中川簡易裁判所 事件番号不詳 決定
主文
一、被告は原告に対して名古屋市中村区広小路西通り三丁目十四番地上木造瓦葺二階建住宅階下店舗の内西北隅約五坪を本決定確定の日から一ケ月内に明渡すこと
二、参加人伊藤武三は被告が右期限に右店舗の一部を明渡すにつき自己の店舗(中村区広小路西通り三丁目十三番地)の東側(道路に面し間口約五尺奥行四間の個所)を仕切り被告に事務所として使用する目的で賃貸すること
但し、右仕切り、床張り、入口戸の取付等の費用は原告の負担とすること
三、右第二項の賃貸借の期間は向う五ケ年とし、賃料は壱ケ月金八百円と定め、毎月末日限り参加人方に持参して支払うこと
四、原告は被告が第一項の期限に右店舗を明渡した時は被告に対して金五千円を支払うこと
五、調停費用及び事件訴訟費用は各自弁のこと
理由
原告は本案訴訟に於て「被告は原告に対して主文掲記の店舗の一部を明渡すべし、訴訟費用は被告の費担とするとの判決と仮執行の宣言とを認め、その請求の原因として、原告は昭和二十年四月二十八日頃被告に右店舗の一部を事務所として一時使用の目的で賃料一ケ月金百六十円宛毎月末日限り支払うこと、期間は原告の忰参治が復員後営業を開始する節直に明渡す特約で賃貸したところ、忰参治は昭和二十一年六月一日復員し営業を開始したので同日右特約に基き被告に対し同年七月未日迄二ケ月の猶予期間を定めて右店舗の明渡を求めたが被告は右期限が経過しても応じないので之が明渡を求める。仮に右請求が理由ないとしても原告は自ら使用する必要がある為め被告に対し昭和二十二年一月名古屋区裁判所に調停を申立て右賃貸借契約の解約を申入れこの意思表示は遅くとも同月末日迄に被告に到達したから同年七月末日の経過と共に右賃貸借は終了したから被告に対し右店舗の明渡を求める。そして右解約申入の正当の理由として原告は被告の切なる懇請によつて忰参治が復員する迄の期間賃貸したところ、昭和二十一年六月一日右参治が復員し金庫、建具、日用雑貨商を開始したので被告の移転先をも考慮して数個所の候補地を幹旋したが何れも拒否され被告には全然誠意がないが原告は最後まで希望を捨てず莫大な出費を犠牲にしても直ぐ隣家の参加人伊藤武三方の店舗の一部を仕切つて被告に賃貸することを申出てたが被告は之をも肯じないものであつて原告の右解約申入は正当の理由があると述べた。
参加人は被告が右店舗の一部を明渡せば自己の店舗の一部を被告に貸与することを承諾して原告を補助する為め参加する旨申立てた。
被告は「原告の請求を棄却する」との判決を求め、答弁として被告が原告主張の日にその主張の店舗の一部を賃借したこと、原告が調停を申立てたことは認めるが、賃料は一ケ月金百円で、期間は定めがないし、原告主張の如き特約で一時使用の目的を以て賃借したものではない、又原告の忰が営業を開始したことは知らないと述べた。
そして証拠調に移り原告申請の証人石垣みき尾、谷田孝悦を訊問したところ原告の主張事実に照応する事実を証言したが当事者双方の希望もあつて調停によつて解決することが適当であるとして民事特別法により借地借家調停に付し期間を定めて調停委員会を開くこと七回に及びその間繋争家屋の現地に臨み調停を試み条理を尽して調停に努力したが遂に不調に帰したのである。
惟うに本件調停に於ては原告は終始誠意を以て解決に努力したことが認められるが、被告は金融業者にして頑迷にも自見を固持して譲らず理不尽な申立をして調停委員会の説得に耳を籍さず些かの誠意をも認められないので、当裁判所は当事者双方の利害を衝平に考慮し住家払底の折柄被告が直に移転するに適当な家屋なき現状に鑑み原告がその移転先を直ぐ隣家の参加人方店舗の一部を提供し被告の営業継続に支障なき様に努め、他方原告はその店舗を拡張して業務の発展を期することが双方の利益であると認め且又被告が移転するにつき費用の要ることを虞り原告に出捐を為さしめることが相当である事情を斟酌して調停委員の意見を聴きたる上調停に代えて主文の通り決定する。(昭和二三年七月三日中川簡易裁判所)