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さいたま地方裁判所熊谷支部 平成22年(ワ)631号 判決 2012年3月26日

本訴原告(反訴被告)

X株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

石嵜信憲

山中健児

鈴木里士

江畠健彦

橋村佳宏

安藤源太

塚越賢一郎

仁野直樹

本訴被告(反訴原告)

Y1

本訴被告(反訴原告)

Y2

上記両名訴訟代理人弁護士

徳住堅治

並木陽介

同訴訟復代理人弁護士

早田由布子

主文

1  本訴原告(反訴被告)の訴えを却下する。

2  本訴被告ら(反訴原告ら)が,本訴原告(反訴被告)に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

3  本訴原告(反訴被告)は,本訴被告(反訴原告)Y1に対し,

(1)  平成22年11月から本判決確定の日まで,毎月25日限り,38万4750円及びこれに対する各支払日の翌日から各支払済みまで年6分の割合による金員

(2)  280万3354円及びうち82万7888円に対する平成22年12月4日から,うち98万7733円に対する平成23年7月9日から,うち98万7733円に対する同年12月10日から各支払済みまで年6分の割合による金員

(3)  43万4441円及びうち6万1714円に対する平成22年12月4日から,うち18万5491円に対する平成23年7月9日から,うち18万7236円に対する同年12月10日から各支払済みまで年6分の割合による金員

を支払え。

4  本訴原告(反訴被告)は,本訴被告(反訴原告)Y2に対し,

(1)  平成22年11月から本判決確定の日まで,毎月25日限り,39万9375円及びこれに対する各支払日の翌日から各支払済みまで年6分の割合による金員

(2)  297万7598円及びうち87万4170円に対する平成22年12月4日から,うち105万1714円に対する平成23年7月9日から,うち105万1714円に対する同年12月10日から各支払済みまで年6分の割合による金員

を支払え。

5  本訴被告ら(反訴原告ら)のその余の請求をいずれも棄却する。

6  訴訟費用は,本訴反訴を通じてこれを10分し,その9を本訴原告(反訴被告)の負担とし,その余は本訴被告ら(反訴原告ら)の負担とする。

7  この判決は,3項及び4項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  本訴

本訴原告(反訴被告)と本訴被告ら(反訴原告ら)との間に雇用契約が存在しないことを確認する。

2  反訴

(1)  主文2項と同旨

(2)  本訴原告(反訴被告)は,本訴被告(反訴原告)Y1に対し,

ア 平成22年11月から本判決確定の日まで,毎月25日限り,40万4064円及びこれに対する各支払日の翌日から各支払済みまで年6分の割合による金員

イ 主文3(2)項の金員

ウ 55万7869円及びうち18万5142円に対する平成22年12月4日から,うち18万5491円に対する平成23年7月9日から,うち18万7236円に対する同年12月10日から各支払済みまで年6分の割合による金員

を支払え。

(3)  本訴原告(反訴被告)は,本訴被告(反訴原告)Y2に対し,

ア 平成22年11月から本判決確定の日まで,毎月25日限り,41万8048円及びこれに対する各支払日の翌日から各支払済みまで年6分の割合による金員

イ 主文4(2)項の金員

ウ 平成22年11月から平成23年4月まで,毎月末日限り,3万0712円及び同年5月から本判決確定の日まで,毎月末日限り,3万1223円並びにこれらに対する各支払日の翌日から各支払済みまで年6分の割合による金員

を支払え。

第2事案の概要

本件は,本訴原告(反訴被告。以下,単に「原告」という。)が,虚偽申告による職務懈怠や暴言・威嚇等を理由に,原告の労働組合の執行委員長及び書記長であった本訴被告ら(反訴原告ら。以下,単に「被告ら」という。)を普通解雇(以下「本件解雇」という。)したが,同解雇後も被告らが雇用契約の存続を主張して争っているとして,雇用関係が存在しないことの確認を求めた(本訴)のに対し,被告らが,本件解雇は解雇権の濫用等に当たり無効であるとして,原告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び同契約に基づく賃金等の支払を請求している事案(反訴)である。

1  前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠によって容易に認められる事実。なお,認定の根拠とした証拠は各項の末尾に挙示する。)

(1)  当事者等

ア 原告は,自動車用部品(主にトラック,バス向けのブレーキシステム)の研究開発,製造,販売及び輸出に関する業務を目的とする株式会社であり,ドイツに本社を置くa社商用車部門の日本法人である。原告は,肩書地<省略>に本社兼工場(以下「原告工場」という。)を置いている。

原告は,平成13年1月,株式会社b(以下「b社」という。)から商用車用ブレーキ部門の事業譲渡を受け,平成15年1月1日,同社の従業員の転籍を受け入れた(証拠<省略>)。

イ c労働組合(以下「c労組」という。)は,前記転籍に伴い,平成15年2月に原告の従業員により結成された労働組合である。c労組は,機械金属産業を中心とする産業の労働者により組織されるd労働組合(以下「d労組」という。)に加盟しており,その地方組織であるd労組北関東に所属している。c労組の組合事務所は,原告工場と同じ敷地内に設けられている(証拠<省略>)。

ウ 本訴被告Y1(以下「被告Y1」という。)は,昭和59年6月にb社の前身である自動車機器社に入社し,平成8年11月から原告に出向して勤務していた。被告Y1は,平成15年1月1日に原告に転籍した後,本件解雇に至るまで,原告工場で普通勤務者として勤務していた。また,被告Y1は,原告への転籍前は,e労働組合(以下「e労組」という。)の支部執行委員を務めていたが,c労組の結成後は,同労組の執行委員長に就任し,本件解雇当時は,そのほかに,d労組埼玉福祉委員会委員,同災害f救援隊(以下「f救援隊」という。)運営委員会委員長及び同隊長,d労組北関東福祉委員会委員等の役職を務めていた(証拠<省略>)。

エ 本訴被告Y2(以下「被告Y2」という。)は,平成元年4月に自動車機器社に入社し,平成8年11月から原告に出向して勤務していた。被告Y2は,平成15年1月1日に原告に転籍した後,本件解雇に至るまで,原告工場でフレックス勤務社員として勤務していた。また,被告Y2は,c労組の結成後は,同労組の書記長に就任し,本件解雇当時まで務めていた(証拠<省略>)。

(2)  雇用契約の締結

原告は,被告らの転籍に伴い,平成15年1月1日,被告らとの間で,それぞれ,期間の定めのない雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)を締結した(争いがない)。

(3)  就業規則等の定め

ア 平成15年1月1日に施行された原告の就業規則(以下「本件就業規則」という。)には,解雇理由等に関し,次のような定めがある(証拠<省略>)。

第5条 服務規律

社員は,会社の定める職制によって所属長の指示命令に従い,職場の秩序を保持しなければならない。特に次の各項又はそれに準ずる行為をしてはならない。

(中略)

2)会社の内外を問わず品位を傷つけるような行為を行うこと

第17条 解雇

社員が次の各項に該当するときは解雇する。

1)本規則の懲戒規定により解雇されたとき

イ 平成15年1月1日に施行された原告の賞罰規定(以下「本件賞罰規定」という。)には,懲戒に関し,次のような定めがある(証拠<省略>)。

第9条 懲戒解雇・諭旨退職

社員が次の各号の一に該当するときは,懲戒解雇・諭旨退職に処する。ただし,情状により減給または出勤停止,もしくは降格に止めることがある。

(中略)

4)協調及び態度矯正の意欲がなく,職務を意図的に怠りまたは緩慢に行ったとき

(中略)

9)業務上の上長の指示・命令に従わず,越権専断の行為をなし職場の秩序を乱すとき

(中略)

13)会社内で,暴行,脅迫,傷害,暴言またはこれに類する行為をなしたとき

(中略)

20)その他,就業規則第5条に定める服務規律,職場秩序に関する事項のうち,重要な事項に違反したとき,ならびに注意を受けたにもかかわらず,繰り返し行ったとき

21)そのほか,前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき

(4)  本件解雇

原告は,平成22年9月21日,被告Y1については本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条4号,9号,13号,20号及び21号に基づき,被告Y2については本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条9号,13号,20号及び21号に基づいて,被告らをいずれも普通解雇した(証拠<省略>)。

(5)  原告工場における就業時間

原告工場に勤務する従業員(普通勤務者)の就業時間は,本件当時,午前8時から午後5時まで(ただし,午後0時から午後0時50分まで及び午後3時から午後3時10分までは休憩時間)であった(証拠<省略>)。

(6)  労働協約

原告とc労組が平成15年7月1日付けで締結した労働協約には,組合活動に関し,次のような定めがある(証拠<省略>)。

第19条 組合活動

組合の集会及びその他の組合活動は,所定労働時間外に行うものとする。ただし,次の各号の一に該当する場合は,この限りでない。

1)団体交渉,労使委員会,その他会社と組合で行う各種会議の構成員がその会議に出席するとき

(中略)

4)その他組合活動のために組合が必要と認め,あらかじめ会社に届け出たとき

第20条 組合活動中の賃金及び出勤率

① 会社は,就業時間中に行われた組合活動に対しては,賃金を支払わない。ただし,前条1号の場合は,賃金を支払う。

② 前条に定める就業時間中の組合活動は,出勤扱いとし,出勤率には影響を及ぼさない。

第21条 組合活動の届出

組合員が就業時間中に前条の組合活動を行う場合は,あらかじめ所属長に届け出るものとする。

(7)  原告工場におけるc労組組合活動の届出等

原告工場におけるc労組組合活動の届出については,従前,その方法や内容等が必ずしも明確に決まっていなかったが,原告からc労組に対する申入れによる双方の話合いの結果,平成22年4月1日以降,①原告工場内の組合活動の届出については,組合用務届出表を原告に提出すること,②原告工場外の組合活動の届出については,組合用務入出門表を原告に提出すること,③上記(6)の労働協約19条1号以外の組合活動については,原告工場の内外を問わずc労組から原告に対し組合活動時間に相当する賃金額を補てんすることとされた(証拠<省略>)。

(8)  調査会社による被告Y1の行動についての調査

原告は,平成22年7月20日から同年8月27日までの被告Y1の行動について,調査会社に監視調査を依頼した(以下「本件調査」という。)。同社は,被告Y1の自宅周辺の監視,ビデオ撮影等の調査を行った上,同月30日,原告に対し,調査結果を取りまとめた報告書(以下「本件調査報告書」という。)を提出した(証拠<省略>)。

2  争点

(1)  本件本訴及び本件反訴の適法性(争点1)

(2)  被告Y1に対する本件解雇の効力(争点2)

ア 解雇権の濫用に当たり無効か

イ 不当労働行為に当たり無効か

(3)  被告Y2に対する本件解雇の効力(争点3)

ア 解雇権の濫用に当たり無効か

イ 不当労働行為に当たり無効か

(4)  本件解雇が無効である場合に原告が支払うべき賃金等の額(争点4)

3  争点に対する当事者双方の主張<省略>

第3当裁判所の判断

1  争点1(本件本訴及び本件反訴の適法性)について

(1)  原告は,本件本訴において,原告と被告らとの間に雇用契約が存在しないことの確認を請求しているところ,これは,原告に雇用契約に基づく賃金等の支払義務がないこと及び被告らが雇用契約上の権利を有する地位にないことの確認を求めるものである。そうすると,本件本訴は,本件反訴である雇用契約に基づく賃金等の支払請求及び被告らが雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認請求の反対形相としての消極的確認の訴えであり,本件反訴請求の当否の判断に全て含まれる関係にあるから,原告と被告らとの間における法的紛争を解決する有効適切な手段であるということはできず,確認の利益を欠くというべきである。

また,二重起訴禁止の趣旨は,相手方当事者の二重応訴の負担及び裁判所の重複審理の負担を回避するとともに,判決内容の矛盾抵触を回避する点にあり,このような趣旨に照らすと,係属中の訴訟手続において反訴を提起することは二重起訴禁止に抵触しないというべきである。

(2)  以上によれば,本件反訴は確認の利益が認められ,かつ二重起訴禁止にも抵触しないから適法であり,他方,本件本訴は確認の利益を欠き不適法であるから却下すべきである。これに反する原告の主張は相当でなく,採用できない。

2  争点2(被告Y1に対する本件解雇の効力)について

(1)  当事者間に争いのない事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は,以下のとおりである。

ア 虚偽申告による職務懈怠等(解雇理由1)について

(ア) 平成22年7月26日について

被告Y1は,原告に対し,組合用務として,午後5時までd労組栃木で講習会打合せに出席する旨届け出た上,午後1時30分に原告工場を出て,午後2時14分に帰宅した。被告Y1は,午後2時37分から午後3時30分までは自宅ガレージ内におり,その後,少なくとも午後6時までは自宅室内にいた。なお,被告Y1は,届出の時点で,d労組栃木における講習会打合せに出席するつもりはなかったが,自らの意思に基づき,原告に対してその旨届け出た(証拠<省略>,被告Y1の尋問調書(以下,「被告Y1」などと表記する。))。

(イ) 平成22年7月27日について

被告Y1は,原告に対し,組合用務として,午後5時まで,g社東松山第1工場における連合会役員会及びh社東松山支店におけるd労組北関東福祉委員会に出席する旨届け出た。被告Y1は,午前8時30分ころ自宅を出発し,午前9時30分から午前11時30分まで,g社東松山第1工場で連合会役員会に出席して,午後0時04分までに帰宅した。被告Y1は,午後1時01分から午後2時01分まで自宅ガレージ内にいた後,午後2時48分にバイクでh社東松山支店に向かい,同店において,午後3時から午後4時まではd労組埼玉災害ボランティア運営委員会に,午後4時から午後5時過ぎまではd労組埼玉福祉委員会に出席した後,午後5時31分に帰宅した(証拠<省略>)。

(ウ) 平成22年7月28日について

被告Y1は,原告に対し,組合用務として,午後5時までi会館でd労組北関東執行委員会に出席する旨届け出た上,午後1時30分に原告工場を出て,午後3時から午後3時35分ころまで,同会館で開催されたd労組北関東福祉委員会において講義を行い,午後4時26分に帰宅した。なお,福祉委員会ではなく執行委員会と届け出たのは,単なる誤記である(証拠<省略>,被告Y1)。

(エ) 平成22年8月4日について

被告Y1は,原告に対し,組合用務として,午後5時まで,埼玉労働局及びd労組北関東へ労働協約調査に行く旨届け出た上,午前10時36分に原告工場を出たが,午後0時37分には帰宅していた。被告Y1は,その後は自宅にいたが,午後3時31分から午後3時54分までバイクで郵便局に行き,午後4時18分ころから午後4時47分ころまでは自宅周辺でウォーキングを行った。なお,被告Y1は,届出の時点で,埼玉労働局及びd労組北関東へ労働協約調査に行く意思も,確定拠出年金制度への移行後の退職金水準について相談するために労働委員会を訪問する意思もなかった(証拠<省略>,被告Y1)。

(オ) 平成22年8月5日について

被告Y1は,原告に対し,組合用務として,午後5時まで,g社東松山第1工場及びj社熊谷へ地協会計監査打合せに行く旨届け出た上,午後2時15分に原告工場を出たが,午後2時41分には帰宅した。その後,被告Y1は,午後3時12分から午後3時19分までバイクで外出し,午後4時25分から午後5時17分まで,自宅周辺でウォーキングを行った。なお,被告Y1は,届出の時点において,j社熊谷へ地協会計監査打合せに行くつもりはなく,d労組埼玉北部地協のBに,役員辞退について相談するつもりであった(証拠<省略>,被告Y1)。

(カ) 平成22年8月18日について

被告Y1は,原告に対し,組合用務として,午後5時までg社労働組合へ会計監査打合せに行く旨届け出た上,午後2時に原告工場を出て,遅くとも午後2時43分までに帰宅した,被告Y1は,午後2時43分にバイクで外出してk整形外科を受診し,薬局で薬を受け取った後,午後4時32分に帰宅した。その後,被告Y1は,午後5時34分にバイクで自宅を出て,g社東松山第1工場(g社労働組合会館)において,d労組北関東・埼玉県北部地域協議会会計の会計監査業務を行った。なお,被告Y1は,届出の時点で,労働委員会の関係でc労組OBに聞き取りを行うつもりはなく,k整形外科を受診した後,終業時刻である午後5時以降に前記会計監査業務を行うつもりであった(証拠<省略>,被告Y1)。

(キ) 平成22年8月23日について

被告Y1は,Cから,独立行政法人国際条約締結協会を紹介されたことから,原告に対し,組合用務として,午後5時まで,同協会において労働協約の英文作成講習会に出席する旨届け出た。ところが,同届出後に被告Y1が調べたところ,そのような団体は見当たらず,再度Cに問い合わせたところ,独立行政法人労働政策研究・研修機構を紹介されたため,同機構を訪ねることとした。被告Y1は,午前6時56分にバイクで自宅を出発して午前9時ころに同機構に到着し,1時間ほど資料を閲覧した後,午後2時03分に帰宅した。被告Y1は,午後2時04分に自宅ガレージ内に入り,以後約2時間,自宅敷地内で私的な作業をしていた。被告Y1は,午後3時59分,バイクで外出してk整形外科を受診した後,午後4時46分に帰宅した。なお,被告Y1は,午後5時33分ころには,自宅周辺でウォーキングを行っていた(証拠<省略>,被告Y1)。

(ク) 平成22年8月25日について

被告Y1は,原告に対し,組合用務として,午後5時まで東京都墨田区斎場へ組合関係葬儀対応に行く旨届け出た上,午後2時25分にバイクで原告工場を出て,k整形外科を受診し,午後3時39分に帰宅した。被告Y1は,午後4時07分ころから約40分間にわたり,自宅敷地内で私的な作業を行った上,午後4時46分から午後5時42分まで自宅周辺でウォーキングを行った。なお,被告Y1は,届出の時点で,k整形外科を受診した後は帰宅するつもりであり,組合関係葬儀に参列するつもりはなかった(証拠<省略>,被告Y1)。

(ケ) 平成22年8月27日について

被告Y1は,原告に対し,組合用務として,午後5時まで,埼玉県労働委員会における労働組合資格審査認定継続手続及びd労組北関東における地協連絡会に出席する旨届け出た。被告Y1は,午前9時34分にバイクで自宅を出発し,午前10時02分,埼玉県鴻巣市内のバイク修理工場において,前後輪のタイヤ交換を依頼した。同タイヤ交換は午前11時27分に完了し,被告Y1は,午後0時07分にバイクで帰宅した。被告Y1は,午後0時45分に別のバイクで自宅を出発し,午後1時12分,同工場において,エンジンオイル及びオイルフィルターの交換を依頼した。同交換作業は午後1時55分に完了し,被告Y1は,午後2時56分にバイクで帰宅した。被告Y1は,午後3時10分から午後3時57分までバイクで外出した後,約1時間にわたって自宅敷地内で私的な作業を行い,午後4時57分から午後5時22分ころまで自宅周辺でウォーキングを行った。なお,被告Y1は,届出の時点で,バイクの修理及び整備を行うつもりであり,埼玉県労働委員会における労働組合資格審査認定継続手続を行う意思も,d労組北関東における地協連絡会に出席する意思もなかった(証拠<省略>)。

(コ) 平成22年9月の質問書に対する回答について

原告は,平成22年9月14日,被告Y1に対し,同年4月以降に同被告が組合活動を行う旨届け出て職場を離脱していた時間について,届出どおりの組合活動に従事していた事実があるかなどを質問事項として記載した質問書を交付した。これに対し,被告Y1は,同年9月17日ころ,原告に対し,「組合出門の事由に関する回答書」と題する書面により回答したが,同書面には,「本件,組合活動は上部団体の年間計画,単組の事情等により活動しています。会社提出の出門標のリスト内容はd労組北関東,g社連合会,北部地協,およびc労組のすみ分けと各所属団体の確認が必要です。したがって誠意ある回答を致しますが会社の求める提出期日には間に合わないことをご了承ください。」との記載がある。なお,解雇理由書では,この点は解雇理由として記載されていない(証拠<省略>。なお,甲16に「2010年9月8日」とあるのは誤記と認める。)。

イ 暴言・威嚇(解雇理由2)について

(ア) 被告Y1は,平成21年1月15日,労使委員会の席上,品質保証・サービス部における担当業務について,「お姉ちゃんでもできる。」,「女の子がやるような仕事なんてやってられない。」と発言した。

(イ) 被告Y1は,(ア)の労使委員会の席上,原告が経営動向について厳しい見通しを説明していた際,「社長が銀行に行って金借りてくればいい。」と発言した。

(ウ) 被告Y1は,平成21年1月22日,D社長,E副社長らが同席する場で,品質保証・サービス部への異動に不満を表明し,自身がc労組の執行委員長であるため担当業務は自己完結型でなければ難しいこと,納期や外部との連携が必要な業務は組合活動との兼ね合いで難しいことを理由に,「品証部のサービス業務はできない。」と発言した。

(エ) 被告Y1は,平成21年2月5日,原告が,翌日に実施される全体集会の内容をc労組執行部に対して事前説明した際,早期退職プログラムの説明時に,「助成金もらって返せなければ,踏み倒せばいい。」と発言した。なお,同発言は,返済義務のない雇用調整助成金を念頭に置いたものではなく,返済義務のある助成金について,返済できなくなるかもしれないことを承知でこれを申請,受給した上で,返せなくなったら踏み倒せばよいという趣旨でなされたものであった(証拠・人証<省略>,弁論の全趣旨)。

(オ) 被告Y1は,平成21年12月18日,労使委員会の席上,早期退職プログラムの話の中で,原告が,業績が厳しい旨説明している際,被告Y2の「整理解雇の4要件を満たすためには,借金してでも金策に走るということも必要だ。借金も努力の一つだが,会社が借金を考えないのはおかしい。」との発言を受け,「借金して会社がつぶれたら踏み倒せばいい。それで更生法を受ければいい。」と発言した。

(カ) 原告は,平成16年6月ころ,適格退職年金制度から確定拠出年金制度への移行を予定し,適格退職年金制度の解約によって発生する持分額については,一時金として受領するか,確定拠出年金に引き継ぐかのいずれかを各従業員に選択させることとした。原告は,この一時金の税務上の扱いについて,東松山税務署に確認した上,従業員に対し,一時所得としての確定申告が必要となる旨説明した。これに対し,被告Y1は,一時金については一時所得ではなく退職所得として税額を計算すべきである旨主張して,東松山税務署長に対し,平成16年分の所得税の更正請求をしたが,同署長は,同更正請求には更正すべき理由がない旨の通知処分をした。そこで,被告Y1は,同通知処分の取消しを求めて本件税務訴訟を提起し,さいたま地方裁判所は,平成21年1月28日に被告Y1の請求を認容する判決をした。なお,同判決に対しては,国が控訴した結果,原判決が取り消され,被告Y1の上告も棄却された(証拠<省略>)。

被告Y1は,平成21年3月11日,本件税務訴訟に関し,「確定判決に関する請求」と題する書面を原告に交付したが,同書面には,以下のような記載がある(証拠<省略>)。

「会社が説明した通り納税した税金は違法性があり所轄税務署が行った課税処分を取り消す判決がなされ,被告の国は控訴をしなかったので判決は確定しました。(中略)本来退職所得となるべきものが,法律解釈の誤りによって一時所得扱いされ,納税されたことは遺憾であり,従業員への指導徹底を行った会社の責任は免れない。よって,会社に対して平成16年分確定申告において徴税された資産の返還を求める。会社は本請求を真摯に受け止め反省書を労組へ提出のこと。(中略)尚,本請求を会社が受理しない場合,労組は本判決を根拠に損害賠償請求及び,労使協議での偽証,詐欺として刑事告発も視野に入れた対応に切り替えることを通告する。その場合,新退職金制度の破棄,新制度(確定給付)の申し入れと現時点までの旧制度運用による補償,及び慰謝料の請求が含まれることになる。」

(キ) F・DGM(デュプティ・ジェネラルマネージャー)は,平成21年3月12日,関東信越国税局に対し,本件税務訴訟について問い合わせ,国が控訴した旨の情報を得たため,被告Y2を通じて被告Y1にその旨伝えた。これに対し,被告Y1は,「裁判所が決めたことにケチをつけるのか。国税の誰がそんなことを言ったのか。」と発言し,F・DGMが回答を拒むと,「誰か言わないんだったらお前も同罪だろ。」と発言した(証拠・人証<省略>)。

(ク) 被告Y1は,平成21年6月18日,F・DGMから管理職の任用に関する報告を受けた際,F・DGMに対し,「管理職の人数が多い。承認できない。」,「業務上の必要性が見い出せない。」と発言した。

(ケ) 原告では,平成21年9月末でE副社長が退任することとなったところ,同月15日付け「○○ニュース」には,表題部に「副社長退任(退社)に関する要請事項」との記載があり,本文に以下のような記載がある(証拠<省略>)。

「2009年9月14日に会社から決定事項として報告を受けた副社長の退任に対し労働組合として今後の対応を以下に要請します。

1.副社長退任に対する労組見解

数年間にわたり,製造業としての「ものづくり」を支える労働安全衛生面や環境負荷低減活動の取りまとめ,健全な労使関係の構築に携わり,日々改善努力されたことに対し,深く敬意を表するとともに,会社組織を運営されたことに組合員を代表し感謝申しあげたい。一方で労使関係を構築する上で絶対不可欠なキーマンを失うことは,組合として重大な懸念を抱いていることを会社は,認識してもらいたい。

(中略)

<結語>会社は自ら下した人事に対し,結果責任を求められると肝に銘ずるべきである。」

(コ) 被告Y1は,平成21年9月18日の労使協議において,退職金額の水準に話が及んだ際,本件税務訴訟の目的について,「退職金の取扱いなんかより,会社が我々を騙したという証拠が出てくると考えて爆弾を落としてやったんだ。」と発言した。

(サ) 被告Y1は,(コ)の労使協議において,(ケ)の「○○ニュース」の内容が話題となった際,D社長に対し,「あんた言ったよね。」と発言し,この発言を諌めようとしたG・M(マネージャー)に対し,「あんたとはタメ口はきかないんだ。(自分と)タメ口をきけるのは社長だけだ。」と発言した。さらに,被告Y1は,原告側出席者に対し,「○○ニュースの内容は勇み足だと言って俺を訴えようという魂胆か。そういうきたねぇ魂胆なんだろ。」,「組合には言論の自由があるから,E副社長の退任に対して感じることを書いただけだ。」と発言した。

(シ) 被告Y1は,(コ)の労使協議において,残業問題が話題となった際,G・Mが「サービス残業などあってはならない。」と発言したのに対し,「サービス残業があったら,告発してやるから覚悟しろ。」,「証拠が上がったら告発させるからな。」,「お前が責任取れよ。」と発言し,G・Mが「責任は個人として取ることはできない。」と答えたのに対し,「自分で責任がとれないのならつべこべ言うな。」,「逃げ出すんじゃねぇぞ。」と発言した(証拠<省略>)。

(ス) 被告Y1は,(コ)の労使協議において,早期退職プログラムが話題となった際,同プログラムにより退職した2名の管理職について,「俺が辞めさせてやった。」,「職労懇で何も決められなかったから。」,「10年経っても何も変わらなかったから。」と発言し,D社長から「あなたが首を切ったのか。」と問われたのに対し,「ひどかったから。」と発言した。

(セ) 被告Y1は,平成21年9月21日,組合事務所横でG・Mと顔を合わせたが,その際,G・Mに対し,「お前なんか会社に来れなくしてやるから覚えてろ。」,「お前の発言が理由で新人事制度を止めてやるから責任取れよ。」と発言したことはなかった(証拠<省略>,被告Y1)。

(ソ) 被告Y1は,平成21年9月30日,職場労使懇談会の席上,新人事制度における人事異動があった場合の目標設定見直しについて,原告の対応が遅れている点を批判し,その際,F・DGMに対し,「バカ野郎,給与の半分よこせ。」と発言した(証拠<省略>)。

(タ) 原告は,平成21年9月25日,組合員の管理職への登用は通知事項であるとの認識に立ち,同年10月1日から組合員1名を管理職に任用する旨をc労組に文書で通知したが,c労組は,組合員の管理職への登用は協議事項であるとの認識から,同通知の受領を拒否した(証拠<省略>,弁論の全趣旨)。

このように,組合員の管理職への登用が通知事項であるか協議事項であるかをめぐって原告とc労組の主張が平行線であった状況下において開催された平成21年9月30日の労使委員会の席上,被告Y1は,前記管理職任用に関する報告について「新たに登用するなら現存の管理職を降格させろ。」と発言した。G・Mが「人事権の問題である。」と発言したのに対し,被告Y1は,「Gマネージャーの態度がそうなら,Gマネージャーの追認を定期大会でとる。Gマネージャーがいるうちは協力しないし会社提案(新人事制度)に応じない。」と発言し,原告側出席者に対し,「人事権の濫用は,労働委員会に訴える。」と発言した(証拠<省略>)。

(チ) 被告Y1は,平成21年10月13日,北部地協オルグの席上,原告が組合活動中の賃金カットに関する協議を申し入れたのに対し,「労使紛争状態である。」と発言した。

(ツ) 被告Y1は,平成22年6月7日,原告に対し,「36協定の締結に関する件」と題する書面を交付したが,同書面には,「2.引責労務担当者について 今回の労使紛争から係わり,労組に攻撃的な対応をとるGマネージャーです。」との記載がある(証拠<省略>)。

(テ) 被告Y1は,平成22年6月10日,労使トップ交渉の場で,原告に対し,G・Mの引責辞任を要求した。

(ト) 原告が被告Y1に交付した質問書(証拠<省略>)では,解雇理由2に該当する事実の有無については触れられていない。また,G・Mは,平成23年1月28日の団体交渉において,解雇理由2について,少なくとも解雇理由1との比較においては重大なものとは考えていない旨発言した(人証<省略>)。

(2)  事実認定の補足説明等

ア 虚偽申告による職務解怠等(解雇理由1)について

(ア) アマチュア無線に関する作業の有無(平成22年7月26日)について

原告は,同日の行動に関する被告Y1の説明が,本件調査報告書を確認した前後で変遷していることなどを理由に,被告Y1が,帰宅後にアマチュア無線の到達範囲の確認作業や取りまとめ作業を行ったことはなく,仮にこれらの作業を行った事実があったとしても,組合活動には当たらない旨主張する。確かに,証拠(証拠<省略>)によれば,被告Y1は,当初,本件訴訟における主張と異なり,同日は埼玉県加須市で中継基地設置の必要性等の確認を行った旨説明していたことが認められる。しかしながら,証拠(証拠・人証<省略>)によれば,被告Y1は,本件解雇前後の平成22年9月15日から同月25日まで高血圧性脳症により入院しており,退院後もしばらくは記憶に混乱がみられていたこと,当初の説明の時点では,本件調査報告書は開示されておらず,被告Y1が手帳を紛失していたこともあって,記憶喚起のための有効な手段がなかったことが認められ,これらの点に照らせば,原告の指摘する変遷はやむを得ないものと評価し得る。

かえって,前記前提事実並びに証拠(証拠・人証<省略>)及び弁論の全趣旨によれば,平成22年7月当時,被告Y1は,d労組埼玉f救援隊の隊長を務めており,年に数回開催されるf救援隊の研修会においても,災害時の通信手段等について講義を行っていたこと,被告Y1は,アマチュア無線の免許を有し,自宅にその設備も有しており,同月以前から関東地方の各地で無線に関する作業を行っていたことなどが認められ,これらの事実に照らせば,被告Y1が,組合活動として,アマチュア無線の到達範囲の確認作業や取りまとめ作業を行った可能性は否定できないというべきである。

(イ) 労働協約の英文化作業の有無(平成22年8月4日,同月5日,同月23日,同月25日,同月27日)について

a 原告は,被告Y1が自宅で労働協約の英文化作業を行っていたとは考えられない旨主張し,その根拠として,①原告が本件調査を行った時期に偶然英文化作業を始めたというのはあまりに都合のよい主張であり,被告Y1がこの時期に英文化作業を始める必然性はなく,仮に何らかの作業を行う必要があったとしても,組合事務所でなく自宅で作業を行う必要性はないこと,②被告ら提出の書証によっても英文化作業は外部に委託することが予定されており,英語が堪能なわけでもない素人の被告Y1が自ら英文化作業を行っていたというのは不自然であること,③労働協約の英文化については,平成22年3月ないし同年4月の労使委員会において既に話題に上っており,被告Y1が本当に英文化作業をしていたのであれば,原告に対して虚偽届出をする必要はないことなどを挙げる。

しかしながら,まず,①の点については,証拠(証拠・人証<省略>)によれば,被告Y1が,平成22年4月ころ,c労組執行委員会において,労働協約の英文化について説明し,執行委員の確認を得ていたこと,同時期に開催された労使委員会においても,労働協約の英文化作業が話題に上っていたこと,同年10月に開催されたc労組年次大会において,労働協約の英文化議案が採択されたことなどが認められる。このような経緯に加え,被告Y1が自ら労働協約を英文化した書面(証拠<省略>)が証拠として提出されていることも併せ考えると,被告Y1が同年8月に労働協約の英文化作業を行っていたことが格別不自然,不合理であるとはいえない。また,証拠(証拠<省略>,被告Y2)によれば,当時,組合事務所にはネットワークに接続されたパソコンが設置されており,被告Y1はこれを使用することができたが,原告がアクセスを制限していたことが認められるから,被告Y1が自宅で英文化作業を行う必要性がなかったとはいえない。したがって,①の点に関する原告の前記主張は理由がない。

次に,②の点については,確かに,被告Y1は英語が堪能なわけではなく,平成22年9月にc労組が作成した「労働協約の英文締結について」と題する書面(証拠<省略>)には,本件労働協約の英文化に際しては翻訳料金を支払って業者に依頼する旨の記載がある。しかしながら,同書面によれば,c労組には単独予算がなく,上部団体から予算を獲得する必要があったことが認められる。そして,被告Y1は,自ら英文化作業を行っていた経緯について,本人尋問において,上部団体の予算を獲得するためには,英文化した労働協約の叩き台を示す必要があったため,まず自身で労働協約を英訳したが,予算を獲得できれば専門家に依頼するつもりであった旨供述しているところ(被告Y1),このような説明は前記書面の記載と格別矛盾せず,内容としても不合理とはいえない。したがって,②の点に関する原告の前記主張は理由がない。

さらに,③の点については,被告Y1は,最初から自宅で英文化作業を行うために帰宅した旨主張しているわけではなく,届出の時点では英文化作業以外の組合活動を行うつもりであったが,やむを得ない理由により当初予定していた組合活動を行うことができなくなったため,結果的に自宅で英文化作業を行った旨主張しているにすぎないから,この点に関する原告の主張は失当というべきである。

以上によれば,原告の前記主張を直ちに採用することはできず,他の証拠によって被告Y1が自宅内で労働協約の英文化作業をしていなかったと認められる時間帯以外については,被告Y1が,自宅内で,組合活動として労働協約の英文化作業をしていた可能性は否定できないというべきである。

b このような観点から,被告Y1が労働協約の英文化作業を行っていたかどうかが問題となる5日間について検討すると,①平成22年8月4日の午後0時37分から午後5時までのうち,郵便局への外出及びウォーキングを除く時間帯,②同月5日の午後2時41分から午後5時までのうち,バイクでの外出及びウォーキングを除く時間帯については,被告Y1が自宅内で労働協約の英文化作業をしていなかったと認めるに足りる的確な証拠はない。したがって,これらの時間帯については,被告Y1が自宅内で労働協約の英文化作業をしていた可能性が否定できない。これに対し,③同月23日の午後2時04分から午後3時59分まで,④同月25日の午後4時07分ころから午後4時46分まで,⑤同月27日の午後3時57分から午後4時57分までの各時間帯については,本件調査報告書により,被告Y1が自宅敷地内で私的な作業をしていたことが認められるから,被告Y1が自宅内で労働協約の英文化作業をしていた事実はなかったと認めるのが相当である(なお,③及び④の時間帯については,被告Y1自身も,本人尋問において,防犯センサーの誤作動に対応するための作業をしていた旨述べており(被告Y1),英文化作業を行っていなかったことを自認している。)。

(ウ) ウォーキングの経緯等(平成22年8月4日,同月5日,同月25日,同月27日)について

原告は,被告Y1のウォーキングについて,心房細動の兆候が出たためにやむを得ず行ったものではなく,単に健康の維持,向上のための日課として行っていたにすぎない旨主張し,その根拠として,被告Y1が,本件調査を行った9日間のうち前記4日間(終業時刻後に行った平成22年8月23日を含めれば5日間)にわたり,同じような時間帯にウォーキングを行っていたことなどを挙げる。しかしながら,前に認定したとおり,被告Y1は,本件調査の対象となった9日間のうち,前記5日間については,概ね午後4時過ぎから午後6時前までの同じような時間帯にウォーキングをしていた一方で,それ以外の日については,同様の時間帯に在宅していた場合でもウォーキングを行っていないのであるから,このことによって直ちに,被告Y1が単に日課としてウォーキングを行っていたと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる的確な証拠もない。かえって,証拠(証拠<省略>)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y1は,平成20年6月ころから平成22年7月ころまで,発作性心房細動等の治療のため定期的に通院し,抗不整脈薬(シベノール),血栓予防のための抗凝固薬(ワーファリン)等の薬剤の投与を受けていたことが認められる。以上によれば,原告の前記主張は採用できず,被告Y1が,心房細動の兆候が出たためにやむを得ずウォーキングを行っていた可能性は否定できないというべきである。

(エ) k整形外科への通院の経緯等(平成22年8月18日,同月23日,同月25日)について

被告Y1は,k整形外科を受診した理由について,体調が悪くなったためである旨主張し,本人尋問において,心房細動により脳に血栓が生じると,初期症状として手足のしびれが現れるため,手足のしびれが生じた場合にはなるべく早くその原因を確認する必要があった旨供述するとともに,陳述書にも同旨の陳述記載がある。しかしながら,被告Y1の供述するような目的であれば,脳の血栓の有無等を確認できる設備を備えた医療機関を受診するのが合理的であり,そのような施設を備えていない(被告Y1・人証<省略>)k整形外科を受診することは不自然といわざるを得ない。したがって,被告Y1の前記供述及び陳述記載は,いずれも信用し難い。

かえって,前に認定したとおり,被告Y1が,前記3日間とも自分でバイクを運転してk整形外科を受診した上,受診後に,同月18日にはバイクでg社東松山第1工場へ行って会計監査業務を行い,同月23日にはウォーキングを行い,同月25日には私的な作業を行った後にウォーキングを行っていたこと,同月11日及び同年9月3日に病院を受診した際,左肩痛を訴えていたものの,手足のしびれは訴えていなかったこと(証拠<省略>)などに照らすと,当時被告Y1に生じていた手足のしびれは,直ちに医師の診察や治療等を受けなければならないほどのものではなく,日常生活には大きな影響がない程度の軽度のものであったと推認できる。

(オ) 届出の経緯等について

a 平成22年7月26日について

被告Y1は,d労組栃木における講習会打合せに出席するつもりはなかったにもかかわらず,原告に対してその旨届け出た理由について,上司から講習会と書いておいてはどうかと勧められたためである旨主張し,本人尋問においてこれに沿う供述をしている。しかしながら,被告Y1は,本件訴訟において,本人尋問以前にはこのような主張を一切しておらず,事実関係を詳細に記載した陳述書においても,その旨の陳述記載はない。この点について,被告Y1は,上司に迷惑をかけるという気持ちが最後まであったため,陳述書には記載しなかったが,本人尋問の際には,真実を述べる旨宣誓したことが重かったので正直に話した旨供述するものの(被告Y1・人証<省略>),本件解雇の理由の一つである虚偽申告が正当化され得るような重要な事項について,上司に迷惑をかけてはいけないと考えて陳述書に記載しなかった旨の前記供述は,不自然であり,にわかに信用し難い。

したがって,被告Y1が,上司の勧めに従って前記届出をしたという事実はなく,被告Y1は,自らの意思で真意と異なる届出をしたものと認めるのが相当である。

b 平成22年8月4日について

被告Y1は,確定拠出年金制度への移行後の退職金水準について相談するために労働委員会を訪問する予定で原告工場を出たが,尾行に気付いたため,労働委員会の訪問を断念して帰宅し,その後は自宅で労働協約の英文化作業をしていた旨主張し,本人尋問においてこれに沿う供述をするとともに,陳述書にも同旨の陳述記載がある。

しかしながら,本件調査報告書(証拠<省略>)の記載内容等に照らすと,本件調査において尾行が行われたとは認め難い。また,被告Y1が尾行に気付いていたのであれば,その後,原告に対して確認や抗議をしたり,尾行を警戒するなどの行動をとるのが自然と考えられるが,そのような行動をした形跡はうかがわれない。したがって,被告Y1の前記供述及び陳述記載は信用し難く,被告Y1には,届出の時点で,労働委員会を訪問する意思はなかったものと認めるのが相当である。

c 平成22年8月18日及び同月25日について

被告Y1は,平成22年8月18日については,労働委員会の関係でc労組OBに聞き取りを行う予定で原告工場を出て帰宅し,同月25日については,葬儀に参列する予定で原告工場を出たが,いずれも体調が悪くなってk整形外科を受診したため,結果的に届出どおりの組合活動ができなかった旨主張し,本人尋問においてこれに沿う供述をするとともに,陳述書にも同旨の陳述記載がある。しかしながら,同月18日の会計監査は当初から勤務時間外の夕方に行われる予定であり(証拠<省略>),その約4時間も前の午後2時に原告工場を出る必要はないこと,同月25日の葬儀(通夜)は午後6時半開始予定であり(被告Y1・人証<省略>),着替えや移動のための時間等を考慮しても,その約4時間も前の午後2時25分に原告工場を出る必要はないことなどに照らすと,被告Y1は,同月18日については,当初から,k整形外科を受診した後,終業時刻後に会計監査業務を行うつもりであり,同月25日については,k整形外科を受診した後は帰宅するつもりであったものと推認できる。結局,被告Y1は,同月18日にc労組OBに聞き取りを行う意思はなく,同月25日に組合関係葬儀に参列する意思もなかったものと認めるのが相当である。

d 平成22年8月27日について

被告Y1は,バイクのトラブルにより,結果的に,届出どおりの組合活動を行うことができなかったものの,届出の時点では届出どおりの組合活動を行うつもりであった旨主張し,本人尋問においてこれに沿う供述をするとともに,陳述書にも同旨の陳述記載がある。

そこで検討するに,証拠(証拠<省略>)によれば,被告Y1は,同日の行動に関し,午前中については,当初からバイクのトラブルにより届出どおりの組合活動を行うことができなかった旨説明していた一方で,午後については,当初はd労組埼玉県連地協連絡会に出席した旨説明していたにもかかわらず,本件調査報告書を確認した後で,バイクのトラブルにより届出どおりの組合活動を行うことができなかった旨説明を変遷させたことが認められる。しかしながら,バイクのトラブルが二度発生し,工場で二度修理等を受けるという稀有な出来事があった日について記憶違いをすることは考え難く(この点において,前記(ア)の変遷がやむを得ないものと評価し得るのとは異なる。),被告Y1は,当初から,午前だけでなく午後についてもバイクの修理等を行ったことを記憶していたにもかかわらず,原告に対してこれを殊更隠していたものと認めるのが相当である。

また,被告Y1は,本人尋問の際,午前中のバイクのトラブルについて,埼玉県鴻巣市に入った付近でパンクしたが,一気に空気が抜けるパンクではなかったため,修理工場までそのまま走った旨供述しているところ(被告Y1),そうであれば,バイクを最寄りの駐輪場や修理工場等に預け,他の交通手段で埼玉県労働委員会に行くことも可能であったはずであるが(現に,被告Y1がバイクの修理等を依頼した工場のすぐ近くに鴻巣駅がある。証拠<省略>),実際にはそのような行動をしていない。さらに,午後のバイクのトラブルについては,そもそも,エンジンオイルやオイルフィルターの交換に,直ちに行わなければ安全上問題が生ずるほどの緊急性があるとは考え難く,単なる定期的な整備であったと考える方が合理的といえる。

以上によれば,被告Y1は,同日,当初からバイクの修理及び整備を行うつもりであり,届出の時点において,埼玉県労働委員会における労働組合資格審査認定継続手続を行う意思も,d労組北関東における地協連絡会に出席する意思もなかったものと認めるのが相当である。

イ 暴言・威嚇(解雇理由2)について

(ア) (エ)の発言について

被告Y1は,同発言について,雇用調整助成金を受給した上で,返せなくなったらそれはそれで仕方がないということを述べたにすぎない旨主張し,陳述書にはこれに沿う陳述記載がある。しかしながら,返済義務のない助成金について「踏み倒す」という表現を使うことは通常考えられないから,被告Y1の前記陳述記載は信用し難く,前記主張は採用できない。結局,同発言は,返済義務のない雇用調整助成金を念頭に置いたものではなく,返済義務のある助成金について,返済できなくなるかもしれないことを承知でこれを申請し,受給した上で,返せなくなったら踏み倒せばよいという趣旨でなされたものであったと認めるのが合理的である。

(イ) (キ)の発言について

証人Fは,前記認定に沿う証言をしているところ,同証人が証言する被告Y1の言動は,同被告が前日の時点で本件税務訴訟の地裁判決が確定したものと誤解していたこと(証拠<省略>)などと整合しており,事の流れとして格別不自然な点もないから,同証言の信用性は高いといえる。これに対し,被告Y1は,同発言をしたことはない旨明確に主張しているわけではなく,陳述書においても,同発言を行ったかどうかの記憶はない旨の陳述記載があるにとどまる。したがって,証人Fの前記証言により,前記のとおり認定するのが相当である。

(ウ) (セ)の発言について

原告は,被告Y1が,組合事務所横でG・Mと顔を合わせた際,G・Mに対し,「お前なんか会社に来れなくしてやるから覚えてろ。」「お前の発言が理由で新人事制度を止めてやるから責任取れよ。」と発言した旨主張し,証人Gが,証人尋問においてこれに沿う証言をするとともに,その陳述書にも同旨の陳述記載がある。

しかしながら,同証言及び陳述記載によれば,被告Y1は,出会い頭にいきなりG・Mに対して前記発言をしたということになるが,そのような事態は事の流れとしていささか不自然である(この点につき,証人Gは,3日前の労使協議で労働協約の運用に問題がある旨指摘したことに対して被告Y1が過剰に反応したものではないかと供述するが,3日前の労使協議での発言について出会い頭にいきなり前記発言をするというのは,やはり不自然さが否めない。)。このことに加え,被告Y1が,その余のほとんどの発言については概ね認めつつ,この発言については一貫して明確に否認していることなども考慮すると,証人Gの前記証言によって直ちに,被告Y1が同発言をしたとは認め難く,他にこれを認めるに足りる証拠もない。

(3)  以上の認定事実を踏まえ,争点について判断する。

ア 本件就業規則所定の解雇理由の有無について

(ア) 虚偽申告による職務懈怠等(解雇理由1)について

a 平成22年7月26日について

被告Y1は,届出とは異なるものの,組合活動をしていた可能性が否定できないから,職務を意図的に怠ったものとはいえず,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条4号,21号所定の解雇理由に該当しない。

b 平成22年7月27日について

被告Y1は,届出どおりの組合活動をしていたから,職務を意図的に怠ったものとはいえず,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条4号,21号所定の解雇理由に該当しない。

なお,原告は,被告Y1が少なくとも午後0時04分から午後2時48分まで自宅にいた点が職務懈怠に当たるとも主張する。しかしながら,この約2時間40分のうち,原告が明らかに組合活動をしていなかったと認められる時間帯は,ガレージにいた1時間に限られる上,前記前提事実のとおり,原告では午後0時から午後0時50分までの50分間は休憩時間とされていることなどに照らすと,この点をとらえて,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条4号,21号所定の解雇理由に該当するということはできない。

c 平成22年7月28日について

被告Y1は,届出どおりの組合活動をしていたから,職務を意図的に怠ったものとはいえず,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条4号,21号所定の解雇理由に該当しない。

d 平成22年8月4日について

被告Y1が,帰宅後,郵便局への外出及びウォーキングを除く時間帯に,自宅内で組合活動として労働協約の英文化作業をしていた可能性は否定できない。また,郵便局への外出及びウォーキングは純粋な私用であるが,ウォーキングについては心房細動の兆候が出たためにやむを得ず行われたものである可能性が否定できない。さらに,原告は,被告Y1が原告工場を出てから帰宅するまでに時間がかかりすぎている点を問題視しており,確かにこの点は不自然さが否めないものの,この間に被告Y1が職務懈怠をしたと認めるに足りる証拠はない。結局,同日について,被告Y1が意図的に職務を怠ったと認められるのは,郵便局に外出したわずか23分間に限られ,この程度の職務懈怠をもって,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条4号,21号所定の解雇理由に該当するということはできない。

e 平成22年8月5日について

被告Y1が,帰宅後,バイクでの外出及びウォーキングを除く時間帯に,自宅内で組合活動として労働協約の英文化作業をしていた可能性は否定できない。また,バイクでの外出及びウォーキングは純粋な私用であるが,ウォーキングについては心房細動の兆候が出たためにやむを得ず行われたものである可能性が否定できない。結局,同日について,被告Y1が意図的に職務を怠ったと認められるのはバイクで外出したわずか7分間に限られ,この程度の職務懈怠をもって,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条4号,21号所定の解雇理由に該当するということはできない。

f 平成22年8月18日について

被告Y1は,当初から,k整形外科を受診した後,終業時刻である午後5時以降にd労組北関東・埼玉県北部地域協議会会計の会計監査業務を行うつもりで原告工場を出て,実際に,同病院で診察を受けて帰宅しており,原告に対して組合活動を行う旨届け出た午後5時までの3時間については,一切組合活動を行っていない。そして,前記のとおり,同日の会計監査は,当初から勤務時間外の夕方に行われる予定であったから,被告Y1は,前記3時間について意図的に職務を怠ったものといえ,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条4号所定の解雇理由に該当する。

g 平成22年8月23日について

被告Y1は,午前中については,独立行政法人労働政策研究・研修機構を訪問して資料を閲覧しており,これは英文化作業に関連した組合活動と認められる。したがって,同機構に滞在していた約1時間及び往復に要すると考えられる約4時間の合計約5時間については,組合活動と認められる。

他方で,被告Y1は,帰宅後は,終業時刻である午後5時まで,ガレージ内での私的な作業及びk整形外科への通院をしており,この約3時間については,一切組合活動を行っていない。したがって,この約3時間については,被告Y1が意図的に職務を怠ったものといえ,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条4号所定の解雇理由に該当する。なお,被告Y1は,原告では,4時間を超える出張については労働実態のいかんにかかわらず1日勤務したものとみなされるから,前記約3時間についても同解雇理由に該当しない旨主張し,これに沿う書証(証拠<省略>)を提出する。しかしながら,これらの書証は,原告の従業員が,原告の業務に関して出張した場合における扱いに関するものであり,これによって直ちに,c労組の執行委員が4時間を超えて事業場外で組合活動をした場合,その余の時間に全く組合活動を行っていなくても1日組合活動をしたものとみなされると認めることはできず,他にこれを認めるに足りる的確な証拠もないから,被告Y1の前記主張は採用できない。

h 平成22年8月25日について

被告Y1は,当初からk整形外科を受診し,その後は帰宅するつもりで原告工場を出た上,実際に同病院で診察を受けて帰宅しており,組合活動を行う旨届け出た午後5時までの2時間35分においては,一切組合活動を行っていない。したがって,被告Y1は,職務を意図的に怠ったといえ,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条4号所定の解雇理由に該当する。

i 平成22年8月27日について

被告Y1は,当初から,バイクの修理及び整備を行うつもりであり,埼玉県労働委員会における労働組合資格審査認定継続手続を行う意思も,d労組北関東における地協連絡会に出席する意思もなかったにもかかわらず,その旨届け出て,バイクの修理及び整備を行ったものであり,同日は,組合活動を行う旨届け出た午前8時から午後5時まで一切組合活動を行っていない。したがって,被告Y1は,職務を意図的に怠ったといえ,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条4号所定の解雇理由に該当する。

j 虚偽の届出について

なお,被告Y1は,平成22年7月26日,同年8月4日,同月5日,同月18日,同月25日,同月27日の6日間については,原告に対し,届出時点での真意と異なる届出をしているので,この点が,別途,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条4号,21号所定の解雇理由に該当しないかについても検討する。

まず,本件賞罰規定9条4号は,「職務を意図的に怠りまたは緩慢に行ったとき」と規定しているから,虚偽の届出がそれ自体として同号に該当するということはできない。次に,同条21号は,「そのほか,前各号に準ずる程度の不都合な行為があったとき」と規定しているが,本件賞罰規定8条2号において,「会社に対し就業に関する届出・申請その他提出する書類に虚偽の記載をなしたとき」にはけん責,減給,出勤停止又は降格に処し,情状により懲戒を免じて訓戒に止めることがある旨規定されていること(証拠<省略>)などに照らすと,組合用務入出門表において虚偽の届出をした場合,けん責,減給等の懲戒事由となり得ることは格別,それ自体が直ちに同条21号の解雇理由に該当することはないと解すべきである。

k 平成22年9月の質問書に対する回答について

前記jにおいて説示した点に加え,同回答は,その記載に照らし,被告Y1が職場を離脱していた時間において組合活動をしていた旨を明言したものではないと解する余地もあり,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条4号,21号所定の解雇理由に該当するということはできない。

l 以上によれば,解雇理由1については,平成22年8月18日の3時間,同月23日の約3時間,同月25日の2時間35分,同月27日の終日(8時間)の合計4日間,約16時間半の職務懈怠の限度で,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条4号の解雇理由に該当するといえる。

(イ) 暴言・威嚇(解雇理由2)について

a (ア)の発言について

同発言は,現に品質保証・サービス部で働いている女性従業員,ひいては女性全体を侮辱する暴言であり,仮に,被告Y1の主張するような経緯でなされたものであったとしても,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号の解雇理由に該当する。

b (イ)の発言について

同発言は,原告が,経営動向について厳しい見通しを示していたことに対し,組合員の雇用と生活を守るという労働組合の立場から,銀行からの借入れという通常考えられる選択肢を提示したものにすぎない。また,D社長ら原告側の出席者を侮辱するものではなく,品位を傷つけるような発言でもない。したがって,同発言は,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号,20号(同号が引用する本件就業規則5条2号),21号所定の解雇理由に該当しない。

c (ウ)の発言について

被告Y1は,品質保証・サービス部の仕事がつまらないとかやりたくないといった理由で同発言をしたものではなく,c労組の執行委員長としての仕事と兼務して担当することが困難であることを理由に同部の業務はできないと述べたにすぎず,一応合理的な理由によって異動についての不満を述べたものといえる。また,証拠(証拠<省略>,被告Y1)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y1は,品質保証・サービス部に異動した後,異動に対する不満を訴えてはいたものの,同部への異動を拒否したわけではなく,組合活動と兼務して,同部での業務に従事していたことが認められる。以上によれば,被告Y1が,業務上の上長の指示・命令に従わなかったとも,越権専断の行為をなしたともいえず,また,被告Y1が職場の秩序を乱したと認めるに足りる証拠もない。さらに,同発言は,D社長ら原告側の出席者を侮辱するものではなく,品位を傷つけるような発言でもない。したがって,同発言は,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号,20号(同号が引用する本件就業規則5条2号),21号所定の解雇理由に該当しない。

d (エ)の発言について

返済義務のある助成金について,返済できなくなるかもしれないことを承知でこれを申請し,受給した上で,返せなくなったら踏み倒せばよい旨の発言は,原告に対し,不相当な行為をするよう求める乱暴なものであり,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号の解雇理由に該当する。

なお,被告Y1は,「踏み倒す」という表現は一般的な表現である旨主張し,これに沿う書証として新聞記事(証拠<省略>)を提出する。しかしながら,これらの新聞記事においては,会社の経営者が,過去において結果的に借入金等を返済できなかった事態を回顧して「踏み倒した」と表現しているのであって,これから助成金の申請,受給を行うことを念頭に置いてなされた(エ)の発言とは,発言のなされた状況が異なるから,これによって直ちに,「踏み倒す」という表現が暴言に当たらないと認めることはできない。

e (オ)の発言について

同発言も,(エ)の発言と同様,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号の解雇理由に該当する。

f (カ)の記載について

同書面は,本件税務訴訟の一審判決で,一時金の税務上の扱いに関する原告の説明が誤っていた旨の判断が示されたことを受けて,被告Y1が,原告に対し,過大に納付した資産の返還及び反省文の提出を要求したものである。同判決は後に取り消されて確定したものの,この時点においては,資産の返還要求は,同判決に基づく合理的なものであったといえる。また,同書面には,原告が資産の返還及び反省文の提出に応じない場合には,損害賠償請求や刑事告発も視野に入れた対応に切り替え,その場合には慰謝料の請求も含まれることになる旨通告するとの記載があるものの,同記載は,直ちに刑事告訴や損害賠償請求を行う旨通知したものではなく,より強硬な対応も視野に入れている旨を示すことにより,原告に対し,資産の返還及び反省文の提出を促すためのものであったと解するのが相当である。以上によれば,同書面については,労使協議における原告側の言動が偽証や詐欺に当たる旨の記載部分は行き過ぎの感が否めないものの,この点を考慮しても,原告に対する威嚇ないし脅迫に当たるとまで評価することはできない。したがって,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号,20号(同号が引用する本件就業規則5条2号),21号所定の解雇理由に該当しない。

g (キ)の発言について

同発言のうち,「裁判所の決めたことにケチをつけるのか。国税の誰がそんなことを言ったのか。」という部分は,本件税務訴訟の一審判決が確定したものと誤信していた被告Y1が,F・DGMから国が控訴した旨を伝えられたという当時の状況等に照らすと,当然の疑問をぶつけたにすぎず,未だ礼儀を欠く乱暴な発言とも品位を傷つける発言ともいえない。したがって,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号,20号(同号が引用する本件就業規則5条2号),21号所定の解雇理由に該当しない。これに対し,「誰か言わないんだったらお前も同罪だろ。」という部分は,F・DGMが義務のないことに応じなかったのに対し,礼儀を欠く乱暴な言葉で応じたものであるから,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号の解雇理由に該当する。

h (ク)の発言について

前に認定したとおり,管理職の登用が労働協約に定められた協議事項に当たるかどうかについては,原告とc労組の間で見解の相違があったものの,管理職の登用は原告の人事権の範囲であって協議事項に当たらないという原告の立場を前提としても,c労組が,原告に対し,管理職の登用について意見を述べること自体は許容されるというべきである。また,証拠(証拠・人証<省略>)によれば,管理職の人数か増えれば組合員数は減少するという関係にあるところ,当時,原告における管理職の割合は,一般的な割合を大幅に上回っていたことが認められ,これらの事情に照らせば,被告らが,新たな管理職の登用について反対意見を述べたことは十分に理解できるところである。以上によれば,被告Y1が,業務上の上長の指示・命令に従わなかったとも,越権専断の行為をなしたともいえず,また,被告Y1が職場の秩序を乱したと認めるに足りる証拠もない。さらに,同発言は,F・DGMらを侮辱するものではなく,品位を傷つけるような発言でもない。したがって,同発言は,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条9号,20号(同号が引用する本件就業規則5条2号),21号所定の解雇理由に該当しない。

i (ケ)の記載について

同書面は,E副社長の退任に関して,これまで良好な労使関係を築く上で重要な役割を果たしてきた同副社長の退任は遺憾であるというc労組の立場からの評価を記載したものであるが,人事に関する事項は原告の専権事項であるとしても,労働組合が原告の人事に対する意見,評価を記載した書面を作成,配布することは禁じられるものではない。また,同書面の表現をみても,乱暴な表現や礼儀を欠く部分はない。したがって,同書面は,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号,20号(同号が引用する本件就業規則5条2号),21号所定の解雇理由に該当しない。

なお,原告は,同書面の表現は原告がE副社長を解任したかのような誤解を与えるようなものである旨主張する。しかしながら,同書面の表題部及び本文では,副社長の「退任」と明確に記載されており,結語部分を含めて,原告が副社長を解任したと理解できるような記載は見当たらないから,原告の前記主張は採用できない。

j (コ)の発言について

同発言は,礼儀を欠く乱暴な発言であり,仮に,被告Y1の主張するような経緯でなされたものであったとしても,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号の解雇理由に該当する。

k (サ)の発言について

同発言中,「あんた言ったよね。」,「あんたとはタメ口はきかないんだ。(自分と)タメ口をきけるのは社長だけだ。」,「○○ニュースの内容は勇み足だと言って俺を訴えようという魂胆か。そういうきたねぇ魂胆なんだろ。」との部分は,話し合いや協議の場において一般的に守るべきと考えられる礼儀を欠き,相手方を侮辱する発言であるから,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号の解雇理由に該当する。この点につき,被告Y1は,社長と労働組合の執行委員長は対等の立場であることを理由にこれらの発言が正当化される旨主張するが,対等な立場の者どうしであっても,礼儀を欠き,相手を侮辱するような発言が許されないことは当然であるから,同主張は失当である。他方,同発言中,「組合には言論の自由があるから,E副社長の退任について感じることを書いただけだ。」との部分は,礼儀を欠いた乱暴な発言とはいえないから,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号,20号(同号が引用する本件就業規則5条2号),21号所定の解雇理由に該当しない。

l (シ)の発言について

同発言は,話し合いや協議の場において一般的に守るべきと考えられる礼儀を欠き,相手方を侮辱する発言であるから,仮に,被告Y1の主張するような経緯でなされたものであったとしても,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号の解雇理由に該当する。

m (ス)の発言について

同発言は,早期退職プログラムによって退職した管理職について,職場労使懇談会で何も決めることができなかったので,事実上自分が辞めさせてやった旨述べたものと解するのが相当であり,これは礼儀を欠く乱暴な発言である。したがって,同発言は,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号の解雇理由に該当する。

これに対し,被告Y1は,「俺が辞めさせてやった。」との部分は,管理職の退職を引き止めなかったことを述べているにすぎず,「ひどかったから。」との部分はD社長の問いに対して肯定したものではないなどと主張するが,いずれも不合理であり採用できない。

n (ソ)の発言について

同発言は,礼儀を欠く乱暴な発言で,F・DGMを侮辱するものであるから,仮に,被告Y1の主張するような経緯でなされたものであったとしても,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号の解雇理由に該当する。

o (タ)の発言について

同発言中,「新たに登用するなら現存の管理職を降格させろ。」との部分については,(ク)の発言と同じ理由により,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号,20号(同号が引用する本件就業規則5条2号),21号所定の解雇理由に該当しない。また,その余の部分についても,c労組の立場からみて強硬な姿勢をとるG・Mに反発し,G・Mがいるうちは原告の提案に協力しない旨を,特に乱暴とも礼儀を欠くともいえない表現で述べたにすぎないから,同解雇理由に該当しない。

p (チ)の発言について

同発言は,単に当時の労使関係に関する被告Y1の認識を示したものにすぎず,乱暴な発言でも礼儀を欠く発言でもないから,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号,20号(同号が引用する本件就業規則5条2号),21号所定の解雇理由に該当しない。

q (ツ)の記載について

人事権は原告の専権事項であり,c労組がその決定に関与する余地はないという原告の立場を前提としても,同労組が,原告の人事担当者の対応が不適切であるとしてその辞任を要求すること自体は許容される上,同記載の表現は乱暴とも礼儀を欠くともいえない。したがって,同記載は,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号,20号(同号が引用する本件就業規則5条2号),21号所定の解雇理由に該当しない。

r (テ)の発言について

(ツ)の記載と同様,同発言は,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号,20号(同号が引用する本件就業規則5条2号),21号所定の解雇理由に該当しない。

s 以上によれば,解雇理由2については,被告Y1の発言等のうち,(ア),(エ),(オ),(コ),(シ),(ス)及び(ソ)の各発言の全部並びに(キ)及び(サ)の各発言の一部が,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号の解雇理由に該当するといえる。

なお,被告Y1は,これらの発言等は,いずれもc労組の執行委員長として行ったものであるから,これを被告Y1個人に帰責して解雇理由とすることは許されない旨主張する。しかしながら,これらの発言等は,組合の機関としての発言等であると同時に,個人の発言等としての側面も有するものであるから,被告Y1が当然に個人責任を免れるものではない。したがって,これらの発言等を被告Y1の解雇理由とすることが許されないとはいえない。

イ 本件解雇に客観的に合理的な理由及び社会通念上の相当性が認められるかどうかについて

(ア) 以上のとおり,本件解雇の理由とされている被告Y1の行為は,その一部が本件就業規則所定の解雇理由に該当する。

(イ) しかしながら,まず,解雇理由1については,被告Y1が職務懈怠をしたのは,合計で4日間,約16時間半にとどまる上,このうち平成22年8月18日については,終業時刻である午後5時以降に届出どおりの組合活動を行っている。この点につき,原告は,被告Y1が,前記9日間のほとんどについて届出どおりの組合活動に従事せず,職務を懈怠していたこと,被告Y1やc労組が,原告からの再三の申入れにもかかわらず,本件調査期間外の期間における被告Y1の行動を調査しようとしないことなどを理由に,被告Y1は,同年4月以降,虚偽申告による職務懈怠を日常的に繰り返していたものと推認できる旨主張する。しかしながら,そもそも,前記のとおり,本件調査の期間中における被告Y1の職務懈怠は9日間のうち4日間,約16時間半にとどまり,本件調査期間内のほとんどについて職務を懈怠していたとまではいえない。また,証拠(証拠<省略>)によれば,同月以降,被告Y1の勤務時間がそれ以前と比較して相当程度減少していることが認められるから,原告が,同月以降に被告Y1が組合活動のため外出する旨届け出た全ての期間について,その行動を把握したいと考えること自体は理解できるものの,被告Y1やc労組には,原告の要求に応じてこれらの点について調査をすべき義務はない。したがって,原告の指摘する前記のような事情から直ちに,本件調査期間外の期間において被告Y1が日常的に職務懈怠をしていたと推認することはできず,他にこれを認めるに足りる的確な証拠もない。以上によれば,原告の前記主張を採用することはできず,本件解雇の効力を判断するに当たって,前記4日間以外の職務懈怠を前提とすることはできないというべきである。

(ウ) 次に,解雇理由2については,前記のとおり,本件就業規則上の解雇理由に該当する各発言がなされたのは,平成21年1月ないし同年3月,同年9月であり,(コ)ないし(ス)の各発言は同一の労使協議の機会になされたものであるから,被告Y1が暴言を日常的に繰り返していたとはいえず,前記各発言は,感情に駆られた一時的な言動とみるのが相当である。

また,(ア)及び(オ)の各発言がなされたのは労使委員会の席上,(コ)ないし(ス)の各発言がなされたのは労使協議の席上,(ソ)の発言がなされたのは職場労使懇談会の席上,(エ)の発言がなされたのは原告の組合執行部に対する事前説明の席上であって,いずれの発言も労使交渉等の場でなされたものであるところ,一般に,労使交渉等の場においては,日常的な会話の場面と比較して,多少攻撃的で強い表現がなされたとしてもやむを得ない面がある。また,証拠(証拠・人証<省略>,被告Y2・人証<省略>)及び弁論の全趣旨によれば,①原告とc労組との間では,従前,組合側が賃金相当額を負担する代わりに,被告Y1が原告の就業時間内に組合活動をすることが認められる旨の合意や,被告らについて就業時間のうち50パーセント前後は組合業務を行うことが認められる旨の慣行があったこと,②平成21年1月に,被告らが,組合業務との両立が困難と感じられる部署への異動を命じられたこと,③原告では,組合役員が事業場内で組合活動を行うために職場を離脱する場合には書面による届出をしなくても足りるという事実上の扱いがされており,原告も,長年にわたってこの点について明示的に問題視することはなかったにもかかわらず,平成21年9月になって突然,c労組に対し,同年10月から従前の運用を改めたい旨申し入れたことなどが認められ,このような経緯等に照らすと,当時c労組の執行委員長であった被告Y1が,原告の強硬な態度に強く反発して前記各発言をしたことも理解できるところである。しかも,前に認定したとおり,原告自身も,解雇理由2については,少なくとも解雇理由1との比較においては重要性が低いと認識していた。

なお,原告は,(ソ)の発言について誓約書の提出を求めたのに対して被告Y1がこれを拒み態度を改めなかったこと,就業時間中の無断離席が常態化していることについて厳重に注意したが,同被告がその後も無断離席を改めなかったことを相当性の判断において考慮すべきである旨主張するところ,被告Y1が,原告から求められた誓約書を堤出しなかったことは当事者間に争いがない。しかしながら,前記のような同発言のなされた経緯等に照らせば,誓約書を提出しなかった点を格別問題視することは相当でなく,被告Y1の無断離席が常態化していたことを認めるに足りる的確な証拠はない。

(エ) また,被告Y1の職務懈怠や暴言等はいずれも原告内部の問題であり,これによって,原告や取引先に重大な損害を与えたり,原告の経営や業務運営に重大な影響や支障を及ぼしたことを認めるに足りる的確な証拠はない。かえって,証拠(証拠<省略>,被告Y1)によれば,被告Y1は,①原告がその職務懈怠が日常化していた旨主張する平成22年4月から同年8月までの間においても,所定労働時間合計696時間の約45パーセントに当たる317.5時間は原告の業務に従事していたこと,②平成21年6月に原告によって特別管理産業廃棄物管理責任者に指定され,産業廃棄物のマニフェスト管理等の業務も担当していたこと,③原告の安全管理やサービス業務に関して自分なりの提案もしており,会社業務の改善に貢献したいという姿勢を示していたことが認められ,これらの事実によれば,被告Y1は,原告の従業員として,原告に対し,一定程度の貢献をしていたことが認められる。しかも,前記前提事実(7)のとおり,原告は,被告Y1の離席時間に相当する賃金を実質的には支払っておらず,金銭的な負担は生じていない。

(オ) 以上によれば,解雇理由1,2は,これらを個別に検討しても,また,これを併せ考えても,被告Y1を職場から排除しなければならないほどの重大な行為とまでは認められず,被告Y1に対する本件解雇は,不当労働行為該当性や手続上の問題等の点を検討するまでもなく,客観的な合理性及び社会通念上の相当性を欠くものであり,解雇権の濫用に当たり無効である。

3  争点3(被告Y2に対する本件解雇の効力)について

(1)  当事者間に争いのない事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は,以下のとおりである。

ア 被告Y1の虚偽申告による職務懈怠への加担(解雇理由1)について

(ア) 被告Y1は,原告への転籍前にはe労組の支部執行役員を務めており,c労組が結成された後は,同労組の執行委員長を務めていた。また,被告Y2は,e労組においては一般の組合員であったが,c労組結成後は,同労組の書記長を務めていた。c労組においては,平成22年4月以降,賃金補てんに関する扱いが変更されたことに伴い,被告Y1が事業場外組合活動のために職場を離席する際には,同被告が自ら組合用務入出門表を作成することとされており,本件組合用務入出門表も,同被告自身が作成したものであった。また,本件組合用務入出門表の労組確認欄には押印がされていないが,原告は,この点につき格別問題視することなく,本件組合用務入出門表を受け取っていた。被告Y2は,被告Y1の解雇理由1において問題とされている9日間について,被告Y1から行き先を聞いていたが,出席する会議の名称や時間帯までは聞いておらず,被告Y1が会議等に実際に出席したかどうかについて,事後的な確認は行っていなかった(証拠・人証<省略>,被告Y2・人証<省略>,弁論の全趣旨)。

(イ) 原告は,平成22年9月14日,被告Y2に対し,被告Y1が組合用務入出門表を提出して職場を離れていた間に実際に組合活動に従事していた事実があるか否か,その際に被告Y1が組合の内部承認を得ていた事実があるか否かなどについて回答を求める質問書を交付した。これに対し,被告Y2は,同月17日,原告に対し,被告Y1は組合活動に従事していた事実があると認識している,被告Y1が組合の内部承認を得ていた事実がある旨回答した。なお,被告Y2は,同回答を求められた当時,被告Y1が入院していたため,同被告に直接確認することができず,質問書に記載された同被告の職場離脱時間の全てについて,同被告が実際に組合活動をしていたと断定することはできないものの,外部団体から同被告が会議等に出席していないというような連絡を受けたことはなく,かえって,同被告が,外部団体が開催した講習会等に参加した成果を持ち帰って社内で同様の講習会を開くなどしていたことから,同被告は外部団体の会議等に滞りなく出席していたものと判断し,組合活動に従事していた事実があると認識している旨回答した。また,被告Y2は,質問書に記載された「内部承認」の意味をF・DGMに確認し,執行委員相互の確認が取れていることを指す旨の回答を得たところ,当時,被告Y2ら執行委員は,被告Y1の事業場外での組合活動について,月間会議予定に記載された内容及び被告Y1から伝えられた内容の限度では把握していたことから,これが執行委員相互の確認に当たると判断し,組合の内部承認を得ていた事実がある旨回答した(証拠<省略>,被告Y2・人証<省略>,弁論の全趣旨)。

イ 暴言・威嚇(解雇理由2)について

(ア) 被告Y2は,平成21年2月5日,原告が,翌日に実施される全体集会の内容をc労組執行部に対して事前説明した際,早期退職プログラムの説明時に,「助成金もらって返せなければ,踏み倒せばいい。」と発言した。なお,同発言は,返済義務のない雇用調整助成金を念頭に置いたものではなく,返済義務のある助成金について,返済できなくなるかもしれないことを承知でこれを申請,受給した上で,返せなくなったら踏み倒せばよいという趣旨でなされたものであった(証拠・人証<省略>,弁論の全趣旨)。

(イ) 被告Y2は,平成21年2月18日,労使委員会の席上,早期退職プログラムの話の中で,原告が,業績が厳しい旨説明している際,「整理解雇の4要件を満たすためには,借金してでも金策に走るということも必要だ。借金も努力の一つだが,会社が借金を考えないのはおかしい。」と発言した上,これを受けた被告Y1の「借金して会社がつぶれたら踏み倒せばいい。それで更生法を受ければいい。」との発言に賛同した。

(ウ) 被告Y2は,平成21年2月から3月にかけて,春闘の席上で,「銀行から借りて後で踏み倒せばいいじゃん。」との発言を繰り返した。

(エ) 被告Y2は,平成21年6月18日,F・DGMから管理職の任用に関する報告を受けた際,F・DGMに対し,「管理職の人数が多い。承認できない。」,「業務上の必要性が見い出せない。」と発言した。

(オ) 原告は,平成21年8月にG・Mが入社したことを受け,同年9月ころから,c労組に対し,原告の考える労働協約どおりの運用(事前届出と賃金カット)を求める働きかけを開始し,同月25日,c労組に対し,同年10月1日から,事業場外組合活動については従前の届出様式等を一部変更し,事業場内組合活動については新たに社内離席表の運用を開始したい旨申し入れた。そして,原告は,同年9月28日,被告Y2に対し,原告の提案どおりの運用をするよう求める通知書を出したが,被告Y2は,同運用を認めたわけではないとの認識であったことから,同月29日,前記通知書にその旨記載して返却した。その際,被告Y2は,G・Mに対し,電話で,同運用に関する事項は協議事項である旨述べたが,G・Mが通知事項である旨述べたことから,「こんなこともわからないなんて,あんたの経歴は詐称では。」と発言した(証拠<省略>,弁論の全趣旨)。

(カ) 被告Y2は,組合員の管理職への登用が通知事項であるか協議事項であるかをめぐって原告とc労組の主張が平行線であった状況下で開催された平成21年9月30日の労使委員会の席上,G・Mが管理職の任用が通知事項であるか協議事項であるかは見解の相違である旨述べたのに対し,「バカじゃないか。急に入社して知ったかぶりをするんじゃねぇ。」,「新たに登用するなら現存の管理職を降格させろ。」と発言した(証拠<省略>,弁論の全趣旨)。

(キ) 被告Y2は,平成21年10月20日,F・DGMの部屋を訪れ,同人に対し,「部下なし管理職を降格させろ。」,「会社がこのような姿勢を続けるのなら徹底的に戦う。」,「会社がぼろぼろになっても知らないぞ。」と発言した(証拠<省略>,被告Y2。なお,原告は,被告Y2が「徹底的に潰してやる。」と発言した旨主張するが,証拠<省略>によれば,原告が問題視していたのは「戦う」という発言であったと認められ,したがって,同被告は「戦う」と発言したものと推認できる。)。

(ク) 原告とc労組の間では,b社とe労組との間の関係を引き継ぎ,従前,労使委員会及び職場労使懇談会が開催されていたが,原告は,平成21年10月8日,c労組に対し,労使委員会の開催頻度の減少及び一部部門における職場労使懇談会の廃止を申し入れた(証拠<省略>)。

被告Y2は,同月21日,H・Mから,30時間を超える残業に関する協議をしたいと申し入れられたのに対し,原告が一方的に労使協議体を廃止したと主張し,職場労使懇談会が開催されていない現状では残業状況の確認等ができず,そのような状況では,36協議を受けたとしても組合として超過残業を認めることはできない旨発言した(証拠・人証<省略>)。

(ケ) 被告Y2は,平成21年10月22日,I・DGMに対し,職場労使懇談会が開催されていない現状では残業状況の確認等ができず,そのような状況では,36協議を受けたとしても組合として超過残業を認めることはできない旨発言した(証拠<省略>,被告Y2・人証<省略>)。

(コ) 原告と被告Y2の間では,組合活動のために職場を離脱する際の届出に関し新たな運用が開始された平成22年4月1日以降,その書式や記載方法等について意見の対立があり,同月14日には,原告が,同被告に対し,勝手な判断で事実と反する届出をしているとして,書面で警告した。さらに,原告は,被告Y2の組合用務記録の備考欄の記載について,組合活動のための離席時間内に会社業務をした場合にその内容と時間帯を記載するよう求めているのに,同被告がこれに従っていないとして,同被告に対し,同月22日,書面で再度警告した。これに対し,被告Y2は,所定労働時間外に組合の委員会に出席した場合,賃金の二重取りを避けるためにその時間帯を休憩時間として扱うという従前の取り決めに従って前記記載をしたという認識であったことから,前記警告に反発し,同月23日,G・Mに対し,「勝手な文書出しやがって許さねぇぞ。」,「全く納得ができないねぇ。」,「ふざけたまねをするな。お前らがどうなっても知らねぇぞ。」,「時間はそっちが指定しろ。」と発言した(証拠<省略>,被告Y2)。

(サ) 被告Y2は,平成22年4月23日,G・Mが(コ)の発言に関する警告書面を持参した際,「備考欄の意味もわかってねぇくせに一方的な警告書を出しやがって。」,「このボケ。」,「ふざけたまねをするな。」,「謝罪しろ。」と発言した(証拠<省略>,弁論の全趣旨)。

(シ) 被告Y2は,平成22年9月14日,J・DGM,K・M,F・DGMが前記(1)ア(イ)の質問書を読み上げた際,「明日から,スト打つぜ。その気でいるならかかってこいや。どうする。」と発言した。なお,解雇理由書では,この点は解雇理由として記載されていない(証拠<省略>)。

(2)  以上の認定事実を踏まえ,争点について判断する。

ア 本件就業規則所定の解雇理由の有無について

(ア) 被告Y1の虚偽申告による職務懈怠への加担(解雇理由1)について

a 被告Y1の虚偽申告に対する承認等について

被告Y2は,前に認定したとおり,c労組結成時から被告Y1とともに同労組の幹部として組合活動をしており,被告Y1の解雇理由1において問題とされている9日間について,被告Y1から行き先を聞いていた。しかしながら,被告Y2は,被告Y1が出席する会議の名称や時間帯まで把握していたわけではなく,実際に会議に出席したかどうかについての事後的な確認も行っていなかった上,本件組合用務入出門表の作成,確認にも関与していなかったのであるから,被告Y1の虚偽申告による職務懈怠の事実を知っていたとも,被告Y1に対して組合内部の事前承認を与えたとも認められず,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって,被告Y2の行為は,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条21号に該当しない。

b 質問書に対する虚偽の回答について

前に認定した同回答の趣旨及び経緯に照らせば,同回答が虚偽の回答に当たるということはできず,被告Y2の行為は,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条21号に該当しない。

c 以上によれば,解雇理由1については,被告Y2の行動等はいずれも本件就業規則17条1号,本件賞罰規定21号所定の解雇理由に該当しない。

(イ) 暴言・威嚇(解雇理由2)について

a (ア)の発言について

被告Y1の(エ)の発言と同様,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号の解雇理由に該当する。

b (イ)の発言等について

被告Y2の「整理解雇の4要件を満たすためには,借金してでも金策に走るということも必要だ。借金も努力の一つだが,会社が借金を考えないのはおかしい。」との発言については,被告Y1の(イ)の発言と同様,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号,20号(同号が引用する本件就業規則5条2号),21号所定の解雇理由に該当しない。これに対し,被告Y1の「借金して会社がつぶれたら踏み倒せばいい。それで更生法を受ければいい。」との発言に賛同した行為については,(ア)の発言と同様,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定13条1号の解雇理由に該当する。

c (ウ)の発言について

(ア)の発言と同様,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号の解雇理由に該当する。

d (エ)の発言について

被告Y1の(ク)の発言と同様,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条9号,20号(同号が引用する本件就業規則5条2号),21号所定の解雇理由に該当しない。

e (オ)の発言について

同発言は,礼儀を欠く乱暴な発言で,G・Mを侮辱するものであるから,仮に,被告Y2の主張するような経緯でなされたものであったとしても,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号の解雇理由に該当する。

f (カ)の発言について

同発言中,「バカじゃないか。急に入社して知ったかぶりをするんじゃねぇ。」との部分については,話し合いや協議の場において一般的に守るべきと考えられる礼儀を欠き,相手方を侮辱する発言であるから,仮に,被告Y2の主張するような経緯でなされたものであったとしても,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号の解雇理由に該当する。これに対し,「新たに登用するなら現存の管理職を降格させろ。」との部分は,被告Y1の(ク)の発言と同様,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号,20号(同号が引用する本件就業規則5条2号),21号所定の解雇理由に該当しない。

g (キ)の発言について

同発言中「部下なし管理職を降格させろ。」との部分については,(カ)の発言と同様,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号,20号(同号が引用する本件就業規則5条2号),21号所定の解雇理由に該当しない。また,同発言中,「会社がこのような姿勢を続けるのなら徹底的に戦う。」,「会社がぼろぼろになっても知らないぞ。」との部分については,後者はいささか不穏当な発言ではあるものの,ストライキを念頭に置いた発言と解され,脅迫や暴言とまではいえないし,相手方を侮辱するものでもない。したがって,同発言は,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号,20号(同号が引用する本件就業規則5条2号),21号所定の解雇理由に該当しない。

h (ク)の発言等について

原告は,同発言等について,被告Y2が,労使会議体の見直し作業中であったにもかかわらず,これを原告が一方的に廃止したかのように主張し,これを理由として残業の職場協議を拒否したものである旨主張する。しかしながら,前に認定したとおり,被告Y2は,協議自体を拒否したわけではなく,職場労使懇談会が開催されていない当時の状況では,協議を行ったとしても組合として超過残業を認めることができない旨を述べたにとどまる。また,前に認定したとおり,原告が,c労組に対し,従来開催されていた職場労使懇談会の廃止等を申し入れていたという経緯に照らせば,同発言等の内容が不適切であるということもできない。さらに,同発言は礼儀を欠くものでも乱暴なものでもなく,H・Mを侮辱するものでもない。したがって,同発言等は,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条20号(同号が引用する本件就業規則5条2号),21号所定の解雇理由に該当しない。

i (ケ)の発言等について

原告は,同発言等について,被告Y2が,職場労使懇談会の廃止を理由に残業30時間超過についての職場協議を拒否し,36協定に定められた正式な手続を拒否したものである旨主張する。しかしながら,(ク)の発言等と同様,被告Y2は,手続自体を拒否したわけではなく,職場労使懇談会が開催されていない当時の状況では,手続を行ったとしても組合として超過残業を認めることができない旨述べたにとどまる。また,前に認定した経緯等に照らせば,同発言等の内容が不適切であるということもできない。さらに,同発言は,礼儀を欠くものでも乱暴なものでもなく,I・DGMを侮辱するものでもない。したがって,同発言等は,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条20号(同号が引用する本件就業規則5条2号),21号所定の解雇理由に該当しない。

j (コ)の発言について

同発言は,礼儀を欠く乱暴なものであり,G・Mを侮辱するものであるから,前に認定した同発言の経緯等を考慮しても,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号の解雇理由に該当する。

k (サ)の発言について

(コ)の発言と同様,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号の解雇理由に該当する。

l (シ)の発言について

同発言は,礼儀を欠く乱暴なものであり,F・DGMらを侮辱,挑発するものであるから,同発言は,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定9条13号の解雇理由に該当する。

なお,解雇理由書では,同発言は解雇理由として記載されていないが,解雇理由書に記載のない事由を解雇理由として訴訟上主張することが許されないとはいえない。

m 以上によれば,解雇理由2については,被告Y2の発言等のうち,(ア),(ウ),(オ),(コ),(サ)及び(シ)の各発言の全部並びに(イ)及び(カ)の各発言等の一部が,本件就業規則17条1号,本件賞罰規定13号の解雇理由に該当するといえる。

なお,被告Y2は,これらの発言等は,いずれもc労組の書記長として行ったものであるから,これを被告Y2個人に帰責して解雇理由とすることは許されない旨主張するが,前に被告Y1について説示したのと同様の理由により,これらの発言等を被告Y2の解雇理由とすることが許されないとはいえない。

イ 本件解雇に客観的に合理的な理由及び社会通念上の相当性が認められるかどうかについて

(ア) 以上のとおり,本件解雇の理由とされている被告Y2の発言等は,その一部が本件就業規則所定の解雇理由に該当する。

(イ) しかしながら,本件就業規則上の解雇理由に該当する各発言等がなされたのは,平成21年2月ないし同年3月,同年9月,平成22年4月,同年9月であり,被告Y2が暴言を日常的に繰り返していたとはいえず,前記各発言等は,感情に駆られた一時的なものとみるのが相当である。

また,(ア)の発言がなされたのは原告の組合執行部に対する事前説明の席上,(イ)及び(カ)の各発言等がなされたのは労使委員会の席上,(ウ)の発言がなされたのは春闘の席上であり,本件就業規則所定の解雇理由に該当する発言等の一部は,労使交渉等の場でなされたものであるところ,前に説示したとおり,労使交渉等の場においては,多少攻撃的で強い表現がなされたとしてもやむを得ない面がある。さらに,前に認定した各発言等のなされた経緯についてみると,まず,(オ)の発言については,c労組の立場からみれば,原告の申入れは,それまで格別問題視されることなく継続してきた従来の運用を数日後から変更したいというものであり,これに対して被告Y2が反発したこともやむを得ないといえる。次に,(コ)及び(サ)の各発言についても,前に認定したとおり,平成22年4月以降,組合活動のために職場を離脱する際の届出に関し新たな運用が開始されたものの,原告と被告Y2との間で書式や記載方法等について意見の対立があり,被告Y2の言い分にも相応の理由があったと考えられるにもかかわらず,原告が,2回にわたって,被告Y2に対して書面で警告していたという状況に照らすと,被告Y2が,一方的に非難されたと受け止めて強く反発したことも理解できる側面がある。さらに,(オ),(カ),(コ)及び(サ)の各発言はいずれもG・Mに向けられたものであるが,前に認定したとおり,原告がc労組の立場からみて強硬な態度をとるようになった時期がG・Mの入社時期と符合していたという経緯等に照らすと,被告Y2が,原告の態度硬化を主導しているのはG・Mであると考えて同人に対して特に強く反発したこともやむを得ないといえる。しかも,前に認定したとおり,原告自身も,解雇理由2については,少なくとも解雇理由1との比較においては重要性が低いと認識しており,特に,(シ)の発言については解雇理由書に記載されておらず,原告として,解雇に当たって特に重視していなかったことが明らかである。

なお,原告は,(オ)の発言について注意した際に被告Y2が不快そうな様子を見せて反抗的な態度をとったこと,(キ)の発言について同被告に説明を求めたが,正式な説明がなかったこと,常態化している同被告の就業時間中の無断離席について厳重に注意したが,同被告がその後も無断離席を改めなかったこと,(コ)及び(サ)の各発言について書面で厳重に注意したが,被告Y2が全く反省の態度を見せなかったことを相当性の判断において考慮すべきである旨主張する。しかしながら,(キ)の点については,証拠(証拠<省略>)及び弁論の全趣旨によれば,被告Y2は,説明を求められた当時出張中であり,その後原告から更に説明を求められたことはなかったことが認められるから,同被告の態度を格別問題視することはできない。また,被告Y2の無断離席が常態化していたことを認めるに足りる的確な証拠はない。さらに,(オ),(コ)及び(サ)の点についても,前に認定した当時の状況等に照らすと,被告Y2の態度を格別問題視することはできない。

(ウ) また,被告Y2の暴言等はいずれも原告内部の問題であり,これによって,原告や取引先に重大な損害を与えたり,原告の経営や業務運営に重大な影響や支障を及ぼしたことを認めるに足りる的確な証拠はない。かえって,証拠(証拠<省略>)によれば,被告Y2は,平成22年4月から同年8月までの間に,所定労働時間712時間の約51パーセントに当たる367.75時間は原告の業務に従事していたことが認められ,原告に対し,一定程度の貢献をしていたことが認められる。しかも,前記前提事実(7)のとおり,原告は,被告Y2の離席時間に相当する賃金を実質的には支払っておらず金銭的な負担は生じていない。

(エ) 以上によれば,解雇理由2は,被告Y2を職場から排除しなければならないほどの重大な行為とは到底認められず,被告Y2に対する本件解雇は,不当労働行為該当性や手続上の問題等の点を検討するまでもなく,客観的な合理性及び社会通念上の相当性を欠くものであり,解雇権の濫用に当たり無効である。

4  争点4(本件解雇が無効である場合に原告が支払うべき賃金等の額)について

(1)  以上のとおり,本件解雇は無効であるから,被告らは,民法536条2項により,本件雇用契約に基づく賃金等請求権を失わない。そして,被告らが,解雇期間中の賃金等として請求できる金額は,本件解雇がなければ本件雇用契約上確実に支給されたであろう賃金等の合計額であると解されるところ,この点に関する当事者間に争いのない事実及び後掲証拠によって認められる事実は,以下のとおりである。

ア 月額賃金について(証拠<省略>)

原告においては,毎月25日に月額賃金が支給される。本件解雇前に被告らに支給されていた月額賃金の額は,別紙一覧表<省略。以下,同じ>のとおりであり,本件解雇前3か月(平成22年7月から9月まで)における月額賃金の平均額は,被告Y1については40万4064円,被告Y2については41万8048円であった。なお,原告においては,引き続き2か月間皆勤した従業員に対し,翌々月に,その月の基準内賃金の20.3分の1に相当する額が,精励手当として支給される。

イ 賞与(一時金)について(証拠<省略>)

原告においては,毎年,夏季一時金が7月に,年末一時金が12月に支給され,被告らは,平成22年夏季一時金として,被告Y1については103万0157円,被告Y2については89万3364円をそれぞれ受給していた。また,平成22年年末一時金支給額の計算式は,基本賃金額×1.467×資格分乗数×出勤率+一律定額(1万8170円)+家族手当+役付手当+14万円,平成23年夏季一時金及び年末一時金支給額の計算式は,基本賃金額×1.873×資格分乗数×出勤率+一律定額(2万3000円)+家族手当+役付手当+10万円であり,同計算式に基づいて計算すると,被告らが本件解雇後も原告に在籍していた場合に支給される賞与(一時金)の額は,被告Y1については,平成22年年末一時金が82万7888円,平成23年夏季一時金及び年末一時金がいずれも98万7733円であり,被告Y2については,平成22年年末一時金が87万4170円,平成23年夏季一時金及び年末一時金がいずれも105万1714円であった。なお,平成22年年末一時金の支給日は同年12月3日,平成23年夏季一時金の支給日は同年7月8日,同年年末一時金の支給日は同年12月9日であった。

ウ 退職金制度に基づく算定基礎給相当額について(証拠<省略>)

(ア) 原告では,本件就業規則の規定を受けた退職金規定により,従業員の選択に応じて,退職金前払い制度又は確定拠出年金制度(企業型)に基づいて退職金が支給されるところ,被告Y1は退職金前払い制度を,被告Y2は確定拠出年金制度を,それぞれ選択していた。いずれの制度においても,基本賃金と役付手当の合算額の8.922パーセントが算定基礎給とされており(ただし,算定基礎給の算出は,毎年4月1日における基本賃金及び役付手当を適用し,原則として,その年の4月から翌年の3月まで同基準を適用する。また,算定基礎給の計算において1円未満の端数が生じたときは,1円単位に切り上げる。),被告Y1の算定基礎給額は,平成22年4月分から平成23年3月分までは1か月当たり3万0857円,同年4月分以降は1か月当たり3万1206円であり,被告Y2の算定基礎給額は,平成22年4月分から平成23年3月分までは1か月当たり3万0712円,同年4月分以降は1か月当たり3万1233円(ただし,被告Y1は,3万1223円と主張している。)である。

退職金前払い制度においては,夏季一時金支給時に前年11月分から当年4月分までの算定基礎給額を,年末一時金支給時に当年5月分から当年10月分までの算定基礎給額をそれぞれ支給することとされている。

他方,確定拠出年金制度(企業型)は,事業主である原告が資産管理期間に掛金を拠出し,加入者である原告の従業員が自己責任において運用の指図を行い,高齢期においてその結果に基づいた給付を受けることができるようにするための制度であり,原告の毎月の拠出掛金額は,算定基礎給額と同額と定められている。同制度に基づく給付は,加入者の年齢が60歳に達した後に支給される老齢給付金,加入者が傷病により障害の状態に至ったときに支給される障害給付金,加入者が死亡したときに支給される死亡一時金,加入者が脱退したときに支給される脱退一時金の4種類とされている。

(イ) 原告は,被告Y1に対し,平成22年10月に,同年5月分から同年8月分までの算定基礎給額に当たる12万3428円を支払った。

(2)  以上を前提に,本件解雇がなければ被告らに確実に支給されたであろう賃金等の額を検討する。

ア 月額賃金について

別紙一覧表の各項目のうち,時間外手当は,実際に時間外に残業に従事して初めてその請求権が発生するものであり,昇級差額は,昇級時に限って一時的に支払われるものであり,通勤手当は,実費補償としての性格を有するものであると認められる。また,精励手当については,前に認定したとおり,引き続き2か月間皆勤した従業員に対し,翌々月に一定額が支給されるものであり,原告の裁量によって支給の有無及び額が決定されるものではないが,本件解雇が無効であるからといって,当然に,解雇期間中を通じて被告らが皆勤であったと認めることはできない(特に,被告Y1については,本件解雇前後に一時入院しており,少なくともこの期間については,皆勤であった可能性はない。)。したがって,これらの手当については,本件解雇がなければ被告らに確実に支給されたとまではいえない。

他方,その余の項目の金員(被告Y1については,基準内賃金及びその他手当の合計38万4750円,被告Y2については,基準内賃金,家族手当及びその他手当の合計39万9375円)については,その名目等から考えられる一般的な性格や,本件解雇前5か月間にわたって同一額が支給されていることなどに照らし,本件解雇がなければ被告らに確実に支給されたものと認められる。

これに対し,原告は,被告Y1は本件解雇時から少なくとも平成23年1月末ころまでは就労能力を欠いており,同人の就労不能は原告の責めに帰すべき事由によるものではないとして,同期間における月額賃金請求には理由がない旨主張する。しかしながら,被告Y1は,本件解雇後5日間は入院していたものの,平成22年10月15日にはc労組年次大会に出席してあいさつをするなど(証拠<省略>),退院後は組合活動等を行っていたのであるから,被告Y1が本件解雇時から平成23年1月末ころまで就労能力を欠いていたということはできない。

イ 賞与(一時金)について

本件においては,前に認定した平成22年年末一時金並びに平成23年夏季一時金及び年末一時金については,本件解雇がなければ被告らに確実に支給されたものと認められる。

これに対し,原告は,被告Y1が就労能力を欠いていたとして,同期間における賞与請求には理由がない旨主張するが,前記のとおり,同主張は採用できない。

ウ 退職金制度に基づく算定基礎給相当額について

(ア) 被告Y1について

前に認定したとおり,被告Y1は退職金前払い制度を選択していたところ,原告においては,本件就業規則を受けた退職金規定によって,同制度を選択した従業員に対し,夏季及び年末の一時金支給時に算定基礎給額を支給することとされていた。以上によれば,同算定基礎給額については,本件解雇がなければ,本件雇用契約に基づいて,被告Y1に確実に支給されたものと認められる。そして,一時金支給時に支払われるべき算定基礎給額は,平成22年年末一時金支給日である同年12月3日に18万5142円(平成22年5月分から同年10月分までの合計),平成23年夏季一時金支給日である同年7月8日に18万5491円(平成22年11月分から平成23年4月分までの合計),同年年末一時金支給日である同年12月9日に18万7236円(平成23年5月分から同年10月分までの合計)の合計55万7869円となる。もっとも,前に認定したとおり,原告は,被告Y1に対し,本件解雇後に,平成22年5月分から同年8月分までの算定基礎給額に当たる12万3428円を支払っているから,これを控除すべきである。

(なお,被告Y1は,同算定基礎給額に係る請求を,本件雇用契約上の債務不履行による損害賠償請求権又は不当利得による利得金返還請求権に基づく請求と構成しているが,弁論の全趣旨によれば,同請求は,算定基礎給自体については本件雇用契約に基づき,算定基礎給に対する遅延損害金部分については債務不履行(履行遅滞)による損害賠償請求権に基づいて請求するという趣旨を含むものと解し得る。)

(イ) 被告Y2について

前に認定したとおり,被告Y2は確定拠出年金制度を選択していたところ,同制度においては,事業主は,算定基礎給額と同額を掛金として資産管理機関に拠出することとされている。しかしながら,加入者が同制度に基づく給付を受けられるのは,年齢が60歳に達した後(老齢給付金),傷病により障害の状態に至ったとき(障害給付金),死亡したとき(死亡一時金),脱退したとき(脱退一時金)であり,しかも,その受給額は,加入者が自己責任の下で運用の指図を行った結果に応じたものとされているのであるから,事業主が前記掛金の支払を怠ったからといって,直ちに,事業主が加入者に対する関係で算定基礎給額相当額の債務不履行責任を負うとも,加入者が算定基礎給額相当額の損失を受けたともいえない。したがって,被告Y2の主張は理由がない。

エ 以上によれば,被告Y1は,原告に対し,本件雇用契約に基づき,①月額賃金として,平成22年11月から本判決確定の日まで毎月25日限り,38万4750円及びこれに対する各支払日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金,②賞与(一時金)として,280万3354円及びうち平成22年年末一時金82万7888円に対する支給日の翌日である同年12月4日から,うち平成23年夏季一時金98万7733円に対する支給日の翌日である同年7月9日から,うち同年年末一時金98万7733円に対する支給日の翌日である同年12月10日から各支払済みまで同割合による遅延損害金,③退職金制度に基づく算定基礎給額として,43万4441円(55万7869円から既払分12万3428円を控除したもの)及びうち6万1714円(18万5142円から既払分12万3428円を控除したもの)に対する平成22年年末一時金支給日の翌日である同年12月4日から,うち18万5491円に対する平成23年夏季一時金支給日の翌日である同年7月9日から,うち18万7236円に対する同年年末一時金支給日の翌日である同年12月10日から各支払済みまで同割合による遅延損害金の各支払を求めることができる。

また,被告Y2は,原告に対し,本件雇用契約に基づき,①月額賃金として,平成22年11月から本判決確定の日まで毎月25日限り,39万9375円及びこれに対する各支払日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金,②賞与(一時金)として,297万7598円及びうち平成22年年末一時金87万4170円に対する支給日の翌日である同年12月4日から,うち平成23年夏季一時金105万1714円に対する支給日の翌日である同年7月9日から,うち同年年末一時金105万1714円に対する支給日の翌日である同年12月10日から各支払済みまで同割合による遅延損害金の各支払を求めることができる。

第4結論

以上に認定,説示したところによれば,その余の争点について判断するまでもなく,本訴請求は不適法であるからこれを却下し,反訴請求については,主文2項ないし4項記載の限度で理由があるからその限度でこれらを認容し,その余の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗田健一 裁判官 飯塚宏 裁判官 伊澤大介)

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