大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所 平成24年(行ウ)21号 判決 2014年12月17日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第2事案の概要

3 前提となる事実(証拠等を掲記とした事実以外は、当事者間に争いがない事実である。)

(1)  当事者

ア  原告

原告は、平成7年9月26日、公衆浴場の経営等を目的として設立された株式会社であり、設立当初は「a社」という商号であったが、平成9年1月1日、現在の商号に変更された。

原告は、設立後である同年12月から平成22年9月までの間、温泉施設である本件施設を運営していたが、平成25年3月27日、株主総会の決議により解散した。

原告の代表取締役は、設立当初から上記解散に至るまでの間、Aであった。(甲15、25)

イ  被告

被告は、公共下水道の設置、改築、修繕、維持その他の管理を行う普通地方公共団体である。

(2)  本件施設の運営に関する経緯

ア  Aは、平成9年5月12日、自らが発注者となり、b社を請負者、c設計事務所を監理者として、本件施設の建設に係る工事請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。

イ  原告は、同年5月15日、埼玉県鴻巣保健所長(以下「鴻巣保健所長」という。)に対し、本件施設について、営業許可申請をした。これによれば、本件施設は、特殊公衆浴場であり、入浴料金は、大人800円、中人400円とされ、また、使用水の別については「水道水」とされていた。(乙6の1)

これを受けて、鴻巣保健所長は、同月21日、原告に対し、公衆浴場である本件施設について、営業許可をした(甲5)。

ウ  b社は、同年11月29日、Aに対し、本件施設が完成した旨の届出をした(甲6)。これを受けて、原告は、同年12月、本件施設の営業を開始した(甲27、原告代表者)。

本件施設では、同年12月の営業開始当初から、上水道、温泉水、井戸水を使用しており、被告が管理する公共下水道に下水を排除していた。なお、本件施設は、排水区域外に位置していた。

エ  原告は、平成9年12月分から平成22年9月分までの使用料として、本件施設で使用された上水道及び温泉水についての汚水排除量を基に、「一般汚水」(本件条例3条)の算定基準を適用して算定した額に消費税を加えた金額を支払った。

(3)  本件各処分に至る経緯

ア  本件施設の敷地内にある井戸(以下「本件井戸」という。)は、本件施設の設立当初から平成16年6月、7月頃までの間、アスファルトの下に埋められており、本件井戸から本件施設へ井戸水(以下「本件井戸水」という。)をくみ上げるためのモーターポンプには、平成22年9月14日までは計測装置が設置されていなかったため、同日までの本件井戸からの汚水排除量は計測されていなかった(甲28、証人B)。

イ  被告は、平成22年8月27日、本件施設で現地調査を行い、本件施設の敷地内に本件井戸があることを確認した(甲28、証人B)。

ウ  北本市長は、原告に対し、平成22年10月14日付けの「下水道不正使用に係る徴収を免れた使用料の請求について(通知)」と題する書面(以下「本件通知書」という。)を送付し、本件通知書は同月16日に到達した。

本件通知書には、「温泉施設▲▲湯の下水道不正使用に係る徴収を免れた下水道使用料について、この通知が届いた日から過去5年分の下水道使用料を請求します。なお、請求金額及び詳細については、確定次第通知します。」と記載されていた。(乙16の1、2)

エ  北本市長は、本件井戸からの汚水排除量を1箇月当たり2800立方メートルと認定した上、「一般汚水」(本件条例3条)の算定基準(平成21年3月31日以前は、1立方メートルにつき125円、平成21年4月1日以降は、1立方メートルにつき145円)を乗じた額に、さらに100分の105を乗じて使用料を計算し、平成23年10月18日付けで、平成17年10月から平成22年9月までの未納付使用料請求額を2310万8400円、納付期限を平成23年11月30日とする旨の決定(本件使用料請求額決定処分)をした。

また、北本市長は、原告が、平成9年12月から平成22年9月までの間、本件井戸の存在を認識しながら、使用水利を上水道及び温泉水と偽り、下水道の使用を継続して不正に使用料を免れたとして、平成23年12月27日付けで、原告に対し、納期限を平成24年1月31日として、平成17年10月から平成22年9月までの間の未納付使用料請求額から消費税を除いた額である2200万8000円の1.6倍に相当する3521万2800円の過料を科す旨の処分(本件過料処分)をした。

(4)  本件訴えの提起等

原告は、平成23年11月16日、北本市長に対し、本件使用料請求額決定処分の取消しを求める旨の異議申立てをしたが、北本市長は、同年12月27日、同異議申立てを棄却する旨の決定をした。

原告は、平成24年6月26日、本件各処分の全部又は一部が違法であるとして、その取消しを求める本件訴えを提起した(記録上明らかな事実)。

4 争点

(1)  本件条例3条は憲法84条の趣旨に反し違憲無効か。

(2)  本件施設から排除される汚水は、「一般汚水」(本件条例3条)に当たるか。

(3)  本件施設から排除される汚水の一部が「公衆浴場汚水」(本件条例3条)に当たるとした場合、平成17年10月から平成22年9月までの間の使用料の未納はあるか。あるとして、その金額は幾らか。

(4)  平成17年10月から平成18年9月までの間の未納付使用料債権は、時効により消滅したか。

(5)  原告は、「偽りその他不正な手段により使用料の徴収を免れた者」(本件条例10条2項)に当たるか。

(6)  本件過料処分は比例原則に違反するか。

5 争点に対する当事者の主張

(1)  争点(1)(本件条例3条は憲法84条の趣旨に反し違憲無効か)について

(原告の主張)

ア  憲法84条は、国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則を租税について厳格化した形で明文化したものというべきであるから、租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶというべきである。

そして、法が、下水道区域内では土地の所有者、使用者又は占有者に公共下水道の使用を義務付け(10条)、公共下水道管理者に公共下水道の使用者から使用料を徴収する権限を付与していること(20条1項)、使用料に滞納があった場合には地方税の滞納処分の例により処分することができること(地方自治法231条の3第1項、附則6条3号)などからすると、使用料が租税に類似する性格を有することは明らかであるから、使用料については憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである。

しかるに、本件条例3条は、使用料算定基準としての汚水の種類を「一般汚水」と「公衆浴場汚水」に分類しているところ、その内容はいずれも一義的に定まるものではないにもかかわらず、これらの定義規定が存在していないため、「公衆浴場汚水」の文言は、何ら明確ではないといわざるを得ず、特に一般公衆浴場以外の公衆浴場に係る汚水が「一般汚水」と「公衆浴場汚水」のいずれに該当するのか明らかではなく、賦課徴収の要件を明確に定めたものとはいえない。

イ  これに対し、被告は、原告が公共下水道の排水区域外の一般私人であるから下水道の使用を強制されるものではないなどと主張するが、原告は、本件施設から排除される大量の汚水を処理するため、事実上、公共下水道を利用せざるを得なかった上、そもそも、使用料について憲法84条の趣旨が及ぶと解すべき理由は、賦課徴収の強制の度合いにおいて租税に類似する性質を有する点にあるのであるから、被告の上記主張を前提としても、使用料について憲法84条の趣旨が及ぶというべきである。

ウ  したがって、本件条例3条は、憲法84条の趣旨に反し、違憲無効であり、本件条例3条に基づいてされた本件各処分は、いずれも法20条1項に反し違法というべきである。

(被告の主張)

ア  排水設備の設置義務については、法11条の3第1項で、処理区域内においてくみ取便所が設けられている建築物を所有する者に、3年以内に、その便所を水洗便所に改造することを義務付けているだけであり、くみ取便所が設置されている建物を所有していない者(浄化槽を設置している者)に対しては、期限を定めて排水設備を設置すべき義務を課していないこと、くみ取便所の改造義務についても、その不履行について罰則はなく、逆に、市町村に対し、くみ取便所の改造資金を融資するよう努力義務を課していること(同条の3第5項)からすると、くみ取便所が設置されている建物を所有していない者に対し、当該汚水につき強制的に排水設備を設置させることはできない。したがって、公共下水道の排水区域内の土地の所有者、使用者又は占有者が、公共下水道の使用を拒否した場合には、使用料を強制的に賦課徴収することができないのである。

また、地方財政法6条は、公営企業で政令で定めるものについては、その経理は、特別会計を設けてこれを行い、その経費は、原則として、当該企業の経営に伴う収入をもってこれに充てなければならないと規定し、同法施行令46条13号は、公共下水道事業を公営企業としていることから、被告においては、公共下水道事業につき、特別会計を設置して独立採算し得るよう努力している。そして、被告が徴収した使用料は、全額汚水処理経費に充てられており、使用料が特別の給付に対する反対給付であることは明らかである。したがって、使用料は、汚水を処理するという特別の給付の程度に応じて反対給付として徴収されるものであって、およそ公租公課に類似するものではない。

以上のとおり、使用料は強制的に賦課徴収されるものとはいえず、かつ、排除した汚水の処理費用に充てられるもので特別の給付に対する反対給付であっておよそ租税に類似するものではないから、使用料について憲法84条の趣旨が及ぶと解することはできない。

イ  仮に、本件条例に憲法84条の趣旨が準用され、特殊公衆浴場(いわゆるスーパー銭湯)から排除される汚水に対し「一般汚水」(本件条例3条)の算定基準を適用することが違法であるとしても、原告は公共下水道の排水区域外の一般私人であるから下水道の使用を強制されるものではない。そうすると、本件条例に係る違法は、原告の法律上の利益と関係がないのであって、本件条例は、行政事件訴訟法10条1項の趣旨から、原告との関係では、違法と判断されるべきでない。

(2)  争点(2)(本件施設から排除される汚水は、「一般汚水」(本件条例3条)に当たるか)について

(被告の主張)

使用料は、管理経費の一部を利用者負担とするもので、大量排水ほど汚水処理原価が増加するため累進使用料制を採用することが認められ、原価から使用料を算出して一定の料率又は金額をもって、公平に賦課するものである。

したがって、特定の者に対して不当に使用料を減免するときは、公共の施設を特定の者に対し不当に有利に使用させるにとどまらず、公共下水道の排水区域外の住民の税金をも含む一般会計からの繰入金を特定の者のために支出することとなり、法20条の趣旨に反することは明らかである。そうすると、「公衆浴場汚水」(本件条例3条)とは、公共性を有し公共の施設である下水道の使用料を減免すべき合理的理由が存在する公衆浴場から排除される汚水と解されるべきであり、また、公共性を有する公衆浴場とは、公衆浴場確保法1条、2条及び4条1項の規定からすると、公衆浴場法1条1項に規定する公衆浴場であって、物価統制令4条の規定に基づき入浴料金が定められる公衆浴場、すなわち一般公衆浴場のことをいうと解するのが相当である。

のみならず、本件条例の根拠法である法には、公衆浴場に係る汚水についての規定がないこと、法20条1項は、各地方自治体の実情に応じて使用料を定めることができると規定していることなどからすると、「公衆浴場汚水」(本件条例3条)の意義については、本件条例の制定経緯等から判断すべきである。そこで、本件条例の制定経緯等をみると、被告は、荒川左岸北部流域下水道の幹線工事の完成と桶川市にある終末処理場の一部完成を受け、昭和56年4月から下水道の利用が開始されることに伴い、昭和55年12月に本件条例を制定したこと、下水道の利用開始により、被告は、埼玉県の施設を利用することとなり、埼玉県に対し、流域下水道維持管理負担金を支払うことになったが、この負担金は、埼玉県公衆浴場組合及び関係市からの要請により、昭和49年4月1日から一般公衆浴場(銭湯)に係る排水については減額されることとなり、昭和56年4月1日から利用の開始される荒川左岸北部流域下水道においても、同様の措置が講じられることとなったこと、被告は、埼玉県において、一般公衆浴場(銭湯)を公衆浴場として表記し、その排水に係る流域下水道維持管理負担金を減額する旨を知らされていたことなどを指摘することができ、これらによれば、本件条例においても、一般公衆浴場から排除される汚水につき、公衆浴場汚水として低額の料金設定をしたものであることは明らかである。

さらに、被告が本件条例において「公衆浴場汚水」(本件条例3条)に係る使用料を「一般汚水」(本件条例3条)に係る使用料よりも低額に設定したのは、一般公衆浴場が入浴料金を制限され、かつ、国民の健康を害することのないよう衛生管理等に厳格な規制が課されていることから、その経営の安定化を図るために優遇措置を講ずる必要があったためであり、この点で公衆浴場確保法と目的を同じくするものであって、本件条例にいう「公衆浴場」とは、公衆浴場確保法2条で規定する公衆浴場と同義であるということができる。他方で、本件施設から排除される汚水については優遇措置を講ずる理由はなく、本件施設から排除される汚水に「公衆浴場汚水」(本件条例3条)の算定基準を適用するように求める原告の主張は、原告に対し不合理な優遇措置を講ずるよう求めているにすぎないのである。

以上によれば、本件施設から排除される汚水は本件条例3条の「一般汚水」に当たるということができることから、「一般汚水」の算定基準を適用してされた本件各処分は適法である。

(原告の主張)

本件条例3条に規定する「公衆浴場汚水」については、憲法84条(課税要件明確主義)の趣旨に鑑みて、客観的に解釈されるべきであるところ、本件条例には、その定義規定が存在せず、汚水の種類を「公衆浴場汚水」と「一般汚水」の2つに分類しているにすぎない。

そして、憲法94条が、地方公共団体において法律の範囲内で条例を制定することができる旨を定めており、地方公共団体が条例を制定するに当たっては法律との抵触の有無に留意する必要がある以上、条例の文言解釈においても法律における解釈を検討し、これに準じた条例を定める必要があるところ、「公衆浴場汚水」について規定した法律は存在しないが、「公衆浴場」について規定した法律としては公衆浴場法及び公衆浴場確保法があり、このうち公衆浴場確保法が本件条例の制定後のものであることからすると、「公衆浴場汚水」とは、解釈の客観性を担保するため、公衆浴場法に定める公衆浴場の定義規定が参照されるべきである。

そして、公衆浴場法1条に定める「公衆浴場」とは、温湯、潮湯又は温泉その他を使用して、公衆を入浴させる施設をいうところ、本件施設は、温泉を使用して公衆を入浴させる施設であるから、同条の「公衆浴場」に該当する。

したがって、本件施設から排除される汚水は、本件条例3条の規定する「一般汚水」ではなく「公衆浴場汚水」に当たるというべきであるから(ただし、本件井戸水は、トイレにおいても使用されていたところ、当該トイレの使用に際して排除された汚水は「一般汚水」に該当する。)、「一般汚水」を適用してされた本件各処分は違法というべきである。

これに対し、被告は、①「公衆浴場汚水」(本件条例3条)の解釈に当たっては、公衆浴場確保法2条を参照すべきであること、②本件条例の制定経緯等を理由に、「公衆浴場汚水」(本件条例3条)は一般公衆浴場から排除される汚水を意味すること、③不当な差別的取扱いの禁止の趣旨(法20条2項4号)を理由に、「公衆浴場汚水」(本件条例3条)は一般公衆浴場から排除される汚水を意味することをそれぞれ主張する。

しかし、本件条例が公衆浴場確保法が公布される以前の昭和55年12月22日付けで公布されており、かつ、その当時から「公衆浴場汚水」という文言を規定していることからすると、「公衆浴場汚水」(本件条例3条)にいう「公衆浴場」の解釈に当たっては、公衆浴場確保法2条を参照すべきでないことは明らかである。また、埼玉県知事が北本市長を始め関係市町長に対し、一般公衆浴場の汚水に係る流域下水道維持管理負担金の減額についての通知書を作成した日が昭和56年3月5日であること、本件条例の制定について北本市議会本議会において審議された日がその約3か月前の昭和55年12月10日であることなどの事情に鑑みると、埼玉県知事が北本市長に対し一般公衆浴場の排水に係る流域下水道維持管理負担金の減額について通知したことを受けて本件条例において一般公衆浴場の汚水につき公衆浴場汚水として低額の料金設定をしたとする被告の主張は事実に反していることが明らかである(むしろ、埼玉県が埼玉県公衆浴場組合及び関係市からの要請により一般公衆浴場に係る排水について流域下水道維持管理負担金を減額したとされる日(昭和49年4月1日)より前の時点である昭和42年12月28日付けで公布されていた行田市下水道条例において、既に「浴場汚水」として公衆浴場法に定める浴場に係る汚水につき低額の使用料が設定されていたことからすれば、埼玉県において上記流域下水道維持管理負担金が減額されたことと埼玉県内の市町において公衆浴場に係る汚水につき低額の使用料が設定されたこととの間には、何ら因果関係(条件関係)が存在しないものといわざるを得ない。)。さらに、法は、地域の実情に沿った使用料にすべく、その具体的算定基準を条例に委ねているのであり(20条1、2項)、地域により一般公衆浴場以外の公衆浴場に適用される算定基準が異なることは何ら法20条に反するものではないこと、実際にも、宇治市公共下水道使用料条例等のように、公衆浴場法1条1項に規定する公衆浴場から排除される汚水につき一般汚水に比して低額な使用料を定めている条例も多数存在していることからすれば、法20条2項4号を理由に、「公衆浴場汚水」(本件条例3条)が一般公衆浴場から排除される汚水を意味するということはできない。

以上によれば、原告の上記主張はいずれも理由がない。

(3)  争点(3)(本件施設から排除される汚水の一部が「公衆浴場汚水」(本件条例3条)に当たるとした場合、平成17年10月から平成22年9月までの間の使用料の未納はあるか。あるとして、その金額は幾らか)について

(原告の主張)

ア  平成17年10月分から平成22年9月分までの使用料について、本件施設から排除された汚水をトイレから排除された汚水を除き「公衆浴場汚水」(本件条例3条)の算定基準を適用して再計算すると、既納付使用料の額を下回ることから、追徴されるべき使用料は存在しない。

すなわち、平成17年10月から平成22年9月までの本件施設における汚水排除量は、合計32万3418立方メートルであるところ、そのうち、本件施設内にあるトイレから排除される汚水は、多くとも合計1万2445立方メートルにすぎず、その使用料は合計189万4751円であること、本件施設から排除された公衆浴場汚水に係る使用料は1142万8257円であること、上記期間中の既納付使用料は合計2044万6911円であることなどの事情に鑑みれば、平成17年10月から平成22年9月までの本件施設における適正な使用料は、既納付使用料の額を下回るため、追徴されるべき部分は存在しない。

したがって、本件使用料請求額決定処分は、その全部が違法である。

イ  また、仮に、上記既納付使用料を考慮しないとすれば、未納付使用料の額は761万1397円となる。したがって、本件使用料請求額決定処分のうち同金額を超える部分及び本件過料処分のうち1159万8320円を超える部分は違法である(本件使用料請求額決定処分取消請求の予備的請求2及び本件過料処分取消請求の予備的請求4)。

(被告の主張)

原告が主張するように、排除される汚水の種類に着目する場合には、本件施設から排除される全ての汚水について、種類ごとに排除量を算定し、「一般汚水」(本件条例3条)と「公衆浴場汚水」(本件条例3条)に分類しなければならないのであり、少なくとも、優遇料金とされる「公衆浴場汚水」について、総汚水排除量から「一般汚水」の排除量を控除したものを「公衆浴場汚水」の排除量とすべきではない。すなわち、浴槽やシャワー以外に使用された汚水の排除量を全て算出することなく、本件施設内のトイレから排除される汚水だけを「一般汚水」(本件条例3条)、その他の汚水をいずれも「公衆浴場汚水」(本件条例3条)として汚水排除量を認定した上で再計算することは不合理であるというほかはない。

したがって、平成17年10月分から平成22年9月分までの本件施設における使用料が既納付使用料の額を下回ることや、未納付使用料の額が761万1397円となることは何ら立証されておらず、原告の上記主張には根拠がない。

(4)  争点(4)(平成17年10月から平成18年9月までの間の未納付使用料債権は、時効により消滅したか)について

(原告の主張)

ア  本件通知書は、被告の請求内容に関する詳細についての記載がなく、原告が徴収を免れたとする使用料につきその請求額すら確定されていないことから、「法令の規定により普通地方公共団体がする納入の通知及び督促」(地方自治法236条4項)に該当するものといえないことは明らかである。加えて、使用料については、後に同法施行令154条3項に定める納入通知書に該当する通知書(甲2)が発出されていることからすると、「その性質上納入通知書によりがたい歳入」に該当しないというべきであるから、同項ただし書の適用はない。

そうすると、被告の原告に対する使用料に係る請求権の消滅時効は本件使用料請求額決定処分の日(平成23年10月18日)までは中断せず、平成17年10月分から平成18年9月分までの間の未納付使用料債権は時効により消滅したものというべきである(地方自治法236条1項。なお、時効の援用は不要である。)。

したがって、争点(3)における原告の主張を前提とし(既納付使用料については考慮しない。)、上記時効消滅をしん酌すると、本件使用料請求額決定処分のうち608万9118円を超える部分及び本件過料処分のうち927万8656円を超える部分が違法となり(本件使用料請求額決定処分取消請求の予備的請求1及び本件過料処分取消請求の予備的請求3)、上記時効消滅だけをしん酌すると、本件使用料請求額決定処分のうち1869万8400円を超える部分及び本件過料処分のうち2849万2800円を超える部分が違法となる(本件使用料請求額決定処分取消請求の予備的請求3及び本件過料処分取消請求の予備的請求7)。

イ  これに対し、被告は、原告から、平成22年12月21日、未納付使用料債務の承認を受けた旨を主張するが、原告は、被告に対し、使用料債務の存否を含めてこれらを明示することを求めるとともに、原告の支払能力の程度を示したにすぎず、何ら未納付使用料債務の承認をしたものではないから、この時点で、未納付使用料債権に係る消滅時効が中断されることはあり得ない。

(被告の主張)

まず、平成17年10月分及び同年11月分の使用料は、同年12月初旬に行われる検針により確定し、「水道ご使用水量のお知らせ」と題する通知を原告に送付した上、同月下旬に「上下水道料金納入通知書」と題する通知書を送付して、平成18年1月15日までの納付を求めるものであるから、平成17年10月分及び11月分の使用料は、納期限である平成18年1月15日以前に時効期間が進行することはない。

しかるところ、本件通知書には、「納入すべき金額、納期限、納入場所」の記載はないが、被告は、原告に対し、平成22年12月5日付けの自家水検針票を交付しており、同書面には納付すべき金額が一応明示されているし(2か月分の請求額を示しており、30倍すると5年分の請求額を算出することができる。)、また、「納期限、納入場所」を告知していないのは、同月21日、原告から未納付使用料債務の承認を受けた上で、債務額についての再検討を求められたことによるものである。

したがって、本件通知書の交付は、納入通知(地方自治法236条4項)に当たるということができる。

また、被告が、平成23年10月18日付け「使用料の請求額の決定について(通知)」と題する書面を原告に送付するまでの間は、原告が未納付使用料の存否について調査するとして、納期限の延期を求めたものであるから、時効期間は進行しない。

したがって、未納付使用料債権について消滅時効が成立した旨の原告の上記主張は、平成22年10月14日付け納入通知及び原告の同年12月21日付け債務の承認により、時効が中断していることから、法的根拠を欠くといわざるを得ない。

(5)  争点(5)(原告は「偽りその他不正な手段により使用料の徴収を免れた者」(本件条例10条2項)に当たるか)について

(被告の主張)

ア  営利企業が主たる事業に係る建築物を建築する場合には、その設計はもとより、仕様、造作及び備品に至るまで綿密に打合せが行われ、その結果は議事録に残される上、建築費については、少しでも低額に抑えるようVEと呼ばれる協議が行われ、什器備品一つ一つまで施主の意見が反映されることから、本件請負契約の注文者であるAは、本件請負契約の締結時において、本件井戸の存在を認識していたということができること、井戸の採掘工事及び井戸水をくみ上げるポンプの設置工事には、約170万円もの高額な費用が必要とされることがあるのであるから、請負人であるb社が、注文者であるAの意に反し無断で本件井戸を掘るなどの工事をし、その代金をAの了解なく請求したとは考え難いこと、本件請負契約に当たっては、見積書1冊が契約書に添付され、工事完成の際、「契約書に基づく図書、仕様書の通り完成しましたのでお届け致します」との記載のある完成届が提出されていること、Aが本件施設等の建築に当たって支出することができる金額には上限があったことは明らかであり、Aは、b社と本件請負契約を締結するまで、本件施設のような400人~500人を収容する規模のスーパー銭湯の経営に携わったことはなかったにもかかわらず、Aが、取水量、排水量及び上下水道料について全く計算することなく、その後も一切計算しないということは極めて不合理であること、Aは、約6億8800万円もの費用をかけて本件施設等を建設しており、初期投資費用を回収するため、本件施設の収支について計算しているはずであるところ、その中で最大の経費となる上下水道料を算出する前提として、取水量及び排水量も当然計算しているものと考えられることなどからすると、Aにおいて本件井戸の存在を知らなかったとはおよそ考え難い。このことは、①平成9年10月、Aが、被告に対し、「排水設備等の新設計画確認申請書」を提出して公共下水道の使用許可を求め、その際、温泉用給水管2本が記載された図面を被告に提出しているところ、埼玉県知事による温泉の掘削許可では、1本の温泉採掘しか認められていないことからすると、原告において、温泉用給水管2本と記載されているうちの1本が本件井戸の給水管であることを当然に認識していたということができること、②Aがb社との間で本件請負契約を締結する際、b社が提出した見積書添付の各図には、「温泉ポンプNO1」、「温泉ポンプNO2」の記載があり、2本の給水管が設置されることが予定されていたところ、Aは、採掘する温泉は1本であると思っていたというのであるから、温泉ポンプと記載された給水管のうち1本は本件井戸の給水管であることを知っていたはずであることからも裏付けられる。

そして、Aは、本件請負契約締結当時、自らが経営していた「○○湯」と称する一般公衆浴場において井戸水を使用しており、井戸水を下水道に排水した際には使用料がかかることを十分に認識していたところ、本件施設の営業開始に当たり、被告に温泉揚水量の計測器の設置を確認させたものの、本件井戸の揚水に係る事実については一切告知しなかったこと、本件施設の営業開始後、使用料の請求を受けるに当たって、上水道使用量と温泉揚水量との合計水量を基準にすることを知っており、その各使用水量を2か月ごとに確認していたこと、本件施設の使用水量のうち半分以上が井戸水であるのに使用水量の全てを上水と温泉で賄い切れていたと認識するのは不自然であること、原告は、使用料について、本件が発覚するまでの13年間以上異議を述べなかったこと、原告は、平成16年7月頃、本件井戸に係るモーターポンプを取り替えた際、被告に対し、本件井戸に係る何らの報告もしていないことなどからすると、原告は、意図的に、本件井戸の存在を被告に秘匿していたことは明らかである。

その上、Aは、本件井戸を使用していることについて、使用者が申告しなければ外部から発見することが困難であることに乗じて、本件井戸に係るモーターポンプをアスファルト舗装の下に埋め、その位置が容易に分からないようにした上で、鴻巣保健所に提出する公衆浴場営業許可申請書に添付する「給排水屋外配管図」(乙7)に、給水管につき、1本は上水、もう1本は温泉と記載し、被告に提出する「排水設備等の新設等計画確認申請書」(乙9)に、使用水利を上水道のみと記載し、さらには、被告に提出する「公共下水道使用開始等届出書」(乙45)に、排水区分につき、水道水のみと記載して、虚偽の申告により使用料の徴収を免れようとしたものである。

イ  仮に、原告が、平成16年7月頃に本件井戸の存在を認識したとしても、上記のとおり、Aは、井戸水を下水道に排除する際には、使用料がかかることを十分に認識していたのであるから、同月頃に本件井戸の存在を認識した時点で、被告に対し届け出なければならなかったにもかかわらず、使用料の徴収を免れるため、被告に報告せず、また、原告の取締役であるBに対してその旨指示をすることもなく、外部から本件井戸の存在が明らかにならないことを奇貨として、これを意図的に怠ったことは明らかである。

ウ  以上によれば、原告が「偽りその他不正な手段により使用料の徴収を免れた者」(本件条例10条2項)に当たることは明らかであり、本件過料処分は適法である。

(被告の主張)

原告は、「偽りその他不正な手段により使用料の徴収を免れた者」(本件条例10条2項)には当たらず、本件過料処分は、その全部が違法である。

すなわち、①原告代表者であるAは、b社のコンサルティングに従って初めて大規模な公衆浴場施設の建築に着手し、b社との間で本件請負契約を締結したが、本件請負契約の前後を通して、b社から、本件施設における使用料や本件井戸の存在等に関する十分な説明を受けなかったこと、②原告は、本件施設の営業を開始した平成9年12月以降、本件施設の営業に当たって、本件井戸水を使用していたものの、平成10年6月頃、b社が倒産するなどしたため、以後、本件井戸が存在すること及び本件井戸水を使用していることをb社から知らされることはなかったこと、③原告の取締役であるBが本件井戸が存在すること及び本件井戸水を使用していることを知ったのは、平成16年6、7月頃に生じた機械トラブルの際、本件井戸を偶然に発見したことによるものであるが、原告代表者であるAは、この時点では、本件井戸の存在を明確には認識していなかったこと、④Bは、本件井戸を発見し、モーターポンプを取り替えた際、アスファルトの下にあった本件井戸を再びアスファルトの下に埋めることはせず、むしろそのピットを整備するなどして、本件井戸の存在が明らかとなる状態にしたこと、⑤原告は、平成20年6月18日、埼玉県から、温泉施設における井戸水の使用の有無等に関する一般的な調査を受けた際、Bにおいて、埼玉県に対し、自主的に本件井戸のピットの状況を撮影した写真を提出するとともに、本件井戸水の採取に係る揚水施設について、その使用開始年月日を「平成9年12月 日」として届け出たこと、そして、原告は、このとき、本件井戸の使用に関する行政上の手続は全て終了したと考えていたこと、⑥Bは、平成22年7月26日、被告から本件井戸水の使用の有無等についての質問書を受領した際、被告に対し、自主的に、本件井戸水を使用していることを回答したこと、⑦原告は、平成19年12月頃から現在に至るまで、本件井戸水を使用していることについて、その事実を隠ぺいするための特殊な工事を行うなどの偽装工作を全く行っていないことなどからすれば、原告は、平成9年12月から平成22年9月までの間、本件井戸の存在を認識しながら、使用水利を上水道及び温泉水と偽り、下水道の使用を継続し、不正に使用料を免れたことがないことは明らかである。

(6)  争点(6)(本件過料処分は比例原則に違反するか)について

(原告の主張)

ア  原告が、平成9年12月から現在に至るまで本件井戸の使用の事実を隠ぺいするための特殊な工事を行うなどの偽装工作を全く行っていないことからすると、過料の倍率を1.6倍とする本件過料処分は、重きに失し、行政作用一般に妥当すべき比例原則(警察官職務執行法1条2項参照)に反するから、その全部が違法である。

なお、北本市長が、本件過料処分における過料の倍率を1.6倍としたのは、単に、被告において、当時、既に時効が完成したものと考えていた過去8年分の使用料追徴額を過料として回収するためであったのであり、そのほかに何らの根拠もないことは明らかである。また、被告は、過料の倍率を定めるに当たって、使用料の請求の際に遅延損害金が付されていないことを考慮しているが、本件条例10条2項の趣旨は、不正な手段により使用料の徴収を免れた者に対し、過料という行政上の秩序罰を科すことによりかかる不正行為を防止する点にあると解されるところ、未納付使用料の請求に当たって遅延損害金が付されているかどうかは被処分者のした行為の悪質性とは全く関係がないことから、この点を考慮して過料の倍率を決定することは、明らかに法の予定するところではないというべきである。

イ  仮に、原告が「偽りその他不正な手段により使用料の徴収を免れた者」(本件条例10条2項)に当たるとしても、本件において、比例原則に違反しない適正な過料の倍率は1.0倍である。そうすると、

(ア) ①過料の対象となる未納付使用料は多くとも761万1397円であり、かつ、②平成17年10月分から平成18年9月分までの未納付使用料債権は時効消滅していることから、本件過料処分のうち579万9160円を超える部分は違法である(本件過料処分取消請求の予備的請求1)。

(計算式)

761万1397円×4/5÷1.05×1.0=579万9160円

(イ)  仮に上記(ア)②の主張が認められないとしても、本件過料処分のうち724万8950円を超える部分は違法である(本件過料処分取消請求の予備的請求2)。

(計算式)

761万1397円÷1.05×1.0=724万8950円

(ウ) 仮に上記(ア)①の主張が認められないとしても、本件過料処分のうち1780万8000円を超える部分は違法である(本件過料処分取消請求の予備的請求5)。

(計算式)

1869万8400円÷1.05×1.0=1780万8000円

(エ) 仮に上記(ア)①及び②の主張が認められないとしても、本件過料処分のうち2200万8000円を超える部分は違法である(本件過料処分取消請求の予備的請求6)。

(計算式)

2310万8400円÷1.05×1.0=2200万8000円

(被告の主張)

原告は、平成9年12月から平成22年9月までの154か月間、本件井戸水の使用料を不正に免れたものであり、本件使用料請求額決定処分により請求していない94か月分の使用料相当額を不当に利得したこととなる。また、未納付使用料の請求に当たっては遅延損害金が付されておらず、かつ、原告による本件井戸の偽装工作が計画的であることなどを考慮すれば、本件過料処分において、過料の倍率を1.6倍としたことは相当であって、何ら比例原則に反しない。

これに対し、原告は、被告が過料の倍率を決定するに当たって考慮したのは、当時既に時効が完成したものと考えていた過去8年分の使用料であり、時効により追徴し得ない使用料を過料名目で徴収しようとするのは法の趣旨に反すると主張するが、過料の倍率は、地方自治法228条3項及び本件条例10条2項に基づき、被告において「徴収を免れた金額の5倍に相当する金額」以下の範囲内で定めることができるのであり、原告の行った不正手段の態様、期間、事後措置及びその他の事情を総合考慮して決定することは何ら違法ではなく、その際、上記の事柄を総合考慮した結果として、1.6倍の倍率としたものであり、たまたま、この倍率が上記8年分の使用料に相当する額と一致しただけのことであって、未納付使用料請求額のみで決定したわけではない。

また、原告は、不正な配管を設置するなどの偽装工作を一切行っていないこと、埼玉県や被告から質問等があれば誠実に対応していたことからすると、原告の計画性は皆無であると主張するが、上記のとおり、本件井戸に係るモーターポンプは、アスファルト舗装の下に置かれ、その位置も容易に分からないように秘匿されていたこと、原告は、平成16年7月に本件井戸のモーターポンプを取り替えたにもかかわらず、被告に対し、何らの報告もしていないことなどからすると、A及び原告の計画性は明らかであり、その態様も悪質である。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(本件条例3条は憲法84条の趣旨に反し違憲無効か)について

(1)  国又は地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特定の給付に対する反対給付としてではなく、一定の要件に該当する全ての者に対して課する金銭給付は、その形式のいかんにかかわらず、憲法84条に規定する「租税」に当たるというべきである。

また、憲法84条は、国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則を租税について厳格化した形で明文化したものである。したがって、国、地方公共団体等が賦課徴収する租税以外の公課であっても、その性質に応じて、法律又は法律の範囲内で制定された条例によって適正な規律がされるべきものと解すべきであり、憲法84条に規定する租税ではないという理由だけから、その全てが当然に同条に現れた上記のような法原則のらち外にあると判断することは相当ではない。そして、租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきであるが、その場合であっても、租税以外の公課は、租税とその性質を共通する点や異なる点があり、また、賦課徴収の目的に応じて多種多様であるから、賦課要件が法律又は条例にどの程度明確に定められるべきかなどその規律の在り方については、当該公課の性質、賦課徴収の目的、その強制の度合い等を総合考慮して判断すべきものである。(最高裁昭和60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁、最高裁平成18年3月1日大法廷判決・民集60巻2号587頁参照)

(2)  これを本件についてみると、使用料が憲法84条に規定する「租税」に当たらないことは明らかである(このこと自体については、当事者間に争いがない。)。

そこで、使用料が租税に類似する性質を有するかにつき検討すると、公共下水道管理者は、公共下水道を使用する者から使用料を徴収することができるところ(法20条1項)、使用料の支払の督促を受けた者が、指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該使用料等について、排水区域の内外を問わず、地方税の滞納処分の例により処分することができることとされており(地方自治法231条の3第3項前段、同法附則6条3号)、強制徴収が認められている。

しかし、他方において、法は、公共下水道管理者が公共下水道の供用を開始するに当たって、あらかじめ、下水を排除すべき区域を公示すべきことなどを定め(9条1項)、当該区域内では、土地の所有者、使用者又は占有者に対し、その土地の下水を公共下水道に流入させるために必要な排水設備を設置することを義務付けているものの(10条1項)、特別の事情により公共下水道管理者の許可を受けた場合等はこの限りではないとしているばかりか(同項ただし書)、当該区域内で上記排水設備を設置しなかったとしても、これを罰する旨の直接的な規定もない。そして、そもそも、排水区域外では、上記排水設備の設置は義務付けられておらず、本件施設も、当該区域外に位置しており、排水設備の設置を義務付けられていないのであって、被告が管理する公共下水道の使用を強制されていない。加えて、法は、処理区域(排水区域のうち排除された下水を終末処理場により処理することができる地域で、法9条2項において準用する同条1項の規定により公示された区域)内においてくみ取便所が設けられている建築物を所有する者に対し、公示された下水の処理を開始すべき日から3年以内にその便所を水洗便所(汚水管が公共下水道に連結されたものに限る。)に改造すべき義務を課した上(11条の3第1項)、公共下水道管理者は、当該義務に違反している者に対し、相当の期間を定めて、当該くみ取便所を水洗便所に改造すべきことを命ずることができるとしているものの(同条の3第3項)、当該建築物が近く除却され、又は移転される予定のものである場合、水洗便所への改造に必要な資金の調達が困難な事情がある場合等当該くみ取便所を水洗便所に改造しないことについて相当の理由があると認められる場合は、この限りではないとされている(同条の3第3項ただし書)。以上のとおり、法においては、公共下水道の使用に係る強制の度合いが相対的に高くはないということができる。

そうすると、使用料について強制徴収が認められているとしても、使用料が租税類似の性質を有するということは直ちにはできず、憲法84条の趣旨が及ぶと解することは相当ではない。

のみならず、上記のとおり、本件施設は、排水区域外に位置しており、被告が管理する公共下水道の使用を何ら強制されてはいない(被告は、当該公共下水道を事実上使用せざる得なかったと主張するが、その真偽はさておき、ここでは法的な強制が問題となる。)。そして、本件条例3条の「公共下水道に汚水を排除する者」には、排水区域内の者と排水区域外の者とが存在するところ、少なくとも、排水区域外の者を対象とする部分については、上記のとおり、被告が管理する公共下水道の利用について何ら強制的な要素はないことからすると、その使用料が租税類似の性質を有するということができないことは明らかである。したがって、少なくとも、本件条例3条のうち排水区域外の者を対象とする部分については、憲法84条の趣旨が及ぶということはできない。

したがって、いずれにせよ、本件において、使用料につき憲法84条の趣旨が及ぶと解することはできない。

(3)  以上によれば、本件条例3条が憲法84条の趣旨に反し違憲無効である旨の原告の主張は、本件条例3条の明確性について判断するまでもなく採用することができない。

2 争点(2)(本件施設から排出される汚水は「一般汚水」(本件条例3条)に当たるか)について

被告は、本件施設から排除される汚水は本件条例3条の「一般汚水」に当たると主張するのに対し、原告は、当該汚水は同条の「公衆浴場汚水」に当たる(ただし、本件施設のトイレの使用に際して排除される汚水は「一般汚水」に該当する。)と主張する。

そこで検討すると、本件条例3条は、使用料について、汚水の種類を「一般汚水」と「公衆浴場汚水」とに分けているところ、本件条例には、これらの定義を定めた規定は存在しない(乙2の1)。

しかし、前記認定のとおり、本件条例3条は、「公衆浴場汚水」の使用料の算定基準を、「一般汚水」の使用料の算定基準と比較して、かなり低く定めているところ、公共下水道管理者が使用料を条例で定めるに当たっては、特定の使用者に対し不当な差別的取扱をしてはならないという原則によることを要する(法20条2項4号)ことからすると、上記のように「公衆浴場汚水」の使用料の算定基準を低く設定するためには、そのようにすべき合理的な理由があることが必要である。

しかるところ、本件条例の制定の約半年後に成立した公衆浴場確保法1条の規定によれば、本件条例の制定当時、一般公衆浴場(いわゆる銭湯)は、住民の日常生活において欠くことのできない施設であるとともに、住民の健康の増進等に関し重要な役割を担っているにもかかわらず、著しく減少している状況にあったものと推認されること、一般公衆浴場は物価統制令4条により入浴料金が制限されていたことなどからすれば、住民の健康の増進等を図るために、一般公衆浴場から排除される下水については、その使用料を一般汚水に比べ低く設定すべき合理的な理由があったものと認められる。これに対し、本件施設のような特殊公衆浴場は、一般公衆浴場のように、著しく減少しているような事情はうかがわれない上、物価統制令4条により入浴料金が制限されておらず、使用料を含む経費を入浴料金に反映させることができることから、そこから排除される下水に係る使用料を、一般汚水と比べ、相当低く設定すべき合理的理由はないというほかはない。そうすると、本件条例の趣旨に徴すれば、上記「公衆浴場汚水」にいう「公衆浴場」とは一般公衆浴場を指すと解するのが相当である。

加えて、本件条例を制定した被告の立法者意思に照らしても、上記「公衆浴場汚水」にいう「公衆浴場」は、一般公衆浴場を指すものというべきである。すなわち、証拠(乙4、53~56)及び弁論の全趣旨によれば、①埼玉県知事は、昭和49年7月10日付け下水第379号通知により、荒川左岸南部流域下水道での公衆浴場からの浴場排水に係る流域下水道維持管理負担金の減額措置を同年4月1日から採ることを通知していること、②埼玉県は、荒川左岸北部流域下水道の工事を完成させ、当該施設の供用開始に当たり、埼玉県が行う荒川左岸北部流域下水道の維持管理に要する経費について、被告を含む関係6市町が負担すべき金額を県議会で審議し、昭和55年9月26日、排水下水量を1立方メートル当たり40円とする旨が議会で決議されたこと、③埼玉県知事は、昭和56年3月5日付け下管第476号通知により、荒川左岸北部流域下水道での公衆浴場からの浴場排水に係る流域下水道維持管理負担金の減額措置を昭和56年4月1日から採ることを通知したこと、④昭和61年2月付けで作成された「埼玉県流域下水道維持管理関係例規集」(乙56)には、埼玉県知事が昭和56年3月5日付け下管第476号通知で減額を求めている「公衆浴場からの浴場排水」の「公衆浴場」とは、一般公衆浴場(いわゆる銭湯)に限るものであり、その理由は、当該軽減措置が、一般公衆浴場の公共的性格に基づく料金規制及び経営難に対する軽減措置であるとの説明が記載されていること、⑤埼玉県知事が、昭和49年7月10日付け下水第379通知により公衆浴場にかかる減額措置を実施したのは、埼玉県公衆浴場組合及び関係市からの要請を受けてのことであること(埼玉県公衆浴場組合とは、一般公衆浴場を経営する組合である。)などが認められる。そして、法25条の2第1項、法31条の2第1、2項によれば、埼玉県が設置、管理する荒川左岸北部流域下水道により利益を受けることになる被告は、その利益を受ける限度において、下水道維持管理負担金の全部又は一部を負担することとなること、被告が負担すべき金額は、埼玉県の議会の議決を経て定められること、法20条によれば、公共下水道管理者である被告は、公共下水道の管理に要する経費について、使用者に負担させることが認められていることからすると、被告は、埼玉県が被告に負担させることとした流域下水道維持管理負担金の額等を受けて具体的な使用料を定めることとなる。そうすると、本件条例の審議がされたのが、昭和55年12月10日のことであるとしても(乙24)、上記認定事実によれば、その当時、被告において、被告が属する荒川左岸北部流域下水道での一般公衆浴場からの浴場排水に係る流域下水道維持管理負担金が減額されることとなることを認識していたと認めるのが相当であり、これを受けて本件条例を制定したものであって、被告の立法者意思としては、本件条例3条にいう「公衆浴場汚水」の「公衆浴場」とは、一般公衆浴場を意味するものであったというべきである。

以上によれば、被告が主張するとおり、特殊公衆浴場である本件施設から排除される汚水は、本件条例3条の「一般汚水」(本件条例3条)に当たると解するのが相当である。

3 争点(4)(平成17年10月分から平成18年9月分までの間の未納付使用料債権は、時効により消滅したか)について

(1)  前記前提となる事実に、証拠(甲2~11、18の1・2、25、27、28、乙5~17、27、33、34、45、証人B、原告代表者本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

ア  本件施設の営業開始に至るまでの経緯

(ア)  d社は、昭和37年12月8日、公衆浴場の経営をその目的として設立され、東京都渋谷区で一般公衆浴場である「○○湯」の経営を開始した。「○○湯」の経営は、当初、Aの両親が当たっていたが、Aが、父の死を契機として、昭和50年頃、その経営に携わるようになった。

なお、「○○湯」では井戸水が使用されており、昭和30年頃から井戸水をくみ上げる揚水機には計測装置が付けられていた。

(イ)  Aは、温泉を使った大規模な公衆浴場を作ることとし、平成7年9月26日、「a社」という商号の会社を設立し、同社の代表取締役に就任し、Aの子であるBが、平成8年9月30日、原告の取締役に就任した。

なお、a社は、平成9年1月1日、その商号を「X社」に変更した。

(ウ)  Aは、平成8年頃、b社に対し、公衆浴場施設の建築及び開発のコンサルティングを依頼した。

そして、A、b社及びc設計事務所は、Aを発注者、b社を請負者、c設計事務所を監理者として、平成9年5月12日、本件施設を建設すること、完成を同年11月30日とすること、請負代金を5億8800万円とすることなどを内容とする本件請負契約を締結した。本件請負契約書には、見積書1冊が添付され、添付資料の各図には、「温泉ポンプNO1」、「温泉ポンプNO2」等の記載があった。

(エ)  原告は、平成9年5月15日、鴻巣保健所長に対し、本件施設について、公衆浴場の種類を「特殊」、使用水の別を「水道水」、入浴料金を「大人800円、中人400円」等とする内容の公衆浴場営業許可の申請をした。その際、同所長に対して提出された「給排水屋外配管図」(乙7)には、2本の給水管の記載がされているところ、1本は上水で、1本は温泉と表示されており、井戸水の記載はなかった。

上記申請を受けて、鴻巣保健所長は、同月21日、原告に対し、公衆浴場営業許可をした。

(オ)  Aは、平成9年10月20日、指定水道工事店であるe興業株式会社を代理人として、桶川北本水道企業団に対し、「給水装置口径変更工事申請書」(乙8)を提出した。同申請は、上水(水道水)の給水管につき、口径13ミリメートルから口径75ミリメートルに変更する旨の許可を求めるものであったが、受水槽に接続する井戸水給水管の記載はなかった。

(カ)  Aは、平成9年10月頃、北本市長に対し、本件施設について、「排水設備等の新設等計画確認申請書」(乙9)を提出したところ、同申請書では、使用水利は上水道のみとされていた。また、同申請書の添付資料として、「給排水屋外配管図」(乙10)が提出されているが、同図面によると給排水管は3本あり、1本は上水(水道水)で、2本は温泉とされ、うち1本は口径65ミリメートル管、他の1本は口径75ミリメートル管とされていた。

(キ)  平成9年11月15日、本件施設の排水設備等の新設等に係る新設工事が完了し、同月19日、Aは、北本市長に対し、排水設備等の工事完了届出書及び「公共下水道使用開始等届出書」(乙45)を提出した。公共下水道使用開始等届出書には、排水区分について水道水のみが記載されていた。

(ク)  b社は、平成9年11月29日、Aに対し、本件施設に関する工事が完成したことを届け出た。完成届には、「契約書に基づく図書、仕様書の通り完成しましたのでお届け致します。」と記載されていた。

(ケ)  本件施設は、平成9年12月、営業を開始した。

イ  本件井戸の使用が発覚するに至る経緯

(ア)  本件施設では、営業開始当初から、水道水、井戸水及び温泉水を使用していたところ、本件施設の使用水量のうち半分近くは、井戸水であった。そして、井戸水と水道水は、本件施設内の同じ受水槽に入り、温泉水は温泉浴槽に入っていた。

また、本件井戸水をくみ上げるためのモーターポンプには、営業開始当初から平成22年9月に至るまでの間、計測装置は設置されておらず、平成16年7月頃まで、本件施設内の地表を覆っているアスファルト舗装の下に埋められていた。

(イ)  Aは、原告の代表取締役として、平成9年12月から本件施設の経営に携わっていたが、平成10年夏以降は、Bに本件施設の運営を任せていた。

(ウ)  原告は、平成16年7月頃、本件井戸に係るピットを整備し、本件井戸水をくみ上げるためのモーターポンプを取り替えたが、計測装置は設置しなかった。

(エ)  原告は、平成20年3月5日、埼玉県環境部水環境課長から、「地下水の汲み上げに必要な手続について(通知)」と題する書面の交付を受け、同年6月18日、埼玉県中央環境管理事務所長宛てに、本件井戸水の採取について、使用開始年月日を「平成9年12月 日」とした揚水施設使用等届出書を提出した。

また、原告は、平成22年7月26日、北本市長から、本件施設内での井戸水等の使用に関する質問表の送付を受けて、同年8月6日、北本市長に対し、上記届出書と同様に、平成9年12月から井戸水を使用している旨の回答書を返送した。

(オ)  被告は、同年8月27日に本件施設で現地調査を行い、本件施設の敷地内に本件井戸があることを確認した。被告は、原告に対し、本件井戸に揚水量の計測装置を設置するように指導したところ、原告から、同年9月14日、計測装置を設置したとの報告を受けた。

ウ  本件各処分に至る経緯

(ア)  北本市長は、平成22年10月14日付けで、「下水道不正使用に係る徴収を免れた使用料の請求について(通知)」(本件通知書)をもって未納付使用料の請求をし、同通知書は、同月16日、原告に到達した。本件通知書には、通知が届いた日から過去5年分の使用料を請求すること、請求金額及び詳細については、確定次第通知することが記載されていた。

(イ)  被告は、同年12月5日、本件施設において検針を行い、本件井戸水の2ヶ月間の揚水量が7384立方メートルであることを確認した。

(ウ)  原告は、同月下旬頃、被告に対し、同月21日の打合せの内容を整理したものと原告の考える未納付使用料の算定根拠を記載した書面(乙14)を提出した。

同書面では、「当社の経理、税務上の観点から、お手数ではございますが、下水道使用料未納額について、ご検討頂き、総請求金額、過年度年数、各年金額等、処分内容を明記頂ければ幸いでございます。」、「返済に対する資金については、平成22年12月21日にお打ち合わせ頂いた通り、現状は大変資金難の状態です。」、「返済期間に対応する期間の役員報酬の大幅削減、設備投資の縮小等、最大限の努力を実行し、返済計画を立案させて頂く所存でございます。」と記載されていた。

(エ)  被告は、平成23年2月7日、本件施設において、計測装置の検針を行ったところ、本件井戸水の2か月間の揚水量は8976立方メートルであった。

(オ)  同月14日、被告と原告は、未納付使用料について協議した。その際、原告は、被告に対し、井戸水の揚水量が平成22年9月以前に比べ多くなっていること、原告の計算では、井戸水の揚水量は2000立方メートル程度少なくなると思われるため、原告の計算した水量にしてほしい旨を申し出た。

そこで、被告において確認したところ、本件施設における上水道の使用量が過去に比して少ないことが判明したため、同月18日、被告は、再度、本件井戸水の揚水量を計測することとし、原告に対し、同年4月に検針することを伝えた。

(カ)  被告は、本件施設において、計測装置の検針を行ったところ、平成23年4月4日、本件井戸水の2か月間の揚水量が7415立方メートルであることを、同年6月4日、本件井戸水の2か月間の揚水量が5000立方メートルであることをそれぞれ確認した。その上で、被告は、本件井戸水の2か月間の平均揚水量が5600立方メートルであると認定した。

(キ)  北本市長は、本件井戸からの汚水排除量を1月当たり2800立方メートルとして、「一般汚水」(本件条例3条)の算定基準(平成21年3月31日以前は1立方メートルにつき125円、平成21年4月1日以降は1立方メートルにつき145円)を乗じた額に、さらに100分の105を乗じて使用料を計算し、平成23年10月18日付けで、平成17年10月から平成22年9月までの未納付使用料請求額を2310万8400円、納付期限を同年11月30日、納付方法を別添の納付書の裏面の金融機関とする旨の本件使用料請求額決定処分をした。

(ク)  また、北本市長は、原告が、平成9年12月から平成22年9月までの間、本件井戸の存在を認識しながら、使用水利を上水道及び温泉水と偽り、下水道の使用を継続して不正に使用料を免れたとして、平成23年12月27日付けで、平成17年10月から平成22年9月までの間の未納付使用料から消費税を除いた額である2200万8000円の1.6倍に相当する3521万2800円を過料額とし、納期限を平成24年1月31日とする旨の本件過料処分をした。

(2)  原告は、平成17年10月分から平成18年9月分までの間の本件井戸水に係る未納付使用料債権は時効により消滅したと主張するのに対し、被告は、平成22年10月14日付け納入通知及び同年12月21日付け債務の承認により時効が中断しており消滅時効は成立していないと主張する。

そこで検討すると、証拠(乙44、47~49、51、52)によれば、使用料の納期限は、検針月の翌月15日に2か月分が徴収されることとされており、平成17年10月分及び同年11月分の使用料については、同年12月初旬に行われる検針により確定し、納期限は平成18年1月15日となることが認められる。

しかるところ、上記認定のとおり、被告は、原告に対し、平成22年10月16日到達の本件通知書をもって未納付使用料の請求をしているところ、確かに、本件通知書には、地方自治法施行令154条3項所定の「納付すべき金額、納期限、納入場所」が記載されていない。しかし、上記認定のとおり、本件通知書が発出された時点においては、被告において本件井戸からの揚水量を正確に把握しておらず(被告が当該揚水量を認定したのは平成23年6月4日に至ってのことである。)、本件通知書に、納入すべき金額及び納期限等を記載することは不可能又は著しく困難であったと認められるところ、地方自治法236条4項が金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利について時効中断効に係る特則を設けた趣旨に照らせば、このような場合には、納入通知書に、同法施行令154条3項所定の納入すべき具体的金額及び納期限等が記載されていなくても、同項所定の事項が可能な範囲で記載されていれば、後に納入すべき具体的金額等が明らかにされることをもって、同法236条4項にいう「法令の規定」による納入の通知というに妨げないと解すべきである。そして、本件通知書には、同通知書が到達した日から過去5年間の未納付使用料を請求することが明記されていることからすると、本件通知書は、同通知書が到達した日から過去5年間の本件井戸水に係る使用料について、その額等が確定次第、これを納入するよう通知したものとみることができるのであり、地方自治法236条4項所定の「納入の通知」に当たると解するのが相当である。

のみならず、原告は、本件通知書を受けて、平成22年12月下旬頃に書面(乙14)を被告に対して送付しており、同書面には、原告が過去5年間の下水道使用量の計算方法について触れた上で、「当社の経理、税務上の観点から、お手数ではございますが、下水道使用料未納額について、ご検討頂き、総請求金額、過年度年数、各年金額等、処分内容を明記頂ければ幸いでございます。」、「返済に対する資金については、平成22年12月21日に打合せさせて頂いたとおり」、「返済計画を立案させて頂く所存でございます。」との記載がされていたことは、上記認定のとおりである。これは、被告において、過去5年分の本件井戸水に係る使用料について、請求金額を確定し、それが適正な金額であるならば原告は支払う意思を明らかにしたものとみることができるのであり、当該使用料債務が存在することを承認したものと認めるのが相当である。

以上によれば、平成17年10月分から平成18年9月分までの間の本件井戸水に係る使用料債権に係る消滅時効は、本件通知書の送付又は原告の債務の承認により中断したものというべきであり、消滅時効は成立していない。したがって、この点に関する原告の上記主張は採用することができない。

4 争点(5)(原告は、「偽りその他不正な手段により使用料の徴収を免れた者」(本件条例10条2項)に当たるか)について

(1)  被告は、原告が「偽りその他不正な手段により使用料の徴収を免れた者」に当たると主張する。

そこで、まず、原告の代表取締役であるAが、本件井戸の存在を認識していたかにつき検討すると、本件井戸を採掘し、井戸水をくみ上げるポンプを設置する工事をするためには、多額の費用と労力を要することから(乙26、弁論の全趣旨)、b社が、Aの意に反して、上記採掘等をすることは考え難いというほかはない。また、上記認定のとおり、本件請負契約書には、見積書1冊が添付され、その添付資料の各図には、「温泉ポンプNO1」、「温泉ポンプNO2」等の記載があるところ、Aは、当時、温泉ポンプは1本であると認識していたというのであるから(原告代表者本人)、上記添付資料に記載されている「温泉ポンプ」のうち1本が本件井戸の給水管であることを認識していたことがうかがわれる。さらに、上記認定のとおり、Aが昭和50年頃から経営していた一般公衆浴場である「○○湯」では、井戸水を使用しており、Aは、井戸水に係る汚水を排除するためには使用料がかかり、これが公衆浴場を経営するに当たって多大な経費となることを知っていたところ、本件施設は、約5億8800円もの費用をかけた大規模な特殊公衆浴場なのであるから、Aは、原告の代表取締役として、使用料及びその前提となる汚水排除量について計算をしていたはずであって、使用水量の半分を近く占める本件井戸水の存在に気付かないということは考え難いというほかはない。これらの点に、原告は、平成16年7月頃、本件井戸に係るモーターポンプを取り替えた際、被告に対し、本件井戸に係る報告をしていないこと、上記のとおり本件施設の使用水量の半分近くを本件井戸水が占めていたところ、原告が、本件施設における使用水量の全てを上水と温泉で賄い切れていたと認識していたなどということはおよそ不自然であることなどを併せ考慮すれば、Aは、本件井戸の存在を認識していたものと認めるのが相当である。

次に、Aが、本件井戸の存在を隠ぺいするなどした事実があるかにつき検討すると、平成9年12月頃から平成16年7月頃までの間、本件井戸及び本件井戸に係るモーターポンプはアスファルト舗装の下に埋められており、その位置が容易に分からないような状態であったこと、原告が鴻巣保健所長に対して提出した公衆浴場営業許可申請書に添付されている「給排水屋外配管図」(乙7)には、給水管につき、上水、温泉のみが記載され、井戸水については何ら記載されていなかったこと、また、Aが北本市長に提出した「排水設備等の新設等計画確認申請書」(乙9)には、使用水利について上水道のみと記載されていたこと、さらに、Aが北本市長に提出した「公衆浴場使用開始等届出書」(乙45)には、使用水の種類が水道水とのみ記載されていたこと、原告は、平成9年12月から平成22年9月までの間、本件井戸水に係る使用料を支払っていなかったことは上記認定のとおりであり、これらの事実に照らせば、原告は、平成9年12月から平成22年9月までの間、本件井戸の存在を隠ぺいし、使用水利を上水道及び温泉水と偽って、下水道の使用を継続し、不正に使用料の支払を免れたということができる。

以上によれば、被告が主張するとおり、原告は、「偽りその他不正な手段により使用料の徴収を免れた者」(本件条例10条2項)に当たると認めるのが相当である。

(2)  これに対し、原告は、Aは、本件請負契約の前後を通して、b社から、本件施設における使用料や本件井戸の存在等に関する十分な説明を受けていなかったこと、原告は、本件施設の営業を開始した平成9年12月以降、本件施設の営業に当たって、本件井戸水を使用していたものの、平成10年6月頃、b社が倒産するなどしたため、以後、本件井戸が存在すること及び本件井戸水を使用していることをb社から知らされることはなかったことなどをるる主張するが、上記説示のとおり、本件請負契約の請負者であるb社が、発注者であるAの意に反して、無断で本件井戸を掘るなどということは考え難いばかりか、本件井戸の存在は、本件施設の経営上、極めて重要な意味を有するのであるから、Aが、本件請負契約の前後を通して、b社から、本件井戸の存在等についての説明を受けていなかったなどと認めることはできない。

したがって、原告の上記主張は採用することができない。

5 争点(6)(本件過料処分は比例原則に違反するか)について

(1)  地方自治法228条3項に基づいて規定された本件条例10条2項は、偽りその他不正な手段により使用料の徴収を免れた者は、その徴収を免れた金額の5倍に相当する金額以下の過料に処すると定めていることから、北本市長には、政策的、専門的見地から上記範囲内で過料処分に係る金額を決定することができる裁量権が与えられているというべきである。

もっとも、本件条例10条2項に基づく過料処分は、偽りその他不正な手段により使用料の徴収を免れた者に対し過料という行政上の秩序罰を科すことにより、かかる不正行為を防止することを目的としているところ、同処分を受けた者はその過料の金額によっては、上記目的を達することに比して過剰な財産上の不利益を受けることとなるから、北本市長による過料処分が、上記目的に照らして著しく重きに失すると認められる場合には、裁量権の範囲を逸脱又は濫用するものとして違法となることもあり得ると解するのが相当である。

(2)  これを本件についてみると、上記認定のとおり、平成9年12月頃から平成16年7月頃までの間、本件井戸及び本件井戸に係るモーターポンプはアスファルト舗装の下に埋められており、その位置が容易に分からないような状態であったこと、原告は、鴻巣保健所長に提出した公衆浴場営業許可申請書に添付する「給排水屋外配管図」(乙7)において、給水管につき、上水、温泉のみを記載し、井戸水については記載しなかったこと、また、Aは、北本市長に提出した「排水設備等の新設等計画確認申請書」(乙9)において、使用水利を上水道のみと記載していたこと、さらに、Aは、北本市長に提出した「公共下水道使用開始等届出書」(乙45)において、排水区分につき水道水のみと記載したこと、原告は、平成16年7月頃、本件井戸に係るモーターポンプを取り替えた際も、被告に対し、本件井戸に係る報告をしなかったこと、原告は、本件施設の設立当初から、本件井戸の存在を認識していながら、平成9年12月から平成22年9月まで約14年間にわたって、本件井戸水に係る使用料を支払っていなかったことが認められ、これらの事実に照らせば、原告が、本件井戸に係る使用料の支払を免れた行為は、相当程度、巧妙かつ悪質であるといわざるを得ない。

そうすると、上記認定のとおり、原告が、平成22年7月6日、北本市長から、本件施設内での井戸水等の使用に関する質問書の送付を受けてから、同年8月6日には、平成9年12月から本件井戸水を使用していることを申告し、被告による調査にも協力をしていたことが認められることを考慮しても、本件過料処分は、使用料に係る不正を防止するという目的を達成するために著しく重きに失するとまではいえないと解するのが相当である。

したがって、本件過料処分は比例原則に違反しないというべきである。

(3)  これに対し、原告は、北本市長が、本件過料処分をするに当たって認定した1.6倍という過料の倍率は、単に、被告において、当時、既に時効が完成したものと考えていた過去8年分の使用料を過料として回収するために決定したものであり、そのほかに何らの根拠もないことは明らかであること、北本市長は、過料の倍率を定めるに当たって、使用料の請求の際に遅延損害金が付されていないことを考慮しているものの、このような考慮は、本件条例10条2項の予定するところではないことをそれぞれ主張する。

しかし、上記説示のとおり、北本市長には、政策的、専門的見地から本件条例10条2項の範囲内で過料処分に係る金額を決定することができる裁量権が与えられているところ、同項の過料処分は、使用料の徴収を不正な手段により免れるという不正行為を防止することを目的とするものであることから、同目的を達するために、北本市長は、原告が行った不正行為の態様、期間及びその他の事情を総合考慮して、過料の倍率を決定することができるものであり、原告が指摘する事情を考慮したことがあったとしても、そのことをもって、本件過料処分が直ちに違法となるということはできない。

したがって、原告の上記主張は採用することはできない。

6 まとめ

以上の検討によれば、本件各処分はいずれも違法ということはできない。

第4結語

以上の次第で、原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 志田原信三 裁判官 鈴木拓児 今西由佳子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例