さいたま地方裁判所 平成27年(ワ)2176号 判決 2016年2月26日
埼玉県<以下省略>
原告
X
同訴訟代理人弁護士
上原伸幸
福岡市<以下省略>
被告
株式会社TOMATO JAPAN
同代表者代表取締役
A
主文
1 被告は,原告に対し,660万円及びこれに対する平成27年10月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2当事者の主張
1 請求原因
(1) 当事者
ア 原告は,昭和16年○月○日生まれの女性である。
イ 被告は,平成7年3月10日に設立された会社であり,電話機器,事務機器及び通信機器のレンタル及び販売等を目的としている。
(2) 詐欺行為
ア 平成24年4月頃,原告の自宅に「越和のB」を名乗る人物(以下「B」という。)から頻繁に電話がかかってきた。Bの電話番号は,「03-○○○○-○○○○」(以下,この電話番号を単に「○○○○」という。)等であった。
Bは,原告に対し,株式会社FDトレーディング(以下「FDトレーディング」という。)から1000アフガニ(アフガン通貨)を一口15万円で購入してくれれば,これを36万円で買い取るなどと申し向けた。原告は,Bの説明を信じ,FDトレーディングのパンフレットに記載された電話番号「03-△△△△-△△△△」(以下,この電話番号を単に「△△△△」といい,○○○○と併せて「本件各電話番号」という。)に電話して,アフガン通貨の購入を申し込み,平成24年4月27日から同年5月2日かけて,4回にわたり合計600万円をFDトレーディングの口座に宛てて送金した。
しかし,1000アフガニは,実際には,1587円程度の価値しかなく,かつアフガン通貨は換金が困難なものであったのであり,Bは,FDトレーディングと共謀の上,アフガン通貨を買い取る意思も能力もなかったにもかかわらず,これがあるかのように装い,原告から600万円を騙し取ったものである。
イ 原告は,Bらの詐欺行為により,上記600万円及び弁護士費用60万円の各損害を被った。
(3) 被告の幇助行為
ア 電話転送業者である被告は,平成24年2月,○○○○をC(以下「C」という。)と称する人物に,△△△△をD(以下「D」という。)と称する人物にそれぞれレンタルした。
しかし,C及びDは,実際には,本件各電話番号のレンタルを受けておらず,名義を使用されただけであった。
イ 上記レンタル当時,電話転送業者の提供する電話転送サービスが詐欺行為に利用されることが社会問題化しており,犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯罪収益移転防止法」という。)は,電話転送業者に対し,厳格な本人確認義務を罰則付きで課していた。したがって,被告は,その提供する電話転送サービスが詐欺行為に利用されないよう厳格に本人確認をすべき注意義務を負っていた。
それにもかかわらず,被告は,電話転送業者として必要とされる本人確認義務を尽くさなかった。
したがって,被告は,過失によってBらの詐欺行為を幇助したということができる。
(4) よって,原告は,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,660万円及びこれに対する不法行為後の日(訴状送達の日の翌日)である平成27年10月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否
被告は,本件各口頭弁論期日に出頭しなかったが,陳述擬制された答弁書によれば,請求原因に対する認否は,次のとおりである。
(1) 請求原因(1)アについては,争うことを明らかにしない。
同(1)イは認める。
(2) 請求原因(2)ア及びイは,いずれも知らない。
(3) 請求原因(3)アのうち,本件各電話番号をレンタルしたことは認めるが,その余の事実は否認する。被告は,C及びDに対して本件各電話番号をレンタルしたものであり,本人確認も十分にしている。
同(3)イは,否認又は争う。
第3当裁判所の判断
1 請求原因(1)アは,被告において争うことを明らかにしないことから,これを自白したものとみなす。
同(1)イは,当事者間に争いがない。
2 請求原因(2)ア及びイは,証拠(甲1~4)及び弁論の全趣旨により,これを認める。
3 請求原因(3)について判断する。
(1) 証拠(甲20~22)及び弁論の全趣旨によれば,平成21年の警察白書において,電話転送業者の提供する電話転送サービスが詐欺行為に利用されているところ,電話転送業者によるサービス利用者の本人確認が徹底されていないことが多いことが指摘されていること,国家公安委員会・警察庁の「規制の事前評価書」において,平成21年中における警察による振り込め詐欺の検挙件数の約4割について,電話転送サービスが利用されていることが判明している旨の指摘がされていること,犯罪収益移転防止法が平成23年に改正され,電話転送業者など犯罪行為に利用されやすいツールを提供する者について本人確認義務を課していること,被告と同様に電話転送業を営むアジルネットワークス株式会社は,平成23年4月,代理店及び再販業者に対し,電話転送サービスが詐欺行為に利用されるケースが少なくなく,平成22年に警察が検挙した振り込め詐欺のうち電話転送サービスが利用されたものが39%に及んでいるなどとして,本人確認を徹底するよう促していることなどが認められ,これによれば,平成24年2月当時,電話転送業者は,その提供するサービスが詐欺行為により利用されないよう慎重に本人確認をすべき注意義務を負っていたということができる。
(2) そこで,被告が上記注意義務を尽くしたかについて検討すると,証拠(甲6~15)及び弁論の全趣旨によれば,電話転送業者である被告が本件各電話番号をレンタルした相手方は,C及びDではなく,これらの者を騙った人物であったこと,被告は,運転免許証により,これらの者の本人確認を行ったとしているものの,対面により本人確認を行っておらず,いわゆる「なりすまし」の危険が高い状況にあったばかりか,レンタル契約兼同意書に添付されているC及びDの顔写真は黒ずんでおり,上記運転免許証は写しの写しである疑いが濃かったこと,それにもかかわらず,被告は,本人確認のためにその住所地に取引関係文書を転送不要郵便で送付することをしていないこと,また,申込書に記載のあったCの電話番号は,別人のものであったのであり,被告は,電話により本人確認をすることもしていないことなどが認められ,これらの事実に照らせば,被告は,C及びDに対する本人確認義務を尽くしたということはできない。
そして,上述した平成24年当時の社会状況に照らせば,電話転送業者は,このように本人確認義務を怠った場合,レンタルした電話番号が詐欺行為に利用されることを予見することが可能であったというべきである。
(3) 以上によれば,被告は,Bらの詐欺行為を過失により幇助したものというのが相当である。
4 以上の次第で,原告の請求は理由がある。
(裁判官 志田原信三)