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さいたま地方裁判所 平成26年(ワ)1372号 判決 2015年5月12日

埼玉県<以下省略>

原告

同訴訟代理人弁護士

福村武雄

上原伸幸

井上光昭

仙台市<以下省略>

被告

Y1

東京都<以下省略>

被告

Y2

東京都<以下省略>

被告

Y3

東京都<以下省略>

被告

Y4

主文

1  被告Y1及び被告Y2は,原告に対し,連帯して,124万3976円及びうち115万円に対する平成26年2月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告Y3及び被告Y4は,原告に対し,連帯して,948万0205円及びうち880万円に対する平成26年3月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は,原告に生じた費用の10分の1と被告Y1及び被告Y2に生じた費用を被告Y1及び被告Y2の連帯負担とし,原告に生じた費用の10分の9と被告Y3及び被告Y4に生じた費用を被告Y3及び被告Y4の連帯負担とする。

4  この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求の趣旨

主文と同旨

第2事案の概要

本件は,原告が,①破産した株式会社コムネット(以下「コムネット」という。)が投資活動を行う意思も能力もなかったにもかかわらず,原告に対し,匿名組合契約の勧誘を行い,原告から現金を奪い取ったとして,コムネットの代表取締役であった被告Y1及び実質的な代表者であった被告Y2(以下,被告Y1及び被告Y2を併せて「被告Y1ら」という。)に対し,共同不法行為(民法719条1項,709条)及び会社役員の損害賠償責任(会社法429条1項)に基づき,連帯して,出資金相当損害金105万円及び弁護士費用相当損害金10万円の合計115万円並びにこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,②株式会社スターストーン(以下「スターストーン」という。)が宝石の売買契約と称して原告から現金を奪い取ったとして,スターストーンの代表取締役であった被告Y3(以下「被告Y3」という。)及びシンセイ・レンテルサポートの屋号で電話回線レンタル業を営んでいた被告Y4(以下「被告Y4」という。)に対し,共同不法行為(民法719条1項,709条)に基づき,更に被告Y3に対し,会社役員の損害賠償責任(会社法429条1項)に基づき,連帯して,支払金額相当損害金800万円及び弁護士費用相当損害金80万円の合計880万円並びにこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1  前提事実(証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  原告は,昭和15年○月○日生の一般消費者である(甲44)。

(2)  コムネットは,平成21年4月22日に設立された金融商品取引業等を目的とする会社であり,被告Y1は平成23年12月8日から平成24年3月1日に辞任するまでコムネットの代表取締役であった(甲1)。

(3)  スターストーンは,平成22年3月25日に設立された宝石等の製造,販売等を目的とする会社であり,被告Y3は,平成24年6月6日から代表取締役である(履歴事項全部証明書)。

2  原告の主張

(1)  被告Y1らに対する請求の原因

ア コムネットは,原告に対し,CN―3匿名組合契約(以下「本件匿名組合契約」という。)の勧誘を行った。

イ 原告は,平成24年2月頃,コムネットの従業員A(以下「A」という。)から,「国から認められている投資であり,銀行に預けることより儲かる」,「元本保証で配当が受けられる」などと言われて本件匿名組合契約の勧誘を受け,申込をして,同年3月19日,105万円をAに支払った。

ウ 本件匿名組合契約の内容は,コムネット又は売買システム提供会社から売買システムをレンタルして外国為替証拠金取引により投資運用を行い,それで得た利益を匿名組合員に配当するというものであった。

エ コムネットの破産管財人の報告によれば,コムネットにおいて投資活動を行った形跡はなく,コムネットの業務実態は高齢者を標的とした投資詐欺であった。

オ コムネットは,出資金によって投資活動を行う意思も能力もなかったにもかかわらず,原告に対して本件匿名組合契約を勧誘したものであり,詐欺行為に該当するから,不法行為責任を負う。

カ コムネットの違法行為は,その営業方針に由来するものであり,コムネットの経営に代表取締役として関与した被告Y1及び実質的代表者として関与した被告Y2はコムネットと共に共同不法行為責任を負う。

また,被告Y1はコムネットの元代表取締役であり,被告Y2はコムネットの実質的な代表者であった者であるから,コムネットの業務執行機関としてコムネットが違法な業務執行をしないよう監視する義務が存在するところ,被告Y1らは,故意又は重大な過失によりこれらの監督責任を果たさなかったから,会社法429条1項に基づき,原告が被った損害を賠償する責任を負う。

キ 原告の損害

出資金相当損害金 105万円

弁護士費用相当損害金 10万円

原告は,平成26年2月13日に,コムネットの破産手続における配当金1万5825円を受け取り,遅延損害金に充当した。充当計算の詳細は別紙1のとおりである。

(2)  被告Y3及び被告Y4に対する請求の原因

ア スターストーンの勧誘及び金員交付

別紙「スターストーンの勧誘等」のとおりであり,スターストーンが原告に持ちかけた契約内容及びその態様が極めて不合理である。

イ 原告はスターストーンのBから平成24年8月10日に金銭を返還すると伝えられていたが,スターストーンから原告に一切返金がなされなかった。スターストーンは当初から原告に金銭を返還する意思はなく,スターストーンの行為は詐欺行為に該当し,スターストーンは不法行為責任を負う。

ウ スターストーンのBが使用していた電話番号「0120-<省略>」,Cが使用していた電話番号「03-<省略>」「090-<省略>」は,複数の電話回線のレンタル業者を介した上で最終的な契約者であるD(以下「D」という。)との契約がなされていた。Dは係る電話番号の契約をしたことがなく,以前,街金業者に交付した免許証の写しが利用されたと考えるほかない。

エ 被告Y3の責任

スターストーンの違法行為は,その営業方針に由来するものであり,スターストーンの経営に代表取締役として関与した被告Y3はスターストーンと共に共同不法行為責任を負う。

また,被告Y3はスターストーンの代表取締役であるから,スターストーンの業務執行機関としてスターストーンが違法な業務執行をしないよう監視する義務が存在するところ,故意又は重大な過失によりこれらの監督責任を果たさなかったから,会社法429条1項に基づき,原告が被った損害を賠償する責任を負う。

オ 被告Y4の責任

被告Y4は,電話番号を提供する際には,厳密に本人確認を行うなど,詐欺行為等に利用されないようにする高度な注意義務を負っていた。しかし,本件では,被告Y4が本人確認義務を怠ったことは明らかであり,過失が存在する。具体的な被告Y4の注意義務違反の内容は,別紙「被告Y4の注意義務違反」記載のとおりである。

よって,被告Y4は,スターストーンの詐欺行為について,過失の幇助による不法行為責任を負う。

カ 原告の損害

支払金額相当損害金 800万円

弁護士費用相当損害金 80万円

原告は,平成26年2月13日に,Dの破産手続の配当金として2万5000円を受け取り,遅延損害金に充当した。充当計算の詳細は別紙2のとおりである。

3  被告Y1らの主張

(1)  原告主張の請求原因事実はいずれも否認して争う。

(2)  コムネットは未公開株を購入し,為替取引をする為にライブスター証券に口座を作った。

(3)  コムネットは,従業員に元本保証でないと指導していた。

(4)  故意を否認する。顧客と共存できる会社にしたいと考えていた。

(5)  コムネット破産管財人のE弁護士の指導の下,被告Y1らは,全財産を開示して生命保険を解約し,銀行預金も下ろして合計44万2960円を破産財団に入金し,できるだけの弁済をした。

4  被告Y3の主張

(1)  シンセイ・レンテルサポートとは一時的な携帯電話のレンタルのみでスターストーンの営業内容には一切関与していない。

(2)  スターストーンは原告にパンフレットを送り,原告からスターストーンの従業員Fが注文を受け,原告が要求してきた訪問販売にて商品の売買契約をしただけである。

(3)  Fはスターストーンの従業員であるが,C,B,G,Hに関しては不明である。

(4)  平成24年7月6日,同月18日及び同月24日の契約は認めるが,同年8月4日ないし同月10日の350万円の契約は否認する。

5  被告Y4の主張

被告Y4の行為が共同不法行為に該当するとの主張を争う。他の被告らのことは知らない。シンセイ・レンテルサポートという屋号で仕事をしていたが,平成25年末に退職した。

第3当裁判所の判断

1  被告Y1らに対する請求について

(1)  甲2ないし8,32,33,44によれば,第2の2(1)アないしキの請求原因事実が認められ,被告Y1らの共同不法行為責任及び会社役員の損害賠償責任を認めるのが相当である。

(2)  被告Y1らの主張について

ア 被告Y1らは,コムネットが未公開株式を購入したと主張するが,甲32(破産管財人の報告書写し等)によれば,コムネットの唯一の投資活動の類として,時価約42万円(破産管財人による換価価格)の未公開株式を氏名,素性不詳の者から契約書等を交わさぬまま1085万円(簿価は885万円)で購入した行為が窺われるものの,正常な投資活動がなされた形跡が認められないから,上記主張をもって被告Y1らの責任の判断は左右されない。また,コムネットが為替取引をする為にライブスター証券に口座を作ったとしても,それだけでは正常な投資取引をしたとは認められない。

イ 被告Y1らは,コムネットは,従業員に元本保証でないと指導していたと主張する。しかし,甲32によれば,コムネットの勧誘対象が63歳から92歳の高齢者(平均年齢76.4歳)で,「確実に利益が上がる。」「元本確保型」等の文言で不正な勧誘をしていたことが認められるから,被告Y1らの上記主張は採用することができない。

また,被告Y1らは故意を否認するが,コムネットの上記不正勧誘の態様から,コムネットの実質的な代表者であった被告Y2の故意があったと推認される。被告Y1は,甲2及び32によれば,コムネットの経営に関与していなかったと認められるが,重過失があったと推認するのが相当である。

ウ 被告Y1らは,コムネット破産管財人のE弁護士の指導の下,合計44万2960円を破産財団に入金し,できるだけの弁済をしたと主張し,甲2,32及び被告Y1らの答弁書添付の預金通帳の写しによれば,同主張が一定程度裏付けられる。しかし,被告Y1らが上記金額の個人財産をコムネットの破産財団に入金したことをもって被告Y1らの損害賠償責任が免除又は軽減される理由があるとはいえない。

2  被告Y3及び被告Y4に対する請求について

(1)  甲9ないし31,41ないし44によれば,第2の2(2)のアないしカ記載の請求原因事実が認められる。

(2)  被告Y3の主張について

被告Y3は,C,B,G,Hに関しては不明であると主張し,スターストーンとの関係を否定するが,甲44によれば,これらを名乗る者がスターストーンの詐欺行為に加担したと認められる。

また,被告Y3は,平成24年8月4日ないし同月10日の350万円の契約を否認するが,甲10,17,44によれば,原告が平成24年8月2日までに現金350万円を用意し,同月4日にスターストーンの従業員と名乗る者に350万円を交付した事実が認められる。

(3)  被告Y4の共同不法行為責任について

被告Y4は,他の被告らのことは知らないと主張し,共同不法行為責任を争う。

しかし,被告Y4は,シンセイ・レンテルサポートの名義で電話回線レンタル業を営んでいたところ,D名義で契約した電話がスターストーンの詐欺行為に使用されたことが認められる。そして,被告Y4がD名義の契約の際,電話回線レンタル業者に課せられた本人確認義務を怠ったことが認められるから,被告Y4には過失がある。本人確認を怠った電話回線が本件のような詐欺行為に利用されることは容易に予見できることである。

そうすると,被告Y4は,スターストーンの原告に対する不法行為について,過失により加担したものとして共同不法行為責任を負うと認めるのが相当である。

3  よって,原告の本件請求にはいずれも理由があるから,請求の趣旨の限度でこれを認容することとし,主文のとおり判決する。

(裁判官 野村高弘)

<以下省略>

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