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さいたま地方裁判所川越支部 平成15年(ワ)935号 判決 2007年6月28日

甲事件原告

X1(以下「原告X1」という。)

甲事件原告

X2(以下「原告X2」という。)

甲事件原告

X3(以下「原告X3」という。)

乙事件原告

X4(以下「原告X4」という。)

乙事件原告

X5(以下「原告X5」という。)

乙事件原告

X6(以下「原告X6」という。)

乙事件原告

X7(以下「原告X7」という。)

上記7名訴訟代理人弁護士

権田陸奥雄

宮里邦雄

五十嵐潤

両事件被告

株式会社協同商事(以下「被告」という。)

同代表者代表取締役

H

同訴訟代理人弁護士

坂入髙雄

葭原敬

篠島正幸

島幸明

金塚彩乃

主文

1(1)  甲事件原告らが,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

(2)  被告は,原告X1に対し,6万2341円並びに平成15年11月から本判決確定の日まで,毎月25日限り月額19万5930円の割合による金員及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(3)  被告は,原告X2に対し,4万4574円並びに平成15年11月から本判決確定の日まで,毎月25日限り月額32万6876円の割合による金員及びこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(4)  被告は,原告X3に対し,平成15年11月から本判決確定の日まで,毎月25日限り月額33万0283円の割合による金員並びにこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2  乙事件原告らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は,甲事件原告3名に生じた費用及び被告に生じた費用の7分の3を被告の負担とし,各乙事件原告に生じた費用及び被告に生じた費用の各7分の1を各乙事件原告の負担とする。

4  この判決の第1項(2)ないし(4)は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  甲事件

(1)  甲事件原告らが,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

(2)  主文1項(2)ないし(4)と同旨

2  乙事件

(1)  乙事件原告らが,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

(2)  被告は,原告X4に対し,541万1662円及び平成16年7月から本判決確定の日まで,毎月25日限り月額39万3235円の割合による金員並びにこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(3)  被告は,原告X5に対し,323万6399円及び平成16年7月から本判決確定の日まで,毎月25日限り月額24万2730円の割合による金員並びにこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(4)  被告は,原告X6に対し,102万5590円及び平成16年7月から本判決確定の日まで,毎月25日限り月額35万1631円の割合による金員並びにこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(5)  被告は,原告X7に対し,38万5465円及び平成16年7月から本判決確定の日まで,毎月25日限り月額38万5465円の割合による金員並びにこれらに対するそれぞれ支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,被告から懲戒解雇された甲事件原告3名が,<1>解雇理由とされた事実が存在しない,<2>仮に解雇理由とされた事実が存在したとしても,解雇権を濫用したものであるとともに,当該解雇は,労働組合を嫌悪する被告がその組合活動を封じるべく組合員である甲事件原告らに対し行ったものであるから,不当労働行為に当たり無効であると主張して,労働契約上の地位の確認と労働契約に基づき賃金の支払を求めた事案(甲事件)並びに被告から懲戒解雇された乙事件原告4名が,<1>解雇理由たる業務命令違反の前提となる配置転換命令は無効であるからこれに違背しても解雇理由とはならない,<2>配置転換命令違背以外の解雇理由とされた事実についても存在しない,<3>仮に解雇理由とされた事実が存在したとしても,当該解雇は,解雇権を濫用するものであるとともに,労働組合を嫌悪する被告がその組合活動を封じるべく組合員である乙事件原告らに対し行ったものであるから,不当労働行為に当たり無効であると主張して,労働契約上の地位の確認と労働契約に基づき賃金の支払を求めた事案(乙事件)であるが,被告は,懲戒解雇はいずれも有効であり,仮に懲戒解雇としての効力が生じないとしても,予備的に普通解雇の意思表示をもしている旨主張して,甲事件原告3名及び乙事件原告4名の主張を争っている。

1  前提事実(証拠を引用しない部分は当事者間に争いがない。争いのある事実は後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる。)

(1)  当事者

ア 被告は,昭和57年8月10日に設立された一般区域貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社であり,その資本金は6400万円である。

被告の業務運営組織は,開発部,物流事業部(元は「運輸部」と呼ばれていたが,組織変更に伴い,平成14年7月から「物流事業部」となった。以下,「物流事業部」という。),青果物販売部,レストラン,ビールの製造販売を行う部門及び花卸関係部門に分かれており,このうち物流事業部は,1課ないし8課(平成15年9月26日までは9課も存在していたが,同課は同日閉鎖された。),川島センター,整備課,深谷パッケージセンター及び川越第2センターから構成されている(<証拠略>)。

イ 甲事件原告3名及び乙事件原告4名(以下,これら7名を合わせて「原告ら」という。)は,それぞれ次の時期に,被告に雇用された。

(ア) 原告X1 平成11年6月

(イ) 原告X2 平成10年8月

(ウ) 原告X3 平成5年4月

(エ) 原告X4 平成2年3月

(オ) 原告X5 平成4年6月

(カ) 原告X6 平成10年9月

(キ) 原告X7 平成8年1月

(2)  解雇等についての就業規則の定め

被告の就業規則には,本件に関連する条項として次のような定めがある(<証拠略>)。

第2条(規則順守の義務)

従業員は,会社の方針を尊重して,この規則を順守して業務に励み社業の発展に努めなければならない。

第8条(配置転換)

業務上必要がある時は,転勤または職種の変更を命ずることがある。

2  従業員は,正当な事由がなければ,前項の命令を拒むことができない。

第9条(解雇)

従業員が次の各号の一に該当する場合は30日前に予告するか又は労基法第12条に規定する平均賃金の30日分を支給して解雇する。

(1)  やむを得ない業務の都合による場合

(2)  精神または身体の障害により業務に堪えられないと認められた場合

(3)  勤務成績または能率が不良で就業に適さないと認められた場合

(4)  事業の継続が不可能となり事業の縮小・廃止をする時

(5)  業務に関し,会社をあざむき,又は,故意又は重大な過失により重大な交通事故を起こすなど会社に損害を与え,あるいは会社の名誉,信用を著しく傷つけた時

第10条(退職)

従業員が次の各号の一に該当するに至った時は,その日を退職の日として従業員としての身分を失う。

(1)  本人の都合により退職願が出て会社の承認があった時または退職願提出後14日を経過した時

(2)  死亡した時

第17条(年次有給休暇)

1  1年間継続勤務した者には,継続又は分割した11労働日の有給休暇を与える。

2  2年以上勤務した者は,1年を超える毎に1労働日を加算した有給休暇を与える。但しその総日数は20日間を限度とする。

3  年次有給休暇を請求しようとする者は事前に申し出なければならない。

第19条(出退社)

出社及び退社については次の事項を守らなければならない。

(1)  始業時刻以前に出社し,就業に適する服装を整え,車両道具等を点検し,就業の準備をしておくこと。

(2)  退社は車両,工具,書類等を点検整理,格納した後に行うこと。

第20条(遅刻早退及外出)

遅刻をした者あるいは早退しようとする者は所属長に届け出なければならない。

私用外出しようとする者は,あらかじめ所属長の許可をうけなければならない。

第21条(欠勤)

病気その他やむをえない事由により欠勤する場合には事前に申し出なければならない。申し出る余裕のない場合は,事後速やかに届け出なければならない。

病気欠勤7日以上に及ぶ時は,医師の診断書を提出しなければならない。

第22条(服務の基本原則)

従業員はこの規定に定めるものの他,業務上の指示命令に従い,自己の業務に専念し作業能率の向上に努力するとともに互いに協力して職場の秩序を維持しなければならない。

第23条(服務心得)

従業員は次の事項を守らなければならない。

(1)  常に健康に留意し,明朗溌剌たる態度をもって就業すること

(2)  職務の権限を超えて専断的なことを行なわないこと

(3)  常に品位を保ち,会社の名誉を害し,信用を傷つけるようなことをしないこと

(4)  会社の業務上の機密及び会社の不利益となることを他にもらさないこと

(5)  会社の車両,工具,機械その他の備品を大切にし,燃料その他の消耗品を節約し,積荷及び商品等は丁寧に取り扱い,その保管を厳にすること

(6)  許可なく職務以外の目的で会社の設備,車両,機械,工具等の物品を使用しないこと

(7)  職場及び車両の整理,整備,整頓に努め常に清潔,正常に保つこと

(8)  作業を妨害し又は職場の風紀秩序を乱さないこと

(9)  職務に関し,不当な金品の借用又は贈与の利益をうけないこと

(10)  酒気を帯びて就業しないこと

(11)  交通法規に精通し,遵守すること

(12)  許可なく他の会社の役員もしくは使用人となってはならない

(13)  会社内部に於いて政治活動をしてはならない

(14)  取引先に不快感を与えないよう接客態度に気をつけること

(15)  従業員は日報及びその他の報告事項を速やかに提出すること

第28条(懲戒の種類)

懲戒の種類は,次のとおりとする。

(1)  けん責 始末書をとり将来を戒める。

(2)  減給 1回について平均賃金の1日分の半額を減給する。

但し,2回以上にわたる場合においては月収入の10分の1を超えることはない。

(3)  出勤停止 7日以内の出勤停止を命じ,その間の賃金は支払わない。

(4)  降格 職務の階級を引き下げる。

(5)  懲戒解雇 退職金を支払わないで解雇する。この場合において,所轄労働基準監督署長の認定を受けたときは,予告期間を設けず即日解雇とする。

第29条(けん責,減給,出勤停止または降格)

従業員が次の各号の一に該当する時には,情状によりけん責,減給,出勤停止または降格に処する。

(1)  本規則にしばしば違反するとき

(2)  素行不良で風紀秩序を乱した時

(3)  業務に熱心でない時

(4)  故意に業務の能率を阻害し又は業務の遂行を妨げた時

(5)  会社の名誉・信用を傷つけた時

(6)  業務上の指揮命令に違反した時

(7)  業務上の怠慢又は監督不行届きによって重大な事故を引き起こしたり会社の設備に損害を与えた時

(8)  前各号に準ずる程度の不都合な行為をした時

第30条(懲戒解雇)(甲1では「第23条(懲戒解雇)」と記載されているが,同規定の位置付けに鑑みれば,これは「第30条」の誤記と認められる。)

従業員が次の各号の一に該当するときは,懲戒解雇とする。ただし,情状により,前条の規定による処分にとどめ,または,諭旨解雇とすることがある。

(1)  重要な経歴を偽りその他不正手段によって入社した時

(2)  業務に関し,会社をあざむき,又は,故意又は重大な過失により重大な交通事故を起こすなど会社に損害を与え,あるいは会社の名誉・信用を著しく傷つけた時

(3)  職務に関し,不正に金品その他を受取,又は与えた時

(4)  正当な理由なくして無断欠勤3日に及んだ時

(5)  許可なく会社の物品を持ち出し又は持ち出そうとした時

(6)  会社の秘密をもらし,又はもらそうとした時

(7)  許可なく在職のまま他人に雇用された時

(8)  前条各号の一に該当し,その情状が重い時

(9)  前各号に準ずる程度の不都合な行為をした時

(3) 配転命令とその違反

ア 原告X4及び原告X5は,物流事業部4課においてトラック乗務員として運送業務に従事していたものであるが,被告は,原告X4に対し平成15年3月28日付けで,同月31日より川島センターにおいて分荷作業に従事せよとの配置転換を命じた。

ところが,原告X4はこれに従わず,同年4月3日から同月23日まで,原告X5の使用する車両に同乗し続け,川島センターにおいて勤務することはなかった。(<証拠略>)

イ 原告X5は,物流事業部4課においてトラック乗務員として運送業務に従事していたものであるが,被告は,原告X5に対し平成15年4月24日付けで,川島センターにおいて分荷作業に従事せよとの配置転換を命じた。

ところが,原告X5は,これに従わず,同月29日から同年5月2日までの間及び同月5日に有給休暇願を提出して勤務を休んだ上,出勤した同月6日には原告X7の使用する車両に同乗して,川島センターにおいて勤務することはなかった。(<証拠略>)

ウ 原告X6は,物流事業部4課においてトラック運転手として運送業務に従事していたものであるが,被告は,原告X6に対し平成16年1月13日付けで,物流事業部第6課の上尾市場において分荷作業に従事せよとの配置転換を命じた。

ところが,原告X6は,これに従わず,本社営業所に出社し続け,上尾市場において勤務することはなかった。(<証拠略>)

エ 原告X7は,物流事業部4課においてトラック運転手として運送業務に従事していたものであるが,被告は,原告X7に対し平成16年3月22日付けで,物流事業部第6課の上尾市場において分荷作業に従事せよとの配置転換を命じた。

ところが,原告X7は,これに従わず,本社事務所に出向き又は福原出荷場に出向くなどし,上尾市場において勤務することはなかった。(<証拠略>)

(4) 労働組合の結成及び団体交渉について

ア 原告らは,平成14年3月,被告の他の従業員らとともに,日本化学産業労働組合連盟関東化学一般労働組合協同商事支部(以下「組合支部」という。)を結成した。

イ 関東化学一般労働組合(通称組合本部。以下「組合本部」という。)の委員長I,同書記次長J,組合支部の支部長原告X7,同副支部長の原告X3,同書記長の原告X5,同会計の原告X4及び原告X6並びに日本労働組合総連合会埼玉県連合会(以下「連合埼玉」という。)の副事務局長K某らは,平成14年6月11日,被告に対し,組合結成通知書と要求書を提出するため,被告事務所に赴き,被告代表者と面談して,組合結成通知書及び団体交渉等を求める旨の要求書を同人に手渡した(<証拠略>)。

ウ 組合本部と組合支部は,それ以後,被告に対し団体交渉を申し入れ,その結果,平成14年7月13日,組合本部及び組合支部と被告との間で第1回目の団体交渉が行われた。その議題は,<1>就業規則の開示と掲示,<2>労働基準法の順守,<3>従業員の社会保険加入問題,<4>夏期一時金の支給,<5>組合事務所及び組合掲示板の貸与についてであった。

組合支部は,被告代表者との交渉が円滑に進まないことから,同月29日,埼玉県地方労働委員会(以下「地労委」という。)に対し,団体交渉あっせんの申請を行い,その結果,地労委によるあっせんが4回行われたが,その後,組合支部は,団体交渉あっせんの申請を取り下げた。

エ なお,原告らが被告から後掲(4)の解雇の意思表示を受けた当時における組合支部内の地位は,原告X7は支部長,原告X3は副支部長,原告X5は書記長,原告X4及び原告X6はいずれも会計であり,原告X2も執行委員であった。

(5) 解雇の意思表示

ア 被告は,原告X1に対し,平成15年9月6日,同日付けで懲戒解雇する旨の意思表示をし,その旨記載された同日付け解雇通知書を手渡した。

なお,同解雇通知書に記載された解雇理由は,「就業規則23条,29条及び30条等に従い,」となっていた。(<証拠略>)

イ 被告は,原告X2に対し,平成15年9月10日,同日付けで懲戒解雇する旨の意思表示をし,その旨記載された同日付け解雇通知を手渡した。

同解雇通知に記載された解雇理由の要旨は次の(ア)ないし(オ)のとおりであった。

(ア) 原告X2は,顧客荷物の取扱いが乱暴であったことから,被告は顧客から厳重な抗議を受けるとともに,原告X2が顧客先に立入ることの禁止及び被告との取引継続を再考する旨言い渡された。

(イ) 原告X2は,被告から自宅待機を命じられていたにもかかわらず,被告が原告X2に対して速やかに連絡がとれないという状態が度々あった。

(ウ) 原告X2は,被告から業務命令として被告代理人坂入髙雄弁護士(以下「被告代理人」という。)の事務所に出頭するよう命じられたにもかかわらず,あえてこれを無視したのみならず,その理由を説明することを拒否した。

(エ) 原告X2は,最近1年間においても書面によるけん責(戒告)処分を受けることが複数回に及んだ。

(オ) 以上の(ア)ないし(エ)は,就業規則2条,10条,17条(又は21条),22条及び23条の各条項に違反すると推認されるところ,少なくとも9条(3),(5)に該当するので,同条本文により解雇する。(<証拠略>)

ウ 被告は,原告X3に対し,平成15年9月25日,口頭にて同年10月26日限りとして懲戒解雇する旨の意思表示をし,また,同年9月26日,原告X3が就業規則22条,23条に違反し,9条(3),(5)に該当するとして解雇する旨記載された解雇予告通知を原告X3に交付した。

同解雇予告通知に記載された解雇理由の要旨は次の(ア)ないし(ウ)のとおりである。

(ア) 原告X3は,平成15年5月ころ,被告の下請業者である有限会社a商事(以下「a商事」という。)代表取締役L1に対し,被告の下請業務を行うのを止めるよう誘いかけた。

(イ) 原告X3は,平成15年9月8日,被告の顧客であるJA○○福原出荷場のM課長に対し,約1時間にわたって,自分達がトラック15,6台を集める,被告の仕事を外し,代わりに自分達にその仕事をさせてほしい旨話して執拗に説得した。

(ウ) 原告X3は,東京都内にある被告代理人の事務所への出張を命じた業務命令に対し,その理由を文書で明記しなければならない旨主張して譲らず,被告の業務命令を軽んじた(<証拠略>)。

エ 被告は,平成15年4月23日,原告X4に対し,被告から同年3月28日付け及び同年4月2日付け各文書並びに口頭で再三にわたり川島センターでの分荷作業を命じられたにもかかわらず同所で服務していない(就業規則22条の業務命令違反)ことを理由に,懲戒解雇の意思表示をした(<証拠略>)。

オ 被告は,平成15年5月7日,原告X5に対し,被告から同年4月24日付け及び同月30日付け各文書並びに口頭で再三にわたり川島センターでの分荷作業を命じたにもかかわらず同所で服務していないこと,被告からの度重なる警告処分に加え他車への同乗を禁じられたにもかかわらず同年5月6日に物流事業部4課の車両所沢○○か○○○○に同乗した(就業規則22条の業務命令違反)ことを理由に,懲戒解雇の意思表示をした(<証拠略>)。

カ 被告は,原告X6に対し,平成16年2月17日付け解雇予告通知書により,「平成16年1月21日付配転命令に従わないこと」,「無断欠勤を繰り返していること」,「複数回の戒告処分にもかかわらず遅刻を重ねたこと」を理由として,同年3月19日付けで懲戒解雇とする旨の意思表示をした。

キ 被告は,原告X7に対し,平成16年4月15日付け解雇予告通知書により,「平成16年3月24日付配転命令に従わないこと」,「配転命令に従わないことについて平成16年3月27日戒告書を出してもそれに従わないこと」,「無断欠勤を繰り返していること」を理由として,同年5月16日付けで懲戒解雇とする旨の意思表示をした。

(6) 原告らの賃金額等

ア 被告においては,賃金は前月16日より起算し,当月15日に締め切り,毎月25日に支払う定めとなっている(賃金規則5条,7条)(<証拠略>)。

イ(ア) 原告X1の平成15年6月から同年8月までの賃金から通勤手当を控除した1か月の平均賃金額は,19万5930円であった。

(イ) 原告X2の平成15年6月から同年8月までの賃金から通勤手当を控除した1か月の平均賃金額は,32万6876円であった。

(ウ) 原告X3の平成15年8月から同年10月までの賃金から通勤手当を控除した1か月の平均賃金額は,33万0283円であった。

(エ) 原告X4の平成15年1月から同年3月までの1か月当たりの平均賃金額は,39万3235円であった。

(オ) 原告X5の平成15年2月から同年4月までの1か月当たりの平均賃金額は,24万2730円であった。

(カ) 原告X6の1か月当たりの平均賃金額は,35万1631円であった。

なお,この金額は,通常の勤務月であった平成15年9月分賃金(34万7310円),同年10月分賃金(33万9980円),同16年1月分(36万7605円)に基づき算定した。

(キ) 原告X7の平成16年1月から同年3月までの1か月あたりの平均賃金額は,38万5465円であった。

2  争点

(1)  労働契約における職種限定特約の存否

(2)  乙事件原告4名に対する配転命令は権利濫用か及び配転命令の不当労働行為性の有無。

(3)  就業規則上の解雇事由(配転命令違反を除く。)の存否

(4)  上記解雇の不当労働行為性の有無

(5)  懲戒解雇の意思表示に普通解雇の意思表示が含まれるといえるか。

(6)  就業不能期間中の賃金額

3  争点に対する当事者の主張(略)

第3当裁判所の判断

1  争点(1)について

(1)ア  前記第2,1の前提事実及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

(ア)a 原告X4は,平成元年11月ころ被告の新聞折り込み広告によるトラック運転手の求人募集に応募して採用面接を受けたが,面接を担当した被告取締役専務O(以下「O専務」という。)から,仕事の内容は被告物流事業部4課の運搬業務であり,各農協に農作物を集荷に行き,福原農協まで運搬した後改めて分荷作業を行い,各市場に運搬していくものであるとの説明を受けた(<証拠略>)。

原告X4は,試用期間を経て平成2年3月に被告に雇用されたが,それと同時に物流事業部4課に配属され,農協から出荷された野菜を各市場に配送するトラックの運転業務に従事するようになった(<証拠略>)。

b 原告X5は,平成4年6月ころ被告の新聞折り込み広告によるトラック運転手の求人募集に応募して採用面接を受けたが,面接を担当した有機部課長Bからは,被告は主に野菜の配送をしている会社であるとの説明を受けたものの,その場では配属先が決まらず,後日の電話又は打ち合わせの際に,物流事業部5課に配属されることとなった(<証拠略>)。

原告X5は,採用後物流事業部5課にて農協(JA△△)で生産される卵を関東一円のスーパーに配送する仕事に従事していたが,平成12年12月16日から物流事業部4課に配置転換され,以降,主に農協から出荷された野菜を関東一円の各市場に配送するトラックの運転業務に従事するようになった(<証拠略>)。

c 原告X6は,被告の新聞折り込み広告によるトラック運転手の求人募集に応募して平成10年8月下旬ころ被告の採用面接を受けたが,面接を担当した主任X4(乙事件原告の一人)から,被告の仕事内容は農協へ赴いて野菜を関東の各市場に配送するものであるとの説明を受けた(<証拠略>)。

原告X6は,平成10年9月に被告に雇用されると同時に物流事業部4課に配属され,農協から出荷された野菜を各市場に配送するトラックの運転業務に従事するようになった(<証拠略>)。

d 原告X7は,被告の花き部門に勤務する知人から,同人の高校の先輩であるNが被告において運転手が足りないと言っているので被告の採用面接を受けてみたらどうかと勧められ,平成7年12月ころ,採用面接を受けることとなったが,面接を担当したNから,物流事業部4課の仕事は本社に出社したらあいさつをして集荷又は分荷をし,福原で積み込みをして各市場に出発し,その後本社に戻るというものであるとの説明を受けた。その際,Nからは,原告X7を採用した後に運転手以外の業務に従事させることはない旨の発言はなかったものの,原告X7としては,口頭にて運転手以外の業務には従事させないとの約束を取り付けたものと思った(<証拠略>)。

原告X7は,平成8年1月に被告に採用されると同時に物流事業部4課に配属され,運転手として農協への集荷及び市場への配送を行うトラックの運転業務に従事するようになった(<証拠略>)。

(イ) 原告X4,原告X5及び原告X6が被告の採用面接を受ける契機となった求人募集広告には,仕事の内容につき「男女4t・大型ドライバー」,資格につき「年齢45歳位迄,要普免,経験者」との記載があり,運転業務以外の仕事についての記載はなく,また,広告作成名義は「株式会社協同商事輸送部」とされていた(<証拠略>)。

イ  以上の事実は,乙事件原告4名が,被告に採用されたあかつきには運転業務のみに従事するものと認識していたことをうかがわせるものであり,また,普通自動車免許の取得が雇用契約上の条件となっているが,他方,証拠によれば,次の事実をも認めることができる。

(ア) 被告においては,運転業務を行う者とそれ以外の業務を行う者とを問わず,同じ賃金体系によって支払われるものと定められていた(<証拠略>)。

(イ) 被告では,これまでにも,ドライバーとして採用された者で,物流事業部4課に所属した者でも,運転業務には従事せず,4課の分荷作業を専門に行ってきた者が存在した(<証拠略>)。

(ウ) 被告が従業員を新たに雇用するに際し,運転手として募集し,採用した従業員を運転手の業務に従事させることはあっても,採用面接の際に運転手の業務以外には従事させないとの約束をすることを話題にすることはなかった(<証拠略>)。

(エ) 被告の就業規則第8条1項は「業務上必要がある時は,転勤または職種の変更を命ずることがある。」と定め,2項は「従業員は,正当な事由がなければ,前項の命令を拒むことができない。」と定めているところ,同条を運転業務に従事する従業員について適用しない旨の規程は,存在しない。

ウ  それらの事実を併せ考慮すれば,乙事件原告4名が被告に雇用される間は運転業務以外に従事することはないと認識していたとしても,それは労働者側の一方的な認識にとどまるものであって,使用者である被告の側もそのような認識を有し,かつ,労働契約締結の際に乙事件原告4名の職種を運転業務に限定することをその内容に盛り込んでいたとまでは,認定できない。

乙事件原告4名は,求人募集広告の記載が運転手を募集するものとなっていたことを強調するが,そもそも求人募集広告は労働契約締結の意思表示そのものではなく,いわゆる申込の誘因というべきものであって,使用者である被告の労働契約締結の意思表示は,あくまで就業規則に示された内容によっていたものというべきであり,将来にわたって職種を限定する旨の明示又は黙示の合意があったと認めることはできない。

したがって,乙事件原告4名及び被告間の労働契約において職種限定の特約があったことを根拠に,乙事件原告4名に対する配転命令が無効であるとする主張は,採用できない。

2  争点(2)について

乙事件原告らは,配転命令が権利濫用であり,また,不当労働行為により無効であると主張する。配置転換に業務上の必要性が存在しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても,当該命令が他の不当な動機・目的をもってされたとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等,特段の事情の存する場合には,当該配転命令は権利濫用となり,また,当該配転命令がその労働者の正当な組合活動に対する嫌悪の意図に基づいて行われたと認められる事情がある場合には,その配転命令は,不当労働行為として無効になるものというべきであるから,以下,上記の各点につき検討する。

(1)  不利益取扱いの有無

ア 乙事件原告4名は,被告との間で労働契約を締結して被告に入社したのは運転業務には時間外労働に基づく時間外手当及び大型手当の支給が期待できるからであり,したがって,被告が乙事件原告4名を運転業務以外の業務に一方的に配転することは,これらの手当の大幅な減額という不利益を与えるものであるから,そのような配転命令は無効であると主張する。

イ 確かに,運転業務に従事する者については,原告X5のように大型自動車免許を有せず,時間外手当もさほど多くない者を除いては,月額4万円前後の大型手当が支給される外,被告における運送業務の性質上,深夜も含め時間外勤務が少なくなく,金額や手当支給の名目に相違はあるが,継続的にそれに対する相当額の手当が支給されていたことが認められる(<証拠略>)。しかしながら,前記求人募集広告(<証拠略>)には,月収につき「250,000円~350,000円※仕事量により異なります。」との記載があるが,当該記載をもって,被告がそのような収入を乙事件被告らに対し保障したと解することはできない。

時間外手当は,深夜の時間外手当を含め,時間外に労務提供をした実績に応じた対価として支給されるものであり,扱う業務量や配送距離,職場の体制等によって増減せざるを得ない性質のものである。

また,被告が提出した川島センターにおける従業員の給与明細によれば,従業員名が匿名で対象期間も短いため,その勤務実態が明らかではないが,配転後の職場においても,大型手当はともかく,時間外手当については現に支給されていることが認められる(<証拠略>)。原告X3が配転命令に従い川島センターに勤務した際の時間外手当の月額は,勤務日数の減少がないのに従前に比べ大幅に低額となっているが,それも1か月の実績に過ぎず,手当の減額による不利益のあり得ることは否定できないとしても,それが労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものとまではいい難い(<証拠略>,原告X3)。

(2)  配転の必要性について

ア 証拠によれば,次の事実が認められる。

(ア) 被告が主たる業務としている貨物運送事業については,平成2年12月における貨物自動車運送事業法の施行及びその後の改正により運送事業の認可に関する規制緩和が進み,運送業者数が増加したこと,発展途上国における製造作業の増加に伴う国内製造業の低迷により国内貨物の輸送量が減少したこと,野菜類に関し直売所の増加及びいわゆる産地直送の増加により卸売市場経由率が低下したこと等の諸事情により,貨物輸送量の絶対数が減少するとともに,被告をはじめ個々の運送業者の受注数も減少するようになった(<証拠略>,弁論の全趣旨)。

(イ)a 他方,平成13年6月に自動車NOx・PM法の改正法が成立し,これを受けて,埼玉県においても,埼玉県生活環境保全条例が平成14年4月1日から施行され,平成15年10月1日からディーゼル車の排出ガス規制が実施されるようになった(<証拠略>)。

その結果,被告保有車両中,型式の古いトラックであるU型車やP型車という車両については,DPF装置(ディーゼルエンジンの排出ガス中に含まれる粒子状物質をフィルターにより捕集し,燃焼等によって除去するタイプの装置)を取り付けなければならず,その費用は車両1台について約120万円以上を要することとなった。また,被告保有車両中,型式が比較的新しいトラックであるKC型車,KK型車及びKL型車という車両については,酸化触媒装置(ディーゼルエンジンの排出ガス中に含まれる粒子状物質を白金等の触媒作用(酸化作用)によって除去するタイプの装置)を取り付けることでその対応が可能であるものの,その費用は車両1台について37万円以上を要することになった。

もっとも,埼玉県では,平成17年4月1日以降は,更にその規制が強化されることになっていたことから,上記の改造費用を掛けて,これらの粒子状物質減少装置を装着しても,排ガス規制に該当する被告保有車両を運行できる期間は限られており,被告保有車両中改造を要するものの車検残余期間を考慮すると,平均して1年9か月程度しか運行できないという状況であった。(<証拠略>)

b さらに,道路運送車両の保安基準の改正により,大型トラック(車両総重量8トン以上又は最大積載量5トン以上)に対しては,平成15年9月1日から,速度抑制装置(スピードリミッタ)の装着が義務付けられることとなり,その装着費用としてトラック1台当たり20万円以上を要することになった(<証拠略>)。

(ウ)a 被告の物流事業部の売上,収益状況は,以上の諸事情に加え,トラックの燃料である軽油類及び新車トラックの価格がそれぞれ上昇していること,運送業者の取引先が温度管理又は品質管理のために貨物冷蔵機能を有しないいわゆるドライ車ではなく冷蔵車を使用することを要求するようになったことから,年々悪化の傾向をたどるようになり,具体的には,被告の売上額は,平成12年度(同年4月1日から翌年3月31日まで。以下同じ。)及び平成13年度には14億円台を維持していたところ,平成14年度には13億円台に減少し,平成15年度には11億円台にまで減少しており,また,物流事業部全体の運送収入から運送経費及び一般管理費を控除した損益計算は,平成12年度は約4735万円の黒字であったのに対し,平成14年度には約3000万円の赤字(ただし,この数値は,O専務が代表者となっている日本有機農産からの輸送発注について事前に支払われた運送費(乙18にある「個人前払」)を収益に含めたものであり,仮にこれを収益から除外すれば約1億1293万円の赤字となる。)という状況になった(<証拠略>,被告代表者本人)。

b 被告が平成14年12月当時保有していたトラック137台の型式と各台数は,型式の古い順に,P型車が3台,U型車が51台,KC型車が47台,KK型車が29台,KL型車が7台というもので,埼玉県生活環境保全条例の第一段階での規制が適用されるKC型車以前の車両が保有車両の大半を占めるという状況にあった(<証拠略>)。

(エ)a 被告は,かような状況の下で,既に平成14年初めころから,排ガス規制装置装着のための補助金を取得して排ガス規制装置を購入し,保有トラックを運行させた場合に果たして採算が採れるかどうかについて検討を始めていたが,同年12月ころ,取締役会において,以下の方針を採ることを決定した。

(a) P型車及びU型車並びにそれ以外の型式であっても事故車でその修理,改造に多額の費用を要する車両は,車検更新をせずに順次廃車の対象とする。

(b) KC型車であっても,顧客先からの需要の少ないドライ車については,廃車の対象とする。

(c) ただし,顧客先の荷卸しスペースの関係などで他の型式車両では対応できない場合についてはドライ車であっても廃車の対象から外す(これに該当するドライ車は,KC型2台及びKL型1台の合計3台であった。)。

そして,被告では,車両を長持ちさせるなどの目的から,各車両ごとに専属のドライバーを決めてトラックを運行させていたことから,上記の基準によって廃車の対象となったトラックのドライバーに対しては,任意退職者を募ったり,配置転換の打診を行うこととし,配置転換の場合の配転先については,その時々の各部署の欠員状況等を踏まえ,配転先候補となる部署の意向も聴取して決定した。(<証拠略>)

b また,被告は,廃車の対象となるトラックの一部を,排ガス規制の適用のない地域の購入希望者に売却することも行ったが,この売却による収入は,平成16年3月期決算では約2000万円,平成17年3月期決算では約3000万円,平成18年3月期決算では約2000万円であった(<証拠略>)。

c 被告は,平成14年中から物流事業部各課ごとのミーティング等で前記の廃車方針について従業員に説明し,さらに,被告代表者は,平成15年1月4日午前9時,午後1時,午後6時,同月8日午前8時,同月9日午後2時,同月11日午後4時30分に行われた新年挨拶会において,全従業員を対象に,前記廃車方針が被告としての正式な方針である旨説明した(<証拠略>)。

(オ)a 被告物流事業部の中でも4課は,その保有するトラックが,U型の10トンドライ車が4台,U型の4トンドライ車が6台,KC型の10トンドライ車が2台,KC型の4トンドライ車が1台,KK型の4トンドライ車が1台,KL型の10トンドライ車が1台,KL型の10トン冷蔵冷凍車が1台というもので,廃車対象となる古い型式で需要の低いドライ車が多かった。

また,4課の保有するトラックは,10トン車がその半数を占めていていわゆる大型車の割合が高かったものであるが,4課が取り扱っていた重量野菜は運送需要の季節変動が激しく,とりわけ収穫量が減る夏場及び冬場には,積荷が少ない状態のままトラックを運行せざるを得ないという点で,非効率であった。

しかも,運送業界においては市場への荷の到着が年々早まる傾向にあったところ,4課でこれに対処するには多くの市場をトラック1台で配送するわけにはいかなくなり,市場ごとに対応させた車両配備が必要となったが,それが車両配備の固定化を招き,ひいては経費の硬直化となって営業赤字の増大を招くこととなった。

(<証拠略>,証人L1)

b 被告代表者は,平成15年1月16日,4課のミーティングにおいて,県条例の排ガス規制によって古い車両が使用できなくなるところ,4課の車両は他課と比較して一番古いが新車購入や排ガス規制の対応のための投資をしてもそれに見合うだけの採算がないためそれらの方策は採り得ないこと,3課の古い車両は順次使用を差し控えていること等を従業員らに説明し,被告においては従業員に対し運送に使用できなくなる車両とその時期,順番を伝えた上で希望退職者を募る旨話し,特に,車両の使用可能期限が迫っていた原告X4に対しては,今後の仕事をどうするかについて検討しておいてほしい旨伝えたが,さらに,被告代表者は,同年2月3日午後1時から開催された4課ミーティングにおいて,トラックのコストが上がっているのに売上が落ちており,このような状況では雇用を確保することが困難であることを従業員らに話した上で,節約改善点はないかなどについて話し合った。

4課においては,その後,6名の者が希望退職や自主退職をした。(<証拠略>)

(カ)a 被告は,前記のとおり平成14年12月当時137台のトラックを保有していたものであるが,平成18年3月時点にはこれを52台まで減少させており,その内訳はKC型車23台,KK型車24台,KL型車5台であって,U型車及びP型車の保有台数は0となった(<証拠略>)。

b また,被告が車検切れによる廃車に合わせてその車両のドライバーに対して任意退職を募ったことなどにより,物流事業部の従業員数は,平成15年1月当時147名であったところ,平成16年1月時点で89名,平成18年3月時点で42名(深谷営業所の従業員を含めば47名)にまで減少させており,平成14年10月以降は物流事業部の正社員の新規雇用を行わなくなった(<証拠略>)。

なお,被告が募った希望退職に応じた従業員は,平成15年3月20日現在,物流事業部1課で2名,3課で3名,4課で3名,6課で5名,7課で1名,9課で2名(9課は,課自体の廃止に伴うもの)となっていた(<証拠略>)。

c 被告は,物流事業部内の事業の縮小だけでなく,他部門の事業の縮小を図り,平成17年3月に川越第2パックセンターを,同年12月末に小江戸ブルワリーのレストランを,平成18年3月に狭山インキュベーションセンター内の研究施設であるR&Dセンター及び神川ビール工場をそれぞれ閉鎖した(<証拠略>)。

さらに,被告は,役員の平成17年度の報酬をカットし,加えて,輸送ルートの効率化,燃料費及び高速料金の削減,固定費の抑制,車両修理の自社内(被告の整備課)での処理を行うなど経費の削減に努め,また,外注化すなわち貨物の運送先が他社の運送先と同一方向の場合に同社に運送を発注するといった方策をも講じた(<証拠略>)。

(キ) 4課では,従来,被告の労務担当のO専務が経営する日本有機農産の農産物の運送を行っていたが,O専務がそれらの運送を扱う会社として平成15年5月設立したKyodo Trans有限会社に,被告の下請としてその仕事を発注するようになった。なお,Kyodo Trans有限会社では,被告の3課が扱っていた仕事も行うようになり,3課で就労していた被告の元従業員を雇用した。(<証拠略>)

イ 以上の認定事実によれば,被告においては古いトラックの使用を差し控える必要性が生じていた上,とりわけ物流事業部4課は保有トラックの特性に加え重量野菜運送業務の抱える特殊事情が存在していたために事業の規模を縮小せざるを得ない状況にあったと認められる(ただ,4課で扱う運送量がどの程度減少していたかについては,被告において客観的資料を提出しないため,具体的には明らかではない。)。

ウ(ア) 次に,事業規模縮小の必要性があるとしても,乙事件原告4名を運転業務とは異なる職種である川島センター等における分荷作業に配置転換する必要性が問題となる。この点に関し,乙事件原告4名は,仮に被告において経営縮小の必要性があるとしても,当該運転手の乗務にかかる車両が車検切れとなった場合には,被告は労働契約に基づく信義則上の配慮義務により,乗務可能な他の車両を当該運転手に対して配車すべきであり,乗務可能な車両がもはや存しないが故に当該運転手に配車し得なくなった段階ではじめて運転業務以外への職種変更を検討すべきであった旨主張する。

被告は,乙事件原告4名を含め運転業務に携わる従業員に対し配置転換を実施する際には,使用するトラックの車検が切れる時期に合わせて機械的にこれを行っている旨主張し,それを裏付ける書証として,廃車したと主張する車両51台について「廃車及びドライバー配転等一覧表」(乙20)を提出しているが,平成15年中に自動車登録を抹消したことが認められる車両はU型のドライ車を中心に十数台であり,また,同表の記載によると,被告のトラックの車検の期間が1年であることからすると平成15年中に新たに車検を受けたとみられる車両が20台近くあり,そのうちU型車5台は,平成16年中にさらに新規に車検を受けている事実が認められる(<証拠略>。なお,原告X6が乗車していたKC型車についても,平成17年2月,被告名義で車検を受けている。<証拠略>)。乙20を検討したJ作成の陳述書(<証拠略>),同人の地労委における証人尋問調書(<証拠略>)及び本訴における証言を併せ考慮すれば,使用車両の車検が切れる時期に合わせて機械的に当該車両が廃車され,その運転手に配転命令が出されていたとは必ずしもいい難いと判断せざるを得ないのであって,この点についての被告の主張は,採用できない。

(イ) しかしながら,被告は,雇用する労働者に対し,その従事している業務から外すことを極力避けねばならないという義務を直ちに負うものではなく,採用後一貫して乗務員として配送業務に従事してきた乙事件原告4名の場合も,各自が使用する車両が車検切れを迎えようとしている場合に,被告において他の車両を配車すべき義務を直ちに負うものとはいい難い。川島センター等への配置転換により,その賃金につき不利益の生じ得ることが否定できないとしても,それが通常甘受すべき程度を著しく超える不利益とはいい難いことは前示のとおりであり,経営縮小の必要性が認められる以上,そのために職種変更を前提とする配置転換をするか否か,退職勧奨など他の方法によるかについては,使用者に相当程度の裁量権があると解される。

(ウ) 上記「廃車及びドライバー配転等一覧表」(乙20)によれば,被告が廃車したと主張するトラック51台に乗車していた物流事業部所属の従業員のうち,平成15年1月以降平成16年1月までの任意退職者が14名(他に,4課から6課に配転後の任意退職者も1名いる。),9課廃止に伴う会社都合退職者が2名おり,また,もともとトラックドライバーは,条件のよい職場を転々とするなど流動的であって,短期間で退職する者が年間相当数いることが認められる(<証拠略>,弁論の全趣旨)。このように,平成15年中に相当数の従業員が退職した上,車検を更新した車両も少なからず存在していたのであるから,平成16年になってからは,運転業務に従事していた従業員が乗車する車両の車検切れを迎えた際にも,分荷作業への配置転換の必要性は,相対的に低下したものと考えられる(なお,川島センターは,平成15年中に閉鎖されている。)。しかし,被告は,前認定のとおり,その後も,経営縮小の目的に沿って人員整理を進めており,原告X4及び同X5に対する配転命令のなされた当時のみならず,原告X6及び同X7に配置転換を命じた当時においても,その必要性がなくなったとか,経営縮小のため,配置転換の方法によることが裁量権を濫用,逸脱したとまで認めることはできない。

(3)  不当な動機,目的及び不当労働行為の意図の有無

次に,運転業務から職種の異なる川島センター等への配置転換を命ずることが,正当な組合活動を阻止する意図その他不当な動機,目的に基づくものか否かにつき検討する。

ア 被告は,乗車していた車両の配(ママ)車時期の早いものから機械的に廃車し,そのドライバーの配置転換をしていると主張するが,その主張の理由のないことは,前示のとおりである。また,運転業務に就いていた者で分荷作業への配置転換を命じられた例はこれまでにもあったが,交通事故等により一時的に川島センター等で分荷作業に従事したというような場合が多いようであり(<証拠略>),そのような事情がなく,「廃車及びドライバー配転等一覧表」(乙20)記載の処遇時期に運転業務から分荷作業への配転命令がなされたのは,原告X3の外には乙事件原告らのみであり,その全員が結成時からの組合支部役員であった。同表記載の他の配転者は,課内配転された者が7名(弁論の全趣旨によれば,課内配転者については,職種の変更はないと考えられる。なお,4課で課内配転された者はいない。),ほぼ同時期に物流事業部の4課から6課に職種の変更なく配置転換された者2名である。

しかし,一方,それら2名の者については,6課に配転する事情があり(<証拠略>),また,同時期に乗車する車両の廃車時期を迎えた原告X4については,任意退職等その後の身の振り方につき意向打診がなされたことは前認定のとおりであり,原告X5も4課の3回にわたるミーティングの際,被告が希望退職を募ったことを認めている(<証拠略>)。さらに,組合結成通知書に名を連ねた組合役員19名のうち,乙事件原告らと原告X3を除く者については,係争状態にあることは本件証拠上うかがえない。

なお,O専務が平成15年5月に設立したKyodo Trans有限会社では,被告の4課の仕事の下請をするほか,3課が扱っていた仕事も行うようになり,3課で就労していた被告の元従業員を雇用するほか,平成16年5,6月ころ,事業所の新規開設として4トントラックのドライバーを募集しているが,同社が被告とは別個の法人であることはさておくとしても,その労働条件が被告の大型手当の付くドライバーと比べ同程度のものかどうかは明らかではないのであって,原告X6や同X7に対し,同社の運転手としての応募の打診がなかったとしても,それが同原告らをことさら不利に扱ったものとは直ちに認めがたい。(<証拠略>)

イ 次に,前記前提事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,組合支部と被告との関係につき次の事実が認められる。

(ア) 組合支部は,平成14年6月11日,結成されたが,4課は,組合支部結成以来組合加入者が多く,支部長(原告X7),副支部長(原告X3),書記長(原告X5),会計(原告X4,同X6)らが所属するなど,組合支部の拠点をなしていた。結成時からの組合支部役員である乙事件原告らは,他の15名の役員とともに,組合結成通知書に名を連ねた(<証拠略>)。

(イ) 被告代表者は,同月11日に原告X7らから組合結成通知書及び就業規則等の開示及び団体交渉等を求める要求書(<証拠略>)を受け取った後,「帰れ。」と言って,組合支部役員らの話を聞こうとしなかったが,その発言自体は,組合支部役員らの来訪が予定されていたものではなく,また,被告代表者には同日他の客の来訪を受ける予定があったとされていること(<証拠略>)からすれば,組合支部結成を不快に感じたことに基づくものであると認めるには足りない。しかし,被告代表者は,その後,物流事業部各課におけるミーティング等において,「組合支部の結成により仕事がなくなった」,「お前達が組合を作るから,農協,ベジテックなどが取引をしないと言っている。」「来年の県条例の排ガス規制でトラックがだめになる。お前らにトラックを売ってやるから勝手にやれ。」などと発言し,また,平成15年1月4日午前9時から行われた年頭挨拶において,「組合ができて以降,交通事故が3倍になった。気をつけるように。わざと事故を起こして迷惑をかける人は会社を辞めろ。」などと,組合活動を嫌悪するものと受け取られかねない発言をした(<証拠略>,弁論の全趣旨)。

(ウ) 組合支部は,平成14年6月結成以来,被告に団体交渉を申し入れた。被告は,同年7月13日になされた1回目の交渉においては,<1>組合支部の求めた就業規則の開示については,改正部分を修正してから掲示する旨回答し,<2>社会保険加入については,被告従業員の加入状況について説明するとともに,被告が社会保険への加入を希望する者について加入させなかった事実はないことを説明し,<3>夏期一時金の支給については,これを出せるような経営状況にないことから出せるかどうか分からない旨回答し,<4>組合事務所の貸与については,被告においては社長室もなく,応接室も不足していることから確保することが難しく,組合掲示板の貸与についても,第三者がいる場所での掲示は不可能である旨をそれぞれ回答した(<証拠略>,弁論の全趣旨)。その後,被告は,組合支部からの再三の団交申し入れにかかわらず,日時の取り決めをせず,団交応諾の回答をしなかった。そこで,組合支部は,同年7月29日,被告を被申立人として,地労委に団体交渉あっせんの申立てをした。その後,4回のあっせんを経て,同年11月14日,第2回目の団体交渉が行われた。組合支部は,その後あっせんの申立てを取り下げ,平成15年1月9日,組合本部とともに,あっせん中に解雇予告された4課所属の組合支部執行委員であるPの解雇取消し,原告X1についての配車に対する不利益取扱い,団体交渉応諾などを求めて,地労委に不当労働行為の救済申立てをした。(<証拠略>,弁論の全趣旨)

(エ) その後,組合支部と組合本部は,被告訴訟代理人の坂入弁護士との間で,上記の懸案事項やビールの販売代金の返還(被告は,その生産に係るビールの買取を従業員に勧めたが,組合支部加入者の多い4課では,多くの従業員がその買取を拒否し,組合支部は,買取に応じた者の代金相当分について,その返還を求めていた。),就業規則の開示とその掲示問題等につき実質的な協議を行い,原告X4及び同X5に対する懲戒解雇が,その協議中になされたものの,組合支部らと被告との間に,平成15年5月15日,覚書(<証拠略>)が締結されるに至り,Pは任意退職扱いとされて解決金の支払いを受け,被告は,履行に数か月を要したが,覚書の合意事項である上記ビール代金の返還を行った。組合支部は,覚書においては解決済みとされた労使間の紛争につき,実質的な解決はされていないと認識するに至ったが,その後も,被告との団体交渉は,継続してなされた。しかし,組合本部とその関連団体は,被告の取引先,銀行に対し,組合支部闘争に対する協力を要請する文書を送付した(<証拠略>)。組合支部は,その間,被告に対し,配転命令を受けた原告X3,同X6及び同X7の労働条件,特に賃金額に直結する時間外労働の有無と時間外手当の算定基準,深夜手当の金額等を知らせること,組合支部との協議が整うまでの配置転換の延期,原告らに対する解雇撤回等を再三申し入れ,地労委は,平成16年3月15日,上記救済申立事件について,被告に対し,労使紛争の拡大防止のため,配置転換やその拒否を理由とする解雇については,慎重に対処するようにとの要望書を発したが,被告は,その経過の中で,原告X7に対する配転命令を行い,同年4月15日解雇予告を行った。(<証拠略>)。

ウ 以上の事実を総合すると,上記経過の中で,被告に組合活動を嫌悪する意図がうかがわれないではなく,また,特に,原告X6,同X7の配転命令については,組合本部等組合支部の関連団体が被告の取引先等に支援要請をしたことなどから,双方間の対立が激化した状況の中で行われたものであり,被告の組合活動嫌悪の意図が強まっていた可能性もある。

しかし,被告が乙事件原告らに本件配転命令を行ったことにつき,その組合活動を排除する意図がなかっと(ママ)はいえないとしても,前記認定にかかる被告の事業規模縮小の必要性,4課従業員に対する被告の説明等配転命令に至る経緯,被告が組合支部と被告間の懸案事項につき協議に応じ,一時は覚書締結に至ったこと,他の組合員との係争関係等本件の諸事情を総合すれば,上記配転命令の決定的な動機が,不当労働行為意思にあったと認めることはできない。したがって,本件配転命令が,不当労働行為により無効ということはできない。また,被告が,その経営縮小のため,乙事件原告らに対する処遇として配置転換を選択したことについては,前記経営縮小の必要性や当時の物流事業部の人員,車両の状況,同原告らに任意退職の打診も行っていることなどの事情を総合すると,被告の裁量の範囲内であり,客観的に合理的理由を欠くものということはできない。

(4)  以上のところからすれば,乙事件原告らに対する配転命令は有効である。したがって,乙事件原告らが配転命令に違反することは,配転先である川島センターや上尾市場における業務遂行に支障を来すばかりでなく,物流事業部4課においても不要な人員を抱えること等によりその業務に悪影響をあたえるものであって,就業規則29条(6)の「業務上の指揮命令に違反した時」に該当し,その情状が重いというべきであるから,就業規則30条(8)に定める懲戒解雇事由に該当することが認められる。

3  争点(3)(配転命令以外の就業規則上の解雇事由の存否)について

(1)  原告X1について

ア 証拠によれば,次の事実が認められる。

(ア)a 被告の従業員であったQ(以下「Q」という。)は,平成14年における組合支部の設立時から組合支部に加入していたものであるが,加入に当たり組合費の支払義務があること及びその額については何ら知らされていなかった。

b Qは,組合設立から約2か月を経たころ,原告X1から茶封筒を渡され,これに組合費として3000円を入れて原告X1のところに持ってくるよう申し渡された。Qは,そもそも組合費を支払う義務があるとは聞かされていないと反発したが,茶封筒を一応受け取った。しかし,Qは,組合費を原告X1に対し支払わなかった。

c Qは,平成14年10月5日午後6時前ころ,その日の仕事を終えた後に被告本社の車庫で運転作業日報(<証拠略>)を書いていたところ,原告X1がQに近づき,いきなりQの車の鍵を抜いてこれを取り上げた上,Qに対し,「ここでは話にならないから,とりあえずおれの車に乗れ。乗って話をしよう。」と申し向けてQを原告X1の乗用車に乗せ,同車を発車させた。

原告X1は,走行する自動車内で,Qに対し組合費を支払えと言い出した。これに対しQは,組合費は支払わないと言ったはずであり,組合をやめると回答したところ,原告X1は,「それでは困るんだ。むじんくん(サラ金ローンの自動貸出機)にでも行くか。」,「おれの知り合いの所へ行くか,そこならいくらでも貸すから,そこで借りて払えよ。」と言い出し,これを拒否するQと言い合いになった。

Qは,最後まで原告X1の要求を拒否し続けたが,原告X1は,結局1時間以上自車でQを連れ回し,そのため,Qは,当日の運転作業日報の提出が遅れてしまい,退社時間が午後7時27分になった。

d Qは,上司のNに原告X1の上記行為について話をしたところ,Nからその内容をメモ書きでいいから書いておくようにと指示され,平成14年10月11日付けのメモ書きを作成した。(<証拠略>)

(イ)a 原告X1は,平成15年4月14日午前2時から同日午前11時まで,配送コースを覚えるために被告従業員のR(以下「R」という。)に同乗してもらい,トラックを運行させた。

b 原告X1は,Rに対し,「被告の資産を調べたが,会社が危ないので,そろそろ身の振り方を考えておいた方がいい。被告の物流事業部(運輸部門)は,社長が組合に運営を任せることになる。そのときは現在の管理職には責任を取って辞めてもらう。現在の従業員も半分か3分の1にして,組合員が中心になって働くことになる。そのような体制になるのは約2,3か月後で,もうその準備に動き始めている。」という趣旨の話をした。

これを聞いたRは,世間話をしていたときであったため,最初は原告X1が冗談を言っているのだと思っていたが,話の内容が具体的な時期の点にまで及んだことから,組合支部の組合員ではなかったRは,新体制になったら自分も解雇されるのかと不安な気持ちになった。

c Rは,原告X1が組合中心の体制になると言及していた時期である6,7月が近づくに至り,新体制になって自分も解雇されてしまうのではないかと不安に思い,上司である運送主任のSに対して,原告X1から聞いた上記の話を相談し,Rが原告X1から聞いた話をまとめた平成15年7月3日付けの報告書面に署名押印した。(<証拠略>,証人R)

(ウ)a 原告X1は,平成15年4月14日,被告の下請業者であるb商事の従業員T(以下「T」という。)に対し,被告が経営難で,ビール事業も業績が悪く赤字を出しているようであり,ビール工場と横浜の店舗は閉鎖するといった趣旨の話をした。

b Tは,この話を聞いて被告が倒産状態に陥るのではないかと不安になり,b商事の専務取締役U1(以下「U1」という。)にその旨報告したところ,U1は,原告X1とTとは通常の業務で接することがないにもかかわらず,原告X1がわざわざTに前記のような話をしたことに引っかかりを感じたため,被告物流事業部1課に所属していたV某に対して,被告のドライバーから被告の会社が危ないという話を聞いたが被告は大丈夫なのかと確認した。(<証拠略>)

(エ) 原告X1は,平成14年2月から8月にかけて,1か月に約8回程度の割合で,被告物流事業部7課に所属するW(以下「W」という。)に対し,自分のタイムカードを打刻しておいて欲しいと依頼し,Wはこれに応じて,上記日時についての原告X1のタイムカードを打刻した。

他方,原告X1は,同じころ,1か月に約10回の割合で,Wからの依頼により同人のタイムカードを打刻した。(<証拠略>)。(ママ)

(オ) 原告X1は,平成14年10月20日ころの正午前後,被告第2センター内において,顧客であるc社の便を含む積込をしている際に,物流部長Nに対し,「こんなに積んで警察に捕まれば,みんな過積載については会社の責任だと,洗いざらいぶちまけるよ。」と発言した。Nが「それは荷主さんにも迷惑が掛かるし,会社の営業もできなくなるし,困るんだけど。」と原告X1に話したが,原告X1は納得しない態度を示した。

なお,被告は,平成15年6月末をもって,c社からの受注を受けなくなった。(<証拠略>)

(カ) 原告X1は,次のとおり被告から処分を受けた(<証拠略>)。

a 積荷の箱を破損したとの事由により,平成14年7月18日付けで戒告処分

b 他の従業員のタイムカードを9回ほど打刻したとの事由により,平成14年8月15日付けで戒告処分

c 事故報告書の提出の指示に従わず業務命令を無視しているとの事由により,平成14年11月7日付けで戒告処分

d タイムカードを打刻せず,日報も提出しないまま,労働組合の話し合いに出席したとの事由により,同日付けで戒告処分

(キ) 被告は,平成15年9月6日,原告X1を被告代理人の事務所に呼び,被告の副社長及びO専務の同席の下,被告代理人が,原告X1に対し,前記(ア)ないし(ウ)の件の有無について,当該事由ごとに関係者から聴取した内容を口頭で説明した上で問い質したところ,原告X1は,それらの事実はないという趣旨の抽象的な回答に終始した。

被告代理人は,複数の関係者からの聴取結果に照らして,原告X1の回答は不自然と判断し,同席者2名と協議の上,原告X1を懲戒解雇する外はないとの結論に達し,その旨原告X1に話した。また,O専務は,別室にて原告X1に対する平成15年9月6日付け解雇通知書(<証拠略>)を作成した後,これを原告X1に手渡した。原告X1は,これを返したので,被告は,後日これを原告X1に送付した(ママ)(<証拠略>)

(ク) 被告は,平成15年9月8日,原告X1に対し,解雇予告手当を支給した(<証拠略>)。

イ 原告X1は,被告の主張する懲戒解雇事由をいずれも否認するので,各認定につき説明する。

(ア) ア(イ)の事実については,被告の主張に沿う証拠として証人Rの証言があるが,同証人は記憶にない事項についてはその旨正直に語るなどしていて,被告側に一方的に組み(ママ)しようとする態度は見られず,その証言には特段不自然な点が見当たらないから,同証言及び同証人作成にかかる(証拠略)により認められる。これに反する証拠(<証拠略>及び原告X1本人)中上記認定に反する部分は採用できない。

(イ) ア(ア)及び(ウ)については,乙39及び64の作成者であるQ並びに乙37の作成者であるU1が故意に客観的事実に反する内容の書面を作成して原告X1に不利益を与えようとする動機といえるほどの事情は,本件全証拠を総合しても見当たらず,両名に対する反対尋問を経ていないという事情を差し引いても,乙37,39及び64によりア(ア)及び(ウ)の各事実を認定しうる。ただし,ア(ウ)のTに対する話の内容は伝聞でもあり,8か月余も経過してから作成された書面以外よるべき証拠がないことから,どの程度真実性のある話としてなされたのかなど,その話のなされた状況や意図は必ずしも明らかではない。

(ウ) 他方,ア(エ)の事実については,乙99の作成者であるWが一方的に原告X1の非を明らかにしているわけではないことに加え,原告X1は,その本人尋問において,原告X1とWとは比較的仲が良かった旨供述しているなど,本件証拠上乙99の記載内容の信用性を揺るがすほどの事情もうかがえないことを併せ考慮すると,Wに対する反対尋問を経ていないという事情を差し引いても,乙99の内容は信用性が高い。

(エ) ア(オ)の事実については,前記同様乙93の信用性に疑問を抱かせる事情が見当たらないこと等から認定することができ,ア(カ)の事実については,乙52の1ないし4により戒告処分を受けた事実そのものは認定できる上,これらの処分が原告X1にとって身に覚えのない事実に基づくことをうかがわせる証拠も見当たらない。

(オ) 他方,被告は,原告X1が被告の配車表を無断でコピーしたとの事実及びア(オ)に関し被告の取引先に伝わる可能性を配慮することなく過積載の件を殊更に吹聴したとの事実をも主張する。

甲79及び乙133の5によれば被告の配車表は本来外部に出るものではないにもかかわらず外部に流出したことが認められるものの,甲135の2によれば,原告X1は配車表管理者である7課主任Cすなわち有権限者の承諾を得た上これをコピーしてもらったという事実を認定できるのであって,原告X1が無断でコピーしたとまでは証拠上認定できない。

また,乙93によれば原告X1の過積載に関する発言が被告の取引先であるc社の積荷に関するものであり,Nがc社に過積載に関する発言が伝わるのを危ぐし,実際その後c社と被告との取引が打ち切られたことが認められるが,c社の仕事は徐々になくなったものであり(<証拠略>),その打ち切りが原告X1の過積載についての発言によるものとは証拠上認定できない。

ウ(ア) 次に,以上のとおり認定したア(ア)ないし(カ)の事実をもって原告X1に懲戒解雇事由があるといえるかどうかを検討する。

a ア(ア)のQに対する行為は,「従業員は互いに協力して職場の秩序を維持しなけれはならない」と定める就業規則22条(服務の基本原則),「作業を妨害し又は職場の風紀秩序を乱さないこと」を定める就業規則23条(服務心得)(8)及び「従業員は日報(中略)を速やかに提出すること」を定める同条(15)の規定に違反する行為と認められ,それ自体は非難されるべきものといえるが,被告内部の問題にとどまるものである上,組織としての被告の統率,運営を損なう危険性をそれほど有しているものともいえないことに照らせば,「業務に関し(中略)会社の名誉・信用を著しく傷つけた時」と定める就業規則30条の(2)に該当する懲戒解雇事由に該当するほどの行為とまではいい難い。

b ア(イ)のRに対する行為は,「従業員は互いに協力して職場の秩序を維持しなければならない」と定める就業規則22条(服務の基本原則),「常に品位を保ち,会社の名誉を害し,信用を傷つけるようなことをしないこと」を定める就業規則23条(服務心得)(3),「作業を妨害し又は職場の風紀秩序を乱さないこと」を定める同条(8)の規定に違反する行為と認められ,やはり非難されるべきものではあるが,ア(ア)の行為と同様の理由で,懲戒解雇事由に該当するほどの行為とまではいい難い。

c ア(ウ)のb商事の従業員Tに対する行為は,下請業者に対する被告の信用を傷つけ,被告の事業に支障を生じさせるおそれのある非違行為に当たる可能性があり,単に被告内部の問題にとどまらない事態を生じさせかねない。他方,前示のとおり,その話のなされた状況や意図は明らかではなく,また,ごく短時間の接触に過ぎないから,それにより直ちに被告の業務に具体的な支障を生じさせるようなものとは認め難い。したがって,同様に,就業規則30条の(2)に該当する懲戒解雇事由に該当するほどの行為とまではいい難い。

d ア(エ)のタイムカード打刻の行為は,自己又は他の従業員につき虚偽の出退社時間を被告に届けることにより,業務に関し,被告をあざむくもので,不正な給与の支給を受けることで被告に対し損害を与えるものといえるから,「業務に関し,会社をあざむき,(中略)会社に損害を与え(中略)た時」と定める就業規則30条の(2)に該当し得ると認められるが,被告が被った損害の程度が明らかになっていないことに照らすと,同条本文により懲戒解雇事由に該当するものと即断することは難しい。また,この行為は,一部,戒告処分(ア(カ)b)の対象と一部重複していると考えられる。

e 他方,ア(オ)の過積載に関する発言行為は,職場内で違法行為があった場合に従業員はそれを第三者に告知してはならないという義務を負うとは認め難いことに加えて,原告X1が過積載の事実を被告の顧客であるc社の担当者に伝えたとまでは認定できず,原告X1の行為が被告の内外で問題を生じたとはいえないから,この事実は、原告X1に対する懲戒解雇事由の一つとして評価することはできないというべきである。

f ア(カ)の4度にわたり戒告処分(就業規則上は,けん責処分と考えられる。)を受けたとの事実については,戒告処分事由となった各事実そのものをもって懲戒解雇事由として評価することは,いわば二重処罰を認めることとなるので,許されないというべきである。

仮に,被告の主張が,戒告処分事由そのものではなく,複数回の戒告処分を受けたにもかかわらずその態度が改まらなかったことをもって,会社の秩序を乱し続けたことを懲戒解雇事由とするというものであるとしても,原告X1が受けた上記戒告処分は,平成14年7月から同年11月にかけてのものであり,ア(ア)及び(エ)(ただし,一部戒告処分の対象と重なっている。)はいずれも最終の戒告処分より前に生じた事由であること,そして,ア(イ)及び(ウ)の事由以外に原告X1の態度が改まらなかったと判断する根拠となる事実は認められないことからすれば,戒告処分後における原告X1の態度が変わらなかったことをもって,懲戒解雇事由の一つとすることは認め難い。

(イ) 原告X1に対する解雇通知書には,「当社就業規則23条,29条,30条等に従い」とあるのみで,具体的な解雇事由の明示はないが,就業規則にはその明示を義務づける規定はなく,それがなかったことにより懲戒解雇が無効になるものではない。しかし,前記認定によれば,原告X1につき,懲戒解雇時に解雇事由とされたのは,ア(ア)ないし(ウ)の行為と考えられるところ,その懲戒事由の該当性や違法性に対する判断は前示のとおりであり,また,ア(エ)のうち戒告の対象である行為より前の行為につき被告が解雇時に認識し,かつ,それを訴訟において解雇事由として追加主張することが許されるとしても,それが何らかの懲戒事由に該当し得るとはいえ,原告X1に対する懲戒解雇は,社会通念上相当なものとして認めることはできず,権利濫用として無効というべきである。

(2)  原告X2について

ア 証拠によれば,次の事実が認められる。

(ア)a(a) 被告は,青果物の問屋である株式会社dの下請業者として,一括して被告の川島センター構内での野菜等の商品の仕分け及び配送業務を請け負っていた。

(b) 原告X2は,平成15年8月26日の朝,被告の配送担当者として川島センター構内で作業中,1箱に6キロの巨峰が入ったケース5,6箱がパレット(<証拠略>)上に縦に積み重ねられた状態で置かれていたところに,自ら使用していたかご車(<証拠略>)を引っ掛けて巨峰入りケースをひっくり返してしまい,ケース内の巨峰を床に散乱させた。すると原告X2は,床に散乱した巨峰を乱暴な動作でケースに戻した上,さらに巨峰の入っているケースを投げるようにして積み直した。

その様子を目撃したd社課長H1は,商品に傷が付くとd社の信用に影響することから,原告X2に対し,戻し方が乱暴である旨注意をしたところ,原告X2は,H1をにらみながら,不満げな様子で,「はああ,すいませんね。」と言い,自分の非を認めようとしない態度をとった。

(c) H1は,原告X2の商品に対する乱雑な取扱いとそれを注意した際の反応に立腹し,被告の従業員であるM1(以下「M1」という。)に対し,携帯電話にて,「おたくのX2っていうのにどういう教育をしてるんだ。荷の取り扱いが悪すぎる。他に行ってもやるから,もう,うちの商品は絶対さわらせない。明日からd社関係の仕事はさせるな。」と抗議した。

b なお,原告X2は,H1がこの件についての報告を被告にするものと思い,自ら直ちにこの件を川島センターの責任者に報告することをしなかった。(<証拠略>,証人H1)

(イ)a 被告副社長は,川島センターで生じた本件事故に関して,M1に対し,原告X2に同月27日からの出勤停止を命じるとともに,始末書を書かせるよう指示した。そこで,M1は,原告X2に対し,同月26日午後6時半すぎころ,同月27日から原告X2を出勤停止としその間の賃金は支払われないこと,原告X2は被告に対し始末書を提出すべきこと,今後の勤務については被告からの連絡が入るのを待つべきことを携帯電話で原告X2に伝えた(<証拠略>)。

b O専務は,原告X2に対する対応について被告代理人に相談した結果,本件事故について原告X2から事情聴取して事実を明らかにすることとなった。そこで,被告は,同月28日付けで,原告X2に対し,本件事故につき原告X2が顧客に取った態度についての事情聴取を行うから,同年9月2日午前11時に被告本社に出頭するよう指示した書面を原告X2の自宅宛てに内容証明郵便で発送した(<証拠略>)。

原告X2は,同日,被告本社に出頭した。O専務は,原告X2から本件事故についての事情聴取をし,その際,3日以内に本件事故についての事実経過を書いた始末書を提出するよう原告X2に命じたが,原告X2は始末書を提出しなかった(<証拠略>)。

c 他方,被告代理人も,同月6日,原告X2に対する事情聴取を行うために架電したが,原告X2と連絡を取ることができなかった。そこで,被告代理人は,同月8日午後9時58分,原告X2に対し,同月9日午後5時30分に被告代理人事務所に必ず出頭すること,これは業務命令であることを記載した電報を発信したが,原告X2は,同日,電話で被告代理人に対し,具体的な理由を説明することなくただ単に用があって出頭できない旨連絡し,結局,指定時刻に被告代理人事務所に出頭しなかった(<証拠略>)。

(ウ) 被告は,同月10日,原告X2に対し,同日付けで懲戒解雇する旨の意思表示をし,その旨記載された同日付け解雇通知を手渡したが,原告X2は,同日,被告から解雇予告手当を受領し,また,同月19日,被告本社を訪れ,被告の制服を返還するとともに,上司や同僚に対し挨拶をして退社した(<証拠略>)。

イ(ア) 原告X2は,川島センターにおける本件事故について,ケースの積み上げ態様及びH1に対する態度は被告の主張するようなものではなかったと反論するが,証人H1の証言が被告の主張を裏付けるものとなっているところ,同証人の証言に特段不自然な点が見当たらず,同証人があえて虚偽の事実を述べることについての動機となるような事情もまた見当たらないことからすれば,同証人の証言及びH1作成にかかる陳述書(<証拠略>)により,前記ア(ア)a(b)及び(c)の事実を認めることができ,証拠(<証拠略>,原告X2本人)のうちこれに反する部分は採用できない。

(イ) その後における被告側の事情聴取等の一連の経緯(前記ア(イ)aないしcの事実)についても,前掲の各書証から,認めることができる。

(ウ) しかしながら,原告X2が平成15年1月10日に2度,そして同年3月25日に被告から戒告処分を受けたとの事実については,(証拠略)から原告X2が荷物の積み残しに関して口頭による注意を受けたとの事実は認め得るものの,戒告書(<証拠略>)が原告X2に交付されていたとの事実を認定するに足りる証拠はなく,したがって,これらの事実については,認めることができない。

ウ(ア) 次に,原告X2に対する解雇通知における解雇事由は,上記けん責(戒告)処分を受けたことのほかは,<1>顧客の荷物取扱いが乱暴であったこととその影響,<2>自宅待機を命じていたにもかかわらず,速やかに連絡が取れない状態が度々にわたったこと,<3>代理人弁護士事務所への出頭を命じた業務命令の無視とその理由説明の拒否というものであるが,それを含め,以上のとおり認定したア(ア)a(b)及び(イ)aないしcの事実をもって原告X2に懲戒解雇事由があるといえるかどうかを検討する。

a 被告は,野菜等の傷みやすい生鮮食料品の配送や仕分け作業等を業務として顧客から請け負い,これに対する善管注意義務を負うものであるところ,原告X2のア(ア)a(b)の行為は,顧客に対する被告の業務上の信用を相当程度傷つけるものといえるが,少なくとも就業規則30条(2)の「業務に関し,(中略)会社の名誉・信用を著しく傷つけた時」に該当し,従業員としての地位を喪失させる懲戒解雇を相当とするものと解することはできない。

なお,原告X2による行為が被告及びd社間の取引に支障を生ぜしめたか否かは,本件証拠上明確ではない。

b 原告X2のア(ア)bの不報告の行為は,事故等があった場合に勤務先に報告すべきことは明示されなくとも業務上の指揮命令の一つといえるものであるから,就業規則29条(6)の「業務上の指揮命令に違反した時」又は(8)「前各号に準ずる程度の不都合な行為をした時」に該当するものと解すべきである。

c 原告X2のア(イ)aないしcの行為は,始末書が謝罪の意思表示を命ずるものでなく,事実経過の報告という趣旨のものである限りにおいては,被告の業務上の指揮命令に違反するものといえるから,就業規則29条(6)に該当するものと解するべきである。

なお,被告が原告X2に命じたのが「自宅待機」か「出勤停止」かについては当事者間に争いがあるところ,M1が原告X2に伝えた内容が前記認定のとおりであることからすると,賃金が支払われない出勤停止であったと判断されるが(<証拠略>によると,その後O専務の指示により7日間の給料相当分の支払があった可能性があるが,当初の告知があくまで賃金の支払はないというものであった以上,前記のとおり判断される。),原告X2が始末書の提出や自宅で被告から連絡が入るのを待てとの指示にも従わなかった以上,そのどちらであるかを判断するまでもなく,原告X2の行為は就業規則29条(6)に該当する行為といえる。

(イ) 以上より,原告X2の行為は,就業規則29条(6)に該当するものであり,懲戒解雇事由に該当するとまではいい難い。被告の取引相手であるd社との関係悪化に繋がり得る行為であったという点で軽微なものとはいい難いものの,懲戒解雇事由に直ちに該当するものと認めることはできない。

(3)  原告X3について

ア 証拠によれば,次の事実が認められる。

(ア)a(a) a商事は,被告の下請として貨物運送事業を行っている会社で,被告との取引は16年以上続いていた。

(b) 原告X3は,平成15年5月ころ,a商事の代表取締役であるL1(以下「L1」という。)に対し,「(物流事業部)4課の人がみな走らなくなったら,L1さんどうする。」と質問し,L1が「仕事をもらっている立場だから走るよ。」と答えたところ,原告X3は「走らないでほしい。」と言った。L1が「うちは車を止められないよ。」と答えると,原告X3は,「みんなを引き取って継続して福原(出荷場関係の業務)はおれがやる。自分で全部車をそろえることができないから,L1さん一緒にやろう。」,「農協は(被告との契約を打ち切らせるべく)自分が丸め込むことができる。福原だけでなく越谷や大和センターの転送便も自分でやる。仕事を協同商事から取り上げて会社をつぶすためにやっているんだ。」と言い出し,さらに,4課の業務は新たに設立する会社に任せ,e運輸(農協との取引について被告と競合関係にある会社)がこれに興味を示していること,ただし,原告X3自身は新会社には関わらないつもりであるとの話をした。

(c) L1は,4課の従業員らが被告から同課の業務を取り上げることを画策しており,これが具体化するとa商事が被告から受けている下請業務に支障が出るのではないかと心配になったため,被告代表者に対し,原告X3から伝えられた内容を話したところ,被告代表者は,心配する態度を見せたものの,口頭では大丈夫であるとの回答をした。

L1は,別途他の会社から,被告が内部でもめるなどしているらしいがa商事は下請報酬を受領しているのかどうかといった趣旨の問い合わせを受け,また,a商事の取引銀行の担当者から,被告の従業員が「騒ぎを起こしている」との話を聞かされた。L1は,被告との取引関係を維持したいとの思いから,前記問い合わせ等に対し,被告とa商事との取引については何ら心配するような事態は生じていない旨回答した。(<証拠略>,証人L1)

b(a) ○○農業協同組合(以下「○○農協」という。)は,全農さいたまの傘下の農協の一つであり,全農さいたまの子会社であるf運輸株式会社(以下「f運輸」という。)を通じて,同社の下請業者である被告に対し,野菜の輸送業務を委託しており,被告との取引関係は約20年近く継続していた。

(b) 原告X3は,平成15年5ないし6月ころ,○○農協の川越事業部営農センター課長M(以下「M」という。)に対し,2,3回にわたり,被告を○○農協の野菜の輸送業務から外してほしい旨申し入れた。

(c) また,原告X3は,同年9月7日,約1時間にわたりMと世間話等をしたが,その過程で際(ママ)Mに対し,「おれたちがトラックを15,16台集めるから,協同商事の仕事を外してくれ。」,「後は代わりにおれたちがこの仕事をする。」という話をした。これを聞いたMは,被告と契約をしているのは○○農協ではなくf運輸であることから,「俺の一存では何もできないよ。」などと答えたが,原告X3は,なおもMに対して,被告を○○農協の野菜輸送業務から外すよう求め続けた。

(d) Mは,原告X3の話に困惑しているという相談を○○農協のかつての上司にしたところ,同人から,被告との今後の関係もあるので被告に原告X3から聞かされた話をしておいた方がいいとのアドバイスを受けた。

Mは,同月8日,被告代表者からの電話を受け,前日に原告X3からどのような話があったのかについて問われた。そこでMは,被告代表者に対し,前記のとおり原告X3からなされた話を被告代表者に伝えた。

さらに,Mは,同月19日及び22日,原告X3が同年5ないし6月ころ及び同年9月7日にMに伝えた話の内容を被告が書面化してきたものを示されたので,その都度その内容を確認した上,これらに署名した。(<証拠略>,証人M)

(イ)a 被告は,原告X3からの事情聴取を行う必要があると判断し,平成15年9月22日付け業務命令書により,原告X3に対し,同月24日午後6時に被告代理人事務所に出頭するよう指示した(<証拠略>)。

原告X3は,これに対し,自分の仕事の出勤時間でないと行くことはできないと言ったため,被告は,平成15年9月24日付け業務命令書により,原告X3に対し,同月25日の午後10時(原告X3の出勤時間)に被告代理人の事務所に直接出勤すること,同日午後11時に同事務所を退出し,原告X3の勤務先である川島センターに戻ること,川島センターへの出勤に伴う所要時間と被告代理人事務所に出勤するための所要時間の差は残業として保障する旨が記載された同月24日付けの業務命令書を原告X3に渡した(<証拠略>)。

b 被告代理人は,同日午後10時より前に被告代理人事務所に出向いた原告X3に対し,L1及びMに対し働き掛ける発言をしたことが事実か否かについて質問したところ,原告X3は,被告代理人事務所に呼び出された理由が不明であって,その理由を予め書面で出すべきだと被告代理人に対して抗議し,被告代理人からの質問に対しては単に事実を否定する回答に終始するのみであった(<証拠略>)。

c そこで,被告代理人は,L1及びMに対し働き掛ける発言をしたことは事実であったものと判断して,原告X3に対し,平成15年9月25日付けで,同月26日限りとして懲戒解雇する旨口頭で伝え,さらに,被告は,同日付けで,原告X3に対し,解雇理由を記載した解雇予告通知を交付した(前記前提事実(5)ウ)。

(ウ)a 原告X3は,平成15年4月28日に児童をはね,むちうち症程度の傷害を負わせる人身事故を起こしたが,これについての戒告書を受領しておらず,後日その旨の戒告書が同年5月1日付けで作成された(<証拠略>)。

b また,被告においては,交通法規上は昼間に灯火することは要求されていないものの,他の運送業者が注意喚起のために昼間の灯火をするようになったこともあって,これを導入したものであるところ,原告X3は,平成15年5月18日に無灯火で走行し,それを理由に同月19日付けで戒告処分を受けた(<証拠略>)。

イ(ア) 被告が懲戒解雇事由として挙げるア(ア)a(b)及びb(c)の事実に沿う内容となっている証人L1及び同Mの証言は,いずれも不自然な点が見当たらず,かつ,これらの各証言の信用性に疑問を抱かせる事情も見当たらない(実際,原告X3は,その本人尋問において,証人L1及び証人Mが虚偽の事実を持ち出して原告X3に不利な状況を作り出す理由は見当たらない旨供述している。)ことから,上記事実は,いずれも認めることができる。この行為は,就業規則23条(服務心得)(2)が定める「職務の権限を超えて専断的なことを行わないこと」及び同条(8)が定める「作業を妨害し又は職場の風紀秩序を乱さないこと」に反するものである。そして,被告の複数の取引先に対してその打切りを働き掛け,これを繰り返していれば,被告が取引先を失うなど,その事業に影響を与えることは,あり得ないことではないことも考慮すれば,その情状が軽いとはいい難い。

しかし,一方,原告X3の話の内容は,にわかに信用し難い面も否定できず、直ちに被告に対する具体的な脅威となるほどのものとは解し難い。証人L1の証言によれば他社及び銀行からも被告の内情についての問い合わせ等があったとは認められるけれども,それは前認定の組合本部などの活動によるところの結果とも考えられ,原告X3の行為の結果とは直ちに認め難い。

(イ) ア(イ)bの被告代理人に対する行為については,事情聴取に対し理由等を明らかにすべきことをいわば「盾に取る形で」単に事実を否定する回答に終始するにとどまったことが,使用者側にとって遺憾な態度であることはいうまでもないが,独立した懲戒事由とするには,就業規則上も根拠となり得る条項が見当たらない上,かような態度を取った背景ないし原因となっている事実関係をもって懲戒事由とすれば足りるというべきであるから,原告X3の被告代理人に対する応対行為自体は,懲戒事由に該当するとは認め難い。

(ウ) ア(ウ)aについては,戒告処分を受けたとの事実は認め難く,単に人身事故(むち打ち症程度)を起こしたとの事実が認められるにとどまるものであるところ,就業規則29条(7)には「重大な事故を引き起こした(中略)時」とあり,原告X3の引き起こした事故が「重大」であるとの立証はない。したがって,原告X3のこの行為は,懲戒事由に該当するとは認め難い。

ア(ウ)bについては,原告X1について述べたところと同様,既に戒告処分事由となった事実をもって懲戒解雇事由として評価することは,いわば二重処罰を認めることとなるので許されず,この点から,ア(ウ)bの無灯火については,もやは懲戒解雇事由とすることはできない。

なお,仮に,被告の主張が,戒告処分後に態度が改まらなかったことをもって,会社の秩序を乱し続けたことを懲戒解雇事由とするというものであるとしても,原告X3が受けた上記戒告処分は,1回にすぎず,その内容も無灯火という軽微なものである以上,その後の態度をもって懲戒事由とすることはできない。

(エ) 以上より,原告X3のア(ア)a(b)及びb(c)の行為は,懲戒解雇事由に当たる可能性を有するものではあるが,直ちに懲戒解雇を相当とするものとは認め難い。その解雇は,社会通念上相当と是認しうるものとはいい難く,被告は,解雇権を濫用したものというべきである。

4  争点(5)について

(1)  被告は,甲事件原告らの解雇に当たっては,予告期間を置き,あるいは解雇手当1か月分を支払っているのであるから,被告の同原告らに対する懲戒解雇の意思表示は,普通解雇の意思表示をも含んでいると主張するところ,被告が原告X1及び同X2に対し,解雇予告手当を支払ったことは当事者間に争いがなく,原告X3に対しては1か月の期間を置いたことは前認定のとおりである。

(2)  普通解雇は,社会的,法的意味を異にするから,懲戒解雇の意思表示がされたからといって当然には普通解雇の意思表示がなされたことにはならないが,懲戒解雇の意思表示をした者が,同一事実につき,普通解雇事由にも該当するとして,予備的に普通解雇の意思表示をすることは可能である。しかし,甲事件原告らに対しては,懲戒解雇の意思表示はしているものの,原告X1及び同X3については,その具体的事由が明らかではなく,また,原告X2に対しては,解雇理由書に具体的事実を摘示しているものの,摘示された就業規則の条項とその事由との関係は明らかではない。そうすると,被告のした懲戒解雇の意思表示に普通解雇の意思表示が含まれていると直ちに認めることはできず,むしろ,本件の事実関係に照らせば,被告は,甲事件原告らの非違行為に対する懲戒権の行使として,解雇の意思表示をしたものと認められる。

(3)  したがって,被告の予備的主張は理由がない。

5  争点(6)について

(1)  甲事件原告らの各自の平均賃金額が同原告ら主張のとおりであることは,当事者間に争いがない。

(2)  被告が甲事件原告らの就労を拒んでいることは明らかであり,懲戒解雇が無効である以上,甲事件原告らが被告に対し,同原告らが解雇後の賃金支払い請求権を有しているものと認められるところ,就業規則によれば,その金額はその主張のとおりであると認められる。なお,本件証拠上,甲事件原告らが解雇された後,他で就労又は自営して収入を得ていることがうかがわれるが,その旨の主張やその金額を確定し得る証拠はなく,それを控除することはできない。

第4結論

以上によれば,本件請求のうち,甲事件原告らの請求は理由があるからこれらを認容し,乙事件原告らの請求は理由がないからこれらを棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法65条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松津節子 裁判官 柴﨑哲夫 裁判官國分綾は,差し支えにつき,署名押印することができない。裁判長裁判官 松津節子)

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