告の態度が普通ではなかったから、警察官へ通報することなく、その場を走り去ろうとしたと供述するが、本件証拠上、原告の運転方法、態度が特に問題であったとは認められない。)立ち去った。そのような状況において、原告が被告を追い掛け、警察に通報することを要請し、それに応じることなく被告がその場を立ち去ったことから、原告車をさらに走行させることにより被告の逃走を防止し、停車するスペースのある場所で原告車を停車することにより、被告車を停車させようとした原告の行動は、基本的に正当な行為といえる。また、原告は低速で原告車を走行させていたもので、第二事故A直前の停車の際、急ブレーキを踏んだとは認められない。

イ 前記認定事実を前提とすると、第二事故Aは被告が前方注視を怠った結果発生したものと認められ、第一事故発生後の両者の行動を前提とすると、被告は第二事故A直前の原告の行動(原告が車線変更して第二車線から第一車線に入った後、上記停車スペースに自車を停車し、被告車を停車させようとしたこと)を予期することは困難でなく、原告が原告車を停車させるに当たり急ブレーキを踏んだとは認められない。他方、原告の追走行為が基本的に正当な行為といえるとしても、高速道路上であり、第二事故A直前の時点において原告車と後続車である被告車との間の車間距離も短かった(被告は、一〇メートルちょっとであったと供述する。被告本人二一頁。)こと、原告は、車線変更して第二車線から第一車線に入った後、ほどなく上記場所に自車を停車し、被告車を停車させようとしたことなどを考慮すると、原告の上記停車行為が第二事故A発生の原因となったことも否定できない。

ウ 以上認定のような第二事故A発生に至る経緯、事故態様、双方の過失内容を総合すると、原告と被告の過失割合は、一対四であると認める。

(3)  損害について

ア 原告車の損害

証拠(甲五、九、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、第一事故に基づき、原告車は甲五の一記載の修理が必要となり、その額は二五万〇一四一円であり、第二事故Aに基づき、原告車は甲五の二、三記載の修理が必要となり、その額は六八万七二六七円であると認める。そして、第一事故について一〇%の過失相殺をした結果は二二万五一二六円となり、第二事故Aについて二〇%の過失相殺をした結果は五四万九八一三円となる。以上の損害合計は七七万四九三九円となる。そして、本件事案の内容、認容額、審理の経過などから、不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は七万八〇〇〇円であると認める。以上の合計は八五万二九三九円である。なお、証拠(甲四、七ない九、原告本人)によれば、原告車の登録名義上は使用者がAとなっているが、原告が原告車を所有していると認められる。

イ 被告車の損害

証拠(乙二ないし四、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、第二事故Aに基づき、被告車は左ミラー及びその周辺を損傷し、その修理に一一万九九六三円を要したと認められる。第二事故Aについて八〇%の過失相殺をした結果、二万三九九二円となる。そして、本件事案の内容、認容額、審理の経過などから、不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は二四〇〇円であると認める。以上の合計は二万六三九二円である。

三  結論

よって、原告の請求は、主文第一項の限度で、乙事件原告の請求は、主文第二項の限度で、いずれも理由があるから認容し、その余はいずれも理由がないから棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官 窪木稔)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例