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京都地方裁判所 平成12年(ワ)2847号 判決 2002年1月30日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,690万2000円及びこれに対する平成12年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,原告が,不動産競売手続において,担当執行官及び担当裁判官が物件明細書の記載及び最低売却価格の決定を誤り,これによって納付済の保証金相当額等の損害を被ったとして,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき損害の賠償を求めた事案である。

1  争いのない事実

(1) 京都地方裁判所は,別紙物件目録記載1,2の不動産(以下「本件不動産」という。)を一括競売に付し(同庁平成11年(ケ)第1021号),同庁裁判官(以下「本件裁判官」という。)は,最低売却価額を3151万円,保証額を630万2000円とした。

(2) 原告は,平成12年5月17日,保証額630万2000円を同庁に振り込んで,買受価格3338万9000円の買受申出をした。

(3) 本件裁判官は,同年5月31日,原告に対する売却許可決定をし,同年6月8日,原告に対して,同年7月7日を残代金納付期限とする旨の通知をした。

(4) 原告は,同年7月7日,本件裁判官に対し,保証の返還を求める上申書を提出し,代金納付期限までに代金を納付しなかったので,売却許可決定は効力を失った。

(5) 本件不動産は,前面歩道を隔てて国道に面しているが,本件不動産前面歩道上には,関西電力株式会社(以下「関西電力」という。)の多回路開閉器及び変圧器(以下「関電機械」という。)が設置されている。

(6) 同庁執行官(以下「本件執行官」という。)は,本件現況調査報告書に,本件不動産への自動車の出入りの可否について,記載しなかった。

2  争点

(1) 現況調査報告書の作成にあたり,執行官に過失があったか。また,最低売却価格の決定にあたり,裁判官に過失があったか。

(原告の主張)

ア 本件執行官について

本件不動産前面歩道上には,関電機械が設置されており,その移設には約3000万円の費用と年単位の工事日数を必要とするものであるため,本件不動産への自動車の出入りは不可能である。他方,本件不動産へ自動車が出入りできるかどうかは,本件不動産の利用価値を大きく左右する事項である。

したがって,本件執行官は,本件不動産へ自動車が出入りできるかにつき,正確に調査し,その結果を現況調査報告書に明記すべき注意義務を負っていた。

それにもかかわらず,本件執行官は,現況調査報告書にその旨を一切記載せず,上記注意義務を怠った過失がある。

イ 本件裁判官について

本件において,評価人作成の評価書添付の地積測量図には,本件不動産前面の歩道上の関電機械が存在することが明記されており,上記図面をみれば,関電機械が本件不動産の利用上少なからぬ妨げとなることは明白であった。また,本件不動産に自動車が出入りできない場合,更地の相場価額は3割以上下落することになる。

したがって,本件裁判官は,本件不動産へ自動車の出入りができないと判断した上,最低売却価格を自ら是正して入札希望者に対して正確な情報を提供すべき注意義務があった。

それにもかかわらず,本件裁判官は,評価書記載の評価額を是正することなく,漫然と最低売却価格を決定した過失がある。

(被告の主張)

ア 本件執行官について

現況調査の内容については,調査すべき内容が詳細に法定されている(民事執行法57条1項,民事執行規則29条,173条)ところ,公道等から不動産への自動車の出入りの可否については,積極的にその記載を命じる規定は存在しない。また,そもそも本件不動産の前面歩道には,関電工作物のほか,鉄柵,街路樹及び歩道と公道上の段差等が存在し,自動車の出入りが可能であることを前提として購入する物件ではないことが明らかである。以上のことからすれば,本件において,本件執行官は,目的不動産の現況について,法に従った調査のほか,自動車の出入りの可否について調査し,これを現況調査報告書に記載するべき義務はなかったことは明らかである。

イ 本件裁判官について

裁判官は,最低売却価額について,評価人の評価に基づいて決定しなければならず,評価人が評価の前提とした事実又は法律関係に誤りがあるとき又は評価額の算出に当たっての計算違いがあるときなどのように,評価額を不当とする合理的理由があるときは,評価の修正を命ずるべきである。しかしながら,本件においては,上記アで述べたとおり,現況調査報告書及びこれを前提とする評価人の評価に何ら義務違反は認められないから,上記評価書の記載に従って最低売却価格を決定した本件裁判官に,何ら義務違反は認められない。

(2) 損害

原告は,上記(1)ア及びイの注意義務違反により,保証金相当額630万2000円及び弁護士費用60万円の合計690万2000円の損害を被ったと主張している。

第3争点に対する判断

1  争点(1)について

(1) 本件執行官について

不動産競売は,目的不動産をその現状を前提に競売を行うものであることから,現況調査もその限度で行えば十分であり,したがって,現況調査の対象は,不動産の形状,占有関係その他の現況とされ(民事執行法57条1項),かつ,執行官の提出すべき現況調査報告書の記載事項も明記されているところ(民事執行規則29条),自動車の出入りの可否は,競落人の不動産利用の一方法にすぎないところ,執行官においては,競落人の多様な利用方法を念頭に置いた上,その利用に支障を来すものの有無についてまで調査義務があるとは解しがたい。したがって,本件執行官に注意義務違反を認めることはできず,過失は認められない。

(2) 本件裁判官について

執行担当裁判官は,評価人の評価に基づいて最低売却価格を決定し,必要があると認めるときは最低売却価格を変更することができるとされているところ(民事執行法60条1項,2項),上記のとおり,自動車の出入りの可否は,競落人の不動産利用の一方法にすぎないから,当然に不動産の評価を減額すべき要素とは解されない。そして,本件においては,本件裁判官は,評価人の評価に基づいて最低売却価格を決定しており,最低売却価格を変更する必要があると認められる事情も存しないことから,最低売却価格の決定に過失は認められない。

(3) したがって,原告の被告に対する請求はその余の点について判断するまでもなく,理由がない。

2  その他原告の主張に即して検討しても,原告の被告に対する損害賠償請求権の存在を認めることはできないので,その余の点について判断するまでもなく,原告の本件請求は理由がない。

3  結論

よって,原告の本件請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本信弘 裁判官 浅田秀俊 裁判官 中野希美)

別紙

1 所在  京都市A区B町

地番  C番2

地目  宅地

地積  42.10平方メートル

2 所在  京都市A区B町C番地2

家屋番号  C番2

種類  居宅

構造  木造瓦葺2階建

床面積  1階 30.82平方メートル

2階  23.82平方メートル

付属建物

符号  1

種類  便所

構造  木造瓦葺平家建

床面積  1.22平方メートル

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