京都地方裁判所 平成12年(行ウ)25号 判決 2001年9月21日
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が、原告に対し、平成11年7月5日付けでした平成10年4月1日から平成11年3月31日までの市長並びに市長公室の飲食に伴う支出に係わる公文書食糧費の公文書部分公開の処分のうち、別紙公文書一覧表の各公文書(以下「本件公文書」という。)の各非公開部分欄(以下「本件非公開部分」という。)を非公開とした部分を取り消す。
第二事案の概要
本件は、原告が、城陽市情報公開条例(平成元年11月15日城陽市条例第20号、以下「本件条例」という。)に基づき、その実施機関である被告に対し、平成10年度における市長及び市長公室の飲食に伴う支出に係る公文書の公開を請求したところ、被告が、特定した公文書のうち本件公文書の債権者の口座番号等の本件非公開部分等を非公開とする決定をしたため、原告が、被告に対し、同決定のうち本件非公開部分の非公開決定部分の取消しを求めた事案である。
一 本件条例の定め
1 本件条例は、公文書等の意義及び公文書の公開を請求できるものについて、第2条及び第5条においてそれぞれ次のように定めている。
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(1) 実施機関 市長、公営企業管理者、消防長、教育委員会、選挙管理委員会、公平委員会、監査委員、農業委員会及び固定資産評価審査委員会及び議会をいう。
(2) 公文書 実施機関が職務上作成し、又は取得した文書、地図、図面、及びマイクロフィルム、磁気テープ等からの採録物であって、決裁又は受理の手続きを終了し、実施機関が管理しているものをいう。
(3) 公文書の公開 実施機関がこの条例の定めるところにより、公文書を閲覧に供し、又はその写しを交付することをいう。
第5条 次に掲げるものは、実施機関に対し、公文書の公開(第5号に掲げるものにあっては、当該利害関係に係る公文書の公開に限る。)を請求することができる。
(1) 市内に住所を有する者
(2) 市内に勤務する者
(3) 市内に在学する者
(4) 市内に事務所又は事業所を有する個人及び法人その他の団体
(5) 前各号に掲げるもののほか、市の行政に利害関係を有するもの
(2項は省略)
2 本件条例は、公開しないことができる公文書について、第6条において次のように定めている。
第6条 実施機関は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については、公文書の公開をしないことができる。
(1) 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、又は識別されうるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
ア 法令及び条例の規定により何人も閲覧できるとされている情報
イ 公表することを目的として作成し、又は取得した情報
ウ 法令及び条例の規定により行われた許可、免許、届出その他これらに相当する行為に際して作成し、又は取得した情報であって、公開することが公益上必要と認められるもの
エ その他公開することが公益上特に必要と認められるもの
(2) 法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより、当該法人等又は当該個人の事業活動に不利益を与えることが明らかであると認められるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
ア 人の生命、身体又は健康を保護するため公開することが必要と認められる情報
イ 市民の生活に影響を及ぼす法人等又は個人の違法又は著しく不当な行為に関する情報
ウ ア又はイに掲げる情報に準ずる情報であって、公開することが公益上特に必要と認められるもの
(3号及び4号は省略)
二 争いのない事実等
1 原告は、京都府城陽市に住所を有する者であり、被告は本件条例2条1号の実施機関である。
2 原告は、平成11年5月6日、被告に対して本件条例8条に基づき、平成10年4月1日から平成11年3月31日までの市長並びに市長公室の飲食に伴う支出に係る公文書の公開を請求した。
3 被告は、平成11年5月20日、請求にかかる文書量が大量であることなどを理由に、公開の可否決定を行うについてなお期間を要するとして、原告に対して、公文書公開可否決定期間を延長する旨の通知をした。
4 被告は、平成11年7月5日、原告の上記公開請求に該当する公文書を本件公文書等と特定し、債権者の口座番号等が記載された本件非公開部分等を非公開とし、それ以外の部分を公開する決定をし(この決定を以下「本件処分」という。)、原告に通知した(甲1)。
5 本件非公開部分に記載された情報(以下「本件情報」という。)は、別紙公文書一覧表の非公開部分欄のとおり、債権者である法人又は個人の「銀行名」「支店名」「預金種別」「口座番号」である。
6 本件処分において、本件非公開部分を非公開とする理由としては、法人等の事業活動に明らかに不利益を及ぼすものであることが付記されていた。
7 原告は、平成11年8月11日、本件処分について、行政不服審査法に基づく異議申立てをしたが、平成12年10月2日、本件訴訟の口頭弁論が開始されたことを理由に上記異議申立てを取り下げた(乙4)。
三 争点及び当事者の主張
1 争点1
本件情報は、本件条例6条2号本文の情報に該当するか。
(1) 被告の主張
ア 本件公文書における各債権者は、株式会社又は個人として飲食業を営んでいるから法人その他の団体又は事業を営む個人に該当する(法人その他の団体又は事業を営む個人を以下「法人など」という。)。
イ 本件情報は、債権者の取扱銀行名、預金種別、口座番号についてのものであるから法人等又は個人の事業に関する情報である。
ウ 本件条例6条2号は、情報公開制度のもとにあっても法人などの正当な競争活動などを侵害してはならないという見地から、市が保有する法人などの事業に関する情報のうち、開示されることによって競争上の地位を害するなどその事業活動に不利益が生じると認められる情報については、一定の場合を除き開示しないことができるとしたものと解される。本件情報は、法人などが事業を営む上で必要とされる事業にかかる金銭の出納に関わる情報であって、その性質上、債権者の経理に関係せざるを得ないとともに、当該債権者と金融機関との取引関係につき内部管理情報として秘匿されるべき情報であり、法人などが自らの営業活動の中で使用し、その開示範囲を当該法人などが自ら選択しつつ自ら開示した者以外に対しては公開せずに内部情報として管理するのが通常であり、当該法人などの意思によらないで公表されることはないという期待は十分尊重されるべきであるから、本件情報を開示することで事業運営上の地位が害される不利益は明らかである。
エ 本件情報は、本件条例6条2号ただし書の除外事由には該当しない。
(2) 原告の主張
本件情報は、本件条例6条2号本文の情報ではない。
2 争点2
被告は、原告に対して従前口座番号等を公開したことがあるから、本件情報をも公開するべきか。
(1) 原告の主張
被告は、本件とは別に、平成12年3月9日、平成11年10月12日にされた公文書部分非公開決定を取り消し、口座番号等を公開し、その後口座番号等が記載された文書を書証として裁判所に提出した。これは被告が当初非公開としていた口座番号等の情報が非公開情報に該当しないことを自認したものである。また、これ以外にも口座番号等を公開した前例が多くあり、これらの先例に照らすならば、被告は本件情報を公開すべきである。
なお、本件における第三者である債権者からの了解については、それがなければ情報を公開できないというものではないし、第三者が多数であるから了解をとることが事実上不可能であるという主張は、決定までの期間を請求書を受理した日から60日を限度として延長できるのであるから失当である。
(2) 被告の主張
原告の提起した別訴の公文書部分非公開決定取消請求事件において請求の対象となっていた銀行の口座番号等の情報について、被告は公開したことがあるが、これらの情報は本来非公開情報であるところ、原告からの強い申入れがあったことなどから、第三者情報の意見聴取に関する事務取扱要綱に基づき第三者の了解をとった上で公開したものにすぎない。さらに、本件においては第三者である債権者が多数にのぼり、その了解をとることは事実上不可能であり、意思確認作業の事務量は膨大なものになる。
3 争点3
本件請求は、本件条例4条に違反して許されないか。
(被告の主張)
原告の本件情報に係る公文書の公開請求は、その目的において、本来、本件条例が予定する目的に反して行政の効率化を妨げる結果をもたらすこと、他方、本件情報は、市政の公正で効率的な運営等にとって必要なものではないことなどを総合衡量すると、信義に反するもので、本件条例4条に違反し許されない。
第三当裁判所の判断
一 争点1について
1 本件条例6条2号本文の当該事業に関する情報とは、法人等の団体の事業活動に関する一切の情報と解され、本件情報は、食糧費の支出の相手方である債権者らの取引銀行名、預金種別及び口座番号であるから、当該事業に関する情報に該当する。
2 本件情報の公開により当該事業活動に不利益を与えることが明らかであると認められるか否かについて検討する。
本件情報は、債権者らの銀行名、預金種別及び口座番号であり、これらの情報は、事業に関する情報であるとはいっても、他方、いわゆる内部管理情報としての性質をも有し、個々の債権者らが秘密にしておくことが是認される情報であって、本来、債権者らの意思によって、事業活動の過程で取引先など限定された相手方に対して必要な限度で開示されることが予定されているにすぎないものといえる。また、本件情報は、実施機関が管理する情報ではあるが、城陽市自らの市政や事務についての直接の情報ではなく、実施機関としては、上記のように個々の債権者の内部管理情報であることを前提とした管理をせざるを得ない情報であるというべきである。そして、通常は個々の債権者らも、そのような認識を有しているものと考えられる。このような本件情報の性質、通常の利用方法、それについての個々の債権者らの通常の認識、それに本件情報の悪用の危険性等を総合すると、このような本件情報を公開すると、法人等や個人が地方公共団体と取引をする場合には内部管理情報が一般に公開されることも予想してこれを行わなければならなくなり、その事業活動に不利益を与えることが明らかである。
3 以上のとおりであるから、本件情報は本件条例6条2号本文の情報に該当するというべきである。なお、本件条例6条2号ただし書の各情報に該当するとの主張・立証はない。
二 争点2について
確かに別訴の公文書部分非公開決定取消請求事件において請求の対象となっていた銀行の口座番号等の情報について、被告がこれらを開示したことがあること、それ以外にも、被告が、かつて原告に対して口座番号等を開示したことがあることは認められる(甲3、4,5の1から5の3まで、6の1から6の6まで、7の1及び7の2、8の1及び8の2、9の1及び9の2、10の1及び10の2)。
しかし、本件条例6条は、実施機関は同条各号のいずれかに該当する情報が記載されている公文書については公開をしないことができると定めているにすぎないから、実施機関としては、非公開事由に該当する情報が記載された公文書を、公開することもできるものと解される。そうすると、過去に上記のとおり本件情報と同種の情報を原告に対して公開した事実があったとしても、本件情報について当然に公開しなければならないということはできず、この点についての原告の主張は採用できない。
三 以上のとおりであるから、その余の点(争点3)について判断するまでもなく、本件処分のうち本件非公開部分を非公開とした部分は適法であって、原告の本件請求は理由がないから棄却することとする。
(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 古谷恭一郎 裁判官 秋吉信彦)