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さいたま地方裁判所 平成25年(行ウ)15号 判決 2014年7月16日

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は、a町立隣保館の解体に関して、一切の公金を支払い、契約を締結し、又は債務その他の義務を負担してはならない。

第2事案の概要等

本件は、a町の住民である原告らが、a町長である被告がa町立隣保館(以下「本件隣保館」という。)の解体(以下「本件解体」という。)に関して、公金を支出し、契約を締結し、又は債務その他の義務を負担すること(以下「本件公金支出等」という。)は、地方自治法(以下「地自法」という。)1条の2、2条14項、地方財政法(以下「地財法」という。)4条1項、8条、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助金適正化法」という。)22条等に違反するなどと主張して、被告に対し、地自法242条の2第1項1号に基づき、本件公金支出等の差止めを求める住民訴訟である。

1  関係法令等の定め

(1)  補助金等交付の対象となる事業等(以下「補助事業等」という。)を行う者は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した不動産等の財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用するなどしてはならない(補助金適正化法22条、2条2項、3項、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令(以下「補助金適正化法施行令」という。)13条1号)。

(2)  上記(1)の各省各庁の長の承認に関し、厚生労働省所管一般会計に係る補助金等の交付を受けた場合には、厚生労働大臣の承認が必要となる(補助金適正化法2条7項、財政法20条2項)。

平成20年4月1日以降に補助金適正化法22条の承認の申請を受理したものに関しては、原則として、平成20年4月17日付け会発第0417001号大臣官房会計課長通知「厚生労働省所管一般会計補助金等に係る財産処分について」の別添「厚生労働省所管一般会計補助金等に係る財産処分承認基準」(以下「財産処分承認基準」という。)によるものとされている。そして、財産処分承認基準第2の2「申請手続の特例(包括承認事項)」によれば、地方公共団体が当該事業に係る社会資源が当該地域において充足しているとの判断の下に行う、経過年数(補助目的のために事業を実施した年数)が10年以上である施設又は設備の取壊し等の財産処分であって、財産処分承認基準所定の様式により厚生労働大臣への報告があったものについては、厚生労働大臣の承認があったものとして取り扱うこと(ただし、同報告において記載事項の不備など必要な要件が具備されていない場合を除く。)とされている(乙1)。

(3)  地方改善施設整備費の国庫補助金は、厚生労働省所管一般会計に係る補助金である。このうち、平成18年4月1日以降のものについては、補助金適正化法及び補助金適正化法施行令等のほか、同年10月10日付け厚生労働省発社援第1010001号厚生労働事務次官通知「地方改善施設整備費の国庫補助について」の別紙「地方改善施設整備費補助金交付要綱」(以下「補助金交付要綱」という。)の定めるところによるものとされている(甲5、弁論の全趣旨)。

なお、平成25年3月11日付け「社会・援護局関係主管課長会議資料」(以下「社会・援護局資料」という。)では、「地方改善施設の財産処分について」という表題の下、「最近、隣保館をはじめ共同作業場等の地方改善施設について、整備後、数年しか経過していないにも関わらず財産処分を行ったり、厚生労働大臣の事前承認を受けることなく財産処分を行う等の不適切な事例が散見されるところである。地方改善施設の整備計画の策定に当たっては補助事業の趣旨・目的を十分にご理解いただくとともに、財産処分を計画する場合にあっては、その検討段階でご連絡いただくようお願いしたい。」との記載がある(甲7の1)。

2  前提となる事実(括弧内に証拠等を掲記した事実以外は、当事者間に争いがないか、争うことを明らかにしない事実である。)

(1)  当事者

ア 原告らは、a町の住民である。

イ 被告は、a町の執行機関たる町長である。

(2)  本件隣保館の建築経緯及び補助金について

ア a町は、昭和49年3月19日条例第5号をもって、a町立隣保館設置条例(以下「本件隣保館設置条例」という。)を制定した。本件隣保館設置条例には、以下の規定が置かれていた(甲9)。

(ア) 社会福祉法2条の規定に基づき、地域住民に対し、生活上の各種相談事業をはじめ地域福祉、保健衛生、生涯学習等に関する事業を総合的に行い、もって地域住民の社会、経済、文化等の改善向上を図り、同和問題の早期解決に資するため、隣保館を設置する。

(イ) 隣保館は、次に掲げる事業を行う。

a 社会調査及び研究に関する事業

b 相談に関する事業

c 地域福祉に関する事業

d その他隣保館の設置の目的を達成するのに必要な事業

イ そして、本件隣保館は、本件隣保館設置条例に基づき、昭和49年、a町大字b町<以下省略>地上に、鉄筋コンクリート造2階建(1階建築床面積175.459m2、2階建築床面積108.432m2、延面積283.891m2)の建物として建築され、その際、国からa町に対し、地方改善施設整備費国庫補助金(昭和48年度)として1320万9000円が交付された(乙2、弁論の全趣旨)。

ウ 本件隣保館は、昭和53年、増築工事(建物構造・鉄骨造、面積・61.56m2)がされ、その際、埼玉県からa町に対し、昭和52年度隣保館整備費県補助金として295万9000円が交付された(乙4の1)。

エ 本件隣保館は、平成2年、増改築工事(建物構造・鉄筋コンクリート造2階建、改築面積・268.70m2、増築面積・152.00m2、増改築後の総面積・497.451m2)がされ、その際、国からa町に対し、地方改善施設整備費国庫補助金(平成元年度)として2790万8000円が補助された(乙3)。

(3)  a町は、「町の人権施策の見直しの方針」により、平成23年12月、集会所及び隣保館事業(以下「隣保館事業等」という。)については、平成24年度をもって廃止し、集会所及び隣保館については、地元行政区への移管や他施設としての利用又は解体等を検討していくという方針を決めた。

(4)  a町は、人権施策の見直しと関連し、平成24年6月、町内の公共施設について、利用の促進、効率的利用、公平な利用及び施設の安全性等について、総合的に見直しをするため、公共施設見直し検討委員会(以下「見直し検討委員会」という。)を設置した。

そして、同年10月頃には、a町において、見直し検討委員会における検討を踏まえ、本件隣保館を解体する方針が決められた。

(5)  被告が、平成24年12月6日、人権施策の見直しにより、a町同和対策審議会条例(昭和46年7月23日条例第17号)、a町立同和対策集会所の設置及び管理に関する条例(昭和48年7月27日条例第12号)及び本件隣保館設置条例をいずれも廃止する旨のa町同和対策審議会条例等を廃止する条例案を提出したところ、a町議会は、同月10日、同条例案を可決した(以下、同条例を「本件廃止条例」という。乙2)。

本件廃止条例は、平成25年4月1日から施行され、被告は、同日から、本件隣保館を普通財産として管理している(甲2、乙2、弁論の全趣旨)。

(6)  a町は、遅くとも平成25年5月頃には本件解体に関する予算措置を講じており、この頃には、本件公金支出等がされることが相当の確実さをもって予測される状況であった。

(7)  原告らは、平成25年2月28日、a町監査委員に対し、地自法242条1項に基づき、本件解体は住民及び利用者に不利益を与えるなどとして、「平成25年度における隣保館の解体について中止、撤回を表明すること」などの措置を講ずることを求めて住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)をした(甲1、2)。

a町監査委員は、同年4月22日、本件監査請求をいずれも棄却する旨の決定をした(甲2)。

(8)  原告らは、平成25年5月15日、当裁判所に対し、本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。

第3争点に対する判断

1  争点(1)(本件公金支出等は、地自法1条の2、2条14項、地財法4条1項、8条に違反するか)について

(1)  前記前提となる事実に、証拠(甲2~4、12の1~12の5、乙2、4の1)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

ア 本件隣保館は、昭和49年、a町大字b町<以下省略>地上に、鉄筋コンクリート造2階建(1階建築床面積175.459m2、2階建築床面積108.432m2、延面積283.891m2)の建物として建築され、昭和53年に増築工事(建物構造・鉄骨造、面積・61.56m2)が、平成2年に増改築工事(建物構造・鉄筋コンクリート造2階建、改築面積・268.70m2、増築面積152.00m2、増改築後の総面積・497.451m2)がそれぞれされた。

平成2年にされた増改築工事を除く部分は、旧耐震基準により建築されたものであり、また、同年に増改築された部分は、新耐震基準により建築されたものの、旧耐震基準により建築された部分と接合されており、これらが合築され一体を成す建物となっている。

また、本件隣保館には、雨漏りが発生しており、平成21年度に屋根の改修を行ったものの、東日本大震災の影響が原因とみられるクラックが屋根に入り、現在も複数箇所で雨漏りが発生しているし、折屋根部分には、人体に影響のある吹き付けアスベストの存在も確認されている。

なお、本件隣保館の年間利用件数は、平成20年4月から平成21年3月までが1132件、同年4月から平成22年3月までが1021件、同年4月から平成23年3月までが1066件、同年4月から平成24年3月までが1243件、同年4月から平成25年1月までが906件であった。

イ a町は、「町の人権施策の見直しの方針」により、平成23年12月、隣保館事業等については、平成24年度をもって廃止し、集会所及び隣保館については、地元行政区への移管や他施設としての利用又は解体等を検討していくという方針を決めた。

ウ a町に設置された見直し検討委員会は、平成24年5月16日、同年6月25日及び同年10月10日にわたって、隣保館事業等を廃止することに伴う集会所及び隣保館の今後の取扱いについて協議をした。

そして、見直し検討委員会は、上記協議に基づき、本件隣保館の取扱いについて、下記の基本方針を示した。

隣保館を用途変更後、引き続き集会施設としての活用を考えた場合、建物の耐震補強、老朽化の進行に伴う改修等が生じることや今後の維持管理を想定すると多くの費用負担等が発生する。また、隣保館事業を廃止後の集会施設は、貸館が中心となり、その利用率では、費用対効果も非常に低いものと想定される。ついては、一昨年の人権施策の見直しによる隣保館事業の廃止に伴い、耐震化を含め老朽化した隣保館については、早期に解体することが最善と考える。なお、解体した後の敷地の利用は、c公民館・d児童館・e小学校等が利用できる駐車場として活用を図っていくことが適当である。

なお、このような基本方針の策定に当たって、本件隣保館の耐震診断は実施されていない。

そして、同年10月頃には、a町において、見直し検討委員会における検討を踏まえ、本件隣保館を解体する方針が決められた。

エ a町は、本件解体後も、あらゆる人権問題の中の一つとして、同和問題について主体性をもって人権教育・啓発の推進に努めて解決を図っていくこととしており、本件隣保館で行っていた事業も近隣のc公民館(d児童館併設)の事業に組み入れ、地域交流の活性化を図っていく方針でいる。

(2)  以上の認定事実及び前記前提となる事実を踏まえ、本件公金支出等が地自法2条14項、地財法4条1項、8条に違反するかについて判断する。

ア 原告らは、本件隣保館を解体することが経済的合理性を欠くことから、本件解体に伴う本件公金支出等が地自法2条14項、地財法4条1項、8条に違反すると主張するところ、地方公共団体の長が、その代表者として、当該地方公共団体が所有する財産を処分するために、公金を支出し、契約を締結し、又は債務その他の義務を負担することは、当該財産を処分する目的、必要性及び合理性等諸般の事情を総合考慮した合理的な裁量に委ねられており、当該公金の支出等が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものと評価されるときでなければ、当該公金の支出等が上記各条項に反し違法となるものではないと解するのが相当である(最高裁平成25年3月28日第一小法廷判決・裁判集民事243号241頁参照)。

イ そこで、被告がa町の代表者としてする本件公金支出等が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものと評価されるかにつき検討する。

前記前提となる事実及び上記(1)の認定事実によれば、①a町では平成23年12月の人権政策の見直しにより隣保館事業等を廃止することとし、a町議会において本件隣保館設置条例等を廃止する旨の本件廃止条例が議決されたことにより、隣保館事業を営む施設としてa町が本件隣保館を存続させる法的根拠が失われたこと、②本件隣保館は、昭和49年に建築された建物であり、老朽化していて、その耐震性に不安があるほか、複数箇所で雨漏りが発生していたり、吹き付けアスベストの存在が確認されるなどしていること、また、本件隣保館の近時の利用状況は年間1000件程度にすぎないものであったこと、③そして、a町に設置された見直し検討委員会において、隣保館を用途変更後、引き続き集会施設としての活用を考えた場合、建物の耐震補強、老朽化の進行に伴う改修等が生じることや今後の維持管理を想定すると多くの費用負担等が発生する一方、隣保館事業を廃止後の集会施設は、貸館が中心となり、その利用率では、費用対効果も非常に低いものと想定されることなどから、本件隣保館については、早期に解体することが最善と考えられる旨の基本方針が示されたこと、④a町は本件隣保館で行っていた事業を近隣のc公民館の事業に組み入れる方針でおり、これにより上記事業の存続も見込まれることなどが認められ、これらの事情によれば、本件隣保館を解体する目的、その必要性及び合理性等に照らして、本件公金支出等が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものと評価することはできないというべきである。

そうすると、本件解体に伴う本件公金支出等が地自法2条14項、地財法4条1項、8条に違反するということはできない。

ウ 進んで、原告らの主張について検討を加える。

(ア) 第1に、原告らは、本件隣保館の耐震診断は実施されておらず、本件隣保館を維持管理するに当たって耐震補強が必要であるというのは憶測にすぎないこと、本件隣保館は、補修工事をすれば十分に利用可能な施設であることから、このような公共施設を取り壊すことは経済的合理性を欠くと主張する。

確かに、前記認定のとおり本件隣保館の耐震診断が実施されていないことは認められるし、本件隣保館は改修工事をすることにより利用可能であることもうかがわれる。しかし、前記認定のとおり、本件隣保館は、旧耐震基準によって建築されたものであり、既に老朽化しており、雨漏りも複数箇所で発生していること、折屋根部分には、人体に影響のある吹き付けアスベストが存在することも確認されていることなどからすると、本件隣保館を改修し、これを維持管理していくためには、相当多額の費用を要することは容易に想定されるのであって、このような本件隣保館を取り壊すことが経済的合理性を欠くとはいえない。

(イ) 第2に、原告らは、見直し検討委員会において、本件解体に関し、具体的な検討が行われたことを確認できる書類はなく、十分な審議がされていないと主張する。

しかし、上記事情があったからといって、本件解体が経済的合理性を欠くということには直ちにはならない上、前記認定事実によれば、見直し検討委員会において、本件解体に関する審議が不十分であったなどとは認められない。

(ウ) 第3に、原告らは、本件隣保館では、平成20年度にトイレ改修工事が、平成21年度に屋根天井の改修工事がそれぞれ行われたこと、また、平成24年7月には防災行政デジタル無線施設新設工事が発注され、本件解体が公表された後に同工事が行われたこと、本件解体が計画的に検討されていたのであれば、これらの工事が行われることは不自然であること、このように、隣保館事業等の廃止や本件解体は、無計画に決められたものであり、経済的合理性を欠くことなどを主張する。

しかし、前記認定事実によれば、上記トイレ改修工事及び屋根改修工事は、いずれも本件隣保館の解体が検討され始める前に実施されたものと認められること、防災デジタル無線施設新設工事は、町内全域の避難所施設等51箇所に無線機を設置するというものであり、本件隣保館も避難所施設としての位置付けられていたために設置されたにすぎないと認められること(弁論の全趣旨)からすると、本件解体等が無計画に決められたものであるということはできない。

(エ) 第4に、原告らは、本件隣保館は、地方改善施設整備費補助金のうち隣保館等施設整備費補助金の趣旨に沿って運用されていた建物であり、このような建物を解体することは、経済的合理性を欠くと主張する。

しかし、上記事情があったとしても、そのことから直ちに、本件解体が経済的合理性を欠くことにはならないというほかはない。

(オ) 第5に、原告らは、隣保館は、同和問題の解決を目指す地域の行政及び地域住民の自主的組織活動のセンターであり、周辺地域の住民の人権や同和問題に対する理解を深める活動をするための施設として重要な役割を果たしていること、このような役割等は公民館には与えられておらず、隣保館と公民館は本質的に大きく異なること、同和問題がなお残っている現在において、同和問題の解決に重要な役割を果たしている本件隣保館を解体することは、経済的合理性を欠くことをそれぞれ主張する。

しかし、本件隣保館が同和問題の解決を目指す地域の施設として重要な役割を果たしてきたとしても、前記認定のとおり、a町は人権政策の見直しとして隣保館事業等を廃止することとし、a町議会でも隣保館設置条例等を廃止する旨の本件廃止条例を議決している。そして、前記認定のとおり、a町が、本件解体後も、同和問題を含めた人権問題の解決のため、c公民館において地域交流の活性化を図っていく方針でいることを考慮すれば、上記人権政策の見直しは必ずしも不合理なものとまではいえない。そうだとすれば、本件隣保館を解体する旨の判断は、上記人権政策の見直しにより本件隣保館で隣保館事業等が行われないことを所与の前提として検討すべきものであるから、本件隣保館の果たしてきた役割等を踏まえても、本件解体が経済的合理性を欠くことにはならないというべきである。

(カ) 最後に、原告らは、a町は、本件解体後の敷地付近に駐車場の需要はなく、駐車場を開設しても収益を得られないことから、本件解体は経済的合理性を欠くと主張する。

しかし、上記主張を認めるに足りる証拠はない上、仮に収益が少なかったとしても、駐車場の維持管理に要する費用は、本件隣保館の維持管理に要する費用と比較すれば多額に上らないことは明らかであって、収益の低いことから直ちに、本件解体が経済的合理性を欠くということにはならない。

(キ) 以上によれば、本件解体が経済的合理性を欠くとの原告らの上記各主張は、いずれも採用することができない。

(3)  また、原告らは、被告は、平成23年から平成24年にかけて一斉に同和行政を廃止したところ、当該廃止に係る説明会の参加者に対し、十分な説明をしなかったこと、住民による隣保館事業等の廃止に対する要望に対しても、これを無視し、当該廃止に係る事情等を明らかにしなかったこと、このような被告の対応は、住民の福祉の増進を図るものとはいえず、地自法1条の2に違反することなどを主張する。

しかし、仮に、被告の説明が不十分であったとしても、そのことから直ちに、本件公金支出等が地自法1条の2に違反するなどということはできない。

したがって、原告らの上記主張も採用することができない。

2  争点(2)(本件公金支出等は、補助金適正化法22条等に違反するか)について

(1)  原告らは、被告は、本件解体に際し、補助金適正化法22条所定の厚生労働大臣の承認を受けていないから、本件公金支出等は同条に違反する旨主張する。

そこで検討すると、補助事業等を行う者は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した不動産等の財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用するなどしてはならないこと(補助金適正化法22条、2条2項、3項、補助金適正化法施行令13条1号)、上記各省各庁の長の承認に関し、厚生労働省所管一般会計に係る補助金等の交付を受けた場合には、厚生労働大臣の承認が必要となること(補助金適正化法2条7項、財政法20条2項)、平成20年4月1日以降に補助金適正化法22条の承認の申請を受理したものに関しては、原則として、財産処分承認基準によるものとされていること、そして、財産処分承認基準第2の2「申請手続の特例(包括承認事項)」によれば、地方公共団体が当該事業に係る社会資源が当該地域において充足しているとの判断の下に行う、経過年数(補助目的のために事業を実施した年数)が10年以上である施設又は設備の取壊し等の財産処分であって、財産処分承認基準所定の様式により厚生労働大臣への報告があったものについては、厚生労働大臣の承認があったものとして取り扱うこととされていること、地方改善施設整備費の国庫補助金は、厚生労働省所管一般会計に係る補助金であることは、前記関係法令等の定め記載のとおりである。

これを本件についてみると、補助金適正化法22条本文は、「補助事業者等は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない。」と規定しているところ、前記前提となる事実記載のとおり、本件隣保館は、地方改善施設整備費の国庫補助金により取得し、又は効用の増加した補助金適正化法施行令13条1号で定める財産ということはできるものの、補助金適正化法22条本文には、当該財産を取り壊すことは含まれていないことから、本件解体が同条の適用を受けるといえるかは疑問の余地がある。のみならず、当該財産を取り壊すことについても同条が及ぶと解するとしても、前記認定のとおり、本件隣保館は、経過年数が10年以上の施設であるところ、a町は、厚生労働大臣に対し、平成25年3月21日付け人共第49号「地方改善施設整備費国庫補助金(昭和48年度)により取得した同和対策事業施設(隣保館)に係る財産処分の報告について」及び同日付け人共第50号「地方改善施設整備費国庫補助金(平成元年度)により取得した同和対策事業施設(隣保館)に係る財産処分の報告について」をもって、財産処分承認基準所定の様式に基づき、本件隣保館の取壊しについて報告したことが認められる(乙2、3)。そうすると、a町は、本件解体について、補助金適正化法22条所定の厚生労働大臣の承認を得たものといえるから、いずれにせよ、本件公金支出等が同条に違反するということはできない。

(2)  また、原告らは、被告は、補助金交付要綱に規定する厚生労働大臣による事業廃止の承認を受けていないし、社会・援護局資料において要求される財産処分の検討段階での社会・援護局に対する連絡も怠っているなど手続上の不備があると主張する。

しかし、前記前提となる事実記載のとおり、補助金交付要綱は平成18年4月1日以降に交付された国庫補助金の取扱いについて定めるものであるところ、本件隣保館に関して国庫補助金が交付されたのは、昭和48年及び平成元年のことであるから、補助金交付要綱が適用されないことは明らかである。

また、前記関係法令等の定め記載のとおり、社会・援護局資料には、「地方改善施設の整備計画の策定に当たっては補助事業の趣旨・目的を十分にご理解いただくとともに、財産処分を計画する場合にあっては、その検討段階でご連絡いただくようお願いしたい。」と記載されているにすぎず、地方公共団体に対して法的義務を課すものではないから、同資料の定める連絡をしなかったからといって手続上の不備があるということもできない。

したがって、原告らの上記主張も、採用することができない。

第4結論

以上の次第で、原告らの請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 志田原信三 裁判官 鈴木拓児 髙橋幸大)

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