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さいたま地方裁判所 平成24年(ワ)2700号 判決 2014年10月07日

原告

株式会社X

被告

主文

一  被告は、原告に対し、二四二万一三八三円及びこれに対する平成二三年一〇月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項及び第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、九二三万一七三四円及びこれに対する平成二三年一〇月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告に対し、平成二三年一〇月七日に発生した別紙交通事故目録記載の交通事故(以下「本件事故」という。)により原告車両等が損壊し損害を被ったとして、不法行為に基づく損害賠償請求として、損害賠償金等九二三万一七三四円(弁護士費用一〇〇万円を含む。)及びこれに対する不法行為(本件事故)の日である平成二三年一〇月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  前提となる事実(証拠によって認定した事実は末尾にその証拠を記載した。証拠の記載がない事実は当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

原告は、既設の下水道管の調査業務等を行っている株式会社であり、別紙交通事故目録記載の原告車両の所有者である。(甲一七ないし二二、弁論の全趣旨)

(2)  事故の発生

平成二三年一〇月七日午後〇時三五分頃、さいたま市大宮区桜木町二丁目四〇三番地先路上(以下「本件事故現場」という。)において、別紙交通事故目録記載のとおり、本件事故が発生し、原告車両が損傷を受けた。

原告車両には、本件事故当時、下水道調査用の特殊なTVカメラ(型番はPV―二三〇〇である。以下「本管カメラ」という。)及び同カメラを下ろすためのチェーンやカメラ操作のための器具・ケーブル等が備え付けられていた。(甲四、一五、弁論の全趣旨)

(3)  被告による一部弁済

被告は、原告に対し、本件事故による損害賠償の一部として、六〇万五六九五円を支払った。

二  争点

(1)  事故態様及び過失相殺

(原告の主張)

ア 別紙交通事故目録記載の本件事故の態様を踏まえるときは、被告は、車両を運転する際には、前方を充分に注視して進行する義務があるのに、この義務を怠り、漫然と走行した前方不注視の過失があり、この過失により本件事故を発生させたものであるから、民法第七〇九条により、原告車両の所有者である原告に生じた損害を賠償する責任がある。

イ 原告は、本件事故当時、標識の設置や交通整理員の配置等の十分な措置を取っていたのであって、過失はない。

(被告の主張)

ア 被告が、本件事故の発生に関し、過失責任を負うことは争わない。

イ しかしながら、原告は、本件事故現場が駐車禁止区域であり、さらに市街地で交通頻繁な県道であったにもかかわらず、標識の設置や交通整理員の配置等の十分な措置を取らないまま、本件事故現場に原告車両を駐車させて作業をし、道路の円滑な進行を妨げていた。

したがって、相当の過失相殺がされるべきである。

(2)  原告の本件事故による修理費用相当額の損害の有無

(原告の主張)

原告は、本件事故により、原告車両の修理代金三七万二八〇五円及び本管カメラ(中古品であったが、本件事故の三か月前にメンテナンスに出して部品の交換を行ったばかりであった。)の修理費用二三万二八九〇円の合計六〇万五六九五円の損害を被った。

(被告の主張)

原告車両の修理代金三七万二八〇五円については認めるが、本管カメラの修理費用二三万二八九〇円については否認する(これを示す見積書の記載は信用できず、少なくとも本管カメラが中古品であったことによる経年劣化部分は損害から除くべきである。)。

仮に、本管カメラが本件事故によって損傷を受けたとしても、本管カメラが中古品であったことや原告が損害防止義務を懈怠したことによって生じたにすぎない。

(3)  原告の本件事故による営業利益相当額の損害の有無

(原告の主張)

原告は、本件事故で原告車両及び本管カメラが損傷し、その修理期間も不明であり、他に本管カメラと同様のTVカメラ搭載車を保有せず、また、同様の車両のレンタル業者も知り得なかったため、予定されていた別の調査業務(以下「本件別調査業務」という。)を受注できなくなった。

したがって、原告は、本件別調査業務にかかる売上高八四七万八七五〇円から燃料費相当分一五万三二七二円及び消耗費九万三七四四円を控除した残額である八二三万一七三四円の営業利益相当額の損害を被ったということができる。

(被告の主張)

原告は、本件事故で原告車両及び本管カメラが損傷したとしても、作業日程との関係から、本管カメラを修理して本件別調査業務を受注することが可能であったのであり、また、本件別調査業務の受注は公共事業の再委託であって、発注した川越市と元請業者との契約における再委託禁止条項に反する違法なもので法的保護に値しないものである。

また、原告に損害が発生したというためには、本件事故の前後において、決算書上、売上高(少なくとも営業利益)の減少が生じていることが要件とされるべきところ、原告には売上高の減少が生じていない以上、原告に営業上の損害が発生していないことは明らかである。

仮に、本件別調査業務が受注できなかったことによる損害があるとしても、その損害額は、①売上高から経費を控除する方法で算定するとした場合、決算書に基づき売上原価を割合的に控除されるべきであるところ、原告はこれを具体的に主張立証しないし、また、②売上高に利益率を乗じる方法で算定するとしても、原告の本件事故前の利益率はマイナスであったから、結局は損害が発生していないというほかない。

(4)  原告の本件事故による弁護士費用相当額の損害

(原告の主張)

原告は本件事故による損害賠償を請求するため、やむを得ず弁護士に依頼して本訴を提起せざるを得なかったのであり、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては一〇〇万円を下らない。

(被告の主張)

争う。

第三当裁判所の判断

一  争点(1)(事故態様及び過失相殺)について

(1)  被告の本件事故発生に関する過失責任について

証拠(乙一二、被告本人)によれば、原告が本件事故当時、前日の午後一〇時から当日の午前一一時三〇分ころまで夜勤をしており疲れのために集中力を欠く状態であったと認められること及び別紙交通事故目録記載の本件事故の態様を踏まえるときは、被告は、車両を運転する際には、前方を充分に注視して進行する義務があるのに、この義務を怠り、漫然と走行した前方不注視の過失があり、この過失により本件事故を発生させたものであるから、民法第七〇九条により、原告車両の所有者である原告に生じた損害を賠償する責任がある。

(2)  過失相殺について

被告は、本件事故現場が駐車禁止区域であり、さらに市街地で交通頻繁な県道であったにもかかわらず、原告が標識の設置や交通整理員の配置等の十分な措置を取らないまま、本件事故現場に原告車両を駐車させて作業をし、道路の円滑な進行を妨げていたとして、相当の過失相殺がされるべきである旨主張し、これに沿う証拠(被告本人、乙一、一二、二〇、二一)がある。

しかしながら、カラーコーンがやわらかい材質のものでつぶれても復元するものであるという証人Aの証言を踏まえるときは、カラーコーンを飛ばした衝撃を感じることがなかったり(乙一二、被告本人)、被告車両にカラーコーンの痕跡が確認できない(乙一、二〇、二一)としても、必ずしも不自然とはいえない。

むしろ、証拠(甲四一ないし四七、乙一〇、証人A、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故現場が市街地で交通頻繁な県道であり、駐車禁止区域であったこと、原告は、道路使用許可を得た上、本件事故当時も警備会社に委託して作業員一名を配置するとともに、停車中の原告車両の車道側にカラーコーンを置いていたほか、「片側通行止」と記載された看板及び「下水道調査中」と記載された看板を置いて作業をしていたことが認められる。

そうすると、原告が事故発生の防止の措置を講じていなかったということはできず、他に原告について本件事故の発生について過失があることを認めるに足りる事情を示す証拠はない。

したがって、被告の前記主張は採用することができず、本件事故の発生については、被告の全面的な過失によるもの(過失相殺をしない)というのが相当である。

二  争点(2)(原告の本件事故による修理費用相当額の損害の有無)について

(1)  原告車両の修理代金について

原告車両の修理代金三七万二八〇五円が本件事故の損害であることについては、当事者間に争いがない。

(2)  本管カメラの修理代金について

ア 証拠(甲四、一〇、一一、一六、四一、乙一、二、五の四、乙六、八、証人A、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、本管カメラは一〇年以上使用された中古品であったこと、本件事故の三か月前にメンテナンスに出して部品の交換を行っていたこと、原告の現場責任者であったAは、本件事故時、本件車両内にいて、下水道内に降ろしていた本管カメラを引き上げようとして、本管カメラに付属していたケーブルを車内のドラムで巻き上げていたこと、原告は本件事故後に本管カメラを扱う数少ない業者である株式会社a(以下「a社」という。)に修理を依頼していること、a社は本管カメラの修理として、本件カメラを分解した上、旋回モーター交換、タイヤゴムの交換、サブライトケーブルの交換、自走ケーブルの交換、リミットレバーの交換を行い、再び組み立てて、総合動作確認等を行ったこと及び修理費用(部品代及び工賃)として二三万二八九〇円(消費税を含む。)を要したこと、a社が被告の契約する損害保険会社に対し前記と同旨の修理内容を記載した平成二四年一月六日付け見積書(以下「一月見積書」という。)及び同月一八日付け修理報告書(記載内容は一月見積書と同じである。)を提出したことが認められる。

これらの事実を踏まえるときは、本管カメラは、本件事故当時、メンテナンスを受けて相当程度の利用価値を回復・保持していたものといえるし、本件事故によって、付属していたケーブルが引っ張られることにより、旋回モーターやリミットレバーが破損したり、ケーブルが断線したり、ドラムに不具合が生じ、前記認定の修理を要したものと認めることができるから、前記修理費用は本件事故によって発生した損害であるというのが相当である。

イ 被告は、修理内容を示す一月見積書の記載の信用性を争い、少なくとも本管カメラが中古品であったことによる経年劣化部分は損害から除くべきである旨主張する。

確かに、証拠(甲三四、乙五の一ないし四、乙六ないし八)によれば、a社が原告に提出した平成二三年一二月二〇日付け見積書(以下「一二月見積書」という。)では、症状・状況としては、旋回モーターが「弱っている」、旋回クラッチが「劣化」、タイヤゴムが「劣化」、自走ケーブルのうち一本が「被覆切れ」と記載され、処置として、旋回クラッチのメンテナンスは記載されておらず、サブライトケーブルが「同梱」、自走ケーブルが「同梱」と記載されていたのに対し、a社が被告の契約している損害保険会社に提出した一月見積書では、症状・状況としては、旋回モーターが「破損」、旋回クラッチが「動作不良」、タイヤゴムが「損傷」、自走ケーブルのうち一本が「被覆破損」と記載され、処置として、旋回クラッチのメンテナンスが追加記載され、サブライトケーブルが「交換」、自走ケーブルが「交換」と記載されているという違いがあることが認められる。

しかしながら、一二月見積書の症状・状況についての記載のうち、「弱っている」、「劣化」という部分については、これが経年劣化を示すものであることが明らかであるとは必ずしもいえないし、自走ケーブルのうち一本が「被覆切れ」という部分は一月見積書の「被覆破損」という部分と違いはない。また、一二月見積書の処置についての記載は、同見積書の示す費用額と一月見積書の示す見積書の記載額が同額であることからすると、むしろ旋回クラッチのメンテナンスを追加し、ケーブルを「交換」しても同額ということになるから、この記載の違いは修理費用の大小に影響しない程度のものであるというほかない。そうすると、一月見積書について、一二月見積書といくつかの部分の記載が異なるからといって、これを「改ざん」と評価することはできない。

加えて、証拠(甲三、四、乙六)及び弁論の全趣旨によれば、被告の契約する損害保険会社の担当者は、a社から一月見積書のファックス送信を受けた平成二四年一月六日付け送付状に、「一二/二〇~一/一三引渡」、「なぜ遅れたのか?」、「修理前も使えたのか?」、「二三二八九〇円(税込)」等のメモを記載していること及びその後に一月見積書記載の修理費用を原告車両の修理代金とともに異議をとどめることなく支払ったこと、そして、本件訴訟に至るまで、この支払について被告及び被告の契約する保険会社も本管カメラの破損の事実並びに修理の必要性及び修理金額について特段の異議を申し立てなかったことが認められる。これらのことからすると、被告の契約する保険会社においても、一月見積書記載の修理費用について、充分に検討し、その上で修理代金を支払ったものと認めることができる。

そして、他に一月見積書が本管カメラの修理内容として不合理であることを認めるに足りる証拠はない。

してみると、一月見積書の記載はこれを採用することができるのであって、被告の前記主張は採用できない。

ウ 被告は、本管カメラの損害があるとしても、原告が損害防止義務の履行(衝撃緩和措置を講じること)を懈怠したことによって生じたにすぎないとして、本件事故と本件カメラの損傷との因果関係を肯定することはできない旨主張する。

しかしながら、原告は、本件事故当時、本管カメラを使用して下水道調査を行っていたのであるから、本管カメラの通常の使用をしていたということができる一方、被告のいう原告の損害防止義務の履行としての衝撃緩和措置の具体的内容は必ずしも明らかではない。仮に、この措置を本件事故の発生の防止措置と同義であると解しても、前記一(2)で判示したとおり、本件事故の発生について原告に過失はない。

したがって、被告の前記主張は失当であって採用できない。

三  争点(3)(原告の本件事故による営業利益相当額の損害の有無)について

(1)  証拠(甲五ないし九、一七ないし二二、四三、四五、乙四、四一、四二、証人A、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

ア 原告は、上下水道及び清掃施設の設計、施工、維持管理等を主たる業務とする株式会社であり、主たる業務の一つとして、既設の下水道管の調査等の業務を長年にわたり請け負ってきた。

原告の請け負う下水道調査等の業務は、具体的には、下水道管の清掃、補修工事、テレビカメラ調査等の業務であり、このうちテレビカメラ調査業務が最も利益率が高く、利益も大きい。

イ 原告は、下水道調査用の特殊なTVカメラである本管カメラを搭載した車両を原告車両一台しか所有していなかったほか、本管カメラ(の代替品)を貸し出す業者を知らなかった。

なお、原告車両についてみると、その標準的な燃料消費量は一時間あたり六・八リットルであり、その車両修理費等の車の消耗費は、本件事故前の一年間(平成二二年一〇月七日から平成二三年一〇月六日まで)で三六万八〇〇〇円(一日あたり一〇〇八円)であった。

ウ 原告は、株式会社b(以下「b社」という。)との間で、平成二三年一〇月六日、同社が落札した川越市の同市仙波三丁目地内ほかにおける既設官調査業務(本件別調査業務)を代金八四七万八七五〇円で受託する旨の合意をした。

この業務の調査作業総量は、六〇三九・一六メートルであり、一日あたり八時間稼働を前提とした一日あたり(一日八時間の稼働を前提)の作業量は三〇〇メートルとされていたところ、この業務の遂行には、本管カメラを搭載した原告車両が必要であった。

なお、b社と川越市との契約では、調査期間が同月一一日から平成二四年一月三一日までとされ、また、再委託を禁ずる定めがあった。

エ 平成二三年一〇月七日に本件事故が発生し、これにより原告車両に搭載されて作業途中であった本管カメラが損傷した。

本件事故直後では、本管カメラが精密機器であったことから、修理以前に分解して詳しく破損箇所や破損状況を確かめなければ修理期間を確定できず、本件別調査に着手できるかわからない状況であった。

その後、b社は、原告に対し、本件事故から約二週間後、本件別調査業務の委託契約を解除する旨通告した。

オ 分解による調査後に、修理期間が平成二三年一二月二〇日から平成二四年一月一三日であることが決まった。

また、原告は、本件カメラの修理を終えた後、遅くとも、平成二四年二月又は三月に下水道調査業務の受注を再開した。

そして、b社からの仕事の受注(下請け)も続いている。

カ 原告の本件事故前の前の事業年度(平成二二年四月一日から平成二三年三月三一日まで)における売上高は五四四五万〇四〇〇円、営業利益は-八一〇万七六九〇円(損失)であった。

これに対し、原告の本件事故日を含む事業年度(平成二三年四月一日から平成二四年三月三一日まで)における売上高は八七四一万一八〇五円(前年度と比べ三二九六万一四〇五円の増)、営業利益は四二六万一六三九円(前年度と比べ一二三九万九三二九円の増)であった。

キ 総務省統計局がまとめた平成二四年中小企業実態基本調査によれば、平成二三年度の全国の中小企業における売上高総利益率(=売上総利益÷売上高×100)は全業種平均で二五・〇二パーセントであった。

(2)  以上の認定事実を踏まえて判断する。

ア 本件別調査業務を受注・遂行するにあたっては原告車両を使用する必要性があり、また、本管カメラの特殊性から代替品を容易に調達することが困難であったということができ、しかも、原告は本管カメラを搭載した車両としては原告車両しか保有していなかったことから遊休車もなかったということができる。

イ ところで、損害の公平な分担という不法行為による損害賠償制度の制度趣旨からすれば、被害者に生じた現実の損害を填補するべく、不法行為前後の利益状態の差を損害とみるのが基本的には相当であるから、不法行為である交通事故の前後で売上高(少なくとも営業利益)の減少が生じていないときは、営業上の損害(休車損害)を当該事故の損害賠償金として請求することは、原則としてできないものと解される。

もっとも、売上高はその時々の注文の件数や営業努力等、様々な要因によって変動するものであるから、仮に事故車両が稼働していればより多くの収入を得られていたであろうと認められるときは、例外的に、営業収入の減少がなくとも、休業損害を肯定することができるとすることが公平の観点からみて相当である。

これを本件についてみると、原告の売上高は、本件事故前後で減少しているところはなく、むしろ大幅な増加を示しているが、このような変動が生じた要因は必ずしも明らかではないものの、そもそも原告の事業がタクシーやトラックといった事業用自動車を使用した継続的な運送事業ではなく、特殊な機器を搭載した自動車による下水道管調査を個別に受注してされるものであること、原告の請け負う下水道調査等の業務の中では本管カメラを使用した調査業務が最も利益率が高く、利益も大きいことからすると、原告が本件別調査業務を受注できたときはより多くの収入を得られていたであろうと認めることができる。

したがって、原告が本件事故によって本件カメラが損傷したため本件別調査業務が受注できなかったことによる営業上の損害は、本件事故による損害賠償の対象となるというのが相当である。

ウ 原告の本件別調査業務が受注できなかったことによる営業上の損害の算定方法としては、大別して、①売上額から変動経費を控除する方法と、②売上額に利益率を乗じる方法が考えられる。

このうち、控除すべき変動経費を確定する必要がある①の算定方法は、本件では、原告において、本件事故の前年度では営業損失が発生しており、本件事故の発生日を含む年度では大幅な収益改善がされていることからすると、個々の変動経費額として適切な数値を算定することが困難であることからすると、適切な算定方法ではない。

これに対し、②の算定方法は、個々の変動経費額にとらわれない手法ではあるが、原告の具体的な利益率として本件事故の前年度では営業損失が生じているため、適切な利益率を原告の収益状態を基礎に算定することはやはり難しい。そこで、損害の公平な分担の観点から、近接した時期における同規模事業者の平均的・一般的な利益率を用いて、②の算定方法によることもやむを得ない。

そうすると、平成二三年度の全国の中小企業における売上高総利益率は全業種平均で二五・〇二パーセントであったことから、原告の本件事故によって本件別調査業務が受注できなかったことによる営業上の損害は、二一二万一三八三円(=847万8750円×0.2502)であるというのが相当である。

エ 被告は、原告が本管カメラを修理して本件別調査業務を受注することが作業日程上可能であった旨主張するが、本件事故直後では本管カメラの修理期間が明らかでなかったのであるから、この主張は採用できない。

オ 被告は、本件別調査業務の受注が川越市とb社との契約における再委託禁止条項に反する違法なもので法的保護に値しないものである旨主張するが、川越市との関係ではともかく、少なくとも被告との関係で法的保護に値しないとまではいえないから、この主張は採用しない。

四  争点(4)(原告の本件事故による弁護士費用相当額の損害の有無)について

証拠(甲四二、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故による損害賠償を請求するため、やむを得ず弁護士に依頼して本訴を提起せざるを得なかったことが認められることからすると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害としては三〇万円とするのが相当である。

五  原告の本訴請求について

以上の判断及び前記第二の一(3)の事実(一部弁済)を踏まえるときは、被告が原告に対し、不法行為(本件事故)に基づく損害賠償請求として、賠償金二四二万一三八三円(=(37万2805円+23万2890円)+212万1383円+30万円-60万5695円)及びこれに対する本件事故の日である平成二三年一〇月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができるというのが相当である。

六  結語

以上の次第であり、原告の本訴請求は、前記五の限度で理由があるから、その限度で認容し、その余の部分は理由がないから棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法六四条本文、六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木拓児)

(別紙)

交通事故目録

日時 平成二三年一〇月七日午後〇時三五分頃

場所 さいたま市大宮区桜木町二丁目四〇三番地先路上

原告車両 自家用普通特種自動車(ナンバー<省略>)

運転者 A

被告車両 自家用普通乗用自動車(ナンバー<省略>)

運転手 被告

事故態様 被告の運転する被告車両が路上に停止していた原告車両に衝突した。

以上

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