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さいたま地方裁判所越谷支部 平成15年(わ)57号 判決 2003年8月05日

主文

被告人を懲役5年に処する。

未決勾留日数中110日をその刑に算入する。

理由

(犯罪事実)

被告人は

第1  金品を窃取しようと企て、平成15年1月27日午後0時50分ころ、埼玉県越谷市<以下省略>所在のA方に、無施錠の1階居間南側掃き出し窓から侵入し、同所において、B所有又は管理に係る現金3万39円及び財布1個外7点(時価合計約1万380円相当)を窃取したところ、同日午後1時20分ころ、上記A方駐車場において、帰宅した上記B(当時34歳)に発見されるや、逮捕を免れるため、所携のボウイナイフ(平成15年押第7号符号1)の刃先を同女に示し、左右に振りながら迫るなどして脅迫した。

第2  業務その他正当な理由による場合でないのに、前同日午後1時20分ころ、上記A方駐車場において、刃体の長さ約13.3センチメートルの上記ボウイナイフ1丁を携帯した。

(証拠)省 略

(補足説明)

弁護人は、被告人が、判示の住居に侵入し、現金等を窃取したことは争わないが、被告人は、Bにボウイナイフを示したことも、左右に振り回して脅迫したこともないから、事後強盗罪は成立せず、また、隠し持っていたボウイナイフを玩具と思っていて、刃物であるとの認識はなかったから、銃砲刀剣類所持等取締法違反罪も成立しないと主張し、被告人もこれに沿う供述をしている。

しかしながら、前掲証拠により検討すると、被告人が判示のとおり事後強盗罪、銃砲刀剣類所持等取締法違反罪を犯したことは明らかであると認められるが、以下に補足して説明する。すなわち

Bは、公判で証言して、大要、「当日午後0時40分ころ、長男を連れて隣家の実家に行った。次男は1階居間で眠っていたのでそのままおいて出た。玄関と勝手口の鍵はかけたが、1階居間南側の掃き出し窓は鍵をかけずに出た。実家で昼食をとった後、午後1時20分ころ、自宅に戻った。1階居間南側の掃き出し窓から中に入ったが、その場に置いていたバスタオルや部屋の絨毯に泥がついて汚れていた。おかしいと思って2階の様子を見た後、階段をおりると同時に玄関の戸が閉まる音がした。泥棒が出ていったと思い、確認するため裸足のまま玄関を開けて外に出た。開いていた門扉まで行くと、帽子をかぶり、マスクをした被告人がいたので、びっくりした。すると、被告人が、ポケットから刃物を取り出してかざし、左右に振って、1メートルぐらいまで近寄ってきた。包丁に見えた。後ずさりして、悲鳴を上げた。刃物と私の顔との距離は20センチメートルくらいであり、刺されてしまうかなと思い、足がすくんだ。被告人は急に後ろを向いて走って逃げた。叫び声をあげて裸足のまま被告人を追い、通りかかった(Aが運転する)自動車に乗車して、クラクションを鳴らして追いかけ、これを聞きつけたBにも同乗してもらい、被告人運転の自転車を塞ぐようにして車を止めて、Bに被告人を捕まえてもらった。」と述べているのである。

上記Bの証言は、留守にした自宅に戻り、室内の異常に気付いて玄関先に出てみると、異様な風体の被告人がいて、被告人から刃物で脅された状況について、記憶にある事柄を具体的に述べるものであり、戸外に出るといきなり被告人から刃物で脅されたが故に、被告人を犯人であると確信して追跡したことともつじつまが合うのであって、不自然、不合理な点はなく、上記Bがことさら虚偽を述べる事由もない。また、上記Bと一緒に車で被告人を追いかけた上記A及びBは、いずれも警察官調書で、Bから、車中で、被告人がナイフを持っているから気をつけてくださいと言われたと述べていて、上記Bが被告人は刃物を所持しているのを承知していたことを裏付けている。したがって、上記Bの証言は、十分信用することができる。

弁護人は、上記Bの証言は、同人が、被告人と対峙して驚愕のあまり、被告人がナイフを持っていたと誤認した可能性があるというが、そのような見間違いをした形跡は全くない。

これに対し、被告人は、公判段階で、要旨、「高齢の母親を抱えていて働けず、借金の催促を追われて、眠れず、食べられず、暖房もない状態で、当時、何を考えていたのかよく覚えていない。記憶が飛んでいる。暴走族から絡まれるので護身用に習慣でナイフをポケットに入れていた。家賃を支払うために、A方から窃盗をしたのは間違いない。しかし、誰かに見られていたら一大事だと思い、盗んだものを戻しておこうと考えて、A方に戻った。門を入ると女性が出てきて向かってきたので、ただ逃げた。ナイフは出していない。」というのである。

しかしながら、上記被告人の公判での言い分は、ナイフは出していないという点について、信用し難い。被告人は、捜査段階では、「A方に侵入して、現金等の入っている封筒と財布を盗んでポケットに入れ、玄関の施錠を外して出た。付近の公園で窃取した現金を数えたが家賃には足らないので、引き続き同人方に赴いて盗みをするために、戻り、玄関から入ったが、声が聞こえたことから玄関から出たところ、同人方駐車場で、Bに発見された。ジャンパーの左ポケットにいれておいたナイフを左手で取り出して、同女の方に刃先を突きつけるようにすると、同女が何か悲鳴のような声を出した。」旨述べていたのであるが、これを変遷させた理由について、取調べ時に、母のことを思い出して、そればかりが心配で、反論できなかったなどというだけであり、首肯できる理由を述べていない。被告人が、刃物で脅したかどうかは、重要かつ印象的な事情であることは明らかであって、被告人が捜査官のいうがままにしたがったとは考え難い。

次に、弁護人は、被告人が、上記ボウイナイフを玩具としか認識していなかったというのであるが、上記ボウイナイフは、柄部に滑り止めがある角様のプレートがはめ込まれたステンレス・スティール製の全長約25.2センチメートルのもので、刃体は、その長さは約13.3センチメートル、その厚みは最大約0.4センチメートル、その幅は、最大約3センチメートルであり、その先端部は鋭利であるという性状であることに加え、被告人が護身用に所持していたことを自認していることに徴すると、被告人が、上記ボウイナイフを玩具としか認識していなかったとは認め難いのであって、上記弁護人の主張は容れ難い。

以上の次第で、被告人が、判示のとおり事後強盗罪、銃砲刀剣類所持等取締法違反罪を犯したことは明らかであると認められる。

弁護人の主張は採用できない。

(累犯前科)

1  事実

平成9年6月24日浦和地方裁判所宣告

住居侵入、強盗致傷、銃砲刀剣類所持等取締法違反、窃盗罪で懲役5年6月平成14年11月21日上記刑の執行終了

2  証拠(省略)

(法令の適用)

罰条        判示第1の行為のうち、住居侵入の点は刑法130条前段、事後強盗の点は同法238条、236条

判示第2の行為について、銃砲刀剣類所持等取締法32条4号、22条

科刑上の一罪の処理 判示第1について、刑法54条1項後段、10条

(重い事後強盗の罪の刑で処断)

刑種の選択     判示第2の罪について、懲役刑

累犯加重      刑法56条1項、57条、14条(再犯)

併合罪の処理    刑法45条前段、47条本文、10条、14条

(重い第1の罪の刑に加重)

未決勾留日数の算入 刑法21条

訴訟費用の不負担  刑事訴訟法181条1項但書

(求刑 懲役6年、国選弁護人 浅水尚伸)

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