さいたま地方裁判所 平成26年(ワ)1198号 判決 2016年8月10日
埼玉県<以下省略>
原告
X
同訴訟代理人弁護士
福村武雄
同
上原伸幸
同訴訟復代理人弁護士
井上光昭
同
中島俊明
東京都中央区<以下省略>
被告
東京電気通信有限会社
同代表者清算人
A
主文
1 被告は,原告に対し,220万円及びこれに対する平成24年8月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
1 本件は,原告が,被告に対し,日本テック株式会社(以下「日本テック」という。)及びその関係者による電話を通じた詐欺不法行為により,損害を被ったところ,被告外1名は前記詐欺行為を幇助したとして,不法行為に基づく損害の賠償及びその不法行為の日から支払済みまで民法所定の遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実
(1) 原告は,昭和27年○月○日生の男性である(弁論の全趣旨)。
(2) 被告は,電話回線を利用した各種事務連絡の取り次ぎサービス及びこれに附帯する一切の事業等を目的とする有限会社であり,平成26年4月15日,解散し,清算中の法人である(顕著な事実)。
(3) 原告は,平成24年8月24日,日本テックのBを名乗る者に対し,債券預り金として,200万円を支払った(甲7)。
3 争点は,被告が前記1の詐欺行為を幇助したかどうかであり,各当事者の主張は,以下のとおりである。
(原告の主張)
(1) みずほ証券のCを名乗る者(以下「C」という。)は,平成24年8月,本件各番号の一つから電話をかけ,原告の妻に対し,「日本テックの私募債を譲ってください。」「1.4倍から1.7倍の値段で買い取ります。」等と述べた。C又はその関係者は,同月20日頃,原告に対し,日本テックの資料を送付し,その頃,野村證券のDと名乗る者(以下「D」という。)は,本件各番号の一つから電話をかけ,原告の妻に対し,「日本テックの資料が届いていますか。」「届いていたら,代わりに購入してその私募債を譲ってほしい。」等と述べた。Cは,その後,電話により,原告の妻に対し,「あと何口応募できるかを日本テックに確認してほしい。」と述べ,原告の妻が,日本テックの電話番号とされる本件各番号の一つに電話をかけたところ,同社の従業員を名乗る者は,「現在41名が申し込んでおり,あと8名しか購入できません。」「購入するなら1人200万円以上でお願いしたい。」と述べた。
原告は,妻の説明を受け,日本テックの私募債を購入すれば,みずほ証券や野村證券が高値で買い取るものと信じ,前記私募債の購入の申込みをし,同月24日,日本テック従業員Bを名乗る者に対し,200万円を支払った。しかし,日本テックは実在しない架空の会社であり,前記私募債も架空のものであった。
よって,日本テック,C及びDは,架空の私募債購入の勧誘という詐欺の不法行為によって,原告に対し,前記200万円及び弁護士費用20万円の損害を与えた。
(2)ア 電話転送業者である被告は,E,F,Gとそれぞれ名乗る者(以下「本件各相手方ら」という。)に対して,本件各番号を提供した。しかし,これらの者は,架空の者であった。
イ(ア) 近時,電話転送業者の提供する電話転送サービスが詐欺行為に広く利用され,犯罪による収益の移転防止等に関する法律等においても,本人確認義務が定められている。よって,被告は,その提供する電話転送サービスが詐欺行為に利用されないよう厳格に本人確認をすべき注意義務を負っていた。
(イ) しかし,被告は,電話転送業者として必要とされる本人確認義務を怠り,本件各相手方らが提示した自動車運転免許証が偽造のものであることを看過して,本件各番号を提供したから,過失によって日本テックらの前記詐欺行為を幇助した。
(被告の主張)
前記(原告の主張)(1)は不知。
前記(原告の主張)(2)アは不知。同イ(ア)は認め,同イ(イ)は争う。
第3当裁判所の判断
1 認定事実
(1)ア Cは,平成24年8月,「みずほ証券のC」を名乗った上で,本件各番号の一つである03-○○○○-○○○○から原告に対して電話をかけ,原告の妻に対し,「日本テックの私募債を譲ってください。」「この私募債は49名だけが買うことができます。」「1.4倍から1.7倍の値段で買い取ります。」などと述べた。C又はその関係者は,同月20日頃,原告に対し,日本テックの資料を送付し,その頃,Dは,「野村證券のD」を名乗った上で,本件各番号の一つである03-△△△△-△△△△から原告に対して電話をかけ,原告の妻に対し,「日本テックの資料が届いていますか。」「届いていたら,代わりに購入してその私募債を譲ってほしい。」などと述べた。(甲2,3,弁論の全趣旨)
イ Cは,その後,電話により,原告の妻に対し,「あと何口応募できるかを日本テックに確認してほしい。」と述べ,原告の妻が,前記資料に日本テックの電話番号として記載された,本件各番号の一つである03-□□□□-□□□□に電話をかけたところ,同社の従業員を名乗る者は,「現在41名が申し込んでおり,あと8名しか購入できません。」「購入するなら1人200万円以上でお願いしたい。」と述べた。前記資料には,FAX番号として本件各番号の一つである03-●●●●-●●●●も記載されていた。(甲4,弁論の全趣旨)
ウ 原告は,その妻の説明を受け,日本テックの私募債を購入すれば,みずほ証券や野村證券が高値で買い取るものと信じ,前記私募債の購入の申込みをし,平成24年8月24日,日本テック従業員Bを名乗る人物に対し,200万円を支払った(甲5ないし7,弁論の全趣旨)。
エ 日本テックは架空の会社であり,前記私募債も架空のものであった(弁論の全趣旨)。
(2)ア 被告は,本件において詐欺行為に用いられた本件各番号を,株式会社アプリケーションから,株式会社D-styleを介在して提供され,これを本件各相手方らに対して,さらに提供した(甲8ないし25,弁論の全趣旨)。
イ 本件各相手方らが,被告から本件各番号の提供を受ける際に提示した自動車運転免許証は,すべて偽造のものであり,本件各相手方らは,E,F,Gを名乗る他人であった(甲26,27,弁論の全趣旨)。
ウ 被告は,本訴において,自動車運転免許証により,本件各番号の提供を受けた本件各相手方らの本人確認を行ったと主張するが,本人確認の方法等について,具体的に主張せず,また,何ら立証もしないまま,本件弁論期日に中途より出頭しなくなり,かつ,その代表者の所在も不明である(顕著な事実)。
2(1) 電話転送業者の提供する電話転送サービスが詐欺行為に利用されることが多いこと(公知の事実),犯罪による収益の移転防止に関する法律2条2項41号,4条1項1号及び同法別表が,電話転送業者が電話転送サービスを提供するに際して本人特定事項の確認義務を課していることによれば,電話転送業者は,平成24年8月当時,その提供するサービスが詐欺行為に利用されないよう慎重に本人確認をすべき注意義務を負っていたということができる。
(2) そこで,被告が前記注意義務を尽くしたかを検討すると,電話転送業者である被告が本件各番号を提供した本件各相手方らは,E,F,Gではなく,これらの者を名乗る他人であった(前記1(2)イ)。被告は,本件各相手方らの自動車運転免許証によりこれらの者の本人確認を行ったと主張するものの,その方法として対面によって本人確認をしたのかどうかは明らかでなく,その他本人確認の具体的方法は何ら明らかでなく(前記1(2)ウ),他に被告が適切に本人確認を尽くしたと認めるに足りる証拠もない。そして,被告は,その結果,本件各相手方らの自動車運転免許証が偽造のものであることを看過して,同人らに対し本件各番号を提供した(前記1(2)ア)。よって,本件において,被告が,本件各相手方らに対する本人確認義務を尽くさず,これを怠ったものというべきである。
(3) そして,前記2(1)の状況に照らせば,電話転送業者は,前記本人確認義務を怠った場合,提供した電話番号が詐欺行為に利用されることを予見することが可能であったというべきである。
(4) 原告は,被告が本件各相手方らの本人確認義務を怠ったことによって,本件各相手方らから詐欺行為を受け,200万円を騙取されたのであるから(前記1(1)),被告は,本件各相手方らの詐欺行為を,少なくとも過失によって幇助したものと認められる。
3 以上によれば,被告は,原告が詐欺行為によって騙取された損害金200万円及びその相当弁護士費用20万円について,詐欺行為者である本件各相手方らとともに共同不法行為に基づき賠償する責任を負う(民法719条2項,1項)。
第4結論
よって,原告の請求はすべて理由がある。
(裁判官 光本洋)