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さいたま家庭裁判所 平成18年(家)30272号 審判 2007年7月19日

申立人

相手方

未成年者

C

主文

相手方は,申立人に対し,本審判確定後の毎年3月,6月,9月及び12月の各末日限り,未成年者宛の手紙を送付しなければならない。

理由

1  申立ての趣旨及び実情

申立人と相手方は,平成12年×月×日,未成年者の親権者を申立人と定めて調停離婚したが,未成年者が相手方に会うことを希望しているので,月1回の面接交渉が実現できるように審判を求める。

2  当裁判所の認定した事実

当庁平成18年(家)第××号子の監護に関する処分(養育費増額)申立事件の記録及び本件記録によれば,以下の事実が認められる。

(1)  申立人と相手方は,平成9年×月に婚姻し,平成10年×月×日,長女の未成年者をもうけた。申立人は,出産後実家から自宅に戻って以降,相手方のもとに女性から電話が入ったりすると,不貞関係を疑ったり,相手方が家事育児を何も手伝わないと不満を言ったりして,ときどき夫婦喧嘩をするようになった。

平成11年×月ころ,申立人は,仲人であった相手方の職場の上司に夫婦喧嘩の仲裁を依頼した。しかし,仲裁は効を奏さず,申立人が,相手方の当時の職場の上司に直接抗議したことがあった。申立人が相手方の職場に私的な問題を持ち込んだことにより,申立人と相手方との感情的対立が一層激しくなった。そのころ,申立人の母が,申立人と相手方の自宅を訪れた際,再び喧嘩が始まり,申立人の母が包丁を持ち出したこともあった。

同年×月ころ,申立人は,□□□に直接抗議し,「職場の人間では役に立たないので,□□□から相手方を説得してほしい。」,「相手方を辞めさせて欲しい。」などと申し入れた。そのため,夫婦間の問題が,職場の上部機関にまで知られるところとなった。

(2)  同年×月ころ,夫婦関係調整調停事件を当事者双方から申し立て,平成12年×月×日,調停離婚が成立した。調停では,養育費のほかに,相手方が申立人に対し,解決金150万円を支払うことが定められ,「申立人は,今後電話又は面会により相手方の職場に相手方を誹謗・中傷する言動又は行動をしない。」との条項や清算条項が定められた。相手方と未成年者との面接交渉について定めた条項はない。

相手方は,上記解決金を約定どおり支払を終え,養育費も約定どおり支払い続けている。

相手方は,平成13年×月に,△△△に転勤になり,平成14年×月×日に妻Dと婚姻して,△△市で暮らしていた。妻Dとの間に,長男E(平成16年×月×日生)をもうけた。

(3)  申立人と相手方の離婚成立後ほどなく,申立人は,相手方が妻Dの実家を訪問して自動車を止めていたところを見かけた。申立人は,□□□に,「離婚したばかりで,もう女を作った。」などと電話を入れた。

平成15年×月,申立人は,「婚姻中から交際していた女性と結婚したから,弁護士を立てて裁判にもっていきたい。」旨を相手方の留守番電話に吹き込んだことがあった。また,申立人が,妻Dの実家のある○○市○○区○○の近辺を歩いているのが目撃されたことがあった。

そのため,相手方は,申立人の行動にたまりかねて,同月×日付けの内容証明郵便を申立人の父宛に送付した。その内容は,自宅,妻の実家や職場に,不必要な電話をしないこと,必要な電話は相手方の携帯電話にメッセージを入れておけば,対応すること,自宅,妻の実家や勤務先の周辺で,様子を観察する,尾行するなどの行為をやめてもらいたいこと等であった。

上記内容証明郵便送付後,申立人の行動はなくなったが,平成16年夏ころ,相手方の勤務する△△△に,「相手方の妻やその家族が,申立人の周りをつけ回している。」と電話連絡をしたことがあった。

(4)  申立人は,相手方との婚姻中に,相手方から暴力をふるわれたことを訴え,しかも,相手方が離婚前から妻Dと交際していたものと確信しているので,そのような相手方を未だに許すことができないと考えている。したがって,申立人としては,未成年者が相手方に面接することを希望しているものではない。

申立人は,未成年者に対しては,相手方はとてもよい父親であるが,事情があって別々に暮らしているなどと説明している。

(5)  本件が審判移行した後,未成年者は,相手方の住所と相手方の妻の実家の住所に手紙を数通送付したり,申立人から聞いた相手方の携帯電話に電話をかけたりしている。相手方は,これまで手紙の返事を書いたことはなく,電話にも出ないので,留守番電話に未成年者の伝言が吹き込まれている。

未成年者が手紙や伝言で相手方に述べている内容は,「会いたい。」,「学校で持久走大会があるから,来てほしい。」,「ディズニーランドに連れて行って。」,「クリスマスにディズニーランドのホテルに泊まるから,一緒に来ないか。」,「返事がほしい。」,「電話ちょうだい。」などというものである。

相手方が未成年者の行動に何らの応答もしないので,申立人は,未成年者に手紙の返事を書いてもらいたいという伝言を相手方の留守番電話に入れた。

(6)  相手方の妻Dは,相手方が未成年者と面接することに消極的意見である。相手方は,どのような方法で未成年者に面接するとしても,未成年者を通じて相手方が申立人の生活の中に介在することになるので,従前感情的に対立したままの申立人との間で,また紛争が生ずることになるのを懸念している。

相手方は,目下の状況では,未成年者宛てに手紙の返事を書くことまでは応ずることが可能であると考えている。

3  以上の事実をもとに,本件の面接交渉のあり方について検討する。

(1)  未成年者は,相手方に対して,手紙を送付したり,電話をかけたり(留守番電話へのメッセージの吹き込み)しており,その文面からしても,相手方に会いたいと考えていることが認められる。

しかしながら,未成年者は小学校4年生であり,平成12年×月の離婚時には2歳になったばかりであるから,父親である相手方の記憶は全くないものと考えられ,相手方に会いたいという未成年者の思いは,抽象的な父親像に留まっているものと推察される。また,未成年者は,申立人と相手方が離婚していることなど,正確な事情を伝えられていないことが窺われる。

したがって,申立人や相手方の面接交渉への姿勢を始めとして周辺の環境が整えられないと,面接交渉を実施させることは,未成年者の福祉に沿わない結果を招来する危険がある。

(2)  前記2認定の事実によれば,申立人と相手方は,離婚から6年以上を経ているが,家庭内の不和が生じてから離婚に至るまで及びその後の過程における葛藤は,極めて根深いものがあると推察される。

申立人は,未成年者を相手方に会わせたくないと考えており,相手方に対しては,申立人に暴力をふるい,不貞関係にあった女性と婚姻したなどと主張して,強い憎しみを未だに抱き続けていることを否定しないなど,心理的清算ができていないことが窺われるところであるが,未成年者の気持ちを尊重して本件申立てをしたと主張しており,面接交渉を実施することが,申立人に加重な精神的負担を与える可能性がある。

一方,相手方は,申立人の離婚前後の言動から,面接交渉によって申立人との紛争が再燃することをおそれている。また,再婚家庭を築いているところ,養育費の支払のほかには,妻が,相手方と未成年者との面接交渉について消極的であることからすれば,面接交渉の早急な実施は,再婚家庭の環境を乱し,相手方の精神的不安を招く懸念がある。したがって,相手方には,未成年者の福祉を目指した前向きな姿勢での面接交渉を期待できない状況にあり,面接の実施が,必ずしも未成年者の心情に良い影響を与えられるとは言い切れない。

4  以上を踏まえると,本件においては,将来的に完全に面接交渉を禁止すべき事情は窺われないものであるにしても,相手方と事件本人の直接の面接交渉を早急に実施することは,未成年者の福祉に必ずしも合致するものではなく,消極的にならざるを得ない。

将来的には,環境を整えて,面接交渉の円滑な実施が実現できるようになることが期待されるが,当分の間は,間接的に,手紙のやり取りを通じて交流を図ることとするのが相当である。したがって,相手方から未成年者宛の手紙を年4回,3か月ごとに書くことを命ずることとする。

よって,主文のとおり審判する。

(家事審判官 生島恭子)

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