さいたま家庭裁判所熊谷支部 平成22年(少)654号 決定 2010年9月10日
少年
A (平成7.○.○生)
主文
1 平成22年(少)第654号恐喝,傷害保護事件について
少年を児童自立支援施設に送致する。
2 平成22年(少)第730号強制的措置許可申請事件について
本件を埼玉県××児童相談所長に送致する。
少年に対し,平成22年9月16日から1年7か月の間に,通算して90日を限度として,強制的措置をとることができる。
理由
第1平成22年(少)第654号恐喝,傷害保護事件について
(非行事実)
少年は,B(当時13歳)と共謀の上,平成22年7月11日午後8時15分ころから同日午後9時ころまでの間,埼玉県a市<以下省略>b月極駐車場内において,C(当時13歳),D(当時14歳)及びE(当時14歳)に対して因縁を付け,少年が,前記Dの顔面を手拳で1回殴打するなどの暴行を加え,前記Bが,前記Cの肩をつかんで押し倒すなどの暴行を加え,更にその暴行により前記Cらが怖がっていることに乗じ,同人らから金員を脅し取ろうと考え,「お前ら金出せよ。金出さないとまたやるぞ。」などと鋭い口調で言って金員を要求し,もしその要求に応じなければ同人らの身体にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示して怖がらせ,よって,そのころ,同所において,前記Cから現金1500円,前記Dから現金2000円,前記Eから現金2000円の各交付を受けてこれを脅し取り,その際,前記暴行により,前記Cに対して全治5日間の右前腕打撲,両下肢打撲擦過傷,前記Dに対して全治8日間の顔面挫創の各傷害を負わせたものである。
(法令の適用)
<省略>
(処遇の理由)
1 本件は,少年が,1歳年下の共犯少年と共謀の上,初対面の被害者3名に対して因縁を付け,そのうち2名に対して暴行を加えて傷害を負わせるとともに,被害者3名からそれぞれ現金を脅し取ったという傷害,恐喝の事案である。
2 本件非行は,少年らが,何の落ち度もない被害者に対して一方的かつ執ように暴行を加えた上,現金を脅し取ったというものであり,その態様は悪質である。少年は,本件非行の動機について,被害者のうち1名と電話で話した際にその言葉遣いや態度が気に入らなかったからであるとか,精神安定薬が飲めなかったことなどが原因でムシャクシャしていたからであるなどと供述するが,このような動機は自己中心的で短絡的というよりほかなく,格別酌むべき点はない。また,被害者3名は,本件非行によって精神的・肉体的に大きな苦痛を受けており,厳しい処罰感情を示している。ところが,少年は,被害者に対して,謝罪や弁償を一切行っていない。
これらの点に照らすと,少年が,本件審判において少年なりの反省の言葉を述べていることを考慮しても,本件非行を軽くみることはできない。
3 少年の生育歴や本件非行に至った経過についてみると,少年は,小学校高学年のころから万引きをするようになり,中学校入学後は援助交際やガス吸引をするなど,問題行動がみられていたが,平成21年夏ころからは,家出をして当時の交際相手の家で寝泊まりするようになったり,学校で暴れるなど,生活全般が大きく乱れるようになった。少年は,平成22年4月には交際相手の家を出て自宅に戻ったものの,その後も,児童相談所の一時保護を繰り返し受けるなど,安定した生活を続けることができないまま本件非行に至っている。
4 このように,少年が問題行動を重ね,本件非行に至った背景については,少年調査票及び鑑別結果通知書において指摘されているとおり,不安定な養育環境で育ってきたことに起因する問題が大きいと考えられる。すなわち,少年は,出生直後に実父母が離婚したため,その後は実母と養父の下で生活してきたのであるが,保育園児のころに父親が実父ではないことを聞かされたことや,異父弟だけが実母と養父の愛情を受けて自分が疎外されているように感じたことなどから,安心感や受容感が満たされないまま,長期間にわたって寂しい思いを抱いて育ってきた。そのために,少年は,愛情や信頼に基づいた相互的で安定した対人関係を築くことができず,些細なことで感情のコントロールを失って衝動的な行動をしがちである。また,自尊感情が低く,自分を大切にすることができないため,投げやりな言動をとることも多い。本件非行は,このような少年の問題点が顕在化したものと考えられる。
したがって,少年の立ち直りのためには,これらの問題点の改善を図ることが必要不可欠であるが,少年の保護者である実母は,これまで少年に対して十分な養育をしてきたとはいい難く,少年が本件の約3か月前から繰り返し児童相談所の一時保護を受けた際にも,少年の引き取りについて消極的な姿勢に終始した。また,実母は,本件調査の際にも,少年のことで時間を取られたくないという態度を示しており,本件審判にも出席しなかった。これらの点に照らすと,少年を家庭に戻しても,前記のような問題点が改善される見込みは極めて低いといわざるを得ない。
以上によれば,少年については,児童自立支援施設に送致し,家庭的で安心感の得られる環境に置いた上で,寮父母や他生との関わりの中で,情緒面での成長を促しつつ,前記のような問題点について自ら気付かせ,改善を図ることが最もふさわしいといえる。
5 よって,少年法24条1項2号を適用して,主文第1項のとおり決定する。
第2平成22年(少)第730号強制的措置許可申請事件について
(申請の要旨)
少年は,平成22年4月に母親とけんかをした際に包丁を突き付けたために児童相談所に一時保護され,同年6月には家庭に引き取られた。ところが,少年は,その後も深夜はいかいや家出を繰り返して一時保護を繰り返し,三度目の一時保護の際には,入所後わずか1週間で保護所から無断外出した。また,少年は,平成21年夏ころから,当時交際していた男児宅への無断外泊を繰り返すようになったが,同男児から繰り返しデートDVを受けてきたことや,父親が実父ではないことを幼少期から聞かされて育ったことなどが原因で,精神的にも不安定であり,現在は精神科の服薬を必要としている。
したがって,少年には,児童自立支援施設における指導を受けさせる必要があるが,前記のように,これまで家出や無断外泊・外出を繰り返しており,施設から無断で外出するおそれがある。また,精神的な不安定さから,施設での指導が十分に入らないおそれもある。したがって,少年に対しては,1年7か月の間に通算90日の強制的措置が必要である。
(当裁判所の判断)
1 少年は,本件調査及び審判において,一時保護の際に保護所から無断外出したのは児童自立支援施設に入所する話が出たからであり,施設には絶対に入りたくない旨繰り返し述べている。このような少年の言動に加えて,少年調査票,鑑別結果通知書及び埼玉県××児童相談所長作成の回答書において指摘されている少年のこれまでの言動等を併せ考えると,現時点では,少年を児童自立支援施設に送致しても,少年が同施設から逃走するなどの規律違反行為に及ぶおそれが大きく,開放的処遇のみによっては同施設における教育の目的を達成することができない事態が生じる可能性が高い。したがって,児童自立支援施設における教育の効果を上げるためには,場合によっては,少年に対してその自由を制限する強制的措置をとる必要があると認められる。
そして,少年が入所する予定となっている児童自立支援施設では,少年に対して最長で約1年7か月間の処遇計画を用意していること,少年が同施設に入所できるのが平成22年9月16日になる見込みであることなどを考慮すると,強制的措置をとることができる期間としては,同日から1年7か月の間に,通算して90日を限度とすることが相当である。
2 よって,少年法23条1項,18条2項,少年審判規則23条を適用して,主文第2項のとおり決定する。
(裁判官 伊澤大介)