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さいたま地方裁判所 平成25年(ワ)2257号 判決 2015年3月25日

主文

1  第1事件被告・第2事件被参加人は、第1事件原告・第2事件被参加人に対し、50万円を支払え。

2  第1事件被告・第2事件被参加人は、第1事件原告・第2事件被参加人に対し、180万2315円に対する平成21年5月13日から、98万5926円に対する同年6月20日から、118万6300円に対する同年11月30日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  第1事件被告・第2事件被参加人は、第2事件参加人Z1に対し、64万4398円を支払え。

4  第1事件被告・第2事件被参加人は、第2事件参加人Z2に対し、58万8364円を支払え。

5  第1事件原告・第2事件被参加人及び第2事件参加人らのその余の請求をいずれも棄却する。

6  訴訟費用は、これを5分し、その1を第1事件原告・第2事件被参加人の負担とし、その1を第1事件被告・第2事件被参加人の負担とし、その余を第2事件参加人らの負担とする。

7  この判決は、第1項ないし第4項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  第1事件

(1)  第1事件被告・第2事件被参加人は、第1事件原告・第2事件被参加人に対し、105万円及びうち55万円に対する平成20年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  第1事件被告・第2事件被参加人は、第1事件原告・第2事件被参加人に対し、1059万3132円に対する平成20年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  第2事件

(1)  第1次的請求

ア 第1事件被告・第2事件被参加人は、参加人らに対し、それぞれ423万8625円を支払え。

イ 第1事件原告・第2事件被参加人は、参加人らに対し、それぞれ5万1148円を支払え。

(2)  第2次的請求

ア 第1事件被告・第2事件被参加人は、参加人らに対し、それぞれ467万8559円を支払え。

イ 第1事件原告・第2事件被参加人は、参加人らに対し、それぞれ5万1148円を支払え。

(3)  第3次的請求

ア 第1事件被告・第2事件被参加人は、参加人らに対し、それぞれ239万7014円を支払え。

イ 第1事件原告・第2事件被参加人は、参加人らに対し、それぞれ5万1148円を支払え。

第2事案の概要

1  本件は、第1事件原告・第2事件被参加人(以下「原告」という。)が、第1事件被告・第2事件被参加人(以下「被告」という。)に対して、①預金債権に基づき、預金の一部である50万円の支払、②預金の払戻請求に応じなかったことによる債務不履行ないし不法行為に基づき、損害金55万円及びこれに対する平成20年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払と、当時の預金額の1059万3132円に対する平成20年11月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求め(第1事件)、第2事件参加人ら(以下「参加人ら」という。)が、それぞれ、被告に対して、預金債権に基づき、第1次的に423万8625円、第2次的に467万8559円、第3次的に239万7014円の支払を求めるとともに、原告に対して、不当利得返還請求権に基づき、5万1148円の支払を求めている(第2事件)事案である。

2  前提事実(争いのない事実及び証拠によって容易に認められる事実)

(1)  原告及び参加人らの父であるC(以下「亡C」という。)は平成4年8月16日に死亡し、同人の妻のB(以下「亡B」という。)、原告及び参加人らが亡Cを相続した。

亡Bは、平成20年4月30日に死亡し、原告及び参加人らが亡Bを相続した。

(2)  亡Bが死亡した当時、亡C及び亡B名義の不動産や預金債権等が存在した。

亡B名義の被告に対する預金債権は、亡B死亡時は、別紙「預金明細一覧表(平成26年10月31日現在)」の口座番号欄記載の口座番号の預金債権(以下、同預金債権を「本件預金債権」といい、同目録の1の債権を「本件普通預金債権」、同目録2ないし8の債権を「本件定期預金債権」という。)があり、その平成20年4月30日時点での残高は、合計1387万5452円であった。

本件預金債権の名義は、平成20年8月15日に、原告へ変更され、原告は、本件普通預金債権に係る口座(以下「本件普通預金口座」という。)から100万円を引き出し、これを亡Bの葬儀費用の立替金等に当てた。

平成26年10月31日時点での本件預金債権の残高は、別紙「預金明細一覧表(平成26年10月31日現在)」のとおりであり、上記時点での本件定期預金債権の額は、利息も含めて1068万0199円である。

なお、本件定期預金債権はいずれも満期が到来している。

(3)  原告及び参加人らは、平成20年9月23日、遺産分割協議を行い、別紙「遺産分割協議書」のとおりの遺産分割協議書(以下「本件遺産分割協議書」といい、本件遺産分割協議書に係る遺産分割協議を「本件遺産分割協議」という。)を作成した。

(4)  第2事件参加人Z1(以下「参加人Z1」という。)は、平成21年、前橋地方裁判所に対し、原告及び第2事件参加人Z2(以下「参加人Z2」という。)を被告として、本件遺産分割協議の無効確認等を求める訴えを提起した(前橋地方裁判所平成21年(ワ)第858号)が、前橋地方裁判所は、本件遺産分割協議は有効であるとして、参加人Z2の請求を棄却し、その後、上記判決は、控訴審での控訴棄却の判決、上告審での上告棄却、上告不受理の決定を経て、確定した。

3  争点

(1)  本件預金債権について、原告及び参加人らが相続した額

(2)  被告が原告の払戻請求に応じなかったことについての債務不履行及び不法行為の成否並びに損害額

(3)  参加人らの原告に対する不当利得返還請求の可否

4  争点についての当事者の主張

(1)  争点(1)について

(原告)

原告と参加人らとの間で、平成20年8月15日に、本件預金債権を含めた亡Bのすべての預貯金債権を原告が相続する旨の遺産分割協議が成立し、同日、本件預金債権の名義を亡Bから原告に変更したが、後日になって、株式会社ゆうちょ銀行(以下「ゆうちょ銀行」という。)に対する貯金債権の一部を参加人らに相続させるのが相当であると考え、同年9月23日に、本件遺産分割協議をして、ゆうちょ銀行に対する貯金債権のうち合計220万円の部分を参加人らに相続させる旨の本件遺産分割が成立し、本件遺産分割協議書の7項で、参加人Z1が115万円を相続し、参加人Z2が105万円を相続する旨記載されたのである。

したがって、本件預金債権はすべて原告が相続した。

(参加人ら)

ア 第1次的主張

本件遺産分割協議書の「1906万円」に本件定期預金債権が含まれている旨の記載がないから、本件遺産分割協議においては、本件定期預金債権については合意されていない。

したがって、本件預金債権は、相続により、原告及び参加人らの法定相続分に従って分割されるところ、平成26年10月31日現在の本件預金債権の額は合計1271万5876円であり、参加人らの法定相続分は各3分の1であるから、参加人らは、本件預金債権について、それぞれ、423万8625円ずつ相続した。

イ 第2次的主張

(ア) 仮に、本件預金債権が本件遺産分割協議によって遺産分割されたとしても、原告は、上記協議の際に、参加人らに対し、「預金等については参加人らが500万円を相続し、その残りを原告が相続する。もし、参加人らの相続分である500万円の分について、現実に預貯金が不足すれば原告がこれを補う」と説明し、参加人らは、原告の上記説明を信じて本件遺産分割協議書に署名したのである。

したがって、本件遺産分割協議により、参加人らがそれぞれ500万円を相続し、残りを原告が相続することになるが、本件遺産分割協議書には500万円との記載はなく、この500万円には本件遺産分割協議書の第8項の83万円が含まれているとも解されることから、参加人らは、預貯金に関して、遺産分割協議書の第6項、7項の金額を合計した400万円を相続すべきものと解すべきである。

(イ) そして、本件普通預金債権については、本件遺産分割協議の対象から外され、相続人3人の利益となる共益費などのために使うものとされたから、本件普通預金債権については、法定相続分に従って分割されるところ、本件普通預金債権の額は203万5677円であり、参加人らの法定相続分は各3分の1であるから、参加人らは、本件普通預金債権については、それぞれ、67万8559円ずつ相続した。

(ウ) したがって、本件預金債権について参加人らが取得した債権額は、それぞれ、467万8559円となる。

ウ 第3次的主張

(ア) 本件遺産分割協議書における原告及び参加人らの預貯金債権の取得額は、原告は1686万円(第7項)、参加人Z1は400万円(第6項及び第7項)、参加人Z2は400万円(第6項及び第7項)であり、本件定期預金債権も、上記の取得割合に従って分割されるべきである。

そうすると、平成26年10月31日現在の本件定期預金債権の額は、合計1068万0199円であるから、参加人らは、それぞれ、171万8455円ずつ相続した。

(イ) 前記イ(イ)のとおり、本件普通預金債権については、参加人らは、それぞれ、67万8559円ずつ相続した。

(ウ) したがって、本件預金債権について参加人らが取得した債権額は、それぞれ、239万7014円となる。

(2)  争点(2)について

(原告)

原告は、被告に対し、平成20年10月末日頃に、被告のc支店において、本件定期預金のうち450万円の払戻の請求をしたが、被告は、「本件預金の払い戻しはできません。b支店か本店と相談されたい。」と言って、これに応じなかったから、被告には債務不履行ないし不法行為が成立する。なお、本件普通預金債権については凍結されていない。

原告は、被告が払戻しに応じなかったため、被告と交渉するために、a市やd市に合計5回も通うなどの対応を強いられ、経済的、精神的損害を被った。

(被告)

被告は、平成20年10月7日付けで参加人Z1の代理人から、本件預金債権の帰属に争いがあり、原告は、形式上の名義人に過ぎないので払戻しを凍結して欲しいとの申入れを受け、本件預金債権の払戻しを凍結している。

金融機関としては、預金債権の帰属に争いがある以上、二重払いを避けるため、払戻しを留保することは当然である。

したがって、被告に、債務不履行、不正行為は成立しない。

なお、原告が被告に対し、払戻しの請求をしたのは、平成21年3月19日である。

(3)  争点(3)について

(参加人ら)

前記のとおり、本件普通預金債権については原告及び参加人らの間で遺産分割協議は成立していないから、原告及び参加人らは、それぞれ、法定相続分である3分の1の割合で相続することになる。

ところで、本件普通預金債権に係る口座からは、原告が相続した不動産で使用された電話、ガス、水道及び電気の料金が引き落とされており、その総額は15万3446円である。

したがって、参加人らは、原告に対し、上記の15万3446円の3分の1の額である5万1148円について、不当利得返還請求権を有する。

なお、本件預金債権に係る口座の名義は原告名義に変更されているが、これは、葬儀費用、税金及び公共料金の支払のために預金を引き出す必要があったことから、取り敢えずの方策として、原告名義に変更したのであり、その際に、本件預金債権を原告が取得する旨の遺産分割協議がされた訳ではない。

(原告)

本件普通預金債権の名義は、亡Bから原告に変更されたが、その頃、原告及び参加人らの間で、本件普通預金債権は、すべて原告が取得することが合意された。

したがって、本件普通預金口座から原告が電話料金等を引き落としても、不当利得は成立しない。

第3当裁判所の判断

1  前記前提事実、証拠(甲1ないし11、16ないし22、乙1ないし5、14、15、丙1ないし17)及び弁論の全趣旨によれば以下の各事実が認められる。

(1)  亡Cは、平成4年8月16日に死亡し、その相続人である亡B、原告及び参加人らの間で、亡Cの遺産相続について協議がされたが、合意には至らなかった。

そのような中で、亡Bは、平成8年11月24日、亡Cの遺産のうち亡Bが相続する遺産をすべて原告に相続させる旨の遺言を作成した。

(2)  亡Bは、平成20年4月30日に死亡し、同年5月ころから、相続人である原告及び参加人らの間で、亡Bの遺産相続について協議がされ、同年8月15日に、被告における亡B名義であった本件預金債権の名義を原告に変更した。

上記の名義変更の手続のために、原告及び参加人らは、被告が用意した相続手続依頼書に、それぞれ署名押印して、必要事項を記載の上、これを被告に提出した(原告及び参加人らが提出した相続手続依頼書を以下「本件相続手続依頼書」という。)。本件相続手続依頼書には、遺産分割協議前のものであるか、遺産分割後のものであるか、裁判所の審判によるものであるか、又は裁判所の調停によるものであるかのいずれかの番号を○で囲むよう指示されているところ、原告及び参加人らは、遺産分割協議後の番号を○で囲んだ。

本件預金債権について上記の名義書換えがされた後、原告は、本件普通預金口座から100万円を払い戻し、同100万円を亡Bの葬儀費用の立替金等に当てた。上記払戻しがされた後の平成20年8月15日時点での本件普通預金債権の額は、224万5180円である。

なお、亡Bは、死亡時に、本件預金債権のほかにも、ゆうちょ銀行や乙農協に対して、複数の口座を開設し、同口座に預貯金を有していた。

(3)  原告及び参加人らは、平成20年9月23日に、本件遺産分割協議をし、本件遺産分割協議書にそれぞれ署名をし、これにより、同人らの間で、別紙遺産分割協議書に記載された内容の遺産分割が成立した。

(4)  参加人ら訴訟代理人は、平成20年10月7日付けの書面で、参加人Z1の代理人として、本件預金債権の名義人を原告に変更したのは、便宜上のものであり、後日、本件預金債権について遺産分割を予定していることを理由に、本件預金債権に係る口座を凍結することを要求した(同通知を以下「本件通知」という。)。

(5)  原告は、平成21年3月19日、被告に対し、本件定期預金債権のうち、口座番号<省略>に係る預金債権111万4576円、同<省略>に係る預金債権134万1096円、同<省略>に係る預金債権203万7493円の払戻請求(以下「本件払戻請求」という。)をした。上記の定期預金のうち、口座番号<省略>に係る預金債権は同年6月19日に、同<省略>に係る預金債権は同年11月29日に、同<省略>に係る預金債権は同年5月12日に、それぞれ満期日が到来した。

被告は、参加人Z1から、本件通知を受けていたため、原告の上記払戻請求に応じなかったが、弁済供託をしていない。

2  争点(1)について

(1)ア  前記1のとおり、原告及び参加人らは、平成20年9月23日に、本件遺産分割協議をし、本件遺産分割協議書に記載されたとおりの遺産分割をすることを合意し、本件遺産分割協議書には、第7項として、「被相続人B名義の預貯金は、Y信金の普通預金を除き1906万円であるが、この内115万円を相続人Z1が相続する。また相続人Z2は、この内105万円を相続する。相続人Xは、残りの1686万円を相続する。」と記載されているところ、本件預金債権は、亡Bの死亡の時点では、亡Bの名義であり、同年8月15日に、亡B名義から原告名義に変更されたことからすると、本件遺産分割協議書の上記条項の「被相続人B名義の預貯金」の中には、本件預金債権も含まれるものと解され、したがって、原告及び参加人らの間で、本件遺産分割協議により、上記の名義変更前に亡Bの名義であった各預貯金債権のうち、本件普通預金債権を除く債権については、原告は1686万円の部分を、参加人Z1は115万円の部分を、参加人Z2は105万円の部分を、それぞれ取得するという合意が成立したものと認められる。

そして、本件普通預金債権については、上記のとおり、既に、同年8月15日に、亡Bから原告へ名義が変更されていること、原告及び参加人らは、同名義変更の手続のために、本件相続手続依頼書の遺産分割協議後であることを示す番号を○で囲み、本件預金債権について遺産分割協議がされている旨記載した上で、署名押印し、これを被告に提出したこと、本件遺産分割協議書では、本件普通預金債権については分割の対象から除く旨の記載があるところ、亡Bが有していた合計2100万円余りの預貯金債権のうち、本件普通預金債権のみを未分割の状態とすることは通常考えられず、本件において、本件普通預金のみを未分割の状態としなければならない事情はうかがえないことからすると、原告及び参加人らの間で、上記の名義変更の時点で、本件普通預金債権を原告が相続することが暫定的に合意され、その後、本件遺産分割協議書が作成された時点で、上記の暫定的な合意が追認され、原告が本件普通預金債権を取得することが確認されたものと認められる。

イ  ところで、前記1のとおり、亡B名義の預貯金債権は、本件定期預金債権の他にも、ゆうちょ銀行に対する貯金債権等があり、また、本件定期預金債権及びそれ以外の預貯金債権に係る口座は複数あったところ、本件遺産分割協議書では、上記のとおり、本件定期預金債権と上記の貯金債権等を合計した1906万円のうち、原告は1686万円を、参加人Z1は115万円を、参加人Z2は105万円をそれぞれ取得するとは記載されているが、原告及び参加人らがいずれの口座に係る債権を取得するかについては記載されていない。また、本件遺産分割協議書の上記の1906万円との金額は、1万円未満の金額については省略されており、また、本件遺産分割協議がされた平成20年9月23日以前の金額を基にしたものであって、その後、利息が発生するなどして、上記の金額に変動が生じており、現時点での預金額は上記の金額とは必ずしも一致していない。

したがって、本件遺産分割協議書からは、原告及び参加人らが、いずれの口座に係る預貯金債権を取得するかは明らかではないが、上記の事情を踏まえ、本件遺産分割協議書の文言から、当事者の意思を合理的に解釈すれば、本件普通預金債権を除く亡B名義の預貯金債権のうち、原告は1906分の1686の割合による金額の債権を、参加人Z1は1906分の115の割合による金額の債権を、参加人Z2は1906分の105の割合による金額の債権を、それぞれ取得するとの合意をしたものと解するのが相当である。

ウ  以上を前提に、本件各預金債権について、原告及び参加人らが相続により取得する額を検討する。

原告及び参加人らは、平成26年10月31日時点での本件預金債権の残高を基に各請求をしているところ、前記前提事実のとおり、同日時点での本件定期預金債権は、利息を含めると1068万0199円であるから、このうち、原告は、944万7437円(1068万0199円×1686/1906)を、参加人Z1は64万4398円(1068万0199円×115/1906)を、参加人Z2は58万8364円(1068万0199円×105/1906)を、それぞれ取得することになる。

本件普通預金債権については、前記のとおり、原告がすべて取得した。

したがって、本件定期預金債権について原告及び参加人らが取得した額は、原告は944万7437円、参加人Z1は64万4398円、参加人Z2は58万8364円となる。

(2)  これに対し、原告は、本件遺産分割協議において、参加人らは、亡Bのゆうちょ銀行に対する貯金債権から、それぞれ、115万円ないし105万円を取得すると合意された旨主張するが、本件遺産分割協議書には、そのようなことを示す文言はないから、当事者の意思としては、参加人らは、亡Bの有していた預貯金債権全体から案分して取得するというものであったと解するのが相当であり、したがって、原告の上記主張は理由がない。

(3)ア  一方、参加人らは、本件遺産分割協議書の「1906万円」に本件定期預金債権が含まれている旨の記載がないから、本件遺産分割協議においては、本件定期預金債権については合意されていない旨主張するが、前記1のとおり、本件遺産分割協議書の7項は、「被相続人B名義の預貯金は、Y信金の普通預金を除き1906万円であるが」と記載されており、「被相続人B名義の預貯金」には、本件預金債権も含まれることは前記(1)アで判示したとおりであるから、参加人らの上記主張は理由がない。

イ  また、参加人らは、本件遺産分割協議において、参加人らは500万円を取得することが合意されたと主張するが、本件遺産分割協議書の文言上、参加人らが、それぞれ、本件預金債権のうち500万円を取得する旨の合意がされたと認めることはできず、また、本件遺産分割協議書の文言にも関わらず、原告及び参加人らの間で、上記の合意がされたと認めるに足る証拠はないから、参加人らの上記主張は理由がない。

ウ  また、参加人らは、本件遺産分割協議書の第6項及び第7項において参加人らが取得する債権額400万円と第7項において原告が取得する債権額1686万円を基に、原告及び参加人らの取得割合を算定すべきであると主張するが、第6項の文言上、同項で参加人らが取得する債権は、亡Cの預金債権についてのものであることは明らかであるから、同項の金額を本件定期預金債権についての取得割合を算定するための基礎とすることはできず、したがって、参加人らの上記主張も理由がない。

3  争点(2)について

(1)  債務不履行責任について

ア 前記1のとおり、原告は、平成21年3月19日、被告に対し、本件定期預金債権のうち、3つの口座(口座番号<省略>、<省略>及び<省略>の口座)の払戻請求(本件払戻請求)をしたが、そのときには、既に、亡Bの相続人全員の署名押印のある、亡B遺産分割協議がされたことを記載した本件相続手続依頼書が提出され、本件預金債権のすべての名義が原告に変更されていたことを考慮すると、被告には、同払戻請求に応じる義務があったというべきであり、それにもかかわらず、被告は、同払戻請求に応じず、また、弁済供託もしなかったのであるから、被告は、後に本件遺産分割協議によって原告が取得した債権額の範囲内で、払戻債務の債務不履行責任を負うというべきである。

そして、前記2(1)で判示したとおり、原告は、本件遺産分割協議によって、亡Bが有していた預金債権のうち、本件普通預金債権を除いた部分について、1906分の1686の割合で取得したものと解すべきであるところ、本件定期預金債権の各口座に係る債権についても、それぞれ同割合で案分した額を取得したものと解するのが相当である。

そうすると、原告が払戻請求をした上記預金債権のうち、原告が相続した金額は、口座番号<省略>に係る預金債権は98万5926円(111万4576円×1686/1906)、同<省略>に係る預金債権は118万6300円(134万1096円×1686/1906)、同<省略>に係る預金債権は180万2315円(203万7493円×1686/1906)となる。

そして、前記1のとおり、本件払戻請求をした預金債権の満期日は、口座番号<省略>に係る預金債権(180万2315円)については平成21年5月12日、同<省略>に係る預金債権(98万5926円)については同年6月19日、同<省略>に係る預金債権(118万6300円)については同年11月29日であるから、被告は、原告に対して、上記払戻債務の履行遅滞に基づき、180万2315円に対する同年5月13日から、98万5926円に対する同年6月20日から、118万6300円に対する同年11月30日からそれぞれ支払済みまで原告の請求に係る年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負う。

なお、原告は、訴状において、120万円の払戻しの請求をしているが、同120万円の払戻請求は、同年3月19日にした本件払戻請求と別の請求であるとは認められないから、上記120万円についての遅延損害金が別途発生することはない。

イ これに対して、原告は、払戻債務の履行遅滞に基づき、1059万3132円に対する平成20年11月1日から年5分の割合による遅延損害金の支払を求めているが、本件全証拠によっても、原告が、本件払戻請求の他に払戻請求をしたことや本件払戻請求を平成20年11月1日にしたことを認めるに足りない。

また、原告は、債務不履行に基づき、被告と交渉するなどして被った経済的、精神的損害の賠償も請求しているが、これらの損害は、被告の上記債務不履行と相当因果関係は認められず、原告の同主張は理由がない。

(2)  不法行為責任について

前記1のとおり、被告は、本件定期預金債権の一部についての原告の払戻請求を拒否しているが、契約上の債務の履行を拒絶したことから、直ちに不法行為が成立するものではなく、同行為が不法行為となるのは、債務者が、債権者に損害を与える目的であえて履行をしないなど、履行の拒絶が公序良俗に反する程度に強度の違法性を有する場合に限られるものと解するのが相当であるところ、前記1のとおり、被告の上記払戻拒絶は、参加人Z1から、本件預金債権の名義人を原告に変更したのは便宜上のものであり、後日、本件預金債権について遺産分割を予定しているとして、本件預金債権に係る口座を凍結するよう要求されたからであり、原告に損害を与えることを目的とするためにあえて払戻を拒絶したものではなく、その他に、本件において、被告の上記履行拒絶が、公序良俗に反するような強度の違法性を有するものであることを基礎付ける事情はうかがわれないから、被告の上記払戻拒絶は不法行為を構成するということはできない。

4  争点(3)について

参加人らは、本件普通預金債権について、それぞれ3分の1の割合で取得したことを前提に、原告が、本件普通預金債権に係る口座から、原告が相続した不動産において使用した電話等の料金等を引き落としたことが不当利得に当たると主張するが、前記2のとおり、本件普通預金債権は原告が相続により取得したのであるから、参加人らの上記主張は理由がない。

5  以上より、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐野信)

(別紙)預金明細一覧表(平成26年10月31日現在)<省略>

遺産分割協議書<省略>

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