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さいたま家庭裁判所 平成20年(家ロ)1012号 審判 2008年4月03日

申立人

A

相手方

B

未成年者

C

主文

相手方は,申立人に対し,当庁平成20年(家)第○○○○○号子の引渡し申立事件の審判確定に至るまで,未成年者を仮に引き渡せ。

理由

1  申立ての趣旨

主文と同旨

2  本件の事実関係

本件記録及び本案審判申立事件の記録によれば,次の事実が一応認められる。

(1)  申立人は,フィリピン国籍の女性で,平成5年ころから日本に在留している。申立人とD(昭和×年×月×日生)は,平成×年×月×日に婚姻し,長男E(同年×月×日生)をもうけたが,平成17年×月×日,Eの親権者をDと定めて協議離婚した。

相手方は,○○県内で○○や○○,○○を営む有限会社○○を経営している。昭和63年×月×日,妻F(昭和×年×月×日生)と婚姻し,肩書住所に妻及び相手方の実母(昭和×年生)と居住している。

未成年者(平成×年×月×日生)は,申立人と相手方との間の子であり,相手方は,同年×月×日,未成年者を胎児認知している。なお,未成年者については,平成18年3月×日,嫡出子否認の審判が確定している。

(2)  申立人は,平成15年ころに,勤務先のスナックに来店した相手方と知り合い,平成16年ころから交際を始め,妊娠した。申立人も相手方も婚姻していた身であったが,相手方が申立人に対する経済的な援助を約束したので,申立人は出産を決意し,平成×年×月×日,日本で未成年者を出産した。

相手方は,経営する会社の従業員の名義でアパートを借り,申立人と未成年者を住まわせていた。相手方はアパートの家賃は支払っていたものの,生活費の援助は不十分であったので,平成18年5月ころ,申立人は,相手方と相談した結果,未成年者をフィリピンに住む申立人の家族らに預けた。

申立人は,平成19年3月に未成年者を呼び寄せ,一緒に暮らすようになった。申立人の姉がフィリピンから来日し,申立人が働く夜間は,未成年者の世話をしてくれた。相手方は,時々申立人のアパートを訪ね,未成年者と遊んだり,申立人に頼まれて,未成年者を小児科に連れていったりした。

(3)  平成19年12月暮れころ,申立人が旅行に行った際,相手方が申立人の男性関係を疑ったことなどから,申立人と相手方が険悪な関係になった。相手方は,申立人との関係や未成年者の存在について,それまでは妻に秘していたが,初めて事情を話した。平成20年1月×日,相手方は,申立人に対し,「妻に関係をすべて話した。妻がCの面倒を見ると言っている。」と連絡し,未成年者を自ら養育する意向を示したが,申立人は,同意しなかった。

同月×日,申立人が夜間仕事に出かけた後,申立人の姉が未成年者を入浴させている最中に,相手方が申立人のアパートに来て,髪も濡れたままの未成年者を毛布でくるんで連れ出した。申立人が姉から連絡を受け,相手方にすぐに抗議したところ,相手方は,同居している相手方の実母の具合が悪いため,実母に未成年者を会わせたいと説明したが,申立人は信用しなかった。未成年者は,1,2時間後に申立人の下に戻された。

(4)  申立人は,Dとの間にもうけた長男Eとも同居して世話をしていたので,Eや未成年者の養育のことで,Dの援助を求めることができた。

同年2月×日,相手方は,Dに頼んで,未成年者をかかりつけの小児科である○○市の○○クリニックに連れて行ってもらった。風邪だと言われて薬をもらった。

同月×日,申立人は,未成年者の薬がなくなったので,連休に入る前にDに○○クリニックに連れて行ってもらおうとしたところ,Dに断られたため,相手方に連絡して車を出してもらい,同クリニックに連れて行ってもらった。相手方は,同クリニックから戻ると,「Cの病気は半端じゃない。ストレス性障害で,急に悪くなったりする。」等と言っていた。相手方は,未成年者を引き取ると申し出たが,申立人は同意せず,未成年者の養育等を巡って口論になった。

同月×日,相手方が申立人のアパートに来て,未成年者の症状が思わしくないので,自分の従姉妹が看護師だから,そこでしばらく治療させること,Cが元気になるまで預かることなどを告げた。申立人は,相手方の話を聞いて心配になり,未成年者の衣類などを持たせて,相手方に未成年者を預けた。

(5)  ところが,その後まもなく,相手方に電話連絡が取れなくなった。心配した申立人は,同月×日,○○クリニックに問い合わせたところ,同クリニックでは,未成年者にストレス性障害等の診断はしていないと説明された。同月×日に相手方が未成年者の診断書を取っていたが,同診断書の記載では,同月×日午後0時45分受診時の病名は咽頭炎のみであった。

同月×日,申立人が相手方宅に赴くと,相手方の妻と実母のみが応対し,「Cちゃんはここにはいない。」と言った。その後も申立人は相手方宅に行ったが,未成年者に会わせてもらうこともできなかった。

(6)  相手方は,未成年者を自宅に連れ帰った後,相手方と妻とで未成年者の世話をしている。相手方の妻も有限会社○○の仕事に就いている。相手方の実母は,癌の手術を受けた後通院中である。

未成年者は,同月×日,□□市の○○小児病院で急性胃腸炎の診断を受け,同日から内服治療が開始された。整腸剤,抗不安剤等が処方されている。

(7)  申立人の姉は,3月×日にフィリピンに帰国した。申立人は,3月×日で勤務先のパブを退職したので,夜間も未成年者を監護養育することができる状態である。今後は日中働けるところに就職したい意向である。

申立人の前夫であるDは,Eと未成年者が兄妹としていっしょに暮らせるように,物心両面の援助をしていく意向である。

(8)  相手方は,3月×日,当庁に親権者指定の調停を申し立て(平成20年(家イ)第○○○号),自己が未成年者の親権者になることを希望している。

3  判断

前記疎明にかかる事実関係を基に検討する。

(1)  相手方は未成年者を認知しているが,未成年者の親権者は母である申立人である。そして,申立人は,未成年者の養育が困難になり,一時期母国の家族に未成年者の養育を託したことはあったものの,それ以外は,自らあるいは姉の助けを受けて,未成年者を監護養育してきたものと認められる。

親権者である申立人の監護状況が劣悪で,その監護状況から緊急に離脱させる必要があるなど,子の福祉に反することが明らかな特段の事情がある場合を除いては,親権者である申立人が未成年者を監護養育することが相当であって,上記のような特段の事情があるか否かを検討する。

(2)  相手方は,申立人の下では未成年者が健康を維持できないと主張するが,申立人が監護していた2月×日までの間に,未成年者が重篤な病気に罹患していたことを窺わせる資料はなく,小児科の診察を受けさせ,薬を飲ませるなど適切な対応をしていたことが窺われるのであって,申立人が未成年者の健康面での配慮を欠いていたものとはいえず,養育態度,監護能力に格別問題とすべき点は認められない。

また,相手方は,申立人には経済力もないうえ,兄のEと同居しているために,申立人の前夫が出入りするという好ましい環境ではないこと等を問題点として指摘するが,仮に申立人の経済力が未成年者を養育するのに不十分であれば,未成年者の実父である相手方が養育費を負担すること等によって補うことは可能であり,経済的事情を重視することはできない。申立人の前夫の存在が,養育環境として問題があることを窺わせる資料もない。

(3)  相手方は,申立人とのやり取りから,申立人が未成年者を相手方において養育することを認めていないのを承知のうえで,未成年者を通院させたことをきっかけとして,未成年者の症状が重篤であるかのように説明し,親類の看護師の者に面倒を見させるなどという口実を申し述べて,申立人から未成年者の引渡しを受けたものである。

未成年者は,2月×日には,急性胃腸炎に罹患し,整腸剤や抗不安剤等が処方されているが,これは,相手方の下で暮らすようになって10日程度が経過した後のことである。それまで住んだこともない相手方宅において,申立人や兄E,申立人の姉とも一切引き離された状況で,2歳の未成年者が心身の安定を崩していったものと推察されるところである。

仮に,現在,未成年者が相手方の監護の下で小康状態を保って過ごしているとしても,相手方は,申立人の親権を侵害した違法状態を継続しているものであって,安定した現状を主張することは許されるものではない。

(4)  前記3(2),(3)のとおり,申立人が未成年者を監護することが未成年者の福祉に明らかに反するような事情は認められないから,未成年者は,速やかに親権者である申立人の監護の下に戻されるべきものであって,本案申立て認容の蓋然性は高いということができる。

また,未成年者の急迫の危険を防止するために,相手方から申立人に未成年者の引渡しが実現されなければならないところ,本案審判の確定までには相当な日数を要することがあるから,審判の告知によって即時執行力が生じる保全処分の必要性があると認められる。

(5)  以上の次第で,本件申立ては理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり審判する。

(家事審判官 生島恭子)

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