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さいたま家庭裁判所 平成19年(少)2978号 決定 2007年10月05日

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

第1  少年は,平成19年8月21日午後10時45分ころ,埼玉県○○市□□××番地×コンビニエンスストア○○店店内において,店員の隙を窺い,同店オーナーB管理に係る缶チューハイ1缶及びフェイスペーパー1個(売価合計640円)を窃取した。

第2  少年は,埼玉県立○○高校に在籍していたところ,第1記載の窃盗のほか,同年9月4日に同市△△×―×―××所在「△△○○駅前店」においてピアス用の穴開け器1個(売価1980円)を窃取した。少年は,保護者から注意されても家出(同年8月9日から同月12日まで,同月16日から同月17日まで,同月18日から同月22日まで)を繰り返し,監護に服さない状況にある。

そのため,少年は同年9月5日から埼玉県○○児童相談所の一時保護所に保護されていたところ,同月10日には,同所の体育館トイレにおいて,同所に入所し,特別支援教室に通学中の14歳の女子児童に対して性行為に及んだ。

よって,少年は,保護者の正当な監督に服さず,正当な理由なく家庭に寄りつかず,その性格及び環境に照らして,将来,窃盗,埼玉県青少年健全育成条例違反等の罪を犯すおそれがある。

(法令の適用)

前記第1の事実について 刑法235条

前記第2の事実について 少年法3条1項3号イ,ロ

(処遇の理由)

1  本件は,高校2年生であった少年がコンビニエンスストアで万引きを行った事件(前記非行事実第1)及び両親の監督に服さず,家出や上記万引きを含む窃盗を繰り返し,児童相談所の一時保護所に入所した後も,他女児と性行為に及んだぐ犯の事件(同第2)である。

少年は,小学生のころから,校内で他人の物を盗んだり,家庭でも両親の財布や鞄から金品を持ち出すなどの問題行動を行い,中学生になってからは万引きを繰り返すようになった。中学2年生の時(平成16年8月)には,児童自立支援施設に入所したが,入所後も,万引きが止むことはなく,無断外出も度々行った。高校1年生の終わりころ(平成19年3月),再度,施設から親元に返されることになったが,その後も,家出を重ね,万引きも収まらなかった。

これまでの間,両親は,少年を厳しく叱ったり,児童相談所に相談をし,同所も交えて対処するなどしてきたが,上記のとおり少年の問題行動が改善することはなかった。むしろ,両親と少年との溝はより深まり,最近では,少年は,親元を離れ独りで生活したいとの欲求を抱くようになり,両親の監督に服す意思もほとんどみられなくなった。さらに,一時保護所に入所中には,女子児童と性交渉に及び,周囲の枠組みやルールからの逸脱の程度も大きくなっており,こうした枠組みやルールを遵守しようとする意識も希薄になっている。

以上を踏まえると,少年は,窃盗等に対する抵抗感が極めて乏しく,犯罪傾向が高まっており,両親の監督にも服する意思もほぼ皆無であって,少年のぐ犯性は大きいというべきである。

2  少年の家庭環境についてみると,少年は,幼少のころ実父母が離婚し,3歳のときに実父が再婚して,以来,実父と継母に育てられてきた。しかしながら,前記のとおり,少年が幼いころから問題行動を繰り返し,その度に少年が嘘や言い訳をしてきたこともあって,両親は,少年との間に信頼関係を築けずにおり,特に,継母は,少年を叱るたびに少年と喧嘩になることが多く,一向に改善しない少年の行動により,精神的にも疲弊している状況にある。

それゆえ,家庭による少年の監護機能にはもはや限界がある。

3  鑑別結果によれば,少年の問題性について,目先の欲求充足を図ることに終始しやすく,他者への配慮や先の見通しが持てず,行き当たりばったりの行動になりやすい,対人不信感が強く,受容・拒否に敏感であり,見下されたり,拒絶されることへの恐れや,人付き合いへの苦手意識が強い,相手の立場や気持ちを考えることができず,わがままの度が過ぎやすく,周囲に受け入れられなくなると怒りをあらわにしたり,高圧的な態度に出やすい,などとされている。

4  以上を総合すると,少年が抱える窃盗等の犯罪傾向は高く,少年の資質上の問題性についてみても,社会適応能力の欠如は顕著であるといえる。しかも,両親の監護能力はほとんど期待できず,児童相談所を含めた社会内処遇ではもはや限界も見られ,このままでは,将来,犯罪行為に至る可能性は大きいものといえる。

したがって,少年の更生のためには,施設内で,自己の問題性と向き合わせ,社会適応力を身に付けさせるとともに,両親との関係についても整理させる必要があると思料する。

よって,少年法24条1項3号,少年審判規則37条1項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 冨澤幸弘)

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