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京都地方裁判所 平成12年(行ウ)22号 判決 2002年3月22日

原告

甲野太郎

原告訴訟代理人弁護士

中尾誠

井関佳法

被告

京都府地方労働委員会

被告代表者会長

佐賀千惠美

被告訴訟代理人弁護士

松浦正弘

被告参加人

京都市

同代表者京都市公営企業管理者交通局長

乙山次郎

参加人訴訟代理人弁護士

坂本正寿

石川泰久

森田雅之

髙松恵美

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告が京労委平成11年(不)第6号京都市不当労働行為救済申立事件について平成12年7月4日付けでした棄却・却下命令(以下「本件命令」という。)を取り消す。

第2事案の概要

原告は,京都市交通局(以下「交通局」という。)施設部車両工場において主事として勤務していたところ,その意に反する人事異動により交通局自動車洛西営業所(以下「洛西営業所」という。)庶務係長に昇任させられた。

本件は,原告が,この人事異動の結果,労働組合員及び組合支部長の資格を失い,また政治活動や部落解放運動への関与も制限されることになったもので,前記の人事異動は不利益取扱い及び支配介入に該当する不当労働行為であると主張して,参加人を被申立人として,被告に対して救済の申立てをしたが,被告は,前記申立てのうち一部を却下し,その余を棄却する旨の本件命令を発したので,本件命令には事実認定及び法律判断を誤った違法があると主張し,本件命令の取消しを求めた事案である。

1  争いのない事実等

(1)  参加人(京都市)は,地方公営企業法2条4号の自動車運送事業及び同法5号の鉄道事業を経営しており,これらの地方公営企業を担当する部局として交通局を設置し,これらの業務を執行させるため,同法7条に基づき,管理者として京都市公営企業管理者交通局長(以下「交通局長」という。)を置き,交通局長は,交通局に所属する職員の任免権限を有している(同法15条1項)。

交通局の組織は,別紙組織図1<略>のとおりである。

(2)  原告(昭和22年○月○日生)は,昭和37年4月3日,交通局に採用され,現在交通局で勤務する地方公営企業法上の企業職員である。

(3)  被告は,労働組合法(以下「法」という。)19条の12に基づき,京都府知事の所轄の下に設置された機関である。

(4)  原告は,平成11年3月当時,交通局施設部車両工場勤務の主事で,給与は4級30号給であった。また,原告は,交通局の職員で組織されている京都交通労働組合(以下「本件組合」という。)の組合員であり,本件組合の技術部電整支部(以下「電整支部」という。)の支部長であった。

(5)  交通局長は,平成11年4月1日,原告に対し,原告を洛西営業所庶務係長に昇任させ,企業職第1,6級19号給を給する旨の人事異動通知を行った(この昇任処分を以下「本件異動」という。)。

(6)  原告は,平成11年4月以降,本件異動に異議を留めた上で,洛西営業所庶務係長としての職務に従事している。

(7)  原告は,平成11年6月16日,参加人を被申立人として,本件異動が法7条1号の不利益取扱い及び同条3号の支配介入に該当する不当労働行為であるとして,被告に対して救済の申立て(以下「本件申立て」という。)をした(京労委平成11年(不)第6号京都市不当労働行為救済申立事件)。

(8)  被告は,平成12年7月4日,本件申立てについて,不利益取扱いにかかる申立てについては本件異動は不当労働行為に該当しないとして棄却し,支配介入にかかる申立てについては労働者個人による申立ては認められないとして却下する旨の本件命令を発し,原告は,同日,本件命令の命令書の写しの交付を受けた。

2  争点並びに当事者・参加人の主張

争点は,本件命令に事実認定及び法律判断を誤った違法があるかどうかであるが,その内容として,主として以下の各点が争われた。

(1)  交通局長は,原告が本件組合の組合員であること又は本件組合の正当な行為をしたことなどの故をもって,本件異動をしたもので,これによって,法7条1号の「不利益な取扱」をしたといえるかどうか。(争点1)

(原告の主張)

本件異動は,他の職種への異動であり業務上の必要性がなく,係員は主任を経て係長に昇任するという昇任ルールの慣行に反して異例であること,本件異動は原告が本件組合の現職の支部長であり拒絶の意思を明示していたのにされたもので例がないこと,本件異動は直属の上司からではなく交通局高速鉄道部長の丙川三郎(以下「丙川部長」という。)や交通局次長の乙山次郎(当時)(以下「乙山次長」という。)から原告に直接打診されたもので,その中で原告に対して運動から手を引くことが勧められたこと,本件異動は交通局の合理化計画プログラム21(以下「プログラム21」という。)の準備中にされたが,プログラム21の実施には職員の強い反対が予想され,本件組合がプログラム21を承認するか否かは微妙な情勢であったこと,原告は部落解放運動の有力な活動家であり,同和関係者の多い交通局内で大きな発言力を持ち,本件組合の反主流派が組織する「闘う労働組合をめざす京交労働者連絡会」(以下「めざす会」という。)の中心的活動家であったこと,以上からすれば,本件異動は,法7条1号所定の不当労働行為に該当することは明らかである。

(被告・参加人の主張)

本件異動は,本件組合の活動に何らの影響も与えていない。また,めざす会の活動にも特段の影響を与えていない。さらにプログラム21は,労働者にとって厳しい内容であるため,原告やめざす会のメンバー以外にも,これに反対する者は多数存在していたが,原告以外の者には本件のような人事異動は発令されていない。

また,係長級への昇任について主任を経ることは昇任の要件ではなく,ある者を主任の職種に就けるかどうかは昇任とは別次元の問題であり,かつ,それ自体使用者の裁量事項であるし,主任を経ずに係長級に昇任している例は,原告に限られない。また,京都市各部局においては,多様な視点による組織の活性化,本人の能力開発という観点から,技術系から事務系への登用,若手や女性の登用,任命権者を異にする部局間の人事交流を積極的に進めているところであり,本件異動もこの観点からされた。他に特別の意図はない。技術系で採用され,現在事務系の職務に従事している者は多数ある。被用者をどの部署,どの役職に従事させるかは,使用者の人事権に属する事項であり,特に労働契約や労働協約において定めていないかぎり,労働者あるいは労働組合の同意を要することなく,その裁量により決定することができる。

「新経営健全化計画及び展望の見直し」あるいはプログラム21は,「経営健全化計画」,「京都市自動車運送事業の今後の展望について」に続く,一連の流れの中の,予想できた範囲内での方策であり,新たなものとはいえない。また,めざす会がプログラム21の白紙撤回を求める方針を決定したのは,プログラム21が発表された平成11年9月以後のことであり,「新経営健全化計画及び展望の見直し」が示された平成11年2月の時点で,この問題をめぐって,交通局とめざす会との間に特に対立した関係は生じていなかった。丙川部長や乙山次長が原告と長年の知合いであることからすれば,丙川部長が原告に昇任の打診をしたことはあながち不自然なことではない。

(2)  支配介入を理由とする救済命令申立ての原告個人の申立適格(争点2)

(被告・参加人の主張)

支配介入を理由とする救済命令の申立ては,原則として,組合員個人はこれをすることができない。本件においては,原告の組合員資格喪失後も,本件組合は正常な組織をもって運営されており,原告自身に救済命令の申立てを認めなければならない特段の事情も存しない。

(原告の主張)

支配介入を理由とする個人の申立ては,組合が御用化していて,支配介入を争う意思がないような場合には認められるべきである。本件組合は,本件異動について何ら争おうとせず,逆に追認すらしており,反主流派の中心メンバーである原告を違法・不当に排除しようとしている。原告個人に申立適格が認められるべきである。

(3)  本件異動は,法7条3号所定の不当労働行為(支配介入)であるのかどうか。(争点3)

(原告の主張)

前記(1)の原告の主張と同旨。更に,電整支部は,本件組合の15支部のうちの1支部であり,反主流派のめざす会の勢力の強い職場であり,原告は,その支部長として中心的に活動をし,支部内において相当の影響力をもっていた。本件異動により,原告が電整支部から排除され,その後,平成11年6月16日に新たに支部長が任命されるまでの間,支部長職に空白が生じ,また新支部長は,原告と同様には活動ができておらず,本件異動により,電整支部にとってのみならず,本件組合の活動にとって,大きな支障・影響が生じた。

なお,支配介入の要件は,実際に組合の組織運営に支障又は影響を与えたこと,すなわち結果の発生ではなく,支障又は影響を与える可能性があることで足りる。

(被告・参加人の主張)

本件異動後,本件組合は,原告の後任となるべき電整支部の支部長を選挙により選任した。その後の本件異動に関する苦情処理共同調整会議の経緯やプログラム21に対する活動及び参加人側との団体交渉の経緯からも,依然として本件組合は,自治性・自立性をもって組織として活動していることは明らかである。本件異動は,本件組合の活動を弱体化させ,自治性,自立性を侵すものではない。

第3当裁判所の判断

1  当事者間に争いのない事実,前記第2・1の事実関係,(証拠・人証略),原告本人尋問の結果(以上の各証拠を以下「本件各証拠」という。)並びに弁論の全趣旨によれば,次のとおり認められる。

(1)  原告は,中学校卒業後,昭和37年4月に養成工として交通局に選考採用され,技工員を経て,昭和55年12月,係員になり,平成元年9月に主事に昇任した。原告は,電車整備工場,烏丸営業所車庫,錦林営業者(ママ)車庫で一貫して軌道事業の車両整備に従事し,地下鉄開業後は高速鉄道車両課北大路検車区及び同課竹田検車区等で鉄道事業の車両整備に従事していた(<証拠略>)。

原告は,19歳のときから部落解放運動と関わりを持ち始め,本件異動当時,全国部落解放運動京都府連合会の執行委員,京都市職員連合部落問題学習協議会の副会長及び交通局の職員で構成する京都市交通局職員部落問題学習協議会の会長を務め,部落解放運動にも積極的に取り組んでいた。

原告は,昭和37年4月に交通局に採用されて以来,本件組合の組合員として活動し,昭和60年4月から平成9年10月までの間,本件組合の中央委員を務め,平成9年11月以降,本件異動までの間,技術部電整支部の支部長の役職にあった。

原告は,本件異動時,施設部車両課竹田検車区勤務の係員,主事であり,給与上の格付けは4級であった。

(2)  交通局の職員を(ママ)組織する労働組合としては,本件組合(組合員数約2200ないし2300人)と京都市交通局労働組合(組合員数約70人)があり,職員の大多数は本件組合に加入している。本件組合の組織は,別紙組織図2<略>のとおりである。

地方公営企業労働関係法5条2項は,法2条1号に規定する組合員にならない者の範囲について労働委員会において認定して告示する旨定めているが,本件組合については認定及び告示はされていない。

本件組合の主流派は,「京交を育てる会」を組織しており,その会員数は約250人である。主流派は,同組合の役員選挙の際は同選挙に向けて決起集会及びレセプションを行っており,レセプションには団体交渉のメンバーである交通局の幹部が例年参加しており,また,主流派は,交通局と毎年ゴルフコンペ,忘年会を行っている。

本件組合の反主流派が組織するめざす会は,平成2年の10月に組織され,これまでに,本件組合の役員選挙において対立候補を立てるほか,本件組合の経理の不正をただすための活動や営業所の廃止に反対する活動などを行ってきた。本件異動当時,めざす会の会員数は約200人であり,本件組合の支部に対応する職場ごとに15人の職場代表委員が定められ,職場代表委員のうちの一部が代表者会議を構成していた。平成11年及び平成13年の本件組合の役員選挙において,めざす会の候補者は,めざす会会員が職員数に占める割合よりも高い割合で票を獲得していた(<証拠略>)。

原告は,本件組合が労働者の生活と権利を守るために十分な活動を行っていないとの認識のもとに,めざす会の中心メンバーとして,組合の役員等の選挙時に推薦人として活動するなど,積極的に活動してきた(<証拠略>)。原告は,組合における活動実績,その人柄,長年の部落解放運動とのかかわりからの京都市とのパイプの太さなどから,本件組合において相当の発言力を有していた。また,本件異動時には,めざす会の職場代表委員であったが,代表者会議の構成員ではなかった。

本件組合と交通局長が,昭和61年12月16日に締結し,その後現在まで更新されている労働関係の基本に関する協約(<証拠略>。以下「本件協約」という。)によれば,本件組合の業務専従者となりうる者は,本件組合の三役及び執行委員である旨定められており(7条2項),支部長は含まれておらず,支部長は勤務時間中の組合活動を保障されていない(<証拠略>)。ただし,原告は,本件異動前は,事実上,支部長として勤務時間中に組合活動を行い,それが黙認されていた。

(3)  京都市職員任用規則(<証拠略>,以下「本件規則」という。)は,昇任は職員を現に在職する職より職の任用段階において上位にある職に任命する場合をいうものと規定し,一般職の任用段階を,上から局長及びこれに相当する職,部長及びこれに相当する職,課長及びこれに相当する職,課長補佐及びこれに相当する職,係長及びこれに相当する職,その他の職と定め(2条2号,別表第1),昇任については,選考によるものとした上で(14条),選考は昇任選考基準(別表第3)に定める資格基準に該当する者のうち,任命権者から申請のあった者について行う旨定めている(15条本文)(<証拠略>)。そして,別表第3は,昇任選考基準として,昇任させる職の任用段階に応じた資格基準に該当すること及び勤務成績の良好であることを定め,係長及びこれに相当する職に昇任させる場合の資格基準のひとつとして,技能労務職について免許又は資格を有する者以外のその他の者は在職20年以上と定めている。

京都市交通局職員の職及び職種に関する規程(<証拠略>)は,職員の職名を下から,主事,総括主事,担当係長,区長,係長と定め(3条,別表第1),職種として主任,係員等を定めている(3条,別表第2)。

京都市交通局職員給与規程(<証拠略>)は,各職の級別職務区分が定められ,主事を4級,統括主事を5級,係長,区長及び担当係長を6級と区分している。

交通局の組織は,別紙組織図1のとおりであるが,そのうち交通局本庁舎内にある部署は本課と呼ばれ,業務はデスクワーク中心であり,そこで勤務することは出世コースに乗ることを意味していた(当該部署を以下「本課」という。<証拠略>)。

(4)  交通局は,経営合理化のために,平成6年に「経営健全化計画」,平成8年に「京都市自動車運送事業の今後の展望について」と題する経営計画を策定し,それらを実施したが,さらに,平成10年9月及び10月に労働組合との団体交渉において「京都市自動車運送事業の今後の展望について」に関して一定の総括を行い,その上に立って新たな経営計画を策定し,平成11年2月16日,本件組合に対して,人件費及び経費の削減,増収対策,市役所等と連携した取組み等を検討項目とする新たな経営計画の骨子を呈示していた。

(5)  平成11年1月下旬,丙川部長は,原告に対し,本件異動の打診をし,その際,併せて本件異動が乙山次長の意向に基づくものである旨を伝えた。原告は,その場で,丙川部長に対し,これを拒否する意向を明確に示し,その際,本件異動は原告の長年にわたる部落解放運動そのものを否定することになるなどと抗議した。原告は,同年2月2日,乙山次長に対して直接拒否の意向を伝え,乙山次長は,原告に対し,いつまでも運動,運動とシーラカンスみたいに言わずに,いい加減に卒業してはどうかという趣旨の発言をした。しかし,原告は,異動の打診があったことを本件組合の本部には連絡しなかった。

(6)  同年2月に本件組合の役員選挙が行われた。原告は,異動の打診があったことを本件組合の本部に連絡しないまま,本件組合の電整支部の支部長に立候補し,同月9日,無投票で再選された。その選挙において,原告以外に,めざす会の会員で支部長に選出された者はなかった。

(7)  交通局の人事異動を所管する交通局企画総務部職員課(以下「職員課」という。)は,同年2月終わりころ,原告が本件異動を拒否する意向であることを把握していたが,原告が所属する交通局高速鉄道部から職員課に対して係長昇任候補者として原告及び他1人が内申されていること,原告が本件組合の執行委員以上のポストにはないこと,原告が在職36年を超え勤務成績も良好であり,本件規則の定める昇任選考基準を満たすことから(ママ)などから,本件異動を行うための事務手続を進めた。

(8)  同年3月30日,原告に対し本件異動の内示がされ,原告はこれに抗議し,同年4月1日,交通局長から原告に対し本件異動の通知がされた(<証拠略>)。しかし,原告は,人事異動通知書(<証拠略>)を受け取ることを拒否した。

(9)  本件協約は,指定職員を本件組合の組合員の範囲から除外しており(2条),指定職員は,地方公営企業法39条2項の規定に基づき市長が定める職に関する規則により「係長及びこれに準ずる職以上の職」にある者とされていた(<証拠略>)。したがって,原告は,本件異動により,本件組合の組合員の資格及び支部長としての資格を失った。また,原告は,本件異動の結果,地方公営企業法39条2項の適用が除外される職員となり,政治活動が地方公務員法36条により制限されることとなり,非勤務日が火曜日及び水曜日となったことから,週末に会議がされることが多い部落解放運動への参加が大幅に制限されることになった。原告は,本件異動により洛西営業所庶務係長として勤務することとなったが,その業務の内容は,職員の勤務状況の把握,配車の計画及び確認,市民からの苦情処理など,営業所の運営全体にかかわるものとなり,また,原告は,洛西営業所の組合支部との協議の際には,当局側の人間として協議を行うようになった。本件異動の結果,原告の基本給は増額となり,管理職手当も受給することとなったが,超勤手当分は減り,手取額は減少した。

(10)  なお,本件異動時において,本件組合の中央委員以上の役員数は54人であったが,めざす会会員はそのうちの4人であり,代議員数は114人であったが,めざす会会員はそのうちの12,3人であった。

(11)  原告は,本件異動について,地方公営企業労働関係法及び本件協約に基づいて苦情処理共同調整会議に対して,本件異動は不当労働行為に該当するとして調整を申し立て,平成11年4月5日,本件組合本部において職別苦情処理共同調整会議が開かれ,同会議の決定により,審議が中央苦情処理共同調整会議に移管され,翌6日,中央苦情処理共同調整会議が開かれ,そこで原告の意見陳述がされた(<証拠略>)。同月7日,本件組合の支部長会議が開かれ,そこでは本件異動を撤回させるべきであるという意見が多く出され,支部長15人中9人が本件異動を容認できないという趣旨の発言をした(<証拠略>)。本件組合は,同月8日,中央苦情処理共同調整会議において,交通局に対し,本件異動の白紙撤回を検討すること,人事異動の職務命令を同月12日の本件組合の中央委員会まで発令しないこと及び組合役員の人事異動については,事前に組合と協議することを申し入れ,交通局は,白紙撤回はできないこと,職務命令の発令及び事前協議の点については持ち帰って検討する旨の回答をし,その後,本件組合と交通局は,今後の組合役員の人事異動については事前協議できるよう誠意をもって協議していきたい旨確認した(<証拠略>)。本件組合は,同月12日,中央委員会を開催し,同委員会は,本件異動はいちがいに不当労働行為に当たるとは思えないと判断し,同日付けの書面で,原告に対してその旨を伝えた(<証拠略>)。本件組合の三役や執行委員らも含めて構成された中央苦情処理共同調整会議は,同日,原告が本件異動についてした苦情処理申請について,本件異動は不当な人事異動とは認められず,任命権者の合理的裁量の範囲内の行為である旨判断し,その審議結果を原告に対して平成11年4月22日付けで通知した。なお,同審議結果には,今後,組合役員の人事異動にあっては,当局側と組合側で事前調整を行うことが望ましく,調整の対象及び方法等については両者で誠意をもって協議する旨の付帯意見が付されていた(<証拠略>)。

(12)  交通局長は,平成11年4月12日付けで,原告に対して書面で出勤命令を出し,原告は,同月15日付けで,被告に対し,本件異動及び前記出勤命令に対して異議を留めた上で出勤に応じる旨の(ママ)回答した(<証拠略>)。

(13)  原告は,平成11年6月16日,被告に対し,本件異動が法7条1号(不利益取扱い)及び同条3号(支配介入)に当たると主張して,交通局長が,原告を原職復帰させること及び原告が本件組合の組合員であることを認めることを含め,本件異動がなかったものとして取り扱うこと,並びに本件異動が不当労働行為であることを認め,今後同種の行為を繰り返さないことを誓約する旨の文書を掲示することを請求する本件申立てをした(<証拠略>)。

被告は,これに対し,平成12年7月4日,本件命令を発し,同日,その写しは原告に交付された(<証拠略>)。

(14)  交通局は,平成11年8月31日,プログラム21を発表した(<証拠略>)。プログラム21は,自動車運送事業の経常収支均衡の達成や地下鉄事業における累積赤字の早期解消を図るため平成12年度以降3年間にわたって職員の給与,調整手当及び期末勤勉手当を5パーセント削減することを(ママ)等を内容とするものであった。本件組合は,同年11月12日の臨時大会において,賛成60人,反対31人,保留23人(出席代議員114人)で,プログラム21を承認し,交通局と本件組合は,その後,数回の団体交渉を行った後,平成12年12月22日,プログラム21について大綱において妥結した(<証拠略>)。

(15)  交通局における係長昇任等の人事異動の運用は,次のとおりであった。

ア 4月の定期人事異動を行うにあたって,前年の12月ころに,職員課が各部の庶務担当課長あるいは各所属の課長からヒアリングを行う。対象職員から意見聴取をするかどうかは,各所属の課長の判断に委ねられる。対象職員に対して意見聴取が行われる場合は,通常は直属の上司により行われる。

イ 本件組合の執行委員を係長に昇任させるに際し,交通局が本件組合の執行委員長に対して,その旨通知したことがあった。

ウ 本件異動以外に,本人が明確な反対の意思表示をしているにもかかわらず,係長昇任がされた例はなかった。

エ 平成9年ないし平成13年に係長へ昇任した者75人のうち,試験採用者,昇任のための試験(係長能力認定試験及び特別指定職試験)合格者,本庁(市長部局)勤務又は本課勤務経験者を除いた者は合計28人であり,そのうち,原告と他1人を除く26人は主任を経て係長に昇任した(<証拠略>)。

オ 昭和56年6月から平成9年4月までの間に,技術系から事務系に変更した職員は15人あり,そこから試験採用者,昇任のための試験(係長能力認定試験及び特別指定職試験)合格者,本庁(市長部局)勤務又は本課勤務経験者を除いた者は合計2人であった(<証拠略>)。京都市は,平成2年ころから,技術職の事務職への登用,女性の登用,若手の登用などさまざまな人材登用を行いながら,職場の活性化を図っており,交通局においては,事務職の職場が少ないことから事務職を技術職に変更し,また,現場で活躍している技術職を事務職に変更するなどしている。

カ 原告と同じ時期に養成工として選考採用された職員で,本件異動時に在籍している者は14人あり,そのうち本件異動前に既に係長級以上に昇任していた者が5人,本件異動と同時期に係長級の区長に昇任した者が1人あった(<証拠略>)。

キ 本件異動以外に,現職の組合の支部長が支部長のまま係長級に昇任し,その結果,支部長を退任した例はなかった。交通局においては,本件組合の執行委員以上の者は異動対象から外す扱いがされている。京都市の市長部局においては,労働組合の支部三役は原則として異動対象から外すという人事異動方針のもとに人事異動が行われている。

2  争点1について

本件異動は,係長への昇任であり,基本給も増額となるものであるが,法7条1号の不利益な取扱いは,労働者の労働組合員としての活動に対して不利益を与えるものを含むものであり,前記1の認定事実によれば,原告は,本件異動の結果,本件組合の組合員資格を失い,また支部長としての資格を失ったのであり,これは,労働組合員としての活動に対して不利益を与えるものであるといえる。そして,不利益取扱いについて不当労働行為が成立するためには,労働者が労働組合の組合員であること,労働組合に加入し,若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正年当な行為をしたこと故に当該労働者に不利益な取扱いをしたことが要件であり,この関係で,使用者に不当労働行為意思があったことを要すると解すべきであり,その有無が問題となる。

そこで,不当労働行為意思の有無を検討するに,前記認定事実によれば,原告と同様の条件の者の過去7年間の昇任状況をみると,28人中26人が係員から主任を経て係長に昇任しているのであり,主任を経ずして係長に昇任することは異例であったことは確かであり,原告と同様の条件の者で技術職から事務職に異動になった例もないわけではないがその数は少なく,特に労働組合の支部長がそのまま係長級に昇任し,その結果支部長を退任した例はなかった。また,本人の反対の意向に反して係長昇任がされた例もなかったもので,このような点からみると,本件異動は,交通局の従前の人事の例に照らすと,相当異例の人事であったことは確かである。

しかしながら,前記の事実関係からは,交通局長が,原告が本件組合の正当な活動をしたことなどを理由として本件異動をしたことを認めるには不十分であって,本件各証拠によっても,結局,このような事実は認めるに足らないというほかはない。むしろ,前記1の認定事実によれば,原告は本件組合やめざす会において一定の発言力をもっていたものの,原告が所属するめざす会のメンバーは約200人で本件組合の組合員数(約2200人から2300人)と比べるとかなり少数にとどまること,めざす会の本件組合における代議員の数も全体が114人であるのに対して10数人と少数にとどまっていたこと,更に,本件異動の後にプログラム21を本件組合が承認するに至る経過に照らすと,本件異動が決定された当時,交通局側において,原告が所属していためざす会の弱体化を図らなければならないほどの状況にあったともいえない。また,原告は,洛西営業所庶務係長のポストをこなす適格性は十分にあったもので,交通局長は,本件規則に従い,その昇任の選考基準に則って本件異動の発令をしたものといえる。原告と同様の条件の者は,係員から主任を経た上で係長になるという確立された慣行があったとも,また,技術職から事務職への異動をしない確立された慣行があったとも,いずれも認めるに足らない。また,交通局側が平素から本件組合やめざす会に対して敵対的な関係にあったとも認められない。

なお,前記1の認定事実によれば,原告は,本件異動の結果,それまで活発に行っていた部落解放運動その他の政治活動が事実上及び法律上相当の制約を受けることになるが,それは直接的に本件組合の活動と結びつくものであるとまでは認められない。

そうすると,本件異動について,交通局長に不当労働行為意思があったとまではいえず,法7条1号の不当労働行為は認められないとした本件命令は適法というべきである。

3  争点2について

労働者が労働組合を運営することを支配し,又はこれに介入するなどの行為が法7条3号により不当労働行為として禁止されている趣旨は,労働組合の自主性及び組織力が使用者の干渉行為により弱体化させられることを防止するところにあると解される。したがって,支配介入は労働組合に対する不当労働行為であって,その救済の申立ては労働組合がするのが原則であり,労働者個人は救済申立ての適格を有しないと解するのが相当である。もっとも,労働組合自体が御用組合化しているような場合で,組合員個人の申立てが認められることで労働組合の自主性や組織力が回復,維持されるような特段の事情がある場合には組合員個人による申立てを認めるべきである。

前記1の認定事実によれば,本件組合は,本件異動に関し,中央苦情処理共同調整会議において,交通局に対して本件異動の白紙撤回の検討を求めるなどしたが,結局,本件異動は不当労働行為には該当しないという趣旨の判断をするに至っており,原告が属していた反主流派のめざす会は,本件組合の主流派に対して批判的であったのは確かである。しかし,これらのことをもって本件組合が御用組合化しているとまでいうことはできず,そのような事実は認められない。また,原告の本件組合における影響力にも限界があったものというべきで,本件異動後に本件組合の活動が衰微したとも認められない。いずれにしても,本件において原告個人に申立てを認めるべき特段の事情があったとはいえない。

以上のとおりであるから,支配介入にかかる申立てについては原告個人に申立適格はないというべきで,この点についての本件命令の判断も適法である。

第4結論

以上のとおり,本件命令は適法であるから,その余の点(争点3)について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。そこで,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 古谷恭一郎 裁判官 秋吉信彦)

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