さいたま家庭裁判所川越支部 平成23年(家)696号 審判 2012年4月26日
主文
一 未成年者らの監護者を申立人と指定する。
二 相手方は、申立人に対し、未成年者らを引き渡せ。
理由
第一事案の概要
一 申立ての趣旨
主文同旨
二 申立人の主張の要旨
(1) 申立人と相手方とは、平成一〇年六月一日婚姻し、未成年者らをもうけたが、平成二二年五月五日、申立人が未成年者らを連れて茨城県石岡市の両親の下に別居した。申立人と未成年者らは、石岡市で安定した生活を送っていたが、相手方は、申立人に面会交流の約束を取り付け、平成二三年八月七日、石岡市の申立人の住所地に両親・親戚を連れて来訪し、実力的に未成年者を奪取した。
(2)~(4) <省略>
三 相手方の主張の要旨
(1) 申立人は、平成二二年五月五日、引越の作業中に、相手方に無断で別居を強行し、その際、未成年者らを連れ去ったが、この連れ去りは違法評価されるべきである。
(2)~(5) <省略>
第二当裁判所の判断
一 一件記録によれば、次の事実が認められる。
(1) 申立人と相手方とは、平成一〇年六月一日婚姻し、川越市内の相手方の実家に近いアパートで生活を始め、平成一四年○月○日に長男を、平成一八年○月○日に二男をもうけた。申立人らは、平成一九年七月、相手方の実家が増築した二世帯住宅に転居し、相手方の父母の家族(父母と二姉)と同じ建物に暮らすようになった。
(2) 申立人は、相手方の親族と折り合いがうまくいかず、近くのアパートに申立人ら家族が転居することとなり、平成二二年五月五日、引越作業を始めたが、申立人は、相手方に何ら相談することなく、未成年者らを連れて、茨城県石岡市<以下省略>の両親の家に転居した。長男は、石岡市<以下省略>の小学校(二年)に転校し、二男は、同所の幼稚園に通うようになった。申立人は、同年九月ころから、石岡市内の工場で働きはじめた。
(3) 申立人は、平成二二年七月ころ、当庁に婚姻費用の分担を求める調停申立てをし、同年一二月一七日、相手方が月額七万円の婚姻費用を申立人に支払う旨の調停が成立した。相手方は、平成二三年、水戸家庭裁判所土浦支部に離婚を求める調停申立てをし、同年五月一七日、第一回調停期日、同年六月一二日、第二回期日が開かれたが、未成年者らの親権をめぐって対立し、相手方は、指定されていた同年八月二日の調停期日前の同年七月二七日、同調停を取り下げた。
(4) 相手方は、別居以後、未成年者との面会交流を、平成二二年六月二七日、同年八月八日、平成二三年四月一〇日、同年五月三日、同年六月二六日に行った(申立人によれば、平成二二年中には上記のほかに面会交流を実施したというが、相手方はこれを否定している。)。
(5) 平成二三年八月七日は面会交流の予定の日であったが、相手方は、未成年者らを川越の自宅に連れ帰ることを計画して両親や親戚に協力を依頼し、車三台で申立人の両親宅に赴き、申立人やその父の抵抗を排除して、未成年者らを無理矢理車に乗せて連れ去った。
(6) 申立人は、平成二三年八月二六日、本件申立てをした。また、申立人は、未成年者らにつき、子の監護者を申立人と仮に定め、子の引渡しを求める審判前の保全処分の申立てをし、当裁判所は、同申立てにつき、同年九月二八日、未成年者らにつき、子の監護者を申立人と仮に定め、相手方に対し、未成年者らを相手方に引き渡すことを命ずる保全処分をした。申立人は、執行官に対し、上記引渡しの執行申立てをし、同年一〇月一三日、その執行手続が行われたが、長男が執行官に対して川越から出たくない旨を述べたことから、執行手続は不能として終了した。なお、申立人は、本件申立てに先立ち、未成年者らを被拘束者、相手方を拘束者として、さいたま地方裁判所川越支部に人身保護請求をしたが、後に同請求を取り下げた。
(7) 申立人は、現在、石岡市の実家で生活しており、年金生活の父が同居している。申立人の母は、平成二二年一〇月一〇日、脳幹出血で石岡循環器科脳神経科病院に緊急入院し、その後、水戸市内の病院に転院し、気管切開と胃瘻造設の手術が行われた。
申立人は、地元の工場でパートタイムの勤務(午前八時二〇分から午後五時二〇分までの勤務、土日休業)をし、月額手取り一一から一二万円の給与を得ている。なお、前記のとおり、婚姻費用の調停条項に基づき、相手方から月額七万円の婚姻費用の支払がされている。
申立人の実家は六LDKの間取りがあり、居住スペースとしては十分なものがある。長男が通学していた小学校は、実家から車で登校班の集合場所まで送る必要があり、二男が通っていた幼稚園も送迎バスの停留所まで車で送る必要がある。
申立人の健康状態に特に問題はない。
(8) 相手方は、現在、肩書住所地の二世帯住宅の二階に未成年者らと生活している。一階には、両親及び姉(四五歳。腎臓病のため働いていないが、家庭での軽作業はできる。)が生活している。
相手方は、高校卒業後、家業である株式会社a(土木・建設業)で働き、現在、父とともに同社の代表取締役を務めている。相手方の平成二二年中の給与(役員報酬)は、四五九万円である。相手方は、調停で合意した月額七万円の婚姻費用の支払を継続している。
相手方の住居は、相手方使用部分の二階は四室あり、居住スペースとしては十分である。
相手方は、Ⅰ型糖尿病のため通院し、一日四回のインシュリン注射をしているが、日常生活に制限はない。
(9) 申立人と相手方が同居していた当時における未成年者らの主たる監護者は申立人であった。申立人は、高校卒業後、信用組合に勤務していたが、結婚を機に退職し、その後専業主婦となった。相手方は、会社勤務があり、未成年者の監護は補助的となっていた。
(10) 申立人は、相手方の実家近くのアパートでの生活、二世帯住宅での生活を通じ、相手方の両親を含めた親族との折り合いが悪く、未成年者が相手方両親等になつくことを快く思わず、川越での生活に不満を抱き続けていた。申立人は、元の勤務先の上司と不貞関係を継続していたが、同人に対しても、川越での生活の不満を訴えていた。なお、相手方は、申立人と別居した後、申立人が残していた日記や携帯電話のメールから不貞の事実を初めて知った。
(11) 長男は、現在、川越市立b小学校の四年に在学している。喘息を患っていたが、最近は発作を起こすことはない。
二男は、現在、c幼稚園に通っている。生後一一か月のころ、腸重積で手術を受け、また、喘息気味であったことはあるが、現在、特に健康上の問題はない。
監護者指定に関する未成年者らの意向については、後に詳しく検討する。
二 子の監護者の指定について検討する。
(1) 本件は、申立人及び相手方が離婚して親権者が指定されるか、申立人と相手方との別居が解消され、共同監護ができるようになるまでの間の未成年者らの監護をすべき者を定めるものである。この場合、裁判所は、子の利益を最も優先して考慮しなければならない
(2)~(7) <省略>
(8) 監護の継続性という視点に立った場合、未成年者らが川越で出生し、平成二二年五月まで、相手方の親族が回りにいる中で成長してきたものであり、現時点においても、川越に生活をしていることを考慮しなければならない。しかし、主たる監護者である申立人の下で継続的に養育され、石岡市での生活も平成二二年五月から平成二三年八月まで続き、安定していたことに照らすと、父である相手方よりも母である申立人の監護の継続性を優先させることが子の福祉に適うものとするのが相当である。特に、現在の状態は、相手方の違法な未成年者らの連れ去りによって作出されたものであり、当裁判所による審判前の保全処分が発令されたことに照らしても(保全処分の執行が不能と終わったことについて、相手方の妨害があったわけではない。)、未成年者が現在川越で生活していることを重視することはできない。
(9) 以上検討したところを総合勘案すると、当裁判所としては、未成年者らの監護者は、申立人と定めるのが相当と判断する。
三 上記のとおり、未成年者らの監護者として申立人を指定したのであるから、現在相手方の下にある未成年者は、申立人に引き渡されなければならない。
第三結論
よって、未成年者らの監護者を申立人と指定し、相手方に対し、未成年者らを申立人に引き渡すことを命ずることとし、主文のとおり審判する。
(家事審判官 浅香紀久雄)