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さいたま地方裁判所川越支部 平成13年(ワ)341A号 判決 2003年6月30日

原告

X1

(ほか19名)

上記20名訴訟代理人弁護士

大久保賢一

佐々木新一

中山福二

杉村茂

牧野丘

伊藤明生

神田雅道

山崎徹

野本夏生

鍜治伸明

田中一郎

齋田求

被告

株式会社所沢中央自動車教習所

上記代表者代表取締役

上記訴訟代理人弁護士

小田切登

塚越敏夫

主文

1  原告らが被告の従業員としての地位を有することを確認する。

2  被告は,別紙平成12年12月7日支払分未払給与目録記載の各原告に対し,これに対応する同目録未払給与額欄記載の各金員を支払え。

3  被告は,別紙月例給与目録記載の各原告に対し,平成13年1月から本判決確定に至るまで毎月7日限り,同目録の各原告に対応する給与支払額欄記載の各金員を支払え。

4  原告らの請求中,本判決確定日の翌日から毎月7日限り,前項記載の各金員の支払を求める部分を却下する。

5  原告らのその余の請求を棄却する。

6  訴訟費用は被告の負担とする。

7  この判決の2項及び3項は,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1求めた裁判

1  原告ら

(1)  主文1項と同旨

(2)  被告は別紙月例給与目録記載の各原告に対し,平成12年12月から毎月7日限り,同目録の各原告に対応する給与支払額欄記載の各金員を支払え。

(3)  (2)につき仮執行宣言

2  被告

(1)  本案前

原告らの請求を却下する。

(2)  本案

原告らの請求をいずれも棄却する。

第2事案の概要

1  本件は,被告から解雇処分を受けた原告らが,同処分が無効であるとして,雇用契約上の従業員の地位にあることの確認及び同契約に基づいて,賃金の支払を求めた事案である。

2  争いのない事実及び証拠等により容易に認定できる事実(括弧内は容易に認定できる事実に関する証拠等である。)

(1)  当事者等

ア 被告は,埼玉県公安委員会指定の自動車教習所として,自動車の運転に関する技能及び法令並びに自動車の構造及び取扱方法についての教習を行うことなどを目的とする株式会社であり,本店所在地(肩書住所地)に埼玉県公安委員会指定の自動車教習所「所沢中央自動車教習所」(以下「本件教習所」という。)を有している。

イ 原告らは,別紙入社日及び資格一覧表に各記載のとおり,被告に入社し,同表に各記載のとおり検定員又は教習指導員の資格(以下,両者を「教習指導員等」という。)を有していた。原告らはいずれも自交総連・東京地方連合会東京自動車教習所労働組合株式会社所沢中央自動車教習所支部(以下「組合」という。)の組合員である。

(2)  被告及び所沢中央自動車工業株式会社(以下「被告ら」という。)は,岡山市内に本店を有する株式会社勝英自動車学校(以下「勝英」という。)及び株式会社シティ・プロジェクト(以下「シティ」という。)との間で,平成11年12月5日,被告らの全株式及び経営権を担保とし,勝英及びシティが,被告らに対し,5億2000万円を融資する内容の契約(以下「本件経営権譲渡契約」という。)を締結した。本件経営権譲渡契約は,形式的には金銭消費貸借契約の体裁をとっていたものの,実質的には被告らの経営権を勝英に譲渡することを目的とする契約であった。同契約に基づき,同月10日,勝英の代表取締役であるBが被告の取締役に就任した(以下,Bら勝英側の経営陣を「新経営陣」という。)。

(3)  平成12年11月20日付解雇(以下「11月解雇」という。)

ア 当時の本件教習所の管理者であったCは,平成12年11月17日,原告らを教習指導員等から解任し,埼玉県運転免許課にその旨の届け出をした。

イ Bは,平成12年11月20日,「株式会社所沢中央自動車教習所取締役設置者B」の名義で,原告らを即時解雇する旨原告らに対して通知した。原告らに対する即時解雇通知書には,就業規則第49条(後掲)により解雇する旨の記載があった。

ウ 被告は,当庁平成12年(ヨ)第158号地位保全等仮処分申立事件(以下「本件仮処分事件」という。)における平成12年12月20日付準備書面において,上記イの解雇を追認した。

(4)  被告は,平成12年12月7日,各原告に対して,同年11月分の賃金のうち,同月20日までの分を支払った。

(5)  平成12年12月25日付解雇(以下「12月解雇」という。)

被告は,11月解雇が無効と判断された場合に備えて,平成12年12月25日,原告らが被告との不提訴合意(後掲)に違反して,当庁に対し本件仮処分事件の申立てを行ったこと,及び同年11月17日以降,教習指導員等としての労務の提供をしていないことなどを理由に,原告らを懲戒解雇した。

(6)  被告の就業規則

被告の就業規則には,解雇に関し,以下の規定がある(<証拠省略>)。

第2章 採用異動解雇及び休職

第8条(解雇の基準)

1.従業員が次の各号の一つに該当したときは解雇する。

(3) 第8章(後掲)に規定する懲戒解雇の基準に該当すると認められたとき

(6) 巳むを得ない事由により事業を縮小する場合

(7)  作業の合理化その他の事由により剰員を生じたとき

(8)  その他正当な理由があるとき

第8章 賞罰

第47条(懲戒の方法) 懲戒は次の方法によつてこれを行う。但し反則軽微なるか特に情状酌量の余地ある場合には訓戒に止めることがある。

5.懲戒解雇 予告期間を設けることなく又解雇手当を支給することなく即時解雇する。

第49条(懲戒の基準その2) 従業員が次の各項に該当するときは第47条第4項並に第5項を適用する。但し情状特に酌量すべきものあるときは前条第1項乃至第3項の何れかに止めることがある。

3.故意に会社の設備若しくは器具を破壊し又は無断で会社の物品・金銭を持出したもの。

4.正当な理由なく業務命令に従わぬもの。

5.他人に対して暴行若しくは脅迫を加えて業務を妨害したもの。

9.その他前各項に準ずる程度の不都合な行為があつたもの。

(7)  原告らの月例賃金(時間外手当と通勤手当を除いたもの)3か月(平成12年9月から同年11月まで)の平均は,それぞれ別紙月例給与目録記載のとおりである(<証拠省略>及び弁論の全趣旨)。

3  主要な争点

(1)  原告らの本件訴えが不提訴合意に違反するか。

(2)  11月解雇の有効性

(3)  12月解雇の有効性

4  当事者の主張

(1)  原告らの本件訴えが不提訴合意に違反するか。

(被告の主張)

原告らは,平成12年11月21日,被告に対して,本件仮処分事件の申立て又は本件のような従業員の地位確認等を求める訴訟を提起しないことを約束し,不提訴の合意が成立した(以下「本件不提訴合意」という。)。原告らの本件訴えは本件不提訴合意に違反するものである。また,訴えの利益を欠く不適法なものであるから,本件訴えは却下されるべきである。

(原告らの主張)

原告らは,平成12年11月21日に,被告との間で,賃金支払請求権を行使しない旨合意したことがあるが,その合意は当時の被告代表取締役Dら(以下,Dら本件経営権譲渡契約における譲渡側を「旧経営陣」という。)が,原告らを解雇したBらから経営権を回復することによって,原告らが早期に就労することを前提としたものであり,無条件の不提訴合意をしたものではない。そして,その前提が崩れた以上本件提訴は本件不提訴合意に違反するものでもなく,また,訴えの利益も有する適法なものである。

(2)  11月解雇の有効性について

ア Bの解雇権限の有無

(被告の主張)

本件経営権譲渡契約により,被告の経営権は勝英が取得したものである。確かに,その後,旧経営陣及び勝英の双方から,同契約につき解除の通告が互いになされたことがあるけれども,勝英は,同契約により出捐した金員の被告からの返還又は損害賠償の支払がないため,その原状回復に至るまで,同時履行の抗弁を有し,本件教習所のDら旧経営陣にその経営権を引き渡すことを拒むことができ,解除後の本件教習所における事務は,委任終了時の緊急処分義務(民法654条)として行うことができた。すなわち,当時,勝英から派遣されていたBには,被告の経営者として違法な従業員の行為に対して懲戒権を行使する権限が存した。また,仮に,Bの当時の懲戒権限に何らかの問題があったとしても,平成14年4月14日,勝英,Bら,被告ら及び旧経営陣との間において締結された勝英らが旧経営陣に和解金2億円を支払って,被告らの経営権を取得する旨の和解契約(<証拠省略>。以下「本件和解契約」という。)により,補完された。

なお,被告は,本件仮処分事件における平成12年12月20日付準備書面において,11月解雇を追認した。

(原告らの主張)

当時,Bは,被告の代表取締役ではない。当時の代表取締役であったDからBに対し,解雇権限を付与されていたわけでもなかったのであるから,Bによる11月解雇は無効である。

確かに,本件経営権譲渡契約の締結によって,Dら旧経営陣が勝英側新経営陣に被告の経営権を委ねた経過はあるけれども,同契約によって直ちに経営権全てが新経営陣に移転したわけではなく,新経営陣は平成12年7月に同契約が解除されるまで,代表取締役であったDが委ねた範囲,あるいはその意向に反しない範囲で,本件教習所の経営を行っていたと解するべきであり,同契約の解除後は新経営陣に本件教習所経営の法的な権限は全く存しない。

また,勝英側において契約金額の一部しか支払っていない本件において,平成12年7月に同契約が解除された後,新経営陣が同時履行の抗弁を理由にDら旧経営陣への経営権の回復を拒むことはできないと解される。のみならず,民法654条は,委任終了時に,委任者が委任事務を処理することを得るに至るまでの間,受任者が必要なる処分をする義務を定めた規定であり,本件教習所経営権の回復を求めていた旧経営陣に対して,この規定によって,経営権の回復を拒むことはできないし,委任者である旧経営陣の明示ないし黙示の意思に反した処分行為はできないところ,11月解雇は委任者である旧経営陣の明示的な意思に反するものであり,委任終了時の緊急処分として正当化される余地はない。

なお,被告は,平成12年11月21付告示書で上記解雇は無効である旨宣言しており,一度無効と宣言した解雇を再び追認することは許されない。

イ 懲戒事由の存否

(被告の主張)

原告らは,平成12年11月13日から,本件教習所施設を実力により占拠したが,その状況は以下の通りであった。

<1> 本件教習所の建物内へ侵入し,その全部を占拠し,勝英から派遣された者及び非組合員の建物内への立入り及び教習授業の実施を実力で妨害した。

<2> 本件教習所の重要保管書類の入っている金庫,ロッカーを勝手に開錠し,ロッカーの引き戸を外し,内容物を勝手に点検し,引き戸を放置した。

<3> 継続して本件教習所窓口を占拠し,同窓口業務を組合員又は従業員以外の者を配置して占拠し,配車を勝手に行い,また,占拠期間中,合計金101万1300円を所在不明とした。

<4> 本件教習所の管理者又は副管理者が行うべき朝礼を権限のない組合員が行い,配車システムを勝手に変更した。

<5> 平成12年11月13日午後1時20分開始の仮運転免許の学科試験の行われる本件教習所第1教室において,試験を実施しようとしたCの前に原告X2が立ちふさがり,もみ合いになった。

<6> 平成12年11月16日,本件教習所の金庫及びロッカーに貼ってあった「持ち出し禁止」の貼り紙を,管理者側が剥がそうとすると,原告らが管理者を取り囲み威勢を示して脅迫した。

<7> 管理者側からの再三にわたる退去要求に従わず,かえって,当時の代表取締役らへの本件教習所の経営権の返還を迫り,原告ら多数による事業所の占拠及び威迫を伴って強要した。

以上のような原告らの職場占拠及びこれに関わる金員の行方不明,授業の妨害,管理者の退去要求に従わない職場占拠の継続並びに威迫行為は違法であり,原告らには,被告の就業規則49条3号,4号,5号及び9号に定める事由がある。11月解雇は,このような事由でなされたものである。

(原告らの主張)

原告らは,平成12年11月13日から,当時の代表取締役のD,取締役のE及び被告代理人であったF弁護士らの指示に従って,勝英の従業員が行っていた窓口業務の引継ぎに着手したものであるが,その態様は,Dらの指示通りに平穏になされており,以下のように,本件教習所の業務を妨害したと評価されるようなものではない。また,11月解雇の追認は,組合を本件教習所から排除することを目的とした不当労働行為である。

<1> 平成12年11月13日,原告らがDら旧経営陣に従って事務室に入室した時及び旧経営陣が朝礼を行っている間において,本件教習所内の混乱は生じていない。事務室内で行われている朝礼には,勝英社員も参加しており,原告らが事務室を占拠していたために勝英社員が室内に入れないという状況はなかった。

<2> 平成12年11月13日以降,勝英社員は教習業務に就いていたし,窓口業務に関しても,原告らと勝英社員が共同して行っており,管理者としての業務もCが引き続き担当しており,原告らが,勝英側の派遣した従業員の退去を強制して実力で施設を占拠し,従前の管理態勢を無視して本件教習所の業務を行ったという事実はない。

<3> 業務引継ぎに着手後,売上金等経理面の管理は旧経営陣が行っていた。

ウ 普通解雇(整理解雇)への転換

(被告の主張)

仮に11月解雇について懲戒解雇が認められないとしても,当時被告は債務超過状態,破産状態にあり,従業員の削減が必要であったのであり,就業規則8条1項6号,7号及び8号に該当する事由があった。

上記違法な事務所占拠が行われたので,事前に退職者の選別や希望退職を話し合う余地がなかった。

(原告の主張)

11月解雇は懲戒解雇としてなされたものであり,懲戒解雇の意思表示の中に整理解雇の意思表示も含まれると解釈することはできない。

また,11月解雇については,<1>経営上の必要性,<2>解雇回避義務の履行,<3>解雇基準の設定,<4>原告らに対する整理解雇である旨の説明はいずれも存在せず,判例上確立しているいわゆる整理解雇の4要件は充たされていない。

(3)  12月解雇の有効性について

(被告の主張)

原告らは,本件不提訴合意に違反して本件仮処分事件の申立てを行い,平成12年12月18日の審尋期日で本件不提訴合意の存在を否認し,また,原告らは,同年11月17日以降教習指導員等としての労務を提供していない。

そこで,被告は,11月解雇が無効とされた場合を前提として,就業規則49条9項などにより懲戒解雇した。

なお,この12月解雇には,業務継続不能と経営破綻による普通解雇の趣旨を含むものである。

(原告の主張)

原告らが本件不提訴合意をしたのは,旧経営陣が勝英から経営権を回復することによって,債権者が早期に就労して賃金を取得することを前提としていたものであり,原告らの本件仮処分事件の申立ては,本件不提訴合意に反するものではない。

被告が,実質上倒産状態であった事実はなく,仮に業務継続が困難という状況が生じたとしても,被告は,解雇回避の努力を何らしておらず,かつ,労働組合員との協議も経ずに,組合員を解雇しているのであって,整理解雇としての合理的理由及び相当性のいずれも欠いている。

また,12月解雇は,組合を本件教習所から排除することを目的とした不当労働行為である。

第3当裁判所の判断

1  上記争いのない事実等のほか,証拠(<証拠省略>,証人G,分離前の被告勝英自動車学校代表者兼被告B(以下「分離前」被告B」という。)(なお,上記証拠中,後記認定に反する部分は,採用しない。)(ママ)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる(なお,括弧内の証拠番号等は,掲記事実を認めた主要証拠である。)。

(1)  被告らは,勝英及びシティとの間で,平成11年12月5日,被告らの経営権を勝英に譲渡する目的で,本件経営権譲渡契約を締結し(<証拠省略>),同日,勝英がシティに貸し渡した5000万円を,シティが被告に貸し渡す形式で,譲渡代金の一部として5000万円が勝英から被告に対して支払われた(<証拠省略>)。

平成11年12月10日,本件経営権譲渡契約に基づき,勝英の代表取締役であったB及びその弟であるH,シティの代表取締役であったIが被告の取締役に就任し,同月15日その旨の登記がなされた(<証拠省略>)。

(2)  その後,本件経営権譲渡契約の内容となっていた,被告らから勝英及びシティへの株券の引き渡しや,勝英及びシティから被告らに対する代金の支払等は完了していなかったものの,平成12年1月ころには,被告の経営について,代表取締役がDのまま,勝英の代表取締役であったBに包括的な委任がなされ,その結果実質的にBが,被告の経営を行うようになった(<証拠省略>,分離前被告B)。それに伴い,勝英は教習指導員等を勝英社員として現地採用し,また,勝英社員を本件教習所に派遣・出向させ,本件教習所の業務に当たらせるようになった(<証拠省略>)。そして,被告の代表者印及び銀行取引印がBに引き渡された(<証拠省略>)。

(3)  しかしながら,その後,本件経営権譲渡契約につき,旧経営陣側と勝英側との間で融資金の支払や株券の引渡しを巡って紛争が生じ,平成12年7月11日付で,勝英は被告に対して,本件経営権譲渡契約を解除する旨通知すると共に(<証拠省略>),Bにおいても,被告に対し,被告の取締役を辞任する旨の通知を行った(分離前被告B)。

(4)  他方,被告においても,平成12年7月中に,勝英に対して本件経営権譲渡契約を解除する旨通知し,その後,Dらは,勝英に対し,被告代表者印及び銀行取引印の返還,運営利益の清算及び引渡し並びに経営の移管等を求めた(<証拠省略>)。しかしながら,勝英は,民法654条に基づく「応急処理」を理由として,本件教習所の経営を継続した(<証拠省略>)。

(5)  そのため,Dの他,被告の当時の取締役であったJ,E,Kら旧経営陣は,勝英から経営権を取り戻すことについて,原告ら組合員と協力することとし,平成12年10月16日,Dら旧経営陣及び当時の被告代理人であったF弁護士と共に,原告ら組合員が休日出勤し,旧経営陣が,勝英側社員に対し,今後は旧経営陣が本件教習所の経営にあたる旨伝えた。しかしながら,その後も,勝英側は本件教習所から撤退せずに,その経営を行っていた(<証拠省略>)。

(6)  そこで,Dらは原告らに対し,平成12年11月7日ころ,同月13日に本件教習所に出勤し,勝英側から業務を引き継ぐよう指示した。そして,原告らは,同日(同月13日),Dらと共に,本件教習所に出勤し,Dら旧経営陣の指示・監督の下で勝英社員からの業務引継ぎに着手したが,本件教習所管理者であるC及び同副管理者であるGらは,これを拒否した。しかし,原告ら組合員は,Dら旧経営陣の指示・了解の下,Cらの意向を無視し,予約,会計,受付及び配車の窓口の席に着き,配車システムを変更するなど,本件教習所の業務を行った。また,同日午前8時20分ころ,当時出勤していたGらの意向を無視して,朝礼も行われた(証人G,<証拠省略>)。

(7)  平成12年11月13日午後1時20分ころ,本件教習所第1教室に,仮運転免許の学科試験を行うため,C及びGが入ると,同教室後方にいた原告X2が,同学科試験の見学を要求したが,Cらは原告X2に対し,同教室から出て行くよう指示した。しかし,原告X2がその指示に従わなかったため,Cらは,原告X2を同教室の外に出したが,その後,Cが同教室に入ろうとすると,原告X2がドアの入り口に立ちふさがったため,Cと原告X2の間でもみ合いになり,その結果,学科試験の開始が遅れた。また,同日,管理者席右にある重要書類の入っている両開きの鉄製ロッカーの右側ドアが,Cの了解なしに外され,外に持ち出されていたということがあった(証人G,<証拠省略>)。

(8)  平成12年11月14日及び同月15日,Dら旧経営陣の指示,了解の下,原告ら組合員が,本件教習所の予約,会計,受付及び配車の窓口の席に着き,その業務を行った(<証拠省略>)。その一方で,F弁護士と勝英側の代理人であったL弁護士との間で,勝英と被告との間の紛争の解決についての協議が行われていたが,合意の成立には至らなかった(<証拠省略>)。

(9)  平成12年11月16日,Cから指示を受けたGが,原告X3,原告X4,原告X5及び原告X6に対し,受付,会計,予約及び配車の窓口から,退去するよう言い渡したところ,原告らはいったん退去したが,同日午後2時ころ,F弁護士が,従業員らの前で,勝英側の者が本件教習所内に立ち入ることを禁止する旨述べるなどしたことをきっかけに,原告らは,再度,前記窓口の席に着いた(証人G,<証拠省略>)。また,同日,原告X7,原告X4らが,管理者印等が保管されている金庫や,指定事項変更届等が保管されているロッカーに持ち出しを禁止する旨の掲示物を貼り,それをGらが剥がそうとしたところ,原告ら組合員が大勢で,取り囲んで威圧した(<証拠省略>)。

平成12年11月16日午後8時ころ,Cは,現状のままでは,本件教習所の管理ができないなどとして,窓口の席にいた,原告X3,原告X8,原告X6,原告X5,原告X4,原告X9,原告X2ら7名を教習指導員から解任することを決意し,Gらにその旨告げた(<証拠省略>)。

(10)  平成12年11月17日午前7時50分ころ,本件教習所応接室において,Cは,原告X8,原告X2,原告X9らに対し,上記原告ら7名を教習指導員等から解任した旨告げたところ,原告ら組合員は,ストライキを実施した。

平成12年11月17日午後零時50分ころ,Cは上記原告ら7名の解任だけでは,本件教習所の管理ができないなどとして,原告ら組合員全員を教習指導員等から解任することを決定し,同日午後1時10分ころ,原告ら組合員にその旨伝えた(<証拠省略>)。

(11)  平成12年11月18日以降も,Cらの意向を無視し,原告ら組合員は窓口の席に着いて業務を行い,Cらが退去を指示すると,原告らが大声で抗議するということもあった(<証拠省略>)。

(12)  Bは,平成12年11月20日,「株式会社所沢中央自動車教習所 取締役設置者B」の名義で,原告らに対し,就業規則第49条により即時解雇する旨通知した。しかし,原告ら組合員は,同月25日まで,窓口の席に着き,業務を行っていた(証人G,<証拠省略>)。

(13)  平成12年11月13日から同日25日まで,原告ら組合員が旧経営陣の指示・了解の下で,本件教習所の業務を行っていた間,売上金の管理等は旧経営陣が行い,旧経営陣から預り書又は領収証が,勝英側に対して交付されていた。また,この間,本件教習所の業務については,勝英側の従業員も携わっており,同月17日のストライキの際に教習ができなかったり,勝英側の従業員が撤退することを見越して,新規入所者を制限するなどしたことがあった他,教習の予約がとれないとの教習生からの苦情もあったが,それ以上の大きな混乱はなく,埼玉県運転免許課に対する書類提出などの管理者の業務も通常通り,Cが行っていた(証人G,<証拠省略>)。

被告は,「この間,原告らが,本件教習所全部を占拠し,勝英から派遣された者及び非組合員の建物内への立入りと,教習授業の実施を実力で妨害した。」と主張するけれども,上記のとおり,確かに,原告らが,管理者の意向を無視して,業務を行っていたことは認められるものの,原告らが勝英側の従業員の建物内への立入りを拒否したり,教習授業の実施を妨害したとまで認めることは困難である。

(14)  平成12年11月21日,Dら旧経営陣及びF弁護士と組合側との間で,話合いがもたれ,旧経営陣がBによる11月解雇が無効であることを確認すること及び組合員らにおいて,旧経営陣らが経営を取り戻すまで賃金の請求をしない旨の合意がなされたが,その席には原告らのほとんど全員が出席していた(<証拠省略>)。

(15)  平成12年11月21日,Dは,11月解雇は無効であり,その旨,取締役会で確認したとの内容の代表取締役D三郎名義の告示書を作成し,原告らは,同告示書のコピーを本件教習所内に張り出した(<証拠省略>)。

(16)  原告らは,平成12年12月4日,被告に対して,原告らが被告との間で雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めること,そして,本案確定までの賃金を仮に支払うことを内容とする本件仮処分事件の申立てをした(<証拠省略>)。

(17)  被告は,本件仮処分事件における平成12年12月20日付準備書面で,11月解雇を追認した(<証拠省略>)。

(18)  被告は,本件仮処分事件における平成12年12月25日付準備書面において,仮に,11月解雇が無効と判断された場合,原告らが本件不提訴合意に違反し,同年11月17日以降,教習指導員等としての労務の提供をしていないことなどを理由として,原告ら全員を懲戒解雇した(<証拠省略>)。

2  争点1(原告らの本件訴えが不提訴合意に違反するか。)について

被告は,「平成12年11月21日,被告と原告らとの間で,従業員としての地位の保全の仮処分の申立てや,その本案の提訴を行わないとの本件不提訴合意がなされていたところ,原告らは同合意に反して,本件仮処分事件の申立てを行い,さらに本件仮処分事件の本案である本件訴訟を提起し,もって本件不提訴合意に反する行為をした。」旨主張するので検討する。

前記認定事実によれば,確かに,平成12年11月21日,Dら旧経営陣及びF弁護士と組合側との間で話し合いがもたれ,組合側が,Dら旧経営陣及びF弁護士に対して,旧経営陣らが経営を取り戻すまで賃金の請求をしない旨約束した事実が認められる。しかしながら,原告らが被告に対して,いかなる場合でも従業員としての地位の保全及び賃金請求の仮処分並びに本案の提訴を行わない旨の合意が成立したものと認めることは困難である。すなわち,前掲各証拠によれば,原告らと被告(代表者は旧経営陣に属するDである。)は,本件経営権譲渡契約以降,本件教習所の経営からBら勝英側の者を排除し,旧経営陣側にその実権を取り戻すために一時的な協力関係にあったこと,11月解雇後の被告と原告らの話合いでは,旧経営陣がBらを本件教習所の経営から排除して,原告らを就労させる方向で合意が形成されつつあり,旧経営陣において被告の株主総会でBを取締役から解任したり,埼玉県運転免許課に対し,教習所設置者であるB及び教習所管理者であるCの変更について働き掛けていること,原告らは,Bら勝英側の者が本件教習所の売上金を管理している現状などを踏まえて,早期のうちに就労して所定の賃金を得られるのであれば,原告らは被告を提訴するなどして,被告をさらなる窮状に追い込むことはしないという前提でなされたものと認められる。

上記認定にかんがみると,本件不提訴合意は,旧経営陣が被告の経営権を早期に回復できた場合に,被告の経営安定化を図り,原告らが安心して就労可能となり,唯一の生活手段としての賃金を確保する目的によりなされたものと認められるのであって,かかる前提すなわち早期の安定的な就労が崩れた本件において,本件仮処分事件の申立て及び本件訴訟の提起は,許容されるものと解すべきである。したがって,本件訴えが本件不提訴合意に違反するとの被告の主張は採用できない。

なお,被告は,他に,訴えの利益を欠く等,本件訴えが不適法である旨主張するが,本件記録を精査しても,上記不適法事由を見出すことはできず,被告の上記主張は採用できない。

3  争点2(11月解雇の有効性)について

(1)  Bの解雇権限

被告は,「当時,勝英が被告に経営者として派遣したBが人事権を含む経営権を握っていた。」旨主張する。確かに,前記認定事実の通り,本件経営権譲渡契約を締結後,当時の被告代表取締役であったDらから,Bに対し,被告の経営につき,包括的な委任がなされ,平成12年1月ころから,Bにおいて,本件教習所の経営を行っていたことが認められる。しかしながら,本件経営権譲渡契約につき,平成12年7月,被告,勝英双方から,解除の通知が互いになされ,Bにおいても,被告の取締役を辞任する旨,被告に通知し,その後,Dら旧経営陣は,勝英に対し,本件教習所の経営権を自分達へ引き渡すよう求めていたことが認められるのであって,かかる状況にかんがみれば,11月解雇当時には,DらによるBに対する被告経営の包括的委任は既に解除されていたというべきである。

この点,被告は,「本件経営権譲渡契約により,被告の経営権は勝英が取得したものであり,被告,勝英双方から,同契約につき解除の通告が互いになされた後も,勝英は,原状回復に至るまで,同時履行の抗弁を有し,本件教習所のDら旧経営陣に引き渡すことを拒むことができた。」旨主張しているが,本件経営権譲渡契約締結後ですら,勝英の代表取締役であったBが,被告の取締役に就任したに過ぎず,代表取締役はDのままであったのであり,Bが代表取締役に選任されたり,Dが代表取締役から解任された事実はなかったのであるから,Dが根源的な業務執行権限を有しており,Bは取締役会あるいは代表取締役であったDから経営に関する包括委任を受け,本件教習所の経営を行っていたに過ぎないものと認めるのが相当である。被告の上記主張は採用できない。

次に,被告は,「委任終了時の緊急処分義務(民法654条)を理由に,Bに解雇権限があった。」旨主張するところ,民法654条は,委任者において直ちに事務を処理できない場面に,受任者が事務の処理を中止することによる委任者の不測の損害を避けるための規定と解すべきであって,本件の場合,原告らを即時解雇しなければ被告及びDらが不測の損害を受けるような事情があったとは到底認められない。本件がBに本条による応急措置義務を認める場面でなかったことは明らかである。被告の上記主張は理由がない。

したがって,11月解雇当時,Bに,原告らを解雇する権限はなかったというべきである。

また,被告は,「Bの解雇の権限不存在は,本件和解契約によって,補完された。」旨主張するが,<証拠省略>によっても,本件和解契約の内容が遡及的にBに解雇権限を与えるものであるとは認め難い。そもそも,解雇処分を行うことについて無権限であった者に対し,遡及的に解雇権限を付与し,解雇を有効とすることは,相手方の地位を著しく不安定なものとすることになり,到底許されないものと解すべきである。

さらに,被告は,「11月解雇は,本件仮処分事件における平成12年12月20日付準備書面で,被告によって追認された。」旨主張するが,上記説示に加え,被告において,平成12年11月21日付け告示書で上記解雇は無効である旨確認した事実にかんがみると,いったん無効である旨確認した解雇について,追認することは,労働者の地位を著しく不安定なものとすることになり,信義則上も許されないものというべきである。

(2)  懲戒事由の存否

本件において,被告は,「就業規則49条3号,4号,5号及び9号により原告らを懲戒解雇した。」旨主張するので検討する。ところで,使用者の懲戒権の行使は,当該具体的事情の下において,それが合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には権利の濫用として無効となると解するのが相当であり,また,懲戒解雇がその他の処分に比し,労働者に与える不利益が極めて重大であることにかんがみれば,その者を直ちに職場から排除するのがやむを得ないほどの事由が認められる場合でなければ,これを社会通念上相当として是認することはできないものと解するべきである。

これを本件について見るに,前記認定事実のとおり,確かに,原告らは,平成12年11月13日以降,本件教習所において,<1>管理者であるCの指示を無視してその業務を行い,その間,<2>管理者席右にある重要書類の入っている両開きの鉄製ロッカーの右側ドアが外され,外に持ち出されたりした(原告らの一部の者が行ったものと推認できる。)ことや,<3>原告X2がCと小競り合いになったり,<4>原告らの一部がCら勝英側従業員らに対して,複数で取り囲んだり,大声を上げるなど威圧的な行動にでたことが認められる。しかしながら,<1>管理者であるCの指示を無視して業務を行ったのは,当時の代表取締役で,かつ業務執行権限を有していたDを含む旧経営陣の指示・了解によるものであること,<2>また,管理者席右にあるロッカーのドアが外され,外に持ち出されていた事実について,原告らの一部の者が行ったのだとしても,Dらの指示による業務引継ぎの一環としてなされたと認められること,<3>原告X2とCの小競り合いや,<4>原告ら組合員によるCら勝英側従業員に対する威圧的な行為についても,それまで経営の実権を握っていた勝英側から,経営を取り戻そうとするDら旧経営陣の指示に従った原告らとこれに反対する管理者であるCら勝英側従業員らとの間で生じたトラブルであり,その態様も重大なものとはいえないことなどの事情にかんがみれば,原告らの前記各行為が形式的には就業規則49条3号,4号,5号及び9号のいずれかに該当するとしても,当時の原告らの置かれた状況に照らせばやむを得ない側面も見受けられるのであって,懲戒解雇処分をすることについて合理的理由を有するものとは考え難い。したがって,本件懲戒解雇を社会通念上相当として是認することはできない。

なお,被告は,「原告らが本件教習所にいた平成12年11月13日から同月25日までの間に,合計約100万円が所在不明となっている。」旨主張するが,同期間中,売上金等の管理は,Dら旧経営陣が行っていたことが認められるところ,仮にそのような所在不明の金員が生じたとしても,その責任を原告らに負わせるべき客観的な事情は何ら認められない。

そうすると,11月解雇は,懲戒権の濫用として無効というべきである。

(3)  普通解雇(整理解雇)への転換

次に,被告は,「仮に11月解雇につき,懲戒解雇が認められないとしても,就業規則8条1項6号,7号,8号に該当する事由による普通解雇(整理解雇)として有効である。」旨主張する。しかし,原告らに対する即時解雇通知書には,懲戒の基準を定める「就業規則第49条により」と記載されており,11月解雇が懲戒解雇としてなされたことは明らかである。そして,制裁としての懲戒解雇と普通解雇とでは制度の趣旨が全く異なり,このような無効行為の転換を認めれば,労働者の地位を著しく不安定なものとするばかりか,安易な懲戒解雇を誘発することにもなりかねず,11月解雇をもって普通解雇の意思表示に転換することは到底許されないものと解する。被告の上記主張は採用できない。

4  争点3(12月解雇の有効性)について

(1)  懲戒事由の存否

前記認定事実によれば,12月解雇は,<1>原告らは本件不提訴合意に反して,本件仮処分事件の申立てをしたこと,及び<2>原告らが,平成12年11月17日以降教習指導員等としての労務を提供していないことを理由として,懲戒解雇したものである。しかしながら,<1>原告が本件不提訴合意に反したとは認められないことについては前説示のとおりであり,また,<2>平成12年11月17日,本件教習所管理者であるCが原告らを教習指導員等から解任し,埼玉県運転免許課に届け出がなされているのであって,それ以降,教習指導員等として労務提供していないことについて,原告らが責を負ういわれはなく,債務不履行とはいえないというべきである。

したがって,原告らに懲戒解雇に該当する事由があるとは認められず,12月解雇は,懲戒権の濫用として無効というべきである。

(2)  普通解雇(整理解雇)への転換

被告は,「12月解雇には,業務継続不能と経営破綻による普通解雇の趣旨を含むものである。」と主張する。しかし,12月解雇が懲戒解雇としてなされたことが明らかであるところ,懲戒解雇の意思表示を普通解雇の意思表示に転換することは許されないことについては,前説示のとおりである。

5  結論

(1)  以上によれば,原告らが被告の従業員としての地位を有することを確認する旨の請求は,理由があることになる。

(2)  次に,原告らが,被告から,毎月7日限り別紙月例給与目録記載の給与(解雇前3か月の平均)の支給を受けていた事実は明らかに認められる。被告は,「原告らが,転職先から得た賃金の額を,解雇期間中の原告らの賃金の額から控除すべきである。」旨主張するが,同主張を認めるに足りる的確な証拠はなく,被告の上記主張は採用できない。

ところで,原告らは,平成12年12月からの毎月の賃金の請求をしているところ,同月7日に支払われるべき同年11月分賃金のうち同月20日までの分が,各原告に支払われた事実に争いはない。したがって,原告らの毎月の賃金請求は,平成13年1月以降については理由があるが,平成12年12月支払分については,別紙月例給与目録記載の額から20日分すなわち30分の20を控除した別紙平成12年12月7日支払分未払給与目録記載の額の限度で理由があるというべきであり,その余の請求は理由がないことになる。

原告らは,本判決確定の後についても毎月の賃金の請求をしているけれども,原告らが被告の従業員としての地位が訴訟によって確定すれば,通常使用者である被告において,その後は賃金を支払うものと考えられ,かかる場合でも,被告において賃金の支払を拒絶すると認められる特段の事情は認められないから,賃金請求中判決確定後に係る部分については,予め請求する必要はないと解すべきであり,本判決確定後の賃金請求は,その利益が認められず,不適法というべきである。

(3)  よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小宮山茂樹 裁判官 髙橋彩 裁判官 栗原保)

平成12年12月7日支払分未払給与目録

<省略>

月例給与目録

<省略>

入社日及び資格一覧表

<省略>

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