さいたま家庭裁判所熊谷支部 平成20年(少)520号 決定 2008年8月15日
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は,金品窃取の目的で,平成20年7月11日午前10時30分ころ,埼玉県○○郡○○町□□□□××××番地所在のB方に無施錠の掃き出し窓から忍び込んで侵入し,同人ほか4名所有に係る現金43万2780円及び財布2個ほか17点(時価合計約1万3700円相当)窃取したものである。
(適用した法令)
住居侵入の点につき刑法130条前段,窃盗の点につき同法235条
(処遇の理由)
本件は,少年院を仮退院中の少年が敢行した住居侵入・窃盗の事案である。
少年は,友人らとの遊び金欲しさから他人に与える不安感や経済的な痛みを全く顧みることなく本件非行に及んでいる。また,少年は,犯行に使用するドライバーなどを準備した上,白昼,犯行に及んでおり,その犯行は計画的で大胆なものであり,被害額も多額である。したがって,少年の責任は重大である。
少年の非行歴等をみると,少年は,中学1年生のころから触法(窃盗等)行為を繰り返して児童通告され,平成17年4月には触法(窃盗)行為により児童自立支援施設送致決定を受けて○○学園に,同年10月には同施設を無断外出中に敢行した触法(建造物侵入・窃盗未遂)行為により初等少年院送致決定を受けて赤城少年院にそれぞれ収容された。さらに,平成19年3月には赤城少年院を仮退院した後1か月余りのうちに敢行した住居侵入,窃盗の非行により再び初等少年院送致決定を受け,水府学院に収容されている。上記触法行為や非行のほとんどが侵入盗であり,本件も,水府学院を平成20年5月23日に仮退院した1か月余り後に敢行した侵入盗であって,常習的な非行といえる。
他方,少年の保護環境等をみると,少年の父親は,少年の母親が家出して失踪し,少年の養育が困難になったことから,少年が5歳の時から小学校を卒業するまで少年を児童養護施設に預け,その後,少年を引き取り,少年が赤城少年院,水府学院をそれぞれ仮退院した際にも少年を引き取っているものの,仕事に追われて少年との情緒的な交流がほとんど図られないまま,少年が外出することを厳しく制限し,少年が仕事をすることも許さないなどの指導を行った。そのため,少年は,表面上はその指導に従う姿勢を示しながら,内心では不満,不信を募らせて反発するようになり,当審判においても,父親とは離れて生活したい旨などを述べており,父親に対する不満,不信は根強い。
このような少年の非行歴,保護環境等に照らすと,少年の問題行動の背景には少年の生育歴に根ざした強い不遇感,孤立感があり,少年は,その充足を交友関係に求め,その交友関係を維持するために遊び金目的で非行に及んでいる。さらに,少年は仕事に就けないことで社会不適応感を抱いており,少年にとって達成感や充実感を得られる侵入盗が社会不適応感を緩和する手段ともなっている。
したがって,少年の改善更生を期するには,遵法精神を涵養することはもちろんのこと,親子関係の改善と健全な社会生活を営む上で必要な知識,技術の習得を図る必要がある。
しかしながら,少年には他罰的な性向があり,調査段階においてもなお,本件非行の原因が父親の指導方法にあるとの態度を示しており,当審判において,ようやく自己の問題点を指摘するようにはなったものの,その内省は始まったばかりで深まってはいない。一方,少年の父親は,引き続き少年を引き受けて指導することに不安を感じつつも,従前の指導方針に固執する態度を示しており,少年に対する指導監督の方法が大きく改善することは望めない。
以上で述べた諸事情を考慮すると,在宅処遇によって少年の改善更生を図ることは困難というほかない。
そうすると,他方,少年が水府学院を仮退院した後に敢行した本件以外の余罪については立件されていないこと,少年には勤労意欲があるにもかかわらず,水府学院を仮退院した後,就労生活を通して改善更生する機会を得ることができなかったこと,少年を矯正施設に収容することによって,かえって親子関係が希薄になるおそれのあることなどの事情を最大限に考慮しても,少年を再度,矯正施設に収容することはやむを得ないと判断した。
よって,少年法24条1項3号,少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院に送致することとし,主文のとおり決定する。
(裁判官 横山真通)