さいたま地方裁判所 平成24年(行ウ)22号 判決 2013年6月19日
主文
1 被告は、Aに対し、さいたま市に対して2万9900円及びこれに対する平成24年7月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第3当裁判所の判断
1 地方自治法232条の2は、普通地方公共団体が、その公益上必要がある場合において補助をすることができる旨規定しているところ、当該地方公共団体の長が、故意又は過失によりその裁量権を逸脱又は濫用して補助を行った場合、当該補助は、当該地方公共団体に対する関係において違法な権利侵害を構成し、当該長の地位にあった者は、当該地方公共団体に対し、不法行為に基づく損害賠償義務を負うと解すべきである。
そして、当該地方公共団体が、補助の趣旨、対象となる事業、補助金交付の手続等について定めた要綱は、法規範性を有するものではないものの、当該地方公共団体の内部において、長を含む職員を規律するものであり、かかる要綱に違反し又はその趣旨に反して補助が行われた場合には、それが軽微な手続上の瑕疵にすぎない等の特段の事情がある場合を除き、上記裁量権の逸脱又は濫用があったこととなると解すべきである。
2 そこで、本件交付額確定が、本件要綱に違反し又はその趣旨に反するか否かについて検討する。
(1) 本件要綱3条1項(対象となる補助事業)について
前記前提事実によれば、本件団体は、交付された補助金の一部である2万9900円を使って花の植替えを実施し、そのことは本件交付額確定の資料ともなった実績報告書にも表示されていたところ、花の植替え自体は、本件要綱3条1項1号の「集会、研究会、講演会等の開催」に該当するとはいえないし、同項2号ないし5号が掲げるいずれの事業にも該当せず、本件団体の運営に必要な事務であるとも解されないから同項6号にも該当せず、結局、同項各号に掲げるいずれの事業にも該当しないといわざるを得ない。
この点、被告は、上記花の植替えは、a駅前広場周辺の生活環境向上を図るものであるとともに、住民間の交流や地域のまちづくりに関する情報交換の場にもなっているとして、本件要綱3条1項1号の「集会、研究会、講演会等の開催」に該当する旨主張するけれども、花の植替えによって生活環境の向上につながることがあることをもって、花の植替えが「集会、研究会、講演会等の開催」に該当すると解することは到底できないし、花の植替え作業は、住民間の交流や情報交換を目的とするものではなく、作業中に住民間で事実上会話や情報交換をすることがあるとしても、そのことから直ちに花の植替えが「集会、研究会、講演会等の開催」に該当するとはいえないから、前記主張は採用できない。
したがって、本件交付額確定は、本件要綱が補助の対象としない事業に用いられた上記2万9900円を、交付額に含めて行われたという点において、本件要綱3条1項に違反する。
(2) 本件要綱7条1項(事業完了実績報告)及び8条1項(補助金額確定)について
ア 前記のとおり、本件団体は、平成24年4月1日になって初めて花の植替えを実施したもので、実績報告書を同年3月21日付けで提出した時点においては、当該花の植替えは完了していなかった。
したがって、かかる実績報告書の提出は、事業が完了していないにもかかわらずされたという点において、本件要綱7条1項に違反する。
そして、実績報告書には、平成24年2月26日付け納品書等が添付されていたにもかかわらず、同日以降に花の植替えを実施したとの記載がなく、実績報告書変更書面に添付されていたような花の植替え後の状況を記録した写真の添付もないから、同報告書では本件団体による花植えが実際に完了したことを確認することはできないといわざるを得ない。
したがって、本件交付額確定は、事業の完了を確認せずになされたという点において、本件要綱8条1項に違反する。
イ この点、被告は、実績報告書の提出を受け、本件団体の平成23年度の会計が同年3月21日の監査報告をもって終了していること、領収書等により、補助目的に合致した経費の支出が適正になされていることを確認し、当該年度の事業が完了していると判断したもので、本件交付額確定は本件要綱8条1項に違反しない旨主張するけれども、実績報告書の前記記載内容からすると、被告が実施したと主張する前記調査内容だけでは本件団体による花植えが実際に完了したことを確認するものとしては不十分であったことは明らかであり、実績報告書(添付書類を含む。)以外に被告が平成24年2月26日以降本件交付額確定前に花の植替えの事業の完了を確認するために用いた資料があったことを認めるに足りる証拠もないから、被告の前記主張は採用できない。
(3) 本件要綱10条1号(補助金の目的外使用)について
前記前提事実によれば、本件団体が提出した交付申請書には、補助事業の目的として、「a駅周辺(○○地区)のまちづくりにかかる関係機関との調整、働きかけに関すること」と記載されていたもので、花の植替えは、本件申請書添付の事業計画書に記載があるものの、上記補助事業の目的と関連しないことは明らかである。
したがって、本件団体が花の植替えに用いた2万9900円は、補助の目的以外に使用されたもので、このことは、補助金の返還事由である本件要綱10条1号に該当する。
そうすると、本件交付額確定は、本件要綱10条1号該当事由があるにもかかわらずなされた、本件要綱の趣旨に反するものというべきである。
(4) 本件要綱10条4号(申請書等の虚偽記載)について
前記前提事実によれば、本件交付額確定の資料となった実績報告書には、平成24年2月26日付け納品書等が添付されるとともに、補助事業の実施期間として平成24年3月21日までの期間が記載され、同日付けで事業が完了した旨記載されている。しかし、前記のとおり、本件団体が実績報告書を同年3月21日付けで提出した時点においては、当該花の植替えは完了していなかったものであり、事業が完了した旨の上記記載は虚偽であったものといわざるを得ず、このことは、補助金の返還事由である本件要綱10条4号に該当する。
そうすると、本件交付額確定は、本件要綱10条4号該当事由があるにもかかわらずなされた、本件要綱の趣旨に反するものというべきである。
3 上記のとおり、本件交付額確定は、本件要綱に違反し、その趣旨にも反するというべきところ、本件において、前記1の特段の事情は認められないから、本件交付額確定は、さいたま市長の裁量権を濫用又は逸脱してなされた違法なものであり、さいたま市長の職にあったAは、これにより2万9900円の支出を確定させて、さいたま市に同額の損害を与えたこととなる。
4 そして、以上に照らせば、さいたま市長であったAとしては、本件要綱の定めにつき検討し、本件団体から提出された実績報告書及び添付書類を審査し確認すれば、前記2で判断した、本件交付額確定が本件要綱に違反し、あるいはその趣旨に反していることにつき比較的容易に認識し得たと認められるから、上記の違法行為につき過失があったというべきである。
5 以上によれば、さいたま市は、Aに対し、不法行為に基づく損害賠償2万9900円及びこれに対する不法行為(本件交付額確定)の日以後で訴状送達の日の翌日である平成24年7月19日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求権を有することとなる。
第4結論
よって、原告らの請求は理由があるから全部認容し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 原啓一郎 裁判官 鈴木拓児 山崎雄大)