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京都地方裁判所 平成11年(ワ)3309号 判決 2001年11月21日

主文

1  被告西尾運送株式会社は,原告Aに対し,金184万8141円及びこれに対する平成8年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告西尾運送株式会社は,原告Bに対し,金184万8141円及びこれに対する平成8年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  原告らの被告西尾運送株式会社に対するその余の請求及び被告Cに対する請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用については,原告らと被告Cとの間で生じたものについては原告らの負担とし,原告らと被告西尾運送株式会社との間で生じたものについては,これを20分し,その1を被告西尾運送株式会社の負担とし,その余を原告らの負担とする。

5  この判決は,1及び2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  被告らは,原告Aに対し,各自金3000万円及びこれに対する平成8年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告らは,原告Bに対し,各自金3000万円及びこれに対する平成8年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,トレーラ車のトラクタ部とトレーラ部の間にバイクが巻き込まれて転倒し,バイクの運転者が死亡した交通事故について,当該バイクの運転者の相続人である両親(原告ら)が,トレーラ車の運転手に対しては民法709条に基づき,その雇用主である運送会社に対しては,民法715条,自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条,民法709条に基づき,損害賠償の内金及びこれに対する事故日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを請求した事案であり,事故発生の状況ないし原因,過失相殺などが主要な争点となった事案である。

第3前提事実

1  次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した(争いのない事実,甲1,3の1,2,甲4の1ないし3)

(1)  日時

平成8年1月25日午後10時45分ころ

(2)  場所

京都市伏見区a町b番地先交差点(以下「本件交差点」という。)

(3)  加害車両

被告C運転,被告西尾運送株式会社(以下「被告会社」という。)所有に係る普通貨物自動車(以下「本件トラクタ部」という。)及びこれに牽引された大型特殊自動車(以下「本件トレーラ部」といい,本件トラクタ部と併せて,以下「加害車両」という。)

(4)  車両2

D(当時16歳)運転に係る原動機付自転車(以下「被害バイク」という。)

(5)  態様

加害車両が,本件交差点において,被害バイクと接触し,転倒したDが本件トレーラ部に巻き込まれた。

2  Dは,同日,本件事故による受傷のために死亡した(争いのない事実,甲2)。

3  原告らは,Dの親であり,Dの遺産を相続した(争いのない事実)。

4  原告らは,本件事故により被った損害の填補として,既に合計金3000万円の支払いを受けた(争いがない事実)。

第4争点

1  本件事故についての被告らの損害賠償責任の有無(殊に,本件事故発生についての被告Cの過失の有無)及び過失相殺の適否

2  D及び原告らが本件事故により被った損害額

第5争点に関する当事者の主張

1  争点1について

(1)  原告らの主張

ア 被告Cは,本件交差点手前で加害車両を一旦停止させ,再発進させるに当たり,いったん左にハンドルを切り,その後に右へ戻したものであるが,加害車両はわずかなハンドル操作によって本件トレーラ部が大きく横に移動する構造となっていたのであるから,左右への方向転換に当たっては,側方を通過する車両に衝突することのないよう十分な距離を保ちながら安全に走行する注意義務を負っていたところ,これを怠り,よって,加害車両の左側に停止していた被害バイクが本件トラクタ部と本件トレーラ部の間に入り込み,本件トレーラ部に追突されて本件事故が発生したものであるから,同被告は,民法709条に基づき,D及び原告らに生じた損害を賠償すべき責任を負う。

イ 本件事故は,被告Cが被告会社の業務執行中に発生したものであり,また,被告会社は加害車両を自己の運行の用に供していたものであるから,民法715条又は自賠法3条に基づき,被告Cと連帯して,D及び原告らに生じた損害を賠償すべき責任を負う。

また,加害車両はわずかなハンドル操作によって本件トレーラ部が大きく横に移動する構造となっていたのであるから,被告会社は,本件トラクタ部と本件トレーラ部の間にバイク等が入り込めないような装置を設置するか,照明やサイレンなど,後方や側方を通行する車両に危険を知らせる装置を設置すべき義務を負っていたにもかかわらず,これを怠り,これらの安全装置を設置せず,よって,本件事故を発生させたものであるから,民法709条に基づき,D及び原告らに生じた損害を賠償すべき責任を負う。

(2)  被告らの主張

ア 被告Cが加害車両を再発進させるに当たり,いったん左にハンドルを切ったとする原告の主張を否認する。被告Cは,本件交差点手前で赤信号に従って一旦停止した後,青信号に従って直進したにすぎず,加害車両と被害バイクが接触したのは,加害車両の本件トラクタ部が被害バイクを追い越した後,Dが被害バイクの進路を右に変更して,本件トラクタ部と本件トレーラ部の間に割り込んだためであって,被告Cは,少し後方を並走していた被害バイクが本件トラクタ部と本件トレーラ部の間に割り込んでくるという事態など予測することはできなかったのであるから,同被告には本件事故発生につき過失は存しない。

イ 本件事故が,被告Cが被告会社の業務執行中に発生したものであること,及び,被告会社が加害車両を自己の運行の用に供していたことは認め,被告会社が,民法709条,715条又は自賠法3条に基づき,被告Cと連帯して,D及び原告らに生じた損害を賠償すべき責任を負うとする主張を争う。

前記のとおり,被告Cには本件事故発生について過失が存しない上,本件事故当時,加害車両には故障等一切異常や整備不良はなかった。

また,被告会社は,停止中又は併走中に本件トラクタ部と本件トレーラ部の間にバイク等が入り込むという予見の範囲を超えた危険行為に備えた対策を取るべき義務を負うものではない。

ウ 仮に,被告らが本件事故について損害賠償責任を負うとしても,Dは,走行中又は停止中に本件トラクタ部と本件トレーラ部の間に入り込むという危険行為を行ったのであるから,本件事故による損害については,7割以上の過失相殺をなすべきである。

2  争点2について

(1)  原告らの主張

D及び原告らが本件事故により被った損害は次のとおりである。

ア Dの死亡逸失利益 金6648万7874円

ただし,基礎収入として平成9年男子労働者学歴計平均賃金575万0800円,生活費控除率として50パーセント,中間利息控除のためのライプニッツ係数として23.123を採用し,次の算式により算出した。

金575万0800円×(1-0.5)×23.123

=金6648万7874円

イ Dの死亡慰謝料 金2000万円

ウ 以上の損害額の合計は金8648万7874円となるところ,原告らは,それぞれ,その半額である金4324万3937円につき,Dから被告らに対する損害賠償請求権を相続した

エ 原告ら固有の慰謝料 各1000万円

オ 弁護士費用 原告各自につき金300万円

カ よって,原告らは,各自,被告らに対して金5624万3937円の損害賠償請求権を有するところ,それぞれ,その内金3000万円を被告らに対し連帯して支払うよう求めるものである。

(2)  被告らの主張

ア Dの死亡逸失利益について

Dは,本件事故当時16歳で,専門学校に通学中であったから,逸失利益算定の基礎収入としては,平成8年賃金センサスの高卒男子の平均賃金531万2700円を採用すべきである。また,16歳の専門学校生の場合,中間利息控除のためのライプニッツ係数は,稼働期間である18歳から67歳まで49年間の稼働期間分の係数から,16歳から18歳までの2年間分の係数を控除した16.3093となるはずである。したがって,Dの死亡逸失利益の額は,次の算式により,金4332万3209円となる。

金531万2700円×(1-0.5)×16.3093

=金4332万3209円

イ 慰謝料について

慰謝料については,Dの死亡慰謝料と原告ら固有の慰謝料を合計して金2000万円が相当である。

ウ 前記のとおり,本件事故による損害については7割以上の割合相殺をなすべきであり,かつ,原告らは,本件事故による損害の填補として既に金3000万円の支払いを受けているから,原告らの請求は理由がない。

第6争点に対する判断

1  争点1について

(1)  証拠(甲4の1ないし3,甲5ないし7,乙1,2,原告A本人,被告C本人)によると,本件事故の発生状況につき,次のとおり認められる。

ア 本件交差点は,南北に走る,アスファルトで舗装された,片側1車線の直線道路(道路名「c線」,以下,この道路名をもって呼称する。)と,東北東から西南西に走る,アスファルトで舗装された,片側1車線の直線道路(道路名「d通」)が交差する,信号機により交通整理の行われている十字路交差点である。

イ c線は,本件交差点北側において,南行車線の幅員が7.7メートル,北行車線の幅員が6.9メートルで,道路幅員が14.6メートルであるところ,本件交差点南側においては,南行車線,北行車線とも,幅員が3.5メートル,車線外側線と歩道との幅員が1.0メートルで,道路幅員が9メートルであり,本件交差点をはさんで,北側に比べて南側の道路幅員が5.6メートル狭くなっている。

ウ 加害車両は,本件トラクタ部(車長9.35メートル,車幅2.49メートル,車高3.20メートル)が伸縮可能なポールを介して本件トレーラ部(車長6.43メートル,車幅2.50メートル,車高1.60メートルで,車軸は3軸)を牽引する構造となっており,本件事故発生の際の加害車両の全長は24.30メートルであり,コンクリート製の橋梁2本(白色,1本の長さ21.50メートル,重さ約18トン)を積載していた。

本件トレーラ部には,後部にテールランプ及びブレーキランプが設置されているほか,左右側部に2個ずつの黄色灯火が,前部の左右に1個ずつの橙色灯火がそれぞれ設置されており,これらの灯火は前照灯に連動して点灯される仕組みになっていたが,回転灯は設置されていなかった。

また,本件トラクタ部と本件トレーラ部を接続するポールは,本件トラクタ部との接続部分,本件トレーラ部との接続部分及び中央部分が黄色で塗装されていたが,本件事故当時はその塗装は相当剥げており,電飾等は設置されていなかった。

さらに,本件事故当時,上記ポールの左右の部分,すなわち,本件トラクタ部と本件トレーラ部に挟まれた部分には,バイク等が入り込まないようにするためのロープや電灯を付けた電線等は張られていなかった。

エ 被告Cは,加害車両を運転し,c線を北から南へ進行して本件交差点に至ったが,対面信号が赤信号であったため,その手前で加害車両を停止させた。ところで,同被告は,本件交差点を直進して通過し,c線を南に向けて進行するつもりであったが,上記のとおり,本件交差点南側においてc線の南行車線の幅員が狭まっていたことから,同被告は,再発進する際に加害車両の進路を変更せずに直進して本件交差点を通過できるようにするため,加害車両を南行車線の中央線寄りに停止させた。

オ 一方,Dも,被害バイクを運転してc線を北から南へ進行して本件交差点に至り,信号待ちのため,加害車両の左側,本件トラクタ部の後部付近に被害バイクを停止させ,被告Cは,加害車両の左サイドミラーを見て,被害バイクが上記位置に停止していることを認めたが,その際,Dは,被害バイクの方向指示器を点灯させていなかった。

カ 対面信号が青信号に切り替わったため,被告Cは,加害車両を再発進させ,そのまま直進して本件交差点を通過しようとしたところ,本件トレーラ部の先端部分が本件交差点内に進入した直後の時点で,被害バイクが本件トラクタ部と本件トレーラ部の間に入り込んで減速又は停止したため,本件トレーラ部の左前部が被害バイクに追突し,そのため,Dは被害バイクもろともその場に転倒して,本件トレーラの左後タイヤで轢過された。

以上のとおり認められる。

これに対し,原告は,本件事故当時,c線の本件交差点南側の中央線が北側の中央線から見て東側(加害車両の進行方向に向かって左側)にずれていたため,被告Cは,本件交差点を通過するに当たり,加害車両のハンドルをいったん左に切り,その後に右に戻したものであり,その結果,本件トレーラ部が内輪差のために大きく横に移動し,通常の車両通過であれば安全な位置に停止した被害バイクが本件トレーラ部に衝突された可能性が高いと主張する。

しかしながら,上記イ記載のとおり,c線は本件交差点の北側と南側とで大きく道路幅員が異なっており,本件交差点北側における南行車線の東端は本件交差点南側における南行車線の東端よりも東側に位置していたから,適切な進路を通行すれば,加害車両が本件交差点を直進して通過することは十分可能であったと認められるのであって(別紙図面参照),仮に,原告の主張するとおり,本件事故当時,c線の本件交差点南側の中央線が北側の中央線から見て東側にずれていたとしても,そのことをもって,被告Cが本件交差点を通過するに際して加害車両のハンドルをいったん左に切ったと断定することはできない。かえって,被告Cは,本人尋問において,「本件交差点を渡った先の道路が細くなっているので,真っ直ぐ入っていけるように右寄りに停止した。対面信号が青になって発進したが,本件交差点内でハンドルを切っていない。」旨供述し,さらに,証拠(甲5ないし7)によれば,本件事故の発生状況を目撃したEは,警察官及び検察官に対し,加害車両は,本件交差点を通過するに当たり,左右に進路を変更したことはなかったと思う旨供述していることが認められるのであって,これらの証拠関係に照らすと,被告Cが本件交差点を通過するに当たり加害車両のハンドルを左に切ったと認めることはできないから,原告の上記主張は採用しない。

なお,上記カ記載のとおり,本件事故発生の際,被害バイクは本件トラクタ部と本件トレーラ部の間に入り込んで減速又は停止したと認められるところ,Dが,なぜ,そのような場所に被害バイクを進行させたのか,その理由を断定することは極めて困難であるけれども,本件事故の発生時刻が午後10時45分であったこと,Dが,本件交差点で信号待ちをするに当たり,加害車両の左側,本件トラクタ部の後部付近に被害バイクを停止させたこと(もし,Dが,本件交差点を直進又は左折しようとしていたのであれば,本件トラクタ部の前部付近に被害バイクを停止させたであろうと考えられる。),証拠(甲4の1,原告A本人)によると,Dの自宅は本件交差点の南西方向にあり,Dは,被害バイクを運転して帰宅するに際し,本件交差点を右折するのが通常であったことが認められ,これらの事情を総合すると,Dは,加害車両が本件交差点を通過した後に本件交差点を右折すべく,本件交差点内で被害バイクを減速又は停止させようとしたところ,誤って,被害バイクを本件トラクタ部と本件トレーラ部に挟まれた地点にまで進行させてしまったのではないかと推測される。

(2)  前記認定に基づき,本件事故についての被告らの損害賠償責任の有無を検討する。

ア 原告らは,被告Cについて,左右への方向転換に当たり,側方を通過する車両に衝突することのないよう十分な距離を保ちながら安全に走行すべき注意義務の違反を主張するが,被告Cが,本件交差点を通過するに当たり,加害車両を直進させたと認められることは前記認定のとおりであるから,原告らの上記主張は,その前提を欠き,失当である。

よって,原告らの被告Cに対する請求はいずれも理由がないから,棄却することとする。

イ 被告会社の責任について検討する。

(ア) まず,原告らは,被告会社について,民法715条による責任がある旨主張するが,上記のとおり,被告Cに過失が認められない以上,被告会社が上記責任を負うことはないから,原告らの上記主張は採用しない。

(イ) 次に,被告会社の自賠法3条又は民法709条に基づく責任の有無についてみると,被告Cの本人尋問の結果によれば,一般に,トレーラ車のトラクタ部とトレーラ部に挟まれた部分にバイク等が入り込むことは可能であり,これまでにも本件事故に類する事故が発生した例があったこと,そのような事故を防ぐため,トレーラ部に回転灯を設置してバイク等の運転者に対して注意を促したり,さらには,トラクタ部とトレーラ部に挟まれた部分に電灯を付けた電線等を張るなどして,バイク等が入り込まないようにする場合もあることが認められ,これらの事情にかんがみると,従業員等に対し,加害車両のような大型トレーラ車の運行を命ずる運送会社等には,トレーラ部に回転灯を設置したり,トラクタ部とトレーラ部に挟まれた地点に電灯を付けた電線等を張るなど,事故の発生を防ぐための各種装置をトレーラ車に設置すべき法律上の注意義務があると考えられるから,これを怠ったときには,民法709条に定める「過失」に該当するとともに,自賠法3条ただし書に定める「自動車の構造上の欠陥」に該当するものと解するのが相当である。被告会社は,停止中又は併走中に本件トラクタ部と本件トレーラ部の間にバイク等が入り込むという予見の範囲を超えた危険行為に備えた対策を取るべき義務を負うものではないと主張するが,上記の被告Cの本人尋問の結果に照らし,被告会社の上記主張は採用しない。

そして,上記認定によれば,加害車両は,本件事故当時,本件トレーラ部に回転灯を設置されておらず,かつ,本件トラクタ部と本件トレーラ部に挟まれた部分にはロープや電灯を付けた電線等が張られていなかったことが認められるから,被告会社には,本件事故の発生について,上記の注意義務の違反があり,また,加害車両には,上記の構造上の欠陥があったと認められる(なお,被告会社が,本件事故当時,加害車両を自己の運行の用に供していたとの点については,当事者間に争いがない。)。

したがって,被告会社は,民法709条又は自賠法3条に基づき,D及び原告らが本件事故により被った損害を賠償すべき責任を負うものというべきである。

(3)  過失相殺の適否について

まず,被告会社の過失の程度について検討すると,上記にみた被告会社の注意義務は,被告会社が事故防止に向けて十分に配慮していれば,これを尽くすことはさほど困難とは考えられず,かつ,これを尽くしていれば,本件事故の発生を防止することができた可能性は大きかったと考えられるから,本件事故発生についての被告会社の過失の程度は小さいものとみることはできない。

しかしながら,他方,被告Cに加害車両の運転操作上の過失が認められず,本件事故の直接の発生原因は,Dが,何らかの理由により,被害バイクを本件トラクタ部と本件トレーラ部に入り込ませたことにあるとみられることを考慮すると,本件事故の発生については,Dにも被害バイクの運転操作上の過失があったといわざるを得ない。

そして,以上のほか,本件審理に顕れた諸般の事情を総合勘案すると,D及び原告らが本件事故により被った損害については,5割の過失相殺をなすのを相当と認める。

2  争点2について

(1)  Dの死亡逸失利益について

証拠(原告A本人)及び弁論の全趣旨によると,Dは,本件事故当時16歳であり,中学校卒業後,3年制のコンピュータの専門学校に通学していたことが認められるところ,Dの死亡逸失利益の算出するに当たり,基礎収入として,賃金センサス平成8年第1巻第1表産業計・企業規模計・学歴計男子労働者全年齢平均年収金567万1600円を採用し,生活費控除率を50パーセントとし,中間利息の控除については,16歳から67歳まで51年間に対応するライプニッツ係数18.3389から16歳から18歳までの2年間に対応するライプニッツ係数1.8594を差し引いた16.4795を採用して算出すると,次の算式により,Dの死亡逸失利益は金4673万2566円と認められる。

金567万1600円×(1-0.5)×16.4795

=金4673万2566円

(2)  慰謝料について

本件事故時のDの年齢,家族構成,本件事故の態様その他本件審理に顕れた諸般の事情をかんがみ,Dの死亡に係るDの慰謝料及び原告ら固有の慰謝料については,併せて金2000万円をもって相当額と認める。

(3)  したがって,D及び原告らが本件事故により被った損害の額は,弁護士費用を除き,金6673万2566円と認められる。

3  結論

(1)  前記1(3)記載のとおり,本件においては,5割の過失相殺をなすのが相当であるから,上記損害額に5割を乗ずると,その額は金3336万6283円となる。そして,前記前提事実4記載のとおり,原告らは,本件事故による損害の填補として,既に金3000万円の支払いを受けているから,上記金額からこれを差し引くと,残額は金336万6283円となる。

(2)  そして,上記認容額,本件訴訟の審理経過その他諸般の事情にかんがみ,弁護士費用としては,原告ら両名の分を併せて金33万円が相当であり,これを加えると,原告らの被告会社に対する請求額は併せて金369万6283円となるから,これを原告らの間で均等に分けると,その額は,各自,金184万8141円となる。

(3)  したがって,原告らの被告会社に対する請求は,各自金184万8141円及びこれに対する本件事故の発生日である平成8年1月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとする。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤英彦)

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