さいたま家庭裁判所 平成17年(少)1542号 2005年6月21日
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(罪となるべき事実)
少年は、
第1 平成17年3月30日午後3時40分ころ、埼玉県○○市○○×丁目×番×号所在の○○市立○○図書館南側エレベーター内において、B(当時13歳)を認めるや、同女の前方に立ち、右掌で同女のスカートの上から陰部付近を触り、さらに右肘部分で同女の胸部を突き、もって公共の場所において、人を著しく羞恥させかつ不安を覚えさせるような卑わいな行為をした
第2 同年2月6日午後3時50分ころから同日午後3時55分ころまでの間、同市△△町×丁目×番××号株式会社○○△△店2階キッズルーム内において、F(当時7歳)に対し、同女が13歳未満であることを知りながら、同女のズボンの中に右手を入れ臀部を触るなどし、もって、わいせつな行為をした
第3 同年4月7日午後3時50分ころ、同市○○×丁目×番○○団地○○公園内で遊んでいたG(当時10歳)、H(当時8歳)、I(当時9歳)を認めるや、同女らに5メートルないし6メートルの距離まで近付き、自転車で付近を周回しながら舐め回すように観察し、更に逃げる同女らを同市○○×丁目×番×号所在の○○市立○○図書館内まで追いかけ回し、もって他人に不安又は迷惑を覚えさせるような仕方でつきまとった
ものである。
(事実認定についての補足説明)
少年は、当審判廷において、前記各罪となるべき事実について、いずれも「やっていません。」と陳述してこれを否認し、具体的な弁解については、当初の陳述とやや異なる弁解をしたりして、分かりにくい点があるものの、付添人作成の少年の陳述書によれば、少年の弁解は、同第1の事実については、そのとき被害者と同じエレベーターに乗り合わせたかもしれないし、そのときにエレベーターが混んでいたので相手の体に自分の手が当たってしまった可能性はあるのかもしれないが、わざと触ったりはしていない、同第2の事実については、過去にその店舗にゲームをしに行ったことはあるが、そこで女の子を触ったことなどない、同第3の事実については、全く身に覚えがないというものであるとされ、付添人も同様の主張をしているから、上記各事実を認定した理由について補足して説明する。
1 第1の事実について
(1) 被害者Bの供述の信用性について
ア まず、証人Eの当審判廷における供述及び関係各証拠によれば、Bの供述が得られた経緯については次のとおり認めることができる。すなわち平成17年3月30日午後4時45分ころ、Bが友人であるC、Dを伴って○○警察署○○交番を訪れ、本日痴漢にあった旨の被害の相談をし、司法巡査が被害届出の意思確認をしたところ、これから親と相談して決めると述べた。同年4月5日の午前にDが、同日の午後に上記Cが○○警察署を訪れ、目撃状況についての同女らの供述調書がそれぞれ作成され、写真による面割もそれぞれ行われた。同月6日、Bが○○警察署を訪れ、被害届を提出し、被害状況についての同女の供述調書が作成され、写真による面割も行われた。さらに、同月12日、上記○○市立○○図書館エレベーターにおいてB立会の実況見分が行われた。
イ 次に、司法巡査作成の目撃状況についてのC及びDの各供述調書の内容は以下のとおりである。
まず、Cの供述調書の内容は次のとおりである。すなわち、同女は、図書館のエレベーターにB及びDと入り、Bの斜め後ろにDと立っていたところ、エレベーターのドアが閉まって数秒後に、Bの前方に立っていた男の子の右手がBの股のところに当たった。Bが「ちょっと」と言ってよけようとしていたが、男の子も一緒にくっついて離れなかった。Bの様子を見て、この人痴漢ですと言おうとしたが、自分より大きい男の子で、殴られたりしたら嫌だと思って言い出せなかった。男の子は、身長160から165センチくらいで、太っていて、髪は天然パーマ、目が細く、立体マスクをつけていた。3階で降りてすぐに、Bが「触られた」と言った。その後、用事を済ませて4階に行ったところ、その男の子を見付け、視線が合うと、男の子は自分らの後を追いかけて階段を降り、同じエレベーターに乗り込んできて、自分達の方を見て、へへ、と笑っていた。エレベーターを降りると、男の子は近くの○○店に行ったので、しばらく外で男の子を見張っていると、出てきたので少し話し掛けてみた。その後、自転車に乗って図書館を後にしようとすると、男の子もスーパー近くにおいていた自転車を乗り出そうとしていて、Bらの方をじーっと見てから行ってしまった、というものである。さらに、同女は、写真による面割りで少年の写真を特定している。
次に、Dの供述調書の内容は次のとおりである。すなわち、同女は、図書館のエレベーターにB及びCと入り、Bが入口ドア側と向かって右側の壁を挟んで立ち、Bの後方にCと立った。エレベーターのドアが閉まって上に上り始めたころ、Bの前に立っている太った男の子の手が、Bの股の辺りを触っていた。また、肘でBの胸の辺りをつついて触っていた。Bは恥ずかしがって自分と腕を組んできた。相手の男の子を捕まえて警察に突き出すこともできたのかもしれないが、周りに人がいたから大声も出せなかったし、恥ずかしくてとてもできなかった。男の子の特徴は、身長155から160センチメートルくらいで、太っていて、天然パーマで、目が細く、丸いマスクをしていた。3階で降りてすぐ、Bが「触られた」と言った。その後、3階で用事を済ませて、4階に行くと、子供の本のコーナーに男の子がいて、Bを追いかけてきたので、自分も一緒に走って逃げた。自分らが階段を3階まで降りると、男の子は後を追って階段を降りてきて、自分を通り越してBらが乗ったエレベーターに乗り込んだ。その後、○○店の辺りで男の子を見失った。コンビニで買い物をして帰ろうとすると、男の子がどこかから出てきて、私たちの様子をじーっと見ていた。男の子の自転車は、ハンドルがトンボのようにまっすぐなシルバーの自転車だった、というものである、さらに、同女は、写真による面割りで少年の写真を特定している。
ウ そして、司法巡査作成の被害状況に関するBの供述調書の内容は次のとおりである。すなわち、同女は、平成17年3月30日、本を借りるためにC及びDと図書館に行き、1階エレベーターに乗り、階層ボタンの前辺りに立ったところ、後から男の子が1人乗ってきて、自分の目の前にドアの方を向いて立ったこと、ドアが閉まるとすぐに、なんか変な感覚がして、スカートの股のところに何かが当たっているなという感覚だった。更に、胸にも、目の前の男の子の右腕が当たっているような感じがして、邪魔だな、嫌だなという思いがこみあげてきたこと、側にいた友達が自分の左腕を掴んで引っ張り、その場からよけさせようとしてくれたが、男の子の右腕が邪魔でよけることができなかった。自分は「ちょっと邪魔だよ」と言ってよけようとしていたが、男の子はなかなか離れてくれなかった。3階でエレベーターを降りるとすぐ、友人らが「今、さわってなかった?」と言い出し、自分も、「うん、さわられた」と言った。本やCDを借りるなどした後、さっきの男の子がまだいるかもしれないということで、今度は3人で4階に行った。さっきの男の子がいたので、あの子追いかけてくるかなと、試しに近くに行ってみると、男の子は自分達に気づき、追いかけてきた。怖くなって、階段を下り、3階からエレベーターに乗ると、男の子も降りてきて同じエレベーターに乗ってきて、こちらを見てにやにやしていた、というものである。さらに、同女は、写真による面割りで、少年の写真を特定している。
エ そこで、Bの供述調書の信用性について判断するに、犯行状況についての同女の供述内容は具体的であり、事実経過についてのC及びDの供述とも合致し、証人Eの当審判廷における供述によれば、Bは、事情聴取の際にも落ち着いており、自分からすすんで供述したことが認められる。また、上記認定によれば、Bは、被害にあった当日にC及びDとともに交番に赴き、被害の申し出をしており、少年とはこれまで面識がなく、敢えて少年を陥れるような供述をする理由も考えにくい。それゆえ、同女の供述内容は、信用性が高いものと認められる。
(2) この点、少年は、Bと同じエレベーターに乗り合わせ、エレベーターが混んでいたので相手の体に自分の手が当たってしまった可能性はあるのかもしれないが、わざと触ったりはしていないと弁解し、また、付添人は、エレベーターが混雑している状況であったとすれば、一般的に考えても当たっただけの可能性がある、BやC、Dの各供述内容は、詳細な部分についてあいまいな供述が見られるなどと主張する。
しかしながら、まず、被害当時にエレベーターに少年が乗り合わせた事実については、B、C及びDがいずれも写真面割により少年を特定していることから、疑問を入れる余地はない。また、Bらの各供述調書及び少年の当審判廷における供述によれば、確かに、被害時のエレベーターは人が多数乗っていて混雑していたことが認められるものの、自分の掌が他人の股に当たるということは日常的にはあまり起こり得ないことであり、たとえ偶然に当たってしまったとしても、すぐに手を除けるなどするはずであり、そのことは胸に肘を偶然に当てた場合でも同様であろうと思われるところ、Bらの供述によれば、少年は、Bが声を発するなどしてよけようとしても、自ら手をずらすなどしてよけようとはしなかったことが認められ、少年が故意に触ったと考える方が自然である。また、付添人は、各供述内容は、例えば「何か当たっているなという感覚」「右腕が当たっているような感じ」などのあいまいな記載があるなどと主張するが、被害に遭ったのがエレベーターが1階から3階に上がるまでの僅かな時間であることからすれば、特にあいまいであるとも不自然であるとも考えられない。
さらに、関係証拠によれば、少年は、逮捕時の弁解録取書では、Bを触ったことを認める旨の供述をしており、犯行状況についての司法巡査作成の少年の供述調書も作成されていること、当裁判所において観護措置手続が行われた段階でも、非行事実を認める旨の陳述をしていることが認められる。これに対して、少年及び付添人は、警察官らの言動が怖かったので誘導されるままに供述してしまった、観護措置手続時の裁判官も怖そうだったので認める旨供述してしまったので、これらの供述の信用性はないと主張している。この点、少年は軽度の知的障害を有すること、証人E、同Jの当審判廷における供述によれば、少年の取り調べ時には実母の立会がなかったことが認められることから、少年が取調時における暗示や誘導に乗り、虚偽の供述をした可能性について慎重に考えるべきであるが、上記少年の供述調書は、「…右か左か忘れましたが、僕の肘が女の子の胸あたりに当たったことを覚えています。肘はわざと当てたわけではありません。」などの少年の弁解的な供述についても記載がされていること、また、エレベーターを降りた後の少年の行動については、問答式で聴取し、少年は当時のことを忘れてしまったという内容になっており、ことさらに誘導等がなされたようにはみられない。また、観護措置手続で事実を認める旨の陳述をした理由についても不合理である。
それゆえ、少年の弁解は信用できないから、少年及び付添人の当審判廷における主張はいずれも採用できない。
(3) 以上のとおり、少年から卑わいな行為をされたことを内容とする司法巡査作成のBの供述調書の信用性が高く、他方、少年の弁解は不合理なところがあり信用できないから、第1の事実についてはこれを認めることができる。
2 第2の事実について
(1)ア まず、証人E、Kの当審判廷における各供述及び関係各証拠によれば、Fの供述が得られた経緯については次のとおり認めることができる。すなわち、平成17年2月6日の夕方、Fの両親は、最寄りの交番にFに関する被害の相談をしたところ、正式に被害届等を出すように勧められ、同日午後6時35分ころ、○○警察署を訪れ、父親がFに対する被害の申立てをした。同署において、当直勤務中のE巡査が対応し、被害届を受理し、同警察署の×階生活安全課補導室で、Fの母親立会の下、同女の被害状況の事情聴取を行った。
イ 次に、司法巡査作成のFの供述調書の内容は次のとおりである。
すなわち、同女は、父親、母親及び弟と一緒に車で○○家具に行き、屋上に車を止めて、階段で2階に降り、皆で家具を見た後、同じ階にあるキッズルームでジュースを飲んで少し休んだ。それから、父親が、もう1回店の中を見てくるといい、母親に一緒に行くか聞かれたが、丁度キッズルームで○○のビデオをやっていたので、それが見たくなり、弟と2人でビデオの前の床に座って○○を見ていた。しばらくすると、左隣に中学校1年生くらいのお兄ちゃんが座ってきて、自分との距離がなんだか近すぎると思ったので、弟の方に体をずらしたら、お兄ちゃんも自分の方に寄ってきた。そのとき、こんなに画面から近くに座っていたら目が悪くなると思い、弟を誘って後ろの椅子に座った。椅子に座ると、お兄ちゃんも後ろにやってきて、また自分の左隣に座ってきた。いやだなと思って右によけると、お兄ちゃんはまた寄ってきた。隣に弟がいるのでこれ以上よけてもと思い、よけるのを止めると、体の左側がお兄ちゃんの右側がくっついた感じになった。ちょっとビデオを見ていたら、いきなりお兄ちゃんの右手が自分のトレーナーをめくってズボンの中に手が入った。このときお兄ちゃんの右手が、自分のお尻に掌が当たるように平らに一回押してきたような気がした。こわい、声が出ないと思って、すぐにキッズルームから逃げて2階のすぐ横にいた母親のところにいった。5分位してから、母親に、「さっき大きいお兄ちゃんにおしりを触られた」と言ったら、母親は父親に話したが、お兄ちゃんはどこかに行っていていなくなってしまった。その後、1階のペットショップで犬などを見ていたとき、さっきのお兄ちゃんがまた来た。お兄ちゃんは、上下黒のジャージで、太っていた。母親に教え、母親が父親にこれを話すと、父親はお兄ちゃんを外に引っ張っていった。お兄ちゃんは、父親に対してやっていないと言ったこと、自転車に少年の名前と住所が書いてあったことを聞いた、というものである。
なお、証人E、同Kの当審判廷における供述によれば、同月19日、○○警察署において写真による面割りが行われたところ、Fは、少年の写真を指さしたものの、ためらう素振りを見せ、明確に特定をしなかったことが認められる。
ウ さらに、証人Kは、当審判廷において、次のように証言している。
すなわち、当日、Fを含む家族で○○△△店に赴き、2階の家具売り場で揃って家具を見た。その後、同階にキッズルームがあったので、そこでジュースを買って休憩し、その後、Fとその弟はキッズルームに残り、Fの両親は家具売り場を見て回った。Fらと離れてから20分位経ったころ、Fだけが自分のところに駆け寄ってきて、一緒に付いてきた。それから5分位して、Fが、「さっき大きいお兄ちゃんにお尻を触られた」とべそをかきながら言ってきた。「なぜ早く言わないの」と言い、それから2人で2階を探し、父親にも話して皆で見て回ったが、そのような人物は見付からなかった。その後、皆で1階に降り、ペットコーナーでペットを見ていたところ、Fが「さっきのお兄ちゃんがいる」と言ってきたので確認すると、160センチより少し低いくらいの身長で、ぽっちゃりしていて、すこし縮れ髪の少年を認めたので、父親にそのことを話すと、父親がその少年を詰問したが、少年は「やっていない」と言って認めようとしなかった。父親は、Fにも強い口調で確認したが、Fは「わたし、嘘ついてない」と言って泣き出した。少年は、自分の名前を「A」と名乗り、住所なども言ったが、信用できなかったので、同人の自転車も確認したところ、自転車後部の泥よけのところに名前と住所が書いてあり、名前はそのとおりだったが、住所については少年の申告したのと丁目番地の数字が少し違っていた。その後、一旦自宅に戻り、どうしようか考えて、最寄りの交番に相談に行った。というものである。
なお、証人Kは、当審判廷において少年を確認し、あのときの少年に間違いない旨供述している。
エ そこで、検討するに、Fは、後日の写真による面割りでは少年を明確に指摘しなかったものの、犯人については、中学生くらいに見え、太っていた旨供述しており、これらの特徴は、少年とも一致する。また、上記のように、Fは、被害後すぐに母親に話しており、1階で少年を見かけると、すぐに母親に教え、母親から話を聞いた父親がその人物を追及したところ、その人物の自転車に少年の名前と住所が書かれていたこと、証人Kは、その人物が少年と同一人物に間違いない旨を証言していることからすれば、少年が被害現場に居合わせ、その後Fの父親から追及を受けたことに疑いを差しはさむ余地はないといわねばならない。
次に、被害状況についてのFの供述内容は具体的で、同女が7歳であることを考慮しても、特段不自然、不合理な点はなく、証人E、同Kの当審判廷における各供述によれば、Fは、事情聴取時において、最初は緊張が強く、なかなか話そうとしなかったが、次第に自分から話すようになったこと、その内容も、少年が、場所をずらしても移ってきて、自分にぴったりくっついてきたこと、ズボンの中に手を入れられたことなど、それまで母親がFから聞かされていなかったことを話していることが認められるから、ことさらに暗示や誘導がなされたとは思われない。さらに、Fとその両親は、被害にあった当日に警察に被害の申し出をしており、また、少年とはこれまで面識がなかったことから、敢えて少年を陥れるような供述をする理由もないことからも、Fの供述内容は信用性が高いと認められる。
(2) これに対して、少年は、女の子を触ったりしていないと主張するものの、当審判廷において、当日、被害店舗に行ったのかどうか、被害現場であるキッズルームに行ったのかどうか、当日、Fの父親に追及された事実があったかどうか、自分の自転車がその場にあったのかどうかなどについて、明確に説明しようとしない。また、付添人は、Fの供述は反対尋問の保障がなく、その内容も信用性がないと主張するが、そもそも少年事件においてはいわゆる伝聞法則の適用はない上、当裁判所はFの年齢等を考慮し、同女の証人尋問は行わずに、同女の事情聴取を行った司法巡査及びそれに立ち会った母親の証人尋問をいずれも実施した結果、同女の供述が信用性が高いと判断したものであるから、付添人の主張を採用することはできない。
さらに、少年は、第1の事実により逮捕された段階で、第2の事実についても認める旨の供述をし、犯行状況についての司法巡査作成の少年の供述調書が作成されており、また、当裁判所において観護措置手続が行われた段階でも、事実を認める旨の陳述をしている。これに対して、少年は、第1の事実に関する弁解と同様の弁解をしているが、司法巡査作成の少年の供述調書の内容をみると、「…僕が覚えているのは、その子の右か左かにぴったりくっついて座り、どちらかの手で座っている女の子のズボンのお尻に手を入れて触ったことくらいです。パンツの上からだったのか、パンツの中にも手を入れたのかまでは覚えていません。」などと、少年が覚えていること、覚えていないことについて具体的に記載されており、かような供述が専ら暗示や誘導によってなされたとは考えにくい。また、観護措置手続で事実を認める旨の陳述をした理由についても不合理である。
それゆえ、少年の弁解は信用できないから、少年及び付添人の当審判廷における主張はいずれも採用できない。
(3) 以上のとおり、Fの供述調書は信用性は高く、他方、少年の弁解は不合理なところがあり信用できないから、第2の事実についてはこれを認めることができる。
3 第3の事実について
司法巡査作成のG、H、Iの各供述調書その他の関係証拠によれば、上記Gらは、いずれも、○○団地○○公園で座ったりして話をしていたところ、髪の毛が縮れ、小太りで目の細い男の人が自転車で近付いてきて、自分らをじーっと見ながら周囲を自転車でぐるぐる回ったりしたので怖くなり、皆で相談して公園内で場所移動したが、男の人はまた近づいてきて同様の行動を取ったため、公園を出て、近くの商店街を抜けて、○○市立○○図書館まで逃げ込んだが、男の人も自転車で追いかけてきて図書館の中に入ってきたと供述していること、同日午後4時30分ころ、上記Gの母親から○○警察署に通報があり、警察官が○○市立○○図書館まで赴くと、上記Gらが、同図書館内にいた少年が自分らにつきまとった男の人であると確認したので、少年を交番まで任意同行して事情聴取したところ、少年が非行事実を認め、上申書や供述調書が作成されたこと、当日に少年及び乗っていた自転車の写真撮影が行われ、Lが少年を引き取りに来たことが認められ、これらの事実によれば、少年が第3記載の非行を行ったことは優に認められる。
これに対して、少年は、やっていないとは述べるものの、当審判廷において、当日、公園に行ったのかどうか、図書館まで行ったのかどうか、警察官から事情聴取を受けたのかどうか等の点について明言せず、何ら合理的な弁解もしていない。また、司法巡査作成の少年の供述調書において、非行事実を認める旨の供述がされているところ、この点についても当審判廷において何ら合理的な弁解をしていない。それゆえ、少年及び付添人の主張を採用することはできない。
(法令の適用)
第1の事実につき 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為の防止に関する条例11条1項1号、2条4項
第2の事実につき 刑法176条後段
第3の事実につき 軽犯罪法1条28号
(処遇の理由)
本件は、少年が、13歳の女児の股を触るなどの卑わいな行為をしたという条例違反の事案(上記第1の事実)、7歳の女児の臀部を触ったという強制わいせつの事案(上記第2の事実)、8歳ないし10歳の女児3名に対するつきまといをしたという軽犯罪法違反の事案(上記第3の事実)である。いずれも低年齢の女児に対して、約2か月の間に次々と敢行したものであり、少年の少なからぬ問題性が窺える。少年は、本件をいずれも否認しており、反省の態度は全く見られず、また、いずれも謝罪等はなされていない。さらに、さいたま少年鑑別所長作成の鑑別結果通知書によれば、少年は、幼児に対して強い関心を有していることが窺え、これらの点からすれば、少年が今後も同種非行を反復するおそれは大きいものといわざるを得ない。
少年の実父母は、少年の幼少時に離婚し、以来、少年は実母に養育されているが、少年は、知的な遅れが見られ、小学校入学時から特殊学級に入った。小学生のころ、実母から布団叩きで叩かれるなどの身体的虐待を受け、児童相談所に係属するなどし、平成14年4月、養護学校中等部に進学し、概ね出席状況は良く、授業への取り組みも積極的であったが、その一方で、大人がいないところでいたずらをしたり、思い通りにならないと暴れるなどの行動も見られた。また、平成17年1月ころ、実母が児童相談所に対し、少年のいたずらに困り、知的障害者施設への入所を希望する旨の相談に赴くなどし、児童相談所でも施設入所が可能かを検討していた。そのような中で、同年2月から4月にかけて、本件の各非行が行われ、同年5月11日、逮捕されるに至ったものである。
さいたま少年鑑別所長作成の鑑別結果通知書によれば、少年は、知能は「最劣」域で、中度精神遅滞水準にあり、社会常識に乏しく、基礎学力は概ね幼稚園児の段階にあるが、日常生活上最低限必要な意思の疎通は可能であり、入浴・食事など日常生活の身の回りのことは自分でできるという面もある。性格面は甘えが強く、わがままで、忍耐力に乏しい。自分勝手なわがままを通そうとして、要求が通らないと泣き叫んだり、駄々をこねるなど、幼児のように振る舞いがちであるが、周囲の状況や相手によって態度を変え、自分の期待通り動いてくれる相手には、依存的な態度で甘えたり、要求をエスカレートさせたりする一方、厳しく叱られたり、見た目が怖そうな相手の前では萎縮する傾向がある。いい子を演じて張り切って手伝いなどをしようとする反面、判断に迷ったり、不適切な行為を注意されると、かん黙したり、泣くことでその場を乗り切ろうとする。寂しがり屋で、構ってもらえないと駄々をこねるなどの幼稚な振る舞いをして周囲の関心を引こうとする、というような問題がある。なお、少年は、さいたま少年鑑別所内で、泣きわめいたり、机やロッカーを叩いたり、テレビを引き倒したり、同室者に水をかけたり、つばを吐いたり、畳に水道水や便所の水をばらまいて部屋を使えないようにするなどの問題行動を多発させており、場をわきまえることができず、内省する力にも乏しいことが窺える。
少年の実母は、体調不良で仕事に就けておらず、経済的に困窮しており、また、周囲への不信感が根強く、少年の非行や問題行動に対しても頭から否定し、少年を庇い、問題意識を持とうという姿勢に乏しい。少年の方も、実母を恐れ、また、見捨てられたくない気持ちから、実母の前では問題なく振る舞いがちである。かような現状では、実母が児童相談所や保護観察所等の関係機関と連携をとりつつ少年の指導を適切に行うのを期待するのはおよそ困難である。この点、埼玉県○○児童相談所長の照会回答書によれば、同児童相談所は、少年が性的な問題行動を繰り返していることから、知的障害児施設での処遇は困難であり、また、これまでの相談指導の際に窺えた実母の生活状況や不適切な養育態度からは、在宅で処遇することも困難であるとの意見である。
以上の点を総合考慮すると、本件非行の内容、少年の反省の乏しさ、少年の資質及び性格傾向の問題性、保護者の監護力の乏しさに照らせば、社会内処遇で少年の自発的な改善更生を促すことは困難であると思料されるから、本件が初回係属であること、少年が自宅に戻ることを強く望み、実母も同様の意向であることを踏まえても、今回は、少年を矯正施設に収容して、わがままや甘えの通用しない環境で、長期間の系統的な矯正教育を粘り強く施すことにより、自己の非を素直に認め反省する気持ちや、集団でのルールを遵守する姿勢を学ばせ、非行に対する抵抗感を身に付けさせるとともに、集団生活を通して、将来への自立に向けた社会適応力や協調性を育む必要がある。
よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 小池あゆみ)