京都地方裁判所 平成11年(ワ)2311号 判決 2001年10月30日
主文
1 被告は原告に対し,金466万2300円及びこれに対する平成11年9月17日から支払い済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決第1項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は原告に対し,金762万0692円及びこれに対する平成11年9月17日から支払い済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,建物請負契約の発注者である原告が,請負人である被告に対し,瑕疵の修補に代わる損害賠償等を求めた事案である。
1 前提事実〔争いがないか,証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によって明らかに認められる〕
(1) 当事者
ア 原告は,昭和6年生まれの高齢者であり,単身生活をしている。体型が小柄であって,身長は137.5センチメートルである。
イ 被告は,建物の設計,施工,請負及び監理等を目的とする株式会社である。
(2) 本件請負契約の締結,施工
ア 原告と被告は,平成7年12月1日,次の内容の建物建築請負契約を締結した(以下「本件請負契約」という)。
(ア) 工事場所 京都市a区b町c番地d(以下「本件土地」という)
(イ) 型式 グルニエEX(NEW)
(ウ) 構造 軽量鉄骨造瓦葺平家建居宅
(エ) 床面積 72・02平方メートル
(オ) 工期 平成8年1月10日から同年3月23日まで
(カ) 代金 2100万円
イ その後,工事内容の追加,変更があり,最終的に工事代金は2057万8800円となった。
ウ 上記工事(以下「本件工事」という)は,予定どおり平成8年3月23日までに竣工し,原告は,同日,上記建物(以下「本件建物」という)の引き渡しを受けた。
2 当事者の主張
(1) 原告
ア 瑕疵の修補に代わる損害賠償請求
(ア) 本件工事には,別表番号1ないし5,7ないし23,25,26,28ないし31,33記載のとおりの瑕疵がある(6,24,27,32は欠番である。以下,瑕疵を表示するときは,別表番号にしたがって「瑕疵1」等と表示する)。以上の瑕疵を分類すると,次の3種類に分けられる。
a 本来,居住用の建物として当然備えているべき性能が備わっていない瑕疵(瑕疵2,4,7,18,19,21,28,31,33,以下「aの瑕疵」という)
b 具体的な合意内容に違反した設計,施工をした瑕疵(瑕疵3,5,7ないし10,15,17,以下「bの瑕疵」という)
c 原告は,上記のとおり小柄で高齢であるが,それでも不都合なく生活できる建物を要望した。これに対し,被告の担当者は,被告はプレハブメーカーではあるが,規格商品を手直しすることによって要望に応えることが可能である旨説明した。そこで,原告は,本件請負契約を締結した。以上の経緯によって,小柄な原告が不都合なく生活できる建物を建築することが契約内容になっていたところ,その契約内容に違反する設計,施工をした瑕疵(瑕疵1,11ないし14,16,20,22,23,25,26,29,30,以下「cの瑕疵」という)
(イ) 上記の各瑕疵を修補するためには,別表1ないし5,6ないし23,25,26,28ないし31,33の修補費用欄記載の費用及び廃材処分費として15万円が必要である。これらを合計すると,482万6892円(消費税込み価格)となる。
イ 二重請求に基づく不当利得返還請求
原告が被告に支払った請負代金中には「外構工事」として「配線取付施工費」が含まれている(代金算出の元となった見積書に「配線取付施工費2万円」が計上されている)。しかるに,原告は,追加変更工事として「配線取付施工費」として2万4000円を請求され,支払った。これは二重請求であり,原告は不当に利得している。
ウ 架空請求に基づく不当利得返還請求
原告は,被告に対し,残土処分費として39万7000円を支払ったが,被告は残土処分をしておらず,被告は,同金額を不当に利得している。
エ 不当高額請求に基づく不当利得返還請求
(ア) 原告は,住宅用鋼管引込小柱(以下「引き込みポール」という)代金として21万5600円を支払ったが,現実に設置された引き込みポール(松下電工製のXD7534W)は,定価15万7300円の商品であり,被告は,差額5万8300円を不当に利得している。
(イ) 原告は,電気温水器代金として19万5000円を支払ったが,現実に設置された電気温水器(タカラ製のEM-370SN・コントローラEM-Nセット)は,定価17万2500円の商品であり,被告は,差額2万2500円を不当に利得している。
オ 建築士に支払った調査費用
原告は,瑕疵33(本件建物の傾斜の有無,程度)の調査を1級建築士であるAに依頼して報告を受けたが,その費用として12万5000円を要した。本件建物が傾斜しているのは被告の債務不履行であり,これは,その債務不履行による損害である。
カ 慰謝料請求
原告は,本件建物を終の住居とする予定で本件請負契約を締結したのに,瑕疵のある建物を建築され,生活上の不便を強いられ,多大の精神的苦痛を受けた。これを金銭で評価すると金100万円を下回らない。瑕疵ある建物を建築したのは被告の債務不履行であり,原告が受けた精神的苦痛は,被告の債務不履行に基づく損害である。
キ 弁護士費用
原告は,本件訴訟の遂行を原告代理人に委任し,その費用として116万7000円を支払うことを約した。本件訴訟の専門性,複雑性に照らし,これは,被告の債務不履行に基づく損害である。
ク まとめ
よって,原告は被告に対し,アないしキの合計762万0692円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成11年9月17日から支払い済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
(2) 被告
ア 瑕疵の修補に代わる損害賠償請求について
(ア) 本件工事に瑕疵がある旨の主張は否認する。
a 個別の瑕疵主張に対する被告の反論は別表の「被告の主張」欄記載のとおりである。
b cの瑕疵についての主張を補充すると,次のとおりである。
確かに,原告の身長に対して,多少配慮不足の箇所や施工,説明の不足があったかもしれないが,そもそもプレハブ住宅建物は,規格の範囲内で変更可能なものを変更することしかできず,原告の身長にあわせたきめの細かい設計,施工はできないのである。
(イ) 仮に,原告が主張する瑕疵が認められるとした場合,その修補に必要な補修費用が,瑕疵1ないし3,5,7ないし9,10ないし16,20,22,23,25,26,29,30については原告が主張する金額であること,更に廃材処分費として原告主張どおり金15万円を要することは認める。
イ 二重請求に基づく不当利得返還請求について
当初請負代金に含まれていたのは,玄関から門扉の電気鍵までの配線工事であり,追加変更工事として請求したのは電気鍵の電源を建物内からとり配線をつなぐ工事であるから,二重請求ではない。
ウ 架空請求に基づく不当利得返還請求について
建物基礎工事のために溝(幅約八〇センチメートル,深さ約30センチメートル)を掘り,これをできあがった基礎の隙間に埋め,余った土を処分した。
エ 不当高額請求に基づく不当利得返還請求について
(ア) 現実に設置された引き込みポールが松下電工製のXD7534Wであることは認める。その定価が原告主張どおりであること及び原告がその代金として主張にかかる金額を支払ったことは明らかに争わない。被告が原告に請求した引き込みポールの代金は,商品代金以外に工事費用と被告の利益を含む金額であるので,被告に不当な利得はない。
(イ) 現実に設置された電気温水器がタカラ製のEM-370SN・コントローラEM-Nセットであることは認める。その定価が原告主張どおりであること,原告はその主張にかかる代金を支払ったことは明らかに争わない。被告が原告に請求した電気温水器の代金は,商品代金以外に工事費用と被告の利益を含む金額であるので,被告に不当な利得はない。
オ 建築士に支払った調査費用の請求について
否認ないし争う。
カ 慰謝料請求について
否認ないし争う。
キ 弁護士費用について
否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
1 証拠(甲24,原告本人)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
(1) 原告は,昭和6年12月6日生まれの独身女性であり,子はなく,両親は既に鬼籍に入っており,同胞は,埼玉県内に一人,神奈川県内に一人いるのみである。
(2) 原告は,東京でフリーの脚本家として活躍していたが,第二の人生を奈良,京都で好きな歴史の勉強をして過ごしたいと考え,平成3年に奈良に転居し,平成7年には終の住居を建てる目的で本件土地を購入した。
(3) その後原告は,本件土地上に居宅を建築しようとして幾つかの業者と接触した。同年10月20日,原告が京都市内の円町住宅展示場内の被告のモデルハウスを訪ねたところ,店長B(以下「B」という)のセールスを受けた。原告は,小柄で高齢である自分が快適に暮らすためには,様々な要望を出すが,プレハブメーカーである被告はこれに応えられないのではないかと質問したところ,Bは,「大抵の要望には応じることができる。今のプレハブ業界は,競争が激しくて,そうでなくては競争に勝ち抜けない」などと説明した。その後,原告は,営業担当のB,設計担当のC(以下「C」という)と数度にわたって打ち合わせをした。その席で,原告は,自らの身長が137センチメートルであることを話し,設備等のすべてを原告の身長に適合した高さに取り付けるよう設計することを依頼し,Cはこれを了承した。
2 本件工事の瑕疵の有無及びこれが肯定される場合の修補費用についての当裁判所の判断は次のとおりである。
(1) 瑕疵1について
ア 証拠(甲24,原告本人,証人C)によると,次の事実が認められる。
(ア) 書斎の南西出窓は,床上100センチメートルから上部に存在する。原告は,書斎の南西出窓下部の壁際に机を置く予定をし,その天板上部の壁にコンセントの設置を希望した。Cは,原告の机の高さを確認せず,標準的な70センチメートルを想定し,その上部にコンセントを設置することを考慮すると,出窓下部は,平均的な高さである100センチメートルでよいと考え,その旨の設計をした。そのことについて,原告の具体的な了解をとらなかった。
(イ) 原告の机は,高さが62センチメートル,奥行きが60センチメートルであり,原告が椅子に腰掛けて机に向き合うと,目前に出窓下部までの高さ38センチメートルの壁があり,窓外眼下の展望が全く見えないばかりか,昼間でも手元に外光が届かず,出窓が外光取りとしての役割すら果たせない状態にある。また,原告の身体では,机越しに出窓の鍵に手が届かない。
(ウ) 本件建物はプレハブ住宅ではあるから,出窓の高さを自由に変えることはできないが,幾つか設定してある高さがあるので,それを選択することによって上記出窓の高さを低くすることは可能である。
イ (1)の事実に1の事実を総合すると,次のようにいうことができる。
(ア) 被告等のプレハブメーカーは,顧客の個別の要望に応えるには限界があることは社会的な常識であると言ってよいと思われ,豊富な社会経験を有する原告がその認識を持っていなかったとは考えがたい。しかしながら,他面,激しい競争をしているプレハブメーカーが,多くのバリエーションを用意して顧客の個別の要望に少しでも応えるための努力をしていることも,また社会的な常識に属すると言ってよいと思われ,原告もその認識を持っていたと考えられる。そして,Bは,小柄で高齢である自分が快適に居住できる居宅を建築してもらえるか否かを気にかけていた原告に対し,被告のプレハブ住宅のセールスをし,「大抵の要望には応じることができる。」と説明したし,Cは,原告から「設備等を原告の身長に適合した高さに取り付ける」旨の依頼を受け,これを了承したのであるから,被告において,設備の設置等について,可能な限り原告の身長や年齢に配慮した設計,施工をすることが本件請負契約の一内容となっていたというべきである。
(イ) Cは,原告が書斎の南西出窓下部の壁際に机を置く予定であること,その天板上部の壁にコンセントの設置を希望していることを聴取したのみで,机の高さを聴取せず,原告が椅子に腰掛けて机に向かったときに原告の顔面がどの程度の高さに位置するかを検討することもなく,安易に出窓の高さを決定してしまい,その高さについて原告の了解を得ることもなかった。その結果,アの(イ)の不都合が生じてしまったのである。そうすると,出窓の位置が高すぎることは,本件請負工事の設計の瑕疵に当たるというべきである。
ウ 出窓の位置を下げるために金30万円を要することについては,当事者間に争いがない。
(2) 瑕疵(2)について
ア 証拠(鑑定の結果)によると,書斎の南西出窓について,その外壁とサッシ下端の取合部にバックアップ材が充填されているが,これが不完全であること,床仕上げの一部不陸により,腰壁付きの付け巾木に隙間があることが認められる。これらは,本件請負工事の施工の瑕疵と認めるのが相当である。
イ 上記瑕疵の修補は,瑕疵(1)の修補の際に合わせてすることが可能であり,(1)のウの30万円以上に費用を要しないことについて当事者間に争いがない。
(3) 瑕疵(3)について
ア 証拠(甲24,乙7,証人C,原告本人)によると,次の事実が認められる。
(ア) 原告は,寝室の北側の壁に沿って漆の洋箪笥及びカリンの洋箪笥を設置する予定をしていた。これらの箪笥の奥行きはいずれも60センチメートルであり,原告は,そのことをCに伝えていた。
(イ) 寝室の床暖房パネルの設置場所については,下請けの設備業者が図面を書き,Cがそれを承認した。その図面では,パネルの北端と北側壁までの距離は50センチメートルとなっていた。そして,パネルは,その図面どおり設置された。
(ウ) その結果,上記の箪笥の南側が幅10センチメートルにわたって床暖房パネルの上に位置することになり,原告が床暖房を使用したところ,その熱によって箪笥がゆがみ,扉が閉まらないようになった。以後,原告は,約4年間にわたって,寝室の床暖房を使用していない。
イ 以上の事実によれば,寝室の床暖房パネルの設置の設計に瑕疵があったというべきである。
ウ この瑕疵の修補のために金86万2960円を要することについては,当事者間に争いがない。
(4) 瑕疵(4)について
ア 証拠(鑑定の結果)によると,寝室西側ドアの内壁とドア枠の隙間の防止措置が十分でないこと,ガラス止めビート材が入隅コーナー等で不良があることが認められる。これらは本件請負工事の施工の瑕疵と認めるのが相当である。
イ 証拠(鑑定の結果)によると,上記瑕疵の修補に7万円を要することが認められる。
(5) 瑕疵(5)について
ア 証拠(甲5,9,19,24,乙7,証人B,同C,原告本人)によると,次の事実が認められる。
(ア) 本件請負契約締結後の平成8年1月25日までに作成された本件建物の最終設計図では,本件建物のリビング・ダイニングルームには,床暖房パネル22枚(大が11枚,小が11枚)が設置されることになっていた。これによって,同部屋のほぼ全域にパネルが敷き詰められる予定であった。
(イ) その後,原告とB間で,請負代金額を減額するため,パネルの枚数を12枚(大8枚,小4枚)に減らすこと,これによってリビング部分の南端の窓際付近及びリビング部分とダイニング部分の境界付近のパネルをなくすことが合意された。
Bは,そのことをCに伝え,Cは,新たにパネルの配置図を作り直したが,その配置図では,上記のとおり合意された部分のパネルが無くなっただけでなく,ダイニング部分及びリビング部分のパネルを敷き詰めた部分の東西の幅が約2メートル50センチメートルであったのが約2メートル10センチメートルに狭まった。そして,Cは,これを西側に詰めた配置図を作成したため,東側の40センチメートル幅の部分にパネルが存在しないこととなった。Cは,新たな配置図を原告に見せて了解を得ることなく,施工業者に同配置図にしたがった施工をさせた。
(ウ) その結果,原告がダイニングテーブルを置き,椅子を置こうと考えていた場所に床暖房パネルが存在しないこととなった。なお,原告のダイニングテーブルはダイニングルームとキッチンを隔てる壁に接して配置する形状であるから,床暖房パネルの位置に合わせてダイニングテーブルを移動させるわけにはいかない。
イ 以上の事実によると,Cは,原告の了解を得ることなく,新たな配置図を作成して施工業者に施工させ,その結果,原告の日常生活に不都合を生じさせたのであるから,これは,本件請負工事の設計の瑕疵に当たるというべきである。
ウ この瑕疵の修補のために金86万7300円を要することについては,当事者間に争いがない。
(6) 瑕疵(7)について
ア 証拠(甲5,8,原告本人)によると,次の事実が認められる。
(ア) 本件建物には,便所が2か所ある(メイン便所及びゲストルーム内便所)ところ,本件請負契約締結時,その便座はいずれも普通便座を使用することが合意されていた。
(イ) 原告は,その後一旦,両便座ともウォシュレット便座に変更することを希望し,その旨Cに伝えた。そして,平成8年1月26日付で被告に対し,追加変更工事注文書(甲8,以下「本件追加変更工事注文書」という)を作成,交付したが,その中に,普通便座からウォシュレット便座への変更も記載されている。しかるに原告は,その後更に考えを改め,ゲストルーム内便所についてのみ普通便座に戻すこととし,その旨Cに伝えた。しかし,その旨の変更工事注文書は作成されていない。
イ 原告本人の供述中には,原告からゲストルーム内便所を再度普通便座に戻す希望を伝えられたCが,「わかりました」と言ったとの部分があるが,その旨の変更工事注文書が作成されていないことに鑑み,上記部分を直ちに採用することができない。そうすると,ゲストルーム内便所について普通便座からウォシュレット便座に変更する旨の変更契約が成立したが,それを更に普通便座に変更する旨の再変更契約が成立したことを認めるにたる証拠が十分でないといわざるを得ない。
ウ よって,ゲストルーム内便所にウォシュレット便座を設置したことが契約内容に違反する瑕疵に当たるということができない。
(7) 瑕疵(8)(9)(10)(15)について
ア 証拠(甲1,3,8,13,証人C,原告本人)によると,次の事実が認められる。
(ア) 本件請負契約締結の前提となった見積書によると,ゲストルームの洗面化粧台は,「LDS-60N-SH」(2口水栓仕様)と,ゲストルームのタオル掛けは,「TS115S」(シングルタイプ)と,メイン洗面所の洗面化粧台は「INAXグラスティ」と,メイン洗面所のタオル掛けは,「TS113WMK6」(ダブルタイプ)とされていた。
(イ) その後,請負代金額を減額する必要が生じ,原告は,平成8年1月26日付で被告に対し,請負代金総額を42万6420円減額する結果となる追加変更工事注文書(甲8,以下「本件追加変更工事注文書」という)を作成,交付した。これによると,ゲストルームの洗面化粧台が「ARC-1500LとARF613KSのセット」(2口水栓仕様)と,タオル掛けがゲストルーム及びメイン洗面所とも「TS113AAYIR」(シングルタイプ)とそれぞれ変更されている。そして,本件追加変更工事注文書記載のとおりの設備が設置された。
(ウ) 原告は,当初から,洗面化粧台の水栓はワンハンドル混合水栓を,タオル掛けはダブルタイプを希望しており,そのことをCに伝えていた。
イ 以上の事実によると,原告から請負代金額の減額を求められたCが,設置する設備の変更を原告に提案したが,その説明内容が不十分であり,他方原告は,変更後の設備も従前からCに伝えていた希望を満たすものであると考え,その提案内容を了解し,本件追加変更工事注文書に署名押印したのではないかと見る余地があり,原告の追加変更の意思表示に瑕疵がある可能性がある。しかし,本件追加変更工事注文書が作成され,それに基づいて設備が設置され,代金が支払われたのであるから,原告と被告間では本件追加変更工事注文書の内容どおりの契約が成立したというべきであって,その契約どおりに施工された被告の工事内容に,契約に違反する瑕疵があるということはできない。
(8) 瑕疵(11)ないし(14)及び(16)について
ア 証拠(検甲12,13,15,17,原告本人)によると,次の事実が認められる。
(ア) メイン洗面所の鏡の取付位置が高く,原告がその前に立っても,首から上しか写らない。
(イ) メイン洗面所の鏡の上のスポットライトの取付位置が高く,鏡の前に立った原告の顔が陰になる。
(ウ) メイン洗面所のスポットライトのスイッチが戸棚の裏に位置するため,原告は,これを押す際に手の甲を戸棚の角に引っかけることがある。
(エ) メイン洗面所鏡戸キャビネットの位置が高く,原告には使用が困難である。
(オ) メイン洗面所の窓の位置が高く,原告は,そのクレセント錠に手が届かない。
イ (1)のイの(ア)に記載したように,被告において,設備の設置等について,可能な限り原告の身長に配慮した設計,施工をすることが本件請負契約の一内容となっていたというべきである。そうすると,アの(ア)ないし(オ)はいずれもその契約に違反する瑕疵であるとの評価を免れない。
ウ 上記瑕疵を修補するためには,次のとおり,金20万0170円を要すると認めるのが相当である。
(ア) 瑕疵(10)ないし(16)の修補のため金22万6130円を要することについては当事者間に争いがない。
(イ) 弁論の全趣旨によると,上記金額は,被告が作成した見積書(乙4)による瑕疵(10)ないし(16)の修補のための見積額20万6130円に2万円を加算したものであり,加算されたのは,「既存外壁パネル撤去」「既存サッシ・額縁取り外し」「既存軸溶接加工」「内壁PB下地新設」「外壁パネル新設」「サッシ・額縁再取付」の各項目であり,その余の項目は上記見積書どおりの金額で合意されたことが認められる。
(ウ) 上記見積書の内,瑕疵(10)及び(15)の修補のための見積額は,「カラン」「タオル掛け」「カラン及びタオル掛け取替」の各項目の合計額2万5960円であり,これらの金額は,そのとおり合意されたものである。
(エ) よって,上記瑕疵の修補費用としては,(ア)の金額から(ウ)の金額を控除した金20万0170円と認めるのが相当である。
(9) 瑕疵(17)について
原告は,メイン洗面所のタイルの目地をグレー色とすることが合意されていたのに,白色で施工された旨主張するが,被告は,薄いグレー色で施工された旨主張する。現実に施工された目地の色が白色であると認めるに足る証拠はない。
(10) 瑕疵(18)について
ア 証拠(鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によると,鑑定人がメイン洗面所で浅い水溜まりを現認したこと,メイン洗面所の床に不陸が生じていることが認められる。これは被告の施工の瑕疵であるというべきである。
イ 証拠(鑑定の結果)によると,上記瑕疵を修補するためには,瑕疵(19)の修補を併せて,34万8000円を要することが認められる。
(11) 瑕疵(19)について
ア 証拠(鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
(ア) メイン洗面所床の排水トラップ(以下「本件トラップ」という)から,悪臭がしたり,虫が侵入することがある。
(イ) 本件トラップは,目皿付椀型トラップであるが,水封の深さが0.5センチメートルであり,JIS規格が5ないし10センチメートルであることと比べて極めて浅い。
(ウ) 水封が浅くても,補水が十分行われていればトラップの機能上問題がないが,それが不十分であれば,トラップ内の水が容易に蒸発し,トラップの機能を果たさなくなる。(ア)の現象は,本件トラップ内の乾燥が原因であると考えられる。
イ 以上の事実によると,老人の一人暮らしの家庭における洗面所床のトラップとしては,本件トラップは水封が浅すぎるというべきであり,これは設計もしくは施工の瑕疵に当たるというべきである。
ウ 上記瑕疵を修補するためには,(10)のイで記載したとおり,瑕疵(18)の修補を併せて,34万8000円を要すると認められる。
(12) 瑕疵(20)(22)(23)について
ア 証拠(甲1,3,24,検甲19,20,証人C,同B,原告本人)によると,次の事実が認められる。
(ア) ユニットバス(TOTO製のKRV1216UMC,以下「本件ユニットバス」という)の窓の位置が高く,原告は,浴槽越しにクレセント錠に手が届かない。これは,本件ユニットバスが,浴槽と窓の間に横位置の安全手摺が設置される構造になっているためである。
(イ) 本件ユニットバスの安全手摺のうち,縦位置の安全手摺の取付位置が高く,原告には用をなさない。
(ウ) 本件ユニットバス内の鏡の取付位置が高く,原告がその前に立っても,顔の上半分しか写らない。
(エ) 本件請負契約締結時,ユニットバスには被告のオリジナル製品を使用する予定であった。しかし,その製品は原告の気に入るところとならず,原告は,CやBが提案する様々なメーカーの製品を検討した結果,本件ユニットバスを選んだ。
イ 以上の事実によると,本件ユニットバスは,原告が他の製品と比較検討した結果,選んだものである。そして,本件ユニットバスの窓の位置が高いのは,その構造上やむを得ないものである。そうすると,被告において,設備の設置等について,可能な限り原告の身長に配慮した設計,施工をすることが本件請負契約の一内容となっていたことを考慮しても,原告が選んだユニットバスを設置したことが被告の契約違反になるとまで解することはできない。もっとも,その際原告としては,窓位置が高くなることまでは気がつかなかったのであろうと考えられるし,BやCとしては,原告に対し,原告が選んだユニットバスの窓位置について注意を促すのが望ましかったとは言えるが,だからといって,そのことが上記結論を左右するとは解しがたい。
ウ しかしながら,安全手摺及び鏡の各取付位置については,本件ユニットバスを設置することを前提としても,これを調整することは可能であるから,被告がこれをしなかったのは,設備の設置等について,可能な限り原告の身長に配慮した設計,施工をする義務に反しており,瑕疵に当たるというべきである。
エ 瑕疵(22)(23)の修補のためには,次のとおり,金6000円を要すると認められる。
(ア) 瑕疵(20)(22)(23)の修補のために35万6420円を要することは当事者間に争いがない。
(イ) 弁論の全趣旨によると,その金額は,被告が作成した見積書(乙4)どおりの金額であることが認められる。
(ウ) 上記見積書によると,手摺及び鏡位置移動の費用が6000円と見積もられていることが認められる。
(エ) よって,瑕疵(22)(23)の修補のために,金6000円を要すると認めるのが相当である。
(13) 瑕疵(21)について
ア 証拠(鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
(ア) ユニットバスの換気扇が有効に機能していない。
(イ) その原因は,給気量の不足にある。すなわち,ユニットバス内には浴室扉の給気用スリットを通して前室であるメイン洗面所から給気がなされているが,そのメイン洗面所には,給気口がない。とりわけ,メイン洗面所のトイレ用換気扇が作動しているときは,給気量不足が深刻となる。
イ 以上の事実によると,ユニットバスの換気については設計の瑕疵があるというべきである。
ウ 証拠(鑑定の結果)によると,上記瑕疵の修補のために,メイン洗面所の北隅天井から北外壁にダクトをつないだ給気口をもうけるのが相当であり,そのために金5万2000円を要することが認められる。
(14) 瑕疵(25)(26)について
ア 証拠(甲24,検甲21,22,原告本人)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
(ア) システムキッチン上部の吊り戸棚の位置が高く,原告にはその使用ができない。
(イ) システムキッチン換気扇スイッチの取付位置が高く,原告の手が届かない。
原告は,棒を使用してスイッチを押しているが,その際不自然な姿勢になるため,右腕の筋を痛めている。
イ 上記のとおり,被告において,設備の設置等について,可能な限り原告の身長に配慮した設計,施工をすることが本件請負契約の一内容となっていたのであるから,これらは,被告の設計の瑕疵に当たるというべきである。
ウ 上記瑕疵の修補のために金36万円を要することについては当事者間に争いがない。
(15) 瑕疵(28)(31)について
ア 証拠(鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
(ア) キッチン換気扇を使用している時,レンジ周辺,コンセント,壁と床の隙間等から風の吹き出しがある。
(イ) その原因は,給気量の不足にある。すなわち,キッチン,リビング・ダイニングルーム及び洗濯場が一つの空間となっているが,その空間において,給気口はリビングルーム南面の引き違いサッシの障子上框にある給気用スリットしかなく,キッチン換気扇の排気量に比べて給気能力が極端に低い。そのため,キッチン換気扇の使用時,レンジ周辺,コンセント,壁と床の隙間等から風が吹き込むのである。
イ 以上の事実によれば,これは被告の設計の瑕疵であるというべきである。
ウ 証拠(鑑定の結果)によると,上記瑕疵の修補のためには給気口を新設する必要があり,それに金15万5000円を要することが認められる。
(16) 瑕疵(29)(30)について
ア 証拠(甲1,2,22ないし24,検甲23,乙1)によると,次の事実が認められる。
(ア) 玄関ドアの覗きアイの位置が高く,原告には使用することができない。
(イ) 本件請負契約締結時,玄関ドアには被告製の「ヴィンテージ」なる商品名の製品を使用する予定であった。その後,Bは原告に対し,グルニエEX-NEWの標準仕様である被告製の「スカルド」なる商品名の製品に変更することを勧めた。
(ウ) 「スカルド」は,面材に溶融亜鉛アルミ合金メッキ鋼板を使用した製品で,決して軽い製品ではなかったが,原告は,被告のパンフレットに「アルミ合金鋼板製玄関ドア」と記載されているのを見て,高齢者でも容易に開け閉めができる軽いドアであると思いこみ,「スカルド」への変更を決めた。
(エ) しかるに,本件建物に設置された「スカルド」は,原告が思っていたのよりもはるかに重く,原告は,玄関ドアの開け閉めに苦労している。
(オ) 原告は,平成11年8月6日,公正取引委員会に対し,上記パンフレットについて,不当景品類及び不当表示防止法に違反するとして報告したところ,同委員会は,被告に対し,法律上の措置はとらなかったものの,同法に違反するおそれがある表示であるとして警告した。
イ 被告は,原告が玄関ドアの覗きアイを使用することができないため,テレビモニターを設置したのであって,覗きアイが使用できないことは原告において了解済みである旨主張するが,証拠(甲24,証人C)によると,玄関ドアの覗きアイの高さが原告と被告間で問題となったのはテレビモニターを設置することが決まった後のことであることが認められるから,被告の上記主張は採用できない。
ウ 前記のとおり,被告において,設備の設置等について,可能な限り原告の身長や年齢に配慮した設計,施工をすることが本件請負契約の一内容となっていたことに照らすと,被告が,原告において覗きアイを使用できない玄関ドアを設置したことは,被告の瑕疵であるというべきである。
しかし,玄関ドアの材質については,パンフレットの記載が不当表示に当たる可能性があるとはいえ,「アルミ合金鋼板製玄関ドア」との表示が虚偽の内容ではないこと,BやCが「スカルドが軽い」と説明したのではなく,原告がそのように思いこんでしまったこと,ドアが軽いか重いかは,各人の主観に頼る部分が大きいこと等に鑑みると,BやCが原告の年齢を考えて軽いドアを勧めなかった点において不親切であったとの評価は免れないものの,原告が決めた「スカルド」を設置したことが,契約に違反した瑕疵に当たるとまでいうことはできない。
エ 瑕疵(29)の修補のために53万5870円を要することは当事者間に争いがない(修補方法は,玄関ドアの取替しかないから,瑕疵(30)が認められないことは上記金額に影響を与えない)。
(17) 瑕疵(33)について
ア 証拠(甲21,鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
(ア) 一級建築士Aが平成11年3月31日に本件建物の南面3か所,北面2か所の壁の傾斜を測定したところ,その内4か所で,いずれも南方向へ,1メートルにつき1.0ミリメートルないし2.5ミリメートル傾斜していた。
(イ) 鑑定人が,外壁,内壁及び床等を前後3回にわたって調査した結果,次の事実が判明した。
a 本件建物は全体的に南に向かって傾斜している。床の傾斜の程度は,住宅の品質確保の促進等に関する法律70条に基づいて建設大臣が定めた技術的基準(平成12年7月19日建設省告示第1653号)に照らすと,構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性が低いとされるレベル1(3/1000未満)である。
b 基礎立ち上がりモルタル塗り面には,東西南北の各面に,床下換気口の鉄筋コンクリート欠損部からの斜めクラックが発生している。また,玄関ポーチ上にもクラックが発生している。これらのクラックは,本件建物の傾きによって生じたものと推測される,その幅は,鑑定人が本件建物を調査した期間において,拡大していない。
イ 以上の事実及び鑑定の結果を総合すると,次のとおりいうことができる。
(ア) 本件建物は全体として南方向に傾いており,その原因は,基礎の根切底の地盤転圧が不十分であったことにあると考えられる。しかし,地盤圧密沈下や基礎の不等沈下は既に安定していて現在では進行しておらず,その傾き自体が修補を要するとは認められない。
(イ) しかしながら,基礎立ち上がりと玄関ポーチのクラックについては,水の浸透による凍結等で今後拡大することが予想されるので,基礎立ち上がりのクラックは,弾性アクリル系樹脂剤の塗布によって,玄関ポーチのクラックはエポキシ系樹脂剤の注入によってそれぞれ修補する必要がある。
ウ 証拠(鑑定の結果)によると,上記修補工事のために金25万5000円を要することが認められる。
(18) 瑕疵の修補工事の結果,廃材処分費として15万円を要することは当事者間に争いがない(一部瑕疵を認めなかったものもあるが,廃材処分費には影響しないものと認める)。
3 二重請求に基づく不当利得返還請求について
(1) 証拠(甲6,9)によると,外構工事の当初の見積書(甲6)に,「配線取り付け施工費2万円」が計上されていること,これに加え,原告は,被告から,追加工事として,「電気鍵用配線及び電源工事一式2万4000円」を請求され,支払ったことが認められる。
(2) ところで,証拠(甲1,6,9,証人C,同B)によると,本件請負契約締結時,外構工事については,具体的な工事内容を定めておらず,その代金は,「概算で170万円」とされたこと,建物工事の進捗と平行して外構工事の内容が決められ,その中で,門扉に電気鍵を設置することが決まり,平成8年3月11日付で作成された外構工事の見積書には,門扉の電気鍵の設置費用とともに,玄関横から門扉までの配線の取付施工費が計上されたこと,ところで,電気配線は,本件建物内の分電盤から引くため,建物本体工事に,分電盤から玄関横までの配線工事が必要となったこと,そこで,被告は,同工事を追加工事として施工し,その代金を請求したこと,以上の事実が認められ,その事実によると,上記追加工事代金の請求が二重請求と認めることはできない。
4 架空請求に基づく不当利得返還請求について
原告は,被告が残土処分をしていない旨主張し,原告本人の供述中にはその主張に沿う部分がある。しかしながら,基礎(本件建物は布基礎である)を構築するために地盤を掘削することによって残土が発生するのは明らかであるところ,これが処分されないで,敷地内で利用されたことを積極的に認め得る証拠はない。そうすると,被告の残土処分費の請求が架空請求であると積極的に認定するのは困難である。
5 不当高額請求に基づく不当利得返還請求について
(1) 引き込みポールについて
ア 現実に設置された引き込みポール(以下「本件引き込みポール」という)が松下電工製のXD7534Wであることは当事者間に争いがなく,その定価が15万7300円であること及び原告がその代金として21万5600円を支払ったことは被告が明らかに争わないから,これを自白したものと見なす。
イ 証拠(証人C,同B)によると,被告の請求金額は,本件引き込みポールの商品代金だけではなく,その設置費用及び被告の利益も含んだものであることが認められる。そうすると,原告が定価よりも安く仕入れていると推測されることに鑑み,被告の請求金額が相当高額であるとの印象は免れないものの,本件請負契約締結時の合意にしたがって支払われた代金の一部が法律上の原因がないと評価されるほど不当に高額であるとまでは認めることができない。
(2) 電気温水器について
ア 現実に設置された電気温水器(以下「本件電気温水器」という)がタカラ製のEM-370SN・コントローラEM-Nセットであることは当事者間に争いがなく,その定価が17万2500円であること及び原告がその代金として19万5000円を支払ったことは被告が明らかに争わないから,これを自白したものと見なす。
イ 証拠(証人C,同B)によると,被告の請求金額は,本件電気温水器の商品代金だけではなく,その設置費用及び被告の利益も含んだものであることが認められる。そうすると,原告が定価よりも安く仕入れていると推測されることに鑑み,被告の請求金額が相当高額であるとの印象は免れないが,本件請負契約締結時の合意にしたがって支払われた代金の一部が法律上の原因がないと評価されるほど不当に高額であるとまでは認めることができない。
6 建築士に支払った調査費用の請求について
(1) 証拠(甲25ないし27)によると,本件建物が傾いているのではないかとの疑いを持った原告は,平成11年2月ころ,一級建築士であるAに相談するとともにその調査を依頼し,その結果,合計で金12万5000円を支払ったことが認められる。
(2) しかしながら,前記のとおり,本件建物が傾いていることは認められるものの,その程度は小さく,傾き自体を修補する必要があるとは認められない。
すなわち,本件建物の傾きの原因となった地盤転圧不足は,被告の施工の瑕疵というべきであるが,これによって生じた不具合現象である本件建物の傾き並びに基礎及び玄関ポーチのクラックの内,後者は修補を要するものの,前者は修補を要しないのである。そうすると,本件建物の傾きを調査するために要した上記調査費用を本件工事の瑕疵による損害と認めることはできない。
7 慰謝料について
一般に、財産権が侵害された場合、精神的損害は財産的損害の裏に隠れており、財産的損害が賠償されれば,特段の事情のない限り,精神的損害も一応回復されたとみるべきである。
証拠(甲24,原告本人)によると,原告は,終の住居として本件建物を建築したのに,その工事に様々な瑕疵があったことから,生活上の不便を強いられ,トラブルの解決に時間を取られ,予定していた老後の生活設計にも狂いが生じたことが認められる。しかし,この程度のことは,建築した家屋に瑕疵があった場合に建築主が一般的に感じる苦痛の範囲内であるというべきであって,上記特段の事情ありと認めるには不十分である。
よって,原告の慰謝料の請求を認めることはできない。
8 弁護士費用について
本件訴訟の性格,難易,訴訟経過,認容額等に照らし,本件工事の瑕疵と相当因果関係のある弁護士費用としては,金50万円をもって相当と認める。
9 まとめ
以上の検討の結果によれば,原告の本訴請求は,2の(1)ないし(5),(8),(10)ないし(18)の金額合計416万2300円に8の50万円を加えた金466万2300円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成11年9月17日から支払い済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で正当であり,その余は失当である。
(裁判官 井戸謙一)