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下関簡易裁判所 昭和36年(る)142号 判決 1961年7月25日

被告人 中丸正

決  定

(被告人氏名略)

右の者に対する傷害被告事件につき、当裁判所が昭和三十六年六月二十八日に発した略式命令に対して、同人より昭和三十六年七月二十日正式裁判請求権回復の請求並に正式裁判の申立が当裁判所になされたので、次のとおり決定する。

主文

本件正式裁判請求権回復の請求並に正式裁判の申立はいずれもこれを棄却する。

理由

本件各申立の要旨は、『申立人は、昭和三十六年七月一日、下関簡易裁判所より、同裁判所同年(い)第三四三七号傷害被告事件に関する略式命令により、「被告人(申立人)を罰金一万五千円に処する。右罰金を完納することができない場合は、金二百五十円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。」との裁判の告知を受けた者であるが、申立人は本年三月頃より山仕事のために住居を離れて入山しており、時々家に帰ると云う生活を余儀なくされていたところ、右裁判の告知を受けた当日は、申立人が留守中のため、長女美智子(当二十二才)が特別送達郵便による略式命令書の送達を受領したのであるが、同人は裁判所からの重要な書類であるというので開封せず、これを二階の書類タンスの抽斗中に保管し、その後、申立人に対して右命令書を手渡すことを失念していた結果、申立人は同人より漸く右命令書を昭和三十六年七月十八日に至つて手渡されたもので、その時既に正式裁判申立のための法定の期間を経過していたのであるが、このような次第で、申立人が正式裁判の申立を期間内にできなかつたのは申立人の責に帰することのできない事由によるものであるから、ここにその事由を疎明して正式裁判請求権回復の請求並に正式裁判の申立をする。』と云うのである。

そこで検討するに、

本件の申立人が当裁判所昭和三六年(い)第三四三七号傷害被告事件の略式命令により、申立人主張の内容の命令を同年六月二十八日に受け、該略式命令書は同年七月一日申立人の住居で申立人の長女美智子(当二十二年)が特別送達の方式による郵便物としてこれを受領している事実は当裁判所昭和三六年(い)第三四三七号略式命令書、豊浦郵便局集配員作成の郵便送達報告書、中丸美智子作成の事実証明書を綜合してこれを認定することができるところ、以上の認定事実に照すと、申立人は適法な送達により前示の略式命令を昭和三六年七月一日に告知を受けていることが認められるから、右略式命令に対する正式裁判申立の期間は翌七月二日より進行し、同月十五日をもつてその期間が終了することが明らかであるが、申立人より右略式命令に対する正式裁判の申立がなされたのは昭和三十六年七月二十日であることは当裁判所に顕著なところ、これに対して、申立人は主張のように申立人の責に帰することのできない事由によつて法定の期間内に正式裁判の申立をすることができなかつたのであるから正式裁判請求権の回復を申立てる。と云うので、更に進んで、主張のような事由が刑事訴訟法第四百六十七条、第三百六十二条所定の事由に該当するか否かを審究することとする。

中丸美智子作成の事実証明書並に申立人本人審訊の結果によると、一応申立人が前示の略式命令書をその長女美智子(当二十二年)より手交されて初めてそのような略式命令が当裁判所より発せられている事実を知つたのであつて、その日が昭和三十六年七月十八日午后九時頃である事実、並に、そのように申立人に前示の略式命令書が遅れて手交されることになつたのは、送達を受領していた美智子がその事を失念していた結果によるものであることが一応疎明されるところ、申立人は、これは専ら長女美智子の過失であつて申立人の責に帰すべき事由でないと主張するが、申立人審訊の結果並に検察官作成の申立人に対する略式手続の告知手続書、申立人作成のこれに対する申述書、申立人の検察官に対する供述調書の記載等を綜合すると、本件の傷害被告事件については、申立人は昭和三十六年五月十一日頃より、その妻若くは長女美智子を介して捜査のために所轄警察署或いは下関区検察庁に再度ならず呼出を受けて出頭しており、殊に同年六月十七日には下関区検察庁の検察官より本件の傷害被告事件については、近く当裁判所より略式命令の方式に従つて裁判を受ける旨の予告を受け、その際、正式の手続による裁判を請求することもできる旨、正式手続と略式手続についての法律上の説明を受けてこれを了解していたものであることが認められるから、申立人にとつては当然、右の昭和三十六年六月十七日以後は近く本件の略式命令書が当裁判所より送達されてくることが予測できたのであり、仮に、申立人の留守中に本件のごとくその家族が命令書の送達を受領することがあるとしても、そのことのため、事前に、長女の美智子を含む家族の者に、申立人が先に検察庁で説明を受けたような前示の事項を予め了解させておくことにより、遅滞なく命令書が送達されたことを申立人に報告させ、法定の期間内に正式裁判の申立をするための方策を講ずることができたものと解するを相当とするところ、本件申立人が判示のような措置を講じていた事の疎明がないのみならず、反つて、申立人本人審訊の結果によると、長女の美智子を含む家族に対しては、申立人が検察庁で説明を受けた前示の事項については何等知らせていなかつたため、本件略式命令の送達を受領した長女美智子(当二十二年)は、その告知を受けた日より二週間の法定期間内に申立人がこれに対する諾否の態度を決して方策を講ずる必要のある書類であることを知ることができず、漫然と裁判所よりの重要な書類が送られてきたとのみ思つていたものであることが疎明されるから、本件の場合は、申立人がこれに対処できるように判示のような処置を講じておかなかつたことの過失に基くと解する他なく、申立人主張のような事由は結局刑事訴訟法第四百六十七条、第三百六十二条所定の「自己の責に帰することができない事由」には該当しないことが明らかである。

そこで、判示の次第により、申立人の本件正式裁判請求権回復の申立はその理由がないからこれを棄却すべく、従つて正式裁判の申立も又前示のとおり法定の期間を経過してなされたものとして同法第四百六十八条によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 山中孝茂)

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