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京都地方裁判所 平成11年(ワ)3186号 判決 2000年11月09日

東京都渋谷区上原三丁目六番一二号

原告

社団法人日本音楽著作権協会

右代表者理事

吉田茂

右訴訟代理人弁護士

彦惣弘

京都市西京区大原野上里男鹿町一八番地の二

被告

岸田健司

右同所

被告

岸田ひろみ

被告ら訴訟代理人弁護士

中川泰夫

主文

一  被告らは、京都府長岡京市長岡二丁目二二―二六「メンバーズクラブひろみ」において、別添カラオケ楽曲リスト記載の音楽著作物を、カラオケ装置を操作して、伴奏音楽に合わせて客又は従業員に歌唱させ、もしくは自ら歌唱する方法により演奏し、カラオケ装置を操作して、カラオケ用のビデオディスクに収録されている伴奏音楽及び歌詞の文字表示を再生する方法により上映してはならない。

二  被告らは、第一項の場所に設置されたカラオケ装置のうち、カラオケソフトの再生機器及びモニターテレビ並びにこれらの関連機器一式を撤去せよ。

三  被告らは原告に対し、連帯して、三万七八〇〇円及びこれに対する平成一一年一二月二六日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告岸田健司は、原告に対し、二一六万〇七二〇円及びこれに対する平成一一年一二月二六日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は原告と被告岸田健司の間で生じたものは被告岸田健司の負担とし、原告と被告岸田ひろみの間で生じたものはこれを五分し、その一を被告岸田ひろみの負担とし、その余を原告の負担とする。

七  この判決の一ないし四項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  主文一、二項同旨

二  被告らは、原告に対し、連帯して、二一九万八五二〇円及びこれに対する平成一一年一二月二六日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  争いのない事実等

1  原告の権利

原告は、著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律(昭和一四年法律第六七号)に基づく許可を受けた、現在国内唯一の音楽著作権仲介団体であり、内外国の音楽著作物の著作権者からその著作権ないし支分権(演奏権、録音権、上映権等)の移転を受けるなどしてこれを管理し(内国著作物について会員である著作権者との著作権信託契約約款により、外国著作物についてはわが国の締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介管理団体との相互管理契約による。)、国内のラジオ・テレビの放送事業者をはじめ、レコード、映画、出版、興行、社交場、有線放送等各種の分野における音楽の利用者に対して音楽著作物の利用を許諾し、利用者から著作物使用料を徴収するとともに、これを内外の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人である。

そして、別添カラオケ楽曲リスト記載の音楽著作物は、原告が信託的譲渡を受けて著作権を管理する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)であって、カラオケの伴奏で歌唱された使用実績を有する主要な曲目に該当し、今日カラオケ装置を設置している一般の社交飲食店において、日常的に反復使用されている歌唱曲である。

2  カラオケ装置について

今日、カフェ、バー、スナック等の社交飲食店において、カラオケ装置(伴奏音楽を収録した録音テープあるいは伴奏音楽を映画の録画と同時に収録したビデオディスク等を再生する機器類、プレーヤーを中心にスピーカー、アンプ、モニターテレビなどを組み合わせ伴奏音楽を再生すると同時に、これに合わせてマイクロフォンを使って歌唱できるように構成された装置をいう。)が広く普及している。

カラオケ装置としては、カラオケテープ(歌詞付楽曲のみを収録した伴奏用テープ)を再生し、これに合わせてマイクロフォンで歌唱するオーディオカラオケがまず普及し、その後、伴奏音楽を映画の録画と同時に収録したビデオディスク(メーカーの方式によりレーザーディスク方式とVHD方式とがあるが、ここでは合わせて「ビデオディスク」という。)を再生すると、モニターテレビの画面に映像と共に歌詞が表示され、かつ伴奏音楽が演奏され、伴奏に合わせて画面に表示される歌詞を見ながらマイクロフォンにより歌唱するビデオカラオケが急速に普及し、その後コンパクトディスクに伴奏音楽を映画の録画と同時に収録したコンパクトディスクも登場した。このほか、静止画と共に歌詞をモニターテレビの画面に再生しながら伴奏音楽が演奏されるコンパクトディスクカラオケもみられるようになり現在に至っている。

3  「ファミリースナックけんちゃん」における管理著作物の演奏・上映

被告岸田健司(以下「被告健司」という。)名義で昭和六〇年一〇月二五日に京都府長岡京市長岡二丁目二二―二六所在の店舗(以下「本件店舗」という。)において「ファミリースナックけんちゃん」が開店した。

本件店舗においては営業設備としてビデオカラオケ装置が設置され、これを稼働させるため、原告の管理著作物である伴奏音楽を収録した多数のビデオディスクが常備されていた。右店舗においては、月曜日を除く毎日、午後七時から午前〇時ころまでの営業時間中、客に飲食を提供するかたわら客に勧めて、常備してあるビデオディスクの中から好みの曲目を選ばせ、従業員に操作させてビデオディスクにより録画した映画と共に伴奏音楽を再生し、その伴奏の旋律に合わせて客に他の客の面前で当該歌詞付楽曲を歌唱させ、これを来集した不特定の客に聞かせていた。

4  仮処分申立及びその執行

原告は、平成一一年、被告健司を債務者として、京都地方裁判所に本件店舗における管理著作物の演奏・上映の停止、本件店舗に設置されたカラオケ装置のうち、カラオケソフトの再生機器及びモニターテレビ並びにこれらの関連機器一式の断行保管の仮処分を申し立て(平成一一年(ヨ)第二三一号。以下「本件仮処分手続」という。)、申立の趣旨どおりの決定がされた(以下「本件仮処分決定」という。)。そして、右決定に基づき、平成一一年七月二七日、断行保管の動産仮処分が執行された(乙一〇、弁論の全趣旨)。

5  「メンバーズクラブひろみ」における管理著作物の演奏・上映

本件仮処分決定執行後、被告岸田ひろみ(以下「被告ひろみ」という。)名義で、本件店舗において「メンバーズクラブひろみ」が開店した。

「メンバーズクラブひろみ」となってからも、本件店舗における管理著作物の演奏・上映の状況は、「フアミリースナックけんちゃん」時代とほぼ同様であった(ただし、使用されるビデオカラオケは、本件仮処分決定執行後に被告ひろみが新たにリースを受けたものである。)。

6  著作物使用料規程の変更

原告においては、従前から、主務官庁の認可を受けて著作物使用料規程を作成し、これによって、原告が管理する著作物について使用契約を締結した利用者から徴求する使用料の算定基準としていた。そして、従前の著作物使用料規程においては、カラオケ伴奏による歌唱について、オーディオカラオケによる歌唱(静止画を同時に再生する装置による場合を含む。)についても、ビデオグラムの上映に伴う歌唱についても、団体客、招待客など主として特定の客を対象とする宴会が行われる宴会場はその面積が三三平方メートル(一〇坪)まで、その他は客席面積が一六・五平方メートル(五坪)までである場合、その使用料の支払を免除するとの規定があった(甲一九―平成元年三月二九日変更認可のもの、甲二〇―平成四年三月三一日変更認可のもの、甲二一―平成八年三月二五日変更認可のもの)。しかし、平成九年八月一一日一部変更の認可を受けた右規程(甲二二)が平成一〇年四月一日から施行されてからは、右免除の規定は撤廃された。

なお、著作物使用料規程における客席面積は、「客に飲食もしくはダンスをさせ、又は歌唱させるために設けられた場所(客などが利用するための通路を含む。)の面積を合算したものをいう。」と定義されている(甲一九ないし二二)。

二  原告の請求及び被告の反論

原告は、本件店舗における管理著作物の演奏・上映が、「ファミリースナックけんちゃん」においても、「メンバーズクラブひろみ」においても、被告らが共同して行っていることを前提に、著作権・上映権・演奏権を侵害されたとして、被告らに対し、著作権法一一二条一項に基づき、カラオケ装置を操作して、伴奏音楽に合わせて客又は従業員に歌唱させ、もしくは自ら歌唱する方法により演奏すること、及びカラオケ装置を操作して、カラオケ用のビデオディスクに収録されている伴奏音楽及び歌詞の文字表示を再生する方法により上映することの停止を、同条二項に基づき、本件店舗に設置されたカラオケ装置のうち、カラオケソフトの再生機器及びモニターテレビ並びにこれらの関連機器一式の撤去を求めるとともに、共同不法行為による損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権に基づき(選択的併合)、連帯して二一九万八五二〇円(平成元年一二月一日から平成一一年一一月三〇日までの著作物使用料相当額)及びこれに対する侵害行為後あるいは催告後である訴状送達の日の翌日である平成一一年一二月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

これに対し、被告らは、本件店舗の客席面積は一六・五平方メートル(五坪)未満であるから、平成一〇年三月三一日までの使用料相当損害金は発生しない、また、被告らは共同不法行為者ではないと主張する。

三  争点

1  平成一〇年三月三一日までの時点において、本件店舗の客席面積は一六・五平方メートル(五坪)未満であるか。

2  被告らは、共同不法行為責任あるいは共同して不当利得返還義務を負うか(本件店舗における管理著作物の演奏・上映の主体は誰か。)。

3  被告らが損害賠償責任ないし不当利得返還義務を負う場合、原告に賠償すべき損害ないし原告に返還すべき利得の額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(平成一〇年三月三一日までの時点において、本件店舗の客席面積は一六・五平方メートル《五坪》未満であるか。)について

【被告らの主張】

1 本件店舗は、「ファミリースナックけんちゃん」時代、カウンター席が一二席、ボックス席が八席あるだけの狭いもので、その客席面積は一六・五平方メートル(五坪)未満であった。

2 別紙図面一(本件店舗を改装する際に作成された平成一一年七月六日当時の現況図《乙八》に被告らが記入したもの)の客席部分(斜線部)の面積は一七・九平方メートルであるが、この範囲内に棚が二つ(うち一つは奥行き五〇センチメートル、幅二メートル程度)あるから、客席面積は一六・五平方メートル(五坪)未満である。

なお、「お店などでカラオケをお使いになるときは」と題するパンフレット(甲一〇、以下「本件パンフレット」という。)には、客席面積は、店舗全体の面積からトイレ、厨房、更衣室、カウンターの内側を除いた面積で、小上がり、客の利用する通路、ステージ、植木、調度類は客席面積に含まれるとする記載があるが、本件パンフレットは、平成一二年四月から適用されるものであるから、右記載に基づいて、客席面積を算定するのは妥当ではない。

また、本件店舗と階段を隔てた別部屋が存在するが、これは、本件店舗が繁盛すれば使用しようと考えて増築したものであるところ、不況により客足が伸びなかったため、営業に供さず、もっぱらプライベートに使用していたものであるから、これを客席とみるのは不合理である。仮にこれが店舗に含まれるとしても、カラオケ装置の音響効果は分離独立したものである右部分には及ばないので、客席には該当しない。

3 平成一〇年一一月一八日付及び平成一一年六月二〇日付社交場実態調査報告書(甲六、七)には、本件店舗の客席面積が約八坪である旨の記載があるが、これらは、いずれも、調査員が「ファミリースナックけんちゃん」の営業時間中に客を装って入店し、飲酒しながら、調査員であることを悟られないようにしながら、目測により調査したもので、正確なものではない。

4 被告健司が本件仮処分手続において、平成一〇年三月三一日までの時点における本件店舗の客席面積は一六・五平方メートル(五坪)未満であるとの主張をしなかったのは、使用料相当損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権が審判対象となっていなかったからである。

【原告の主張】

1 平成一〇年三月三一日までの時点において、本件店舗の客席面積は一六・五平方メートル(五坪)以上であった。

2 別紙図面二(乙八の図面に原告職員が記入したもの)に基づいて計算すると、本件店舗の客席面積は二一・八七平方メートル(六・六二坪)ある。すなわち、同図面中、aないしgの各部の面積を求めると、

縦(m) 横(m) 面積(m2)

a 一・八七 〇・八八 一・六四五六

b 二・五三 (三・九) 九・八六七

c 一・七 四・〇一 六・八一七

d 一・二二 〇・八六 一・〇四九二

e (〇・四五) (〇・四五) 〇・二〇二五

f (〇・三) 六・二五 一・八七五

g (一・四) (〇・三) 〇・四二

となり、合計は二一・八七平方メートル(六・六二坪)となる(括弧付きの数字は、別紙図面二の一センチメートルを〇・五メートルとして換算したものである。)。

加えて、本件店舗には、少なくとも三坪はある隠れ部屋があり、ここにもカラオケ装置が設置されているので、これを加えれば優に一六・五平方メートル(五坪)を超えるものである。

3 被告健司は、従前の原告との交渉の経緯においても、本件仮処分手続においても、本件店舗の客席面積が一六・五平方メートル(五坪)未満であるとの主張をしたことは全くない。それどころか、原告職員が本件店舗に出向いた際には、「カラオケを使用していて、使用料の支払が免除される場合(五坪までの場合)と、手続が必要な場合とがあるのは納得できない。裁判でもしてくれ。」(平成五年二月二三日)、「使用料規定が客席面積で決められるのは納得できない。」(平成一〇年六月一八日)などと発言し、本件店舗の客席面積が一六・五平方メートル(五坪)以上あることを当然の前提としていた。

二  争点2(被告らは、共同不法行為責任あるいは共同して不当利得返還義務を負うか。)について

【原告の主張】

1 昭和六〇年一〇月二五日の「ファミリースナックけんちゃん」の開店から、「メンバーズクラブひろみ」の開店前までについて

被告健司は一貫して本件店舗の経営者であった。

また、被告ひろみは、被告健司の妻であり、これと同居しているものであるが、本件店舗において被告健司を助けて客にカラオケを勧めて歌唱させ、健司の店舗の売上に協力して利得を得させているものであり、その行為は、健司の行為と関連共同して原告の管理著作物の著作権を侵害し、原告に使用料相当損害金の損害ないし損失を与えているから、共同不法行為者ないし共同不当利得者というべきである。

2 「メンバーズクラブひろみ」の開店以降現在までについて

被告ひろみだけでなく、被告健司も実質的に本件店舗を経営しているから、前同様の責任を負う。

【被告らの主張】

1 昭和六〇年一〇月二五日の「ファミリースナックけんちゃん」の開店から、「メンバーズクラブひろみ」の開店前までについて

この間の本件店舗の経営主体は、被告健司一人である。したがって、この間、被告ひろみが共同不法行為責任や不当利得返還義務を負うことはあり得ない。なお、被告健司は、平成一一年八月一〇日ころ、「ファミリースナックけんちゃん」を閉店した。

2 「メンバーズクラブひろみ」の開店以降現在までについて

「メンバーズクラブひろみ」は平成一一年八月三一日開業した。経営主体は被告ひろみ一人である。被告ひろみは自らの計算により自己名義で京都府向陽保健所から営業許可を取得して右営業を開始した。ちなみに、被告健司が飲食業を廃業し、被告ひろみが新たに飲食業を開始した旨を所轄の税務署にも申告済みである。したがって、「ファミリースナックけんちゃん」と「メンバーズクラブひろみ」は実質的に経営主体を異にするものである。

なお、被告ひろみは、平成一一年一〇月四日、株式会社京都第一興商(以下「第一興商」という。)に対してビデオカラオケのリース契約の申込をすると共に、原告に対する著作物使用許諾に関する契約の申込の取次を依頼した。そして、平成一一年一〇月一〇日過ぎころ、第一興商からビデオカラオケの引渡を受けたので、原告からの使用許諾をも受けたものとしてこの利用を始めたが、原告から右使用許諾申込が不当に拒絶され、これに伴って第一興商がビデオカラオケを引き上げたため、その日以降ビデオカラオケを一切営業に使用していない。

三  争点3(被告らが損害賠償責任ないし不当利得返還義務を負う場合、原告に賠償すべき損害ないし原告に返還すべき利得の額。)について

【原告の主張】

著作物使用料相当損害金ないし利得金であり、具体的には以下の合計二一九万八五二〇円となる。

1 被告健司名義による営業期間

(一) 平成元年一二月一日から平成九年三月三一日まで

生演奏一曲一回使用時間五分までの使用料九〇円、一か月当たり二〇日間を一日につき一〇曲演奏するとして、八八か月分、消費税三パーセントを加算すると一六三万一五二〇円となる。

(二) 平成九年四月一日から平成一一年七月二六日まで

前同様に使用料九〇円、一か月当たり二〇日間を一日につき一〇曲演奏するとして、二八か月分、消費税五パーセントを加算すると五二万九二〇〇円となる。

2 被告ひろみ名義による営業期間

平成一一年一〇月四日から平成一一年一一月三〇日まで

前同様に使用料九〇円、一か月当たり二〇日間を一日につき一〇曲演奏するとして、二か月分、消費税五パーセントを加算すると三万七八〇〇円となる。

第四  争点に対する判断

一  争点1(平成一〇年三月三一日までの時点において、本件店舗の客席面積は一六・五平方メートル《五坪》未満であるか。)について

1  被告らは、平成一〇年三月三一日までの間、本件店舗の客席面積が一六・五平方メートル(五坪)未満であると主張するところ、右主張は、その場合には、原告が使用料を免除することを意思表示しているから、使用料相当損害金支払義務も発生しないとの主張に帰着すると解されるから、被告らが主張・立証責任を負う事項であるというべきである。

2  本件店舗の客席面積について、被告らは別紙図面一の斜線部によるべきであり、また、右斜線部内でも棚が置かれている部分は除外すべきである旨主張するのに対し、原告は別紙図面二中、aないしgの部分の合計によるべきである旨主張する(なお、被告健司は、その本人尋問において、「ファミリースナックけんちゃん」開店当初は、カウンターがL字状ではなく、直線状であり、厨房部分がもっと広かった旨の供述をするが、これを客観的に裏付ける証拠はなく、右供述を直ちに信用することはできない。)。

右の両者の差は、棚が置かれている部分のほか、主としてカウンターのうち、その中間線から客席側の部分(別紙図面二中、f・g)を含めるか否かにある。

原告の主張は、基本的に、本件パンフレットの記載(前記のとおり、「客席面積は、店舗全体の面積からトイレ、厨房、更衣室、カウンターの内側を除いた面積で、小上がり、客の利用する通路、ステージ、植木、調度類は客席面積に含まれる」とするもの)に従ったものと考えられるところ、証人武田勝正の証言によれば、原告においては、従来から、右基準に従って使用料を免除すべき客席面積を算定していたことが認められる(被告らは、本件パンフレットは、平成一二年四月から適用されるものである旨主張するが、甲一〇によれば、平成一二年四月から適用されるのは管理著作物の新使用料であるから、採用できない。)。そうすると、右基準に特段の不合理な点がない限り、客席面積は、これによって判断すべきである。そして、棚については、移動可能であり(乙一一)、右基準による調度類に含まれると考えられるところ、客席面積の意図的な変動を避けるという意味で客席面積に含ませることに合理性があるといえる。また、カウンターのうち、その中間線から客席側の部分は、右基準にいう「カウンターの内側を除いた」部分に該当すると考えられるところ、カウンターの下部の支持物から客席側の部分は、主として客が利用する部分であるから、客席面積に含めるのが合理的であるといえる。もっとも、カウンターの支持物が丁度、中間線の位置にあるかどうかは必ずしも明確ではないが、ある程類型的判断を含む算定基準としては、反証がない以上、これを中間線の位置にあるものと推測することも不合理ということはできない。なお、被告健司は、カウンターと厨房との出入り口部分(別紙図面二のe部分)は客席に加えるべきではないと陳述(乙一一)するが、これも客が利用し得る場所として算定しても不合理とはいえない。

以上を前提として、別紙図面二により計算すると、概算部分はあるが、原告主張のとおり、概ね二一・八七平方メートル(六・六二坪)となり、少なくとも一六・五平方メートル(五坪)を超えることとなる。

3  なお、被告健司は、原告職員が使用料支払いを求めて本件店舗に出向いた際には、「カラオケを使用していて、使用料の支払が免除される場合と、手続が必要な場合とがあるのは納得できない。裁判でもしてくれ。」(平成五年二月二三日)、「使用料規定が客席面積で決められるのは納得できない。」(平成一〇年六月一八日)などと発言し(甲四の2・3、一五)、客席面積が一六・五平方メートル(五坪)未満の場合には使用料が免除されることを認識していながら、右交渉の経緯において本件店舗の客席面積が一六・五平方メートル(五坪)未満であるとの主張を一切していないし、本件仮処分手続において和解手続が行われ使用料相当損害金の支払方法が問題となった際もその旨の主張はしていない(被告健司本人、弁論の全趣旨)。また、平成一〇年一一月一八日付及び平成一一年六月二〇日付社交場実態調査報告書(甲六、七)には、本件店舗の客席面積が約八坪である旨の記載があり、前記平成一〇年六月一八日の原告職員の被告店舗への訪問の際には七坪前後と目視されている(甲四の3)。さらに、原告主張のいわゆる隠し部屋については、平成七年五月ころ設置されたものであるが、三坪前後の面積があり、かつ、被告の主張によっても客足が伸びればこれを収容する予定であったものであり、カラオケ施設も設置され、現に平成一一年一二月二〇日には使用されていた(甲九、乙八、証人武田勝正)。

右の各事実は、本件店舗の客室面積が一六・五平方メートル(五坪)を超えていたことを推測させる間接事情ということができる。いずれにしても、少なくとも、被告らの客席面積についての主張を裏付けるに足りる証拠は存在しないというほかない。

二  争点2(被告らは、共同不法行為責任あるいは不当利得返還義務を負うか。)について

1  昭和六〇年一〇月二五日の「ファミリースナックけんちゃん」の開店から、「メンバーズクラブひろみ」の開店前までについて

被告健司の供述及び陳述(乙一一)によれば、「ファミリースナックけんちゃん」の保健所の許可は被告健司名義で取得され、税務申告も同人名義であったところ、被告健司が昭和六一年七月二九日に倒れてから、被告ひろみがママとして手伝いを始めたというのである。しかし、それ以上に、被告ひろみが被告健司とともに、本件店舗の経営主体であったとまで認めるに足りる証拠はない。したがって、被告ひろみの右手伝いをもって、被告健司の履行補助的な行為を超えて、客観的に、被告健司と共同して原告の権利を侵害したと評価することはできない。また、仮に、被告らの間に、原告の権利侵害について客観的な共同行為を認める余地があるとしても、被告ひろみがこの時期において原告との交渉に関与したと認めるに足りる証拠はないから、原告の権利侵害についての過失を認めることはできず、幇助の故意があったと認めることもできない。

なお、原告主張の共同不当利得なる理論は根拠に乏しいし、被告ひろみが営業主体でない以上、同被告に不当利得返還義務を認めることはできない。

2  「メンバーズクラブひろみ」の開店以降現在までについて

被告健司は、スナックを平成一一年八月三〇日に廃業した旨の届出を右京税務署長に提出し(乙一)、京都府向陽保健所長は、同年一〇月一五日、被告ひろみに対し、同被告名義の「メンバーズクラブひろみ」についての飲食店営業(酒場)の営業許可証を発行している(乙二)。

しかしながら、「メンバーズクラブひろみ」開店の際、従来の客に対し「この度、ファミリースナックけんちゃんを改名しメンバーズクラブ『ひろみ』として新装オープンさせていただくことになりました。…ご案内のあなたさまには特別会員にさせていただいております、」等と記載した案内状(甲一三)が送付され、従来キープしていたボトルも有効であること、本件店舗については、現在も、電話、電気、水道いずれも被告健司名義であること(被告健司本人)、なお、被告健司は平成一〇年の原告との交渉に際し、カラオケは個人で使っているだけであり今後営業に使用しないなどと虚偽の事実を述べていること(甲一二の1・2、一六)からすると、被告ひろみへの営業名義の変更は本件仮処分の執行を免れるためのものと認めざるを得ず、この期間については、被告らが共同して原告の管理著作権を侵害していると認めるほかはない。

三  争点3(被告らが損害賠償責任ないし不当利得返還義務を負う場合、原告に賠償すべき損害ないし原告に返還すべき利得の額。)について

1  以上のとおりであるから、本件店舗が被告健司名義で営業されていた間は、被告健司が原告に対して、不法行為責任を負い(なお、不当利得返還義務も成立する。)、被告ひろみ名義で営業されていた間は、被告ら両名が共同不法行為責任を負うこととなる。

2  右損害額ないし利得額は、いずれも著作物使用料相当額であると認められるところ、証拠(甲六ないし九)及び弁論の全趣旨を総合すれば、右額は、被告健司及び被告ひろみの各名義による営業期間について、いずれも、原告主張の額を下回らないことが認められる。

四  結論

よって、原告の請求は主文の限度で理由がある(なお、被告らがカラオケ装置を撤去したことを認めるに足りる証拠はない。)。

(裁判長裁判官 赤西芳文 裁判官 本吉弘行 裁判官 鈴木紀子)

別紙図面一

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