大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

さいたま地方裁判所熊谷支部 平成21年(ワ)245号 判決 2011年9月26日

原告

有限会社X1

同代表者取締役

X2<他1名>

原告ら訴訟代理人弁護士

山下茂

山下三佐子

鈴木紀久

菊地恵美

被告

日新火災海上保険株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

柏木秀夫

松吉威夫

鈴木邦人

植田雄一

城﨑建太郎

被告

日本興亜損害保険株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

佐藤光則

大西敦

中野元裕

井川寿幸

結城亮太

白川久雄

永松正悟

同訴訟復代理人弁護士

津波朝日

五十嵐佳弥子

被告

埼玉県火災共済協同組合

同代表者代表理事

同訴訟代理人弁護士

川島鈴子

被告

全国生活協同組合連合会

同代表者代表理事

同訴訟代理人弁護士

堀本縣治

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告日新火災海上保険株式会社は、原告有限会社X1に対し、三三〇万六五六八円及びこれに対する平成二一年二月二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告日本興亜損害保険株式会社は、原告有限会社X1に対し、五六三万六二五八円及びこれに対する平成二一年二月三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  被告埼玉県火災共済協同組合は、原告有限会社X1に対し、一一四七万一八九三円及びこれに対する平成二一年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告全国生活協同組合連合会は、原告X2に対し、二五六〇万四〇二六円及びこれに対する平成二一年一月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告らとの間で保険契約又は共済契約を締結していた原告らが、同契約における保険又は共済の目的である建物等が火災(以下「本件火災」という。)により焼失したとして、被告らに対し、同契約(以下、本件火災当時原告らと被告らとの間で締結されていた保険契約又は共済契約を「本件保険契約等」という。)に基づき、保険金又は共済金(以下「保険金等」という。なお、本件保険契約等に基づく保険金等を「本件保険金等」という。)の支払を求めたところ、被告らが本件火災は原告X2又は同原告と意を通じた第三者の故意により生じたもので故意免責が認められるなどと主張し、原告らの請求を争う事案である。

一  前提事実(当事者間に争いがない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実。なお、証拠等によって認定した事実については、末尾に証拠等を掲記する。)

(1)  当事者等

ア 原告有限会社X1(以下「原告会社」という。)は、木材及び建築資材の販売等を目的とする有限会社であり、原告X2(以下「原告X2」という。)は原告会社の代表者である。

原告X2は、昭和四四年ころ、埼玉県熊谷市内に別紙物件目録記載一の建物(以下「本件建物」という。)を建て、同建物に住み始めるとともに、同所で材木店を営むようになった。本件火災当時は、本件建物の西側に隣接して、材木置場兼作業場である別紙物件目録記載二の建物(以下「本件材木置場」という。)が設けられていた。また、原告X2の妻E(以下「E」という。)及び長男F(以下「F」という。)は、平成二〇年八月ころまでは、原告X2と一緒に本件建物で生活していたが、本件火災当時は埼玉県北足立郡伊奈町のアパート(以下「本件アパート」という。)で生活していた。原告X2も、本件火災直前には本件アパートで生活しており、本件火災当時、本件建物には誰も住んでいなかった。

イ 被告日新火災海上保険株式会社(以下「被告日新火災」という。)及び被告日本興亜損害保険株式会社(以下「被告日本興亜」という。)は、損害保険業等を目的とする株式会社であり、被告埼玉県火災共済協同組合(以下「被告埼玉県火災共済」という。)は、火災共済事業等を目的とする協同組合である(争いがない)。また、被告全国生活協同組合連合会(以下「被告全国生協連」という。)は、火災共済事業等を目的とする単位協同組合の連合体(元受団体)である。

(2)  本件保険契約等の締結

原告らは、本件火災当時、被告らとの間で、本件建物等について、それぞれ以下の内容の保険契約等を締結していた。

ア 原告会社と被告日新火災との間の保険契約(以下「本件契約一」という。)

保険の種類 店舗総合保険

契約日 平成二〇年一月二四日

保険期間 平成二〇年二月三日から平成二一年二月三日まで

保険の目的 本件材木置場内に収容されている商品原材料等

保険金額 二五〇万円

保険料 月額七二三〇円

イ 原告会社と被告日本興亜との間の保険契約(以下「本件契約二」という。)

保険の種類 店舗総合保険

契約日 平成一九年一二月一三日ころ

保険期間 平成一九年一二月一三日から平成二〇年一二月一三日まで

保険の目的 本件建物

保険金額 五〇〇万円

保険料 年額一万三〇五〇円

ウ 原告会社と被告埼玉県火災共済との間の共済契約(以下「本件契約三」という。)

共済の種類 総合火災共済

契約日 平成一九年一二月一三日ころ

共済期間 平成一九年一二月一三日から平成二〇年一二月一三日まで

共済の目的 本件建物、本件建物内に収容されている事務用什器・備品一式、家財一式

共済金額 建物につき九〇〇万円、事務用什器・備品一式につき五〇万円、家財一式につき五〇万円

共済掛金 年額二万四一七〇円(合計)

エ 原告X2と被告全国生協連との間の共済契約(以下「本件契約四」という。)

共済の種類 新型火災共済

契約日 平成二〇年四月一日

共済期間 平成二〇年四月一日から平成二一年三月三一日まで

共済の目的 本件建物、本件建物内に収容されている家財

共済金額 建物につき二八〇〇万円、家財につき八〇〇万円

共済掛金 月額二五二〇円(合計)

(3)  本件保険契約等における保険金等の支払等に関する約定

本件契約一ないし三においては、保険者又は共済者は、保険契約者若しくは共済契約者、被保険者若しくは被共済者又はその取締役等の故意又は重大な過失によって生じた損害に対しては保険金等を支払わない旨が約定されている。また、本件契約四においては、共済者は、共済契約者又はこれと生計を一にする親族の故意又は重大な過失(その者が共済契約者に共済金を取得させる意思を有しなかったことを共済契約者が証明した場合を除く。)によって生じた損害に対しては共済金を支払わない旨が約定されている(なお、以下、本件保険契約等における故意免責を定めた規定を「本件故意免責規定」という。)。

(4)  本件火災の発生

平成二〇年一〇月一日(以下「本件火災当日」という場合がある。なお、この日は平日である。)午後二時三六分ころ、本件建物及び本件材木置場(以下、本件建物及び本件材木置場のある敷地を「本件敷地」又は「本件火災現場」ということがある。)付近で火災が発生し、同火災により、本件建物及び本件材木置場がいずれも全焼した。

(5)  本件保険金等の請求及び被告らの支払拒絶

原告らは、本件火災により本件建物等が焼失したとして、平成二〇年一〇月三日ころまでに、被告らに対し、本件保険契約等に基づき、本件保険金等の支払を請求した。ところが、被告らは、本件火災は原告X2の故意又は重過失によるものであるなどとして、原告らに対し、本件故意免責規定に基づき、被告日新火災は平成二一年二月二日に、被告日本興亜は同月三日に、被告埼玉県火災共済は同月一〇日に、被告全国生協連は同年一月一六日に、それぞれ本件保険金等の支払を拒絶する意思表示をした。

二  争点

(1)  故意免責の成否(争点一)

(2)  重過失又は法令違反による免責の成否(争点二)

(3)  通知義務違反による免責の成否(被告埼玉県火災共済について)(争点三)

(4)  損害額等(損害額及び争点一ないし三による免責が認められなかった場合に各被告が支払うべき保険金等の額)(争点四)

三  争点に対する当事者双方の主張

(1)  争点一(故意免責の成否)について

(被告らの主張)

ア 本件火災の原因

本件火災については、火気のない場所から出火したこと、出火場所付近で油脂反応及び灯油反応が認められており、助燃剤として灯油が散布された可能性が極めて高いこと、電気やたばこなど他の出火原因が考え難いことなどに照らせば、放火によるものと考えられる。このことは、消防による調査において、何者かが何らかの火源を用いて放火したものと推定する旨判定されていることからも明らかである。

イ 本件火災は原告X2又は同原告と意を通じた第三者の故意により生じたものであること

(ア) 本件火災の客観的状況等

本件敷地は周囲を塀や生垣等で囲まれ、民家や工場に隣接している上、本件火災当時、本件敷地の出入口であるアコーディオン式門扉(以下「本件門扉」という。)は閉じられてワイヤー式錠がかけられていた。また、本件火災が発生したのは白昼であり、放火者は助燃剤を本件敷地内に持ち込む必要もあった。このような状況等に照らすと、原告X2と無関係の第三者が本件敷地に侵入して放火することは極めて困難であったといえるし、原告X2と無関係の第三者が放火するのであれば、家人等に発見される可能性を考慮し、本件敷地に侵入せず同敷地外から火を放つ方が自然といえる。また、放火は重大な犯罪である上、本件建物等が焼失した場合に利益を得るのは原告らであって、原告らの債権者にとっては原告らからの債権回収がより困難となるのであるから、債権者が放火をしたとも考え難い。他方で、原告X2又は同原告と意を通じた第三者であれば、本件建物に誰も住んでいないことを知っていたのであるから、本件敷地に立ち入って放火することは容易であった。

このような本件火災の客観的状況等からは、原告X2と無関係の第三者が放火したとは考え難く、原告X2又は同原告と意を通じた第三者が放火したことが強く推認される。

(イ) 本件火災前後の原告X2の行動等

本件火災当時、原告X2は、Eとともに本件アパートに生活の本拠を移しており、本件建物には誰も住んでいなかった。また、原告X2は、本件火災前に飼猫を近隣住民に預けていた。このような原告X2らの行動は、本件火災に備えた避難であったと考えられる。

また、本件火災当日の行動についての原告X2の供述は、本件火災現場の様子を確認したかどうかなど重要な点において、消防及び調査会社による供述記録と本人尋問とで変遷がみられる上、その内容自体も極めて不自然、不合理である。

なお、原告X2は、本件火災当日、本件火災現場から約四五キロメートル離れたさいたま市岩槻区内のスーパーマーケット(aスーパー岩槻西町店。以下「本件aスーパー」という。)で本件火災の発生時刻ころに発行されたレシート(以下「本件レシート」という。)を所持していた。しかしながら、本件aスーパーに行った経緯やその前後の行動等に関する原告X2の供述内容は、移動距離の割に時間がかかりすぎていることなど不自然な点が多い上、協力者から本件レシートを取得することも可能であったから、本件レシートを所持していたからといって、原告X2が本件火災の発生時刻ころに本件aスーパーにいたとはいえない。また、仮に、原告X2が、本件火災の発生時刻ころに本件aスーパーにいたとしても、本件火災の出火場所付近に乾電池や缶入りの蚊取り線香が残存していたことに照らせば、原告X2が、これらを用いた時限式の発火装置を使用して放火したとも考えられる。したがって、原告X2のアリバイは認められない。

(ウ) 原告X2の動機及び保険契約に関する事情等

原告会社は、本件火災前ころ、多額の負債を抱えて債務超過状態にあり、本件火災直前の平成二〇年九月一六日ころには不渡りを出していた。また、原告X2も、本件火災当時、消費者金融会社等に対して約九五〇万円の借入金があり、弁護士からは個人破産の方向を示されていた。さらに、本件建物は、昭和四四年に建築された古い建物で、材木置場が併設されているなど特殊な構造である上、担保権も設定されていたから、そのままでは売却は困難であった。このように、原告らは、本件火災当時、経済的に極めてひっ迫していたが、本件建物が焼失して本件敷地が更地になれば、多額の保険金等を取得することができるのみならず、本件敷地の売却も容易となる状況にあった。

また、原告らは、本件建物等について、被告らとの間で重複して保険契約及び共済契約を締結しており、特に、本件建物については、その保険金額と共済金額の合計が建物の価額を大きく上回っていた。このように、本件保険契約等が重複・超過加入契約であったことは、原告X2に本件保険金等を不正に取得する目的があったことを推認させる。

したがって、原告X2には、放火の動機があったといえる。

(エ) 小括

以上によれば、本件火災は原告X2又は同原告と意を通じた第三者の故意により生じたものであることが推認できる。

ウ 結論

したがって、本件故意免責規定による故意免責が認められる。

(原告らの主張)

ア 本件火災の原因

本件火災について、警察は、自然発火や電気火災をうかがわせる状況がない一方で、原告X2にはアリバイがあり、放火と認める決定的な証拠もないことなどから、放火と断定することはできないとして、不審火として処理している。また、消防による調査において認められたのは若干の灯油反応にとどまり、油膜反応が認められたのもごく一部の場所にすぎない。したがって、本件火災が放火によるものであると断定することは困難である。

イ 仮に本件火災が放火によるものであるとしても、原告X2又は同原告と意を通じた第三者の故意により生じたものではないこと

(ア) 本件火災の客観的状況等

本件敷地の周囲にある塀及び本件門扉は、いずれも乗り越えることが可能な高さであった。また、本件敷地にはガスボンベの出入り用の隙間もあり、そこから本件敷地に侵入することも可能であった。さらに、本件敷地は、周辺の人通りが少なく、一度侵入してしまえば外部から見えにくい構造であったから、平日の昼間の時間帯であっても人目を避けることが可能であった。したがって、第三者が本件敷地に侵入して放火した可能性も十分に考えられる。また、本件火災の半月ほど前に原告会社が不渡りを出した後、債権者と思われる者が本件敷地の周囲をうろついていたほか、本件火災前日にも、債権者が原告X2の集金先に現れており、債権者が、原告X2に対する怨恨から放火した可能性も十分に考えられる。

(イ) 本件火災前後の原告X2の行動等

本件火災当時、Eが本件アパートで生活していたのは、Fの世話をするためであり、原告X2が本件アパートで生活していたのは、原告会社が不渡りを出した後、債権者からの取立て等により強い恐怖心を感じていたからである。また、原告X2が飼猫をあげたのは、近隣住民がかわいがってくれていたからである。原告X2らのこのような行動は本件火災に備えた避難ではない。

また、被告らは、本件火災当日の行動についての原告X2の供述に、本件火災現場の様子を確認したかどうかなどの点で変遷がみられる旨主張するが、消防及び調査会社による供述記録は、原告X2の供述内容をそのまま記録したものではなく、信用性が高いとはいえないから、これを前提に変遷の有無を考えるべきではない。しかも、原告X2の供述はその根本的な部分では変遷しておらず、その内容自体も不自然、不合理とはいえない。

原告X2は、本件火災当日、単に本件レシートを所持していたのみならず、本件aスーパー内の様子等を具体的に述べており、原告X2から電話を受けた知人も、その際に原告X2から県南のスーパーマーケットにいる旨聞いたと述べている。また、原告X2は、時刻を定めた具体的な予定がなく、岩槻周辺の土地勘もなかったことから、道に迷いながら車を運転していた上、本件火災発生の連絡を受けた後は、通常の精神状態で運転することはできなかったと考えられるから、移動のために調査会社の実走実験等より長い時間を要したとしても、不自然とはいえない。さらに、本件火災の発生当時、Eは本件アパートにおり、Fはさいたま市内の会社で仕事をしていたこと、放火は重大な犯罪であって債権者等が協力したとも考え難いことに照らせば、協力者の存在は考えられない。したがって、原告X2が本件火災の発生時刻ころに本件aスーパーにいたことは間違いない。なお、被告らは、時限式の発火装置が使用された可能性がある旨主張するが、本件火災現場でリード線等が見つかっていないこと、警察や消防の調査において使用を疑うような報告はされていないことなどに照らせば、その可能性は考え難い。

(ウ) 原告X2の動機及び保険契約に関する事情等

原告会社は、本件火災以前から債務超過状態にあった上、本件火災直前には不渡りを出しており、廃業せざるを得ない状況にあった。また、原告X2についても、本件火災当時、弁護士の介入の下、個人破産の方向で話が進められていた。原告X2は、このような状況下で、自身の破産及び原告会社の廃業を覚悟して新たな仕事を探すなどしていたのであり、あえて放火という重大な犯罪行為を犯すことは考えられない。また、原告X2は、昭和四四年から長年にわたって本件建物に住み続けており、近隣住民等との関係も良好であったから、住宅密集地にあり、多数の材木が置かれていて周囲への延焼可能性が高い本件敷地で放火をすることは考えられない。しかも、仮に、原告らが本件保険金等を取得したとしても、原告会社は不渡りを出したことで既に信用を失っている上、多額の負債を抱えており、そのまま営業を継続することは不可能であるから、放火による利益が大きいとはいえない。さらに、原告X2は、これまで保険金等を受け取ったことはなく、本件火災後に行われた警察、消防及び調査会社による調査等に対しても積極的に協力している。これらの点に照らせば、原告X2には放火の動機はないというべきである。

また、原告らは、本件火災の数年前に、取引銀行等との付き合い等から、勧められるままに、被告らとの間で保険契約又は共済契約を締結したものであり、これらの契約はその後長期間にわたって更新されてきた。そして、本件保険契約等の保険料又は共済掛金は少額で、日常的に加入しておくものとして大きな負担金額ではない。したがって、本件保険契約等が重複・超過加入契約であったとしても、原告X2に本件保険金等を不正に取得する目的があったとはいえない。

(エ) 小括

以上によれば、本件火災は原告X2又は同原告と意を通じた第三者の故意により生じたものであるとはいえない。

ウ 結論

したがって、本件故意免責規定による故意免責は認められない。

(2)  争点二(重過失又は法令違反による免責の成否)について

(被告らの主張)

仮に、争点一に関する被告らの主張が認められないとしても、原告X2は、多数の材木が置かれており火気厳禁の場所であった本件材木置場に、灯油入りポリタンク等を置いていたから、本件火災は原告X2の重過失により生じたものであるといえる。また、原告X2は、ラッカー、シンナー、塗料等の危険物の取扱いについて定められた法令を遵守しておらず、本件火災は原告X2の法令違反により生じたものであるといえる。

したがって、重過失又は法令違反による免責が認められる。

(原告らの主張)

原告X2は、本件火災当時、本件材木置場に灯油入りポリタンク等を置いていなかったし、仮に置いていたことがあったとしても、それが本件火災の出火又は延焼の要因となったとはいえない。

したがって、重過失又は法令違反による免責は認められない。

(3)  争点三(通知義務違反による免責の成否)について

(被告埼玉県火災共済の主張)

本件契約三においては、同契約締結後、共済の目的と同一の構内に所在する被共済者所有の建物等について他の火災共済協同組合との共済契約又は損害保険会社との保険契約を締結した場合(以下「重複保険等」という。)、共済の目的又は共済の目的を収容する建物について増改築をした場合には、共済契約者等は、あらかじめその事実を書面で被告埼玉県火災共済に通知し、共済契約証書等に承認の裏書を請求しなければならず、この手続を怠った場合には同被告は共済金を支払わない旨が約定されている。ところが、原告会社は、被告埼玉県火災共済に対し、本件建物等について、他の被告らとの間で保険契約又は共済契約を締結したこと、平屋建てから二階建てにし、床面積も増やす増改築を行ったことをいずれも通知しなかった。

したがって、被告埼玉県火災共済は、原告会社の通知義務違反により免責される。

(原告会社の主張)

本件契約三において、被告埼玉県火災共済が主張するとおりの通知義務が約定されていること、原告会社が、同被告に対し、重複保険等及び増改築についての通知をしなかったことは認める。

しかしながら、このような約款は一般人(原告会社は会社という形態ではあるが、原告X2のみが働いている個人会社であるから、一般人と同様に考えるべきである。)を相手とする附合契約であることから、公平の見地に照らし、その適用範囲については制限的に解すべきであり、重複保険等の通知義務違反による免責が認められるのは、共済契約者等が保険金等の不正取得を目的として通知しなかった場合等、通知義務違反を理由に保険金等を支払わないことが社会通念上公平かつ妥当であると認められる場合に限られ、増改築の通知義務違反による免責が認められるのは、共済契約者等が、契約当初とは全く異なる危険が想定されるほどの大幅な増改築をしたにもかかわらず、その通知を怠った場合に限られるというべきである。

本件では、原告らが、被告らとの間で重複して保険契約及び共済契約を締結したのは、取引銀行等から税金対策等として勧められたためであり、積極的に虚偽の事実を述べて重複保険等の事実を隠蔽したわけではないから、保険金等の不正取得を目的とした不通知とはいえない。また、本件契約三の共済契約証書の記載に照らせば、被告埼玉県火災共済は本件建物が二階建てに増改築されたことを把握していたはずであるし、床面積の違いのみによって共済金が一切支払われなくなるのは妥当でない。

したがって、被告埼玉県火災共済は、原告会社の通知義務違反によって免責されない。

(4)  争点四(損害額等)について

(原告らの主張)

ア 本件火災による損害額

(ア) 本件建物

a 再取得価額 二八六六万五〇〇〇円

b 時価額 一一八九万五九七五円

建物の時価額は、

再取得価額×(一-一年当たりの経年減価率×経過年数)

という算式により算出すべきである。そして、本件建物は木造であるから、一年当たりの経年減価率は一・五パーセントとするのが妥当である。また、本件建物は昭和四四年に建築され、平成二〇年に本件火災により焼失したので、経過年数は三九年である。したがって、本件建物の時価額は、以下の計算式のとおり、一一八九万五九七五円と解すべきである。

(計算式)28,665,000×(1-0.015×39)=11,895,975

(イ) 本件建物内に収容された動産 一六四四万三〇〇〇円

(ウ) 本件材木置場内に収容された商品原材料等 五六〇万七三二三円

(エ) 残存物取片づけ費用 四〇九万七六二五円

原告らは、本件火災の残存物の取片づけを行い、その費用として四〇九万七六二五円を支出した。

イ 各被告に対する請求額

(ア) 被告日新火災に対する請求額 三三〇万六五六八円

a 損害保険金(商品原材料等) 二五〇万円

b 臨時費用保険金 五五万六五六八円

本件契約一ないし三の保険約款又は共済約款には、被告日新火災、被告日本興亜及び被告埼玉県火災共済が原告会社に対して損害保険金又は損害共済金を支払う場合において、損害保険金額又は損害共済金額の三〇パーセントに相当する金額(ただし、五〇〇万円を限度とする。)の臨時費用保険金又は臨時費用共済金を支払う旨の定めがある。また、本件契約四の共済約款には、被告全国生協連が原告X2に対して損害共済金を支払う場合において、損害共済金額の二〇パーセントに相当する金額(ただし、二〇〇万円を上限とする。)の臨時費用共済金を支払う旨の定めがある。

被告日新火災が支払うべき損害保険金額は、前記aのとおり、二五〇万円であり、その余の被告が支払うべき損害保険金額又は損害共済金額は、後記のとおり、被告日本興亜が四二四万八五六二円、被告埼玉県火災共済が八六四万七四一二円、被告全国生協連が二三六〇万四〇二六円である。したがって、他の保険契約又は共済契約がないものとして算出した各被告の臨時費用保険金又は臨時費用共済金の支払限度額は、以下の計算式のとおり、被告日新火災につき七五万円、被告日本興亜につき一二七万四五六八円、被告埼玉県火災共済につき二五九万四二二三円、被告全国生協連につき二〇〇万円(損害共済金額の二〇パーセントに相当する金額は七〇八万一二〇七円となり、二〇〇万円を上回るため、上限額の二〇〇万円となる。)となり、その合計は五〇〇万円を上回る。

(計算式)2,500,000×0.3=750,000

4,248,562×0.3≒1,274,568

8,647,412×0.3≒2,594,223

23,604,026×0.3≒7,081,207

したがって、原告会社が被告日新火災に対して請求できる臨時費用保険金額は、被告らが支払うべき臨時費用保険金及び臨時費用共済金の支払限度額である五〇〇万円を上記割合に応じて按分した五五万六五六八円となる。その計算式は以下のとおりである。

(計算式)5,000,000×750,000÷(750,000+1,274,568+2,594,223+2,000,000)≒556,568

c 残存物取片づけ費用保険金 二五万円

本件契約一ないし三には、被告らが、原告会社に対し、損害保険金又は損害共済金の一〇パーセントに相当する金額を限度として残存物取片づけ費用保険金又は残存物取片づけ費用共済金を支払う旨の定めがある。

被告日新火災が支払うべき損害保険金額は、前記のとおり、二五〇万円であり、その余の被告が支払うべき損害保険金額又は損害共済金額は、後記のとおり、被告日本興亜が四二四万八五六二円、被告埼玉県火災共済が八六四万七四一二円である。したがって、他の保険契約又は共済契約がないものとして算出した各被告の残存物取片づけ費用保険金又は残存物取片づけ費用共済金の支払限度額は、以下の計算式のとおり、被告日新火災につき二五万円、被告日本興亜につき四二万四八五六円、被告埼玉県火災共済につき八六万四七四一円となる。これらの合計額は一五三万九五九七円となり、実際に残存物取片づけに要した費用である四〇九万七六二五円を超えないから、原告会社は、各被告に対し、残存物取片づけ費用保険金又は残存物取片づけ費用共済金として、前記各支払限度額の全額を請求することができる。

(計算式)2,500,000×0.1=250,000

4,248,562×0.1≒424,856

8,647,412×0.1≒864,741

250,000+424,856+864,741=1,539,597

(イ) 被告日本興亜に対する請求額 五六三万六二五八円

a 損害保険金(本件建物) 四二四万八五六二円

本件建物については、本件契約二(保険金額五〇〇万円。損害保険金額は保険の目的の時価額による。)、本件契約三(共済金額九〇〇万円。損害共済金額は共済の目的の時価額による。)及び本件契約四(共済金額二八〇〇万円。損害共済金額は共済の目的の再取得価額による。)において、重複して保険又は共済の目的とされている。したがって、原告会社が被告日本興亜に対して請求できる損害保険金額は、本件建物の時価額一一八九万五九七五円を、本件契約二の保険金額と本件契約三の共済金額の割合に応じて按分した四二四万八五六二円となる。その計算式は以下のとおりである。

(計算式)11,895,975×5,000,000÷(5,000,000+9,000,000)≒4,248,562

b 臨時費用保険金 九六万二八四〇円

前記(ア)bと同様に按分して計算すると、原告会社が被告日本興亜に対して請求できる臨時費用保険金額は、以下の計算式のとおり、九六万二八四〇円となる。

(計算式)5,000,000×1,274,568÷(750,000+1,274,568+2,594,223+2,000,000)≒962,840

c 残存物取片づけ費用保険金 四二万四八五六円

前記(ア)cのとおり

(ウ) 被告埼玉県火災共済に対する請求額 一一四七万一八九三円

a 損害共済金(本件建物) 七六四万七四一二円

前記(イ)aと同様に按分して計算すると、原告会社が被告埼玉県火災共済に対して請求できる損害共済金額は、以下の計算式のとおり、七六四万七四一二円となる。

(計算式)11,895,975×9,000,000÷(5,000,000+9,000,000)≒7,647,412

b 損害共済金(事務用什器・備品一式) 五〇万円

本件契約三の共済金額の全額

c 損害共済金(家財一式) 五〇万円

本件契約三の共済金額の全額

d 臨時費用共済金 一九五万九七四〇円

前記(ア)bと同様に按分して計算すると、原告会社が被告埼玉県火災共済に対して請求できる臨時費用共済金額は、以下の計算式のとおり、一九五万九七四〇円となる。

(計算式)5,000,000×2,594,223÷(750,000+1,274,568+2,594,223+2,000,000)≒1,959,740

e 残存物取片づけ費用共済金 八六万四七四一円

前記(ア)cのとおり

(エ) 被告全国生協連に対する請求額 二五六〇万四〇二六円

a 損害共済金(本件建物) 一六一〇万四〇二六円

原告X2が被告全国生協連に対して請求できる損害共済金額は、本件契約四における共済金額から、被告日本興亜及び被告埼玉県火災共済に対する請求額を減じた額であり、その計算式は以下のとおりである。

(計算式)28,000,000-4,248,562-7,647,412=16,104,026

b 損害共済金(家財) 七五〇万円

原告X2が被告全国生協連に対して請求できる損害共済金額は、本件契約四における共済金額から被告埼玉県火災共済に対する請求額を減じた額であり、その計算式は以下のとおりである。

(計算式)8,000,000-500,000=7,500,000

c 臨時費用共済金 二〇〇万円

前記(ア)bのとおり

(被告らの主張)

ア 被告日新火災の主張

イ(ア)は認め、その余は否認ないし争う。

イ 被告日本興亜の主張

イ(イ)は認め、その余は否認ないし争う。

ウ 被告埼玉県火災共済の主張

ア(ア)b、(エ)は認める。イ(ウ)d、eの算定方法は認める。その余は否認ないし争う。

エ 被告全国生協連の主張

イ(エ)は認め、その余は否認ないし争う。

第三争点に対する判断

一  前記前提事実並びに《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる(なお、証拠等によって認定した事実については、末尾に証拠等を再掲する。)。

(1)  本件火災の状況等

ア 熊谷消防署江南分署の消防隊員が、本件火災の連絡を受けて本件火災現場に到着した際、本件材木置場は全体から火災が上昇しており、特に本件建物の西側付近が激しく燃えていた。

熊谷消防署江南分署が本件火災翌日に実施した実況見分の際、最も焼きが強かったのは本件材木置場東側南付近であり、同所付近で採取した砂利及び炭化物につき、浮油試験及び通気試験を実施したところ、油膜反応及び若干の灯油反応が認められた。また、株式会社分析センターが、本件火災後に、被告らの依頼を受けて、本件材木置場東側で採取した材木の油性成分量調査を実施したところ、同材木から灯油に相当する油性成分が検出された。

株式会社特調(以下「特調」という。)は、平成二〇年一〇月一四日、本件火災現場で現場見分調査を実施したが、その際、本件材木置場東側の中央寄り付近に、塗料等の缶類や乾電池が散乱していたほか、缶に入った蚊取り線香が確認された。また、熊谷消防署江南分署が本件火災翌日に実施した実況見分の際、本件材木置場東側で、上部が溶融して下部付近が残存する赤色ポリタンクが発見されたが、油臭等は認められなかった(なお、これと同一のものと思われるポリタンクにつき、特調の調査報告書では、現場見分調査時に灯油臭がしていた旨記載されている。しかしながら、本件火災翌日に専門家である消防隊員が確認した際に油臭が認められなかったことに照らすと、同記載によって直ちに同ポリタンクから灯油臭がしていたと認定することはできない。また、原告X2は、本人尋問において、本件火災当時、本件材木置場に灯油入りポリタンクを置いていたかもしれない旨供述している。しかしながら、原告X2が、本件火災直後から本人尋問前まで一貫して、本件材木置場には灯油入りポリタンクを置いていなかった旨供述しており、本人尋問の際にも、この供述を変更することについて何ら合理的な説明をしていないことなどに照らすと、本人尋問における同原告の前記供述は信用し難く、これによって直ちに、本件火災当時、同原告が本件材木置場に灯油入りポリタンクを置いていたと認めることはできない。)。

イ 本件材木置場東側南付近に電気器具及び電気配線はなく、本件火災前に、漏電をうかがわせるような顕著な消費電力量の増加もみられなかった。また、原告X2はたばこを吸わない。なお、本件火災当日の天気は晴れで、湿度は七六パーセント程度であった。

ウ 熊谷消防署江南分署は、本件火災の連絡を受けて本件火災現場に到着した際に本件建物の西側付近が激しく燃えていたこと、実況見分の際に本件材木置場東側南付近に強い焼きが認められたことなどから、本件火災の出火場所は本件材木置場東側南付近であると判定している。また、本件火災の出火原因については、電気関係からの出火は考えにくい一方で、本件材木置場東側南付近に焼きの強い箇所があり、この付近から油脂反応と灯油反応が認められたことなどから、放火の可能性が考えられるなどとして、何者かが何らかの火源を用いて放火したものと想定している。

これに対し、熊谷警察署は、本件火災について、出火場所である本件材木置場東側南付近で灯油臭が確認されており、放火の可能性もあるが、本件敷地は周囲を民家に囲まれ、第三者が侵入できるような状況ではないこと、放火を決定づけるような目撃者が発見できていないこと、原告X2は、本件火災当時、本件火災現場から離れた本件aスーパーに行っており、時間的に放火することが難しいこと、本件火災現場から時限発火装置等をうかがわせる物が発見されていないことなどを理由に、原因不明の不審火であると判断している。

(2)  本件敷地及びその周囲の客観的状況等

ア 本件敷地は、東側の道路に面した間口が南北に約一二・六メートル、この道路からの奥行きが約二〇メートルの東西に細長い敷地である。本件敷地の南側及び北側はコンクリートブロック塀、西側はコンクリートブロック基礎及び鉄フェンス、東側は格子状の柵及び生垣(以下「本件生垣」という。)並びに本件門扉で囲まれている。本件生垣は、本件建物の一階部分が全て覆われるくらいの高さがあり、外部から本件建物の一階部分を見通すことができないほど植物が生い茂っている。また、本件建物の北東角にはガスボンベ置場があり、本件生垣の北端には、ガスボンベの出入り用に幅六〇センチほどの隙間(以下「本件ガスボンベ口」という。)がある。本件ガスボンベ口から本件敷地に立ち入って本件材木置場に行くためには、本件建物東側の壁と本件生垣との間の極めて狭い隙間を通るしかない(乙第五号証三九頁の写真2ないし4、四一頁の写真11、14、戊第三号証二七頁の平面図、六〇頁のNo.49の写真等によれば、本件建物東側の壁と本件生垣との間の隙間は極めて狭いことが認められる。なお、戊第三号証二七頁の平面図上は、本件建物と本件敷地北側の塀との間に幅七〇センチメートルの隙間があるとされており、この隙間を通れば、本件敷地の北側及び西側を通って本件材木置場まで回り込むことも可能なように見えるが、甲第六号証の平面図並びに乙第五号証三九頁の写真5及び戊第三号証六〇頁No.48の写真によると、実際にはこの隙間を通り抜けることは不可能であると認められる。)。本件門扉の高さは一三〇センチメートルであり、本件火災直後に熊谷消防署江南分署の消防隊員が到着した際、本件門扉は閉じられてワイヤー式錠がかけられていた。また、本件敷地の北側、南側及び西側の塀等の高さは、北側が一九〇センチメートル、南側が一二五センチメートル、西側が一三五センチメートルである。

イ 本件敷地及びその周囲の平面図は別紙のとおりであり、本件敷地の北側はG宅、H宅及びI宅の各敷地と接しており、南側及び西側はb株式会社(以下「b社」という。)の敷地と接している。本件敷地の東側は道路に面しており、この道路を挟んだ向かいにJ宅がある。b社の倉庫併用事務所(以下「b社建物」という。)、G宅、H宅及びJ宅はいずれも二階建てで、各建物とも各階に本件敷地に面した複数の窓がある(本件火災により、これら近隣住宅等にも延焼し、b社建物、G宅及びH宅は部分焼、I宅は半焼した。)。また、本件火災当時、本件建物の玄関には、弁護士が作成した貼紙が貼られていたが、本件敷地外からその内容を確認することはできなかった。

ウ 特調が、平成二二年三月四日(この日は平日である。)午後二時二五分から同日午後二時四五分までの間、本件敷地東側道路の通行量調査を行った結果、一分間当たりの平均通行量は一・一五台であった。

(3)  本件火災前の原告X2らの行動等

ア Eは、平成二〇年八月ころ、Fが本件建物から本件アパートに引っ越した際、同人について行き、その後、本件火災まで約二か月間にわたって、Fと一緒に本件アパートで生活していた。また、原告X2も、同年九月一六日又はその数日後までには本件アパートで生活するようになった。

イ 原告X2は、平成二〇年八月ないし同年九月ころ、近隣に住むJに飼猫二匹を預け、さらにもう一匹預かって欲しいと頼んだ(なお、原告X2は、飼猫は預けたのではなくあげたものであるなどと供述するが、原告ら及び被告らのいずれとも特段の利害関係がなく、本件火災後間がない時期になされたJの供述は信用性が高く、これに反する原告X2の前記供述は採用できない。)。

ウ 原告X2は、平成二〇年九月二四日、熊谷警察署に対し、原告会社が不渡りを出して事実上倒産した後、夜の一一時ころになると黒塗りの車が家の前に止まり家を監視している、おそらく原告会社の倒産で損害を被る債権者がヤクザやチンピラを使って私に念書を書かせようとしているのではないかと思うなどと申し立て、パトロールを依頼した。

(4)  本件火災当日の行動に関する原告X2の供述経過

ア 原告X2は、平成二〇年一〇月三日、熊谷消防署江南分署の質問調査に対し、本件火災当日、Jから携帯電話に電話が入り、「お宅が火事です。」と言われたが、債権者が本件火災現場に来ていると思い同現場には行かず、午後六時ころ熊谷警察署へ行き、午後九時ころまで事情聴取を受けて、本件アパートに帰った旨供述した。

また、原告X2は、平成二〇年一〇月一六日の特調の調査に対しては、本件火災当日、本件aスーパーを出た直後の午後二時四〇分ころ、Jから、「X2さん宅が火事だ。」との連絡が携帯電話に入り、争いで本件敷地に向かうことにしたが、焦って道を間違えるなどして帰りが遅くなり、熊谷警察署に到着したのは午後六時ころであった、熊谷警察署に直接行ったのは、帰る途中に知人に電話をした際、途中で電話を代わった警察官から、熊谷警察署に直接来て欲しいと言われたためである旨供述した。

イ これに対し、原告X2は、本人尋問の際には、本件火災当日、Jから火災の連絡を受けて本件火災現場に向けて車を運転し始め、道に迷いながら本件火災現場に着いた、債権者に脅されていたわけではなく、本件現場を通った際に債権者がいることを確認したわけでもないが、債権者が来ているのではないかと思ったので、車からは降りず、火事の状況も見なかった、その時は、本件火災現場がどういうものだったのか、どれくらい燃え移ったかについては、全然考えなかった旨供述している。

(5)  本件レシート及び関係地点間の距離等

ア 原告X2は、本件火災当日の夕方、熊谷警察署で事情聴取を受けた際、同日午後二時四二分に本件aスーパーで発行された旨印字された本件レシートを所持していた。本件aスーパーでは本件火災当日から平成二二年三月三日まで同じレジスターが使用されており、レジスターではコンピュータ制御によって時刻合わせが行われているところ、同日の時点でレシートに印字された時刻と電波修正時刻とのずれは一分程度であった。

イ 本件aスーパーから本件火災現場までの距離及び所要時間は、特調が平日の午後一時五四分から午後三時一六分までの間に実施した実走実験では、約四五キロメートル、一時間二二分であった。

また、本件aスーパーから熊谷警察署までの距離及び所要時間は、インターネットサイトの検索の結果では、東北自動車道及び国道一二五号線経由で約五三・五キロメートル、約一時間一八分であり、特調が平日の午後二時四五分から午後四時一五分までに実施した実走実験では、国道一七号線経由で約四五・五キロメートル、一時間三〇分であった。同実走実験の経路は、本件aスーパーから左折一回と右折一回で国道一七号線に出て、その後は同国道を直進するだけというものであった。

(6)  原告らの経済状況等

ア 原告会社は、本件火災の数年前ころから売上げが減少し、平成一八年三月期及び平成一九年三月期の各決算はいずれも二〇〇〇万円以上の債務超過であった。原告会社は、平成一九年一一月ころの時点で負債額が約三五〇〇万円に達していた一方、預金残高はほとんどなく、結局、平成二〇年九月一六日に不渡りを出すに至った。

イ 原告X2は、平成一九年一一月当時、消費者金融会社等から約九四〇万円の借入金があった一方、預金残高はほとんどなかった。原告X2は、平成一九年一一月ころ、弁護士に個人負債の債務整理を依頼し、弁護士は、原告X2の債務を調査した結果、自己破産を申し立てる方向で動いており、同原告とも自己破産の方向で話を進めていた。

ウ 本件建物には、平成一五年に、原告会社を債務者、国民生活金融公庫を抵当権者とする抵当権(債権額五〇〇万円)及び原告会社を債務者、株式会社インターを根抵当権者とする根抵当権(極度額九〇〇万円)がそれぞれ設定された。原告X2から個人負債の債務整理の依頼を受けた弁護士は、原告X2から大きな仕事で入金する予定がある旨聞いたため、その資金を株式会社インターに返済して前記担保権を外す予定にしていたが、結局、同社への返済をすることはできなかった。

エ 株式会社東上不動産西口本店の部長であり、宅地建物取引主任者の資格を有するKは、平成二二年五月三一日、本件建物の再調達金額を二八六六万五〇〇〇円と算定した。

(7)  本件保険契約等以前の保険契約等の締結及びその更新等

ア 原告会社は、被告埼玉県火災共済との間では昭和五三年ないし五四年ころに、被告全国生協連との間では平成一二年一一月一日に、被告日新火災との間では遅くとも平成一四年二月三日までに、被告日本興亜との間では遅くとも同年一二月一三日に、それぞれ、本件契約一ないし四と同内容の保険契約等を初めて締結し、以後、毎年その更新を繰り返してきた。

イ 原告X2は、上記アのうち、被告日新火災及び被告日本興亜との間の火災保険契約については、足利銀行と付き合いがあり、同銀行から勧められたことから、足利興業を代理店として加入した。また、被告埼玉県火災共済との間の共済契約については、熊谷木材協同組合の紹介で同組合を代理店として加入し、被告全国生協連との間の共済契約については、パンフレットを見て、当時加入していた他の保険より共済掛金が安かったことから乗り換えて加入した。

ウ 原告X2は、これまでに保険金等の支払を受けたことはない。

(8)  本件火災後の原告X2の言動等

ア 原告X2は、平成二〇年一〇月三日、熊谷消防署江南分署の質問調査の際、本件火災当時生活していた本件アパートの場所を話すことを拒否していた。また、原告X2は、同月一六日、特調の調査の際、金融機関等からの借入れについて、実際には約九四〇万円の借入金があるのに、株式会社インターからの借入金三〇〇万円以外に借入れはない旨虚偽の説明をした。

イ 原告X2は、本件火災後、近隣に住むGに対しておわびのあいさつをしたことはなかった。また、Eは、本件火災後、近隣住民に対して本件火災のおわびをしなかった。

原告X2は、平成二〇年一〇月三日に作成した熊谷消防署長あてり災申告書において、本件契約一、三、四の保険金額及び本件契約一の契約日について正確に記載していた。また、原告らは、本件訴訟において、本件契約一の保険証券及び本件契約三の共済契約証書の各原本並びに本件火災で被災したとする数十点の家財及び商品の品名、数量、購入単価等が詳細に記載された家財損害明細及び商品損害明細の各写しを書証として提出している(顕著な事実)。

二  争点一(故意免責の成否)について

(1)  本件火災の原因について

ア 前記一(1)アにおいて認定した本件火災による焼きの状況、すなわち、本件火災当時、本件建物の西側付近(本件材木置場寄りの部分)が特に激しく燃えており、実況見分の結果、本件材木置場東側南付近の焼きが最も強かったことによれば、本件火災の出火場所は本件材木置場東側南付近(以下「本件出火場所」という。)であったと認められる。

そして、前記一(1)において認定したとおり、本件火災が通常火気のない場所で出火したこと、本件出火場所付近で採取された炭化物等から油膜反応及び灯油反応が認められ、同所で採取された材木から灯油に相当する油性成分が検出されたこと、電気系統やたばこの不始末による出火は考えられず、本件火災当日の天候に照らすと落雷や自然発火等も考え難いこと、これらの事実を踏まえて熊谷消防署江南分署が本件火災を放火によるものと推定していることなどを総合すると、前記前提事実のとおり、本件火災の発生した時刻が日中の明るい時間帯であり、一般的には放火をするには躊躇される時間帯であることなどを考慮しても、本件火災は、灯油を助燃剤として使用した放火によるものと認められる(なお、本件火災現場に残存していた赤色ポリタンクについては、油臭等が認められなかったことに照らすと、放火に用いられたものであると断定することはできない。)。

イ これに対し、原告らは、警察が不審火と判断していること、消防による調査において認められたのは若干の灯油反応にとどまり、油膜反応が認められたのもごく一部の場所にすぎなかったことを理由に、本件火災を放火によるものと断定することはできないなどと主張する。

しかしながら、前記一(1)ウにおいて認定したとおり、警察も放火の可能性を積極的に否定しているわけではない上、警察が不審火と判断した理由のうち、本件敷地は第三者が侵入できるような状況ではないという点や、目撃者が発見できなかったという点については、本件火災が原告X2又は同原告と意を通じた第三者による放火であるとすれば、放火の可能性を否定する理由にはならない。また、後記のとおり、本件火災当時、原告X2が本件aスーパーにいたと認めることもできない。さらに、通常火気のない場所で油膜反応及び灯油反応が認められたことは、たとえその反応の程度がそれほど強くなく、その反応のみられた範囲が狭かったとしても、放火による火災であることを推認させる事情の一つになるというべきである上、本件では、前記のとおり、油膜反応及び灯油反応以外にも、本件火災が放火によるものであることを推認させる多数の事実が認められる。以上によれば、原告らが指摘する前記の事情はいずれも、本件火災が放火によるものである旨の前記認定を左右するものとはいえず、原告らの前記主張を採用することはできない。

ウ なお、被告らは、本件出火場所付近に乾電池や蚊取り線香が残存していたことなどを根拠に、本件火災においては、時限式の発火装置が使用された可能性がある旨主張する。しかしながら、本件出火場所付近に乾電池や蚊取り線香が残存していたからといって、直ちに時限式の発火装置が使用されたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって、本件火災においては、放火者は本件出火場所で自ら火を放ったものと認めるのが相当であり、以下ではこれを前提に検討する。

(2)  本件火災が原告X2又は同原告と意を通じた第三者の故意により生じたものであるかどうかについて

ア 本件敷地及びその周囲の客観的状況等について

前記一(2)ア、イにおいて認定した本件敷地及びその周囲の客観的状況等に照らすと、本件敷地に敷地外から立ち入って本件出火場所まで行くためには、①高さ一三〇センチメートルの本件門扉を解錠するか又は乗り越えて東側から本件敷地に侵入した上、本件建物の南側を通って本件出火場所まで行く方法、②本件ガスボンベ口を通って東側から本件敷地に侵入した上、本件建物の東側の壁と本件生垣との間の極めて狭い隙間を経由し、本件建物の南側を通って本件出火場所まで行く方法、③本件敷地に接しているb社建物、G宅、H宅又はI宅のいずれかの敷地に立ち入った上、本件敷地の北側、南側及び西側にある高さ一二五ないし一九〇センチメートルの塀等のいずれかを乗り越えて本件出火場所まで行く方法のいずれかしかないところ、これらの方法はいずれも物理的に相当に困難であると認められる。しかも、前説示のとおり、本件火災は灯油を助燃剤として使用した放火であると認められ、本件敷地内に助燃剤を持ち込む必要があることも併せ考慮すると、なおさら困難というべきである。また、前記前提事実及び前記一(2)イにおいて認定したとおり、本件敷地は周囲を複数の二階建ての建物に囲まれており、各建物には本件敷地に面して複数の窓があったこと、本件火災当時、本件建物の玄関には、弁護士が作成した貼紙が貼られていたものの、本件敷地外からその内容を確認することはできず、本件建物及び本件敷地内が無人であることをうかがわせるような外観はなかったこと、本件火災が発生したのは日中の明るい時間帯であったことなどに照らすと、原告X2と関係のない第三者にとっては、本件敷地に敷地外から立ち入り、本件出火場所まで行って放火することは、本件建物又は周辺の建物内にいる人等に目撃される危険性が高く、心理的にも相当に困難であったと考えられる。

これらの点に照らせば、前記一(2)アにおいて認定した本件敷地及びその周辺の状況等から、本件敷地は一度侵入してしまえば外部から見えにくい構造であったと評価し得ること、前記一(2)ウにおいて認定したとおり、本件火災当日と同じ平日に実施した通行量調査の結果、本件火災の発生時刻と同時間帯における本件敷地東側道路の平均通行量は一分間当たり一台程度と比較的少なく、本件火災当時も同様であったと考えられることなどを考慮しても、原告X2と関係のない第三者が本件敷地に敷地外から立ち入り、本件出火場所で放火することは相当に困難であったと認められる。しかも、原告X2と関係のない第三者が本件建物及び本件材木置場を焼損するためには、本件敷地外から火を放って延焼させれば足りるのであるから、あえて家人等に発見される危険を冒してまで本件敷地に立ち入る必要性は考え難い。他方で、原告X2又は同原告と意を通じた第三者であれば、本件火災当時、本件建物及び本件敷地内に人がいないことを知っていたのであるから、本件出火場所まで行くことは容易であり、あらかじめ本件敷地内に助燃剤を用意しておくことも可能であったといえる。また、前記前提事実のとおり、約四〇年間にわたって本件敷地で材木店を営み、本件建物に居住してきた原告X2であれば、近隣の民家の家人やb社建物で働いている従業員等に目撃されにくい場所や時間帯を事前に知り得るのであるから、同原告又は同原告と意を通じた第三者が本件出火場所で火を放つことは、格別困難ではなかったと考えられる。以上のような本件敷地及びその周囲の客観的状況等は、本件火災が原告X2又は同原告と意を通じた第三者による放火であることを強く推認させる事情といえる。

これに対し、原告らは、原告らの債権者が原告X2に対する怨恨から放火した可能性も十分に考えられるなどと主張する。しかしながら、そもそも、放火は発覚すれば重い刑期の予想される重大な犯罪である一方、本件建物等が焼失しても債権者が直接的に利益を得ることはなく、また、債権者が本件建物等に放火するほど原告X2を恨んでいたことをうかがわせる証拠もない。これらの点に照らすと、債権者が放火したとは考え難く、原告らの前記主張は採用できない。

イ 本件火災前の原告X2らの行動等について

前記前提事実及び前記一(3)アにおいて認定したとおり、Eは、平成二〇年八月ころから本件火災当時まで、Fと一緒に本件アパートで生活していたところ、Eは、その経緯等について、証人尋問において、Fには交際していた女性がいたことから、結婚と独立のために引越しさせたが、Fは家事ができないので自分が一緒について行き、家事は全て自分がやっていた、約二か月の間に交際相手の女性が本件アパートに来たことはなかった旨証言している。しかしながら、このようなE及び交際相手の行動は、引越しの目的と整合し難い不自然なものといわざるを得ず、Eの前記証言は信用できない。そして、前記一(3)ア、イにおいて認定したとおり、本件火災前までには、原告X2も本件アパートで生活するようになり、本件火災当時は本件建物に誰も住んでいなかったこと、原告X2が、本件火災前に、近隣住民に飼猫を預けていたことなどに加え、原告X2が、特調の調査に対し、当初は本件火災以前に本件アパートに泊まったことがあったことを否定するなど、本件火災当時本件アパートで生活していたことを殊更隠すような言動をしていたことも併せ考慮すると、原告X2及びEが本件火災前に本件建物を出て本件アパートで生活していたのは、本件火災に備えてあらかじめ避難するためであったと推認するのが相当である。

さらに、前記一(8)ウにおいて認定したとおり、原告X2は、本件火災の二日後に作成したり災申告書において、本件契約一、三、四の保険金額及び本件契約一の契約日について正確に記載していた上、本件訴訟において、本件契約一の保険証券及び本件契約三の共済契約証書の各原本並びに品名、数量、購入単価等が詳細に記載された家財損害明細及び商品損害明細の各写しを書証として提出しているから、本件火災前に、あらかじめ、これらの保険証券並びに品名、数量及び購入単価等の記載された仕入台帳等の書類を本件建物から持ち出していたものと推認できる。そして、原告X2が、保険金等請求に必要なこれらの書類を偶然に本件建物から持ち出していたとは考え難く、同原告は、保険金等を請求する目的でこれらの書類を持ち出していた可能性が高いといえる。

ウ 本件火災当日の行動に関する原告X2の供述の変遷について

原告X2は、本件火災当日に本件火災の発生を知った後の行動等について、前記一(4)において認定したとおり、本件火災の二日後の平成二〇年一〇月三日に行われた消防による質問調査の際には、債権者が本件火災現場に来ていると思ったので、同現場には行かなかった旨供述し、同月一六日に実施された特調の調査の際には、本件火災現場に向かう途中で警察官から直接熊谷警察署に来るよう指示されたため、熊谷警察署に真接行った旨供述していたが、本人尋問の際には、道に迷いながら本件火災現場に着いたものの、債権者が来ているのではないかと思ったので、車からは降りず、火事の状況も見なかった旨供述している。このように、本件火災当日の行動に関する原告X2の供述には、本件火災現場の様子を確認したかどうかという点について変遷がみられるところ、この点について記憶違いをすることは考え難いから、同原告は、少なくとも、消防による質問調査、特調の調査又は本人尋問のいずれかの機会において、殊更に虚偽の供述をしたものと考えるよりほかないが、同原告が本件火災に関与していないのであれば、あえてこのような虚偽の供述をする必要はない。したがって、以上のような原告X2の供述の変遷は、本件火災が同原告X2又は同原告と意を通じた第三者による放火であることを推認させる事情といえる。

これに対し、原告らは、消防及び特調による供述記録は、原告X2の供述内容をそのまま記載したものではなく、信用性が高いとはいえないから、これを前提に変遷の有無を考えるべきではない上、原告X2の供述はその根本的な部分では変遷していないなどと主張する。しかしながら、消防及び特調による供述記録は、本件火災から間がない時期に作成されている上、原告X2は、これらの記録の内容を読み聞かされて誤りがないことを確認して署名等をしており、特に、特調の作成した供述記録については、内容の訂正まで申し立てているのであるから、これらの記録の信用性は高いといえる。また、原告X2の供述の変遷は、本件火災当日に本件火災現場の様子を確認したかどうかという点に関するものであり、これは根本的な部分に関する変遷というべきである。したがって、原告らの前記主張は採用できない。

エ 本件火災当日の行動に関する原告X2の供述内容について

(ア) 本件火災当日の行動等に関する原告X2の供述は、前記のとおり、重要な点において変遷しているところ、その変遷前の供述は、債権者が本件火災現場に来ていると思ったため、又は本件火災現場に向かう途中で警察官から直接警察署に来るよう指示されたため、本件火災当日は本件火災現場に行かなかったというものである。しかしながら、それまで四〇年間以上にわたって生活してきた住居で火災が起きた旨の連絡を受けた者としては、火災の程度、死傷者の有無、周囲への延焼の有無等を確認するため、何を置いても火災現場に駆けつけるのが通常であるといえる。したがって、本件火災当日に本件火災現場に行かなかった旨の原告X2の前記供述は極めて不自然であるといわざるを得ない。

(イ) 他方、変遷後の原告X2の供述は、本件火災の連絡を受けて本件火災現場に向けて車を運転し始め、道に迷いながら本件火災現場に着いたが、債権者が来ているのではないかと思ったので、車からは降りず、火事の状況も見なかった、その時は、本件火災現場がどういうものだったのか、どれくらい燃え移ったかについては、全然考えなかったというものである。しかしながら、それまで四〇年間以上にわたって生活と仕事を続けてきた場所で火災が発生したという状況下において、火災現場まで行ったにもかかわらず、火災の程度、死傷者の有無、周囲への延焼の有無等について全然考えず、これらの点について車から降りて直接確認しない一方で、実際に本件火災現場にいることを確認したわけでもない債権者のことばかり心配していたというのは、極めて不自然な行動というよりほかない。

これに対し、原告らは、原告会社が不渡りを出した後、債権者から取り立ての電話が多数かかってきたほか、債権者等が乗車していると思われる黒塗りの車が本件敷地前に来たり、本件火災前日に取引先に突然債権者が現れたりしていたため、本件火災現場にも債権者が来ているかもしれないと考えて車から降りなかったものであり、このような原告X2の行動は何ら不自然とはいえないなどと主張する。確かに、前記一(3)ウにおいて認定したとおり、原告X2は、原告会社が不渡りを出した後、警察に対し、債権者が手配したと思われる黒塗りの車が本件建物を監視しているなどと申し立ててパトロールを依頼したことがあった。しかしながら、原告X2の供述によっても、黒塗りの車が来たのは一、二回だけで、同車に乗車していた者はただ様子を見ていただけであった上、債権者の中にわあわあ言うような人はおらず、債権者による取立ては電話によるものに限られ、本件建物まで取立てに来たり、原告X2を脅したりすることはなく、本件火災前日に取引先に現れた債権者も、原告X2の携帯電話の番号を確認しただけで同原告を解放したというのであるから、同供述を前提としても、本件火災現場で車から降りて火災の程度、死傷者の有無、周囲への延焼有無等を確認しなかった旨の原告X2の前記説明はやはり不自然といわざるを得ない。したがって、原告らの前記主張は採用できない。

(ウ) 以上のように、本件火災当日の行動に関する原告X2の供述内容が不自然であることも、本件火災が同原告又は同原告と意を通じた第三者による放火であることを強く推認させる事情といえる。

オ 本件火災後の原告X2の言動について

前記前提事実及び前記一(8)イにおいて認定したとおり、原告X2は、本件火災の二日後までには、被告らに対して本件保険金等の支払を請求していた一方で、本件火災後に、周辺宅へのおわび等、出火元の家人として通常とるべきと考えられる行動をとっていない。本件火災は、本件建物及び本件材木置場が全焼するほどの規模のものであり、近隣住民等にも多大な物的被害を与えており(前記一(2)イ)、近隣住民が恐怖を抱いたであろうことは容易に想像できる。それにもかかわらず、原告X2が、周辺宅へのおわび等より優先して本件火災直後に本件保険金等の支払を請求したということは、同原告が本件保険金等の早期取得を強く望んでいたことの現れとみることができる。

また、前記一(8)アにおいて認定したとおり、原告X2は、特調の調査の際、借入額について虚偽の過少申告をし、消防の調査の際には、本件火災当時生活していた本件アパートの場所を話すことを拒否していた。しかしながら、同原告が本件火災に関与していないのであれば、あえてこのような言動をする必要はないのであるから、同原告は、本件火災への関与を隠すためにこのような言動をしたものとみるのが相当である。

以上のような本件火災後の原告X2の言動も、本件火災が原告X2又は同原告と意を通じた第三者による放火であることを推認させる事情といえる。

カ 原告X2の動機及び保険契約に関する事情等について

前記一(6)ア、イにおいて認定したとおり、原告らには、本件火災当時多額の借入金があり、原告会社は本件火災の約二週間前に不渡りを出していたから、経済的に極めて困窮していたといえる。また、前記前提事実及び前記一(6)ウにおいて認定したとおり、本件建物は非常に古く、担保権が設定されていたから、本件敷地はそのままでは売却による換価が極めて困難な状況であった。他方で、原告らは、本件建物が火災により焼失すれば、数千万円(原告らは、本件保険金等として、本件訴訟における請求額相当額を取得できると考えていたものと解されるところ、訴状における請求額は約六五七〇万円、減縮後の請求額でも約四六〇〇万円である。)に上る多額の本件保険金等を取得して借入金全額を返済し得るのみならず、本件敷地を更地として売却することによって多額の売却代金(原告X2から債務整理の依頼を受けた弁護士は二〇〇〇万円程度で売却できればよいと考えていた。)を得ることも可能な立場にあった。これらの事情に照らすと、原告X2には放火の動機があったといえる(なお、被告らは、本件保険契約等が重複・超過加入契約であったことから、原告X2に本件保険金契約等を不正に取得する目的があったことが推認できるとも主張する。しかしながら、前記前提事実及び前記一(6)エ、(7)ア、イにおいて認定したとおり、本件建物に関しては複数の保険契約及び共済契約が締結されており、その保険金額及び共済金額の合計は本件建物の価額を上回っていたものの、これらの保険契約及び共済契約は、取引先からの勧誘等を契機として本件火災の約八年以上前に初めて締結され、以後毎年更新されてきたものであること、その保険料及び共済掛金も高額とはいえないことなどに照らすと、本件保険契約等が重複・超過加入契約であったことから、原告X2に本件保険金等不正に取得する目的があったと推認することはできない。)。

これに対し、原告らは、本件火災前の時点で、原告会社は不渡りを出して廃業せざるを得ない状況にあり、原告X2も個人破産の方向で話が進められていたこと、原告X2自身もこのような状況を受け入れて新たな仕事を探すなどしていたこと、原告X2は長年にわたって本件建物に住み続けており、近隣住民等との関係も良好であったこと、原告X2がこれまで保険金等を受け取ったことはなく、本件火災後も調査等に積極的に協力していることなどを理由に、原告X2には放火の動機はない旨主張する。確かに、前記前提事実及び前記一(6)イ、(7)ウにおいて認定したとおり、原告X2は四〇年間以上にわたって本件建物に居住しており、これまでに保険金等の支払を受けたことはない。また、原告X2から債務整理の依頼を受けた弁護士は、同原告との間で、自己破産の方向で話を進めていた。しかしながら、前記一(8)アにおいて認定したとおり、原告X2は、本件火災後の調査等に積極的に協力していたとはいえないこと、前説示のとおり、原告X2には、本件火災の約二週間前に、原告会社の不渡りという、保険金等取得目的での放火を決意する契機となり得る重大な出来事が発生していたこと、本件建物が火災により焼失すれば、本件保険金等によって原告らの借入金全額を返済して原告会社の廃業を免れ得るのみならず、本件土地の売却によって更なる利益も見込めたことなどに照らすと、原告らの指摘する前記のような事情を考慮しても、原告X2に放火の動機があった旨の前記認定は左右されない。

キ 本件レシートによる原告X2のアリバイについて

(ア) 前記前提事実及び前記一(5)アにおいて認定したとおり、原告X2は、本件火災当日の夕方、熊谷警察署で事情聴取を受けた際、本件レシートを所持しており、本件レシートには、本件火災の発生時刻(午後二時三六分ころ)に近い午後二時四二分に本件aスーパーで発行された旨の印字がされていた。そして、前記一(5)アにおいて認定した事実によれば、本件レシートに印字された時刻は、本件火災当日もほぼ正確であったと推認できるから、本件レシートが発行されたのは、その印字された時刻のとおり、本件火災当日の午後二時四二分ころであったと認められる。

しかしながら、本件では、目撃者や防犯カメラ画像等によって、原告X2自身が本件aスーパーにいたことが確認されているわけではない。そして、前記一(5)イにおいて認定した事実によれば、本件火災当日における本件aスーパーから本件火災現場までの所要時間も一時間二〇分程度であったと推認できるから、原告X2と意を通じた第三者が、午後二時四二分ころ、本件aスーパーで本件レシートを入手して、自動車等の交通手段で移動し、夕方に行われた警察による事情聴取により前にこれを原告X2に手渡すことは十分に可能であったといえる(なお、原告らは、本件火災の発生当時、Eは本件アパートにおり、Fはさいたま市内の会社で仕事をしていたから、協力者の存在は考えられない旨主張するが、これを裏付ける客観的な証拠はない。)。

また、原告X2は、前記一(4)において認定したとおり、本件レシートに印字された時刻である午後二時四二分ころに本件aスーパーにいたことを前提として、特調の調査に対し、本件aスーパーを出た後、当初は本件火災現場に向かったが、途中で熊谷警察署に直接行くこととし、結局、本件aスーパーを出てから熊谷警察署に到着するまでに約三時間二〇分かかった旨供述している。しかしながら、前記一(5)イにおいて認定したとおり、本件aスーパーから本件火災現場又は熊谷警察署までの所要時間は、インターネットサイト検索や実走実験の結果、国道一七号線に出て同国道を直進する経路又は東北自動車道及び国道一二五号線を経由する経路で、長くても一時間三〇分程度であり、この区間を移動するのに約三時間二〇分も要したというのは余りに不自然である。

さらに、原告らは、原告X2は普段からレシートを保管していたから、本件レシートを所持していたことも不自然ではない旨主張し、これに沿う書証として、平成二二年二月から同年五月までのレシート七枚を提出する。しかしながら、これらのレシートに記載された物品だけの購入でこの期間の生活が可能であったとは到底考え難いこと、これらのレシートのうちマミーマート越谷弥十郎店のレシート二枚のポイント数の記載が連続していないことなどに照らすと、原告X2は、前記期間に、書証として提出した前記レシート以外にもレシートを受け取っていたにもかかわらず、これを保管していなかったものと認められる。

これらの事情に照らせば、本件では、原告X2が本件火災当日の夕方に本件レシートを所持していたからといって、同原告が、本件火災の発生時刻ころに本件aスーパーにいたと直ちに認めることはできず、同原告のアリバイは直ちには認められない。

(イ) これに対し、原告らは、原告X2には岩槻周辺の土地勘がなく、本件火災当日は道に迷いながら車を運転していた上、本件火災発生の連絡を受けた後は、通常の精神状態で運転することはできなかったと考えられるから、移動のために調査会社の実走実験等より長い時間を要したとしても不自然とはいえないなどと主張する。しかしながら、原告X2は、前記前提事実及び前記一(3)アにおいて認定したとおり、埼玉県熊谷市内で四〇年間以上にわたって材木店を営んで生活してきた上、本件火災前には、さいたま市岩槻区と同じ県南の埼玉県北足立郡伊奈町にある本件アパートに行き、そこで生活していたのであるから、岩槻周辺に全く土地勘がなかったとは考え難い。また、土地勘がないのであればなおさら、案内板等が多く迷いにくい国道等の幹線道路を経由する経路を選択するのが自然であると考えられるところ、前記一(5)イにおいて認定したとおり、国道一七号線経由の経路は極めて単純であるから、心理的動揺等を考慮しても長時間迷うとは考えにくく、インターネットサイト検索や実走実験の結果の二倍以上の時間を要したというのは不自然というよりほかない。

また、原告らは、原告X2は単に本件レシートを所持していたのみならず、本件aスーパー内の様子等を具体的に述べている上、同原告から電話を受けた知人も、その際に同原告から県南のスーパーマーケットにいる旨聞いたと述べているから、本件火災の発生時刻ころに本件aスーパーにいたことは間違いないとも主張する。しかしながら、本件レシートを本件aスーパーで入手した協力者から、あらかじめ同店内の様子等を聞いておけば、これを具体的に供述することは容易であるし、知人への電話についても、アリバイ工作のためにかけたものであると考えることができる。

したがって、原告X2のアリバイが直ちに認められない旨の前記判断は左右されない。

ク 以上のとおり、本件火災は灯油を助燃剤として使用した放火と認められること、本件敷地及びその周囲の客観的状況等に照らし、原告X2と関係のない第三者が放火することは相当に困難であった一方、原告X2又は同原告と意を通じた第三者が放火することは格別困難ではなかったこと、原告X2が、本件火災前において、家族とともに本件建物から生活の拠点を移し、飼猫を周辺住民に預け、保険証券等を持ち出すなど、本件火災に備えた避難とみられる行動をしていたこと、本件火災当日の行動に関する原告X2の供述は、その重要な部分において合理的理由なく変遷している上、その変遷前後の供述内容がいずれも不自然であること、原告X2が、本件火災後において、周辺宅へのおわびもしないまま、早々に本件保険金等の支払請求を行い、消防等の調査等の際にも不自然な言動をしていたこと、原告X2には、放火をすべき動機があったこと、原告X2のアリバイが直ちには認められないことなどを総合的に考慮すれば、本件火災は、原告X2又は同原告と意を通じた第三者の故意により生じたものであると推認するのが相当である。

(3)  そうすると、本件火災は、本件故意免責規定に該当し、被告らの故意免責が認められる。

第四結論

以上に認定、説示したところによれば、その余の争点につき判断するまでもなく、原告らの被告らに対する請求はいずれも理由がないから、これらを棄却すべきである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗田健一 裁判官 飯塚宏 伊澤大介)

別紙 物件目録《省略》

別紙 平面図《省略》

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例