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京都地方裁判所 平成12年(行ウ)29号 判決 2001年10月31日

主文

一  被告が原告に対して平成12年7月17日付けでした別紙文書目録記載1ないし5の各文書の部分公開決定処分のうち同各文書の決裁費,工事価格(積算価格),最低制限価格及び入札書比較価格の各金額欄を非公開とした部分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は,京都府城陽市の住民である原告が,城陽市情報公開条例(平成元年11月15日城陽市条例第20号,以下「本件条例」という。)に基づいて,被告に対し,別紙文書目録記載1ないし5の入札予定価格決定書(以下「本件文書」という。)の公開を請求したところ,被告が,本件文書のうち決裁費(設計金額)及びその消費税加算前の金額,並びに最低制限価格及びその消費税加算前の金額が記載された部分(それぞれの「決裁費」欄とその下欄の「工事(積算)価格」欄,「最低制限価格」欄とその下欄の「入札書比較価格」欄,以下「本件非公開部分」という。)を非公開とし,その余の部分を公開するとの処分(以下「本件処分」という。)をしたことから,原告が,被告に対し,本件処分のうちの本件非公開部分の取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実,並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実は,次のとおりである。

1  原告は,京都府城陽市の住民であり,本件条例5条1項1号により,城陽市の公文書の公開を請求できる者に該当する。

2  本件文書は,桜づつみモデル事業富野地区整備工事等の別紙文書目録1ないし5記載の各工事(以下「本件工事」という。)に係る各指名競争入札の際,発注者である城陽市によって作成された各入札予定価格決定書であり,本件非公開部分のほかには,事業名,決裁年月日,入札予定価格,入札書比較価格が記載されている。本件文書は,本件条例2条2号の公文書に該当する。

3  原告は,被告に対し,平成12年7月7日付けで,本件条例8条に基づき,本件文書の公開を請求した。これに対し,被告は,同月17日付けで,城陽市公文書部分公開決定通知書において,本件非公開部分に記載された情報は,本件条例6条3号イに該当するとの理由で,同部分を非公開とし,その余の部分を公開するとの本件処分をし,原告にその旨通知した(甲1①②)。

4  本件条例6条は,「実施機関は,次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については,公文書の公開をしないことができる」とし,同条3号イは「市の機関又は国等の機関が行う検査,交渉,入札,試験その他の事務事業に関する情報であって,当該事務事業の性質上,公開することにより,当該事務事業の公正又は適正な執行を妨げるおそれのあるもの」と規定している。

二  争点及び争点に関する当事者の主張

争点は,本件非公開部分に記載された決裁費(設計金額),最低制限価格の情報は,本件条例6条3号イ所定の非公開事由に該当するか否かという点である。この点に関する当事者の主張は,以下のとおりである。

1  被告の主張

(一) 決裁費は,工事発注者が,公共工事の標準的な施工方法を基準として,標準的な施工能力を有する建設業者がそれぞれの現場条件に応じて当該工事を行った場合に最も妥当性があると考えられる経費を積算した合計金額であり,設計金額ともいわれる。

決裁費は,建設省の「土木請負工事工事費積算要領」に基づき,建設省が公表する「土木工事工事費積算基準」,「共通仮設費算定基準」,「土木工事標準歩掛」や,発注工事ごとに被告が公表する設計書(工事単価を伏せて工種ごとの工事数量が明示されている。)及び工種ごとの工事単価(公表されない。)に基づいて積算される。

(二) 最低制限価格は,城陽市契約規則第16条によって設定することが可能とされ,この価格の設定においては,予算決算及び会計令第85条の規定に係る建設省基準を準用し,予定価格の3分の2から10分の8.5の間において設定するものとされているが,決裁費と予定価格との関係におけると同様に一律何パーセントと決まっているわけではない。建設業者間の過当競争や工事原価も確保できないような低額の契約の締結によって疎漏工事が行われることを未然に防止するため,工事発注者が当該工事の契約の内容に適合した履行を確保するため特に必要があると認めた場合に設定される。

(三) 決裁費を公開することの弊害

決裁費を公開すると,その後の同種工事の入札における決裁費を推測することが可能となる。そして,入札予定価格が決裁費を基に決定されることから,入札予定価格を事前に推測することも可能になる。そうすると,その入札において,業者間で談合をする場合,工事の割り当てを確実に実行することができるというメリットがある上,落札予定業者の落札価格を入札予定価格に近づけて設定することができ,談合組織の得る利益を最大限確保することが可能となる。こうした環境が整うことは,他業者を談合に呼び込んだり,談合を維持したりする上で大いなる魅力であり,談合の誘因としては無視できない。

特に,本件工事のような公園等整備工事や植栽工事は,発注が繰り返されることが多い工事であって,およそ同種工事であれば,事前に開示される仕様書などの内容において同種の作業内容が含まれている場合が多く,これを積算に利用すれば決裁費,そして入札予定価格の事前の推測がより正確に行えるようになる。

そして,このことは,入札予定価格が事後的に公開されている状況においても何ら異なることはない。すなわち,決裁費は,積算基準に従って算出された価格であり精密に計算された数額であるのに対し,入札予定価格は,決裁費を基準として工種・施工条件などを勘案して算出されるもので,決裁費に一定の加工が加えられている価格である。したがって,入札予定価格が事後に公開されている状況においても,将来の同種工事の入札予定価格を予測できることにはならない。

(四) 最低制限価格を公開する弊害

最低制限価格が設定される趣旨は,疎漏工事の未然防止にある。最低制限価格を事前に公開すれば,疎漏工事をしようとする業者の通常の採算を度外視した入札を無効にするという制度の目的が失われることは明白である。事後的に最低制限価格を公開するとしても,将来の同種工事の入札の最低制限価格の推測が可能となるから,やはり同様に制度目的の根幹が崩れることにつながる。

2  原告の反論

城陽市は,入札予定価格を「城陽市建設工事の入札結果等公表に関する要綱」に基づき,契約締結後速やかに公表し,また試験的に入札予定価格の事前公表も実施している。そうである以上,もともと,入札予定価格から将来の同種の工事の入札予定価格や最低制限価格を算出することは容易である。被告は一般的抽象的なおそれを非公開の事由としているに過ぎず,被告の主張は失当である。

第三当裁判所の判断

一  前記第二の一の事実に加え,甲1ないし3(枝番を含む。),乙1ないし24(枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

1  入札予定価格決定書は,指名競争入札の実施に先立ち,発注部局により作成されるもので,同文書には,事業名,決裁年月日のほか,決裁費,工事価格(積算価格),入札予定価格,最低制限価格,入札書比較価格が記載される。

2  決裁費は,設計金額ともいわれ,工事発注者が,公共工事の標準的な施工方法を基準として,標準的な施工能力を有する建設業者がそれぞれの現場条件に応じて当該工事を行った場合に最も妥当性があると考えられる経費を積算した合計金額であり,建設省(当時,以下同じ。)の「土木請負工事工事費積算要領」に基づき,同省が公表する「土木工事工事費積算基準」,「共通仮設費算定基準」,「土木工事標準歩掛」や,発注工事ごとに被告が公表する設計書(工事単価を伏せて工種ごとの工事数量が明示されている。)及び工種ごとの工事単価に基づいて積算される。このように,上記の各資料のうち,工事単価以外は,公表されている。

3  入札予定価格は,地方自治法234条3項所定の「予定価格」であり,決裁費(設計金額)を基に,工種,施工条件,工事の難易度,工期等の当該工事の内容を配慮して決定され,この金額が入札の際の落札上限額となる。入札予定価格は,前記のとおりに積算される決裁費よりも,その工事限りでの評価的要素を多く含むものであるといえる。

4  最低制限価格は,入札の際の落札下限額となるもので,参加する建設業者間の過当競争や採算を十分考慮することなく落札することのみを目的として契約を締結し,粗悪な材料の使用や手抜き工事等の疎漏工事が行われることを未然に防止するため,工事発注者が当該工事の契約の内容に適合した履行を確保するため特に必要があると認めた場合に設定される。

5  地方自治法施行令167条の10第1項及び第2項,城陽市契約規則16条によれば,「契約権者は,施行令第167条の10第1項の規定により予定価格の制限の範囲内で最低の価格をもって申込みをした者以外の者を落札者としようとするときは,当該最低の価格をもって申込みをした者と契約を締結することにより当該契約の内容に適合した履行がなされないおそれがあると認める理由又はその者と契約を締結することが公正な取引の秩序を乱すおそれがあると認める理由を付して市長の承認を受けなければならない。」(1項),「契約権者は,施行令第167条の10第2項の規定により最低制限価格を付す必要があると認めるときは,その理由並びに付そうとする最低制限価格の額及びその算出基礎を明らかにして市長の承認を受けなければならない。」(2項),「契約権者は,前項の規定により最低制限価格を付すこととされたときは,第6条の規定による公告において,最低制限価格が付されている旨を明らかにしなければならない。」(3項)と規定されている。

6  そして,城陽市においても,最低制限価格は,国の工事についての「予算決算及び会計令第85条の基準について」(乙9)にならって,入札毎に,入札予定価格の3分の2から10分の8.5の範囲内で定められている。

7  城陽市では,平成10年12月14日に一部改正された「城陽市建設工事の入札結果等公表に関する要綱」に基づき,同日以降,市が執行する建設工事のうち,設計金額が1000万円以上のものについて,入札予定価格を契約締結後速やかに公表しており,同要綱に基づき,本件文書中の入札予定価格並びにそれに消費税及び地方消費税相当額を加算する前の金額である入札書比較価格は,契約締結後公表される扱いになっている。

8  城陽市では,市の入札制度の透明性及び競争性の向上を図るべく今後の検討資料とするため,平成12年11月,同月21日に入札予定の「今池小学校南棟便所前手洗い流し等改修工事」及び「第二平川西部排水路改修工事」の2件の建設工事につき,入札予定価格の事前公表を試行的に実施した。しかし,同各工事の入札事務の公正又は適正な執行が妨げられる事態が生じたことは特になかった。

二  前記一の認定事実の下で,まず本件工事の決裁費について検討する。

1  確かに,入札予定価格が当該入札前に公表されて入札参加業者がその具体的な金額まで知ることになると,入札参加業者間で談合をする場合を想定すると,各談合業者間で,本命である落札業者を決め,更に各参加業者の入札価格を調整することによって,本命の建設業者が入札予定価格を少し下回る高値で落札することがより容易になるものといわざるを得ず,そのような犯罪が行われる場合を想定すると(刑法96条の3参照),城陽市における当該入札事務の公正又は適正な執行に支障を及ぼすことは否定できない。

2  しかしながら,前記一の認定事実によれば,入札予定価格は,事後に公表される扱いであるから,それを前提とすると,もともとその後の同種の工事の入札の際,これに参加する建設業者が,過去の入札の入札予定価格や,すでに公表されている前記の「土木工事工事費積算基準」等の資料を基にその入札の予定価格をある程度まで推測することもできることは明らかである。そして,決裁費は,前記の公表された積算基準や標準歩掛等によって算定されるものであるから,入札予定価格よりも,その工事限りの評価的な要素が少ない価格である。

また,他方,同種の工事であっても,施工時期,各工事の構造,仕様,材質,地域的条件等の点で各工事ごとに個別の特殊性があるのが一般であるし,入札予定価格を算定する際に基礎となる数値も,物価の変動や技術の進歩といった情勢の変化により日々変化していくものであるから,これら諸事情を勘案すると,過去の決裁費の価格から,その後の同種工事の入札予定価格を正確に推測することにも一定の限界があると考えられる。

3  このようにみてくると,本件工事の各決裁費を公開したとしても,その後の城陽市が行う同種の工事の入札において,その入札予定価格を推測する場合に,決裁費を公開しなかった場合と比較して,推測の精度がどの程度増すのかまでは,結局,不明であるといわざるを得ない。

4  そうすると,本件工事の決裁費を公開することによって,それを公開しなかった場合と比較して,今後の同種の工事の入札事務において支障が生じるのか否かについては,本件全証拠によっても明らかではないといわざるを得ない。本件工事の決裁費について,本件条例6条3号イ所定の事由があるとまでは認められない。よって,被告のこの点の主張は採用できない。

三  次に,本件工事の最低制限価格について検討する。

1  最低制限価格が設定された入札において,当初から採算を無視し,又は疎漏工事をする意思でそれを下回る価格でともかく落札しようとする業者が存在する場合を想定すると,それが事前に公開されていなければ,その業者の落札を排除できたのに,事前に公開されたために,その業者の落札を排除できず,結果的に,その業者が落札するという事態も,一般論としては考えられないではない。

2  しかしながら,前記のとおり,最低制限価格は,入札毎に,予定価格の3分の2から10分の8.5の範囲内で設定される扱いであるから,これを事後に公開したとしても,その後の同種の工事の入札において,予定価格を推測した上でその最低制限価格を正確に推測することは,前記二で判示したところに照らしても,必ずしも容易なこととは考えられない。

3  また,前記一の認定事実によれば,最低制限価格が設定されたこと自体は,事前に公告され,入札参加業者の知るところとなるのであり,更に,採算を度外視したり,十分考慮せずに入札した者が最低価格の入札者であった場合には,前記のとおり,地方自治法施行令,城陽市契約規則によって,市長の承認を得てその者を落札者としない扱いもできることになっている。

4  このようにみてくると,本件工事の最低制限価格を公開すると,それを公開しない場合と比較して,城陽市の他の同種の工事の入札において,採算を十分に考慮しない業者が落札し,疎漏工事がされるなどし,その結果,入札事務の公正又は適正な執行を妨げるおそれがより生ずることになるとまでは認められない。

四  結論

以上のとおり,被告主張の非公開事由はいずれも認められないから,本件処分のうち本件非公開部分を非公開としたことは違法であって取消しを免れず,原告の本訴請求は理由がある。よって,訴訟費用の負担につき行訴法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 飯野里朗 裁判官 秋吉信彦)

別紙文書目録

1 桜づつみモデル事業富野地区整備工事に係る指名競争入札の際発注者によって作成された平成10年6月24日付け入札予定価格決定書(乙1)

2 城陽市総合運動公園レクリエーションゾーン植栽工事に係る指名競争入札の際発注者によって作成された平成9年12月24日付け入札予定価格決定書(乙2)

3 城陽市総合運動公園冒険ゾーン整備工事,城陽市総合運動公園大芝生広場整備工事に係る指名競争入札の際発注者によって作成された平成9年12月3日付け入札予定価格決定書2通(乙3,4)

4 準用河川嫁付川改修工事に係る指名競争入札の際発注者によって作成された平成10年12月24日付け入札予定価格決定書(乙6)

5 準用河川今池川改修工事に係る指名競争入札の際発注者によって作成された平成10年11月10日付け入札予定価格決定書(乙5)

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