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京都地方裁判所 平成12年(ワ)2148号 判決 2001年8月02日

東京都葛飾区奥戸4丁目19番12号

原告

株式会社カネシン

代表者代表取締役

吉田孝志

訴訟代理人弁護士

柴田耕次

山村忠夫

補佐人弁理士

江藤剛

京都市中京区壬生下溝町35番地

被告

松田金属工業株式会社

代表者代表取締役

松田良信

訴訟代理人弁護士

矢島邦茂

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求

1  被告は、別紙物件目録(一)(二)記載の建築用埋込ボルトを製造し、販売し、又は販売のために展示してはならない。

2  被告は、前項の建築用埋込ボルトを廃棄せよ。

3  被告は、原告に対し、1393万5764円及びこれに対する平成12年9月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  仮執行宣言

第2  事案の概要

1  事案の要旨

本件は、原告が、被告が製造販売する建築用埋込ボルト(アンカーボルト)が原告の意匠権を侵害するとして、意匠法37条に基づき、その製造販売又は販売のための展示の停止、同建築用埋込ボルトの廃棄を求め、同法39条に基づき、損害賠償として1393万5764円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成12年9月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2  基本的事実関係

(1)  原告の意匠権(争いがない。)

ア 原告は以下の意匠権を有している(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件意匠」という。)。なお、出願人は株式会社カナイ(以下「カナイ」という。)であるが、下記(3)の経緯で原告に本件意匠権が譲渡された。

意匠登録番号 第905957号

出願年月日 昭和63年9月16日

出願番号 昭63―36492号

登録年月日 平成6年6月8日

意匠に係る物品 建築用埋込みボルト

登録意匠 別紙意匠公報1(甲2)のとおり

イ 原告は、平成7年6月9日、平成10年法律第51号特許法等の一部を改正する法律による改正前の意匠法10条に基づき、本件登録意匠を本意匠として、別紙意匠公報2(甲3)記載の類似意匠(以下「本件類似意匠」という。)の登録を得た。

(2)  被告の行為(争いがない。)

被告は、平成9年1月ころから別紙物件目録(一)記載の建築用埋込ボルト(以下「イ号物件」といい、その意匠を「イ号意匠」という。)を、平成8年1月ころから別紙物件目録(二)記載の建築用埋込ボルト(以下「ロ号物件」といい、その意匠を「ロ号意匠」という。)を、それぞれ製造販売している。

イ号物件、ロ号物件は、本件意匠にかかる物品と同一である。

(3)  カナイから原告に対する本件意匠権の譲渡と原告からカナイに対する本件意匠の実施許諾

ア カナイは、原告のもと専務取締役であった金井宏樹が設立した「株式会社カネシン金井製作所」が、東京地方裁判所が平成元年8月3日発令した仮処分決定(昭和63年(ヨ)第2570号仮処分申請事件)において、関東地方の各県及び山梨、静岡の両県において同商号の使用を禁止したことに伴い商号変更したものである(甲4、弁論の全趣旨)。

イ 原告とカナイ間の東京地方裁判所平成2年(ワ)第14881号事件の裁判において、平成5年12月8日、訴訟上の和解が成立した。同和解においては、カナイが本件意匠について意匠登録を受ける権利の2分の1を原告に譲渡すること、本件意匠について意匠登録がされた場合はカナイが登録済み意匠権の共有持分2分の1を原告に譲渡し、原告はカナイに本件意匠について範囲無制限、無償の独占的通常実施権を許諾することなどが取り決められた(以下「本件和解」という。)。そして、本件和解に基づき、平成6年9月26日、カナイ名義で登録された本件意匠権が、同年7月27日譲渡を原因として原告へ移転登録された(甲1、5)。

(4)  本訴提起前の交渉経緯(争いがない。)

原告が、平成11年4月20日付内容証明郵便(甲6)で、被告に対し、イ号・ロ号意匠が本件意匠に類似するとして取扱を中止することなどを求めたのに対し、被告は、平成11年5月25日付内容証明郵便(甲7)で、被告はカナイの協力工場として、カナイの指揮監督のもとに、イ号物件、ロ号物件を製造し、すべてカナイに納品しているから、被告の行為は本件和解に基づきカナイが有する本件意匠の独占的通常実施権の範囲内である旨回答した。

3  争点

(1)  本件意匠とイ号・ロ号意匠は類似するか。

(2)  被告の行為は本件和解に基づきカナイが有する本件意匠の独占的通常実施権の範囲内か。

(3)  被告に損害賠償義務が認められた場合、賠償すべき額。

第3  争点に関する当事者の主張

1  争点(1)(本件意匠とイ号・ロ号意匠は類似するか。)について

【原告の主張】

(1) 本件意匠及びイ号・ロ号意匠の各構成

ア 本件意匠

直棒状の丸棒杆の一端(上端)部を螺子部、他の一端(下端)部をアンカー部としたもので、上記螺子部は全体に対しほぼ7分の1の割合の長さにして上記丸棒杆の一端に配し、アンカー部は全体に対しほぼ17分の1の割合の長さにして上記丸棒杆の他の一端に配し、かつ、小判状の平板部の片面(下端面)中央部に四角錐台形部を重ね合わせたもので、アンカー部の平板部は上記丸棒杆の径に対し長径側がほぼ6倍、短径側がほぼ3倍の大きさの割合の径を備え、四角錐台形部はその底面の一辺が上記平板部の短径側の径のほぼ5分の4、四角錐台としての高さが平板部のほぼ5倍の割合の大きさでなるものである。

イ イ号意匠

直棒状の丸棒杆の一端(上端)部を螺子部、他の一端(下端)部をアンカー部としたもので、上記螺子部は全体に対しほぼ6分の1の割合の長さにして上記丸棒杆の一端に配し、アンカー部は全体に対しほぼ32分の1の割合の長さにして上記丸棒杆の他の一端に配し、かつ、ほぼ円形状の平板部の片面(下端面)中央部に四角錐台形部を重ね合わせたもので、その平板部は上記丸棒杆の径に対し長径側がほぼ6倍、短径側がほぼ1.8倍の割合の大きさの割合の径を備え、四角錐台形部はその底面の一辺が上記平板部の径のほぼ9分の7、四角錐台としての高さが平板部のほぼ5倍の割合の大きさでなるものである。

ウ ロ号意匠

直棒状の丸棒杆の一端(上端)部を螺子部、他の一端(下端)部をアンカー部としたもので、上記螺子部は全体に対しほぼ7分の1の割合の長さにして上記丸棒杆の一端に配し、アンカー部は全体に対しほぼ24分の1の割合の長さにして上記丸棒杆の他の一端に配し、かつ、ほぼ円形状の平板部の片面(下端面)中央部に四角錐台形部を重ね合わせたもので、その平板部は上記丸棒杆の径に対しほぼ3倍の大きさの割合の径を備え、四角錐台形部の底面の一辺が上記平板部の径のほぼ1.5倍、四角錐台としての高さが平板部の厚さのほぼ5倍の割合の大きさでなるものである。なお、丸棒杆の螺子部側には、4個の切溝を該丸棒杆の長手方向に沿って並設してある。

(2) 本件意匠とイ号・ロ号意匠の対比

ア 本件意匠とイ号意匠

直棒状の丸棒杆の一端(上端)部を螺子部、他の一端(下端)部をアンカー部とし、アンカー部は丸みのある平板部の片面中央部に四角錐台形部を重ね合わせてなる点で一致し、他方、両意匠は、アンカー部を構成する平板部の形状において本件意匠が小判状でなるのに対し、イ号意匠が円形でなる点及び各部の大きさの割合で相違する。

両意匠の一致点と相違点を比較すると、一致点は両意匠を構成する丸棒杆等の各要素の共通点とこれら要素の配置関係の共通点であるのに対し、相違点中のアンカー部の平板部の相違は、アンカー部の一部の形態の相違にすぎず、かつ、それは丸みのある平板という共通点中の相違にすぎない。また、各部の大きさの相違にしても、その相違がそれぞれの意匠を特徴づけるほどの相違点でもない(すなわち、一致点が相違点を圧倒している。)。

よって、本件意匠とイ号意匠は類似する。

イ 本件意匠とロ号意匠

相違点として、ロ号意匠には丸棒杆の周側に切溝を配している点があるほかは、本件意匠とイ号意匠の共通点・相違点と同じである。そして、上記ロ号意匠特有の相違点の存在によっても、上記共通点が変わるものではないから、該切溝は部分的な相違にすぎない。

よって、本件意匠とロ号意匠は類似する。

(3) 被告の主張について

ア 被告は、直棒状の丸棒杆の一方を螺子部、他方をアンカー部とする2つの部分から構成される形状は公知、周知であるとして、本件意匠の要部がアンカー部の小判型の形状にあり、イ号・ロ号意匠はアンカー部が円形であるから、本件意匠と類似しない旨主張する。

しかし、例えば、公開実用新案公報平1―163604(甲13)に係る意匠(以下「別意匠1」という。)によれば、曲棒状の一方を螺子部、他方をアンカー部とする2つの部分から構成される形状も公知である。また、平成11年2月24日に出願され平成12年4月7日に登録された意匠登録第1075148号意匠公報(甲14)に係る意匠(以下「別意匠2」という。)は、本件意匠とアンカー部の形状をほぼ同じくする(少なくとも類似する)曲棒状の形状の意匠であり、これが本件意匠の存在にもかかわらず登録されている。したがって、本件意匠の要部がアンカー部にあるとの被告の主張は理由がない。

また、仮に本件意匠の要部をアンカー部の形状に求めるとしても、本件意匠とイ号・ロ号意匠は、丸みのある平板部の片面中央部に四角錐台形部を重ね合わせてなる点で一致し、丸みのある平板部の形状について本件意匠は楕円形、イ号・ロ号意匠は円形であるという点で異なるにすぎず、これらはいずれも「丸みのある平板部」という大きな共通点のもとでの微細な差異というべきである。

イ 被告は、第2の2(4)記載のとおり、本訴提起前の交渉の経緯においては、被告の行為が本件意匠権を侵害しない理由として、本件和解に基づきカナイが有する本件意匠の独占的通常実施権の範囲内であることを挙げるのみで、本件意匠とイ号・ロ号意匠が類似しないことについては一切触れておらず、類似することを認めていたものというべきである。そうすると、被告が、本訴において、本件意匠とイ号意匠及びロ号意匠が類似しない旨主張するのは信義則に反する。

【被告の主張】

(1) 本件意匠及びイ号・ロ号意匠の構成について

上記各意匠の各部の具体的構成(寸法比)は、以下を除き、原告主張のとおりである。

ア 本件意匠

(ア) 螺子部は、全体に対しほぼ7分の1ではなく、ほぼ65分の10の割合の長さである。

(イ) アンカー部は、全体に対しほぼ17分の1ではなく、ほぼ16分の1の割合の長さである。

(ウ) アンカー部の平板部は、上記丸棒杆の径に対し長径側がほぼ6倍、短径側がほぼ3倍ではなく、長径側がほぼ7倍、短径側がほぼ4倍の大きさの割合の径である。

(エ) 四角錐台形部は、その底面の一辺は上記平板部の短径側の径のほぼ5分の4ではなく、ほぼ4分の3の割合の大きさである。

(オ) 四角錐台としての高さは、平板部のほぼ5倍ではなく、6倍強の割合の大きさである。

イ イ号意匠

(ア) 螺子部は、全体に対しほぼ6分の1ではなく、ほぼ6.23分の1の割合の長さである。

(イ) 四角錐台形部は、その底面の一辺が上記平板部の径のほぼ9分の7ではなく、ほぼ平板部の外周一杯の大きさである。

ウ ロ号意匠

四角錐台形部は、その底面の一辺が上記平板部の径のほぼ9分の7ではなく、ほぼ平板部の外周一杯の大きさである。

(2) 本件意匠の要部について

一方を螺子部、他方をアンカー部とする2つの部分から構成される形状は、建築用埋込ボルトの用途や機能から必然的に導かれるものである。このような形状を備えた本件意匠の出願前の公知意匠としては、昭和56年5月7日に出願され昭和60年9月13日に登録された意匠登録第668377号意匠公報(乙1)に係る意匠(以下「別意匠3」という。)、昭和45年4月3日に出願され昭和46年6月9日に登録された意匠登録第333639号意匠公報(乙2)に係る意匠(以下「別意匠4」という。)、昭和45年4月3日に出願され昭和47年2月2日に登録された意匠登録第345430号意匠公報(乙3の1)に係る意匠(以下「別意匠5」という。)、別意匠5の類似意匠(昭和47年1月6日出願、昭和50年3月24日登録、乙3の2 以下「別意匠6」という。)、公開実用新案公報昭57―176505号及び実用新案公報昭61―33086号(乙4の1、2)に係る意匠(以下「別意匠7」という。)がある。

それにもかかわらず本件意匠が登録されたのは、アンカー部の小判状の形状に特徴があったからであり、これが要部である。

(3) 本件意匠とイ号・ロ号意匠の対比について

本件意匠とイ号・ロ号意匠は、要部であるアンカー部の形状において、前者が小判状であるのに対し後者が円形であることにおいて相違している。その他、その寸法比やイ号・ロ号意匠は丸棒杆表面部に刻みがある点など、重要な点において相違する。

したがって、本件意匠とイ号・ロ号意匠は類似しないものというべきである。

2  争点(2)(被告の行為は本件和解に基づきカナイが有する本件意匠の独占的通常実施権の範囲内か。)について

【被告の主張】

(1) 被告は、原告から本件意匠について範囲無制限、無償の独占的通常実施権の設定を受けたカナイの下請として、カナイの指示のもとにイ号物件、ロ号物件を製造し、これらをすべてカナイに納入し、その上でカナイから購入して販売している。

(2) 被告が正当な実施権者であるカナイからイ号物件、ロ号物件を購入している以上、これらの物件の販売は本件意匠権を侵害するものではない。

【原告の主張】

(1) 被告は、同社の「木造住宅・接合金具・総合カタログ」(甲8)にロ号物件を「笠型アンカーボルト」として掲載し、各得意先に配布しているのみならず、被告名の入っている梱包段ボールにイ号物件、ロ号物件を荷造りし(甲9の1ないし14)、住友林業株式会社等に直接販売している。

(2) 被告が納品したイ号物件、ロ号物件をカナイではなく、被告が第三者に販売する以上、被告の行為は本件和解に基づきカナイが有する本件意匠の独占的通常実施権の範囲内とはいえない。

3  争点(3)(被告に損害賠償義務が認められた場合、賠償すべき額。)について

【原告の主張】

(1) イ号物件、ロ号物件の販売数量

イ号物件、ロ号物件の販売数量・販売額は、別紙「被告販売数量表」記載のとおりであり、販売価格総額は7227万8847円である。

(2) 意匠法39条2項に基づく請求

被告がイ号物件、ロ号物件の販売によって得た粗利益は別紙「被告販売数量表」記載のとおりであって、その合計は1393万5764円であり、これが意匠法39条2項により原告の損害と推定される。

(3) 意匠法39条3項に基づく請求

イ号物件、ロ号物件の実施料相当額は、販売価額の5パーセントであるから、意匠法39条3項に基づき、上記販売価額総額の5パーセントである361万3942円を請求する。

第4  争点に対する判断

1  争点(1)(本件意匠とイ号・ロ号意匠は類似するか。)について

(1)  本件意匠、本件類似意匠、イ号・ロ号意匠の各構成について

基本的事実関係及び甲2、3によれば、上記各意匠は、建築におけるコンクリートの布基礎中に下端のアンカー部を埋込み、上部を土台に挿通して突出上端にナットを蝶合する建築用埋込みボルトに係るもので、その構成態様は、以下のとおりであると認められる(なお、本件意匠との対比の必要上、類似意匠公報、別紙物件目録(一)、同目録(二)の各「平面図」「底面図」「左側面図」「右側面図」を、それぞれ「左側面図」「右側面図」「底面図」「平面図」と読み替える。)。

ア 本件意匠(甲2)

(ア) 基本的構成態様

a 直棒状の丸棒杆の一端を螺子部、他端をアンカー部としている。

b アンカー部は、平板の上に重心部を載せてなる。

(イ) 具体的構成態様

a 丸棒杆全体に占める長さの割合は、螺子部が約14.5パーセント、アンカー平板部が約1.2パーセント、アンカー重心部が約4.8パーセントである。

b アンカー平板部は、底面視小判型であり、上記丸棒杆の径に対し長径側がほぼ6.3倍、短径側がほぼ3倍である。

c アンカー重心部は、先端が底面とほぼ平行に切断された四角錐状でなる。

d 四角錐状重心部の底辺は、上記丸棒杆の径に対しほぼ2.6倍の正四角形である。

イ 本件類似意匠(甲3)

(ア) 基本的構成態様

本件意匠と同様である。

(イ) 具体的構成態様

a 丸棒杆全体に占める長さの割合は、螺子部が約16.1パーセント、アンカー平板部が約0.9パーセント、アンカー重心部が約3.6パーセントである。

b アンカー平板部は、底面視楕円形であり、上記丸棒杆の径に対し長径側がほぼ3倍、短径側がほぼ2.3倍である。

c アンカー重心部は、先端が底面とほぼ平行に切断された四角錐状でなる。

d 四角錐状重心部の底辺は、上記丸棒杆の径に対しほぼ2.6倍の正四角形である。

ウ イ号意匠(甲9の1・3、別紙物件目録1(一))

(ア) 基本的構成態様

本件意匠と同様である。

(イ) 具体的構成態様

a 丸棒杆全体に占める長さの割合は、螺子部が約16.0パーセント、アンカー平板部が約0.5パーセント、アンカー重心部が約2.6パーセントである。

b アンカー平板部は、底面視円形であり、上記丸棒杆の径に対しほぼ2.3倍である。

c アンカー重心部は、先端が底面とほぼ平行に切断された四角錐状でなる。

d 四角錐状重心部の底辺は、上記丸棒杆の径に対しほぼ1.4倍の正四角形である。

エ ロ号意匠(甲9の1・3、別紙物件目録(二))

(ア) 基本的構成態様

本件意匠と同様である。

(イ) 具体的構成態様

a 丸棒杆全体に占める長さの割合は、螺子部が約16.0パーセント、アンカー平板部が約0.8パーセント、アンカー重心部が約3.4パーセントである。

b アンカー平板部は、底面視円形であり、上記丸棒杆の径に対しほぼ2.3倍である。

c アンカー重心部は、先端が底面とほぼ平行に切断された四角錐状でなる。

d 四角錐状重心部の底辺は、上記丸棒杆の径に対しほぼ1.4倍の正四角形である。

e 丸棒杆の螺子部側には、4個の切溝が該丸棒杆の長手方向に沿って並設されている。

(2)  本件意匠の要部について

登録意匠の要部となるのは、当該意匠に係る物品が取引ないし使用される過程において、物品の性質、用途、使用形態からみて取引者又は需要者の目につきやすく、見る者の注意を強く惹く特徴的な部分である。上記の認定に際し、当該登録意匠出願前に存在する公知意匠についても、これを参酌すべきである(公知意匠と合致する部分のみでは、他の構成部分と結合しない限り、当該登録意匠の固有の特徴となるとはいえない。)。また、登録意匠に類似意匠が付帯するときは、類似意匠は当該登録意匠(本意匠)の要部を把握し類似範囲を明確にする有力な資料であるから、その要部を認定するにあたって参酌するのは当然である。

ア 基本的構成態様について

基本的構成態様aは、本件意匠にかかる物品である上記建築用埋込ボルトとしての機能上、当然に要求されるものであり、同様の構成を有する出願時公知の意匠も存在する(別意匠3ないし7)。また、同bは、アンカーに平板部、重心部を設けることは公知意匠である別意匠3、6、7にもみられるところであるから、いずれも要部ということはできない。

イ 具体的構成態様について

(ア) 具体的構成態様aについて

丸棒杆全体に占める螺子部、アンカー平板部、アンカー四角錐部の長さの割合は、建築用埋込ボルトが使用される基礎コンクリート部及び土台部の厚さ及び割合から適宜選択されるものと考えられ、本件意匠に特徴的な部分ということはできず、取引者の注目を惹くとは考えられないから、要部とは認め難い。

(イ) 同bについて

建築用埋込ボルトにおいては、その機能上、基本的構成態様は単純となりがちであるから、アンカー部の具体的形状は取引者の注目を惹く部分であることは容易に想像できるところ、同様の構成を有する出願時公知意匠も証拠上認められない。また、登録意匠と類似意匠に共通する部分は、通常、登録意匠の要部となると解されるところ、本件意匠と本件類似意匠の平板部は、底面視小判状と楕円形という差異はあるが、長径部・短径部を有する円弧状のものであるという点で共通している。以上のことから、アンカー平板部が底面視長径部・短径部を有する円弧状のものである点は本件意匠の要部であると認められる。

原告は、別意匠2の存在を理由にアンカー平板部の形状は本件意匠の要部とならない旨主張するが、上記別意匠は後願登録意匠であって、出願時公知のものではない上、曲棒状の丸棒杆の建築用埋込ボルトに関するものであるから、上記別意匠の存在は、上記要部の判断に影響を及ぼすものではない。

(ウ) 同cについて

アンカー部の具体的形状が取引者の注目を惹くものであること、同様の構成を有する出願時公知の意匠も証拠上認められないこと、本件類似意匠とも共通する構成であることからすれば、これは、本件意匠の要部であると認められる。

(エ) 同dについて

四角錐状重心部の底辺と丸棒杆の径の比は、平板部との均衡等から適宜選択されるものと考えられ、本件意匠に特徴的な部分ということはできず、また、これが、上記アンカー部の形状と離れて特に取引者の注目を惹く部分とも考えられないから、要部とは認め難い。

(3)  本件意匠とイ号・ロ号意匠の対比

本件意匠とイ号・ロ号意匠は、基本的構成態様において共通する。また、具体的構成態様のcにおいて共通するが、他の具体的構成態様においては相違する(ロ号意匠の具体的構成態様eに相当するものは本件意匠にはない。)。

そうすると、前記要部中、具体的構成態様cについては共通し、同bについては相違することとなる。

そこで、検討するに、具体的構成態様bにおいて、本件意匠の平板部が底面視長径部・短径部を有する円弧状のものであるのに対し、イ号・ロ号意匠の平板部が底面視円形であるため、本件意匠とイ号・ロ号意匠では、平面視及び底面視の平板部形状が明らかに相違するほか、本件意匠では左側面視・右側面視と正面視・背面視が異なるのに対し、イ号意匠、ロ号意匠では正面視・背面視・左側面視・右側面視が全く同じになる(ロ号意匠の切溝の点を除く)という点で著しい差異が生じる。その結果、本件意匠は変化に富んだ印象を与えるのに対し、イ号・ロ号意匠はコンパクトにまとまった印象を与えるのであって、具体的構成態様cにおける共通点にも関わらず、美観を異にし、類似しないというべきである。

(4)  原告の主張について

原告は、被告が本訴提起前の交渉において本件意匠とイ号・ロ号意匠が類似しないことについて触れていなかったことを理由に、被告が本訴において、本件意匠とイ号・ロ号意匠が類似しないと主張するのは信義則に反する旨主張するが、意匠の類否は客観的に判断されるべき性質のものであるから、採用することはできない。

2  結論

よって、原告の請求は、その余の争点について判断するまでもなく理由がないから棄却することとする。

(裁判長裁判官 赤西芳文 裁判官 本吉弘行 裁判官 矢作泰幸)

物件目録(一)

図面で示す形状の建築用埋込ボルト

右側面図

左側面図

平面図

正面図

底面図

背面図

<省略>

物件目録(二)

図面で示す形状の建築用埋込ボルト

平面図

正面図

底面図

背面図

左側面図

右側面図

<省略>

日本国特許庁 登録意匠番号

平成6年(1994)9月2日発行 意匠公報1(S) 905957

L4-3920C

意願 昭63―36492 出願 昭63(1988)9月16日

登録 平6(1994)6月8日

創作者 金井宏樹 東京都葛飾区奥戸1―27―9

意匠権者 株式会社カナイ 東京都足立区保木間3丁目34番7号

代理人 弁理士 細井勇 外1名

審査官 関口剛

意匠に係る物品 建築用埋込みボルト

説明 本物品は参考図に示したように、建築におけるコンクリートの布基礎中に、下端の小判形座金を埋込んで上部を土台に挿通し且つその突出上端に座金を介してナツトを螺合し土台を布基礎上に固定するものである。

左側面図

正面図

背面図

右側面図

A―A断面図

平面図

底面図

使用状態を示す参考図

<省略>

<省略>

日本国特許庁 登録意匠番号

平成7年(1995)8月30日発行 意匠公報2(S) 905957の類似1

L4-3920C類似

意願 平1―43019 出願 平1(1989)11月27日

登録 平7(1995)6月9日

意匠法第4条第2項適用

創作者 秋山信義 東京都葛飾区奥戸4丁目19番12号 株式会社カネシン内

意匠権者 株式会社カネシン 東京都葛飾区奥戸4丁目19番12号

代理人 弁理士 土橋秀夫 外1名

審査官 伊勢孝俊

意匠に係る物品 建築用埋込みボルト

正面図

背面図

平面図

底面図

左側面図

右側面図

使用状態を示す参考図

<省略>

被告販売数量表

<省略>

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