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さいたま家庭裁判所熊谷支部 平成21年(少)604号 決定 2009年10月28日

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は,法定の除外事由がないのに,平成21年7月25日ころ,○○市××区○×丁目△△番××コインパーキングに駐車中の自動車内において,覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を吸引し,もって覚せい剤を使用したものである。

(法令の適用)

覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条

(処遇の理由)

1  本件は,少年が,クラブでナンパしてきた男2人から覚せい剤を勧められ,使用したという覚せい剤取締法違反の事案である。少年は,男2人に囲まれ,覚せい剤を使用しなければいけない雰囲気だったので,気は進まなかったものの覚せい剤を使用した旨供述する。しかし,いくら気が進まなかったとはいえ,その場をしのぐために安易に覚せい剤を使用したもので,その動機に酌むべき余地は非常に乏しいというべきである。

少年は,本件非行後,無銭飲食をして警察に保護され,児童相談所の一時保護所に入った。ところが,少年は一時保護所を逃げ出して自宅に戻った上,自宅からも家出して,交際相手とともに漫画喫茶などを転々とする生活を続けた。覚せい剤取締法違反で逮捕状が出たと知った後も,半月以上警察に出頭せず,その間,交際相手と沖縄旅行までしたというのであって,自らの非行を軽視する態度が顕著である。少年の責任は重い。

2  少年は,中学1年生時から,遅刻や欠席が目立って増え,喫煙や深夜はいかいで補導されることを繰り返すようになった。中学2,3年時は不登校に近い状態となり,定時制高校に進学するも,ほとんど学校に行くことなく半年もたたないうちに中退した。本件非行時は,家族と衝突すると,交際相手を頼って家出を繰り返す生活をしていた。

少年は,中学1年生時から学校にきちんと通っていないため,同世代の親しい友人がいない。家族に対しても,愛着は持っているものの,衝突すれば家出をするなどして逃げ出してしまう。甘やかしてくれる年上の男性に依存するばかりで,健全な人間関係が築けていない。また,中学1年生時からクラブに出入りし,夜型の生活をするなど,規則正しい生活習慣も身につけてこなかった。長い間,社会の枠組みに従わない生活を継続してきたため,本来ならば養われるべき健全な規範意識にも乏しい。少年は,嫌なことからは逃げだし,その場の楽しみを求めて不安定な生活を続けるなかで,本件非行に至ったもので,少年の抱える問題は大きい。

3  少年の両親は,少年が中学1年生の時に離婚しており,少年は父親とともに生活している。父親は,少年が家出などを繰り返すことに悩み,児童相談所に相談に行ったりもしているが,少年の問題行動がやまないため,指導に限界を感じている。父親は少年に対して一方的に怒るばかりで,少年とのコミュニケーションが十分にとれていない。このような保護者の状況に加え,家出を繰り返すなど,少年が父親の監護に従わない生活を続けてきたことなども併せ考えると,現時点では,少年の周囲に少年を適切に監護しうる者はいないといわざるを得ない。

4  以上の事情からすれば,少年が規則正しい生活習慣を身につけ,社会に適応した生活をする力を養うためには,少年を少年院に送致し,その資質,性格に応じた矯正教育を受けさせることが必要かつ相当である。

ただし,少年が今回初めて観護措置をとられ,少年なりに内省を深めたことなどからすれば,それは短期集中的なもので足りると考えられるので,別途その旨の処遇勧告を付することとする。

5  よって,少年法24条1項3号,少年審判規則37条1項を適用して,主文のとおり決定する。

処遇勧告書省略

再抗告審(最高(三小)平21(し)529号 平21.12.11決定棄却)

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