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京都地方裁判所 平成11年(ワ)1774号 判決 2002年12月27日

原告 国

代理人 大濱寿美 樋上浩司

被告 A ほか2名(仮名)

主文

一  被告Aは、原告に対し、

1  別紙・物件目録<略>6のコンクリートブロック塀を撤去して、同目録<略>1の土地を明け渡せ。

2  同目録<略>7の建物を収去して、同目録<略>2、3の土地を明け渡せ。

3  同目録<略>8の建物を収去して、同目録<略>4、5の土地を明け渡せ。

二  被告Bは、原告に対し、同目録<略>7の建物から退去して、同目録<略>2、3の土地を明け渡せ。

三  被告Cは、原告に対し、同目録<略>8の建物から退去して、同目録<略>4、5の土地を明け渡せ。

四  被告らは、原告に対し、それぞれ、別紙・支払金員目録<1>ないし<3>の「支払金員」欄のとおりの各金員及びこれらに対する、それぞれ、同目録<1>ないし<3>の「起算日」欄のとおりの各日から支払済みまで年8.25パーセントの割合による各金員を支払え。

五  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  主文第一項ないし第三項と同旨。

二  主文第四項と同旨。

三  上記第二項の請求が認められるときを解除条件として

1  被告Aは、原告に対し、以下の各金員を支払え。

(1) 5万6205円

(2) (1)の内4万4352円に対する平成13年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員

(3) 平成13年4月1日から本件土地1の明渡済みまで1日当たり11円68銭の割合による金員

(4) 下記の※に、平成13年4月2日から、本件土地1の明渡済みの翌日までの各日を、順次当てはめて算出される各金額を、順次加算した合計額の金員

(3)記載の金員のうち11円68銭に対する※から支払済みまで年5分の割合による金員

2  被告A及び同Bは、原告に対し、各自、以下の各金員を支払え。

(1) 558万3790円

(2) (1)の内440万6192円に対する平成13年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員

(3) 平成13年4月1日から本件土地2及び3の明渡済みまで1日当たり1161円15銭の割合による金員

(4) 下記の※に、平成13年4月2日から、本件土地2及び3の明渡済みの翌日までの各日を、順次当てはめて算出される各金額を、順次加算した合計額の金員

(3)記載の金員のうち1161円15銭に対する※から支払済みまで年5分の割合による金員

3  被告A及び同Cは、原告に対し、各自、以下の各金員を支払え。

(1) 192万8757円

(2) (1)の内金152万1990円に対する平成13年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員

(3) 平成13年4月1日から本件土地4及び5の明渡済みまで1日当たり401円08銭の割合による金員

(4) 下記の※に、平成13年4月2日から、本件土地4及び5の明渡済みの翌日までの各日を、順次当てはめて算出される各金額を、順次加算した合計額の金員

(3)記載の金員のうち401円08銭に対する※から支払済みまで年5分の割合による金員

四  主文第五項と同旨。

五  仮執行宣言。

第二事案の概要

本件は、原告国が、その所有に係る別紙物件目録<略>1ないし5の土地(以下、番号に従って「本件土地1」などといい、一括して「本件各土地」ともいう。)について、被告らとの間で、転用貸付契約を締結し、被告らはこれに基づき本件各土地を占有、使用してきたが、被告らが転用貸付料を支払わなかったことから、被告らとの間の上記転用貸付契約を解除したところ、その後も被告らが本件各土地上に同目録<略>6のブロック塀(以下「本件ブロック塀」という。)や同目録<略>7、8の建物(以下、番号に従って「本件建物7」、「本件建物8」という。)を所有するなどして本件各土地を占有し続けているなどと主張して、被告らに対し、本件各土地上の本件ブロック塀、本件建物7、8を撤去、収去、又は退去して、本件各土地の明渡しを求めるとともに、主位的に、上記転用貸付契約に基づくそれぞれの平成10年3月31日までの未払賃料及びこれらに対する遅延損害金の支払を、予備的に、不当利得に基づく賃料相当額の金員の支払及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実、並びに後記第三の一掲記の本件各証拠<略>及び弁論の全趣旨により認定できる事実は、以下のとおりである。

1  京都市○○(以下、本件各土地以外の同町の土地は、地番のみで表示する。)所在の本件各土地及びその周辺一帯の土地は、第2次世界大戦前ころから、原告(国)の所有であった。

2  本件土地1については、昭和39年3月5日付で、所有者を農林省(現在の農林水産省、以下、当時の農林省であっても「農林水産省」と表示する。)とする所有権保存登記がされ、平成3年7月6日付で、原因を平成3年6月25日所管替、所有者を大蔵省とする登記が経由されている。また、本件土地2ないし5については、いずれも、平成2年1月16日付で、所有者を農林水産省とする所有権保存登記が経由され、平成3年7月6日付で、原因を平成3年6月25日所管替、所有者を大蔵省とする登記手続が経由されている。

3  本件土地1、2、4及びその周辺の各土地の位置関係は、別紙図面2<略>のとおりであり、本件建物7と本件土地2、3及び42番2、44番2の各土地等との位置関係は、別紙図面2<略>、3<略>のとおりである。

4  被告Aは、44番2の土地の北側付近に本件ブロック塀を設置してこれを所有し、その南側部分を庭の一部として利用・占有し、また、本件建物7を所有し、その敷地及びその利用道路として本件土地2及び3を占有し、さらに、本件建物8を所有し、その敷地及びその利用道路として本件土地4及び5を占有している。

5  被告B及び同Cは、被告Aの子である。

6  本件各土地を含む○○、△△及び□□の周辺一帯の土地(以下「本件周辺土地」という。)は、第2次世界大戦中、旧軍所管の土地であり、同大戦中、軍需工場の建設等のため朝鮮半島等から徴用されてきた作業員らが居住していた。その後、終戦による、旧軍の解体に伴い、本件周辺土地の所管は、当時の大蔵省(現在の財務省、以下、「大蔵省」という。)に引き継がれ、更に、昭和22年の自作農創設特別措置法の制定によって、農地開拓用財産として、農林水産省に所管換えされた。その後、同法は、昭和27年法律230号で廃止されたが、同法を承継した農地法78条1項に基づき、農地開拓財産として、農林水産省の所管とされ、この農地開拓財産は、農地法施行令15条により、近畿農政局長が管理するとともに、一部の権限(土地を省令で定める手続により貸し付ける権限等)が京都府知事に委任された。

7  そして、第2次世界大戦中から居住していた者、及び戦後他の土地から移転してきた者などが、本件周辺土地上に密集して居宅を建て、居住するようになった。

8  原告は、本件周辺土地の所管を農林水産省から大蔵省へ移転し、普通財産とした上で、居住者らに売払又は貸付をする方針を立て、かかる方針を各居住者らに告知した。そして、農林水産省は、本件周辺土地に対する権利関係を明確にするため、各居住者らから転用貸付の申込みを受け、自作農創設及び土地の農業上の利用の増進の目的に供し得なくなった旨の農地不要の認定を行った後、農地法78条1項及びこれを受けた農地法施行規則46条の規定に基づく賃貸借契約(転用貸付契約)を締結することとし、各居住者らのうち、国有財産転用借受申込書を提出した者に対し、平成3年6月24日付で一定の貸付料の下に、賃貸期間を同年6月24日から平成4年6月23日までの1年間として、転用貸付を行うという旨の通知を行った。

その後、農林水産省は、上記借受申込書を提出した者らとの間で、それぞれ、その占有する土地についての転用貸付契約を締結した。

9  平成3年6月25日、本件周辺土地のうちの転用貸付契約によって貸付中の土地(以下「転用貸付土地」という。)が大蔵省へ所管替えされ、その結果、大蔵省近畿財務局京都財務事務所(以下「京都財務事務所」という。)が、転用貸付契約を引き継いだ。そして、京都財務事務所は、同日、転用貸付土地をその賃借人に売り払うために、払下げ価格を通知をした(第1次売払)が、一部の賃借人(20名)が買受けに応じたのみで、ほとんどの賃借人は、買受けを拒絶した。

10  その後、京都財務事務所は、平成5年4月16日、第1次売払に応じなかった者に対し、再度、払下げ価格を通知し(第2次売払)、同時に、当該払下げ価格で買い受けできない場合には、転用貸付契約を京都財務事務所との間の国有財産賃貸借契約に変更することを求めた。

11  京都財務事務所は、本件土地1については被告Aが、本件土地2、3については被告Bが、本件土地4、5については被告Cが、それぞれ、賃借人であるとの認識の下に、被告らに対し、平成5年9月30日付で、転用貸付契約を国有財産賃貸借契約に変更するよう催促を行い、同時に、賃料につき、平成3年6月25日から平成6年6月23日までは転用貸付契約における使用料年額と同額とすること、同月24日以降の賃料については、改めて大蔵省の基準により算定することを通知した。

12  京都財務事務所は、被告らに対し、平成5年11月19日付内容証明郵便で、再度、本件各土地につき、国有財産賃貸借契約への変更を催促し、それぞれ、平成3年6月25日から平成5年9月30日までの既往貸付料(以下「第1期間貸付料」という。)を請求すること、納入告知により定める履行期限までに支払いがない場合には延滞金が加算される旨の通知もした。

京都財務事務所は、平成5年12月1日、第1期間貸付料について会計法6条に基づく調査決定を行い、被告らに対し、それぞれ、別紙請求目録記載のとおり、履行期限を同月20日に定めた国の債権の管理等に関する法律13条に基づく納入告知を行った。しかし、被告らは、上記履行期限経過以後、現在に至るまで上記金員を支払わなかった。

13  その後、京都財務事務所は、被告らに対し、平成6年5月23日付内容証明郵便で、同年6月24日から平成7年6月23日までの年額貸付料を増額し、同年6月24日から平成8年3月31日までの期間の貸付料をそれぞれ定め、第1期間貸付料の支払の督促をし、平成5年10月1日から平成6年3月31日までの既往貸付料(以下「第2期間貸付料」という。)について納入告知する旨の通知をした。

京都財務事務所は、平成6年6月8日、第2期間貸付料について会計法6条に基づく調査決定を行い、被告らに対し、それぞれ、別紙請求目録記載のとおり、履行期限を同月27日に定めた国の債権の管理等に関する法律13条に基づく納入告知を行った。しかし、被告らは、上記履行期限経過以後、現在に至るまで上記金員を支払っていない。

14  その後も、京都財務事務所は、平成6年12月1日、平成7年6月20日、平成8年7月23日、平成10年4月20日、被告らに対し、それぞれ、別紙請求目録記載のとおり、履行期限を平成6年12月28日、平成7年7月18日、平成8年8月16日、平成10年5月8日として、同目録「請求期間」欄記載の期間に対応する同目録「請求金額」欄記載の貸付料及び当該期間前の滞納額分の支払を請求したが、被告らは現在に至るまで当該金員を支払っていない。

15  さらに、京都財務事務所は、平成10年5月18日付で、被告らに対し、それぞれ、履行期限を同月29日として、未払いの貸付料及び延滞金の支払を請求したが、被告らは、上記履行期限経過以後、現在に至るまで上記金員を支払っていない。

16  その後、京都財務事務所は、平成10年9月8日付で、被告らに対して上記の貸付料合計金相当額の金員の支払を求める調停を右京簡易裁判所に申し立てると共に(右京簡易裁判所平成10年(ユ)第23ないし25号土地貸付料支払請求調停申立事件)、本件各土地の周辺一帯の土地について、合計18件(本件各土地分も含む。)の同様の調停申立てをした。そのうち、被告ら3件を除く、15件については、相手方は、いずれも、原告主張の内容の国有財産転用貸付契約の存在を認め、土地賃料を支払うとの内容の調停が成立した。しかし、被告らとの間の前記の調停は、平成11年6月29日、不調となった。そこで、原告は、被告らに対し、転用貸付契約に基づき、滞納分の転用貸付料の支払を求める本件訴訟を提起した。

17  その後、原告は、被告らに対し、平成13年5月16日の本件第10回口頭弁論期日において、賃料不払いを理由として、被告Aとの間の本件土地1の、被告Bとの間の本件土地2、3の、被告Cとの間の本件土地4、5の、各転用貸付契約をいずれも解除する旨の意思表示をした。

18  被告Aは、原告に対し、平成13年10月19日の本件第13回口頭弁論期日において、本件各土地の取得時効を援用する旨の意思表示をした。

二  主たる争点及びこれに関する当事者の主張

1  原告と、平成3年6月24日、被告Aとの間で本件土地1につき、被告Bとの間で本件土地2、3につき、被告Cとの間で本件土地4、5につき、それぞれ、転用貸付契約が成立したといえるか(争点1)。

(原告の主張)

被告B及び同Cは、父親のAに手続を依頼し、被告Aは、自らの本件土地1と共に、被告B及び同Cの意思に基づいて、本件土地2ないし5についても、D弁護士に委任し、本件各土地について原告との間で転用貸付契約の手続をした。被告らは、原告との転用貸付契約成立を前提として、国有地売払や賃料額に関する請願を行い、さらには、賃料を一部支払い、被告Aは、国有財産転用借受申込書の成立を認めている。また、委任を受けたD弁護士が関与して転用貸付契約が締結されていること、平成2年10月ころ、被告B及び同Cは、被告Aと同居し、又は近隣に居住していたこと、被告B及び同Cは、平成3年2月22日付で自ら適正な地代を求める請願書を提出していること等の事情からしても、上記のとおり転用貸付契約が成立したことは優に推認し得る。

(被告らの主張)

否認する。被告Aは、払下げ運動に参加していたが、払下げを受けるために必要不可欠な前提手続であると考えて、払下げを受ける資格ないし権利を取得するという認識で国有財産転用借受申込書を提出した。転用貸付契約を締結するために上記申込書に署名・押印したわけではなく、単に法律上必要な便宜的手続であるという認識であった。

被告B及び同Cは、本件周辺土地の払下げについての請願書に連署したことはなく、また、国有財産転用借受申込書に署名・押印したことも提出したこともなく、さらに、D弁護士と面談したことも、委任状を提出したこともない。

また、平成3年6月24日の1日分の転用貸付料は、それまで所管してきた農林水産省から大蔵省へ所管替えするために必要な費用として支払われたものであり、原告との間の転用貸付契約に基づいて支払われたものではない。僅か1日分だけという請求をみてもそのことは明らかである。

2  被告Bが本件土地2、3を、被告Cが本件土地4、5を、それぞれ占有しているといえるか(争点2)。

(原告の主張)

(1) 被告B及び同Cは、それぞれ、本件土地2、3、本件土地4、5を占有していることを本件訴訟中に一旦自白しており、自白が錯誤に基づかない以上、その撤回は、禁反言、又は信義則に反し、許されない。

(2) 被告Bは本件土地2、3の、被告Cは本件土地4、5の、それぞれ、転用貸付契約を締結したものであり、被告Aの占有を通じて間接的にこれらの土地を占有している。

(被告らの主張)

(1) 否認する。被告B及び同Cは、それぞれ、本件土地2、3、本件土地4、5には居住していない。

(2) 被告Bは、本件周辺土地上で生まれ育った後、昭和56年4月、○○大学に入学すると同時に、京都市○○区所在の同大学の学生寮に入って居住するようになり、同大学卒業後の昭和60年4月から当時空家となっていた42番5の土地上の建物に居住するようになった。その後、被告Bは、大阪府○○市へ転居した。

(3) 被告Cは、本件周辺土地上で生まれ育った後、昭和58年4月、東京都○○市内の○○大学校へ入学し、以来同大学の学生寮で居住していた。同大学を卒業後の昭和62年4月から愛知県○○市の□□へ就職し、平成2年3月に退職するまで同市内に居住していた。同被告は、平成2年4月、42番1の土地上の建物に戻って居住するようになり、現在に至っている。

(4) 被告B及び同Cが、それぞれ、本件土地2、3、本件土地4、5を占有していることは、当初の訴訟物(賃貸借契約に基づく賃料請求権)との関係では、主要事実ではない。

3  本件土地1の南側境界線は、本件ブロック塀上にあるか、それとも、別紙図面1<略>のとおり赤線で表示された線上に所在するか。また、被告Aに本件各土地について取得時効が成立するか。また、原告が主張する時効利益の放棄等の事由があったか(争点3)。

(被告らの主張)

(1) 本件土地1について

被告Aは、昭和48年1月16日、本件土地1の南側に隣接する44番2土地を購入し、以来これを所有している。44番の土地から44番2の土地を分筆する際にE測量士補が作成した地積測量図(<証拠略>)によれば、本件ブロック塀は、本件土地1とその南側に隣接する44番2の土地との境界線上にあり、本件土地1の土地上にはない。

また、本件ブロック塀が本件土地1上にあるとしても、被告Aは、本件ブロック塀の南側部分は、44番2の土地の一部であると認識し、同日以来、44番2の土地と一体のものとして庭の一部として使用・占有してきた。したがって、同日から10年の経過で、同被告は、本件土地1の所有権を時効取得した。

(2) 本件土地2ないし5について

第二次世界大戦中であった昭和15年ころ、被告Aの妻のFの実父のGや実母のHらは、朝鮮半島等から徴用されて本件周辺土地に動員されて移住するようになった。そして、この付近一帯の地域に約250棟ほどの平屋建のバラックの宿舎を建て、1棟に6ないし8世帯が入居するようになった。そして、第二次世界大戦後には、国の管理や海軍の管理がなくなり、この付近一帯は、在日韓国朝鮮人によって占有された一種の自治区のような状態になり、占有者らは、国や海軍による指揮監督や拘束を受けることなく、自由に空いている場所に小屋を建てて居住し、畑を作って野菜を栽培して利用し、また、簡単な契約で土地の売買も行っていた。Gらも、バラック小屋で居住しつつ、空いていた部分を畑として耕作し、野菜を栽培するなどして本件土地2ないし5等の占有を始めた。

昭和29年ころ、Gは、畑として利用していた本件土地2上にバラック小屋を建てて居住した。昭和36年ころ、Gが死亡し、Fの弟であるIが本件土地2を相続により取得した。その後、昭和43年ころ、被告Aは、Iから本件土地2及びバラック小屋を300万円で購入し、昭和48年12月1日、同所に工場を新築した。そして、被告Aは、同工場で染色業を営んだ。被告Aは、自ら本件土地2及び3の占有を開始した昭和43年ころから、10年を経過した昭和53年ころ、本件土地2及び3の所有権を時効により取得した。

昭和28年にFと婚姻した被告Aは、昭和34年ころ、本件土地4及び5に移住し、Gから本件土地4及び5を譲り受け、同所にバラック小屋を建てて、住居として使用するようになった。被告Aは、本件土地4及び5の前主であるGから、占有を継承するとともに、自ら占有を開始し、昭和44年ころ、時効により本件土地4及び5の所有権を取得した。

(原告の主張)

(1) 本件土地1とその南側に隣接する44番2の土地との境界線と本件ブロック塀との位置関係は、別紙図面1<略>のとおりである。

(2) 被告Aの占有は、以下のとおり、<1> 他主占有であるか、<2> 他主占有事情があり、<3> 悪意又は有過失であることが明らかであるから、被告Aが本件各土地を時効取得することはない。また、仮に時効が進行していたとしても時効の中断が認められ、さらに、被告Aは、時効の利益を放棄したといえ、あるいは取得時効援用の主張は信義則違反である。

<1> 被告Aは、本件各土地が国有地であることを当然の前提として、本件各土地の払下げを受けることにし、昭和30年ころ以降、払下げを受けるための一連の行動をした。G、I及び被告Aは、いずれも、本件土地2ないし5が国有地であり、同人らが所有権を取得したとするいわれがないことを熟知していた。

被告A及びIは、京都市○○土地払下げに関する委任状(<証拠略>)に署名・押印し、かかる委任状を受けて、本件周辺土地の占有者らの代表者と京都府農林部との間で占有者の特定及び測量について協議が整い、この成果として昭和43年5月30日、各居住者が協力して、164か所の占有区画の測量図(<証拠略>)及び占使用状況調査表(<証拠略>)が作成された。被告Aは、本件土地4及び5の所有者であれば通常とらない態度を示し、又、本件土地2及び3が国有地であり、Iから譲り受けることができないことを知っていた。

<2> 被告Aは、原告(国)に対して境界の立会を求めるなど簡単な調査をすれば容易に本件土地1が国有地で、その南側境界線の所在が別紙図面1<略>のとおりであることを知り得た。被告Aは、平成元年3月3日に境界確認を行っており、これは時効中断事由である承認に該当する。被告Aは、本件土地2ないし5が国有地であることを熟知していた。

<3> 更に、被告Aは、昭和58年1月以降も、本件各土地が国有地であることを前提とした行動をとっていた。

第三当裁判所の判断

一  <証拠略>によれば、以下のとおり認められる。

1  昭和40年前後ころから、本件周辺土地の一部について、居住者らから払下げの要望が起こったため、国は、居住者らに対し、占有関係を明らかにするよう協力を求めた。被告A及びIは、昭和39年4月25日付で「朝鮮人○○生活権擁護対策委員会」が京都府農林部長宛に提出した「京都市○○土地払下に関する委員状」に署名・押印をした。その後、居住者らと京都府農林部との間で占有者の特定及び測量についての協議が整い、昭和43年5月30日付で、本件周辺土地について、164か所の占有区画の測量図及び占使用状況調査表が作成された。

被告Aは、昭和58年4月18日、京都府農政課を訪問し、本件土地4、5の払下げを希望して、京都府の担当者と交渉した。

その後、昭和63年ころになると、居住者らの間で、「○○町土地払下げ推進実行委員会」が組織されるなどして、京都府、京都市及び近畿農政局等に対し、本件周辺土地について急速にそれぞれの居住者に払下げをするよう求める運動が起こり始めた。

2  ところで、平成元年ころ、本件周辺土地は、居住者らが居宅や工場を密集して建築し、居住者らが立ち退かない限り、これを農地として活用することができない状態にあり、また、市街化区域内にあったことから、農地として活用することは実情にも合わない状態であった。

そこで、農林水産省は、このような現状を踏まえ、農地法80条1項の規定による不要地認定を行うとともに、各居住者に対し、国有財産転用貸付を行い、大蔵省に所管替えをするという方針を採ることとした。農林水産省においては、その所管する土地について、将来的に耕作等の用に供することができない土地については、農地法80条による不要地認定を行い、同法施行規則46条による転用貸付を行った後、前主に売払をし、又は所管替えを行って大蔵省所管の普通財産として売払若しくは貸付を行うことになっていた。

3  農林水産省は、前記の基本方針に基づき、平成元年3月ころ、本件周辺土地に隣接する民有地、道路、水路等の公共物の境界を確定する作業を行い、隣接民有地所有者の現地立会の下に、それぞれ、境界確定の協議が行われ、その結果、本件周辺土地の各地の境界は、同年12月27日付の元農政第○○号により確定した。

4  本件土地1についても、国の機関委任事務として管理していた京都府知事は、平成元年3月3日、被告Aに対し、分筆前の旧43番土地と被告A所有に係る42番1土地及び44番2の土地との境界を確定するため、現地立会を求めた。被告Aは、本件ブロック塀が44番2の土地上にあると考えていたので、一旦異議を申し立てたが、その後、平成2年10月4日付で、京都府職員及び京都府から測量委託を受けた牧草コンサルタンツ株式会社の3者で現地立会を行った結果、本件土地1と44番2土地との境界について同意をした。その内容によれば、本件土地1と本件ブロック塀及び44番2の土地との位置関係は、別紙図面1<略>のとおりであり、本件ブロック塀は、本件土地1の地上にあることになる。被告Aは、本件ブロック塀及びその南側の本件土地1を自己が所有する44番2の土地と一体として庭の一部として使用していたが、本件ブロック塀の設置部分及び庭の一部として使用している本件土地1は国有地であることを明確に知っていた。そして、被告Aは、同日、このように確認された本件土地1と44番2の土地との境界についての立会証明書(<証拠略>)に署名・押印して提出した。また、被告Aは、平成元年3月9日、本件土地2ないし5の境界協議に立ち会い、各境界につき同意をした。

5  ところで、被告Cは、平成2年4月ころ、愛知県から実家である本件建物8に戻り、以後、本件建物8や42番1の土地上に建てられていた建物に居住するようになった。同被告は、平成13年ころに京都市○○区に転居したが、現在も本件建物8には被告Cの衣類等が存置されている。

被告Bは、平成3年4月ころまで、本件建物8、京都市○○区にある○○大学の学生寮及び42番5の土地上の建物に居住していた。同被告は、その後、大阪府○○市に転居したが、平成14年3月ころには、再び、42番5の土地上の建物に転居し、現在もそこに居住している。

6  京都財務事務所は、平成2年6月21日ころ、本件周辺土地の貸付や払下げについて、居住者らに対する説明会を開催し、前記の基本方針を説明し、それぞれ、各居住者は、同年8月15日までに国有財産転用借受申込書及び国有財産買受確約書を提出するよう求めた。

7  被告Aをはじめとする居住者らの一部の者は、上記説明会を受けて、原告側が払下げ価格等を一方的に決定することについて不安を抱き、平成2年7月ころ、京都府府議会議員を務めたこともあったD弁護士に対し、払下げ価格等について原告と交渉することを依頼した。そこで、D弁護士は、被告Aらに対し、委任状の用紙を約70枚交付し、払下げ価格を低額にするように交渉するが、仮に払下げ価格が被告Aらにとって高額であり、払下げを受けることができない場合には、適法な占有権限を得るために原告との間で賃貸借契約を締結する必要があることなどを説明し、被告Aらはこれを了解した。

8  その後、平成2年8月下旬から同年10月にかけて、D弁護士の下に、居住者らから、委任状65通、転用借受申込書及び買受確約書各20通が届けられた。被告Aも、D弁護士に対し、同被告が本件土地1について、被告Bが本件土地2、3について、被告Cが本件土地4、5について、それぞれ、転用借受けの申込みをする趣旨の各国有財産転用借受申込書(<証拠略>)及び「京都市○○の国有地につき、国(所管・農林水産省、大蔵省)と賃貸借契約、売買契約を締結する一切の事項」について委任する旨記載されている各委任状を同弁護士に交付し、同弁護士に農林水産省(近畿農政局)と交渉して転用借受の申込みをするとことを委任した。

前記の国有財産転用借受申込書及び委任状のうち、被告A名義のものは、もちろん同被告自ら作成したものであり、被告B及び同C名義のものも、いずれも同被告らの意思に基づいて作成されたものであった。そして、被告B及び同Cは、D弁護士に原告との交渉を委任することを含め、それぞれ、本件土地2、3及び本件土地4、5について転用借受の契約をすること等の一切を父親である被告Aに委ね、代行させることにしていた。

9  その後、D弁護士は、平成2年10月2日、被告らの本件各土地に関するものを含め、受け取った国有財産転用借受申込書、国有財産買受確約書及び委任状をまとめて京都府農林水産部農政課に提出した(借受申込書及び買受確約書各20通、委任状65通)。その際、D弁護士は、転用貸付による貸付料の設定について、過去の経過を踏まえた上、通常の積算基礎によるのではなく、特例的な扱いをするように要望した。これに対して、京都府の担当者は、過去10年間の使用料を徴収するのが通常であるが、過去の経過を踏まえ、1日分のみの使用料を徴収する予定であることなどを説明したところ、D弁護士は、期間の問題ではなく、基礎となる数字が問題であることなどと主張した。

10  その後、各居住者らは、適正な貸付料を請願するため、被告Aを請願代表者として、平成3年2月22日、D弁護士作成に係る「国有地の適正な地代設定の要請に対する請願」を京都市議会に提出した。同請願書は、同年3月12日、京都市議会本会議において、請願第○○号として採択された。

また、各居住者らは、同様に、被告Aを請願代表者として、同年3月2日、D弁護士作成に係る「適正な地代の設定に関する請願」を京都府議会に提出した。同請願書は、同月8日、京都府府議会本会議において、請願第○○号として採択された。

さらに、その間、D弁護士は、平成3年3月1日付で、各居住者ら64名を上申者(被告Aが代表者)として、京都府農政課に対し、本件周辺土地を目的とする賃貸借契約の地代について配慮を求める上申書を農林水産大臣宛で提出した。

11  その後、農林水産省から委任を受けた近畿農政局長は、平成3年6月24日、このようにして転用借受後の申込みをした者ら(以下「各申込者」という。)に対し、それぞれ、国有財産管理の所管部局が京都財務事務所に変更された旨の文書、並びに、平成3年6月24日分の転用貸付料を原告に納入するための予算決算、及び、会計令29条に定める納入告知書を同封して、簡易書留郵便で送付した。また、近畿農政局長は、同日付で、京都財務事務所長に対し、農地法施行規則46条により申込みをした者らに転用貸付が有効に行われたこと、及び、同日付で大蔵省に所管替えする旨の通知を行った。

12  各申込者は、上記納入告知書により、平成3年6月24日分の転用貸付料を歳入徴収官近畿農政局農政部長に納付し、被告Aは、本件土地1の転用貸付料だけではなく、被告B及び同Cの本件土地2ないし5の分についても、同被告らに代わって納付した。

13  その後、京都財務事務所は、平成3年6月25日、本件周辺土地のそれぞれの払下げ価格を各申込者に通知した。

14  各申込者は、平成3年7月18日、○○町国有地払下げ対策委員会代表Jを代表者として、被告Aらを含む119名分の署名簿を添えて京都財務事務所に対し、歴史的背景を踏まえて払下げ価格を決定されたいという旨の要請を行った。その後、各申込者のうち20名の者は、原告が通知した払下げ価格で買い受けることに応じたが、被告らを含む99名の者は、払下げ価格が高額に過ぎるという理由で買い受けなかった。

15  その後、平成5年10月ころまでに、上記99名のうち約70名の者は、払下げを受け入れたが、被告らは、やはり、払下げ価格が高額に過ぎることを理由に、本件各土地の払下げを受けなかった。

16  そこで、京都財務事務所は、被告らに対し、平成5年9月30日付で、転用貸付契約を国有財産賃貸借契約に変更するよう催促を行うとともに、転用貸付料につき、平成3年6月25日から平成6年6月23日までは転用貸付契約における使用料年額と同額とすること、同月24日以降の転用貸付料については、改めて大蔵省の基準により算定することを通知した。しかし、被告らは、転用貸付料を支払わなかった。

17  その後、京都財務事務所は、被告らに対し、前記第二の一のとおり、平成5年11月19日及び平成6年5月23日付内容証明郵便で、転用貸付料の支払及び転用貸付料の増額の通知を行うとともに、それぞれ、平成5年12月1日及び平成6年6月8日付で、被告らに対して納入告知を行ったが、被告らは、これらを支払わなかった。また、それ以後も、京都財務事務所は、被告らに対し、前記第二の一のとおり、滞納分の転用貸付料を請求したが、被告らは、現在に至るまで、これらを支払っていない。

18  被告Cは、平成6年ころ、払下げ価格及び転用貸付料が高額であることについて抗議するため、京都財務事務所を訪問した。京都財務事務所の職員は、被告Cに対し、本件周辺土地の転用貸付契約は農林水産省(近畿農政局)の権限で行われたこと、農林水産省から所管替えを受けた大蔵省(京都財務事務所)は、財政法、会計法及び大蔵省の通達に基づき、本件周辺土地の売払又は貸付をしなければならないこと、及び、売払又は貸付の実行のためには農林水産省との間の転用貸付契約が不可欠であることなどを説明した。その際、被告Cは、農林水産省に平成3年6月24日分の転用貸付料を支払ったことを認めた。

二  争点1について

1  前記認定事実によれば、被告Aは、本件土地1が原告(なお、当時の所管は農林水産省であった。)の所有であることを認識した上で、D弁護士を代理人として、農林水産省に対して国有財産借受申込書を提出し、また、自らの意思で平成3年6月24日分の転用貸付料を支払ったものであり、原告との間で、遅くとも転用貸付期間の始期である平成3年6月24日付で、本件土地1につき転用貸付契約を締結したことが認められる。また、<証拠略>によれば、被告B及び同Cは、父親である被告Aに本件土地2ないし5について転用貸付契約締結に至る手続をすることを包括的に委ねていたもので、被告Aの場合と同様に、遅くとも転用貸付期間の始期である平成3年6月24日付で、被告Bについては本件土地2及び3につき、被告Cについては本件土地4及び5につき、原告との間で転用貸付契約を締結したことが認められる。

2  なお、被告らは、いずれも、原告との間で転用貸付契約を締結する意思はなかったとの主張をする。

しかしながら、<証拠略>によれば、被告Aにおいて、D弁護士に国有財産借受申込書の提出及び払下げ価格等の交渉を委任するに際して、原告との間で本件各土地について転用貸付契約を締結する意思があったことは明らかであり、また、被告B及び同Cにおいても、前記認定のそれまでの経過も認識した上で、被告Aに本件土地2ないし5について原告との間で転用貸付契約を締結すること、そのための手続をすることをD弁護士に委ねていたとみるのが合理的であり、そのように認定するのが相当である。被告らの上記主張は、いずれも、理由がない。

3  また、被告らは、転用貸付契約を締結することが目的であったとすれば、原告が平成3年6月24日の1日分だけの使用料の請求をするだけにとどまるはずがなく、これは、それまで所管してきた農林水産省から大蔵省へ所管替えするために必要な費用として支払われたもので、原告との間の転用貸付契約に基づく使用料として支払われたものではないとの主張もする。

しかしながら、前記認定事実のとおり、原告は、被告らに対し、本来であれば過去10年間の使用料を徴収するのが通常であるが、過去の経過を踏まえて、1日分のみの使用料しか徴収しないという方針を採ったものであり、また、平成3年6月25日には大蔵省に所管替えが行われている以上、平成3年6月25日以降の使用料については、そもそも農林水産省がこれを請求することはできないといえ、農林水産省が被告らに対し、1日分の貸付料しか請求しなかったものであり、このことは、転用貸付契約を締結するにあたり特に不自然とはいえない。

4  以上のとおり、本件各土地は原告の所有に係る土地であり、かつ、平成3年6月24日付で、原告と被告Aとの間で本件土地1について、被告Bとの間で本件土地2、3について、被告Cとの間で本件土地4、5について、それぞれ、転用貸付契約が締結されたと認めるのが相当である。

三  争点3について

1  前記認定事実によれば、本件土地1と本件ブロック塀の位置及び44番2の土地の位置関係は、別紙図面1<略>のとおりであるが、<証拠略>によれば、被告Aは、昭和48年1月16日ころ、本件土地1の南側に隣接する44番2の土地を購入したが、その際、本件ブロック塀が設置されている位置にすでに旧ブロック塀があったこと、そこで、同被告は、本件土地1に属する旧ブロック塀の南側部分も44番2の土地の一部と認識し、以来、44番2の土地と一体として庭の一部として使用するようになり、その間、旧ブロック塀の上に更にブロックを設置して本件ブロック塀としたこと、このようにして、本件土地1を同被告が使用・占有するようになって10年間が経過したこと、被告Aが本件土地1をこのように占有するようになった際、善意・無過失であったこと、以上の事実が認められる。

しかし、その後、前記認定事実によれば、被告Aは、平成元年3月3日、本件土地1と44番2の土地との境界協議に立会い、別紙図面1<略>のとおりの境界であることに一旦は異議を述べたが、その後、平成2年10月4日、結局、そのとおりの境界であることに同意し、立会証明書に署名・押印し、更に、平成3年6月24日付で、本件土地1について、原告との間で転用貸付契約をしたものである。

2  前記の事実関係によれば、被告Aが、昭和48年1月16日ころ、本件土地1を占有するようになってから10年の経過により、民法162条2項所定の取得時効の要件は具備されたというべきであるが、その後、被告Aは、前記のような経過で転用貸付の申込みをしたことにより、信義則上、その時効の利益を主張できないものと解するのが相当である。前記転用貸付契約成立時は他主占有そのものであるので同被告がこれを時効取得することはあり得ない。したがって、本件土地1について、被告らの時効の主張は理由がない。

3  また、前記認定事実によれば、被告Aは、昭和58年4月18日、京都府農政課を訪問して本件土地4、5の払下げについて京都府の担当者と交渉をしたこと、平成元年3月9日、本件土地2ないし5の境界協議に立ち会い、同日付の立会証明書を原告に交付したこと、「国(所管・農林水産省、大蔵省)と賃貸借契約あるいは売買契約を締結する一切の事項」についてD弁護士に権限を委任する旨の委任状を渡し、京都府に国有財産転用借受申込書をD弁護士を代理人として提出したこと、平成3年に京都市市議会あての「適正な地代の設定を求める請願」行動の請願代表者として請願書を提出し、平成3年3月1日付農林水産大臣宛の「上申者らが居住しております京都市○○町の土地は、農林水産省所管の国有地であります。」と記載された上申書を提出したこと、原告の発行した納入告知書により、本件各土地につき、平成3年6月24日分の転用貸付料を支払ったことからすると、前記転用貸付契約をする以前においても、被告Aは、本件土地2ないし5について、真の所有者であれば通常はとらない態度を示していたことが明らかであって、民法162条1項所定の所有の意思がなかったことが優に認められる(最判昭和58年3月24日・民集37巻2号131頁参照)。

4  いずれにしても、被告Aが本件各土地を時効により取得したとの主張は採用できない。

四1  争点1、3について、前記判示のとおりであり、被告らと原告との間で、本件各土地について転用貸付契約が締結されたもので、<証拠略>によれば、原告主張の賃料額はいずれも相当と認められるから、これと前記第二の一、第三の一の認定事実によれば、原告の被告らに対する本件各土地についてのそれぞれの平成10年3月31日までの賃料請求(前記第一の「請求の趣旨」の二)は、すべて理由があり、また、原告の平成13年5月16日付(同月10日提出)の準備書面による解除の意思表示は、同月11日、被告ら訴訟代理人に送達され、同月16日の口頭弁論において陳述されたことが記録上明らかであるから、被告らの本件各土地の転用貸付契約は、賃料不払いにより解除されたものであり、被告Aは本件土地1につき、被告Bは本件土地2、3につき、被告Cは本件土地4、5につき、それぞれ、契約終了に基づいて原告に対して明渡義務を負うものであり、原告の被告Aに対する本件土地1の、被告Bに対する本件土地2、3の、被告Cに対する本件土地4、5の各明渡請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由があるというべきである。なお、被告らは、本件周辺土地に、第2次世界大戦中、日本政府が海軍の軍需工場の建設工事等の作業に従事させる目的で多数の韓国朝鮮人を強制的に連行するなどして居住させた経緯等についても主張するが、その主張内容は、あくまで、本件紛争の経緯及び背景としての主張であることが明らかであって(例えば、平成14年10月8日付被告ら準備書面の冒頭の部分)、いずれにしても、前記判断を左右するものとはいえない。

2  そして、前記認定事実によれば、被告Aは、本件建物7を所有してその敷地である本件土地2、3を占有し、本件建物8を所有してその敷地である本件土地4、5を占有しているから、原告の本件各土地の所有権に基づく同被告に対する本件建物7、8を収去して、本件土地2ないし5の明渡しを求める請求も理由があるというべきである。

3  なお、<証拠略>によれば、本件建物7、8は、いずれも、被告B及び同Cの父親である被告Aの所有に係る建物であり、被告Bは、平成3年4月ころまで本件建物8や近隣の42番5の土地上の建物に居住しており、その後、平成14年3月以降も同建物に居住していること、被告Cは、過去に数か月間は本件建物8に居住しており、その後、平成13年ころに現在の京都市○○区の住居に移転するまでの間は、近隣の42番1の土地上の建物に居住していたこと等の事実が認められ、これらと<証拠略>を総合すれば、被告Cは本件建物8を、被告Bは本件建物7をそれぞれ占有していると認めることができる。

4  また、被告らは、本件建物7が一部44番2や42番の土地上にも所在することから、原告は、本件建物7の全部の収去を請求することはできない旨の主張をする。

しかしながら、本件建物7と本件土地2の位置関係は、別紙図面3<略>のとおりであり、本件建物7の大半は本件土地2上に存在することが明らかであり、このような場合に、同建物の本件土地2の範囲部分のみを収去したとすれば、残存部分が倒壊する危険性が高く、かつ、残存部分のみでは建物としての経済的効用はほとんど取るに足りないものというべきであるから、収去義務は同建物全部に及ぶというべきであり、被告らの主張は理由がない。

第四結論

以上の次第であり、原告の前記第一の「請求の趣旨」の一、二項の各請求は、争点2ほかのその余の点について判断するまでもなく、いずれも理由があるのでこれらを認容することとし、訴訟費用の負担について民訴法61条、65条を適用し、仮執行宣言の申立てについては、相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 八木良一 古谷恭一郎 谷田好史)

物件目録<略>

(別紙) 支払金員目録

<1> 被告A

支払金員

起算日

4720円

平成5年12月21日

1037円

平成6年6月28日

1127円

平成6年12月29日

1193円

平成7年7月19日

2676円

平成8年8月17日

5502円

平成10年5月9日

<2> 被告B

支払金員

起算日

45万5685円

平成5年12月21日

10万0162円

平成6年6月28日

10万8884円

平成6年12月29日

11万5187円

平成7年7月19日

25万8412円

平成8年8月17日

53万1316円

平成10年5月9日

<3> 被告C

支払金員

起算日

30万4930円

平成5年12月21日

6万7025円

平成6年6月28日

6万7394円

平成6年12月29日

6万7026円

平成7年7月19日

13万4788円

平成8年8月17日

26万8840円

平成10年5月9日

別紙図面1<略>

別紙図面2<略>

別紙図面3<略>

(別紙) 請求目録

(被告A)

請求日

請求金額

請求期間

履行期限

平成5年12月1日

4720円

平成3年6月25日から

平成5年9月30日

平成5年12月20日

平成6年6月8日

1037円

平成5年10月1日から

平成6年3月31日

平成6年6月27日

平成6年12月1日

1127円

平成6年4月1日から

平成6年9月30日

平成6年12月28日

平成7年6月20日

1193円

平成6年10月1日から

平成7年3月31日

平成7年7月18日

平成8年7月23日

2676円

平成7年4月1日から

平成8年3月31日

平成8年8月16日

平成10年4月20日

5502円

平成8年4月1日から

平成10年3月31日

平成10年5月8日

(被告B)

請求日

請求金額

請求期間

履行期限

平成5年12月1日

45万5685円

平成3年6月25日から

平成5年9月30日

平成5年12月20日

平成6年6月8日

10万0162円

平成5年10月1日から

平成6年3月31日

平成6年6月27日

平成6年12月1日

10万8884円

平成6年4月1日から

平成6年9月30日

平成6年12月28日

平成7年6月20日

11万5187円

平成6年10月1日から

平成7年3月31日

平成7年7月18日

平成8年7月23日

25万8412円

平成7年4月1日から

平成8年3月31日

平成8年8月16日

平成10年4月20日

53万1316円

平成8年4月1日から

平成10年3月31日

平成10年5月8日

(被告C)

請求日

請求金額

請求期間

履行期限

平成5年12月1日

30万4930円

平成3年6月25日から

平成5年9月30日

平成5年12月20日

平成6年6月8日

6万7025円

平成5年10月1日から

平成6年3月31日

平成6年6月27日

平成6年12月1日

6万7394円

平成6年4月1日から

平成6年9月30日

平成6年12月28日

平成7年6月20日

6万7026円

平成6年10月1日から

平成7年3月31日

平成7年7月18日

平成8年7月23日

13万4788円

平成7年4月1日から

平成8年3月31日

平成8年8月16日

平成10年4月20日

26万8840円

平成8年4月1日から

平成10年3月31日

平成10年5月8日

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