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さいたま地方裁判所 平成24年(行ウ)31号 判決 2013年7月17日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(本件処分の違法性)について

(1)  本件通知の位置づけ

証拠(乙1)によれば、本件通知は、地方自治法245条の4に規定する「技術的な助言」に当たるものであると認められるところ、技術的な助言とは、客観的に妥当性のある行為又は措置を実施するように促したり、又はこれを実施するために必要な事項を示したりするものである。

そして、本件通知は、その内容に照らし、子ども手当の支給要件の具体的解釈として合理的なものであると評価できる。

したがって、市町村長が子ども手当の支給要件の認定をするにあたっては、技術的助言である本件通知を法の解釈の参考とすることができるというのが相当であり、当裁判所において、本件処分の違法性を判断する上でもこれを用いることが相当であるといえる。

(2)  原告及びAについての支給要件の有無

ア  証拠(甲1の4、甲4、乙3、4)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成21年1月8日以降はB及びCと同居していなかったものの、本件面会交流調停に基づき月に2、3度B及びCと面会をしており、養育費を含む婚姻費用10万円を継続的に支払っていたこと、他方、Aは、B及びCと同居しており、養育の費用も支出していたことが認められるところ、これらは、社会通念上、父及び母による子に対する必要な身上的・経済的支援であるといえる。

そうすると、原告も、Aも、B及びCの生活について通常必要とされる監督・保護を行っていると社会通念上考えられる主観的意思と客観的事実が認められるといえ、「監護」の要件に該当しているといえる(前記法令等の定め1(2)イ(ア))。

イ  証拠(乙7、11の2)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、Aが平成21年1月8日にB及びCを連れて原告宅を出て行き、Aと離婚訴訟中であったことから、B及びCと別居しているけれども、原告とAが平成23年2月14日に和解により離婚するまでの期間は、訴訟等の結果次第で再びB及びCと再び起居を共にする可能性が認められ、かつ、原告はその間、養育費を含む婚姻費用10万円を継続的に支払っていたことも認められる。そうすると、上記期間については、別居の事由が消滅したときは再び起居を共にすると認められ、かつ、子どもと養育者との間で生活費、学資金、療養費等の送金が継続的に行われている場合であるから、原告は、B及びCと「生計を同じくする」という要件に該当していたというべきである(前記法令等の定め1(2)イ(イ))。

そして、和解離婚成立後の期間については、原告がB及びCと再び起居を共にする可能性は消滅したというべきであり、原告は、B及びCと「生計を同じくする」という要件に該当していたとはいえない(前記法令等の定め1(2)イ(イ)参照)。

他方、Aは、子であるB及びCと同居していたのであり、加えて、明らかに子と生計を異にしていたことを認めるに足りる証拠もないから、Aも「生計を同じくする」の要件に該当する(前記法令等の定め1(2)イ(イ))。

ウ  平成23年2月14日の和解による離婚までの期間においては、父である原告も母であるAも、共に子どもであるB及びCを監護し、かつ、これと生計を同じくしていたのであるから、子ども手当の受給資格は、当該父又は母のうちいずれかの「当該子どもの生計を維持する程度の高い者」に認められることになる(法4条2項)。

そして、証拠(乙13の3、4、6及び7)及び弁論の全趣旨によれば、Aの婚姻費用を除く収入(Aの祖父母や父母等からの支援金を含む。)は平成21年1月8日から平成22年3月31日までの約15か月間で271万円であり、同期間のB及びCに関する支出は253万6490円であったこと、同期間に原告がAに送金した婚姻費用は合計150万円であったことが認められる。

ここで、原告の送金した婚姻費用には配偶者の生活保持の費用が含まれているから、子どもの養育費は、婚姻費用150万円の3分の2と考えるのは十分合理性がある。そうすると、同期間にB及びCの養育費として支出したといえる費用は原告が100万円であり、Aが153万6493円であったと推認される。

このことに照らすと、和解による離婚までの期間においても、B及びCに関する支出については原告の負担割合よりもAの負担割合の方が高かったといえ、AはB及びCと同居していることも併せ考慮するときは(前記法令等の定め1(2)イ(ウ))、Aが「当該子どもの生計を維持する程度の高い者」に当たると認められる。

エ  原告は、Aの所得は年あたり58万6395円しかなく、その全てが養育費に充てられるわけではないし、Aの父母や祖母、妹からの支援金は養育費の算定計算に際して考慮すべきではないと主張する。

しかし、Aの父母や祖母、妹からの支援金は、原告との関係では、A側からの支出であるから、Aが支出した養育費に含めて考えるのが合理的である。

また、法4条1項2号、3号の「生計を維持する」という要件の解釈について、生計維持のための資金は必ずしも養育者本人の資産又は所得である必要はなく、その者が他から仕送りを受けている場合でも差し支えないとされており(本件通知第2、1(3)③、乙1)、法4条2項の「生計を維持する」程度の高低を考えるにあたっても、同じ文言が使用されている以上、同様に解釈されるべきである。

そうすると、子どもの生計を維持する程度の高低を考えるにあたり、Aが祖父母や父母等からの支援金を得て子どもの養育費としているならば、この支援金は、Aの支出分に含めるべきである。

したがって、原告の前記主張は採用できない。

(3)  まとめ

前記(1)、(2)で検討したとおり、原告は、B及びCについての子ども手当の支給要件を充たさないから、本件こども手当認定請求を却下した本件処分は適法である。

2  争点(2)(本件裁決の取消訴訟について)について

(1)  本件訴えの適法性について

裁決取消の訴えにおいては、その違法事由として、裁決固有の瑕疵を主張することを要する(行政事件訴訟法10条1項)けれども、その主張がない場合は、単に請求原因の主張が欠落していることとなって、請求が棄却されるに過ぎず、訴えが不適法となるものではない。したがって、これを不適法とする被告埼玉県の主張は失当である。なお、原告が主張する後記(2)ア、イの事由は、いずれも本件裁決固有の瑕疵に当たると解される。

(2)  本件裁決の違法性について

ア  原告は、被告埼玉県が、処分庁である入間市長から子ども手当認定手続について相談を受けて入間市長に指示をしていたことから、埼玉県知事は審査請求の段階で中立公平な立場から審査をしているとはいえないと主張する。

しかし、処分についての審査の制度は、そもそも、処分庁に対し指揮監督権を有する上級行政庁も審査庁となり得ることを予定している(行審法5条1項1号)のであって、原告の主張は、必ずしも本件裁決の瑕疵をもたらすものではない。

なお、被告埼玉県が入間市長から子ども手当の認定について相談を受けて被告埼玉県の所管課としての見解を入間市長に回答していたことについては争いがない。しかし、法31条によれば、入間市長がする子ども手当の認定は、本来は国の役割である事務を都道府県又は市町村が処理するという1号法定受託事務(地方自治法2条9項1号)であり、埼玉県知事が子ども手当の認定に関して入間市長に対し技術的な勧告等をする権限を有するものではなく、被告埼玉県が子ども手当の認定に関して、見解を回答していたとしても、かかる回答は事実上のものに過ぎない。

したがって、埼玉県知事は中立公平な立場から審査をしているのであって、原告の前記主張はその前提を欠き、この点でも失当である。

イ  原告は、審査庁である埼玉県知事が本件審査請求の主たる争点である原告とAのいずれが生計を維持する程度が高い者なのかに関する資料を処分庁である入間市長から取り寄せることなく事実認定をしており、行審法28条の権限を正しく行使せず、調査を尽くす義務を怠っていると主張する。

審査庁は行審法28条における物件の提出を要求することが裁決のために必要かどうかを裁量により判断することができるところ、証拠(甲2)によれば、審査庁である埼玉県知事は、処分庁である入間市長の弁明書から、入間市長がAの収入を資料により把握したことを確認していることが認められる。そうすると、埼玉県知事が、それ以外に、Aの収入に関する資料の提出を求めることは、裁決をするために必要であったとは必ずしもいえない。逆に、埼玉県知事が入間市長に対し行審法28条に基づく資料の提出を要求することにより、その分手続が遅滞することとなれば、簡易迅速な手続により国民の権利利益の救済を図るという行政不服審査手続の趣旨(行審法1条参照)を損なうことにもなりかねない。

したがって、審査庁である埼玉県知事が、行審法28条に基づく物件の提出を処分庁である入間市長に促すことなく本件裁決をしたことは、審査庁が有する裁量を逸脱濫用したものとはいえず、原告の前記主張には理由がない。

ウ  以上によれば、本件裁決は裁決固有の瑕疵があるとはいえず、適法である。

第4結論

以上の次第であり、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原啓一郎 裁判官 鈴木拓児 今西由佳子)

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