さいたま地方裁判所 平成25年(ワ)1826号 判決 2014年4月30日
主文
1 被告A及び被告Bは,原告に対し,連帯して,626万7580円及びうち507万7294円に対する平成17年6月2日から支払済みまで年14パーセントの割合(年365日の日割計算)による金員を支払え。
2 被告Cは,原告に対し,260万8659円及びうち230万0684円に対する平成16年3月13日から支払済みまで年14パーセントの割合(年365日の日割計算)による金員を支払え。
3 被告Aは,原告に対し,353万5703円及びうち290万2421円に対する平成17年6月2日から支払済みまで年14パーセントの割合(年365日の日割計算)による金員を支払え。
4 訴訟費用は,被告らの負担とする。
5 この判決は,仮に執行することができる。
事実
第1当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
主文同旨。
2 本案前の答弁
(1) 本件訴えをいずれも却下する。
(2) 訴訟費用は,原告の負担とする。
3 本案の答弁
(1)原告の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は,原告の負担とする。
第2当事者の主張
1 請求原因
(1) 原告は,中小企業者等が金融機関から事業資金等を借り入れるに際し,その借入金の支払保証等をなすことを業務とし,信用保証協会法に基づき設立された法人である。
(2 )株式会社E銀行(以下「訴外銀行」という。)の債権
ア Dは,訴外銀行から融資を受けるに当たり,平成10年4月17日,原告との間で次の約定の信用保証委託契約を締結した。
(ア) 原告は,Dの訴外銀行に対する債務につき,連帯保証する。
(イ) 原告が,訴外銀行から保証債務の履行を求められたときは,Dに対して通知・催告せず代位弁済することができる。
(ウ) Dは,原告が代位弁済した弁済額及びこれに対する代位弁済日の翌日から支払済みまで年14.6パーセントの割合(年365日の日割計算)による損害金を支払う。
イ 被告A及び被告Bは,上記同日,原告に対し,前項の信用保証委託契約に基づくDの原告に対する債務を書面により連帯保証した。
ウ 訴外銀行は,Dに対し,次の約定で金員を貸し渡した。原告は,Dの訴外銀行に対する借入債務を書面により連帯保証した。
(ア) 保証委託契約日 平成10年4月17日
(イ) 金銭消費貸借契約日 平成10年4月28日
(ウ) 貸付額 800万円
(エ) 最終弁済期限 平成18年4月20日
(オ) 利息 年1.40パーセント(年365日の日割計算)
(カ) 損害金 年14パーセント(年365日の日割計算)
(キ) 弁済方法 平成11年5月20日を第1回とし,以後毎月20日に9万6000円宛83回,最終回である平成18年4月20日に3万2000円の分割弁済
(ク) 期限の利益喪失 債務の一部でも履行を遅滞したとき,請求によって期限の利益を喪失する。
(以下,訴外銀行のDに対する上記債権を「第1の債権」という。)
(3) F組合(以下「訴外信組」という。)の債権
ア Dは,訴外信組から融資を受けるに当たり,平成10年11月5日,原告との間で次の約定の信用保証委託契約を締結した。
(ア) 原告は,Dの訴外信組に対する債務につき,連帯保証する。
(イ) 原告が,訴外信組から保証債務の履行を求められたときは,Dに対して通知・催告せず代位弁済することができる。
(ウ) Dは,原告が代位弁済した弁済額及びこれに対する代位弁済日の翌日から支払済みまで年14.6パーセントの割合(年365日の日割計算)による損害金を支払う。
イ 被告Cは,上記同日,原告に対し,前項の信用保証委託契約に基づくDの原告に対する債務を書面により連帯保証した。
ウ 訴外信組は,Dに対し,次の約定で金員を貸し渡した。原告は,Dの訴外信組に対する借入債務を書面により連帯保証した。
(ア) 保証委託契約日 平成10年11月5日
(イ) 金銭消費貸借契約日 平成10年11月19日
(ウ) 貸付額 2500万円
(エ) 最終弁済期限 平成15年11月30日
(オ) 利息 年2.8パーセント(年365日の日割計算)
(カ) 損害金 年14.6パーセント(年365日の日割計算)
(キ) 弁済方法 平成10年12月31日を第1回とし,以後毎月末日に41万7000円宛59回,最終回である平成15年11月30日に39万7000円の分割弁済
(ク) 期限の利益喪失 債務の一部でも履行を遅滞したとき,請求によって期限の利益を喪失する。
(以下,訴外信組のDに対する上記債権を「第2の債権」という。)
(4) G金庫(以下「訴外信金」という。)の債権
ア Dは,訴外信金から融資を受けるに当たり,平成11年8月25日,原告との間で次の約定の信用保証委託契約を締結した。
(ア) 原告は,Dの訴外信金に対する債務につき,連帯保証する。
(イ) 原告が,訴外信金から保証債務の履行を求められたときは,Dに対して通知・催告せず代位弁済することができる。
(ウ) Dは,原告が代位弁済した弁済額及びこれに対する代位弁済日の翌日から支払済みまで年14.6パーセントの割合(年365日の日割計算)による損害金を支払う。
イ 被告Aは,上記同日,原告に対し,前項の信用保証委託契約に基づくDの原告に対する債務を書面により連帯保証した。
ウ 訴外信金は,Dに対し,次の約定で金員を貸し渡した。原告は,Dの訴外信金に対する借入債務を書面により連帯保証した。
(ア) 保証委託契約日 平成11年8月25日
(イ) 金銭消費貸借契約日 平成11年9月29日
(ウ) 貸付額 800万円
(エ) 最終弁済期限 平成16年9月28日
(オ) 利息 年3.0パーセント(年365日の日割計算)
(カ) 損害金 年14パーセント(年365日の日割計算
(キ) 弁済方法 平成11年10月28日を第1回とし,以後毎月28日に13万4000円宛59回,最終回である平成16年9月28日に9万4000円の分割弁済
(ク) 期限の利益喪失 債務の一部でも履行を遅滞したとき,請求によって期限の利益を喪失する。
(以下,訴外信金のDに対する上記債権を「第3の債権」という。)
(5) 期限の利益喪失
ア D及びDの相続人による返済が滞ったため,訴外銀行は,平成15年2月7日付「期限の利益喪失通知」と題する書面をもって,被告A及び被告Bに対し,訴外銀行から融資を受けた第1の債権につき,延滞元金及び利息損害金の支払に関する連帯保証債務履行を催告するとともに,同年2月15日までに支払がない場合には,同日をもって期限の利益を喪失する旨通知したところ,同書面は,被告A及び被告Bに同年2月9日に配達された。
イ D及びDの相続人による返済が滞ったため,訴外信組は,平成15年4月8日付「催告書」と題する書面をもって,被告Cに対し,訴外信組から融資を受けた第2の債権につき,延滞元金及び利息損害金の支払に関する連帯保証債務履行を催告するとともに,同年4月15日までに支払がない場合には,同日をもって期限の利益を喪失する旨通知したところ,同書面は,被告Cに同年4月9日に配達された。
ウ D及びDの相続人による返済が滞ったため,訴外信金は,平成15年5月19日付「期限の利益喪失通知」と題する書面をもって,被告Aに対し,訴外信金から融資を受けた第3の債権につき,延滞元金及び利息損害金の支払に関する連帯保証債務履行を催告するとともに,同年5月28日までに支払がない場合には,同日をもって期限の利益を喪失する旨通知したところ,同書面は,被告Aに同年5月20日に配達され,誤記に関する訂正通知が,同年5月27日に被告Aに配達された。
(6) 代位弁済
原告は,平成15年10月6日に訴外銀行に対し,第1の債権につき515万8294円を代位弁済し,同日に訴外信組に対し,第2の債権につき508万1877円を代位弁済し,同年11月17日に訴外信金に対し,第3の債権につき295万1021円を代位弁済し,以上合計1319万1192円を代位弁済し,Dの相続人に対し同額の求償金債権を取得した。
(7) 原告は,被告らから,別紙「損害金計算書1ないし3」(省略)のとおり,第1の債権に係る求償金債権(以下「第1の求償金債権」という。)につき,8万1000円(平成17年6月1日まで)の弁済を受け,第2の債権に係る求償金債権(以下「第2の求償金債権」という。)につき,278万1193円(平成16年3月12日まで)の弁済を受け,第3の債権に係る求償金債権(以下「第3の求償金債権」という。)につき,4万8600円の弁済を受けた。したがって,第1ないし第3の求償金債権の求償金残元金及び確定遅延損害金は次のとおりである。
ア 第1の求償金債権(別紙「損害金計算書1」(省略))
求償金残元金 507万7294円,平成17年6月1日までの確定遅延損害金119万0286円
イ 第2の求償金債権(別紙「損害金計算書2」(省略))
求償金残元金 230万0684円,平成16年3月12日までの確定遅延損害金 30万7975円
ウ 第3の求償金債権(別紙「損害金計算書3」(省略))
求償金残元金 290万2421円,平成17年6月1日までの確定遅延損害金63万3282円
(8) よって,原告は,被告らに対し,請求の趣旨記載のとおりの保証債務履行請求権を有する。
2 被告らの本案前の主張
(1) 本件請求は訴えの利益がなく却下されるべきである。
(2) 原告は,被告らに対する保証債務履行請求権について,次のとおり債務名義を有している。
ア 被告Aに対し,第1及び第3の求償金債権を含む本庄簡易裁判所平成20年(ロ)第a号仮執行宣言付支払督促(以下「第1の仮宣付支払督促」という。)
イ 被告Bに対し,第1の求償金債権による本庄簡易裁判所平成20年(ロ)第b号仮執行宣言付支払督促(以下「第2の仮宣付支払督促」という。)
ウ 被告Cに対し,第2の求償金債権を含む熊谷簡易裁判所平成20年(ロ)第c号仮執行宣言付支払督促(以下「第3の仮宣付支払督促」という。)
(3) 原告は,被告らに対し,本件訴訟と全く同一の請求権について,既に第1ないし第3の仮宣付支払督促という債務名義を取得しているものである。債務名義があるのに,それと全く同じ訴訟物について重ねて訴えを提起する場合,訴えの利益はない。
(4) ただし,債務名義があっても消滅時効中断のために例外的に訴えの利益を認めた例もあるようだが,本件はこれには当たらない。
このことは以下の観点から明白である。すなわち,仮に本件請求が認容されるとなると,原告が既に取得している第1ないし第3の仮宣付支払督促の債務名義についても消滅時効が中断される結果,この債務名義もあと約5年は有効となり,さらに本件訴訟における債務名義が発生してしまうと,この2個の債務名義が今後約5年間は有効に併存してしまうことになる。同じ訴訟物について,2個の債務名義が併存することを法は許容していない。
法が二重起訴や再訴を禁止し,また債務名義に対する執行文の付与等を厳重に管理しているのは,同一の訴訟物について債務名義は1個しか認めないことを前提とするものである。本件で原告の請求に訴えの利益を認めることは,この前提を崩すことになり,民事訴訟及び民事執行の基礎を崩す結果となる。
(5) 同一の請求について勝訴の確定判決を得たものが重ねて訴えを提起することが認められている例としては,判決原本が滅失して執行正本が得られない場合や,時効中断のために他に方法がない場合が考えられる。
しかしこれらの場合は同一の請求について2個の債務名義が併存するおそれがない場合だからこそ例外的に訴えの利益が認められるものである。
すなわち,既に債務名義がある場合に時効中断のためにする同一の請求について訴えの利益が認められるのは,古い債務名義が時効により失効してしまい,2個の債務名義が併存するおそれがないからである。
しかし,本件では訴えの利益を認めると,同一の請求について2個の債務名義が併存することとなってしまう。
(6) さらに,被告Cに対する第3の仮宣付支払督促においては,Dの主債務を相続したとして主債務についても債務名義がある。この分については,第3の仮宣付支払督促により主債務が消滅時効にかかるのはまだ先のことであり,時効中断のために本件訴訟の訴えの利益を認める必要はない。
3 被告らの本案前の主張に対する原告の主張
(1) 被告らの本案前の主張(2)の事実は,認める。
(2) Dは商人であり,第1ないし第3の求償金債権は商事債務である。第1の仮宣付支払督促は,平成20年9月5日に被告Aに送達され,第2の仮宣付支払督促は,平成20年9月5日に被告Bに送達され,第3の仮宣付支払督促は,平成20年8月21日に被告Cに送達され,それぞれ時効中断の効力が生じ,かつ,民法174条の2(判決で確定した権利の消滅時効)に基づき,被告らに対する保証債務履行請求権の時効期間は10年となっているが,主債務の時効期間は5年であるから(大審院昭和20年9月10日判決),時効中断のため連帯保証人に対する裁判上の請求をする必要があり,訴えの利益がある。
(3) なお,第3の仮宣付支払督促には,第1の求償金債権のうち被告CがDを相続分4分の1の割合で相続したことによる債権が含まれており,民法174条の2に基づき,第1の求償金債権に係る被告A及び被告Bに対する保証債務履行請求権の4分の1については,時効期間が10年となるから,訴えの利益がないという考えがあり得る。しかし,次の理由からこの考えは不当である。
ア そもそも,被告A及び被告Bに対する保証債務履行請求権の主債務の時効期間について,上記のように分割して考えることに疑問がある。この点,1個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合の時効中断効の及ぶ範囲について判断した最高裁昭和34年2月20日判決とは事案を異にするというべきである。
イ 仮執行宣言付支払督促については既判力が生じないから,第3の仮宣付支払督促により,「原告が,被告Cに対し,「第1の求償金債権(主債務)」の法定相続分である4分の1について,求償金債権を有していること」とする既判力はない。
また,第1及び第2の仮宣付支払督促により,「原告が,被告A及び被告Bに対し,「第1の求償金債権」全額について,保証債務履行請求権を有していること」とする既判力はない。
そうすると,仮に第1の求償金債権に係る被告A及び被告Bに対する保証債務履行請求権の4分の1について訴えの利益がないとして同部分に係る訴えを却下すると,却下された部分について既判力が生じず,時効中断効も生じないこととなる。
この場合,被告A及び被告Bが,後日,「他にも相続人がいたので,被告Cの相続分は4分の1より少ない。したがって,被告Cの相続分を超える部分は主債務が時効消滅しており,附従性により,保証債務は消滅している。」と主張される可能性がある。
このような主張は,信義則に反するか否かは別として,形式的には可能であり,また,被告らの他に相続人がいる可能性を示唆する資料が発見されたので,現実的な懸念である。
ウ 仮に第1の求償金債権に係る被告A及び被告Bに対する保証債務履行請求権の4分の1について訴えの利益がないとして同部分に係る訴えを却下すると,4分の3について認容判決がされることとなるが,同認容判決の既判力の範囲が不明確となることが指摘できる。そして,4分の3の保証債務履行請求権については,判決により時効期間は10年となるが,4分の1については第3の仮宣付支払督促による時効中断から10年(残期間は5年未満)となり,将来,4分の1についての時効中断のために訴訟提起をしたとき,その間の利息・遅延損害金や一部弁済があった場合の充当を考えると,既判力が及ばない範囲を確定することは不可能又は非常に困難となる。
エ よって,原告の被告らに対する全額の保証債務履行請求権が存在することについて既判力を生じさせる必要があり,主債務全体について時効中断を図る必要があり,金銭債務である保証債務においては,その一部を区別することは不可能であり,後日の紛争を避けるために,既判力の及ぶ範囲を明確にする必要があるから,保証債務全体について,訴えの利益は認められる。
オ 上記と別の観点で,仮に4分の3のみ認容する判決が下された場合,被告A及び被告Bに対して強制執行する際に,債務名義をどのようにすべきか,困難な問題が生じる。
カ また,主債務の時効の起算日が,各相続人間で異なることになれば,時効管理が複雑になり,時効中断のため訴訟提起も複雑となることから,被告らの負担も逆に増えることになる。
キ また,本件のように,主債務が3個あり,各主債務毎の連帯保証人が異なる場合,被告らの一部が,一部弁済した時の充当が恣意的になる可能性がある。すなわち,被告らが,被告Cの主債務相続分の時効を完成させようと,それ以外の部分に充当するように指定される可能性があり,逆に,一般論として,債権者が,消滅時効となりそうな債権から充当指定することもあり得る。このような恣意的な充当により,当事者が予期に反した不利益を被る危険がある。
ク 訴えの利益とは,「原告が訴訟を追行し請求認容判決を得ることを,相手方及び訴訟制度の運営の担い手としての裁判所=国(さらにいえば,その背後にいる納税者一般)との関係で正当化する訴訟的利益」とされている。
よって,訴えの利益の趣旨は,被告,裁判所の負担等を考慮して無益な訴訟を防ぐことにある。
これを本件へあてはめると,本件における被告は,被告A,被告B,被告Cの3名である。そして,原告が,被告Cに対する第3の仮宣付支払督促で第1の求償金債権の主債務の相続分を請求していたとしても,被告A及び被告Bについては審理の必要性があり,また,被告Cを含む被告らについて,第2及び第3の求償金債権の審理は必要となる。
そうである以上,被告ら及び裁判所の負担が増えることはない。
よって,訴えの利益の趣旨に反せず,訴えの利益があることは明らかである。
逆に,第1の求償金債権の一部のみを認容する判決を下すことになれば,本件訴訟において,実益のない主張・反論が繰り返されることになる等,かえって被告ら及び裁判所の負担が増えるだけである。また,今後の被告らに対する訴訟・強制執行においても,無益な紛争が生じる危険性が高くなり,やはり被告ら及び裁判所の負担が増えるだけである。
そして,このような負担が増えることになれば,まさに「無益な」主張を認めた「無益な」判決となり,訴えの利益の趣旨に反する結果となる。
ケ 第1の求償金債権に係る被告A及び被告Bに対する保証債務履行請求権の4分の1について訴えの利益がないとの判断をすることは,形式的な概念法学にとらわれ過ぎており,その結果,無用な紛争を生じさせることになる。また,被告らにとって,手続上の負担が増えることがないにも拘わらず,「訴えの利益がない」と主張すること自体に,実益がない。
よって,原告の請求した全ての請求の趣旨に対して,認容判決を下すべきである。
4 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)の事実は,不知。
(2) 請求原因(2)ないし(5)の事実は,認める。
(3) 請求原因(6)及び(7)の事実は,不知。ただし,被告らの弁済は認める。
(4) 請求原因(8)は,争う。
5 抗弁
(1) Dは,第1ないし第3の債権に係る借入れの当時,コンビニエンスストアを経営し,店舗その他これに類似する設備によって物品の販売をなすことを業とする者であって商人である。
(2) したがって,Dを主債務者とする債務は商事債務であり,最終弁済から商事債務の消滅時効期間である5年の経過により消滅した。被告らは同時効を援用する。
6 抗弁に対する認否及び再抗弁
(1) 抗弁(1)の事実は,不知。抗弁(2)は,争う。
(2) 第1の仮宣付支払督促が平成20年9月5日に被告Aに送達され,第2の仮宣付支払督促が平成20年9月5日に被告Bに送達され,第3の仮宣付支払督促が平成20年8月21日に被告Cに送達されたから,それぞれ時効中断の効力が生じた。
理由
1 本案前の答弁について
(1) 被告らは,原告は本件請求と同一の債権について被告らに対する第1ないし第3の仮宣付支払督促の債務名義を有するから,本件訴訟には訴えの利益がない旨主張し,本件訴えをいずれも却下することを求める。
(2) 甲第22号証から第27号証までによれば,第1ないし第3の仮宣付支払督促について次のとおり認められる。
ア 第1の仮宣付支払督促
債権者 原告
債務者 被告A
支払を命じた債権内訳 ①本件に現れていない保証債務履行請求権,②第1の求償金債権に係る保証債務履行請求権(請求金額は本件と同一),③第3の求償金債権に係る保証債務履行請求権(請求金額は本件と同一),④手続費用
送達日 平成20年9月5日
イ 第2の仮宣付支払督促
債権者 原告
債務者 被告B
支払を命じた債権内訳 ①第1の求償金債権に係る保証債務履行請求権(請求金額は本件と同一),②手続費用
送達日 平成20年9月5日
ウ 第3の仮宣付支払督促
債権者 原告
債務者 被告C
支払を命じた債権内訳 ①本件に現れていない保証債務履行請求権,②第2の求償金債権に係る保証債務履行請求権(請求金額は本件と同一),③第1の求償金債権について,主債務者Dを法定相続人被告A(妻),同被告B(子),同被告C(子)が相続したことにより,被告Cが法定相続割合4分の1で相続した156万6894円(内訳:求償金残元金126万9323円,確定遅延損害金29万7571円)及びうち126万9323円に対する平成17年6月2日から支払済みまで年14パーセントの割合(年365日の日割計算)の金員の支払債権(以下「被告C相続債権」という。),④手続費用
(3) 原告のDに対する第1ないし第3の求償金債権が商事債務であることは当事者間に争いがないから,商法522条により時効期間は5年である。
被告らが第1ないし第3の求償金債権についてそれぞれ連帯保証をしたことは当事者間に争いがないから,民法458条,434条,147条1号により,第1ないし第3の仮宣付支払督促は第1ないし第3の求償金債権に係る主債務について時効中断の効力がある。
また,第1ないし第3の仮宣付支払督促は,民事訴訟法396条,民法174条の2第1項により,第1ないし第3の求償金債権に係る保証債務履行請求権の時効期間を10年とする。しかし,債権者と連帯保証人との間の判決により債権確定したときにおいても,その短期時効の期間は訴訟当事者間においてのみ10年に延長されるに過ぎず,訴訟当事者以外の主債務者との関係においては,上記確定判決は時効期間につき何らの影響なく主債務は依然短期時効に服するものである(大審院昭和20年9月10日判決・民集24巻2号82頁参照)。したがって,被告C相続債権を確定した第3の仮宣付支払督促により,第1の求償金債権に係る保証債務履行請求権のうち被告C相続債権を主債務とする部分については民法174条の2第1項により時効期間は10年となるが,第1の求償金債権に係る保証債務履行請求権のその余の部分並びに第2及び第3の求償金債権に係る主債務の時効期間は5年のままである。
そうすると,本件訴え(平成25年8月19日訴訟提起)のうち①第1の求償金債権に係る保証債務履行請求権のうち被告C相続債権を主債務とする部分を除く部分並びに②第2及び第3の求償金債権に係る保証債務履行請求権については,上記各保証債務履行請求権の主債務の時効中断を図るためのものとして,訴えの利益があると判断される。
この点,被告らは,同一の債権について複数の債務名義が存在することを法は許容しておらず,既に債務名義が作成されている債権と同一の債権に基づき時効中断のために訴訟提起をすることが許されるのは,複数の債務名義が併存するおそれがない場合に限られる旨主張する。しかし,民事執行法28条1項は,債権の完全な弁済を得るために執行文の付された債務名義の正本を数通必要であるときに執行文を再度付与することを認めているから,同一の債権について複数の債務名義が存在することを法は許容していないとは言えないし,既に債務名義が作成されている債権と同一の債権に基づき時効中断のために訴訟提起をする場合については訴えの利益を認めることは確立した実務であって,被告らの上記主張は採用できない。
(4) 本件訴えのうち,第1の求償金債権に係る保証債務履行請求権のうち被告C相続債権を主債務とする部分(以下「本件確定部分」という。)に係る訴えについて,訴えの利益の有無を検討する。
本件確定部分については,第3の仮宣付支払督促の債務名義があり,(3)で検討したところから,時効中断のために訴訟提起をする必要があると言うことはできない。
この問題については,仮執行宣言付支払督促は既判力を有しない債務名義であるから(民事執行法35条2項,深沢利一「民事執行の実務(下)[補訂版]」626頁参照),既判力を有しない債務名義を有する債権者が同一の債権に基づく給付訴訟を提起する場合の訴えの利益の有無として捉えるのが相当である。
この点については,学説上は,債務名義が二重になることを避けるために訴えの利益を否定し確認判決によるべきとする説(新藤<編注:原文ママ>幸司外「注解民事訴訟法(5)」126頁以下)と既判力により権利を確定する利益を認めて無条件で訴えの利益を認める説(秋山幹男外「コンメンタール民事訴訟法Ⅲ」96頁)がある。裁判例として,大審院大正7年1月28日判決・民録24輯67頁は,米穀貸借の執行証書を有する債権者が,利米について争いがある場合に,貸籾請求訴訟を提起した事件につき訴えの利益を肯定し,東京地裁昭和43年7月17日判決・判例時報537号60頁は,家屋明渡しの和解調書を有する債権者が,和解調書の無効確認の訴えを提起されている場合に,建物明渡請求訴訟を提起した事件につき訴えの利益を肯定している。
当裁判所は,債務名義が二重になることの弊害,被告の応訴の負担,確定判決により既判力を生じさせることの利益等を考慮すると,上記裁判例に倣い,既判力を有しない債務名義に表示された債権の存否又は内容に争いがある場合は,同一の債権に基づき給付訴訟を提起する訴えの利益を認めるべきであると思料する。
これに基づき本件を見ると,事実欄摘示のとおり,被告らは,本件確定部分を含め,消滅時効の成立を主張して第1の求償金債権に係る保証債務履行請求権の存在を争っているから,本件確定部分に係る訴えについて訴えの利益があると判断する。
以上について,当裁判所は,第4回口頭弁論期日において,「本件訴えの利益についての裁判所の見解としては,判例によると,一部請求であるということが明示されている場合はその明示された部分について時効中断効が生じるということであるから,被告Cが相続したE銀行に対する主債務の4分の1については時効中断効が生じる。そうすると,被告A及び同BのE銀行に対する本件債務の4分の1については,訴えの利益はないと思料する。」と述べたが,これを改めるものである。
(5) よって,本件訴えは訴えの利益を有するものであり,被告らの本案前の答弁は理由がない。
2 本案について
(1) 弁論の全趣旨によれば,請求原因(1)の事実を認める。
(2) 請求原因(2)ないし(5)の事実は,当事者間に争いがない。
(3) 甲第17号証ないし第19号証及び弁論の全趣旨によれば,請求原因(6)及び(7)の事実を認める。ただし,被告らの弁済の事実は,当事者間に争いがない。
(4) 被告らの抗弁(消滅時効)は,1項で説示したとおり,第1ないし第3の仮宣付支払督促による時効中断を認めるから,理由がない。
(5) 以上の次第で,本件請求は理由がある。
(裁判官 山口信恭)