大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

さいたま地方裁判所 平成26年(ワ)444号 判決 2015年5月11日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は、原告に対し、4970万7264円及びこれに対する平成26年1月21日から支払済みまで年6分による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は、原告が、有限会社a(以下「訴外会社」という。)に対する貸付けに係る債務について、被告が信用保証をしたとして、信用保証契約に基づき、被告に対し、保証債務の履行として、主たる債務の額に利息及び最終履行期限後120日以内の延滞利息の額を加えた合計4970万7264円及びこれに対する履行を請求した日の翌日である平成26年1月21日から支払済みまで商事法定利率年6分による遅延損害金の支払を求める事案である。

1  前提事実(当事者間に争いのない事実)

(1)  当事者

株式会社b銀行は、平成3年4月に株式会社c銀行と合併して株式会社b1銀行となり、平成4年9月に商号を株式会社b2銀行に変更した。原告は、資金の貸付け等の銀行業務を行うことを目的とし、株式会社dホールディングスの子会社として平成14年8月に設立された会社であり、株式会社b2銀行は、平成15年3月、会社分割により埼玉県に関する営業を原告に承継させた。

被告は、中小企業者等のために信用保証の業務を行うことなどを目的として、信用保証協会法に基づき設立された法人である。

(2)  被告との約定書の取り交わし

株式会社b銀行は、昭和38年10月15日、被告との間で、信用保証協会法20条に基づく保証契約について約定書(甲2)を取り交わした。上記約定書には、被告は、被保証債権について債務者が最終履行期限(期限の利益喪失の日を含む。)後90日を経てなおその債務の全部又は一部を履行しなかったときは、同銀行の請求により、同銀行に対し保証債務の履行をするものとし、被告の保証債務の履行の範囲は、主たる債務に利息及び最終履行期限後120日以内の延滞利息を加えた額を限度とし、延滞利息は、貸付利息と同率とするとの約定(6条)、同銀行は、最終履行期限後2年を経過した後は、被告に対し保証債務の履行を請求することができないとの約定(7条)が記載されている。

(3)  訴外会社との銀行取引約定書の取り交わし

原告は、平成18年5月10日、訴外会社との間で、銀行取引約定書(甲3)を取り交わした。上記約定書には、訴外会社は、原告に対する債務の一部でも履行を遅滞したときは、原告の請求により、一切の債務の期限の利益を喪失するとの約定(5条②の1)が記載されている。

(4)  訴外会社に対する貸付けと被告による信用保証

ア 平成18年5月10日における3000万円の貸付けと信用保証

(ア) 貸付けと信用保証

a 原告は、平成18年5月10日、訴外会社に対し、次の約定で3000万円を貸し付けた(以下「本件貸付1」という。)。

(a) 元本は、同年6月から平成25年4月まで毎月10日限り41万7000円ずつを支払い、最終弁済期日の同年5月9日に39万3000円を支払う。

(b) 利息は、年1.5%(年365日の日割計算)とし、平成18年5月10日に同年6月10日までの分を支払い、以後、毎月10日に1か月分を前払いし、最終利払日の平成25年4月10日に同年5月9日までの分を前払いする。

(c) 遅延損害金は、年14%(年365日の日割計算)とする。

b 被告は、平成18年4月27日、原告に対し、本件貸付1に係る訴外会社の原告に対する債務を信用保証し、被告が作成した同日付信用保証書(甲4の2)を交付した。

(イ) 1回目の支払方法の変更

a 原告は、平成21年3月9日、訴外会社との間で、同日における残元金2230万5000円の返済方法について、同月から平成22年2月まで毎月10日限り6万3000円ずつ、同年3月から平成25年4月まで毎月10日限り55万3000円ずつ、最終弁済期日の同年5月9日に53万5000円を支払うことに変更する旨の合意をした。

b 被告は、平成21年2月19日、原告に対し、aの変更を承認し、これを反映した信用保証書(変更)(甲8の2)を交付した。

(ウ) 2回目の支払方法の変更

a 原告は、平成22年3月11日、訴外会社との間で、同日における残元金2154万9000円の返済方法について、同月から平成23年4月まで毎月20日限り6万3000円ずつ、同年5月から平成25年4月まで毎月20日限り83万円ずつ、最終弁済期日の同年5月9日に74万7000円を支払うことに変更する旨の合意をした。

b 被告は、平成22年2月18日、原告に対し、aの変更を承認し、これを反映した信用保証書(変更)(甲11の2)を交付した。

(エ) 3回目の支払方法の変更

a 原告は、平成23年5月16日、訴外会社との間で、同日における残元金2066万7000円の返済方法について、同月から平成24年4月まで毎月20日限り2万8000円ずつ、同年5月から平成25年4月まで毎月20日限り156万5000円ずつ、最終弁済期日の同年5月9日に155万1000円を支払うことに変更する旨の合意をした。

b 被告は、平成23年4月14日、原告に対し、aの変更を承認し、これを反映した信用保証書(変更)(甲14の2)を交付した。

(オ) 4回目の支払方法の変更

a 原告は、平成24年5月18日、訴外会社との間で、同日における残元金2033万1000円の返済方法について、同月から平成25年4月まで毎月20日限り1万円ずつ、最終弁済期日の同年5月9日に2021万1000円を支払うことに変更する旨の合意をした。

b 被告は、平成24年5月1日、原告に対し、aの変更を承認し、これを反映した信用保証書(変更)(甲17の2)を交付した。

イ 平成18年5月10日における1400万円の貸付けと信用保証

(ア) 貸付けと信用保証

a 原告は、平成18年5月10日、訴外会社に対し、次の約定で1400万円を貸し付けた(以下「本件貸付2」という。)。

(a) 元本は、同年6月から平成23年4月まで毎月10日限り23万4000円ずつを支払い、最終弁済期日の同年5月9日に19万4000円を支払う。

(b) 利息は、年2.125%(年365日の日割計算)とするが、短期プライムレートを基準として、その変動幅と同一幅で引き上げ又は引き下げることとし、平成18年5月10日に同年6月10日までの分を支払い、以後、毎月10日に1か月分を前払いし、最終利払日の平成23年4月10日に同年5月9日までの分を前払いする。

(c) 遅延損害金は、年14%(年365日の日割計算)とする。

b 被告は、平成18年4月27日、原告に対し、本件貸付2に係る訴外会社の原告に対する債務を信用保証し、被告が作成した同日付信用保証書(甲5の4)を交付した。

(イ) 1回目の支払方法の変更

a 原告は、平成21年3月9日、訴外会社との間で、同日における残元金692万3000円の返済方法について、同月から平成22年2月まで毎月10日限り1万9000円ずつ、同年3月から平成23年4月まで毎月10日限り44万7000円ずつ、最終弁済期日の同年5月9日に43万7000円を支払うことに変更する旨の合意をした。

b 被告は、平成21年2月19日、原告に対し、aの変更を承認し、これを反映した信用保証書(変更)(甲9の2)を交付した。

(ウ) 2回目の支払方法の変更

a 原告は、平成22年3月11日、訴外会社との間で、同日における残元金669万5000円の返済方法について、同月から平成23年4月まで毎月20日限り1万9000円ずつ、最終弁済期日の同年5月9日に642万9000円を支払うことに変更する旨の合意をした。

b 被告は、平成22年2月18日、原告に対し、aの変更を承認し、これを反映した信用保証書(変更)(甲12の2)を交付した。

(エ) 3回目の支払方法の変更

a 原告は、平成23年5月16日、訴外会社との間で、同日における残元金642万9000円の返済方法について、同月から平成24年4月まで毎月20日限り10万円ずつ、最終弁済期日の同年5月9日に522万9000円を支払うことに変更する旨の合意をした。

b 被告は、平成23年4月14日、原告に対し、aの変更を承認し、これを反映した信用保証書(変更)(甲15の2)を交付した。

(オ) 4回目の支払方法の変更

a 原告は、平成24年5月18日、訴外会社との間で、同日における残元金522万9000円の返済方法について、同月から平成25年4月まで毎月20日限り10万円ずつ、最終弁済期日の同年5月9日に402万9000円を支払うことに変更する旨の合意をした。

b 被告は、平成24年5月1日、原告に対し、aの変更を承認し、これを反映した信用保証書(変更)(甲18の2)を交付した。

ウ 平成20年2月29日における3000万円の貸付けと信用保証

(ア) 貸付けと信用保証

a 原告は、平成20年2月29日、訴外会社に対し、次の約定で3000万円を貸し付けた(以下「本件貸付3」といい、本件貸付1及び同2と併せて、「本件各貸付」という。)。

(a) 元本は、同年4月から平成27年2月まで毎月10日限り35万7000円ずつを支払い、最終弁済期日の同月28日に36万9000円を支払う。

(b) 利息は、年1.5%(年365日の日割計算)とし、平成20年2月29日に同年4月10日までの分を支払い、以後、毎月10日に1か月分を前払いし、最終利払日の平成27年2月10日に同月28日までの分を前払いする。

(c) 遅延損害金は、年14%(年365日の日割計算)とする。

b 被告は、平成20年2月25日、原告に対し、本件貸付3に係る訴外会社の原告に対する債務を信用保証し、被告が作成した同日付信用保証書(甲7の2)を交付した。

(イ) 1回目の支払方法の変更

a 原告は、平成21年3月9日、訴外会社との間で、同日における残元金2691万6000円の返済方法について、同月から平成22年2月まで毎月10日限り7万6000円ずつ、同年3月から平成27年2月まで毎月10日限り42万7000円ずつ、最終弁済期日の同月28日に38万4000円を支払うことに変更する旨の合意をした。

b 被告は、平成21年2月19日、原告に対し、aの変更を承認し、これを反映した信用保証書(変更)(甲10の2)を交付した。

(ウ) 2回目の支払方法の変更

a 原告は、平成22年3月11日、訴外会社との間で、同日における残元金2600万4000円の返済方法について、同月から平成23年4月まで毎月20日限り7万6000円ずつ、同年5月から平成27年1月まで毎月20日限り55万円ずつ、最終弁済期日の同年2月28日に19万円を支払うことに変更する旨の合意をした。

b 被告は、平成22年2月18日、原告に対し、aの変更を承認し、これを反映した信用保証書(変更)(甲13の2)を交付した。

(エ) 3回目の支払方法の変更

a 原告は、平成23年5月16日、訴外会社との間で、同日における残元金2494万円の返済方法について、同月から平成24年4月まで毎月20日限り3万円ずつ、同年5月から平成27年1月まで毎月20日限り72万5000円ずつ、最終弁済期日の同年2月28日に65万5000円を支払うことに変更する旨の合意をした。

b 被告は、平成23年4月14日、原告に対し、aの変更を承認し、これを反映した信用保証書(変更)(甲16の2)を交付した。

(オ) 4回目の支払方法の変更

a 原告は、平成24年5月18日、訴外会社との間で、同日における残元金2458万円の返済方法について、同月から平成25年4月まで毎月20日限り1万円ずつ、同年5月から平成27年2月まで毎月20日限り106万3000円ずつ、最終弁済期日の同月28日に107万4000円を支払うことに変更する旨の合意をした。

b 被告は、平成24年5月1日、原告に対し、aの変更を承認し、これを反映した信用保証書(変更)(甲19の2)を交付した。

(5)  期限の利益の喪失

原告は、本件各貸付について、訴外会社が平成25年1月分以降の元金の分割金及び同月21日以降の利息の支払をしなかったので、同年5月31日、訴外会社に対し、同日までに延滞元金、利息及び遅延損害金の支払がないときは、期限の利益を喪失させる旨を通知したが、訴外会社は、その支払をしなかった。

(6)  保証債務の履行の請求

原告は、本件各貸付について、訴外会社が期限の利益を喪失した日の後90日を経ても、その債務を履行しなかったので、平成26年1月20日、保証債務の履行を請求した。被告は、平成26年1月27日頃、原告に対し、警察により、訴外会社が暴力団関係企業(フロント企業)であると確認され、又、Aが指定暴力団e組系組幹部の暴力団員で、同人が訴外会社を支配していることが判明したとして、本件各貸付に係る信用保証は、錯誤無効又は保証条件違反として免責となることが明らかであり、原告の請求には応じられない旨回答した。

(7)  保証債務の履行の範囲

前記(2)の約定書に基づく被告の保証債務の履行の範囲は、本件貸付1が残元金2025万1000円、利息及び延滞利息20万8057円であり、本件貸付2が残元金442万9000円、利息及び延滞利息6万7496円であり、本件貸付3が残元金2450万円、利息及び延滞利息25万1711円である。

2  争点及びこれに関する当事者の主張

(1)  錯誤

ア 被告

(ア) Aは、本件各貸付に係る信用保証(以下、これらを併せて「本件各保証」という。)の当時、指定暴力団e組系組幹部の暴力団員であり、訴外会社は、暴力団関係企業(フロント企業)であったが、被告は、このことを知らなかった。

(イ) 平成3年5月に「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」が制定され、それ以降、原告をはじめとする金融機関は、反社会的勢力関連企業に対する融資を行わず、そのような実務運用が確立していたのであり、公的資金を扱い、公正かつ公明性を求められる信用保証協会も、その保証をすることはなかったのであって、このことは信用保証の当然の前提として金融機関に十分に認識されていたから、被告は、本件各保証に際し、原告に対し、訴外会社が反社会的勢力関連企業でないから保証をするということを、明示又は黙示に表明していたものである。

イ 原告

(ア) Aが本件各保証当時暴力団員であったか否かは明らかでなく、訴外会社が暴力団関係企業であったか否かも分からない。

(イ) 金融機関が反社会的勢力関連企業に対する融資を拒絶するという実務運用は確立していたが、信用保証協会については、平成20年6月20日に「信用保証協会向けの総合的な監督指針」が策定され、これによって、ようやく、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)の趣旨が反映された。そうであるから、仮に被告が本件各保証当時反社会的勢力関連企業に対する融資の保証を拒絶するという運用をしていたとしても、原告がこのことを十分に認識していたとはいえない。

(2)  除斥期間

ア 被告

本件貸付2の当初の最終履行期限は平成23年5月9日であり、その後、平成23年5月16日にそれを平成24年5月9日に、同月18日にそれを平成25年5月9日にそれぞれ変更し、被告はその都度これを承認したが、この承認は、訴外会社が暴力団関係企業であることを知らずにしたものであるから、無効であり、被告に対する関係では、本件貸付2の最終履行期限は平成23年5月9日のままである。そして、その日から原告が被告に対し保証債務の履行を請求した平成26年1月20日までに、既に2年を経過した。

イ 原告

被告が原告に対し、訴外会社が反社会的勢力関連企業でないから最終履行期限の変更を承認をするということを明示又は黙示に表明したとはいえないし、原告と訴外会社が最終履行期限の変更をしているのであるから、保証債務の附従性により、その効果は被告に対しても及ぶ。

第3当裁判所の判断

1  まず、訴外会社の属性についてみる。

証拠(甲32、39、乙4の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば、訴外会社は、鳶工事業、土木建築工事業等を行うことを目的として、昭和52年11月10日に設立された株式会社であり、Aは、訴外会社の発行済株式の全部を保有し、平成13年11月12日にその代表取締役に就任したが、平成19年9月20日退任し、その妻であるBが同日代表取締役に就任したこと、Aは、平成24年10月当時、指定暴力団e組系組幹部の暴力団員であったことが認められる。

上記認定の事実によれば、Aは、本件各保証当時、すでに暴力団の構成員であったもので、訴外会社は、暴力団の構成員であるAが、その発行済株式の全部を保有し、かつ、代表取締役としてこれを経営し、同人が退任した後も、同人が、その発行済株式の全部を保有し、かつ、その妻を代表取締役に就任させてなおその経営に関与していたものということができる。そうであるから、訴外会社は、本件各保証当時、反社会的勢力関連企業であったと認められる。

2  次に、本件各保証における被告の意思表示に要素の錯誤があるか否かについてみる。

(1)  証拠(甲26の1、32、33ないし35の各1・2、36、49、乙6ないし9、)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 本件各保証に至るまでの反社会的勢力に対する取組みの推移

(ア) 平成3年5月15日、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」が制定された。

(イ) 平成3年8月28日付警察庁刑事局長の「金融及び証券取引等における暴力団の介入排除について」と題する大蔵省銀行局長宛書簡により、金融及び証券取引等における暴力団の介入排除に向けて、暴力団に対する融資などその資金活動を助長するような態様の取引の自粛、暴力団排除組織の結成、警察の暴力団対策への協力などについて、各金融、証券団体代表者宛要請することを知らせるとともに協力を要請し、同日付の大蔵省銀行局長の「金融取引における暴力団の介入排除について」と題する全国銀行協会連合会会長宛書簡により、暴力団の介入排除のための必要な諸措置等についての実施と体制整備に努めるよう参加金融機関に対する周知徹底を要請した。

(ウ) 平成9年9月、全国銀行協会連合会は、倫理綱領として倫理憲章を制定し、その中で、「市民社会の秩序や安全に脅威を与える反社会的勢力とは、断固として対決する。」とし、反社会的勢力の不当な介入は、長年にわたって築き上げられてきた銀行の信用の崩壊に直結し、経済活動の様々な局面にかかわる銀行にとっては、こうした不当な介入を排除することなくして、より健全な経済、社会の発展に寄与することはできないと解説している。

(エ) 平成11年7月1日付金融監督庁検査部長の「預金等受入金融機関に係る検査マニュアルについて」と題する書簡を発出し、検査官が金融機関を検査する際に用いる手引書として位置づけられる金融検査マニュアルにおいて、法令等遵守に係る基本方針及び遵守基準の存在チェックの説明として、「反社会的勢力等への対応については、警察等関係機関等とも連携して、断固として姿勢で臨んでいるか。」が掲げられ、審査管理部門の役割の説明として、確立されるべき健全な融資態度の一つに「反社会的勢力に対する資金供給の拒絶」が掲げられている。

(オ) 平成12年9月14日付警察庁暴力団対策部長の「暴力団排除等のための部外への情報提供について」と題する書簡により、一定の場合に暴力団情報を部外へ提供することによって、社会から暴力団を排除するという暴力団対策の本来の目的に活用するために、その基本的な考え方、情報提供の基準や方式等が定められた。

(カ) 平成16年10月25日付警察庁次長の「組織的犯罪対策要綱の制定について」と題する依命通達により、暴力団の資金獲得活動に効果的に打撃を与えるために、暴力団関係企業等については、事件検挙のみならず、各種業、取引からの排除を徹底するなど、様々な手法を駆使して暴力団の資金剥奪に努めることとされた。

イ 本件各貸付の経緯

(ア) Aは、平成18年3月頃、原告のf支店を訪れて、訴外外車の運転資金の借入れについて、原告のビジネスローンセンター融資アドバイザーに相談した。融資アドバイザーは、その後、複数回にわたり、訴外会社の事務所やAの自宅を訪問し、また、訴外会社から商業登記簿履歴事項全部証明書(甲32)、訴外会社及びAの各印鑑証明書(甲33の1・2)、納税証明書(甲34の1・2)、平成15年4月1日ないし平成16年3月31日及び同年4月1日ないし平成16年3月31日の各事業年度の確定申告書(甲35の1・2)や一般建設業の許可に係る埼玉県知事の通知書(甲36)等の提出を受けて調査し、さらに、原告のビジネスローン業務センターにAら訴外会社の役員が反社会的勢力その他の注意先として登録されているか確認を依頼したが、これらからは、訴外会社が反社会的勢力関連企業であると認められなかった。

(イ) 本件各保証は、訴外会社が原告に対し融資を申し込み、訴外会社の担保力や信用が所要借入金額に比して不足するものの、信用保証協会の保証が得られれば融資が可能であると原告が判断した場合に、原告が被告に対し信用保証を依頼する、といういわゆる経由保証であった。

経由保証の場合、被告は、金融機関から受領した書類を審査した上、反社会的勢力関連企業に関する情報を含め、申込人や連帯保証人に信用保証に問題となる不都合事由があるか否かを、顧客情報データベースにより確認し、さらに、必要に応じて、反社会的勢力関連企業に関する情報当の有無を照会したり、調査したりしていた。被告は、本件においても、同様に、原告から受領した書類を審査し、顧客情報データベースにより確認したものであり、訴外会社やAに不審な点が認められなかったことから、本件各保証をするに至った。

(2)  上記(1)認定の事実によれば、原告は、本件各貸付当時、反社会的勢力関連企業に対し融資をしないとの運用をしており、融資の申込みがあった場合、申込者やその関係者が反社会的勢力その他の注意先であるか否かを調査して、申込者やその関係者が反社会的勢力その他の注意先でないと認めたときに限って融資をしていることが認められるから、原告は、本件において、訴外会社が反社会的勢力関連企業でないと認めて、本件各貸付をしたものである。

また、上記(1)認定の事実によれば、被告も、本件各保証当時、反社会的勢力関連企業に対する融資の保証をしないとの運用をしていて、信用保証の依頼があった場合、融資の申込者やその関係者が反社会的勢力その他の注意先であるか否かを調査して、申込者やその関係者が反社会的勢力その他の注意先でないと認めたときに限って信用保証をしていることが認められるから、被告は、本件において、訴外会社が反社会的勢力関連企業でないと認めて、本件各保証をしたものであり、原告は、このことを認識していたと認められる。なお、原告は、金融機関が反社会的勢力関連企業に対する融資を拒絶するという実務運用は確立していたが、信用保証協会については、平成20年6月20日に「信用保証協会向けの総合的な監督指針」が策定され、これによって、ようやく、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)の趣旨が反映されたから、仮に被告が本件各保証当時反社会的勢力関連企業に対する融資の保証を拒絶するという運用をしていたとしても、原告がこのことを十分に認識していたとはいえないと主張するが、平成20年6月20日の「信用保証協会向けの総合的な監督指針」の策定によって、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)の趣旨が反映されたものであるとしても、このことから、直ちに、被告が平成20年6月20日以降に、初めて反社会的勢力関連企業に対する融資の保証をしないとの運用を開始したということにはならないし、金融機関が反社会的勢力関連企業に対する融資を拒絶するという運用は確立していたとしながら、信用保証協会については、平成20年6月20日の「信用保証協会向けの総合的な監督指針」の策定まで、反社会的勢力関連企業に対する融資の保証を拒絶するという運用をしていなかったと考えることの合理性も、一般に見いだし難いのであって、原告の上記主張は、採用することができない。

(3)  そうすると、原告及び被告は、本件各保証当時、いずれも、訴外会社が反社会的勢力関連企業であるか否かについて強い関心を有していたのであり、原告は、反社会的勢力関連企業に対して融資をせず、その結果として、被告に対し信用保証の依頼をすることはないのであり、被告も、反社会的勢力関連企業に対する融資の保証をしなかったものであって、原告及び被告は、反社会的勢力関連企業との取引をしないという共通の認識を有していたということができる。原告及び被告は、本件において、訴外会社が反社会的勢力関連企業でないという共通の理解の下に本件各保証に至ったものであり、被告は、本件各保証の際に、その動機の一つとして、訴外会社が反社会的勢力関連企業ではないことを黙示に表明していたものと認められる。

そして、被告は、訴外会社が反社会的勢力関連企業であることを知っていたならば、本件各保証をすることはなかったと認められ、反社会的勢力関連企業を主たる債務者とする保証をしないことは、本件各保証当時の取引通念に照らして、相当であると認められる。

(4)  したがって、本件各保証における被告の意思表示は、その要素に錯誤があるから無効であり、本件各保証は無効になる。そうであるから、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

3  よって、原告の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 髙野輝久)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例