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さいたま地方裁判所川越支部 平成22年(ル)582号 決定 2010年8月26日

主文

1  債権者の申立てをいずれも却下する。

2  申立費用は債権者の負担とする。

理由

1  債権者は、別紙請求債権目録記載の請求債権の弁済に充てるため、同目録記載の執行力ある債務名義の正本に基づき、債務者が第三債務者に対して有する別紙差押債権目録記載の債権を差し押さえる旨の裁判を求めた。

2  債権執行についての差押命令の申立ては、「差し押さえるべき債権の種類及び額その他債権を特定するに足りる事項」を明らかにしなければならない(民事執行規則133条2項)。そして、差押債権の特定の程度は、差押債権の表示を合理的に解釈した結果に基づき、第三債務者において、格別の負担を伴わずに調査することによって、差押えの効力が及ぶ預金債権を他の債権と誤認混同することなく認識し得る程度に表示されていることを要するものと解される。

この点、都市銀行等の金融機関は、取り扱っている預金債権等の量が膨大である上、実際の取引ないし顧客管理は各取扱店舗等ごとにある程度独立して行われており、全本支店が包括的に対象とされる債権差押命令が発せられた場合は、差押債権を把握するためには、各取扱店舗における差押債権の調査のみならず、対象とされた店舗相互間での緊密な連絡と確認作業を要する。そして、債権差押命令は、送達により直ちに弁済禁止等の効力を生じるので、預金債権差押命令の送達を受けた金融機関は、速やかに差押債権を調査して把握できなければ、二重払いの危険や債務不履行責任の危険にさらされることに鑑みると、金融機関の有する預金債権等の差押申立てをするにあたって、取扱店舗を限定しないで申立てることは、支店に順位を付した申立てであっても、金融機関に過度の負担を負わせるものといわざるを得ない。

したがって、取扱店舗を限定しない債権差押命令申立ては、差押債権の特定を欠くものであり、不適法である。

3  債権者は第三債務者である各金融機関の取扱店舗を限定せず、本店及び各支店を対象として、各支店に順位を付して差押債権を表示して本件債権差押命令申立てを行ったが、上記のとおり、本件差押命令申立ては、差押えるべき債権の特定が十分でないことが明らかであるにもかかわらず、債権者は当裁判所の補正命令に対して債権を特定するための補正を行わない。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判官 小林健留)

(別紙)請求債権目録<省略>

差押債権目録1~3<省略>

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