京都地方裁判所 平成10年(行ウ)17号 判決 2003年7月15日
主文
一 原告の本件訴えのうち,被告B,同C及び同Dに対する平成14年法律第65号による改正前の地方自治法242条の2第1項4号前段に基づく請求部分をいずれも却下する。
二 被告Aは,久美浜町に対し,835万8083円及びこれに対する平成10年6月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は,原告と被告Aとの間では,原告に生じた費用の32分の1を同被告の負担とし,その余は各自の負担とし,原告とその余の被告らとの間においては,全部原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告らは,久美浜町に対し,連帯して6284万9500円及びこれに対する平成9年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は,久美浜町(以下「町」ともいう。)の住民らで構成する権利能力なき社団(名称「開かれた町政をめざす会」)である原告が,町道の改良工事等の施工によって残土として発生した町有の砂が無断で売却されたこと等につき,被告らに対し,同売却等につき町に損害賠償義務がある,又は町が有する損害賠償請求権の行使を怠ったなどと主張して,地方自治法(平成14年法律第65号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づいて,町に代位して損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を請求した住民訴訟である。
一 争いがない事実等
1 被告Aは,平成8年度(平成8年4月1日から平成9年3月31日まで),町長の地位にあり,被告Bは,町助役の地位,被告Cは,町参事の地位,被告Dは,町上下水道課長の地位にあった。
2 町は,平成8年度,町道砂丘史跡線改良工事並びに公共下水道久美浜1号幹線第Ⅳ工区管渠布設工事(以下「本件工事」という。)を実施したが,これに伴って町有地から残土としての砂(以下「本件砂」という。)が発生した。
3 原告は,平成10年3月3日,本件砂が違法に処分されたなどと主張し,久美浜町監査委員に対し,住民監査請求を行ったところ,同監査委員は,同年4月28日,同監査請求を実質的に排斥する判断をし,その旨をそのころ原告に通知した。
二 争点及び当事者の主張
1 Eらによる本件砂の横領についての被告らの責任の有無(争点1)
(原告の主張)
(1) 被告B及び被告Cは,町上下水道課主幹であったEと通謀の上,平成8年9月ころ,町有財産である本件砂のうち1万0029.7立方メートルを,町に無断で,町有財産の売却手続を経ずに,個人的に有限会社F(以下「F」という。)に対し,代金1840万円で売却して,これを横領した(以下「本件横領行為」という。)。被告B及び被告Cは,Eと共謀していないとしても,少なくとも,Eの本件横領行為を知りながら黙認したもので,Eと共に,町に対して,共同不法行為責任を負う。
(2) 被告Aは,そもそも当初から本件横領行為を知り得べきもので,遅くとも平成9年2月15日までには,これを知っており,町長として,自らあるいは部下職員を指揮監督して本件横領行為を阻止すべきであるのに,これを怠った。被告Bは,本来,本件横領行為を阻止すべきであるのに,これに積極的に加わった。被告Cは,参事として,被告Dは,上下水道課長として,いずれも本件横領行為を知り得べきであったもので,本件横領行為を阻止すべき義務を怠った。
(3) (本件砂の管理の怠り等による被告らの賠償責任)
① 被告らは,本件砂の管理権限があったから,前記(2)のとおり,これを怠ったことにより町に対して損害賠償義務を負う(本件砂の管理の怠り,法242条の2第1項4号前段の関係)。
② また,被告らのうちに,本件砂の管理権限がない者があるとしても,その被告は,本件横領行為に積極的に加担し,又は町の職員としてこれを阻止すべき義務に違反したから,町に対して損害賠償義務を負う。
(4) (損害賠償請求権という権利の管理の怠り)
町は,本件横領行為について,E及び被告らに対する前記(3)の損害賠償請求権を有するところ,町長である被告Aは,これらの損害賠償請求権の行使を怠り,町有の権利の管理を怠り,また,後任の町長も,同様にその管理を怠った。
そこで,被告Aは,町に対してこれらの損害賠償請求権を行使しなかったことによる損害賠償責任を負う(法242条1項4号前段の関係)。また,被告らは,いずれも,前記の各損害賠償請求権の管理を怠る事実の相手方に該当する(法242条の2第1項4号後段の関係)。
(被告Aの主張)
被告Aには,本件横領行為について,指揮監督義務違反はない。本件砂は,下水道事業の工事の遂行上発生する残土であり,同工事は事務分掌上,上下水道課の所管に属する。被告Aが本件横領行為の存在を知ったのは平成10年6月であり,これらを知ったときには,被告Aは町長の地位になかった。したがって,Eらに対して損害賠償請求権を行使し得る立場にもなかった。
(被告Bの主張)
被告Bは,本件砂の管理の権利義務はなかった。
(被告Cの主張)
被告Cは,本件横領行為を事前に察知できず,また,阻止できなかった。
(被告Dの主張)
本件工事の設計,施工を直接監督する地位にあったのは現場監督であった町上下水道課課長補佐Gであった。問題点が発生すれば被告Dに報告が上がることにはなっていたが,本件横領行為について何らの報告もなかった。被告Dが最終的に売却を阻止できなかったのは,被告Bが売却を支持していたからであり,上司である被告Bの命に反し,実力で砂の売却を阻止するなどということは地方公務員である被告Dに対して法律上要求される義務ではない。
(被告らの主張)
被告Bは,本件訴訟が係属した後の平成10年7月24日,E及びFと共に,町との間で,Fに売却したのと同種・同量の砂を町に返還する趣旨の確約書を作成した。
その後,町は,同確約書に基づき,E,被告B及びFに対して砂の返還を求め,平成12年8月11日,同3名を被告として同確約書に基づく砂の返還等を求める別件訴訟を京都地裁宮津支部に提起し,同訴訟は現在京都地裁に係属中である。
2 京都府や個人に対する砂の提供に関する争点
(1) 京都府(以下「府」ともいう。)への砂の提供による被告Aの責任の有無(争点2)
(原告の主張)
被告Aは,町を代表して,平成8年2月から平成9年3月までの間に,町有の砂1万1457.1立方メートルを府に対して贈与した。その対象となった砂の予定価格は700万円を超えており,久美浜町議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例(平成5年3月30日条例第10号。以下「本件条例」という。)3条に基づき,議会の議決を経る必要があった。にもかかわらず,同被告は,これを経ることなく贈与したものであるから,これは違法であり,町に2864万2750円の損害が生じた。
本件砂のように,商品価値・交換価値がある場合は,建設工事の施工によって発生した残土であっても有償で処分する必要があり,前記の贈与が再生資源利用促進法の趣旨に沿ったものであるとしても,適法とはならない。
(被告Aの主張)
町は,本件工事や先行する工事の施工により残土として発生した砂を,府による久美浜町内の海岸の復旧事業に提供したのであって,それは通常の贈与ではない。この提供は,海岸の復旧を促進し,町の予算の節約になり,府の事業の効率的執行にもなり,法の趣旨に合致し,違法ではない。
また,提供された砂の処分については,平成8年12月20日に議会に提案された契約案件(「町道砂丘史跡線改良工事請負契約締結の件」)において,指定処分とするとの内容となっており,同案件は議会の決議を受けた。
町は,再生資源利用促進法,同法施行令等の趣旨に従い,建設工事によって発生する残土については,現地に埋め戻す他は,発生した残土の種類に応じて,他の事業にも利用するよう努めており,それは通例の措置,慣習法となっている。府への砂の提供も再生資源利用促進法等の趣旨に合致したものであり,違法ではない。このように,残土を公共工事相互間で無償で相互に供与し合うことについて,これまでに町,府,及び国の会計監査等において問題を指摘されたり,改善指導を受けたこともない。
(2) 個人への砂の贈与による被告Aの責任の有無(争点3)
(原告の主張)
被告Aは,町を代表して,平成8年12月から平成9年3月までの間に,本件砂のうち2593.5立方メートルを4人の個人に対して贈与した。その本件砂の予定価格は700万円を超えており,本件条例3条に基づき,議会の議決を経る必要があったにもかかわらず,被告Aは,これを経ることなく贈与したから,贈与は違法であり,町に648万3750円の損害が生じた。
(被告Aの主張)
町が砂を贈与した相手方である関係農家からは,従来から大雨の際に畑面に水がたまりやすく,道路改良により更に水が溜まりやすくなるので畑地を改良したい旨の要望が町に対してあった。町がこれに応えて贈与をしたもので,これらの贈与に違法性はない。
3 町の損害額(争点4)
(原告の主張)
本件砂のうち,本件横領行為,府への提供及び個人への贈与によって無償で処分されたものは,少なくとも2万5139.8立方メートルであり,本件砂は,当時1立方メートル当たり,少なくとも2500円の価値があった。
そこで,町が被った損害額は,少なくとも6284万9500円となる。
(被告らの主張)
争う。
第三当裁判所の判断
一 前記第二の一の事実,甲1ないし107(枝番を含む。),乙1ないし27(枝番を含む。),丙1ないし30,丁1,戊1,証人Eの証言及び被告ら本人尋問の各結果(以上の証拠を以下「本件各証拠」という。)並びに弁論の全趣旨によれば,以下のとおり認められる。
1(1) 被告Aは,昭和60年6月2日から平成9年6月1日まで町(久美浜町)の長の地位にあった。
(2) 被告Bは,平成元年8月から平成9年8月まで町の助役の地位にあった。
(3) 被告Cは,平成8年度,町の建設課及び上下水道課を統括する参事兼建設課長の地位にあったが,平成9年3月31日に退職した。
(4) 被告Dは,平成8年度,町の上下水道課長の地位にあった。
(5) Eは,平成8年度,町の上下水道課主幹の地位にあった。久美浜町役場処務規程によれば,町長が特に命じた事務を担任させるため課及び室に主幹を置くことがあるとされ(3条の2の1項),主幹は上司の命を受けて担任する事務を掌理することとされていた(3条の2の2項)。
(6) Fは,久美浜町に本店を置く,土砂,砂利,生コンクリートなどの建築資材の採取,製造,販売等を目的とする有限会社であり,Hは,同社の代表取締役であった。
2 町は,かねてから,久美浜町の海岸の管理者である京都府や地元の農家から砂の提供の依頼を受けており,平成5年から,下水道工事の実施によって発生した残土の取扱いについて,次のような方針を定めていた。
(1) 砂に換金性があることは十分認識しつつも,この地域の浜砂の需給関係に大きな影響を及ぼすことを考慮し,「残土」として一般的な扱いをすることとする。
(2) 浜砂は,貴重な久美浜町の自然資源であり,全量を埋戻しすることを基本とする。
(3) 公共事業の申出のあるときは,手続を行った上で提供することもある。
(4) 用地取得の際,その処分方法を条件とされる場合は,前記(2)に沿った上で事例毎に対応する。
3 町は,平成8年度に,本件工事,すなわち,町内の久美浜浄化センターに至る道路を整備するため,従来からある林道を拡幅して地表を掘り下げて道路を布設する町道砂丘史跡線改良工事及びその道路の下に管渠を埋設する公共下水道久美浜1号幹線第Ⅳ工区管渠布設工事を行うことになった。そして,本件工事の実施に伴って残土として大量の砂が発生することが予想された。
4 本件工事の所管課は,町上下水道課であり,同課下水道係が本件工事を実施するための用地買収を担当していた。同係は,平成7年度から用地買収事務を進め,平成8年春ころから,逐次用地買収が行われたが,買収予定地の一部の地権者が買収に応じなかったため,用地買収事務は難航し,これを担当していたEは苦慮していた。
被告Aは,このように,本件工事を実施するための用地買収が難航している旨の報告を受け,その後,助役の被告Bから,予定地の法線を変更することで用地買収問題が解決した旨の報告を受けた。
5 被告B及びEは,このような用地買収の行詰りを打開するため,平成8年夏ころ,町側には無断で,本件工事が実施された後に残土として生ずる砂を砂の販売業者に売却し,その売却代金を裏金として用地買収に応じない地権者への補償金の上積み分に当てるなどして,用地買収を進めることにし,売却先の選定,売買代金額の決定,代金の授受等,具体的な作業は,町側には内密にして,Eが行うこと等を合意した(以下「本件共謀」という。)。
6 Eは,本件共謀に基づいて,売却先としてFを選び,Fとの間で,平成8年9月ころ,本件工事の実施により生ずる砂を,町には無断で個人としてFに売却し,その量を約1万立方メートルとし,代金額は追って定める旨の契約を締結した(以下「本件売買契約」という)。
7 町は,他方,平成8年ころ,久美浜町域の久美浜海岸(京都府熊野郡久美浜町aから同町bまでの間の日本海に面した海岸)の浸食が進行していたため,海岸管理者である京都府知事に対して,その復旧を要望していたところ,本件工事の実施によって発生する砂を府が行う海岸復旧工事に利用することができれば,復旧工事が促進され,同時に,砂の掘削,積込,運搬等に要する経費も節約できるので,その方向で府の峰山土木事務所と協議を行った。
8 町議会は,平成8年12月20日,本件工事の請負契約締結の件についての議案を可決した。その際,本件工事の実施により残土として発生する砂の処理について具体的に質疑があり,上下水道課長の被告Dは,久美浜町のc等の海岸の浸食箇所を埋め戻すために京都府へ提供する分があることや「個人の畑を造成するような方にもちょっと持っていっております。」などと答えた(乙18)。
その後,町は,請負業者である山崎工業株式会社(以下「山崎工業」という。)との間で同社に本件工事を請け負わせる契約を締結し,その際,被告Aは,町長として,本件工事の監督職員として町の上下水道課課長補佐のGを指名した。
9 山崎工業は,同年12月24日,本件工事に着工し,その後本件工事は続けられた。本件工事が施工される過程で,町所有土地を掘削すること等により大量の本件砂が残土として発生した。本件工事の現場での監督はGが行い,上下水道課長の被告DはGから報告を受けていた。
10 本件工事が実施され,現場で残土として本件砂が発生すると,前記のEとFとの本件売買契約に従って,Eは,現場監督をしていたGに指示し,それを,工事現場の海岸側に置かずに,工事現場からF敷地へ逐次運搬させた。このことは,被告Bは知っていたが,町長の被告Aは勿論,参事兼建設課長の被告Cも,上下水道課長の被告Dも知らなかった。
11 被告Cは,平成9年2月14日,本件工事から発生した砂が砂の販売業者であるF敷地に運搬されていることを知り,不審に思い,本件工事を施工していた山崎工業に対し,携帯電話で,工事を一時中止するよう指示した。被告Cは,その後,町役場に戻り,被告A及び被告Dに,工事によって発生した砂がF敷地に運搬されていたため,工事を中止した旨報告し,被告Aはこれを了解した。被告Cは,その際,被告Aに対して,詳細については後日報告する旨述べた。被告Aは,Fは砂の販売業務も行っており,本件工事現場付近の砂は,砂の販売業者が欲しがっていることを知っていたが,その時は,本件砂の置場所が何故F敷地になったかについて調査を命じたりはしなかった。
12 被告B,E及び被告Cは,翌同月15日,砂の運搬について話し合った。Eは,発生した本件砂をFに本件売買契約で売却したことは隠して,砂を養浜工事に使うまでの間,F敷地に一時保管させるべきである旨主張し,被告Cは,養浜工事に使う以上砂浜に置くべきであると主張した。被告Bも,本件共謀があったことを隠し,特に意見を述べず,話合いは物別れに終わった。
13 被告Cは,同月17日,被告Bの考えを確認するために,同被告に対して,砂の置場をF敷地から変更するよう求めた。しかし,すでにEと本件共謀をしていた被告Bは明確な返事をしなかった。被告Dは,被告Cから,被告BはEの意見に同調しているようであるという趣旨の話を聞いた。
14 E又は被告Bは,本件売買契約に従って,本件砂をFへ搬出することを再開するため,Gに,工事及びFへの本件砂の搬出の再開を指示し,Gの指示で,山崎工業は,同月18日,工事を再開し,発生した本件砂のF敷地への搬入を再開した。被告Cは,同日朝,山崎工業に対し,誰が再開を指示したのかを尋ね,Gが指示をした旨の回答を得た。
15 被告Cは,同月19日,E,被告D及びGを集め,Gに対し,工事を再開した理由を問いただしたところ,G及びEは,明確な説明をすることなく,ともかく砂の置場所は変更できない旨主張し,また,国から補助金を受けている事業ではないので少々融通してもいいのではないかという趣旨の発言をし,さらに,助役である被告BがF敷地に置くことについて了解している以上,参事や課長の了解を得なくても事業を進めることができるなどと述べた。被告Cは,これに対し,融通するとはどういうことかと質問したが,返答はなかった。被告Cは,今後,決裁書類に押印しない旨述べ,話合いは物別れに終わった。被告C及び被告Dも,このころには,Eや被告Bが本件砂を不正に処分しようとしているのではないかと,薄々感じるようになっていた。
16 被告Cは,その後,同日,被告Aに対し,本件工事が再開されたこと,工事によって発生する本件砂の置場所についてEらと話合いをしたが,Eがあくまでその主張を譲らず,助役の決裁があれば参事の決裁はなくてもよい旨の発言をしたので,その場を退席したことを報告した。
17 被告Cは,このような経過で,E及び被告Bが本件砂を不正に処分しようとしているのではないかと薄々感じ始め,被告BやEの態度を非難する趣旨で,自らが決裁して町長の被告Aに提示すべき書類に決裁印を押印しないで,そのまま被告Aへ提出するようになった。
18 被告Aは,平成9年2月19日の被告Cによる前記の報告で,本件工事が再開されただけでなく,発生した砂が再びF敷地へ運搬されるようになったことも知り,被告BやEの態度に不審の念を抱くようになった。しかし,そのことについて調査を命じたりしなかった。
19 Eや被告Bは,同月20日以降も,本件砂をF敷地に搬入させ続け,結局,このようにして,本件売買契約に基づいて,町に無断で,町の財産の売却手続を経ずに,平成9年3月28日ころ本件工事が終了したころまでに,Fに対し,本件砂のうち合計1万0029.7立方メートルを,本件売買契約に基づいて,売却して引き渡した。Fは,本件売却契約の代金として,E個人に対し,平成8年10月28日に300万円,同年12月24日に150万円,平成9年2月15日に100万円,同年3月11日に50万円,同月28日に1240万円(合計1840万円)を,それぞれ支払った。Fは,F敷地に搬入された本件砂を,逐次,他に売却した。
20 Eは,Fから受け取った前記代金のうちの相当部分を前記のとおりの用地買収資金として使用した。しかし,今日に至るまで受領した売買代金のうちの約500万円は使途が不明なままである。
21 被告Aは,平成9年6月1日,町長を退任した。同被告は,Fが砂の販売業を行っていたことは知っており,前記のとおり,被告BやEの態度に不審の念をもつようにはなったが,同被告やEが具体的に本件横領行為を行ったことまでは,結局,明確に認識しなかった。
22 町は,他方,平成8年,京都府との間で,本件工事及び先行工事によって発生した砂を京都府に無償で提供し,府はその砂を利用して久美浜町域の海岸の復旧工事を実施する旨の合意をし,平成8年2月から平成9年3月までの間に,本件砂とそれ以外の町有の砂合計1万1457.1立方メートルを府に引き渡した(府に提供したことを以下「本件提供」という。)。
23(1) 府は,平成8年2月21日から同年8月31日までの間,久美浜海岸他なぎさ緊急保全工事として,久美浜町c地域の海岸の養浜工事を行い,本件提供による砂のうち4845.8立方メートルを同工事による養浜のために使用した。
(2) 府は,平成9年3月27日から同年6月30日までの間,久美浜海岸なぎさ緊急保全工事として,久美浜町c及びb地域の海岸の養浜工事を行い,本件提供による砂のうち4232立方メートルを養浜のために使用した。
(3) 府は,平成9年3月29日から同年8月31日までの間,久美浜海岸なぎさ緊急保全工事及び久美浜海岸保全施設修繕工事として,海岸の養浜工事を行い,本件提供による砂のうち2379.3立方メートルを養浜のために使用した。また,他に養浜に使用するための砂を業者から1立方メートル当たり4000円の単価で1260立方メートル購入した。
24 町は,更に,本件工事が実施されている平成8年12月から平成9年3月までの間に,本件工事の用地提供等の協力者である4人の個人に対し,各人の所有地を埋め立てる目的で,本件砂のうち1072.6立方メートル,650.1立方メートル,620.0立方メートル,250.8立方メートルずつ(合計2593.5立方メートル)をそれぞれ無償で提供して贈与した(これらの贈与を以下「本件贈与」という。)。
25 久美浜町の住民らで構成する権利能力なき社団である原告は,平成10年3月3日,町監査委員に対し,本件砂の処理の実態を明確にすること及び本件砂の代金が町の歳入として収入されていないことは法210条に違反するなどとして町の行政責任を追及することをそれぞれ求める住民監査請求を行い,同監査委員は,平成10年4月28日,原告に対し,本件砂の処分が違法であるとの認定を行わずに実質的には原告の監査請求を排斥する判断をし,本件砂のうちF敷地へ運搬された分について,その管理及び処分の実態を明らかにすること等を久美浜町長へ要請することを明記した書面により,その旨原告に通知した。
26 原告は,平成10年5月28日,当庁に本件訴訟を提起した。
27 町は,平成10年5月11日,本件横領行為の問題を調査するために町助役I(以下「I助役」という。)を委員長とする調査委員会(以下「町調査委員会」という。)を設置した。また,町議会も,同年6月22日,本件横領行為の問題を調査するために,法100条に基づき委員会(以下「100条委員会」という。)を設置した。
28 町調査委員会は,同月25日及び26日に,E,Hなどの関係者から事情聴取を行い,J町長(J町長は,平成9年5月25日,久美浜町長選挙により選出された。)は,町調査委員会の報告に基づき,Eらに対し,同人らが地方公務員法33条等に違反した趣旨が記載された告知書を交付した。
29 100条委員会は,平成10年6月30日から同年12月17日までの間,合計22回開かれ,同月21日付けで町議会議長あてに最終報告を行った。この最終報告において,Eと被告Bの本件共謀,EとFとの本件売買契約の締結及び履行(ただし,売買代金額は1640万円とされている。)があったことなどが報告された。
30 J町長は,町調査委員会及び100条委員会の調査結果等に基づき,検討した上,本件横領行為への対応について,E,被告BやFに砂の現物の返還を求め,返還される砂を養浜工事に用い,事態を収束する方針を決定し,I助役に被告B,E及びFと砂の返還交渉をするように指示した。
31 このようにして,被告B,E,H及びI助役は,平成10年8月11日,「久美浜町が平成8年度事業で実施した町道砂丘史跡線道路工事において発生した砂と同種・同量(10,029,7?※)の砂を平成10年12月末日までに久美浜町に返還します。ただし,砂採掘現場の都合等により搬出が遅れる場合が予想されるため,その場合は久美浜町と協議し,平成11年3月までには,全量返還致します。」と記載された確約書(以下「本件確約書」という。)を作成し,被告B,E及びFが町に砂を返還する旨の合意をした。
32 町は,平成10年11月ころから,被告B,E及びFに対し,本件確約書による合意に基づき,砂の返還を要求し,被告B及びFは,2回,町に検査用の砂のサンプルを提出し,町は,同サンプルを検査し,同被告及びFに対し,検査結果として同質の砂と判断できない旨伝えた。
33 町は,平成12年8月11日,被告B,E及びFに対し,本件確約による合意に基づく砂の返還と代償請求として1立方メートル当たり2700円の金員の支払を求める別件訴訟を提起し(京都地裁宮津支部平成12年(ワ)第31号,回付後は京都地裁平成13年(ワ)第2752号事件),その後,Fに対しては,訴訟外で和解をする予定で訴えを取り下げたが,被告B及びEに対する訴えは,現在当庁(本件と同一の合議体)に係属中である。
二 争点1(本件横領行為についての被告らの責任の有無)について
1 まず,本件砂の管理についての被告らの責任(争点1の原告の主張(2)(3)①)について検討する。
(1) 前記認定事実によれば,本件砂は,町の所有地から残土として発生したもので,町の所有に属するものであるが,これが法239条1項所定の物品であるとしても,法238条1項3号の公有財産であるとしても,いずれにしても,町長であった被告Aには,その本来的管理権があるというべきであるが(法149条6号),助役であった被告B,参事兼建設課長であった被告C及び上下水道課長であった被告Dには,その管理権限はなかったものと解される(法170条ほか)。そうすると,原告の本件訴えのうち,被告B,被告C及び被告Dに対する法242条1項4号前段に基づく請求部分は,いずれも不適法というべきである。
(2) そして,本件砂の本件横領行為による町の職員の町に対する責任については,長は民法の規定に基づいて責任を負うが(最1小判昭和61年2月27日・民集40巻1号88頁),長以外の職員については,賠償命令に関する法243条の2第1項の規定があり,同項の規定によれば,このような物を保管又は使用している職員や,法234条の2第1項の監督又は検査(工事の請負契約の適正な履行の確保のために必要な監督又は検査)の権限を有する職員又はその権限に属する事務を直接補助する職員については,故意又は重大な過失がある場合に限って地方公共団体に対して責任を負うものと規定されており,その限りで,民法の規定の適用は排除されるものと解される(法243条の2第9項,最1小判昭和61年2月27日・民集40巻1号88頁,最大判平成9年4月2日・民集51巻4号1673頁)。また,前記の場合以外の職員の非財務会計行為に関する地方公共団体に対する賠償責任についても,法243条の2第1項所定の職員の責任との権衡上,更には国家賠償法1条2項の趣旨に鑑み,同様に,故意又は重大な過失を有する場合に限って,その地方公共団体に対して責任を負うものと解するのが相当である。そして,法243条の2第2項の規定によれば,損害が二人以上の職員の行為によって生じたものであるときは,当該職員は,それぞれの職分に応じ,かつ,当該行為の損害の発生の原因となった程度に応じて賠償の責に任ずるものとすると規定されており,共同不法行為に関する民法719条の適用は排除されているものと解される。
したがって,被告Aは,本件砂の管理及び本件横領行為の阻止について,過失があれば,民法に従って町に対して損害賠償責任を負うというべきであるが,被告B,被告C及び被告Dについては,本件横領行為に積極的に参加したり(故意),又は職務上の義務に違反して,これを阻止しなかったことについて,故意又は重大な過失がある場合に限って,町に対して賠償責任を負うことになるものと解される。
(3) 前記一で認定した事実関係によれば,被告BとEは,本件共謀によって,町に無断で,町の財産の売却手続によらずに,本件横領行為をしたもので,故意による違法行為者として,町に対して本件横領行為による賠償責任を負うことは明らかである。
(4) 被告Aについては,前記認定事実によれば,町長在任中は,本件横領行為があったことまでは,明確には認識していなかったというべきであるが,平成9年2月14日に,被告Cから本件砂が砂の販売業者であるF敷地に搬入されていたため本件工事が中止されたとの報告を受け,その後,同月19日に,本件工事が再開されたが,Eが本件砂をあくまで砂の販売業者であるF敷地に運搬することを主張して譲らなかったとの報告を受けたのであるから,遅くとも,この時点に至っては,町長として,その職責上,本件砂が不正に処分されようとしているのではないかとの疑いを持ってしかるべきであったといえる。そして,被告Aには,少なくとも,被告Bらを問いただすなり,Fから事情聴取をするなどして調査して,本件横領行為がそれ以上続行されるのを阻止すべき町長としての職務上の義務があったもので,被告Aは,これに違反したもので,過失があったというべきである。本件砂は町有財産であるから,被告Aが指示すれば,それ以後,F敷地へ搬入することは止めることができたと考えられる。被告Aは,少なくとも,平成9年2月20日から本件工事が終了した同年3月28日ころまでの間,本件砂がFへ運搬されるのを阻止すべきであったもので,その義務違反により町に損害を与えたというべきである。
(5) 次に,被告C,同Dについては,被告Cが本件横領行為に積極的に加担したことは認められないし,前記認定事実によっても,本件横領行為を阻止すべき点について,被告C及び被告Dにおいて,軽過失はともかく,重過失,すなわち,著しい注意義務違反があったとまではいえないのであって,本件各証拠を検討しても,それらの点を認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。
(6) すなわち,被告C及び被告Dについては,前記認定事実によれば,同被告らは,平成9年2月19日ころには,E及びGが,本件砂を不正に処分しようとしていることを薄々感づいていたのであるから,本来は,何らかの形で,被告Aへそのことを報告し,町として適切な対応をとるよう強く求めてしかるべきであったともいえそうである。
しかしながら,前記認定のとおり,助役である被告BがF敷地への搬入を少なくとも了解している状況の下で,上記のような措置を採らなかったとしても,前記認定事実による一連の経過に照らし,これをもって著しい義務違反があったものとして,同被告らに重過失があったとまでは認められない。
(7) そうすると,被告Aは,平成9年2月20日以降,町長として,本件横領行為を阻止しなかったことにより町に生じた損害を賠償すべきであり,被告Bは,Eと共に,本件横領行為によって生じた町の損害を賠償する義務を負うことになる(なお,被告Aの前記責任と被告B及びEの責任は,共同不法行為とはいえないと解される。)。しかし,その余の被告らは,本件横領行為に加担したこと又はこれを阻止しなかったことについて,町に対して責任があるということはできない。
2 更に,被告Bの町に対する前記損害賠償義務については,前記認定事実によれば,同被告に対する本件訴訟の係属中である平成10年8月11日ころ,同被告は町との間で本件確約書による合意をしたもので,この合意によって,前記損害賠償義務が消滅するかどうかが問題となる。
(1) そして,前記認定事実によれば,被告Aの後任のJ町長は,町の調査委員会及び100条委員会の各調査結果に基づき,検討した結果,砂の現物を被告B及びE,それにFから返還させる方針を決定し,I助役にその返還交渉を指示し,I助役は,被告B,E及びFと交渉し,これら3名との間で,本件確約書を作成し,本件砂と同種の砂を,Fに搬出したのと同量の1万0029.7立方メートル返還することを約したものである。このような経過からみても,本件確約書による合意は,町と被告B,E及びFとの間で,本件横領行為の責任がこれら3名の者にあることを前提としてされたもので,被告Bについては,同被告の前記の損害賠償義務に代えて前記の砂の返還を約する旨の一種の和解契約というべきものである。
(2) ところで,被告Bが町との間でした本件確約書による合意は,町の同被告に対する前記損害賠償請求権を代位行使する本件訴訟が提起されて訴訟係属した後にされたもので,前記合意の内容が前記のとおり,同被告の損害賠償義務を消滅させるものであるとすると,そもそも法242条の2第1項4号の訴訟が提起された後,当該自治体がこのような和解契約をすることができるかどうかも問題となるところである。そして,一般に,債権者代位訴訟においては,債権者代位権行使の着手があり,その旨の通知ないし債務者の了知があれば,債務者は代位の目的たる債権を処分することができなくなると解されている(最3小判昭和44年9月2日・訟務月報16巻1号1頁参照)。
しかし,法242条の2第1項4号に基づく住民訴訟が係属中であっても,当該地方公共団体の長が,同訴訟によって代位請求されている権利について,法243条の2第3項の規定に従って,賠償命令を発することはできると考えられ(最3小判平成6年11月8日・最高裁裁判集民事173号277頁及び原審の大阪高判平成5年5月25日・判時1504号75頁参照),更に,当該地方公共団体がその権利を処分する内容の和解契約をすることもできるものと解するのが相当である。なぜなら,一般の債権者代位の場合には,その行使がある以上,債務者の権利の処分制限を認めないと代位権者の権利を保全することができないのに対し,法242条の2第1項4号の住民訴訟の場合においては,住民訴訟制度の趣旨に照らしても,上記の住民訴訟が係属したということ自体を理由として,地方公共団体が有しているその権利の本来の処分権限が制約される理由はないし,上記の住民訴訟が代位形式になっているのは,一般の債権者代位の場合とは異なり,訴訟技術的配慮に基づくものと考えられるからである(最1小判昭和53年3月30日・民集32巻2号485頁参照)。
(3) また,地方公共団体が有する債権について,法240条2項,3項は,普通地方公共団体の長は,債権について,政令の定めるところにより,その督促,強制執行その他その保全及び取立てに関し必要な措置をとらなければならない旨,政令で定めるところにより,徴収停止,履行期限の延長,又は当該債権に係る債務の免除をすることができる旨を規定し,地方自治法施行令(以下「令」という。)171条以下においては,普通地方公共団体の長は,債権について,履行期限までに履行しない者があるときは,期限を指定してこれを督促しなければならないこと,普通地方公共団体の長は,この督促をした後相当の期間を経過してもなお履行されないとき,担保が付されておらず,かつ,債務名義もない債権については,訴訟手続による履行を請求しなければならないこと,損害賠償金につき,債務者がその債務の全部を一時に履行することが困難であり,かつ,弁済につき特に誠意を有すると認められるときは,履行期限を延長する特約をしたり,処分をすることができること(令171条の6)等が規定されている。
(4) 前記認定事実によれば,本件確約書による合意は,町において,町調査委員会及び100条委員会の調査結果を基に本件横領行為については,被告B,EそれにFに責任があるとの前提の下にされたもので,その内容からみても,町としては,財務会計上も不利益なものではなく,むしろ,損害回復のための適切な措置として行ったものと評価し得るというべきで,地方自治体の債権の管理という法的観点からみても,少なくとも,その法的効力がないものとはいえないというべきである。
(5) 以上からすると,被告Bに対する前記の損害賠償義務は,本件確約書による合意によって消滅したもので,町は,同権利のいわば代替物ともいうべきである本件確約書による砂の返還請求権を有することになり,前記認定事実によれば,町はこれを行使していることになるというべきである。
3 なお,原告の主張の中には,被告Aに対し,町長として被告B及びEに対する前記損害賠償請求権の行使を怠ったことにより,町に損害を与えたとの主張もあると解される(法242条の2第1項4号前段の関係)。そして,前記認定事実によれば,被告Aは,平成9年2月20日には,被告Bらを問いただすなどして本件砂の処理について調査すべき義務を負っていたというべきであり,更に,本件横領行為が判明すれば,それまでに既にF敷地へ搬入された本件砂について,Fに対する損害賠償請求をすべきであったのにそれを怠ったものというべきではある。しかし,それによって,直ちに町に損害が発生したものとはいえないし,前記認定・判断のとおり,その後,町は,100条委員会の調査結果等によって,本件横領行為を知るに至り,Eや被告B,それにFに対して本件確約書による合意をし,更に,その履行を求めているのであるから,いずれにしても,被告Aの前記の損害賠償請求権の行使の怠りによって,町に損害を与えたものとはいえず,その立証はないというべきである。
4 そうすると,争点1については,前記のとおり,被告B,被告C及び被告Dに対する法242条1項4号前段の関係の請求部分が不適法となるほか,被告Aは,前記のとおりの範囲で,町に対して責任を負うものであるが,被告Bに対する前記の損害賠償請求権は,すでに消滅したもので,また,被告C及び被告Dは,本件横領行為について町に責任を負うとはいえない。
三 争点2(本件提供による被告Aの責任の有無)について
1 前記認定事実によれば,京都府への本件提供は,京都府がその管理に係る久美浜町の海岸の浸食箇所の復旧工事をするために,町と京都府との間の合意に基づいてされたものであって,法律上は,町の京都府に対する法232条の2の規定による寄付で目的が定められたものであると解される。そして,本件提供による砂は,前記の合意に基づいてその目的のとおりに使用されたものであって,かような目的が法232条の2の規定による「公益上必要がある場合」に該当することも明らかである。
2 原告は,本件提供自体についても,対象となった砂の価格が700万円を超えることになるから,本件条例3条の規定によって,議会の議決を必要とすると主張する。確かに,前記認定事実によれば,本件砂は,砂の販売業者であるFが代金合計1840万円で買い受けたものであることからも明らかなとおり,本件各証拠によれば,コンクリート用としても相当な財産的な価値があるものと認められ,本件条例3条の文言上は明確ではないが,その趣旨からすると,京都府への寄付自体についても,議会の議決が必要であったと解するのが相当である。
3 しかしながら,前記認定事実によれば,平成8年12月20日の町の議会において,本件工事の請負契約に関する議案の審議として,本件残土として発生した砂の処分についても,京都府の海岸の浸食箇所の復旧工事のために提供されることが示された上で,それについて具体的に質疑応答されて,議案が可決されており,これにより,本件提供による寄付についても,実質的には,議会の承認を得たとも解し得る。
4 したがって,被告Aが,京都府に本件提供をしたことにつき,議会の議決を欠いているから違法であるということはできない。
5 府への本件提供について,被告Aに原告主張の責任があるとはいえない。
四 争点3(本件贈与による被告Aの責任の有無)について
1 前記認定事実及び本件各証拠によれば,町は,かねてから,京都府からだけでなく,地元の農家からも砂の提供の依頼を受けており,実施する建設工事によって発生する残土としての砂の処理について一応の方針をもっていたこと,平成8年12月20日の町議会において,本件工事の請負契約の議案についての審議の中で,残土の処理について,個人の畑の造成のためにも提供することもあり得るとの答弁が町側からされており,その後,この議案が可決成立し,その中で,本件工事の実施により残土として発生する砂については,指定処分とされていること,本件贈与については,本件砂の内の合計2593.5立方メートルを4名の個人に対して,各人の所有地(町の所有地や府の管理地ではないと推認される。)を埋め立てる目的で,それぞれ約250立方メートルから1072.6立方メートルずつ無償提供されたものであること,以上が認められる。このような事実関係の下では,個人に対してその所有地の埋立てに使用する目的で贈与するというのは,本件提供の場合と異なり,その公共性の程度に相当異なるものがあることは確かである。
2 しかし,前記認定事実によれば,本件贈与にも,公共の必要性があるものと一応認められるし,町有の残土の処理をどのようにするかは,原則として,被告Aの長としての裁量の範囲内の行為というべきであって,各人へのそれぞれの贈与の事情等がほとんど明らかになっておらず,原告から更に具体的な主張・立証がない以上,本件贈与が,法232条の2の要件を逸脱したとまではいうことはできない。
3 原告は,本件贈与についても,本件条例3条により議会の議決事項として,具体的に議会の承認決議を得るべきであるとも主張する。しかし,前記認定事実のとおり,町の議会において,本件工事の請負契約についての議案の審議の際に,砂の提供を求めた農家に贈与されることがあること自体については,質疑がされて同議案が承認されて可決されたもので,これにより,実質的には,議会の承認を得て可決されたものともみることができる。のみならず,後記五のとおり,本件砂の当時の時価は,1立方メートル当たり2500円であったと認められ,そうすると,具体的な本件贈与自体について議会の議決を要するとしても,本件贈与において各人に対して贈与された砂の価格は,最も高額になる1072.6立方メートルの贈与を受けた者についてみても,本件条例3条でいう予定価格(贈与の場合には当時の時価と解される。)の700万円を下回ることになるから,いずれにしても,本件贈与をもって,財務会計法規上違法であるとまではいえないというべきである。
4 本件贈与について,被告Aに原告主張の責任があるとはいえない。
五 争点4(町の損害額)と被告Aの町に対する損害賠償義務
1 被告Aの前記の義務違反による町に対する責任について検討すると,本件各証拠(特に,甲83,84,101)及び弁論の全趣旨によれば,本件工事が実施された当時の本件横領行為によって売却された砂の価格は,1立方メートル当たり,2500円であったもので,本件横領行為によって売却された本件砂全部の価格は,合計2507万4250円であったと認められる。そして,本件各証拠上,平成9年2月20日以降同年3月28日ころまでの間に本件横領行為によってF敷地へ搬出された本件砂の量を正確に把握するのは困難ではあるが,本件工事期間と前記の期間の割合から,全体の搬出量の3分の1に当たる少なくとも835万8083円相当の損害が町に生じたものと認められる。
2 そうすると,被告Aは,町に対して,835万8083円及びこれに対する本件訴状が同被告に送達された日の翌日である平成10年6月6日から(民法上の債務不履行責任と解されるので,催告の時から遅滞になると解される。)支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うというべきである。
第四結論
原告の本件訴えのうち,前記二の1(1)の不適法である部分はこれを却下し,本件請求中,被告Aに対する請求のうちの前記第三の五の部分は,その限度で理由があり,その余の部分は,いずれも,理由がないことに帰する。なお,仮執行宣言を付するのは相当ではない。よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 古谷恭一郎 裁判官 谷田好史)
<編注:『※』部分は原文のとおり。>