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京都地方裁判所 平成12年(ワ)3260号 判決 2002年9月27日

京都府向日市<以下省略>

甲事件原告・乙事件被告(以下「原告」という。)

有限会社エイジ

同代表者代表取締役

京都府向日市<以下省略>

乙事件被告

上記2名訴訟代理人弁護士

伊山正和

戸田洋平

大阪府堺市<以下省略>

甲事件被告・乙事件原告(以下「被告」という。)

京都府向日市<以下省略>

甲事件被告・乙事件原告(以下「被告」という。)

上記2名訴訟代理人弁護士

木村五郎

臼田和雄

主文

1  被告らは、原告に対し、別紙物件目録記載の各動産を引き渡せ。

2  被告らは、原告に対し、連帯して、1500万円及びこれに対する平成12年12月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告らの請求を棄却する。

4  訴訟費用は、甲事件・乙事件を通じ、被告らの負担とする。

5  第1、2項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  請求

1  原告(甲事件)

主文同旨

2  被告ら(乙事件)

原告及び乙事件被告D(以下「D」という。)は、被告らに対し、連帯して、2717万4710円及びこれに対する平成14年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2  事案の概要

1  事案の要旨

(1)  甲事件

原告が、被告らに対し、被告らが原告から原告所有にかかる別紙物件目録記載の各動産(以下「本件機材等」という。)を搬出して占有しているため、原告が営業を行うことができなくなったとして、所有権に基づき本件機材等の返還を求め、また、不法行為に基づき、損害賠償として1500万円の支払を求める事案である。

(2)  乙事件

被告らが、原告設立時、被告B(以下「被告B」という。)は同人が著作権を有するソフトウェアの権利を出資し、被告C(以下「被告C」という。)は50万円を出資したと主張として、原告に対しては、Dの横領が判明したことによって平成12年9月6日に開催されたとする社員総会における決議(以下「本件総会」及び「本件総会決議」という。)ないし配当契約及び民法709条に基づき、Dに対しては配当契約及び商法266条の3に基づき、原告及びDに対し、本件総会決議(ないし配当契約)に基づく配当金(1500万円)及び上記決議後新たに判明した、Dと原告との共謀による原告の売上金等4234万9420円の横領によって侵害されたとする被告らの配当金相当損害金(上記横領金4234万9420円の一部である2434万9420円の2分の1である1217万4710円)の合計2717万4710円を連帯して支払うことを求める事案である。

2  前提事実(証拠の摘示のないものは当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により認められる。)

(1)  当事者等

ア 原告は、平成9年11月7日に設立登記された、ソフトウエア業、コンピュータソフトの開発及び関連機材の製作販売等を行う有限会社であり、Dが40口、被告Cが10口、Dの母F(以下「D母」という。)が10口を出資して(1口5万円)、社員となり、Dが代表取締役、被告Cが取締役、D母が監査役に就任した(甲9)。

イ 被告Cは、平成12年3月29日に辞任し、その後、被告Bが取締役に就任したが、同年9月23日解任された。なお、Dと被告らとは、コンピュータ総合学園HALの同期生である。

ウ D、被告C、K(以下「K」という。)及びP(以下「P」という。)の4人は、原告の設立前、ソフトウェアの発案、製作を目的として、「AGE Entertainment」(以下「AGEE」という。)というグループを結成して活動していた(甲4、乙11の2ないし4)。

(2)  原告の設立及びソフトウェア販売等

ア 「あいこっち」、「ウィナーズサークル」及び「アイコンバトラー」の各名称のソフトウェア(以下これらを「各ソフト旧版」という。なお、「アイコンバトラー」の著作権がDに、「あいこっち」の新版(「あいこつち2」)の著作権が原告にそれぞれ帰属することについては争いがないが、後記のとおり、「あいこっち」及び「ウィナーズサークル」の著作権の帰属については争いがある。)は、インターネット上でユーザーの好評を博し、新聞紙上等でも紹介され、シェアウェア販売(インターネット上でソフトウェアを公開し、ユーザーが気に入れば代金を送金するという販売方法)での売行きも好調であったところ、一般小売店における各ソフト旧版のパッケージ販売を目的として原告が設立された。

イ D及び被告ら並びに原告の従業員により、各ソフト旧版は改良を重ねられて、それぞれパッケージソフトとして新規に販売され、また、その他の製品の開発も進められた。

ウ 原告が販売したソフトウェアの代金の入金方法は、原告の設立当初はD名義の銀行口座(甲12)への入金であったが、その後は、<1>Nifty―Serve(以下「ニフティ」という)が送金代行した分は、D名義の銀行口座への入金であるが、それ以外は、<2>原告の銀行口座(乙11の6)への入金か、<3>現金書留郵便による送金という方法で入金され、Dが原告の入金を管理していた。

なお、上記D名義の銀行口座(甲12)は、原告の設立前から、「あいこっち」等の各ソフト旧版のニフティ送金代行による入金受領口座として使用されていたものである(上記のとおり、原告設立後も同口座が各ソフト旧版及びその後に開発されたソフトウェアのニフティ送金代行分の入金受領口座として利用されていたことになる。)。

(3)  本件紛争の端緒及び本件機材の搬出

ア Dは、平成12年7月13日及び同年9月6日の2度にわたり、平成8年分ないし平成10年分の所得について税務調査を受け、その後、上記各年度の所得税について修正申告を行った(甲8の1ないし5)。

イ 被告らは、上記税務調査についてDの責任を追及した上、平成12年9月24日ころまでに、原告から、原告所有にかかる本件機材等を搬出した。

(4)  その後の経緯

その後、原告は、弁護士を通じて、被告らに対し、平成12年9月26日付け内容証明郵便(同月29日到達)により、被告Bを取締役から解任したこと、本件機材等、定款原本及び契約書類一式等の返還を求めることなどを通知したところ(甲1の1・2の各1・2)、被告らも、一時は、当時の代理人弁護士を通じて、和解的に本件を解決する方向性での話合いをする姿勢を示した。しかし、結局、原告及びDと被告らとの話合いは不調となり、被告らは上記代理人弁護士を解任した。

3  争点

(1)  本件総会決議ないし配当契約の存否(甲事件の抗弁・乙事件の請求原因)

ア 上記の間接事実としてのDの横領の有無(兼乙事件の請求原因)

イ 上記横領の間接事実としての各ソフト旧版の売上取得権限

(2)  本件総会決議・配当契約が存在しない場合の原告の損害額(甲事件の請求原因)

(3)  本件総会決議・配当契約が存在する場合の被告らの損害額(乙事件の請求原因)

4  争点についての当事者の主張

(1)  争点(1)(本件総会決議ないし配当契約の存否)について

【被告らの主張】

被告らは、本件総会決議により、本件機材等を搬出し占有する権限を有しており、また、原告及びDに対して配当金1500万円を請求する権利を有している。仮に、本件総会決議が不成立であるとしても、原告及びDは、同日、被告ら及びQ(以下「Q」という。)との間で、上記決議内容と同内容の配当契約(以下「配当契約」という。)を締結したことになる。

ア 本件総会決議について

(ア) 決議内容

原告は、平成12年9月6日、Dの発議により、臨時社員総会を開催し、Dは、原告の代表取締役として出席して議長を務め、被告C、被告B、従業員であるQが参加し、上記4名全員の賛成により以下の決議をした。

a 取締役被告Bへの配当金の決定

(a) 「ウィナーズサークル」の売上金ほか 1300万円

(b) 「あいこっち」、「あいこっち2」、「カチャぴん!」の売上金ほか 1200万円

(c) 現金書留による売上金ほか 500万円

(d) 上記(a)、(b)、(c)の合計額の半額 1500万円

(これは、原告がDに横領金1300万円を弁償させて支払うという意味である。)

b 取締役被告Bへの権利譲渡

(a) 「きゃらっと」に関するすべての権利

(b) その他原告が持っているすべての業務ソフトウェアの権利、業務遂行に必要な機材一式

c 原告は、上記配当金の支払の決定を平成12年9月6日に行う。

d 原告は、上記aの(d)の1500万円を定款18条による配当として支払う。

e 原告は、取締役被告Bに対し、上記bの(a)・(b)の権利、機材を定款18条による配当として譲渡し、かつ、引き渡す。

(イ) 議事録について

原告及びDは、平成12年9月6日、上記決議の直後、被告ら及びQの目の前で、社員総会議事録(乙4の1)、覚書2通(乙4の2・3)を作成し、Dが自ら、署名押印した。明細一覧表(乙5)は、被告Cが、同日、Dから原告の印を預かり、その場でDに代わって押印したものである。

(ウ) 原告の主張について

a 原告は、上記決議の内容が営業譲渡である旨主張するが、上記決議の内容は、単なる権利、機材の譲渡にすぎない。原告は現在も営業を継続している。

b 原告は、D母に対して上記社員総会の招集通知がされていないことをもって決議不存在事由である旨主張する。しかし、D母は、Dと同居しているので、当然、DがD母に上記社員総会開催の通知をし、DがD母の代理人として、上記社員総会に出席し、上記決議に賛成したものである。仮に、その通知をしていなかったとしても、それは、原告の代表取締役であり、招集権者であるD自身の責任であり、原告及びDは、被告らとの関係で、D母に通知しなかったことを問題にできない。

(エ) 本件総会決議が行われた経緯について

被告らは、原告の経営についてDを信用していたところ、Dは、平成12年7月、突然税務調査を受けた。このときは、横領金の額は3万2000円とわずかであり、Dがこれ以上横領金はないと断言したためDを宥恕した。しかし、その後、Dが、同年9月、再度の税務調査を受けることになったため、被告らが再度Dに横領金の額を尋ねたところ、Dが1300万円と多額の横領金を自白した。ここに至り、被告らは、もはや事態を放置できなくなり、平成12年9月6日、被告ら及びDの3者間で解決を図るべく、本件総会決議をしたものである。その結果、被告Bを被告らの代表格として、原告がDに横領金1300万円を弁償させて支払うという意味で、被告Bに対し、配当金1500万円を支払い、また、ソフトウェアの権利も譲渡すると決議したのである。

イ Dの横領について(本件総会決議ないし配当契約の存在を基礎づける間接事実)

(ア) 各ソフト旧版の売上収入取得権限

a 各ソフト旧版の著作権の帰属

(a) 「あいこっち」について

「あいこっち」は、被告Bが発案し、被告C、D、K及びPの4人のAGE Eのメンバーが共同製作したものであり、著作権は、AGE Eに帰属している。

(b) 「ウィナーズサークル」について

「ウィナーズサークル」は、被告Bが発案し、Dが製作したものであり、被告BとDの共同製作によるものである(乙15)。Dは、被告Bに無断で、「ウィナーズサークル」を自分の作品のように登録していたにすぎない。

b 各ソフト旧版の売上収入取得権限

以下のとおり、原告が各ソフト旧版の売上収入を取得する権限を有している。

(a) 被告ら及びDは、原告設立の際、原告設立後は、Dは同人のソフトウェアを、被告らも同人らのソフトウェアを原告へ提供し(具体的には、各ソフト旧版に関し、Dは「アイコンバトラー」を、被告ら、D、P及びKは「あいこっち」を、被告B及びDは「ウィナーズサークル」をそれぞれ原告へ提供する。)、その売上収入を原告に帰属させるとの合意をした(以下「旧版売上金合意」という。)。

(b) 一般的に、旧版ソフトウェアの市場性は、新版ソフトウェアの発表により失われるが、原告は、2つを連動させて相互に売上を伸ばす意図の下に、旧版の頒布を継続したのである。すなわち、「あいこっち」の最終バージョンは、「1.50c」であるが、それ以前のバージョンである「1.50b」のファイルには、「1997年(平成9年)12月6日」と記載されているのであるから(乙11の1)、原告が設立された平成9年11月7日以降も第1次的な頒布が中止されていないことは明らかである。このことは、Dが、旧版売上金合意に基づき、原告設立後も上記各ソフト旧版について、原告として積極的に第1次的な頒布を行っていたことを示すものである。

(c) Dが原告設立後も上記各ソフト旧版を個人として販売し続けるとすれば、原告に対する競業であり、被告らがこれを許諾する余地はない。

(イ) Dの横領行為

以上のとおり、原告が販売するソフトウェアについては、各ソフト旧版を含め、その売上はすべて原告が取得すべきものであるところ、Dは、以下のとおり、原告から、4234万9420円を横領した。

a 架空経費による横領金合計1700万円(甲27の1ないし7)

Dは、平成10年7月から平成12年9月にかけて、16回にわたり、経費と称して、原告から合計1700万円を横領した。

b 現金書留郵便の横領金500万円(乙4の1)

Dは、原告から、現金書留郵便で送金された売上金合計500万円を横領した。

(a) 原告の平成9年ないし11年までの売上帳簿(乙10)によれば、入金はすべて銀行送金で、現金書留郵便(乙3の1ないし10の各1・2、11ないし19)による入金がないことになっている。Dが売上帳簿に現金書留郵便による入金を記載していないということは、Dがその売上金を横領していたことにほかならない。

(b) 現金書留郵便による入金分が売上帳簿に計上されていなかったのは、被告Bの母であるR(以下「B母」という。)の指導によるものではない。B母は、原告が持ってきた領収書等を機械的に整理し、記帳していただけであり、それ以上にDが領収書等以外の売上金をどうしていたかまでも調べる能力はなく、現にそのようなことはしていない。

c D名義の銀行口座の横領金319万6920円(甲12)

原告が設立された平成9年11月7日から平成12年8月までの間の売上金で、ニフティが送金代行してD名義の銀行口座(甲12)に入金された売上金合計319万6920円(乙23の1の1番)はすべて原告の収入であり、Dはそれを横領した。

d 定額郵便貯金をするための横領金850万円(甲13の2ないし5)

(a) Dは、原告の売上金から、平成10年4月3日ころ100万円、同年5月12日ころ150万円、同月14日ころ500万円、平成11年3月30日ころ100万円の合計850万円を横領し、これを原資として定額郵便貯金(甲13の2ないし5)を行った。

(b) 原告設立前の定額郵便貯金(甲13の1)と原告設立後の同貯金(甲13の2ないし5)との間にDが全く同貯金をしていないこと、わずか40日間に合計750万円もの定額郵便貯金がされていることから、原告設立後の定額郵便貯金の原資は、Dが原告の売上金を横領したものであることが推認される。

e 住宅ローンを決済するための横領金750万円(乙14の1・2)

Dは、平成11年10月7日ころ、750万円を横領し、これを住宅ローンの決済資金に充てた。

f 二重経費による横領金115万2500円(甲27の3、乙28)

Dは、原告が以下の日時に以下の経費を二重に支払ったことにして、合計115万2500円を横領した。

(a) 原告は、平成12年3月9日、株式会社コスミックジャパンに広告代金47万3130円を振込送金したにもかかわらず(甲27の3、乙28)、同日、Dと共謀の上、コミックジヤパン(上記コスミックジャパンと同じ会社)に現金47万2500円を支払ったように仮装して出金した。

(b) 原告は、平成12年3月29日、株式会社日本短波放送に広告代金42万0630円を振込送金したにもかかわらず(甲27の3、乙28)、同日、Dと共謀の上、ラジオ短波(上記日本短波放送と同じ会社)に現金42万円を支払ったように仮装して出金した。

【原告の主張】

被告ら主張の社員総会決議ないし配当契約は存在せず、被告らは、本件機材等を搬出し、占有する権限も、原告及びDに対して配当金1500万円を請求する権利も有していない。仮に、配当契約が存在するとしても、その内容は「営業の全部又は重要なる一部の譲渡」(有限会社法40条1項1号)というのであるから、社員総会の専決事項であり、Dが原告代表取締役として、被告らと上記事項についての契約を締結する権限は存しないから、無効である。

ア 本件総会決議について

(ア) 本件総会ないし総会決議の不存在

a 被告らが主張する平成12年9月6日の臨時社員総会は、一切開催されておらず、社員総会決議も存在しない。

Dが、平成12年7月13日及び同年9月6日の2度、税務調査を受けたのは、D個人のソフトウェアの売上収入についての申告漏れに関してであり、Dはその旨の説明を被告らに対して行い、また、修正申告も行っている。しかるに、被告らがDのありもしない横領及び脱税の嫌疑を強硬に主張し、あるいはDの自由を一時拘束し、Dのコンピュータのデータを抹消するなどの嫌がらせを行いつつ、原告の営業全部と金員の交付を一方的に要求するという行為をしたものである。

b Dの不正行為に対する責任追及手段というのであれば、それは原告に対する責任と考えるのが自然であるが、被告ら主張の決議内容は、被告Bが原告の犠牲の上に一人利益を得る内容となっており、責任追及の内容としては不自然である。また、被告らの主張によれば被告Cは社員総会に出席していたというのであるから、被告Bを被告CやQの代表とする必然性もない。

c 被告らは、当初、原告に対し、代理人弁護士を通じて、本件機材等の搬出については、被告らが原告から本件機材等を買い受ける形をとって譲り受けたものであると主張していたが(甲2)、その後、上記代理人弁護士を解任し、社員総会議事録なる書類を援用して、本件機材等は同決議に基づいて取得したものであると主張を変遷させるに至っている。このことは、社員総会決議が後付的な理由であることを推測させる。

d 被告らは、本件総会決議について、社員総会議事録及び関係書類を提出しているが、これらにおけるD個人の署名はいずれも偽造されたものであり、原告印については被告らがほしいままに押印したものであって、上記書類はいずれも真正に成立したものではない。なお、被告ら主張の社員総会議事録には、Qが「社員」として記名押印しているが、Qは、商法上、使用人である。社員総会が正規の手続を踏んで開催されたのであれば、このような誤りが犯されるはずはない。したがって、上記議事録等の書類の存在をもって本件総会決議が存在することを推認することはできない。

(イ) 招集手続の瑕疵について

仮に、本件総会決議が存在したとしても、その決議内容は、原告の「営業の全部又は重要なる一部の譲渡」(有限会社法40条1項1号)にかかるものである。営業譲渡については、社員総会招集通知に記載することを要するところ(同条1項、2項)、原告の監査役であり社員であるD母に対しては、社員総会通知自体がされていないし、Dとの関係でも通知がされていない。これは著しい手続違背であり、決議不存在事由となる。

イ Dの横領について

Dが原告の売上金を横領したことはない。すなわち、ソフトウェアの売上収入のうち、原告に帰属させる分について、Dがこれを自己の計算として取得していたことはない。なお、税務調査で問題となり、被告らがDの横領であると主張している売上収入については、原告設立前の売上収入であり、原告の売上収入と区別する必要性自体存在しなかった。

(ア) 各ソフト旧版の売上金取得権限

a 各ソフト旧版の著作権の帰属

(a) 「あいこっち」について

<1> 「あいこっち」の著作権は、Dに専属的に帰属している。すなわち、「あいこっち」は、AGE EのメンバーであるD、K、P及び被告Cとの会話の中から誕生したものであるが、Dの創意と発案に基づく、Dの創作的表現にかかるものであって、他の3名が担当した部分は、Dの指揮ないし指示の下に、Dの発案を具体化させたものにすぎず、Dと別に「あいこっち」についての独立の著作権を生じさせるものではない。

<2> ホームページ上に、AGE Eが「あいこっち」の著作権を有している旨の記載があるが(乙11の1ないし3)、上記の「あいこっち」の開発過程からすれば、団体としてのAGE Eの名称というよりも、D個人の別名としてAGE Eの名称を使用したとみるべきである。

<3> 仮に、被告Cを含む他の3名とDに、「あいこっち」の著作権が共有的に帰属していたとしても、Dは、Kに100万円、被告C及びPに対し各50万円を支払ったことにより、「あいこっち」の著作権を取得した。

(b) 「ウィナーズサークル」について

<1> 「ウィナーズサークル」は、Dの発案・製作(プログラミング)にかかるものであって、著作権はDに帰属する。

<2> Dは、「ウィナーズサークル」の製作に際して、競馬に関する知識についての相談という形で、被告Bに助言を得たことはあるが、被告Bがそれ以上に「ウィナーズサークル」のソフトウェア著作物としての発案・製作に関与したという事実はない。

<3> 被告らは、「ウィナーズサークル」は被告Bの発案によるものと主張するが、これは事実に反するし、仮にそうであったとしても、被告Bの関与は、プログラミングと直結しない助言的なものにすぎず、単なるアイデイアのみでは著作権は発生しない。なお、本件紛争が発生するまで、「ウィナーズサークル」の著作権の帰属について、被告Bから異議が唱えられたことはない。

b 各ソフト旧版の売上金取得権限について

(a) 上記のとおり、Dが本件各ソフト旧版についての著作権を有するところ、原告設立後も被告ら主張の旧版売上金合意はされていない。

(b) 旧版ソフトウェアの市場性は、新版ソフトウェアが発表・公開されるに至れば、特段の事情がないかぎり、新版ソフトウェアの流通に伴って自然に失われるのであって、旧版ソフトウェアの販売と新版ソフトウェアの販売との間には、競業関係は基本的に生ぜず、上記合意をする必然性がない。

D自身、原告設立以後には、各ソフト旧版をベースにした新版ソフトウェアを開発・頒布していたことから、遅くとも原告設立までには、各ソフト旧版の第1次的な頒布を中止していた。もっとも、各ソフト旧版は、いずれもインターネット等でデータとして無体物の形態で配布されるいわゆる「オンラインソフトウェア」であって、一旦、データとして流通した以上は、その取得者によって次々と複製されたデータの形をとって転載されるに至り、第1次的な頒布元である著作権者の全く把握できない範囲で第2次的、第3次的な頒布がされることを本来的な属性とする商品であり、著作権者自身は頒布を停止した後も、第2次的、第3次的な頒布先の存在ゆえに、その対価が支払われてくることもあるという特殊な性格を有している。このようなオンラインソフトウェア一般の属性から、第1次的な頒布を中止した後もしばらくは、各ソフト旧版の第2次的、第3次的な流通先からD宛に入金がされてくることがあったにすぎない。

Dは、上記のとおり、原告設立後は、各ソフト旧版の積極的な頒布・改良を中止し、既に流通しているものについての不具合の修正というサポートのみを行っていたにすぎない。原告設立後の日付で公開されている「あいこっち」の「1.50c」の存在については、原告設立前に公開された「1.50」に対して、既に流通しているものについての不具合の修正という趣旨から修正を施したものにすぎず、別個独立の著作物を公開したのではないのであって、既存ソフトウェアのユーザーに対する個人的な立場からのアフターサービスと位置づけられるものである。

c 原告の売上収入とDの売上収入(各ソフト旧版の売上収入)の区別について

(a) Dは、各ソフト旧版の「ユーザー登録制度」(料金を支払ったユーザーとそうでないユーザーを区別するため、ソフトウェアに一定の機能制限等を加え、料金を支払ったユーザーからの連絡を受けて、機能制限を解除する文字列を連絡するという仕組み)を利用して、ユーザーから連絡がある都度、それを自分のコンピュータにデー夕として保存して、各ソフト旧版の売上収入を原告の売上収入と区別して管理していた。したがって、Dが原告の計算に属すべき売上収入を自ら取得するようなことはなかった。

(b) Dによる各ソフト旧版の販売においては顧客名簿が存在しないが、これは上記販売がいわゆるシェアウェアオンライン送金代行システムによって個人取引的に行われていたものであり、上記システムによる取引では顧客名簿が完備されていないことによる。すなわち、シェアウェアオンライン送金代行システムでは、定期的に売上総額が入金されるのみで、購入者の氏名等は報告されないことが一般的である。

d 被告らが主張する横領行為について

(a) 現金書留郵便について

原告の売上のうち、現金書留郵便による入金分が売上帳簿に計上されていなかったのは、原告の会計をみていたB母の指導によるものであり、これに対応する現金は、原告事務所の金庫に保管されていた。

(b) D名義の銀行口座(甲12)について

Dがシェアウェアとして公開した各ソフト旧版の売上収入の入金方法としてニフティ送金代行サービスが選択され、D名義の銀行口座(甲12)を宛先として振込が行われていた。原告がニフティの送金代行システムを初めて利用したソフトウェアである「あいこっち2」(「あいこっち」の新版)の売上収入が最初に入金されたのは平成10年8月であり、それまでの入金はすべてD個人に帰属するものである。その振込額は1016万6849円に及んでいる。

(c) 定額郵便貯金について

Dは、原告設立後にD名で合計850万円の定額郵便貯金(甲13の2ないし5)をしているが、これは「あいこっち」など各ソフト旧版を販売して得た収入を原資とするものである。

(2)  争点(2)(本件総会決議・配当契約が存在しない場合の原告の損害額)について

【原告の主張】

原告の平成12年4月から同年8月までの売上については、原告の預金通帳によって裏付けられるところ(甲27の3ないし7)、月平均で約480万円程度の売上が存在した。しかるに、被告らが原告から本件機材等を持ち出したことにより、原告の営業に支障を来し、売上が殆どなくなった。被告らの本件機材等の搬出行為による原告の損害は1500万円を下らない。

【被告らの主張】

争う。仮に、原告に損害が発生したとしても、原告の平成12年4月から同年8月までの間の収入については被告らの寄与もあったところ、現在は被告らの寄与がないのであるから、収入の減少は当然である。

(3)  争点(3)(本件総会決議・配当契約が存在した場合の被告らの損害額)について

【被告らの主張】

ア 被告らは、原告の共同経営者として原告に対し配当請求権を有している(甲9 18条)。

イ 被告らは、上記原告とDの共謀による横領(Dが自白した1300万円以外に総額2934万9420円)により、上記配当請求権を侵害された。

ウ 被告らの損害額は、上記横領金2934万9420円から本件総会決議の際に被告Bへの配分の計算上、売上に計上した現金書留郵便による売上金500万円を差し引いた2434万9420円の2分の1である1217万4710円である。

【原告の主張】

争う。

第3  争点に対する判断

1  争点(1)(本件総会決議ないし配当契約の存否)について

(1)  被告らは、本件総会決議ないし配当契約が存在したとし、これを裏付ける書証として議事録(乙4の1)及びその内容を確認する趣旨の覚書(乙4の2・3)を提出する。これらの書面(以下「議事録等」という。)中、原告の押印が原告の印章によることは争いがないから、原告代表者であるDの意思に基づいて押印されたものと推認され、結局、書面の真正な成立が推定されることになる(民訴法228条4項)。そして、仮に、議事録等の書面が真正に成立したとすれば、特段の事情がない限り、本件総会決議(ないし配当契約)が存在したことが推認できるといえる。しかるに、原告及びDは、その成立を争い、D名の署名は偽造されたものであり、押印は、被告らが無断で原告の印章を使用して行ったものであると主張する。

そこで、検討するに、原告代表者であるD(以下「D」という。)の供述によれば、原告の印鑑は会社事務所の金庫内に保管されており、被告らはそのスペアキーを持っていることが認められるから、上記押印がDの意思に基づくとの推認は覆されることとなる。また、D名の署名についても、これが同人の署名かどうかを判断するに足りる的確な証拠はない。

そうすると、議事録等の成立を裏付けるものとしては、Dが同書面に署名押印したとの被告らの供述・陳述記載(乙25、26)及びQの陳述記載(乙27)しかないこととなるから、これらの信用性を検討することとするが、そのためには、被告らが主張し、上記供述等の前提とする本件総会開催に至る経緯について検討する必要があるといえる。

(2)  被告らは、本件総会は、Dが横領を自白したことから、Dと被告ら間で解決を図るべく開催されたと主張するところ、その主張する横領の前提として、各ソフト旧版の売上金の取得権限がDにあったか原告にあったかを検討する必要がある。

ア 各ソフト旧版の著作権について

(ア) 各ソフト旧版のうち、「アイコンバトラー」の著作権がD個人に帰属することについては当事者間に争いがないので、「あいこっち」及び「ウィナーズサークル」の著作権が誰に帰属するかが争点となる(なお、「あいこっち2」の著作権が原告に帰属することについても当事者間に争いがない。)。

(イ) 「あいこっち」について

a プログラムの著作物の作成に複数の者が関与している場合において、関与者が共同著作者となるためには、当該プログラムの作成に創作的に寄与していることを要し、補助的に参画しているにすぎない者は共同著作者にはなり得ないというべきである。

b 前提事実及び証拠(甲16、17、32、乙11の1ないし3、D本人)によれば、以下の事実が認められる。

(a) 平成9年初めころ、DがKに対し、「あいこっち」の基本的なアイディアを話し、これを基に、Dの指揮の下に、AGE Eのメンバーであった被告C、P及びKに手伝ってもらって「あいこっち」を作成した。具体的には、製作総指揮及びグラフィックに関する部分はDが担当し、ゲームバランスに関する部分はKが担当し、被告C及びPはその他の細部を担当した。なお、被告Bは、「あいこっち」の製作に一切関与していない(甲16、17、32、乙11の2、D本人)。

(b) Dは、これまで、K及びPから、「あいこっち」について権利があると主張されたことはなく、被告Cからも、本件が発生するまでは権利を主張されたことはなかった(甲32)。

(c) Dは、平成9年11月ないし12月ころ、被告C、P及びKが「あいこっち」の製作に関与したことから、それまでの収益を上記3名に分配し、これによって、Dが専属的に「あいこっち」に関する著作権を有することを確認した。

c 上記認定事実によれば、「あいこっち」の製作にあたり、Dが基本的なアイディアを出した上、製作についても主導的な役割を果たしているのであって、D以外の3名は、補助的に参画したにすぎないものと認められる。したがって、「あいこっち」の著作権はDに専属的に帰属するというべきである。もっとも、甲16及び乙11の2によれば、特にKについては、「あいこっち」のプログラムの作成に創作的に寄与したと認める余地が全くないわけではない。しかし、仮に、そうであったとしても、上記b(c)記載のとおり、Dが他の3名に対して収益を分配することによって、Dと他の3名間で、「あいこっち」の著作権をDに専属的に帰属させることを合意したといえる。

なお、ホームページ上で「あいこっち」の著作権に関する表示が「AGE Entertainment」となっているが(乙11の1ないし3)、これは、Dが著作権の帰属主体について厳密に検討しないまま、外見上の理由からこのように記載したものであると認められるから(D本人)、これが著作権帰属についての上記認定に影響を及ぼすものではない。

(ウ) 「ウィナーズサークル」について

a 前提事実及び証拠(甲32、D本人)によれば、Dは、被告Bから、競馬についての助言を得て、「ウィナーズサークル」を発案・製作(プログラミング)したが、上記助言以外に、「ウィナーズサークル」をコンピュータプログラム化するに際して、被告Bから具体的な協力を得ていないこと、Dが「ウィナーズサークル」を自分で開発したものとして発表していたことについて、本件事件発生まで、被告Bから苦情を申し入れられたことや売上の分配を要求されたことはなかったことが認められる。

b 上記認定事実によれば、「ウィナーズサークル」のコンピュータプログラム化を行ったのはDであり、被告BはDに対して競馬の知識を教示したにすぎず、具体的なコンピュータプログラム化に対する助言を行ったり、製作過程の全部又は一部を分担したりしたということはない。そうすると、被告Bは、「ウィナーズサークル」の開発に関し著作権の帰属を基礎づけるような関与は行っておらず、「ウィナーズサークル」の著作権は、Dに専属的に帰属するというべきである。仮に、「ウィナーズサークル」が被告Bの発案によるものであったとしても、アイデア自体は著作権法によって保護されるものではないから、これが被告Bの著作権の帰属を基礎づけるものではない。

イ 各ソフト旧版の売上金取得権限について

(ア) 上記で説示したとおり、各ソフト旧版の著作権はD個人に帰属していることから、Dが各ソフト旧版の売上収入を取得する権限を有しているといえる。したがって、原告が各ソフト旧版の売上収入を取得する権限を有するといえるためには、Dと原告の間でその旨の合意(旧版売上合意)が必要である。しかるに、上記合意の存在を直接裏付ける客観的な証拠は存在しないところ、被告らは上記の合意があった旨供述し、同旨の陳述書(甲25、26)を提出する。

(イ) そこで、被告らの上記供述・陳述記載が採用できるかを検討するに、被告らは、これを裏付けるべき間接事実ないし具体的な事情を述べていないのであり、わずかに、被告Cが、陳述書において、「原告の社長であるDが、自ら、競合商品を販売することは常軌を逸した行為である」旨を記載するのみである。しかし、前提事実及び証拠(甲32、乙29の1・6、D、被告C各本人)によれば、<1>原告は各ソフト旧版をパッケージ化して販売することなどを目的として設立された会社であること、<2>原告設立後、Dは、「ウイナーズサークル」及び「あいこっち」の新版(「ウィナーズサークル98」及び「あいこっち2」)を作成し、原告名で公開しているところ、新版は、旧版で実施できることはすべて実施できる上に、旧版になかった新しい機能をも有するものであって、新版が発売されれば、旧版は、自然と市場性を失うことになり、旧版の販売と新版の販売は、実質的には競業関係となるとはいえないこと、<3>「あいこっち」の最終バージョン以前のバージョンである「1.50b」のファイルに「1997.12.06」との記載があるが、これは、原告設立前に公開され既に流通していた「1.50」についての不具合を修正したものにすぎず、既存ソフトウェアのユーザーに対するアフターサービスとして位置づけられるもので、別個独立の著作物を公開したのではなく、Dは、原告設立後、各ソフト旧版の第1次的な頒布を中止していたことがそれぞれ認められるのであって、これらによれば、原告設立に当たり、Dと被告ら間において旧版売上合意をする必然性は必ずしも認められない。そして、上記合意の存在を否定するDの供述を併せ考慮すれば、被告らの上記供述及び陳述記載は採用できないというべきである。

(ウ) したがって、各ソフト旧版の売上収入を取得する権限は、原告設立後もDが有していたというべきである。

(3)  被告ら主張のDの横領について

ア 前提事実及び証拠(甲12、32、乙13、23、D本人)によれば、以下の事実が認められる。

(ア) 「あいこっち」など各ソフト旧版の売上収入の入金方法として、ニフティ送金代行サービスが利用され、D個人を宛先として振込が行われていたが、D名義の銀行口座への振込額は、「あいこっち」の新版であり、原告名で公開された「あいこっち2」の売上が初めて入金された平成10年8月に至るまでに、既に1016万6849円に及んでいた(甲12、乙23)。

(イ) 原告設立後、Dが作成した各ソフト旧版と原告名で公開されたソフトウェア新版とが、別々のソフトとして同時に公開され、それぞれの売上が入金された時期があったが、各ソフトウェアに対して支払をしたユーザーは、各ソフトウェアの機能制限を解除するための暗号文をDないし原告から取得するため、ニフティの送金代行サービスで必ず連絡をするというシステム(ユーザー登録制度)になっていたので、Dは、上記システムを利用して、各ソフト旧版とソフトウェア新版の売上を区別してエクセルソフトによって入金を管理していた。しかるに、被告らは、平成12年9月20日ころ、Dが使用していたパソコンから上記データを含んだ各種データを消去した(甲32)。

(ウ) Dは、原告の経理や税務の処理を依頼していたB母から、「経理上浮いた金は別に保管して、緊急の際に使用する。問題がなかったら、社員旅行などに使用すればよい」との趣旨の指導を受けていたことから、原告の売上のうち現金書留入金分については、帳簿に計上せず、原告の金庫に保管していた(甲32)。

イ 各ソフト旧版の売上金取得権限についての上記認定・判断及び上記認定事実を前提として、被告ら主張の横領行為について検討する。

(ア) 架空経費による横領

Dが横領したことを認めるに足りる証拠はない。

(イ) 現金書留入金分の横領

上記のとおり、B母の指導により、原告の売上帳簿に記載されなかったが、原告の入金として原告事務所の金庫に保管されていたものであるから、Dが横領したと認めることはできない。

(ウ) D名義の銀行口座の横領

上記のとおり、原告の売上とD個人の売上を区別して入金管理がされていたから、Dが横領したと認めることはできない。

(エ) 定額郵便貯金をするための横領

上記のとおり、平成10年7月までに、各ソフト旧版の売上収入として、D名義の銀行口座に1000万円を超える入金があったのであり、上記入金分以外にDが原告の金員を横領して定額貯金をしたと認めるに足りる証拠はない。

(オ) 住宅ローンを決済するための横領

Dは、平成11年10月、原告からの給料、貯金及びDの父からの借金で住宅ローンの返済をしたことが認められるのであって(甲34、D本人)、Dが横領したことを認めるに足りる証拠はない。

(カ) 二重経費による横領

Dが横領したことを認めるに足りる証拠はない。

ウ 以上のとおりであるから、Dが横領行為を行ったと認めることはできない。

(4)  上記説示したところによれば、Dは、横領を行ったものと認めることはできないのであって、同人が被告らに対して、横領の事実を自白したというのは不自然であり、結局、被告らが主張する本件総会開催の経緯を認めることは困難というほかない。したがって、Dが横領を自白したことを前提として、Dが議事録等に署名押印したとの被告らの供述・陳述記載は採用できないから、同書証の真正な成立を認めることはできないことに帰着する。そして、その他に、被告らの供述・陳述書及びQの陳述書(乙27)以外には、本件総会決議ないし配当契約が存在したと認めるに足りる証拠はなく、上記各供述・陳述書記載が採用できないことは上記説示したところから明らかである。

(5)  なお、前提事実及び証拠(甲1の1・2の各1・2、2、3の1・2、7、19の1、25、32、D本人)によれば、被告らは、本件機材等を搬出した後、Dは、原告代理人らに依頼し、被告らに対して本件機材等の返還及び損害賠償を求める旨の内容証明郵便を発出したところ、被告らの当時の代理人弁護士から、平成12年9月29日付けの内容証明郵便で、「今回の事件の発端は、Dに対する税務調査の結果、原告の売上金をDが横領していたことが判明したことによるもので、被告らが別会社を設立して原告の営業を承継することを認める代償として、Dに対する個人責任の追及を宥恕することとし、パソコン機材一式については、Dが希望する価格で被告らが有償取得する形式をとり、その対価はDの着服金の一部を充当し、Dが任意の金額を原告に入金するとの合意をし、被告らは、その合意に基づいて本件機材等を搬出したものである」との内容の通知を受けたこと、その後、原告及び被告らは、双方の代理人を通じて和解的な解決を検討することとなったこと、しかるに、被告Bは、平成12年10月16日付けの内容証明郵便で、Dに対し、本件機材等の譲渡は原告の社員総会決議によるものであって、本件機材等などは被告Bの所有であるとし、また、上記社員総会で決議された配当金を支払うことを要求したことがそれぞれ認められる。

上記に照らせば、被告らは本件訴訟前の交渉段階においては、被告らによる本件機材等の搬出行為について、Dが被告らに対して本件機材等を売却するという形式をとったものである旨の主張を行っていたところ、突如、社員総会決議が存在した旨の主張を行うに至ったものであり、被告らの主張が大きく変遷していることが認められるのであって、Dが議事録等の作成に関与した、あるいは本件総会が開催されたことを認めるのは一層困難であるといわざるを得ない。

2  争点(2)(本件総会決議・配当契約が存在しない場合の原告の損害額)について

(1)  前提事実及び証拠(甲6、27の1ないし7、32、D本人)によれば、<1>被告らによる本件機材等の搬出が生じる前の平成12年4月から同年8月までの5か月間については、原告の売上は月平均約400万円以上であったこと、<2>被告らが本件機材等を搬出したため、原告の営業継続が不能となり、平成12年10月から平成13年2月までの5か月間については、原告の売上が月平均300万円以上減少(平成12年10月から平成13年9月までの1年間については、月平均340万円以上減少)していることが認められる。

(2)  以上によれば、被告らの本件機材等の搬出行為により、同行為から約1年10か月が経過した本件口頭弁論終結時において、原告に少なくとも1500万円の損害が発生したと認めるのが相当である。

第4  結論

よって、原告の請求は理由があるから認容し、被告らの請求は理由がないから棄却することとする。

物件目録

(別紙)

1 営業用機材

<省略>

<省略>

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