京都地方裁判所 平成12年(ワ)3501号 判決 2002年1月16日
平成12年(ワ)第3501号 債務不存在確認請求本訴事件
平成13年(ワ)第2125号 譲受債権請求反訴事件
主文
1 原告は,被告に対し,金186万4265円及びこれに対する平成12年12月12日から支払い済みまで年3割の割合による金員を支払え。
2 原告の本訴請求を棄却する。
3 訴訟費用は,本訴・反訴を通じて,原告の負担とする。
4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。
事実
第1当事者の求めた裁判
(本訴)
1 請求の趣旨
(1) 原告と被告との間において,原告の被告に対する別紙債務目録記載の債務
(以下「本件債務」という。)が存在しないことを確認する。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
(反訴)
1 請求の趣旨
(1) 主文1項と同旨
(2) 反訴費用は原告の負担とする。
(3) 仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 被告の反訴請求を棄却する。
(2) 反訴費用は被告の負担とする。
第2当事者の主張
(本訴)
1 請求原因
(1) 被告は,クレジットカードによる商品購入及びサービス利用者に対する斡旋業等を営業目的とする株式会社である。
(2) 原告は,平成4年9月14日ころ,被告が発行するクレジットカードの入会を申し込み,被告は原告をクレジットカード会員として,大要,別紙契約目録記載の約定で,クレジットカード使用にかかる契約(以下「本件カード契約」という。)を締結した。
(3) そのころ,原告は,被告から,被告発行のクレジットカード(JCBゴールドカード,以下「本件カード」という。)の交付を受けた。
(4) 原告名義でなされた別紙債務目録記載のクレジットカード利用行為(以下「本件利用行為」という。)は,原告が本件カードを利用してなしたものではない。偽造カードを用いてなされたものである。
(5) しかるに,被告は,本件利用行為は,本件カードを利用してなしたものであるとして,その利用代金合計186万4265円の支払いを原告に請求している。
(6) よって,原告は,被告に対し,債務不存在確認の利益があるから,請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)ないし(3),同(5)は認める。
(2) 同(4)は否認する。
3 抗弁
(1) 請求原因(1)ないし(3)と同旨。
(2) 原告は,本件カードを利用して,別紙クレジットカード利用状況一覧記載のとおり,合計198万0831円のカード利用をなし,同利用状況一覧記載の訴外各加盟店に対し,債務を負担した。
(3) 同利用状況一覧記載の各加盟店は,平成12年10月31日ころ,同利用状況一覧記載の原告に対する債権を被告に譲渡する旨,それぞれ被告と合意した。
(4) しかるに,原告は,同利用状況一覧記載の利用のうち,本件利用行為に該当する186万4265円相当分(同利用状況一覧記載の④,及び⑩ないし⑭の利用行為)については,本件カードを利用してなされたものであることを否認している。
4 抗弁に対する認否
(1) 抗弁(1)は認める。
(2) 同(2)のうち,本件利用行為に該当する部分は否認し,その余は認める。本件利用行為は偽造されたクレジットカードによりなされたものである。
(3) 同(3)は知らない。
(4) 同(4)は認める。
(反訴)
1 請求原因
(1) 本訴における抗弁記載(1)ないし(4)と同じ。
(2) 本件利用行為に基づく代金の支払期日である平成12年12月11日は経過した。
(3) よって,被告は,原告に対し,本件カード契約に基づき,譲受債権金186万4265円及びこれに対する約定支払期日の翌日である平成12年12月12日から支払済みまで年3割の割合による遅延損害金の支払いを求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)については,本訴における抗弁に対する認否(1)ないし
(4)と同じ。
(2) 同(2)は認める。
理由
第1前提となる事実等
1 本訴請求原因事実のうち,被告がクレジットカード会社であること,本件カードの成立及びその内容,本件カードの交付,本件利用行為の存在については,当事者間に争いがない。
2 抗弁事実もしくは反訴請求原因事実のうち,1項の本訴請求原因事実,別紙クレジットカード利用状況一覧のうち,本件利用行為を除く利用行為については,本件カードが利用されたこと,本件利用行為の支払期日(平成12年12月11日)が経過したことは,当事者間に争いがない。
3 証拠(乙5の1乃至4)及び弁論の全趣旨によれば,本件利用行為に基づく代金債権を,被告が訴外各加盟店から譲り受けたことが認められる。
4 そして,本件カード契約の内容として,本件利用行為が本件カードを利用してなされたものである限り,原則として,原告は,被告に対し,本件債務を負担することとなる(乙の2。本件契約2条2項,同17条1項等参照)ところ,本件では,本件利用行為が本件カードを利用してされたものである場合でも,原告が被告に対し,本件債務を負担しないこととなる例外的事情は何ら主張されていない。
5 そうすると,本件の争点は,本件利用行為に利用されたクレジットカードが本件カードであるか否か,に尽きると言える。
第2争点に対する判断
1 本件利用行為に利用されたクレジットカードが偽造されたカードである可能性は極めて小さい。以下その理由を述べる。
(1) まず,被告の発行するクレジットカード一般の仕組みについてであるが,カードの表面及び裏面にそれぞれ異なった磁気情報が組み込まれているところ,裏面の磁気情報(以下「JIS1式」という。)は国際統一規格であり,表面の磁気情報(以下「JIS2式」という。)は日本国内での統一規格である。
JIS1式が登場して以降,被告では国際統一規格を尊重して,その発行するカードに双方の磁気情報を組み込むこととしているが,磁気情報を読みとる端末機の仕組みとしては,JIS2式をまず読みとり,それに失敗した場合にはJIS1式を読みとることになっている(乙10,Gの証人調書)。
(2) 両磁気情報のうち,JIS1式は国内国外を問わず通用するものであり,他方,JIS2式は国内でしか通用しないものであるため,被告の発行するカードを偽造する場合,JIS1式のみをカードに組み込めばそれで目的は達成でき,この場合は磁気情報を組み込んだ黒いテープをカードの裏面に貼れば足りる。
それに対し,JIS2式をカードに組み込む場合は,JIS1式の場合と異なりカードの表面の色彩・デザインをも真正なカードと同様に作成しなければならないという,技術的に煩雑でありしかも偽造が露見する危険性が増す負担がある
(乙10,Gの証人調書)。
(3) 以上よりすると,偽造カードはほとんど全くと言っていいほどJIS1式のみを組み込んでいるとのG証人の供述は,経験則に合致し,措信できるものである。
そして,本件利用行為中に,カードに原告の会員番号である「9951496613541012」,原告の暗証番号である「9514」,及びJIS2式が組み込まれていることを示す「@マークから2字目に2」とある利用行為が存在すること(乙8,同10,Gの証人調書)からすると,本件利用行為に利用されたカードにJIS2式が組み込まれていたことは明らかであり,よって,同カードが偽造されたものである可能性は極めて小さいことになる。
(4) 次に,別紙クレジットカード利用状況一覧中の⑤乃至⑨(なお,乙6の1乃至4参照)は,いずれも端末機が不正使用のおそれ有りと感知してカード利用を拒否したものであるが,そのうち⑥乃至⑧はいずれも一分間隔でなされており,仮に原告を名乗り本件カードを利用しようとしていた者(以下「本件行為者」という。)がカードを偽造した者であるなら,偽造が露見する危険を冒してまで敢えてこのようにカード利用を試みるというのは経験則上不合理である。
(5) 以上よりすると,本件カードが偽造されたものである可能性は極めて小さい。
2 原告は,本件利用行為に利用されたクレジットカードが偽造カードであることの根拠として,<A>本件利用行為当時,原告が横浜乃至東京におり,本件カードを所持していたため,本件カードが本件利用行為に利用される余地はないこと,<B>本件利用行為前に,原告の本件カードの暗証番号を聞き出そうとする不審な電話が原告方に架電されたこと,を挙げる。
(1) しかし,まず,<B>についてはそれを裏付ける客観的証拠が全くなく,真偽のほどは定かではない。
(2) 次に,<A>については,確かに,原告が平成12年10月19日午後3時過ぎころから同月22日午後4時過ぎころまでの間,横浜乃至東京にいたこと(甲2,同4,同6,同7など),同月21日午後5時12分に原告自身が横浜市内で本件カードを利用して買い物(⑮)をしていること,は各々認められる。
しかし,上記事実からは,21日午後5時12分ころに本件カードが横浜市内に存在したことと,本件行為者が原告自身ではないことが言えるのみであり,原告の横浜乃至東京滞在中原告が本件カードを常時所持していたことまでを裏付けることにはならない。
のみならず,以下の事情を考慮すると,本件利用行為当時,本件カードが大阪で利用されていたことが強く推認される。
ア すなわち,まず,別紙クレジットカード利用状況一覧⑤乃至⑨の間に,カード利用拒否に対して本件行為者からの抗議があり,本人確認がなされたことは明らかであるが,その後も本件行為者がカード利用を継続しており,特に被告加盟店との間で諍いがあったとも認められないことからすると,本件行為者が原告のクレジットカードの決済銀行・支店名,決済口座番号,自宅の住所・電話番号等の個人情報を正確に答えたとの被告の主張(平成13年4月25日付準備書面(第2))はG証人の証言(同調書10,14,18,21項)に照らして措信できるところ,前記個人情報(特に,本件行為者が原告の決済口座まで知っていたことは重要なことである。)がその性質上,原告と無関係の第三者が原告に無断で入手することは凡そ困難であることはいうまでもない。
そして,原告自身が,原告の周辺に,本件カードを偽造するような第三者がいるとは考えていないこと(原告本人調書),カード上の磁気情報にはカードの被貸与者の氏名がアルファベットで組み込まれているのみであると認められること(乙8,同10)を考えあわせると,結局,本件行為者は本件カードの偽造者ではあり得ないと認めるのが合理的である。
イ 次に,仮に,本件利用行為が偽造カードによりなされたものであるならば,原告の19日の大阪出発前や,22日の大阪到着以降も原告名義による偽造カードの利用があっても何ら不思議ではないところ,本件利用行為が原告の大阪出発後に始まり横浜乃至東京滞在中に終了しているという時期的な符合は,偶然の一致と言い切るには余りにも不自然であると言わざるを得ない(原告が横浜乃至東京に滞在している間のみに限り,本件行為者が本件カードを原告から借り受けていたことが強く疑われる。)。
ウ さらにまた,本件利用行為が本件カードによってなされたものであるとした場合,大阪横浜間は,新幹線で片道3時間足らずで移動できる距離であることからすれば,本件利用行為の最終(⑭)が21日午前10時10分過ぎころ大阪でなされていることと,原告の前記同日午後5時12分ころにおける本件カードの横浜市内での所持とは,何ら矛盾することにはならないこと,すなわち,本件行為者が⑭の利用行為に本件カードを利用した後,横浜滞在の原告に対し,本件カードを届けることは十分可能なのである。
3 以上のように,本件利用行為に利用されたカードが偽造にかかるものである可能性が極めて小さいことそれ自体が,本件カードが本件利用行為に利用されたことを強く推認させる上,さらに加えて,前項ア・イ・ウに述べたような事情が認められることからすれば,原告と本件行為者との関係が不明であり,本件行為者が本件カードを入手した経緯等が貸与によるものと疑われる程度にしか判明しておらず,本件利用行為に本件カードが利用されたことの立証責任が被告にあること(偽造の事実は理由付否認であると解されること)を考慮しても,なお,本件利用行為は,本件カードを利用してなされたものと認めるのが相当である。
第3結語
以上のとおり,本件利用行為は本件カードを利用してなされたと認められるので,原告の本訴請求には理由がないからこれを棄却し,被告の反訴請求には理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を,仮執行宣言につき同法259条1項を各適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 阿部静枝)