中野簡易裁判所 昭和38年(ハ)150号 判決 1964年9月09日
原告 原田こう
右訴訟代理人弁護士 山形園松
被告 小林登喜子
右訴訟代理人弁護士 野崎三郎
主文
原告が昭和三九年七月二八日付を以てなしたる当庁同年八月一日受付の訴の取下書による取下は有効なることを確認する。
事実及び理由
原告訴訟代理人は、昭和三九年七月二八日付当庁同年八月一日受付の被告訴訟代理人が取下に合意したる訴の取下書を提出したが、原告訴訟代理人は右取下書は原告原田こうの意思に基かざるものにして原告の代理権限なき森田某が恰かも原告の指図であるように偽つて原告訴訟代理人に訴全部の取下を依頼したるため被告訴訟代理人の同意を得て提出したのであるから全く錯誤に基く取下にして取下の効力を欠くが故に口頭弁論期日の指定を申請した次第であると述べ、
被告訴訟代理人は、右取下は有効であるからこれによつて本訴は口頭弁論をなす必要がない。右取下の有効なることの確認を求めると述べた。
按ずるに、本訴審理の準拠法である民事訴訟法には民法に規定する錯誤についての効力を規定したる条規なく、而して訴訟行為は連鎖する訴訟手続の一環を組成する行為で多分に公法的性質を有する行為であるから訴訟手続の安定と云う要求から表示の外観を尊重し、当事者の内心に関する錯誤は原則として訴訟行為の適法性有効性に影響を及ぼさざるものと解するを妥当とする。
本件記録によれば、原被告各訴訟代理人はいずれも各当事者より適法の訴訟委任を受けその受任事項中には反訴、控訴、上告またはその取下及び訴の取下を包含し、原告訴訟代理人は、右受任の範囲内において原告に取下の意思あるものと信じ、被告訴訟代理人の同意を得たる上、右訴全部の取下書を当裁判所に提出し、当庁はこれを適法に受理したものであるから取下書の提出はその主張の如く原告本人の真意に非ずとするも既に数回口頭弁論を経たる関係上訴訟法の規定に従い、被告訴訟代理人の同意を得て提出されたるものであるから前顕説示の理由に基き適法に取下の効果を生じたるものにして、右取下により本訴は当審においては一応終了したるものとす。然らば右取下の有効なることの確認を求むる被告訴訟代理人の主張は正当にして、かつこれを求むるにつき訴訟上の利益ありと謂わねばならぬ。よつて主文の通り中間判決する。
(裁判官 舟田誠一郎)