さいたま地方裁判所 平成25年(ワ)1927号 判決 2014年3月31日
原告
X1<他3名>
被告
Y
主文
一 被告は、原告X1に対し、二九四九万一五六一円及びうち三三〇万円に対する平成二三年七月七日から、うち二六一九万一五六一円に対する平成二五年二月一九日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告X2、原告X3及び原告X4に対し、それぞれ九八三万〇五二〇円及びうち一一〇万円に対する平成二三年七月七日から、うち八七三万〇五二〇円に対する平成二五年二月一九日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告X1に対し、三六七六万四四一八円及びうち五五〇万円に対する平成二三年七月七日から、うち三一二六万四四一八円に対する平成二五年二月一九日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告X2、原告X3及び原告X4に対し、それぞれ一二六二万一四七二円及びうち二二〇万円に対する平成二三年七月七日から、うち一〇四二万一四七二円に対する平成二五年二月一九日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、被告運転の大型貨物自動車が、丁字路交差点を左折進行する際に、横断歩道上を歩行していた亡A(以下「亡A」という。)に衝突して亡Aを死亡させた事故に関し、亡Aの相続人である原告らが、被告に対し、被告には横断歩行者等の有無及びその安全確認不十分のまま漫然と左折進行した過失があると主張して、民法七〇九条に基づいて損害賠償を請求した事案である。
二 争いのない事実等(認定事実には証拠を掲げる。)
(1) 交通事故の発生
日時 平成二三年七月七日午前七時三〇分頃
場所 埼玉県新座市野火止四丁目四番四三号(以下「本件事故現場」という。)
加害車両 被告が運転する大型貨物自動車(車両番号<省略>)(以下「被告車両」という。)
被害者 亡A(歩行者)
事故態様 被告が、信号機の設置されていない丁字路交差点を左折進行するに当たり、一時停止せずに漫然と左折進行し、同交差点左折方向出口に設置された横断歩道上を歩行していた亡Aに、自車左側面部を衝突させて路上に転倒させ、同人を自車車底部に巻き込んで約二〇・四m引きずった(以下「本件事故」という。)。
(2) 本件事故の結果
亡Aは、本件事故により、脳挫傷、左肺門部血管損傷の傷害を負い、平成二三年七月七日、上記傷害に基づく外傷性ショックにより死亡した。
(3) 責任原因
被告は、信号機の設置されていない丁字路交差点を左折するにあたっては、横断歩道の直前で一時停止し、カーテンを開け、身を乗り出すなどして横断歩行者の有無及びその安全を確認しながら左折進行すべき注意義務を負っていたのに、これを怠り、横断歩道の直前で一時停止せず、カーテンを開けたり、身を乗り出したりすることもなく、横断歩行者の有無及びその安全確認不十分のまま左折進行した過失がある。
したがって、被告は、本件事故によって生じた損害について、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負う。
(4) 相続
原告X1(以下「原告X1」という。以下同様に略す。)は亡Aの妻であり、原告X2、原告X3及び原告X4は、亡Aの子である。(甲一~三)
(5) 損害の填補
原告らは、平成二四年二月二一日、a保険株式会社(以下「a社」という。)から一五〇万円の仮払を受けた。
また、原告らは、平成二五年二月一八日、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)より、二七五〇万六六〇〇円の支払を受けた。
被告の勤務先である株式会社b(以下「b社」という。)は、別紙「支払一覧表」記載のとおり、原告らの求めに応じて、事故の初期費用について、合計四〇九万八二二三円を支払った。(乙一、二、三の一・二、四~六、七の一~二〇、八の一~八、九~一一、一二、一三の各一・二、一四、弁論の全趣旨)
三 争点(損害額)
【原告らの主張】
(1) 亡Aの損害
ア 治療費
a社が支払済み(当事者間に争いがない。)
イ 入院雑費 一五〇〇円
ウ 文書料 七〇六〇円
印鑑証明書二通につき四〇〇円、刑事記録の謄写費用六六六〇円
エ 逸失利益
(ア) 給与 三三五三万一七三〇円
亡Aは本件事故時五二歳であったから、本件事故がなければ六七歳まで一五年間就労が可能であり、事故前の年収四六一万五〇一五円を基礎収入として、生活費を三〇%控除し、一五年に対応するライプニッツ係数一〇・三七九七を乗じて計算した三三五三万一七三〇円が給与に係る逸失利益となる。
461万5015円×(1-0.3)×10.3797=3353万1730円
(イ) 障害者年金 一七八七万〇七九四円
亡Aは、身体障害者一級として、平成二三年度は年額一九二万九三〇〇円(子の加給分を含む)の障害者年金の受給が確定していた。
また、平成二四年度の基本年金額は、年額一四七万〇八〇〇円であり、原告X4が一八歳となる年度分までは、これに年額二二万六三〇〇円が加算される。亡Aの平均余命二七年間のライプニッツ係数一四・六四三から一年間のライプニッツ係数〇・九五二四を差し引いた一三・六九〇六を上記基本年金額一四七万〇八〇〇円に乗じ、生活費を三〇%控除して(子の加算分については生活費控除すべきでない)計算した一七八七万〇七九四円が障害者年金に係る逸失利益となる。
平成二三年度分 192万9300円÷12×8=128万6200円
平成二四年度分以降
147万0800円×(14.643-0.9524)×(1-0.3)=1409万5294円
22万6300円×11年=248万9300円
128万6200円+1409万5294円+248万9300円=1787万0794円
オ 死亡慰謝料 二八〇〇万円
カ 葬儀費用 b社が支払済み
通常の葬儀費用を超過する分は、香典ないし謝罪金として受領した。
キ 仮払金及び自賠責保険金の遅延損害金充当
a社から支払われた仮払金一五〇万円は、事故発生日から平成二四年二月二一日までの遅延損害金の一部に充当され、その後に自賠責保険より支払われた二七五〇万六六〇〇円についても、支払日である平成二五年二月一五日までの遅延損害金に充当され、さらに元金に二二五六万六六八八円が充当されたため、亡Aの損害金元金は、五六八四万四三九六円となる。
ク 弁護士費用 五六八万四四四〇円
ケ 原告らは、上記キ及びクの合計六二五二万八八三六円の損害賠償請求権を法定相続分に応じて相続した。すなわち、原告X1が二分の一の三一二六万四四一八円、原告X2、原告X3及び原告X4がそれぞれ六分の一の一〇四二万一四七二円の損害賠償請求権を相続した。
(2) 原告X1の損害
ア 固有慰謝料 五〇〇万円
イ 弁護士費用 五〇万円
(3) 原告X2、原告X3及び原告X4の損害
ア 固有慰謝料 各二〇〇万円
イ 弁護士費用 各二〇万円
【被告の主張】
ア 入院雑費は、一一〇〇円の限度で認める。
イ 葬儀費は、一〇〇万円の限度で認め、その余は争う。
b社が支払った費用合計四〇九万八二二三円については、香典と評価するには社会通念上過分であり、損害賠償金の弁済として元金に充当されるべきである。
ウ 障害者年金に係る逸失利益については、子の加給分については逸失利益の算定から除くべきである。また、生活費控除は、五〇%とすべきである。
エ 死亡慰謝料については、原告ら固有の慰謝料も含め、二〇〇〇万円の限度で認める。
オ 文書料については、印鑑証明書代の四〇〇円は認め、その余は争う。
カ a社からの仮払金は、損害賠償金の元本に充当されるべきであり、仮払金及び自賠責保険金の遅延損害金への充当については争う。
第三当裁判所の判断
一 亡Aの損害
(1) 亡Aの治療費について、a社が全額支払済みであることは当事者間に争いがない。
(2) 入院雑費としては、一日分の一五〇〇円を認めるのが相当である。
(3) 甲第一二号証及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件事故の原因を知るために、刑事記録を謄写し、その費用として六六六〇円を支払ったことが認められるところ、これは、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。したがって、文書料については、当事者間に争いのない四〇〇円に六六六〇円を加えた七〇六〇円であると認められる。
(4) 逸失利益
ア 稼働収入喪失による逸失利益
証拠(甲三、七、一三、一四)及び弁論の全趣旨によると、亡Aは、本件事故時、年齢は五二歳であり、六七歳まで一五年間就労可能であったこと、障害年金を受給している妻原告X1と共に、子である原告X2、原告X3(高校三年生)及び原告X4(小学二年生)を扶養していたこと、本件事故の前年である平成二二年の給与収入は四六一万五〇一五円で、平成二三年の本件事故日までの給与収入も二三一万一五二八円であり、前年とほぼ同水準であったことが認められる。
これによれば、亡Aの給与に係る逸失利益は、基礎収入を四六一万五〇一五円とし、生活費控除率を三〇%として算定するのが相当である。
その結果、稼働収入喪失による逸失利益は、次の算式により、三三五三万一四〇七円となる。
461万5015円×(1-0.3)×10.3796=3353万1407円
イ 障害年金受給権喪失による逸失利益
(ア) 証拠(甲八、一九)及び弁論の全趣旨によると、亡Aは、身体障害者一級として、障害基礎年金及び障害厚生年金(以下「障害年金」という。)として、平成二三年度は年額一四七万五三〇〇円の受給が確定していたこと、平成二四年度は年額一四七万〇八〇〇円の受給が見込まれていたこと、亡Aが生存し、かつ、加給年金申請をしたならば、平成二三年度は原告X3及び原告X4の加給分四五万四〇〇〇円を、平成二四年度以降、原告X4が一八歳となる年度分まで、二二万七〇〇〇円の加給分を受給することができたこと、以上の事実を認めることができる。
(イ) 亡Aは、本件事故により死亡しなければ、平均余命まで障害年金を受給できた蓋然性が高いから、この間に亡Aが得べかりし障害年金相当額は、亡Aの逸失利益と認められる。
ただし、加給分については、そもそも拠出された保険料との牽連関係を認め難い上、基本となる障害年金ほど、その存続が確実なものということはできないから、逸失利益性を認めることはできないというべきである。
なお、生活費控除率については、前記認定事実によれば、亡Aは、障害年金の二倍を超える稼働収入があったことが認められ、前述のとおり、妻と三人の子供を扶養していたことを併せ考慮すると、生活費控除率を三〇%として算定するのが相当である。
(ウ) 亡Aの平均余命を原告主張のとおり二七年間として、生活費を三〇%控除して計算すると、障害年金受給権喪失による逸失利益は、次の算式により、一四七八万三七六七円となる。
① 平成二三年度分
147万5300円÷12×8×(1-0.3)=68万8473円
② 平成二四年度分以降
147万0800円×(14.643-0.9524)×(1-0.3)=1409万5294円
③ 合計
68万8473円+1409万5294円=1478万3767円
(5) 慰謝料
証拠(甲九、一四~一八)及び弁論の全趣旨に前記争いのない事実等を総合すると、亡Aは、横断歩道を歩行中に、被告運転車両に衝突され、同車車底部に巻き込まれて約二〇・四m引きずられ、同日、死亡したこと、亡Aは、同じく視覚障害者である原告X1との間に三人の子をもうけ、共に助け合いながら、温かい家庭を築いていたことが認められ、本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すると、本件事故による慰謝料額は、二五〇〇万円と認めるのが相当である。
(6) 葬儀費用
本件事故と相当因果関係のある葬儀費用としては、一五〇万円を認めるのが相当である。
なお、b社が原告らに支払った費用合計四〇九万八二二三円のうち、平成二六年七月一〇日に支払った一五万円については、残りの三九四万八二二三円とは異なり、対応する領収書等がないことからしても、特定の費用に充てるものというよりは、葬儀の準備のために、使途を限定せずにまとまった金額を原告らに交付した趣旨と解されるから、加害者の雇用主であるb社が、被害者の遺族である原告らに対して、香典の趣旨を含む一種の見舞金として交付したものとして扱うのが相当である。
したがって、b社が原告らに支払った四〇九万八二二三円のうち、上記一五万円を除く三九四万八二二三円について、損害賠償金の第三者弁済と認められる。
(7) 前記争いのない事実等によると、原告らは、損害賠償の一部金として、a社から一五〇万円、自賠責保険から二七五〇万六六〇〇円の支払を受けており、前述のとおり、b社からも三九四万八二二三円の支払を受けたことが認められる。
これらの各支払は、各支払時における損害金の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるには足りず、損害金の元本に充当する旨の合意の存在を認めるに足りる証拠もないから、遅延損害金にまず充当すべきである(民法四九一条一項)。
よって、亡Aに生じた上記損害額の合計七四八二万三七三四円につき、別紙「遅延損害金充当計算書」記載のとおり充当計算を行うと、損害金残額は、四七六二万三一二三円となる。
(8) 弁護士費用
以上に認定した損害の金額、本件訴訟の経緯その他本件に顕れた諸事情を考慮すると、本件事故と因果関係のある弁護士費用は、亡Aについて四七六万円と認めるのが相当である。
(9) 相続
亡Aの損害金残額の総計は、五二三八万三一二三円であり、原告X1は、その二分の一に相当する二六一九万一五六一円の損害賠償請求権を相続し、原告X2、原告X3及び原告X4は、その六分の一に相当する八七三万〇五二〇円の損害賠償請求権をそれぞれ相続した。
二 原告X1の損害
(1) 前記認定事実及び弁論の全趣旨によると、原告X1は、本件事故により、視覚障害者同士で支え合って三人の子供を養育し、共に温かい家庭を築いてきた伴侶を失い、精神的、経済的、身体的な支えを失ったことが認められる。
これらの事情その他本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すると、原告X1の慰謝料の額は、三〇〇万円と認めるのが相当である。
(2) 上記原告X1の損害額及び本件訴訟の経緯に照らすと、本件事故と因果関係のある弁護士費用は、原告X1について三〇万円と認めるのが相当である。
三 原告X2、原告X3及び原告X4の損害
(1) 前記認定事実及び弁論の全趣旨によると、上記原告らは、本件事故により、敬愛する父を奪われ、一家の支柱を失ったことが認められる。
これらの事情その他本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すると、上記原告らの慰謝料の額は、各一〇〇万円と認めるのが相当である。
(2) 上記原告らの損害額及び本件訴訟の経緯に照らすと、本件事故と因果関係のある弁護士費用は、上記原告らについて各一〇万円と認めるのが相当である。
四 結論
以上によると、原告らの請求は、原告X1につき、二九四九万一五六一円及びうち三三〇万円に対する本件事故日である平成二三年七月七日から、うち二六一九万一五六一円に対する平成二五年二月一九日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、原告X2、原告X3及び原告X4につき、九八三万〇五二〇円及びうち一一〇万円に対する本件事故日である平成二三年七月七日から、うち八七三万〇五二〇円に対する平成二五年二月一九日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 男澤聡子)
別紙支払一覧表、遅延損害金充当計算書<省略>