さいたま地方裁判所 平成24年(ワ)3000号 判決 2014年1月28日
原告
X1<他2名>
被告
Y1<他1名>
主文
一 被告Y1は、原告X1に対し、一三七〇万四二九六円及びうち一二五二万七四六七円に対する平成二二年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告Y1は、原告X2に対し、一一五〇万四二九七円及びうち一〇三二万七四六八円に対する平成二二年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告Y1は、原告X3に対し、一一五〇万四二九七円及びうち一〇三二万七四六八円に対する平成二二年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告株式会社Y2は、原告X1の被告Y1に対する判決が確定したときは、原告X1に対し、一三七〇万四二九六円及びうち一二五二万七四六七円に対する平成二二年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告株式会社Y2は、原告X2の被告Y1に対する判決が確定したときは、原告X2に対し、一一五〇万四二九七円及びうち一〇三二万七四六八円に対する平成二二年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六 被告株式会社Y2は、原告X3の被告Y1に対する判決が確定したときは、原告X3に対し、一一五〇万四二九七円及びうち一〇三二万七四六八円に対する平成二二年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
七 原告らのその余の請求を棄却する。
八 訴訟費用はこれを五分し、その四を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。
九 この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告Y1は、原告X1(以下「原告X1」という。)に対し、一五八七万四二九六円及びうち一四六九万七四六七円に対する平成二二年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告Y1は、原告X2(以下「原告X2」という。)に対し、一三六七万四二九七円及びうち一二四九万七四六八円に対する平成二二年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告Y1は、原告X3に対し、一三六七万四二九七円及びうち一二四九万七四六八円に対する平成二二年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告株式会社Y2(以下「被告会社」という。)は、原告X1の被告Y1に対する判決が確定したときは、原告X1に対し、一五八七万四二九六円及びうち一四六九万七四六七円に対する平成二二年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告会社は、原告X2の被告Y1に対する判決が確定したときは、原告X2に対し、一三六七万四二九七円及びうち一二四九万七四六八円に対する平成二二年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六 被告会社は、原告X3の被告Y1に対する判決が確定したときは、原告X3に対し、一三六七万四二九七円及びうち一二四九万七四六八円に対する平成二二年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告らの母親である亡A(以下「亡A」という。)が、被告Y1の運転する車両との交通事故により死亡したことに基づき、被告Y1に対しては不法行為による損害賠償を、被告Y1運転車両について保険契約を締結していた被告会社に対しては保険契約に基づく損害賠償額の支払を求める事案である。
一 争いのない事実等(証拠を掲記した事実以外は争いがない。)
(1) 亡Aは、次の交通事故(以下「本件事故」という。)により負傷し、死亡した。
ア 発生日時 平成二二年一二月一五日午後七時四五分ころ
イ 発生場所 さいたま市見沼区大和田町二丁目一一四〇番地(以下「本件事故現場」という。)
ウ 加害者 被告Y1
エ 加害車両 自家用普通自動二輪車(以下「被告車両」という。)
オ 被害者 亡A(歩行者)
カ 事故態様 被告Y1は、被告車両を運転し、上尾市方面から浦和区方面へ道路を進行していたところ、被告車両の進行している道路を横断歩行していた亡Aに気付かず、被告車両を亡Aに衝突させ、それによって亡Aを死亡させた。
(2) 被告会社は、被告Y1との間で、対人賠償責任を内容とする自動車保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結していたところ、本件保険契約には、被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する損害賠償責任の額についての判決が確定したときに被告会社は損害賠償請求権者に対して損害賠償額を支払う旨の条項がある。
(3) 原告らは、いずれも亡Aの子であり、亡Aの損害賠償請求権を各三分の一の割合で相続した。
二 争点及びこれについての当事者の主張
(1) 過失相殺
(被告ら)
ア 本件事故は、亡Aが被告車両の進行している道路を横断歩行していた際に生じたものである。本件事故現場道路は県道五号線であり、浦和区方面と上尾市方面をつなぐ動脈であり、交通量は多い。本件事故現場周辺において、ゼブラゾーンはあるものの原則片側二車線であり、幅員は一五・九五メートルある。別冊判例タイムズ一六号によれば、本件事故に類似するのは、道路横断歩行者と進行車両との衝突事故に関する【三七】類型であり、亡Aの基本的な過失割合は二〇パーセントとなる。
イ 本件事故は平成二二年一二月一五日午後七時四五分ころ発生しており、真冬であることからして、既に夜間であったと認められるから、亡Aの過失割合に五パーセントの加算修正が行われる。
ウ 本件事故現場道路は、歩車道の区別があり、幅員一四メートル以上の原則片側二車線道路である。また浦和区方面と上尾市方面をつなぐ県道五号線であり、交通の動脈として交通量は多く、車両がある程度高速で走行することが想定される道路である。以上から、本件事故現場道路は幹線道路に該当するから、亡Aの過失割合に一〇パーセントの加算修正が行われる。
エ 被告車両の後方を走行していた車両運転手(甲二の三)によれば、亡Aは被告車両の約一三・六五メートル前方を横断しようとしたものであり、被告車両が時速五〇ないし六〇キロメートル、秒速に直せば秒速一三・九ないし一六・七メートルで走行していることを考慮すると、亡Aは被告車両の直前を横断したものであるから、一〇パーセントの加算修正が行われる。
オ 本件事故についての刑事事件においては、最終的に時速五〇ないし六〇キロメートルで進行した過失との公訴事実が認定されているのであるから、時速七〇キロメートルを認定するに足りる客観的な証拠がないことは明らかである。
カ 被告Y1について脇見運転や携帯電話を使用していたなどの事実があるわけではなく、亡Aを昼間のように容易に発見できる状況にはなく、同人の直前横断もあったこと、さらに危険の認知からブレーキがかかるまで空走時間がかかることから、被告Y1がブレーキをかけていなかったとは言い切れないことをも考慮すると、被告Y1に著しい前方不注視とまで評価されるような過失はなかった。
キ 以上から、亡Aの過失割合は合計四五パーセントとなるから、これに従って過失相殺がなされるべきである。
(原告ら)
ア 本件事故における亡Aの基本的過失割合が二〇パーセントとなることは認める。
イ 本件事故は夜間発生したものであるが、本件事故現場付近は非常に見通しの良い直線道路であり、被告Y1の視界を妨げるものは存在しない。また、被告車両の後方を走行していた目撃者は本件事故直前七八・二メートルも手前から亡Aを発見できているのであり、本件事故現場は歩行者の発見の容易な場所であったから、本件事故において夜間を理由とする加算修正がなされるべきではない。
ウ 幹線道路とは、車が高速で走行する国道や一部の県道が想定されているところ、本件事故現場道路の最高速度は時速四〇キロメートルであり、車が高速で走行することが予定されている道路とはいえない。したがって、本件事故現場道路は典型的な幹線道路ということにはならないから、加算修正するとしても五パーセント程度に留めるべきである。
エ 歩行者が通常の態様で横断歩行していたにもかかわらず衝突してしまった場合の注意義務違反は基本過失割合に織り込み済みであり、直前横断の修正は歩行者側に通常の横断態様に比べて特別危険を発生・増大させるような事情が認められる場合に限って行うことが適当である。本件では、亡Aは被告車両と衝突するはるか以前から本件道路の横断を開始し、本件事故現場道路を半分以上渡り終えた段階で被告車両と衝突している。また、亡Aの歩行速度は通常程度であり、飛び出しなどの特段危険な走行をしていたわけでもない。そうすると、亡Aの歩行はおよそ直前横断とはいえないから、これを理由とする過失割合の加算修正を行うべきでない。
オ 亡Aが被告車両と衝突した後二七・三メートルも跳ね飛ばされていること、被告車両が衝突地点から約六七メートル程度離れた地点で停止していること、目撃者は被告車両の速度について「かなりスピードが出ていた」と供述していること、被告Y1は当初時速七〇キロメートルは出ていたと供述していること、以上の事実に照らすと、被告車両は事故時時速七〇キロメートル程度出ていた可能性が非常に高いといえる。本件事故現場の制限速度は時速四〇キロメートルであるから、被告Y1は時速三〇キロメートル以上の速度超過をしていたことになり、重過失があったといえるから、二〇パーセントの減算修正がなされるべきである。
カ 本件事故現場は非常に見通しの良い直線道路であり、被告車両の後方を走行していた目撃者は七八・二メートル手前から亡Aを発見できているから、被告Y1もゼブラゾーンにいる亡Aを少なくとも数一〇メートル手前から容易に発見できたはずである。にもかかわらず、被告Y1は、全くブレーキをかけることなく亡Aに衝突してしまっている。このことからすると、被告Y1は、衝突の瞬間まで亡Aに気付いていなかったものと考えられる。したがって、被告Y1に著しい前方不注意があったことは明らかである。よって、これにより亡Aの過失割合から一〇パーセントを減算修正すべきである。
キ 以上をまとめると、本件事故において過失相殺はなされるべきでない。
(2) 損害
(原告ら)
ア 亡Aの損害
(ア) 治療費 三五万七二七〇円
(イ) 逸失利益(労働分) 二二七四万七三五三円
亡Aは本件事故当時六二歳であり、同居する息子のために主婦として家事の一切を担っていた。したがって、亡Aの基礎収入は賃金センサス平成二二年女性学歴計全年齢平均賃金である三四五万九四〇〇円とすべきである。また、生活費控除率は三〇パーセントが相当であり、就労可能年数は平均余命二六・五七年の半分である一三年とすべきである。したがって、亡Aの逸失利益は、以下のとおり二二七四万七三五三円となる。
3,459,400×(1-0.3)×9.3936=22,747,353
(ウ) 逸失利益(年金分) 六〇四万〇六六五円
六五歳までの厚生年金は、基礎収入が五〇万二一〇〇円、生活費控除率が五〇パーセント、受給資格喪失期間三年で中間利息を控除すると、以下のとおり六八万三六五九円となる。
502,100×(1-0.5)×2.7232=683,659
六五歳以降の厚生年金は、基礎収入が八五万三二〇〇円、生活費控除率が五〇パーセント、受給資格喪失期間が六五歳からの平均余命二六・五七年となるから、中間利息として死亡時から平均余命二六年間のライプニッツ係数から死亡時から受給開始年齢までの三年間のライプニッツ係数を控除することとすると、以下のとおり四九七万〇七四三円となる。
14.3752-2.7232=11.652
853,200×(1-0.5)×11.652=4,970,743
企業年金は、基礎収入が六万六三〇〇円、生活費控除率が五〇パーセント、受給資格喪失期間が六五歳から平均余命までの二三年間とし、上記と同じ方法で中間利息を控除すると、以下のとおり三八万六二六三円となる。
66,300×(1-0.5)×11.652=386,263
以上の合計は六〇四万〇六六五円となる。
683,659+4,970,743+386,263=6,040,665
(エ) 死亡慰謝料 二四〇〇万円
(オ) 小計 五三一四万五二八八円
(カ) 相続
原告らは、いずれも亡Aの子であり、唯一の相続人として、各三分の一の割合で亡Aの損害賠償請求権を相続したから、原告らは、被告Y1に対し、一七七一万五〇九六円の損害賠償請求権を有する。
イ 原告X1の損害
(ア) 葬儀費 一五〇万円
(イ) 固有の慰謝料 三五〇万円
同居していた母である亡Aを突然の事故で失った原告X1の心情に鑑みれば、同人の慰謝料としては、三五〇万円を下回ることはない。
本件において、被告Y1は制限速度時速四〇キロメートルの道路を時速七〇キロメートルで走行しており、暴走としかいいようがない。また、被告Y1は本件事故後バイクを運転していないなどと検察官に虚偽の供述をし、学校に本件事故を報告しておらず、現在に至るまで原告ら遺族に謝罪していない。これらの事情からすると、慰謝料は基準額より大幅に増額されるべきである。
(ウ) 小計 五〇〇万円
ウ 原告X2及び原告X3の損害 各三〇〇万円
母である亡Aを突然の事故で失った原告X2及び原告X3の心情に鑑みれば、同人の慰謝料としては、それぞれ三〇〇万円を下回ることはない。
エ 原告ら各自の損害賠償請求権
原告X1 二二七一万五〇九六円
原告X2 二〇七一万五〇九六円
原告X3 二〇七一万五〇九六円
オ 人身傷害保険金の控除
原告らは、平成二五年六月二四日、原告X1が契約していたa保険株式会社から人身傷害保険金として二七九五万二八八五円の支払を受けたところ、原告X1の相続分は九三一万七六二九円、原告X2及び原告X3の相続分は各九三一万七六二八円となる。これを上記原告ら各自の損害賠償請求権の額から控除すると、原告らの損害額は以下のとおりとなる。
原告X1 一三三九万七四六七円
原告X2 一一三九万七四六八円
原告X3 一一三九万七四六八円
カ 確定遅延損害金 三五三万〇四八七円
本件事故日から上記人身傷害保険金が支払われるまでの間の確定遅延損害金は、以下のとおり三五三万〇四八七円となる。これを原告らで分割すると、それぞれ一一七万六八二九円となる。
27,952,885×0.05×(557/365+366/366)=3,530,487
キ 弁護士費用
原告X1 一三〇万円
原告X2 一一〇万円
原告X3 一一〇万円
ク 合計
(ア) 原告X1 損害元本合計 一四六九万七四六七円
確定遅延損害金 一一七万六八二九円
合計 一五八七万四二九六円
(イ) 原告X2 損害元本合計 一二四九万七四六八円
確定遅延損害金 一一七万六八二九円
合計 一三六七万四二九七円
(ウ) 原告X3 損害元本合計 一二四九万七四六八円
確定遅延損害金 一一七万六八二九円
合計 一三六七万四二九七円
(被告ら)
ア 損害については否認し、争う。
イ 逸失利益(労働)については、亡Aは平成七年に夫Bを亡くしており、配偶者との関係で家事をする状態にはなかった。また、原告X1と同居していたとしても、原告X1は本件事故当時三六歳という成熟した分別盛りの男性であり、自分の生活を自分で維持していくのに十分な年齢である。
よって、原告X1の年齢や亡Aの状況等に鑑みると、亡Aが原告X1と同居していたことをもって、亡Aが家事労働をしており、家事従事者としての逸失利益が認められることにはならない。
原告X1の年齢に鑑みれば、全面的に家事を亡Aに依存するというものではなく、原告X1自身も家事を分担してしかるべきであるし、亡Aも年金暮らしをしているものと推察されるから、原告X1のために家事を行っていたとしても、それは自分のことをするついでに子供の世話をしているに過ぎないものである。したがって、基礎収入については大幅に減額されるべきである。また、基礎収入としては全年齢平均賃金ではなく六五歳から六九歳までの平均二七九万〇四〇〇円を基準額と考えるべきであるし、生活費控除率も八〇パーセント以上でなければならない。
原告らは就労可能年数を一三年とするが、同居していた原告X1が三六歳であることを考慮すると、原告X1が結婚して別居する可能性も十分にあるから、相応に短い就労可能年数を用いるべきである。
ウ 逸失利益(年金分)についても、亡Aの年金収入は全て生活費として費消されることを考慮すると、生活費控除率は一〇〇パーセント、少なくとも八〇パーセントとすべきである。
エ 原告らは、亡Aの慰謝料として二四〇〇万円、原告ら固有の慰謝料九五〇万円の合計三三五〇万円を求めているが、二四〇〇万円の死亡慰謝料は遺族固有の分も含むものである。また、老齢者の場合、交通事故により奪われた余生の期間が若年に比して短いことは明らかであり、この点が考慮されるべきである。したがって、近親者を含めた慰謝料が三三五〇万円というのは不相当に高額であり、原告ら三名分を含めても二四〇〇万円を下回るというべきである。
被告Y1は、本件事故後積極的に運転しているわけではなく、やむを得ず運転したことがあるに過ぎない。また、学校にすぐに知らせなかったことにつき、被告Y1も反省しており、本件事故により停学処分を受けている。遺族への謝罪も行っている。したがって、本件において、原告らが主張するような慰謝料増額事由があるとはいえない。
第三当裁判所の判断
一 本件事故の態様について
証拠(甲一、二の一ないし一三)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故の態様について、以下の事実が認められる。
(1) 本件事故現場道路は、上尾市方面からさいたま市浦和区方面に至る第二産業道路と呼ばれる県道五号線であり、車両の通行量は多く、車道部分の幅員が一五・七メートル、本件事故現場付近ではゼブラゾーンが広く取られているために被告Y1の走行していた南行車線は片側一車線、北行車線は片側二車線となっていたが、それ以外の部分では双方向とも片側二車線となっている。本件事故現場道路における最高速度は時速四〇キロメートルとされていた。
(2) 被告Y1は、平成二二年一二月一五日午後七時四五分ころ、普通自動二輪車を運転して、本件事故現場道路の南行車線をさいたま市浦和区方面に向けて南進して本件事故現場付近に至り、本件事故現場手前の信号交差点で停止した後、青信号により発進し、進路前方で車線が二車線から一車線に減少することから、併走していた四輪車を追い越して車線変更しながら加速しつつ時速約五〇ないし六〇キロメートルで進行していたところ、本件事故現場道路の横断歩道の設置されていない部分を歩行横断してきた亡Aに自車前部を衝突させる事故(本件事故)を生じさせた。
(3) 本件事故の結果、亡Aは数一〇メートル先に跳ね飛ばされて重症頭部外傷の傷害を負い、それにより同日午後八時四五分ころ死亡した。
(4) 原告らは、亡Aが衝突後二七・三メートルも跳ね飛ばされ、被告車両も衝突地点から約六七メートル程度離れた地点で停止していること、目撃者が被告車両の速度についてかなりスピードが出ていたと供述していること、被告Y1は当初時速七〇キロメートルは出ていたと供述していることから、被告車両は事故時時速七〇キロメートル程度で走行していた可能性が非常に高い旨主張する。目撃者の供述(甲二の三・四)によれば、亡Aは、被告車両の後方を進行していた目撃者の供述する衝突地点から約二七・三メートル、同じく被告車両は約六七・七メートル前方に倒れていたことになるから、本件事故時被告車両が相当高速で進行していた可能性はあるものの、それが時速七〇キロメートル程度であったかは必ずしも明らかではない。被告Y1は司法警察員に対し当初時速七〇キロメートル位は出ていた旨供述しているが、同人の供述の主要部分は、本件事故現場手前の信号で停止し、青信号になってから発進して進路変更しつつ進行したところ以降の記憶はないというものであって、検察官に対する供述調書においては警察官から時速七〇キロメートルぐらいではないかと説明されたと供述していることに照らすと、速度についての前記供述が真実被告Y1の記憶に基づくものといえるか疑問がある。そして被告Y1が、公判廷における供述及び検察官に対する供述においては時速五〇キロないし六〇キロだったと思う旨供述していることに照らすと、本件事故当時被告Y1が時速五〇ないし六〇キロメートルを超える速度で進行していたと認定することは困難であるというべきである。
二 争点(1)(過失相殺)について
以上に認定した本件事故の態様に基づいて検討するに、本件事故は平成二二年一二月一五日午後七時四五分ころの夜間に発生したものである。また、本件事故現場道路は片側二車線ないし一車線の車両の通行量の多い道路であり、その幅員も一五・七メートルであったというのであるから、幹線道路に当たるものと認められるところ、目撃者の供述によれば、亡Aは、このような幹線道路の横断歩道上でないことはもとよりその近傍でもない本件事故現場道路を横断しようとし、被告車両が衝突地点から約一三・六メートルの位置にまで迫って来ているにもかかわらず車道に進入したものであって、被告車両の直前を横断しようとしたものと認めざるをえない。他方、被告Y1は、本件事故現場道路を制限速度を超過する時速五〇ないし六〇キロメートルで走行し、横断歩道でない道路部分を直前横断されたとはいえ、亡Aに対する前方注視を怠って進行したものであり、しかも衝突後の亡Aと被告車両の移動距離からみて十分な制動措置を講じていなかった可能性が高いことをも考慮すると、被告Y1には著しい過失があったものというべきである。以上の事情を総合すると、本件事故についての亡Aの過失割合は二五パーセントとするのが衡平にかなうものと認められる。
三 争点(2)(損害)について
(1) 治療費 三五万七二七〇円
証拠(甲三の一・二)により、上記損害が発生したものと認められる。
(2) 逸失利益(労働分) 二二七四万七三五三円
証拠(甲三の一、一三、原告X1)及び弁論の全趣旨によれば、亡Aは本件事故当時六二歳であり、原告X1と同居して家事労働に従事していた事実が認められるから、平成二二年の賃金センサス女性学歴計全年齢平均の賃金額三四五万九四〇〇円を基礎とし、生活費控除率を三〇パーセント、就労可能期間を平均余命の約半分である一三年として逸失利益を算定すると、以下のとおり二二七四万七三五三円となる。
3,459,400×(1-0.3)×9.3936=22,747,353
(3) 逸失利益(年金分) 六〇四万〇六六五円
証拠(甲四、五、八)によれば、亡Aは、老齢厚生年金として六五歳までは年額五〇万二一〇〇円、六五歳以降は年額八五万三二〇〇円の給付を受ける権利を有していたこと、企業年金として六五歳以降年額六万六三〇〇円の給付を受ける権利を有していたこと、以上の事実が認められるから、生活費控除率を五〇パーセントとし、六五歳までの分は三年分、六五歳以降の分は平均余命二六年から六五歳までの三年分を控除して算定することとすると、以下のとおり六〇四万〇六六五円となる。
502,100×(1-0.5)×2.7232=683,659
14.3752-2.7232=11.652
853,200×(1-0.5)×11.652=4,970,743
66,300×(1-0.5)×11.652=386,263
683,659+4,970,743+386,263=6,040,665
(4) 死亡慰謝料 二四〇〇万円
(5) 小計 五三一四万五二八八円
(6) 原告らは、いずれも亡Aの子であり、各三分の一の割合で亡Aの損害賠償請求権を相続したから、原告らは、被告Y1に対し、それぞれ一七七一万五〇九六円の損害賠償請求権を有することになる。
(7) 原告X1の損害 三〇〇万円
葬儀費用 一五〇万円
固有の慰謝料 一五〇万円
本件の事実関係、殊に原告X1が亡Aと同居して生活していたことに鑑み、上記金額を相当と認める。
(8) 原告X2及び原告X3の損害 各一〇〇万円
(9) 原告ら各自の損害額
原告X1 二〇七一万五〇九六円
原告X2 一八七一万五〇九六円
原告X3 一八七一万五〇九六円
(10) 過失相殺
上記説示のとおり、原告側の過失は二五パーセントとするのが相当であるから、上記原告らの損害賠償請求権からこれを控除すると、それぞれ以下のとおりとなる。
原告X1 一五五三万六三二二円
原告X2 一四〇三万六三二二円
原告X3 一四〇三万六三二二円
(11) 原告らは、平成二五年六月二四日、原告X1が契約していたa保険株式会社から人身傷害保険金として二七九五万二八八五円の支払を受けたところ、これを原告らで按分すると原告X1は九三一万七六二九円、原告X2及び原告X3は各九三一万七六二八円となる。そして、人身傷害保険金を支払った保険会社は、支払保険金額と原告らの損害賠償請求権の合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り、かつその上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得することになるから、原告らの損害賠償請求権の額は以下のとおりとなる。
原告X1 一一三九万七四六七円
15,536,322+9,317,629-20,715,096=4,138,855
15,536,322-4,138,855=11,397,467
原告X2及び原告X3 各九三九万七四六八円
14,036,322+9,317,628-18,715,096=4,638,854
14,036,322-4,638,854=9,397,468
(12) 確定遅延損害金 三五三万〇四八七円
本件事故日から上記人身傷害保険金が支払われるまでの間の確定遅延損害金は、以下のとおり三五三万〇四八七円となる。これを原告らで分割すると、それぞれ一一七万六八二九円となる。
27,952,885×0.05×(557/365+366/366)=3,530,487
(13) 弁護士費用
原告X1 一一三万円
原告X2 九三万円
原告X3 九三万円
(14) 合計
ア 原告X1 損害元本合計 一二五二万七四六七円
確定遅延損害金 一一七万六八二九円
合計 一三七〇万四二九六円
イ 原告X2 損害元本合計 一〇三二万七四六八円
確定遅延損害金 一一七万六八二九円
合計 一一五〇万四二九七円
ウ 原告X3 損害元本合計 一〇三二万七四六八円
確定遅延損害金 一一七万六八二九円
合計 一一五〇万四二九七円
四 結論
以上の次第で、原告らの請求は主文第一項ないし第六項の限度で理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤下健)