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京都地方裁判所 平成元年(行ウ)8号 判決 1992年3月23日

京都市右京区花園大藪町一七番地三〇号

原告

金村玉子こと 曺玉子

右訴訟代理人弁護士

豊島時夫

京都市右京区西院上花田町一〇番地の一

被告

右京税務署長 平居貞夫

右指定代理人

塚本伊平

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告(請求の趣旨)

1  被告が訴外亡金勝男に対し、昭和五七年三月一〇日付けでなした同人の同五三年分、同五四年分及び同五五年分の所得税の各重加算税賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二  被告(答弁)

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一  原告(請求原因)

1  原告の亡夫訴外金勝男(以下「訴外亡勝男」という)は、サラリーマン金融業を営んでいた。昭和五三年分ないし同五五年分の所得税にかかる同人の確定申告、修正申告、重加算税賦課決定処分の経緯は別表甲1記載のとおりである(以下、右確定申告、及び、右各修正申告にかかる各納税申告書のうち、昭和五六年六月二三日受付と同五七年三月八日受付の各修正申告分を除いたものを「本件各納税申告書」と、右各重加算税賦課決定処分を「本件各処分」という)。

2(一)  訴外亡勝男は、昭和五七年四月一日、本件各処分につき、被告に対して異議を申立てた。

(二)  昭和六一年九月九日、訴外亡勝男が死亡した。原告以外の相続人は相続を放棄して、原告のみが訴外亡勝男を相続した。

(三)  被告は、(一)の異議申立てについてなんらの決定をしない。そこで、昭和六二年一二月一八日、原告は、国税不服審判所長に対して審査請求をした。

(四)  国税不服審判所長は、平成元年一月三一日付けをもって原告の右審査請求を棄却する旨裁決した。

3  本件各処分には以下のような違法がある。

(一) 国税通則法六八条一項は、収入除外や必要経費の過大算入等の不正経理に基づいて納税申告書が提出された場合に適用されるものである。

(二) 訴外亡勝男は、会計帳簿を全て正常に記録し、その記録は本来あるべきところに保管していた。同人は、課税標準の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づいて本件各納税申告書を提出したわけではない。したがって、本件各処分は、国税通則法六八条一項の要件を欠く。

よって、本件各処分は違法であるから取消すべきである。

二  被告

1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因一1及び2の各事実を認める。

(二) 同3(一)を争う。国税通則法六八条一項が定める場合のうち、課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい、仮装する場合には、不正経理の存在が問題となる。しかし、ことさらな過少申告のように、税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい、仮装する場合には、不正経理の存在は問題とはならない。

(三) 同(二)の事実を否認する。原告は、訴外亡勝男が正常に記録していたとする会計帳簿を一切提出していない。また、後記2(二)(1)ロで述べるように極めて巨額の過少申告がなされていたから、所得を偽るための不正な経理処理が推認される。

2  主張

(一) 隠ぺい、仮装行為の時期

重加算税制度の趣旨は、課税要件事実の隠ぺい又は仮装による過少申告を防止し、申告納税制度の信用を維持するというものである。この趣旨に照らせば、重加算税賦課の要件である「隠ぺい又は仮装」(国税通則法六八条一項)の行為は、法定申告期限前になされているものである必要がない。

(二) 訴外亡勝男によることさらな過少申告行為と重加算税賦課要件の充足

(1) 訴外亡勝男は、国税通則法六八条一項にいう「税額等」のうち、当該所得にかかる「納付すべき税額」(同法一九条一項、二条六号ニ)の計算の基礎となるべき総所得金額(事業所得の金額)の大部分を、ことさらに過少に申告書に記載した。これにより、総所得金額の各増差部分の合計額を秘匿した内容虚偽の本件各納税申告書を提出した。すなわち、

イ 原告は、訴外亡勝男が本件係争各年度において会計帳簿を正確に記載していたと主張する。しかし、そうだとすれば、同人は会計帳簿を全く無視して本件各納税申告書を提出していたのである。

ロ 訴外亡勝男の本件係争各年分の所得税についての、昭和五七年三月八日の修正申告書とそれ以前の本件各納税申告書との総所得金額との較差は、いずれも極めて大きい。

ハ 訴外亡勝男は、(三)(3)で述べるとおり、被告による税務調査において、会計帳簿の秘匿や虚偽答弁を行なった。

以上によれば、訴外亡勝男は、申告すべき所得金額がいくらであるかを把握していたにもかかわらず、事業の拡大を目的として税金はできるだけ少なくしようと考え、把握している所得金額と大差のある確定申告書を提出していたことが明らかである。

(2) 訴外亡勝男による右ことさらな過少申告行為は、「税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装し」た場合に該当し、国税通則法六八条一項の要件を充足する(最判昭和五二・一・二五税務訴訟資料九一号五四頁、同六三・一〇・二七税務訴訟資料一六六号三七〇頁)。なぜならば、ことさらな過少申告行為は、旧所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)六九条一項にいう「詐欺その他不正の行為」に該当する(最判昭和四八・三・二〇刑集二七巻二号一三八頁)。そして、「詐欺その他不正の行為」の一態様として「隠ぺい又は仮装の行為」がある。ことさらな過少申告行為が「詐欺その他不正の行為」に該当して処罰されるほど可罰的違法性の大なるものであれば、同時に、「隠ぺい又は仮装」に該当して重加算税を課されても当然だからである。

なお、訴外亡勝男は、本件係争各年分について所得税法違反で起訴され、同人が公判中に死亡したために公訴棄却となったが、関連事件である金村勝弘こと金勝弘(訴外亡勝男の実弟)に対する所得税法違反被告事件においては、実刑判決が確定している。

(3) 同条項にいう「基づき」との文言は、課税要件事実の隠ぺい又は仮装による過少申告を防止し申告納税制度の信用を維持せんとする重加算税制度の趣旨、目的に照らせば、納税者の当該年分の申告行為につき、「過少申告」という行為と、「隠ぺい又は仮装」という事実とが存在している場合には、重加算税を課することを意味する。

(三) 過少申告行為以外の隠ぺい又は仮装行為

仮に、過少な納税申告書の提出自体が国税通則法六八条一項に該当しないとしても、訴外亡勝男は、以下のとおり、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装していた。

(1) 原告は、訴外亡勝男が正常に記録していたとする会計帳簿を一切提出していない。また、前記2(二)(1)ロで述べたように極めて巨額の過少申告がなされていた。このことから、所得を偽るため不正の経理処理がなされていたことが推認される。

(2) 訴外亡勝男は、本件係争各年分の確定申告書を提出する以前から、全国に存在する貸借店舗において同人が経営するラッキーリースグループ一七店舗の各貸借人名義人を、同人名義ではなく、従業員である小谷国雄名義にしている。また、官公庁に対する届出、事業に関する預金名義も小谷国雄名義にしていた。

(3) 訴外亡勝男は、昭和五六年七月七日付け修正申告にかかる被告の税務調査において、昭和五四年分及び同五五年分の一三店舗の経費明細書を提出しただけで、その余の会計帳簿を秘匿して提出しなかった。また、本件係争各年分の利息収入に関し、昭和五五年分については過少に記載した明細書を提出した。同五三年分及び同五四年分については全く明らかにせず、同人の真実の所得の確認を妨げる行為を行なった。

(四) 本件係争各年分の重加算税額の計算の基礎となる税額の計算は、別表乙1ないし8のとおりであり、重加算税の割合は、三〇パーセントである。

よって、本件各処分は、右により計算される額の重加算税を賦課するものであるから、いずれも適法である。

三  原告

1  被告の主張に対する認否

(一) 被告の主張二2(一)を争う。本件のように期限内申告書が提出されている事案では、隠ぺい、仮装の行為が期限内申告書提出前になされていることが必要と解すべきである。

(二) 被告の主張二2(二)(1)の事実を否認し、同(2)、(3)をいずれも争う。

(三) 被告の主張二2(三)の各事実を否認する。すなわち、

(1) 同(1)については、会計帳簿類を法廷に提出しないのは、これらの書類が訴外亡勝男の所得税法違反被疑事件で検察庁に押収され、還付を受けた時点で、いやな思い出を消すために全部廃棄処分にしたことによるものである。同人が所得を偽るため不正の経理処理をしたものではない。

(2) 同(2)については、訴外亡勝男が韓国籍であり本名では事務所を貸借できない。そこで、従業員小谷の名義を借り、諸種の届出をしていたものである。不正目的で各種名義を偽っていたわけではない。

(3) 同(3)については、訴外亡勝男は、被告の部下職員から資料提出を要求された場合に、要求された資料は全部提出した。その余の会計帳簿は提出要求がなかったから提出しなかったまでで、会計帳簿を秘匿したものではない。また、訴外亡勝男は、過少に記載した利息収入の明細書を提出していない。

(四) 被告の主張二2(四)を争う。

2  反論

(一) 過少申告行為は、国税通則法六八条一項に定める重加算税賦課要件を充足しえないものというべきである。すなわち、

(1) 右条項は、旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)四三条の二(昭和三七年法律第六七号による削除前のもの)が、「課税標準若しくは欠損金額又は法人税額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装し」と定めていたことに由来する。そして、右「法人税額の計算の基礎となるべき事実」とは、各税の税額控除額、重要物産の免税額、同族会社の加算税額の異動等による法人税額減少の基礎となる事実のことであると解されていた。

したがって、国税通則法六八条一項にいう「税額等の計算の基礎となるべき事実」は、配当控除、住宅取得(等)特別控除、災害減免額、外国税額控除、源泉徴収税額の税額控除項目を指す。

とすれば、総所得金額を過少に記載した納税申告書を提出する行為は、税額控除項目を偽るわけではない。だから、右条項にいう「税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」た場合には該当しない。

なお、被告が援用する昭和五二年の最高裁判決の事案は、原始記録等の関係書類の備え付けがなく、かつ、虚偽の申告書が提出されている。しかも、納税者において税務調査に非協力的であった等、積極的な所得隠ぺい行為があった。このような事案である。また、同じく被告が援用する昭和六三年の最高裁判決の事案は、納税者において、譲渡益を生じた建物等の売買の事実を隠ぺいしていた事案である。したがって、右両判決が、虚偽の過少申告行為自体をとらえて「隠ぺい又は仮装の行為」に該当するとしたものと断定することはできない。

(2) また、過少申告行為は、国税通則法六八条一項にいう課税標準等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい、仮装の行為にもあたらない。すなわち、各納税申告書の総所得金額欄に所得金額を記載すること自体は、たとえその所得金額が過少なものであっても、課税標準の数字を記載しただけである。課税標準の計算の基礎となるべき事実を記載した場合とは到底いえない。

(3) さらに、国税通則法六八条一項は、「隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したとき」と定める。「基づき」との文言が用いられている以上、過少に記載した納税申告書の提出のみをもって隠ぺい又は仮装の行為と解することはできない。

(二) 以上によれば、訴外亡勝男による本件各納税申告書提出行為は、国税通則法六八条一項の定める要件を充足しない。したがって、本件各処分は違法であり取消すべきである。

四  被告

原告の反論三2を全て争う。

第三証拠

証拠に関する事項は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因一1、2(一)ないし(四)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  過少申告行為と重加算税の賦課要件

1  当事者の主張

原告は、請求原因一3(一)、(二)において、単なる過少申告行為のみでは重加算税賦課要件を充足しない、と主張する。

被告は、その主張二2(二)において、同要件を充足すると主張する。訴外亡勝男が総所得金額をことさらに過少に記載した本件各納税申告書を提出したこと自体から、既に国税通則法六八条一項にいう「税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」場合に該当する、というのである。

2  検討

そこで、まず、重加算税と過少申告加算税の関係を検討する。

(一)  国税通則法六五条の過少申告加算税と国税通則法六八条一項重加算税は、いずれも、申告納税方式による国税について過少な申告を行なった納税者に対する行政上の制裁として賦課されるものである。したがって、同一の期限内申告とこれに対する修正申告又は更正にかかるものである限り、両者は、その賦課及び税額の計算の基礎を同じくする。ただ、重加算税は、過少申告加算税の賦課要件に該当することに加えて、当該納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書(期限内申告書を指す-同法六五条一項、六八条一項)を提出するという不正手段を用いたとの特別な事由が存在することが必要である。この場合に、当該基礎となる税額に対し、過少申告加算税におけるよりも重い一定比率を乗じて得られる金額の制裁を課すことにしたのが重加算税である。要するに、重加算税の賦課要件は、過少申告加算税の賦課要件の他に、右の加重事由としての特別の事由があることが必要である(最判昭和五八・一〇・二七民集三七巻八号一一九六頁参照)。

(二)  重加算税の加重事由

重加算税の加重事由として、同法六八条一項は、「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」と規定する。ここにいう「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実」は、各税法の申告規定との対比によって明らかにされる。所得税に関しては、所得税法二二条、一二〇条一項にいう課税標準である総所得金額、退職金額及び山林所得金額の計算の基礎となった各種所得の金額、所得控除額並びに税額控除額等、同法二一条所定の所得税額の計算の基礎となる事実を指す(同法一二〇条一項五号、九号、一一号参照)。

これに対し、原告は、その反論三2(一)(1)において、右条項にいう「税額等の計算の基礎となるべき事実」とは、同条項の沿革から、税額控除項目のみを指す、と主張する。なるほど、同条項は、前示旧法人税法四三条の二等の各税法に個別に規定された重加算税を統合して規定された、という沿革はある。しかし、旧法とは文言を異にする。しかも、前示のとおり、その性質を過少申告加算税とは別個の独立処分とはせず、これに加重事由がある場合の同一処分であるとしている。国税通則法六八条一項は、このように従前の重加算税とは異質なものとした新規定である。だから、旧法と全く同一に解釈すべきではない。

三  訴外亡勝男の過少申告行為と加重事由

1  当事者間に争いがない請求原因一1の各事実、証人紀平泰久の証言、同証言によりいずれも真正な成立が認められる乙第九ないし第一三号証、いずれも成立に争いがない甲一六ないし第一八、乙第七、第八、第一七ないし第二三号証、及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実を認めることができ、この認定を覆すに足る証拠がない。

(一)  訴外亡勝男は、本件係争各年分の確定申告において、総所得金額の基礎となる営業所得金額を、故意に、順次、前年の過少申告額を基準にして、若干の率の増額をするという方法で計画的に計算して過少に記載した確定申告書を提出した(乙七-特に問七の問答、及び同号証添付の各確定申告書)。

(二)  訴外亡勝男による本件係争各年分の総所得金額に関する最終修正申告(昭和五三年分及び同五四年分は第三次修正申告、同五五年分は第四次修正申告)と他の納税申告相互間の較差は、次のとおりである。

(1) 昭和五三年分の較差

イ 本件確定申告 八億一、四二六万九、四六八円

ロ 第一次修正申告 八億〇、六一九万一、八八三円

ハ 第二次修正申告 七億七、六二五万四、八八三円

(2) 昭和五四年分の較差

イ 本件確定申告 九億八、四九三万六、七七一円

ロ 第一次修正申告 九億一、四九三万四、二四九円

ハ 第二次修正申告 八億八、五五七万八、二四九円

(3) 昭和五五年分の較差

イ 本件確定申告 一六億三、九四〇万八、〇二八円

ロ 第一次修正申告 一五億四、九四〇万八、〇二八円

ハ 第二次修正申告 一五億二、〇七三万七、〇二八円

ニ 第三次修正申告 一二億五、四〇七万〇、〇二八円

(4) 最終修正申告の確定申告に対する倍率

イ 昭和五三年分 約四〇倍

ロ 昭和五四年分 約三二倍

ハ 昭和五五年分 約二五倍

(三)  訴外亡勝男は、昭和五六年七月七日付け修正申告にかかる被告部下職員の税務調査において、同人から申告の基になる帳簿書類の提出を求められた。それにもかかわらず、昭和五四年分及び同五五年分の一三店舗の経費明細書、同五五年分の利息収入明細書のみを提出した。この他にも会計帳簿類があるのに、これを秘匿して提出しなかった。しかも、右利息収入明細書は、過少に記載されていた。

(四)  訴外亡勝男は、本件係争各年分の所得税について各確定申告書を提出したが、その後、以下のような経緯で修正申告を行なった。

(1) 被告の部下職員は、訴外亡勝男の昭和五三年分の所得税に関する税務調査を行ない、その結果、訴外亡勝男は同年分の第一次修正申告書を提出した。

(2) 被告の部下職員は、訴外亡勝男の本件係争各年分の所得税に関する税務調査を行ない、その結果、訴外亡勝男は本件係争各年分の各第二次修正申告書を提出した。

(3) 訴外亡勝男は、昭和五五年分の所得税について、所得税法違反の嫌疑により大阪国税局査察部の調査を受けた。その調査の着手の後、訴外亡勝男は、同年分の第三次修正申告書を提出した。

(4) 訴外亡勝男は、右査察部の調査に基づき、昭和五三年分及び同五四年分の各第三次修正申告書、同五五年分の第四次修正申告書を提出した。

(五)  訴外亡勝男は、昭和三八年ころから貸金業を営み始めた。同四〇年ころからは、ローンズマンセイ、ラッキーリース等の商号で支店網を拡充した。本件各納税申告書提出時には、全国各地に約二〇店舗(前示(三)の一三店舗より多い)を有するようになり、相当な経済活動を行なっていた。

2  原告は、訴外亡勝男が正常に会計帳簿を記録していたと主張しながら、右会計帳簿類を書証として提出せず、この点につき不自然な弁解をする。即ち、所得税法違反被告事件のいやな思い出を消すためすべて処分したと主張する。しかし、既に同被告事件が発覚して、その後重加算税の問題が生じることがたやすく予想できるのに、その証拠書類を廃棄するというのは不自然である。このことと、前認定1の各事実及び弁論の全趣旨を総合すれば、訴外亡勝男は、本件係争各年分の確定申告(期限内申告)にあたり、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき営業所得金額の一部を隠ぺいし、又はその計算の基礎事実である会計帳簿書類、営業店舗数等の営業規模の一部を隠ぺいし、これに基づき確定申告書(期限内申告書)を提出していたことを認めることができる。即ち、前認定1(一)の事実によれば、右営業所得金額の一部を隠ぺいして確定申告書を提出したことは明らかである。同(二)ないし(五)の各事実によると、訴外勝男は、計画的な意図の下に、総所得金額を過少にした本件各確定申告を行なったものであって、その後の最終修正申告との較差は極めて大きい。確定申告後の調査において会計帳簿類の一部を秘匿して提出せず、提出した利息収入明細書は、その収入の一部を隠ぺいし過少に記載されていた。以上の事実が認められる。これらの事実及び弁論の全趣旨を併せ考えると、訴外亡勝男は本件各確定申告書の提出前に会計帳簿書類等に工作を加える等して課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の一部を隠ぺいし、これに基づき過少な本件各確定申告書を提出した事実を推認することができる。他にこれを覆すに足る証拠がない。

したがって、訴外亡勝男は、国税通則法六八条一項所定の「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき」本件各確定申告書を提出していたものというべきである。

四  被告の主張二(四)の計算が正確であることは計数上明らかであり、原告もこれを争っていない。これによれば、本件各処分は、右により計算された金額の重加算税を賦課するもので、いずれも適法であって、これに違法の点はない。

五  結論

原告の請求はいずれも理由がないからこれを失当として棄却する。訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用する。よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 菅英昇 裁判官 佐藤洋幸)

別表甲1

昭和53年分

<省略>

昭和54年分

<省略>

昭和55年分

<省略>

別表乙1 昭和53年分の加算税の基礎となる税額の計算

(昭和54年6月18日付修正申告分)

<省略>

別表乙2 昭和53年分の加算税の基礎となる税額の計算

(昭和56年7月7日付修正申告分)

<省略>

別表乙3 昭和53年分の加算税の基礎となる税額の計算

(昭和57年3月8日付修正申告分)

<省略>

別表乙4 昭和54年分の加算税の基礎となる税額の計算

(昭和56年7月7日付修正申告分)

<省略>

別表乙5 昭和54年分の加算税の基礎となる税額の計算

(昭和57年3月8日付修正申告分)

<省略>

別表乙6 昭和55年分の加算税の基礎となる税額の計算

(昭和56年7月7日付修正申告分)

<省略>

別表乙7 昭和55年分の加算税の基礎となる税額の計算

(昭和57年1月14日付修正申告分)

<省略>

別表乙8 昭和55年分の加算税の基礎となる税額の計算

(昭和57年3月8日付修正申告分)

<省略>

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