中津川簡易裁判所 昭和33年(ろ)26号 判決 1958年12月23日
被告人 田口嶋平 外五名
主文
被告人田口嶋平を罰金五千円に、同伊藤勇三、同田中喜代史、同安藤増俵、同前田菊蔵、同西尾正夫を各罰金参千円に処する。
右罰金を完納することができない被告人があるときは各金弐百円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。
各被告人に対し公職選挙法第二百五十二条第一項は適用しない。
訴訟費用中証人小坂初枝に支給した部分は全部被告人田口、西尾の連帯負担とし、証人水野幸洋に支給した部分以外の訴訟費用は全部被告人西尾以外の被告人等の連帯負担とする。
理由
(一) 事実
被告人等は、昭和三十三年四月十八日施行の岐阜県恵那市長選挙に立候補した松下辰造に投票を得しめる目的を以て、
第一、被告人田口嶋平、同西尾正夫の両名は共謀の上、別表(一)の通り、同月十五日頃の正午頃より同日午後三時頃までの間において、
第二、被告人田口嶋平、同伊藤勇三、同田中喜代史、同前田菊蔵、同安藤増俵の五名は共謀の上別表(二)の通り、同月十七日午前九時三十分頃より同日午前十一時頃までの間において
各住居を戸々に訪問して右候補者のために投票を依頼しもつて戸別訪問をなしたものである。
(二) 証拠の標目(略)
(三) 適条
判示の所為は公職選挙法第百三十八条第一項、第二百三十九条第一項第三号、刑法第六十条(被告人田口嶋平についてはこの外、刑法第四十五条、第四十八条、第十条)罰金等臨時措置法第二条第一項に該当するからその所定金額の範囲内において処断すべく、その罰金不完納の場合の労役場留置については刑法第十八条第一項によるべきところ、諸般の情状を考慮し各被告人に対し公職選挙法第二百五十二条第三項前段により選挙権及び被選挙権の停止をしないことを相当と認め、訴訟費用の負担については刑事訴訟法第百八十一条第一項本文、第百八十二条を適用することゝした。ところで判示第二の事実と同じ公訴事実中の恵那市長島町中野一、二〇四番地水野幸洋方の訪問については、被告人田中喜代史と安藤増俵の両名が水野幸洋夫婦が田の中で堆肥積みをしている附近の道路上から話しかけたこと、その場所が水野方住居から十三・七メートル離れている位置にあることが認められるものであつて被告人等が一旦水野方住宅を訪問し、屋内に不在のため附近の田にいる同人のところへ赴いたとすれば格別そのような事実もない本件においては、右田は水野方の所謂屋敷内に接続しているとはいえ同人方の範疇に入れることは戸別訪問の範囲を不当に拡大して解釈するおそれがあると認められるからこの部分は戸別訪問の罪に該当しない故無罪であるが前示判示第二の事実と包括一罪の関係にあるを以て特に主文においてこの部分につき無罪の言渡はしないことゝする。次に蛇足ながら被告人及び弁護人は訪問先が屋外又は道路である部分は戸別訪問にならない旨主張する点について検討すると、右選挙法にいう戸別訪問とは判示のごとき目的を以て選挙人方を戸別に訪問することによつて成立するものでこの訪問とは面会を求める行為をすることによつて成立し必ずしも面接し更に進んで来意を通ずる必要はないのみならずその場所については被訪問者の各居宅のみでなくその付属建物は勿論、これらの出入口、縁先、庭内等社会一般の通念上何某方と解し得られる範囲の場所を含むと解する外更にこれ等の場所に接着する屋外道路上もその位置、場所の状況等によりこれに包含するものと解するを相当とするところ、これを本件についてみると、判示事実を認定した資料の証拠によるときは、判示第一の内、被訪問者今井寿実枝の部分については被告人西尾が同家表入口の外から同人に話しかけたこと、同小坂初枝に対しては同家は県道から二、三段上つた処にあり、その家の軒に畑があつてその畑で仕事をしているところへ被告人等が訪問したこと、判示第二の内被訪問者津田キクエの部分については同家の表の狭い通路を通りかゝつて同人に呼びかけたこと、同鵜飼きぬ子に対しては、被告人等が同家のすぐ東側の道を上つて行く途中その内の一人が同家の屋敷内に入り同家入口より約三・二メートルの距離のところまで行き同家内にいた鵜飼に対し呼びかけ他の被告人等は右の道で待つていたこと、同中島うた子の部分については、同家前の塀の外である狭い通路を通つて西方の近藤きゆ方へ行く途中、被告人の中の誰れかゞ同家の者に面会を求むべく表戸を開けようとしたが施錠のため開かなかつたので外の者がカーテンからのぞいていた中島うた子に向つて呼びかけたこと、同近藤きゆに対しては同人が同家母家の東端から約八・四メートル先の空地になつていた同家の庭内におるところへ東の方(中島うた子方面)から通りかゝり、その内の一人が同人に呼びかけたこと、同渡辺喜久子については同人が表縁側に腰かけていると被告人の内の一人が三・五メートルのところまできて言葉を掛けたが他の者は同家表の生垣の東側端の外側まできていたこと等が各認定できるものでこれ等の訪問の場所、位置等から考えると前示の戸別訪問に該当するものと認定した次第であるがもし単に屋外で呼びかけた場合はこれに該当しないと解するときは選挙運動者がその方途を利用する限り法が定めた目的の障害となるおそれがあるといわなければならない。故に本件に関する限り水野幸洋以外の部分に対する前記意見は採用し得ないものである。
よつてそれぞれ主文のごとく判決する。
(裁判官 三宅廉)
別表(一)
被訪問者住居
同上氏名
備考
恵那市長島町永田一六の四
森岡はな
被告人西尾正夫のみ訪問し同田口嶋平は同行せず
同字二四五の一
今井寿美枝
同字七一七の二
小坂初枝
同字番地不詳
鈴木こま
同字七一三
宇佐見淳
同字六七三の七
西尾のみ
以上
別表(二)
被訪問者
被告人氏名の訪問先
備考
住居
氏名
田口嶋平
伊藤勇三
田中喜代史
前田菊蔵
安藤増俵
恵那市長島町中野高野町
津田キクエ
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同町同字
鵜飼きぬ子
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同字
中島うた子
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同町中野八一八の一
近藤きゆ
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同字一、一六九の一七
渡辺喜久子
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同字乗越
青木美穂子
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同中野一、二〇四の二九
可知ふみゑ
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以上