さいたま地方裁判所越谷支部 平成12年(ワ)849号 判決 2001年6月14日
主文
1 被告は、原告に対し、金173万9920円及びこれに対する平成12年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は、仮に執行することができる。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
主文と同じ
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 原告は、下記の建物及びその敷地並びに付属施設の管理を行うことを目的として区分所有者全員により構成された管理組合である。
被告は下記建物506号室(以下、本件建物という)の区分所有者である。
記
草加市西町1333番地1 ライオンズマンション草加西町
(2) 本件建物の前所有者である訴外株式会社共同地所は、管理組合規約に基づき、下記のとおり、管理費及び修繕積立金(以下、管理費及び修繕積立金を総称して、管理費等という)の債務合計金173万9920円を負担していた。なお、各債務の支払期限は、毎月末日までに翌月分を支払うこととされていた。
記
<省略>
(3) 前所有者である訴外株式会社共同地所は、上記債務合計金173万9920円の支払をしなかった。
その後、平成10年5月1日、被告が本件建物の所有権を取得した。
(4) よって、173万9920円及びこれに対する支払督促決定正本送達の日の翌日である平成12年12月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)は認める。
(2) 請求原因(2)は不知。
(3) 請求原因(3)の前段は不知。後段は認める。
3 抗弁
(1) 消滅時効
管理費等は、民法169条の定期給付債権である。
すなわち、管理費は区分所有者であれば当然に負担しなければならないものであり、会計年度ごとに総会によって決定され、賦課されるものではないから、管理費の支払義務は定期給付債権(債務)であり、各月の管理費は支分権たる債権(債務)であるので、民法169条の短期消滅時効の適用を受けると解すべきである。
よって、平成4年1月分から平成7年12月分までの管理費等の合計である金104万0200円については平成12年11月30日の経過をもってすでに時効により消滅している。
被告は、原告に対し、平成13年3月1日の本件口頭弁論期日において、上記時効を援用するとの意思表示をした。
(2) 権利濫用
原告は、被告に対し、平成4年1月分から平成10年4月分までの前所有者らが滞納した管理費等を請求しているが、このように、管理費を長期かつ多額に至るまで請求、回収しないでおきながら、被告に対して全額請求することは権利の濫用として許されるべきではない。
4 抗弁に対する認否
(1) 抗弁(1)は否認する。
管理費等の支払義務の具体的発生は、毎期の総会によって生じるものであり(管理規約25条3項及び47条(2))、その請求債権は基本たる債権の存在を前提とするものではない。したがって、消滅時効期間は民法167条1項により10年である。
(2) 抗弁(2)は否認する。
滞納金額は、売買契約時において重要事項説明書により必ず表示されるものであり、その滞納金額を前提として代金額が決定されるから、買主にとっても不測または不当な損害になるものではない。
理由
1 請求原因(1)及び(3)後段の各事実は当事者間に争いがなく、証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば、同(2)及び(3)前段の各事実が認められる。
2 抗弁(1)(消滅時効)について
(1) 民法169条にいう「年又ハ之ヨリ短キ時期ヲ以テ定メタル金銭其他ノ物ノ給付ヲ目的トスル債権」とは、基本権たる定期金債権(定期金債権とは、定期に一定の金銭その他の代替物を給付させることを目的とする債権、すなわち、一定期日の到来によって逐次毎期の債権を成立させてゆく包括的な債権をいう。)から発生する支分権であることを要すると解する。
(2) ところで、証拠(甲5)によると、原告が被告に対して管理費等を請求する根拠となるのは、管理規約25条に基づくものと認められるが、証拠(甲5)によると、具体的な管理費等の額及び賦課徴収方法は、毎会計年度ごとに、総会の決議により決定されるものと認められるから、管理規約25条に基づく請求権は、一定期日の到来によって逐次毎期の債権を成立させてゆく包括的な債権であるとはいえない。
(3) したがって、管理費等は、定期金債権から発生する支分権とはいえず、民法169条の適用を受けない。
よって、被告の抗弁(1)は理由がない。
3 抗弁(2)(権利濫用)について
本件において原告は、平成4年1月分から平成10年4月分までの管理費等合計173万9920円を請求しているが、仮に原告が管理費等について同金額に至るまで回収手続きを行わなかったとしても、本件建物の所有者において、もはや管理費等を請求されることがないであろうと信頼すべき正当の事由を有するに至ったなどということは考えられず、本件における原告の権利行使が社会性に反し、権利の行使として是認することができない行為であるとは認定し得ない。
よって、被告の抗弁(2)は理由がない。
4 以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。