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京都地方裁判所 平成12年(行ウ)3号 判決 2005年8月31日

主文

1  第1事件原告ら及び第2事件原告らの主位的請求に係る訴えを却下する。

2  被告は,京都市に対し,金11億4450万円及びうち金3億7939万4100円に対する平成12年5月8日から,うち金7億6510万5900円に対する平成13年5月26日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  第1事件原告ら及び第2事件原告らのその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は,第1事件及び第2事件を通じて,これを5分し,その1を被告の負担とし,その余を第1事件原告ら及び第2事件原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  主位的請求

被告は,京都市に対し,248億3947万5500円及びうち76億8500万円に対する平成12年5月8日(第1事件の訴状送達の日)から,うち171億5447万5500円に対する平成13年5月26日(第1事件の請求の拡張申立書送達の日)から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  予備的請求

被告は,京都市に対し,57億3218万6653円及びうち17億7346万1538円に対する平成12年5月8日から,うち39億5872万5115円に対する平成13年5月26日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要等

1  第1事件は,京都市の住民である第1事件原告らが,京都市が発注したごみ処理設備建設工事の請負契約の一般競争入札において,被告が違法な談合を行い,その結果,落札価格が不当につり上げられ,京都市が損害を被ったなどと主張して,地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号(平成14年法律第4号による改正前のもの)により,上記請負契約等の相手方である被告に対し,主位的には,上記請負契約等は公序良俗に反し無効であるとして,工事代金として受け取った公金(合計248億3947万5500円)相当額の不当利得金及びこれに対する遅延損害金を,予備的には,不法行為に基づく損害賠償金(上記金額の13分の3相当額)及びこれに対する遅延損害金を,それぞれ京都市に支払うよう請求する住民訴訟である。

第2事件は,京都市の住民である第2事件原告ら(以下,これと第1事件原告らとを併せて「原告ら」という。)が,第1事件と同じ被告に対し,同一の請求をして,第1事件に共同訴訟参加をした事件である(なお,第2事件は,第1事件の別件訴訟として提起されたものであるが,共同訴訟参加の要件を満たしているから,その訴えの提起は共同訴訟参加の申立てとして取り扱うのが相当である。)。

2  基礎となる事実(争いのない事実のほか,末尾に掲記した証拠(書証番号はいずれも枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  原告らは,いずれも京都市の住民である。

(2)  被告は,ストーカ式燃焼装置を採用する全連続燃焼式(以下「全連」という。)及び准連続燃焼式(以下「准連」という。)のごみ焼却施設(当該ごみ焼却施設と一体として発注されるその他のごみ処理施設を含む。以下「ストーカ炉」という。)を構成する機械及び装置の製造業並びに清掃施設工事業を営む者である。

(3)  ごみ焼却施設の発注方法等

ア 普通地方公共団体(以下「地方公共団体」という。)は,ごみ処理施設を建設する実行年度の前々年度以前に,ごみ処理基本計画を策定し,将来の人口の増減予測に基づいてごみの種別ごとの排出量を推計し,リサイクルすることができるごみの量や地域内で処理が必要なごみの量等を把握した上,その処理のために設置すべき施設の整備計画の概要を取りまとめている。

そして,地方公共団体は,ごみ処理施設の建設用地の選定,環境アセスメント,都市計画の決定等の手続を経た上,実行年度の前年度にごみ処理施設整備計画書を作成し,都道府県を経由して国に同計画書を提出するところ,工事費用を把握するため,将来の入札に参加させることのできる施工業者を選定し,工事の仕様を提示して参考見積金額を徴している。

国が国庫補助事業として予算計上したごみ処理施設整備事業については,予算計上後に内示がされ,当該地方公共団体は,内示を受けた後,指名競争入札,一般競争入札又は指名見積り合わせ(以下「指名競争入札等」という。)又は特命随意契約のいずれかの方法により発注しているが,ほとんどが指名競争入札等の方法により発注されている。

イ 地方公共団体は,指名競争入札又は指名見積り合わせの方法で発注するに当たっては,入札参加資格申請をした者のうち,地方公共団体が競争入札参加の資格要件を満たす者として登録している有資格者の中から入札参加業者を指名している。

また,地方公共団体は,一般競争入札の方法で発注するに当たっても,資格要件を定め,一般競争入札に参加しようとする者の申請を受けて,その者が当該資格要件を満たすかどうかを審査し,資格を有する者だけを入札参加業者としている。

(4)ア  京都市は,京都市東北部清掃工場(仮称。現在の京都市東北部クリーンセンター。以下「本件清掃工場」という。)のごみ処理設備建設工事(以下「本件工事」という。)の請負契約を一般競争入札の方法により締結することとし,予定価格を222億8571万5000円と定めた上,平成8年11月18日,本件工事の入札(以下「本件入札」という。)を行い,被告が入札価格218億円で落札した。

本件入札には,被告のほか,株式会社タクマ(以下「タクマ」という。),日本鋼管株式会社(現商号はJFEエンジニアリング株式会社。以下「日本鋼管」という。),日立造船株式会社(以下「日立造船」という。),三菱重工業株式会社(以下「三菱重工業」という。),株式会社荏原製作所(以下「荏原製作所」という。)及び株式会社クボタ(以下「クボタ」という。)が参加していた。

イ  京都市は,本件入札の結果に基づき,被告との間で,平成8年12月13日,本件工事について,代金を228億9000万円(うち消費税相当額10億9000万円)とする請負契約(以下「本件ごみ処理設備工事請負契約」という。)を締結した(甲8)。

ウ  京都市は,被告との間で,平成10年9月17日,随意契約の方法により,本件清掃工場の溶融設備建設工事等について,代金を19億4985万円とする請負契約(以下「本件溶融設備工事請負契約」といい,これと本件ごみ処理設備工事請負契約とを併せて「本件各請負契約」という。)を締結した。

(5)  京都市は,被告に対し,本件各請負契約に基づき,別紙2「公金支出経過等一覧」記載のとおり,代金を支払った(甲16から甲23まで,乙3,乙4)。

(6)  公正取引委員会(以下「公取委」という。)は,平成11年8月13日,被告,日立造船,日本鋼管,タクマ及び三菱重工業(以下,これらを併せて「5社」という。)が,遅くとも平成6年4月以降,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事について,共同して,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた事実が認められ,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)3条の規定する「不当な取引制限」(独禁法2条6号)の禁止に違反するとして,5社に対し,独禁法48条2項に基づき排除勧告(以下「本件排除勧告」という。)をした。

5社が本件排除勧告を応諾しなかったため,公取委は,平成11年9月8日,審判開始決定をした。なお,公取委の平成16年3月29日付け審決案においては,本件工事を含む合計30件の工事について,5社による談合の事実が認定されている(甲査190)。

(7)  第1事件原告らは,京都市監査委員に対し,平成11年12月24日,監査請求を行ったところ,同監査委員は,平成12年1月14日,監査請求期間徒過を理由にこれを却下した。

また,第2事件原告らは,同監査委員に対し,同年2月4日,監査請求を行ったところ,同監査委員は,同月17日,監査請求期間徒過を理由にこれを却下した(以下,原告らの上記各監査請求を併せて「本件各監査請求」という。)。

3  本件の争点

(1)  主位的請求

ア 本案前の争点

主位的請求に係る訴えは,適法な監査請求を経たものであるか否か。

(ア) 監査請求期間の起算日は,いつであるか(以下,この点を「争点1」という。)。

(イ) 本件各監査請求が監査請求期間を徒過してされたものである場合,法242条2項ただし書にいう「正当な理由」があるか否か(以下,この点を「争点2」という。)。

イ 本案の争点

(ア) 本件ごみ処理設備工事請負契約は,公序良俗に反し,無効であるか否か。

この点に関し,被告が本件入札において談合を行ったか否かが争点となる(以下,この点を「争点3」という。本件ごみ処理設備工事請負契約が談合に基づいて締結された後に,そのような談合に基づく契約が公序良俗に反するものとして無効となるかどうかが問題となる。)。

(イ) 本件溶融設備工事請負契約は,無効か否か。

a 本件溶融設備工事請負契約は,随意契約の方法により締結されたことにより,無効となるか否か。

その前提として,京都市が本件溶融設備工事請負契約を随意契約の方法により締結したことは違法か否かが争点となる(以下,この点を「争点4」という。)。

b 本件溶融設備工事請負契約は,本件ごみ処理設備工事請負契約が無効であることにより,無効となるか否か(以下,この点を「争点5」という。)。

(ウ) 被告の利得及び京都市の損害

(2)  予備的請求

ア 本案前の争点

(ア) 本件各監査請求の対象と予備的請求に係る訴えの対象とは,同一であるか否か(以下「争点6」という。)。

(イ) 京都市長は,損害賠償請求権の行使を違法に怠っているか否か(怠っていることの違法性が訴訟要件かどうかを含み,訴訟要件でない場合には本案の争点となる。以下「争点7」という。)。

イ 本案の争点

(ア) 被告は,本件入札において,談合を行ったか否か(争点3)

(イ) 京都市が本件溶融設備工事請負契約を随意契約の方法により締結したことは,違法か否か(争点4)。

(ウ) 京都市が被った損害及びその額(以下「争点8」という。)

4  争点1から争点8までについての当事者の主張

(1)  争点1(監査請求期間の起算日)について(主位的請求に係る本案前の争点)

(被告の主張)

本件各監査請求は,本件各請負契約が無効であることに基づき発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実に係る監査請求であるから,法242条2項の監査請求期間の制限が適用される。

そして,原告らは,本件各請負契約の締結自体を財務会計上の行為として,その違法を主張するものであるから,監査請求期間の起算日となる同項の「当該行為のあった日又は終わった日」とは,本件各請負契約の各締結日をいうものと解される。

しかるに,本件各監査請求は,いずれも本件各請負契約の各締結日から1年以上経過した後に行われているから,監査請求期間を徒過した不適法なものである。

(原告らの主張)

建築請負契約のように,契約の締結とその履行としての代金の支払との間に時間的間隔のある契約においては,契約の締結及び代金の支払を一連の行為とみて,最後の代金支払日をもって監査請求期間の起算日と解するべきである。そうでないとしても,少なくとも,各代金支払日を監査請求期間の起算日と解するべきである。

したがって,本件各監査請求は,監査請求期間を徒過したものとはいえない。

(2)  争点2(法242条2項ただし書にいう「正当な理由」の有無)について(主位的請求に係る本案前の争点)

(原告らの主張)

原告らは,平成11年8月18日に本件排除勧告に係る勧告書を入手したものであり,原告らが本件入札において談合が行われていたという事実を知ったのは,同日以降である。

そして,原告らは,その後,被告が本件排除勧告を受諾するか否かという動向を見守る必要があったこと,本件の事案は複雑であり,監査請求の準備のために時間を要したこと等の事情を考慮すれば,本件各監査請求が同日から約4か月後に行われたことをもって,相当な期間を徒過したとはいえない。

したがって,本件各監査請求が監査請求期間を徒過したものであるとしても,法242条2項ただし書にいう「正当な理由」がある。

(被告の主張)

平成10年9月17日及び翌18日には,公取委が5社に対し独禁法違反容疑で立入検査を実施した旨の新聞報道がされたこと,本件とほぼ同一の事実関係に基づく浦和市(当時)発注のごみ焼却炉建設工事請負契約に係る監査請求は同年12月に行われていること等にかんがみると,原告らは,相当の注意力をもって調査すれば,同月ころ,あるいは,遅くとも公取委が5社の談合についてほぼ断定した旨の新聞報道がされた平成11年8月9日ころまでには,監査請求が可能な程度の事実を知ることができたというべきである。

仮に,原告らが,本件排除勧告に係る勧告書を入手した同月18日まで談合に関する事実を知り得なかったとしても,本件各監査請求は,いずれもその日から4か月以上経過した後に行われているから,相当な期間を徒過したものというべきである。

したがって,本件各監査請求が監査請求期間を徒過したことに,「正当な理由」はない。

(3)  争点3(本件入札における談合の有無)について(主位的請求及び予備的請求に係る本案の争点)

(原告らの主張)

被告は,以下のとおり,本件入札において,談合を行ったというべきである。

ア 5社間では,遅くとも平成6年4月以降,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事について,受注機会の均等化を図るため,次のような基本合意(以下「本件基本合意」という。)が成立していた。

(ア) 地方公共団体が建設を計画していることが判明した工事について,5社の各社が受注希望を表明し,①受注希望者が1社の工事については,その者を受注予定者とし,②受注希望者が複数の工事については,受注希望者間で話し合い,受注予定者を決定する。

(イ) 5社間で受注予定者を決定した工事について,5社以外のプラントメーカー(以下「アウトサイダー」ともいう。)が指名競争入札等に参加する場合には,受注予定者は自社が受注できるようにアウトサイダーに協力を求める。

(ウ) 受注予定者は受注すべき価格を定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する。

イ 5社は,本件基本合意に基づき,次のような方法により談合を行っていた。このことは,5社の関係者の公取委審査官に対する供述調書等からも明らかである。

(ア) 5社は,地方公共団体が建設を計画している工事について,各社が把握している情報を明らかにし合い,情報交換を行って各社の認識を一致させる。

(イ) 5社は,「張り付け会議」と称する会合を開催し,情報交換によって明らかになった工事のうち受注を希望する工事を表明する。

希望者が重複しなかった工事は,その希望者を受注予定者とし,希望者が重複した工事は,希望者間で話し合い,受注予定者を決定する。

(ウ) 受注予定者の決定は,規模別(1日当たりのごみ処理能力を基準とする。以下同じ。)に,大型(400トン以上),中型(200トン以上400トン未満)及び小型(200トン未満)の3つに区分して行う(ただし,平成8年末ころより以前は,「400トン以上の全連」,「400トン未満の全連」及び「准連」に区分していた。)。

(エ) 受注予定者の決定に当たっては,各社の受注する工事のトン数の合計が均等になるようにし,各社の受注実績等を基に,あらかじめ一定の方式により算出した数値を勘案して行う。

(オ) アウトサイダーが入札に参加する場合には,受注予定者は,自社が受注できるように協力を求め,その協力を得る。時には,受注に相当協力したアウトサイダーに受注させることもあり,この場合には他の4社の了解を得る。

もとより,アウトサイダーが入札参加業者にならないよう,発注者に対し,5社のみを指名するよう働きかける。

(カ) 受注予定者は,自社の受注価格を定めるほか,他の4社の入札価格を定めて各社に連絡する。受注予定者以外の者は,受注予定者から連絡を受けた入札価格で入札し,受注予定者が定めた価格で受注できるように協力する。

ウ 被告のストーカ炉の営業担当者であるaが所持していたリスト(別紙3の「年度別受注予想」と題する表(甲査89の1枚目。以下「aリスト」という。))は,平成7年9月28日時点で,5社が既に受注予定者を決定していた工事を,会社別の一覧表にまとめたものである。

aリストには,本件工事を表す「京都市-北700」という記載があり,その横に被告を表す「K」という文字が記載されており,これは,本件工事の受注予定者として被告が決定されていたことを示すものである。

したがって,本件入札については,遅くとも上記時点までに,本件基本合意に基づく個別談合がされ,被告を本件工事の受注予定者とすることが決定されていたというべきである。

しかも,本件入札においては,入札に参加した7社のうち,被告及び荏原製作所以外の入札価格はいずれも予定価格を上回っており,予定価格をわずかに下回った被告と荏原製作所のうち,より入札価格の低い被告が落札したものであり,このような事実も,個別談合の存在を推認させる。

(被告の主張)

ア 本件基本合意について

5社間で本件基本合意が成立していたとの事実は,否認する。

本件基本合意について供述した関係者の公取委審査官に対する供述調書等には,およそ信用性がない。

また,原告らは,受注予定者を決める基本,受注対象物件の区分といった本件基本合意の核心部分である受注予定者の決定方法について,矛盾した主張をしている。

イ 個別談合について

本件入札において,本件基本合意に基づく個別談合がされ,被告を受注予定者とすることが決定されたとの事実は,否認する。

原告らは,本件入札に係る個別談合について,その主体,時期,受注予定者や受注予定価格の決定方法等の具体的内容を主張せず,請求原因事実を特定していない。

また,原告らは,個別談合について,何ら立証もしていない。原告らが,個別談合の直接証拠であると主張するaリストは,被告が独自に業界内の競争相手の動向を折り込んで受注予想を記載した社内資料にすぎない上,「京都市-北700」という記載は,本件清掃工場とは別の京都市北部クリーンセンターを表すものである。

さらに,本件入札にはアウトサイダーとして荏原製作所及びクボタが参加しているところ,原告らは,被告が,自社が受注できるように両社に対し協力要請をし,両社がこれに応じたという具体的事実について,全く主張立証せず,これを認めるに足りる証拠は一切存在しない。かえって,弁護士法23条の2第1項に基づく照会に対する荏原製作所及びクボタの回答書に照らすと,両社が被告からの協力要請を受けていなかったことは明らかである。

(4)  争点4(本件溶融設備工事請負契約を随意契約の方法により締結したことの違法性)について(主位的請求及び予備的請求に係る本案の争点)

(原告らの主張)

溶融設備は,焼却灰や飛灰を溶融炉で溶融し,これを減容化・無害化・資源化する,ごみ処理設備とは別個の設備であるから,その工事について,競争原理を排除してまで,ごみ処理設備工事を請け負った業者に行わせるのが適当であるということはできない。

したがって,本件溶融設備工事請負契約は,競争入札によらないで随意契約の方法により締結することができる場合を定めた地方自治法施行令(以下「法施行令」という。)167条の2第1項各号のいずれにも該当しないから,法234条2項に違反し,違法である。

(被告の主張)

本件溶融設備工事請負契約は,本件ごみ処理設備工事請負契約に関連して,焼却炉等の基幹部分に設備を付加する工事であり,技術的見地及び経済的見地から,随意契約の方法により締結されたものである。

このように,京都市長が本件溶融設備工事請負契約の締結について法施行令167条の2第1項2号に該当すると判断したことには合理性があり,本件溶融設備工事請負契約を随意契約の方法により締結したことは,何ら違法ではない。

なお,仮に,本件溶融設備工事請負契約を随意契約の方法により締結したことが法令に違反するとしても,これによって,当該契約が私法上当然に無効となるわけではない。

(5)  争点5(本件ごみ処理設備工事請負契約が無効であることにより,本件溶融設備工事請負契約は無効となるか否か。)について(主位的請求に係る本案の争点)

(原告らの主張)

本件ごみ処理設備工事請負契約は,公序良俗違反により無効というべきであるから,これに付随して締結された本件溶融設備工事請負契約についても,随意契約の方法により締結することが許容された基礎を失い,無効と評価されるべきである。

(被告の主張)

本件溶融設備工事請負契約は,本件ごみ処理設備工事請負契約とは別個独立の契約であり,随意契約の方法により締結されたものであるから,仮に,本件ごみ処理設備工事請負契約が公序良俗違反により無効であるとしても,これによって本件溶融設備工事請負契約が当然に無効となるわけではない。

(6)  争点6(本件各監査請求の対象と予備的請求に係る訴えの対象との同一性)について(予備的請求に係る本案前の争点)

(被告の主張)

本件各監査請求は,本件各請負契約の無効等を理由として,不当利得に基づき既に支払われた工事代金の返還,将来の支払の差止め等の措置を講ずることを求めたものであり,被告の談合という不法行為に基づく損害賠償請求権の行使ないし当該請求権の怠る事実について監査請求の対象としていたものではない。

したがって,予備的請求に係る訴えは,適法な監査請求を経ずに提起されたものであり,不適法である。

(原告らの主張)

監査請求と住民訴訟の請求との同一性については,住民の実質的な不服の内容を考慮して,請求の同一性があれば足りるものと解される。

本件各監査請求は,被告の談合という違法行為により京都市が損害を被ったことを指摘した上で,工事代金の返還,公金支出の差止め等の適切な措置を講ずることを求めたものであり,その適切な措置の一つとして,損害賠償請求をも含むものである。

したがって,本件各監査請求は,損害賠償請求を怠る事実の是正についても求めていたといえるから,本件各監査請求の対象と予備的請求に係る訴えの対象には,同一性がある。

(7)  争点7(怠る事実の違法性)について(予備的請求に係る本案前ないし本案の争点)

(被告の主張)

住民訴訟において,財産の管理を怠る事実の違法性は,適法な住民訴訟を提起するための前提となるものであり,訴訟要件であると解するべきである。

京都市長は,民法709条に基づく損害賠償請求訴訟を提起するか,公取委の審決確定後に独禁法25条に基づく損害賠償請求訴訟を提起するかについて,選択権を有するところ,公取委の審決により被告の違反行為が確定した場合には,独禁法25条に基づく損害賠償請求を検討するという方針を選択したものと解される。

そして,公取委の審決確定後は,審判事件の記録に依拠して主張立証をすることが可能であり,立証責任も大幅に軽減されることに照らすと,京都市長が審判事件の進行中にあえて民法709条に基づく損害賠償請求訴訟を提起しないという選択をしたことは,合理的裁量の範囲内にあり,違法とはいえない。

したがって,現時点において,京都市長が違法に損害賠償請求権の行使を怠る事実が存在しないことは客観的に明白であるから,予備的請求に係る訴えは不適法である。

仮に,怠る事実の違法性が,訴訟要件ではなく,実体要件であるとしても,上記のとおり,京都市長の損害賠償請求権の不行使を違法と評価することができないことは明らかであるから,具体的な損害賠償請求権の存否について判断するまでもなく,原告らの請求は棄却されるべきである。

(原告らの主張)

独禁法違反の行為によって自己の法的利益を害された者は,当該行為が民法上の不法行為に該当する限り,これに対する審決の有無にかかわらず,別途,一般の例に従って損害賠償を請求することを妨げられない。

したがって,現時点において,京都市長が損害賠償請求権を行使することは法律上当然可能であるから,これを怠る事実が存在していることは明らかである。

そして,住民訴訟の口頭弁論終結時において,不法行為の相手方に対する損害賠償請求権の存在が認められる場合には,地方公共団体が被った損害の早期回復が図られるべきであるから,長が当該請求権の行使を怠っている事実は違法と評価されるべきである。

(8)  争点8(京都市が被った損害及びその額)について(予備的請求に係る本案の争点)

(原告らの主張)

ア 被告の談合によって京都市が被った損害額を立証することは,その性質上不可能であるから,損害額については,民事訴訟法(以下「民訴法」という。)248条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて認定されるべきである。

別紙4「ストーカ炉の建設工事一覧」(以下「工事一覧表」という。)のとおり,平成6年4月1日から平成10年9月17日までの間に地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事において,中型以上の規模のもののうち,公取委の審決案において談合が認定されたもの(1番から5番まで,9番から11番まで,14番,17番,18番,21番,29番,35番,36番,38番,39番,43番,44番,49番,51番,54番,58番,60番,61番,73番,74番,76番,80番,83番から85番まで)の平均落札率(落札率とは,落札価格の予定価格に対する割合をいう。以下同じ。)は98.75%であるのに対し,談合が認定されず,かつ,明らかに談合が行われた形跡が認められない工事(41番,42番,70番)の平均落札率は66.52%であり,両者の間には32.23%もの差が生じている。

したがって,本件入札においても,談合により本件ごみ処理設備工事請負契約の落札価格は不当につり上げられたものであり,京都市は,少なくとも落札価格の30%に相当する金額について損害を被ったというべきである。

イ 前記のとおり,本件ごみ処理設備工事請負契約の価格は談合により不当につり上げられたところ,これを前提として競争原理を排除して随意契約の方法により締結された本件溶融設備工事請負契約の価格についても,同様に不当につり上げられたと推認すべきである。

ウ よって,原告らは,被告に対し,前記損害のうち,本件各請負契約の代金額の13分の3に相当する合計57億3218万6653円について,京都市に支払うよう請求する。

(被告の主張)

民訴法248条は,損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときに限って適用されるものであり,原告らは,損害額について,可能な限りの立証を要する。しかるに,原告らは,損害の発生及びその額について,主張立証を尽くしていない。

また,公正な自由競争を前提としても,予定価格に近い落札価格で落札されることはいくらでもあり得るのであって,原告らの主張のように,落札率の高低と談合の有無とを短絡的に結び付けることには合理性がない。落札率は,予定価格がどの程度の金額に設定されるかによって変動する,極めて相対的な数値というべきである。

しかも,原告らが談合が行われたとする事案と談合が行われた形跡が認められないとする事案との間に顕著な落札率の差がみられるのは,落札率の高低を基準として談合の有無が判断されているからにほかならず,明らかな循環論法である。

第3争点に対する判断

1  主位的請求について

(1)  争点1(監査請求期間の起算日)について

原告らは,本件各監査請求において,本件各請負契約は談合により締結されたものであり,無効又は取消し・解除をすべき行為である旨主張していたものであるから,本件各監査請求の対象とされた財務会計上の行為は,本件各請負契約の締結行為という支出負担行為であったものと解される。

そうすると,本件各監査請求において,監査請求期間の起算日となる法242条2項の「当該行為のあった日又は終わった日」とは,本件各請負契約の締結日をいうものと解するのが相当である。

そして,前記基礎となる事実のとおり,本件ごみ処理設備工事請負契約は平成8年12月13日に,本件溶融設備工事請負契約は平成10年9月17日に,それぞれ締結されたところ,本件各監査請求は,これらの各締結日から1年以上経過した後(第1事件原告らは平成11年12月24日,第2事件原告らは平成12年2月4日)に行われているから,いずれも監査請求期間を徒過したものというべきである。

これに対し,原告らは,契約の締結とその履行としての代金の支払とを一連の行為とみて,本件各請負契約の最後の代金支払日,あるいは少なくとも各代金支払日を監査請求期間の起算日と解するべきである旨主張する。

確かに,契約の締結といった支出負担行為と当該契約に基づく支出とは,一連の行為ではあるが,その権限が属する者や,それぞれの行為に適用される実体上,手続上の財務会計法規の内容は同一ではなく,互いに独立した財務会計上の行為というべきものであり,監査請求において,これらの行為のいずれを対象とするのかにより,監査すべき内容も異なることになる。したがって,支出負担行為及び支出については,その監査請求期間は,それぞれの行為のあった日から各別に計算すべきものというべきである(最高裁平成11年(行ヒ)第131号同14年7月16日第三小法廷判決・民集56巻6号1339頁参照)。これを実質的にみても,契約の履行としての支出について固有の違法事由を主張せず,単に契約の締結が違法であることを理由に,支出が違法であると主張した場合に,当該支出の日をもって監査請求期間の起算日と解するとすれば,契約締結行為を対象とする監査請求の期間が経過した後であっても実質的に契約内容の違法について争えることとなり,財務会計上の行為を早期に確定させ,法的安定性を図るために監査請求期間の制限を設けた法の趣旨を没却することとなり,相当ではない。

したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。

(2)  争点2(法242条2項ただし書にいう「正当な理由」の有無)について

法242条2項ただし書にいう「正当な理由」の有無は,特段の事情のない限り,地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか,また,当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである(最高裁昭和62年(行ツ)第76号同63年4月22日第二小法廷判決・裁判集民事154号57頁参照)。

これを本件についてみると,証拠(末尾に掲記した各書証)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

ア 京都市住民の一部は,本件清掃工場の建設について,その計画段階から強い関心を有しており,平成3年以降,京都市と交渉を重ね,随時建設計画に関する情報の提供を求め,平成10年には,本件清掃工場の建設工事の差止めを求める訴えを提起していた(甲2から甲4まで)。

イ 公取委は,地方公共団体が発注するストーカ炉の入札について5社が談合を繰り返している疑いがあるとして,平成10年9月17日,独禁法違反容疑により5社に対する立入検査を実施した。

朝日新聞,読売新聞,日本経済新聞等の複数の新聞は,同日又は翌18日,5社の社名を掲げて,上記事実を報道した(甲9)。

ウ 朝日新聞は,平成10年10月29日,昭和53年に5社,荏原製作所及びクボタの各担当者が会合を開催し,地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事を対象として,過去の実績に応じて各社の年間受注トン数の割合を定め,各社の受注希望を星取表にまとめるなどの受注調整をしていた旨を報道した(甲10)。

エ 読売新聞は,平成11年8月9日,朝刊第1面で,地方公共団体が発注するストーカ炉の入札をめぐる談合疑惑で,公取委が5社に対して排除勧告をすると決め,1社当たり30億円を超える課徴金が課される可能性もある旨を報道し,平成8年度から平成10年度までに5社が受注した主な焼却炉の一覧表を掲載した。この一覧表には,被告の受注物件として,本件清掃工場に該当する「京都市・東北(218億円)」という記載がされていた(甲12)。

オ 公取委は,平成11年8月13日,5社に対し本件排除勧告をし,原告らは,同月18日,本件排除勧告に係る勧告書をファクシミリで取り寄せた。

上記認定の事実によれば,原告らは,相当の注意力をもって調査すれば,遅くとも,本件工事を掲記した新聞報道がされた平成11年8月9日ころまでには,上記新聞報道等に基づき,監査請求の対象を特定し,その違法事由を監査請求書に摘示することは十分可能であったというべきである。

ところが,第1事件原告らが監査請求をしたのは同年12月24日,第2事件原告らが監査請求をしたのは平成12年2月4日であり,それぞれ平成11年8月9日から約4か月半,あるいは約6か月経過しているものであるから,原告らが,被告が本件排除勧告を応諾するか否かという推移を確認し,監査請求の準備のため慎重に事実関係を調査する必要があったという事情を勘案しても,本件各監査請求は相当な期間を徒過しているといわざるを得ない。

したがって,原告らが監査請求期間を徒過したことについて,法242条2項ただし書にいう「正当な理由」があるということはできない。

(3)  以上によれば,原告らの主位的請求に係る訴えは,適法な監査請求を経たものとはいえないから,その余の点を判断するまでもなく,不適法というべきである。

2  予備的請求について

(1)  争点6(本件各監査請求の対象と予備的請求に係る訴えの対象との同一性)について

被告は,本件各監査請求は,本件ごみ処理設備工事請負契約の無効等を理由として,不当利得に基づき工事代金として受け取った公金相当額の返還等を求めるものであるのに対し,予備的請求に係る訴えは,被告の談合という不法行為に基づき損害賠償を求めるものであるから,両者には同一性がない旨主張する。

しかしながら,住民訴訟とこれに前置されるべき監査請求とは,その対象が同一でなければならないものではあるが,両者の同一性は,必ずしも形式的な同一性を要するわけではなく,実質的な同一性があれば足りると解される。

これを本件についてみると,本件各監査請求と予備的請求に係る訴えとは,いずれも,本件入札における被告の談合の事実を指摘して,本件各請負契約の締結という財務会計上の行為を対象としているものである。また,本件各監査請求は,京都市に対し,既に支払われた工事代金の返還,支払の差止め等の是正措置を講ずることを求めているが,このような是正措置には,地方公共団体が被った損害を補填するために必要な措置を講ずべきこと,すなわち,被告に対して損害賠償を求める訴えを提起することも含まれていると解するのが相当である。

したがって,本件各監査請求の対象とされた行為と予備的請求に係る訴えの対象とされた行為とには,同一性が認められるというべきである。

(2)  争点7(怠る事実の違法性)について

独禁法違反の行為によって自己の法的利益を害された者は,当該行為が民法上の不法行為に該当する限り,これに対する審決の有無にかかわらず,別途,一般の例に従って損害賠償の請求をすることを妨げられない(最高裁昭和60年(オ)第933号・第1162号平成元年12月8日第二小法廷判決・民集43巻11号1259頁参照)。

原告らは,京都市は,被告が談合により本件ごみ処理設備工事請負契約を締結したという不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているにもかかわらず,京都市長がこれを行使しないとして,法242条の2第1項4号に基づき,被告に対し,京都市に代位して損害賠償請求訴訟を提起したものであるところ,京都市長が現に被告に対してかかる損害賠償請求権を行使していないことは,当裁判所に顕著である。

ところで,地方公共団体の債権については,その長がこれを行使すべき義務を負い,行使するか否かについての裁量の余地はほとんどないものと解される(法施行令171条以下。なお,法96条1項10号参照)。したがって,長が,法施行令171条の5に定める場合でないのに,相当期間債権を行使しないときは,それを正当とする特段の事情のない限り,違法というべきである。

この点,被告は,京都市長が公取委の審決が確定するまで上記損害賠償請求権を行使しないことには合理性がある旨主張する。

しかしながら,公取委の審判手続において,被告を含む5社が談合の事実を全面的に否認して争っている状況にかんがみると,審決が確定するまでには,審決取消訴訟の帰すう等を含め,なお長期間を要することが想定される。しかるに,その間,京都市長が上記損害賠償請求権を行使しないでいるとすれば,地方公共団体の被った損害の回復が図られない状態が長期間継続し,法242条の2第1項4号に基づく損害賠償代位請求訴訟の目的に沿わないばかりか,将来,被告から,上記損害賠償請求権の消滅時効が援用されるなどして,債権の行使に支障が生じる危険性も生じかねず,上記損害賠償請求権を行使しないことを正当とする特段の事情に当たるとはいえない(なお,独禁法25条の規定に基づく損害賠償請求が将来可能になるとしても,そのことが,現に発生している不法行為に基づく損害賠償請求権を現に行使しないことを正当化する理由とはならない。)。

そして,本件において,かかる損害賠償請求権が発生していることは,後記認定判断のとおりであるから,怠る事実の違法性が訴訟要件であるか実体要件であるかを問わず,いずれにせよ,被告の主張は失当である。

(3)  争点3(本件入札における談合の有無)について

ア 証拠(甲査29,甲査31,甲査149,甲査160)及び弁論の全趣旨によれば,ストーカ炉の建設工事市場における5社の地位について,以下の事実が認められる。

(ア) ストーカ炉の建設工事のプラントメーカーとしては,5社のほかに,荏原製作所,クボタ,住友重機械工業株式会社(以下「住重」という。),ユニチカ株式会社(以下「ユニチカ」という。),石川島播磨重工業株式会社(以下「石川島播磨重工」という。),株式会社川崎技研,三機工業株式会社等が存在している。

これらのプラントメーカーの中でも,5社は,ストーカ炉の建設工事について,施工実績の多さ,施工経歴の長さ,施工技術の高さ等から,「大手5社」と称されている。

(イ) 平成3年度から平成7年度(平成7年9月11日現在)までの5年間に,ストーカ炉(100トン以上)の建設工事について,発注者である地方公共団体から指名を受けた実績をみると,5年間の全体指名率は,三菱重工業は95.4%,タクマは87.4%,日本鋼管は86.0%,被告は85.9%,日立造船は85.0%であり,一方,荏原製作所は24.1%,クボタは17.2%,石川島播磨重工は4.7%,ユニチカは4.0%にとどまり,5社とそれ以外のプラントメーカーとの間には大きな格差が存在していた。

(ウ) 平成4年度から平成9年度までの間に,5社を含むプラントメーカーがストーカ炉の建設工事を受注した実績をみると,日立造船は6739トン(シェア15.0%),タクマは6520トン(同14.5%),三菱重工業は5315トン(同11.9%),日本鋼管は5297トン(同11.8%),被告は3977トン(同8.9%)であり,一方,荏原製作所は1729トン(同3.9%),クボタは1620トン(同3.6%),住重は1324トン(同3.0%),ユニチカは457トン(同1.0%)にとどまっていた。

また,平成6年4月1日から平成10年9月17日までの間に,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事の件数は87件であり(その発注者,全連・准連の別,処理能力,落札業者等の詳細は,工事一覧表のとおり。),発注トン数(トン数は,1日当たりのごみ処理能力を示す。以下同じ。)は2万3529トン,発注金額は約1兆1031億円である。そのうち,5社のいずれかが受注した件数は66件であり,受注トン数は,発注トン数の約87.3%に相当する2万0534トン,受注金額(落札金額による。以下同じ。)は,発注金額の約87%に相当する約9601億円に及んでいた。

このように,ストーカ炉の建設工事の受注実績においても,5社とそれ以外のプラントメーカーとの間には,大きな格差が存在していた。

イ 本件入札について談合が存在したことを推認させる事実又は証拠として,次のようなものがある(なお,固有名詞については,甲査190に基づき適宜補充している。)。

(ア) 5社の会合の開催

証拠(甲査33,甲査46,甲査104,甲査105,甲査139)によれば,5社は,持ち回りで会合を開催していたこと,この会合には,三菱重工業から本社機械事業本部環境装置第一部環境装置一課長b,日立造船から環境・プラント事業本部環境東京営業部長c,日本鋼管から環境第一営業部第一営業室長d,タクマから環境プラント統轄本部東京環境プラント部第二課長e,被告から本社機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部環境装置第一営業部長f(平成8年4月以前はg)が出席していたこと,これらの者は,5社各社の本社のごみ焼却施設の営業担当部門の課長ないし部長待遇の者であり,ストーカ炉の建設工事の選定過程や入札価格の決定過程に関与し得る立場にあったことが認められる。

(イ) 関係者の供述

5社がストーカ炉の発注予定物件について受注予定者を決定する行為をしていたことについて,5社の関係者は,以下のとおり供述している。

a 三菱重工業のbの供述

(a) bは,昭和61年10月から,三菱重工業本社の機械事業本部環境装置第一部環境装置一課に所属し,平成6年4月,同課主務(課長待遇)に,平成8年4月,同課課長に就任し,ごみ処理プラントの官公庁部門の営業の実質的な責任者として,受注物件,販売価格等を決定していた(甲査28)。

bの公取委審査官に対する平成10年9月17日付けの各供述調書(甲査28,甲査46)には,おおむね次のような供述部分がある。

「bは,平成6年4月以降,5社の会合に出席するようになった。会合の出席者は,どのような発注予定物件があるかについて,共通の認識を有しており,各出席者が,発注予定物件について受注希望を出して「チャンピオン」と呼ばれる受注予定者を決定する。受注希望者が1社の場合には,当該会社が受注予定者となり,受注希望者が2社以上の場合には,希望者同士が話し合って受注予定者を決定する。発注予定物件は,規模別に,400トン以上の大型,200トン以上の中型及び200トン未満の小型の3つに区分し,それぞれに分けて受注希望を確認している。受注予定者の決定は,各社が平等に受注することを基本とし,各社の受注物件の処理能力の合計が平等になるようにしている。受注予定者は,指名を受けた物件について積算し,5社を含む各相指名業者に入札の際に書き入れる相手方の金額を電話等で連絡して協力を求めている。5社以外の会社が一緒に指名を受けた場合には,受注予定者が個別に当該会社に協力を求め,受注予定者が受注できるようにしている。」

(b) bの供述の信用性

bの上記各供述調書には,5社の会合で受注予定者を決定する方法について,ストーカ炉を規模別に3つに区分し,それぞれについて受注希望物件を確認して受注予定者を決めるなど,具体的であり,実際に会合に出席した者でなければ知り得ない事実が含まれていたことにかんがみると,相当程度の信用性が認められるというべきである。

これに対し,被告は,bの上記各供述調書は,個別具体的な事実関係が述べられておらず,抽象的かつ曖昧な内容である上,客観的事実と明白に異なる記載も多く,更に,b自身,その内容が誤りであると述べているのであるから,およそ信用性がない旨主張する。そして,被告は,①bが環境装置一課長に就任したのは平成8年4月であり,b自身の課長就任時期や職務上の権限に関する記載が客観的事実に反している,②上記各供述調書は,公取委が三菱重工業への立入検査を実施した当日に作成されたものであり,混乱に乗じ,審査官の誤った先入観と予断によって誘導して作成された疑いがある,③上記各供述調書は,bに閲読をさせずに作成されたものであり,bが供述内容を冷静に確認した上で署名指印をしたとはいえず,bの供述内容を正確に記載したものではない,④bの公取委審査官に対する審訊調書(甲査176,甲査189)には,談合の存在を明確に否定しているものがある,などと指摘するので,これらの点について検討する。

①の点については,bは,環境装置一課長に就任する以前である平成6年4月から,同課主務として,実質的には課長と同等の決裁権限を有していたものであるし,bの職務上の権限等に関しても,客観的事実に反する供述がされているとは認められない。

②の点については,上記各供述調書は,公取委が三菱重工業への立入検査を実施した当日に作成されたことからすると,最も記憶が鮮明で,かつ,他の者に相談したり,他の者から示唆又は指示を受けることのない状況で供述されたものと解することができる。しかも,審査官が,立入調査によって収集した証拠を整理・検討するいとまのない時点で事情聴取をしたのであるから,誘導がされた可能性は低いといえ,当日の事情聴取の経緯,内容等に関するbの審訊調書(甲査165から甲査173まで,甲査182から甲査189まで)に照らしても,審査官が,不当にbの意思を抑圧したり誘導したりしたことをうかがわせる事情は認められない。

③の点については,上記各供述調書は,bが,審査官から内容について読み聞かせをされた後,誤りのない旨を申し立てて自ら署名指印をしたものであるから,bに閲読をさせなかったことをもって直ちに,その信用性が低下するとはいえない。また,上記各供述調書の内容は,日本鋼管のdが所持していた,bと審査官とのやり取りを記載したと推認されるメモ(甲査36,甲査80。これらをdが所持していたことについては甲査140)の内容ともおおむね一致していることからすると,bは,自己が供述した内容について十分認識していたものとみることができる。

④の点については,上記のとおり,上記各供述調書には,実際に会合に出席した者でなければ知り得ない具体的事実が含まれていたのに対し,bが,審査官に対して供述した内容を上司や弁護士に報告した後になってから,談合の事実を否認するに転じたという経緯は,むしろ不自然であるというべきである。

以上によれば,被告の主張によっても,bの上記各供述調書の信用性を左右するには足りない。

b 日本鋼管のhの供述

(a) hは,平成8年7月から,日本鋼管大阪支社の機械プラント部環境プラント営業室長を務めていた。

hの公取委審査官に対する平成10年9月18日付けの供述調書(甲査44)には,おおむね次のような供述部分がある。

「大阪支社では,官公庁が発注するごみ処理プラントの見積価格や入札価格については,すべて本社の環境プラント営業部第二営業部第一営業室から指示された価格で対応している。hは,平成8年の秋から冬にかけて,本社環境プラント営業部第二営業部長のi,同部第一営業室長のj及び同室係長のkから,飲食店で酒を飲みながら,ごみ処理プラント施設についてメーカー間で行われている受注調整の話を聞いた。その内容は,「5社のみで指名競争入札が行われる場合には,5社のルールによって,あらかじめ物件ごとにチャンピオンが決められる。5社の担当者が集まる張り付け会議と呼ばれる会議を年1回開催し,5社が情報を有しているストーカ炉の物件について,5社が平等に分け与える形でチャンピオンを決めている。受注希望を出したのが1社の場合には,そのメーカーがチャンピオンになり,複数のメーカーの場合には,そのメーカー間でその場でチャンピオンを決める。ストーカ炉は,規模ごとに,400トン以上の大規模物件,100トン以上400トン未満の中規模物件,100トン未満の小型物件(准連)に分けて,物件ごとにチャンピオンを決める。」というものであった。」

また,hが,部下を指導するために,上記会話の内容をまとめて作成したというメモ(甲査35)が存在し,これには,同様の内容が記載され,受注予定者を決める基本として,「比率は5社イーブン(20%)」,「20%のシェアを維持する方法は受注トン数/指名件数」との記載もされている。

(b) hの供述の信用性

被告は,h及びiは,いずれも受注調整に関わる行為を直接体験した者ではないから,hの供述は再伝聞にすぎず,信用性がない旨主張する。

しかしながら,iは,5社の会合の出席者ではないものの,当時日本鋼管本社の環境プラント営業部第二営業部長の立場にあり,主として西日本地区における営業活動を管理していた者であり,日本鋼管が「賀茂広域行政組合」工事について他の入札参加業者4社の1回目から4回目までの入札価格等を算出した資料(甲査124)を所持していたことからしても,受注調整に関わる行為を直接体験していたということができる。

また,hも,日本鋼管大阪支社において,近畿一円の官公庁が発注するごみ処理プラントの受注業務等の責任者であった者であり,職務の性質上,かねてから各社の受注状況等に関心を持ち,業務上の知識も有していたことを勘案すると,hがi等から聞き取った内容には,相当程度の信用性を認めることができるというべきである。

c 三菱重工業のlの供述

lは,平成8年3月,三菱重工業中国支社の機械一課に配属され,同年4月から同課課長を務め,官公庁向けのごみ焼却施設等の営業を担当していた。

lの公取委審査官に対する平成10年9月18日付け(甲査42),平成11年7月26日付け(甲査43,甲査49)及び同月27日付け(甲査102)の各供述調書には,おおむね次のような供述部分がある。

「lは,前任者のmから引継ぎを受けた際,ごみ処理施設の受注については,5社が,受注機会均等を図るため,受注予定者を決め,受注予定者が受注できるように仲良く話し合っている,実際の入札での受注予定者を決める話合いは,各社の本社レベルで行われていると聞いた。現在,受注調整が行われなくなったとは聞いていない。」

また,lがmから引き継いだ内容を記載したというメモ(甲査40)が存在し,これには,「5社 機会均等」,「全連24H/DAY:東京仲 准連18H/DAY:東京仲 機バ8H/DAY:」など,上記の供述内容に沿う記載がされている。

d 三菱重工業のnの供述

nは,平成元年4月,三菱重工業中国支社の化学環境装置課(後に機械一課に名称変更)に配属され,官公庁向けのごみ焼却施設等の営業を担当していた。

nの公取委審査官に対する平成11年2月4日付け(甲査47)及び同月5日付け(甲査108)の各供述調書には,おおむね次のような供述部分がある。

「nは,化学環境装置課に配属された際,前任者のoから,「業界(機種別)の概況について」という書き出しの文書を引き継ぎ,ストーカ炉の受注については5社間に受注調整のための協定が存在し,5社が受注機会を均等化していると聞いた。oがごみ処理施設の営業を担当するようになってからも,受注調整行為は行われている。受注調整行為は,本社レベルで行われており,課長クラスの者が対応していると思う。」

そして,nがoから引き継いだという上記文書(甲査37)には,ストーカ炉について,「※全連:大手5社協有.受注機会均等化(山積)・・・極力5社のメンバーセットが必要(他社介入の時は条件交渉を伴う)」という,上記の供述内容に沿う記載がされている。

e タクマのpの供述

pは,平成10年6月から,タクマの環境プラント本部取締役本部長を務め,ごみ焼却炉の営業責任者であった。

pの公取委審査官に対する平成10年9月17日付けの供述調書(甲査45)には,「pは,タクマの環境プラント本部営業部長から,受注獲得のための営業方針として,「何としても当社が受注したい物件については,当社が他社との間で話合いを行い,当社の入札価格よりも高い価格で他社が入札することについて応じてもらい,他社の協力を得て受注する。他方,他社がどうしても受注したいという物件については当社が協力する。」という話を聞いた。」旨の供述部分がある。

f 小括

以上のとおり,上記各営業担当者は,いずれも,ストーカ炉の受注について5社の本社レベルで受注調整行為が行われている旨供述し,これを裏付けるメモも存在している。

なお,被告は,bとhとの供述内容は,受注予定者を決める基本,受注対象物件の区分等について相違し,矛盾している旨主張するが,これらの相違に大差があるとはいえず,明白に矛盾しているともいえない。むしろ,これらの供述は,5社の会合で,5社が平等になるように受注予定者を決定しているという本件基本合意の基本的部分については一致しているものであり,相互に信用性を補完しているというべきである。

(ウ) 地方公共団体が計画しているストーカ炉の建設工事に関する情報のリスト

a 5社は,以下のとおり,地方公共団体が計画しているストーカ炉の建設工事を記載したリストを所持していたことが認められる(甲査140)。

(a) 日本鋼管は,工事を「全連400トン以上」,「全連200トン以上400トン未満」及び「全連200トン未満」に区分して記載した各リスト(甲査57から甲査62まで,甲査69)を所持しており,このうち,甲査57から甲査60まで及び甲査62は,5社の会合の出席者であるdが作成したものである。

甲査58の「全連(400t以上)」というリストの下部には,「1/20 対象物件見直し 400t以下」,「1/30 張付け」と記載されている。

また,甲査60の「全連(400t以上)」というリストの上部には,「9/11大・中・小 対象物件確定」,「全連小型(200T未満)9/29 2~3件」,「大型10/16 1件」,「中型10/29 2件?」と,甲査62の表紙には,「全連 200t未満 3件 9/29(月)」,「〃 200t以上~400t未満 2件 10/29(水)」,「〃 400t以上 1件 10/16(木)」と,それぞれ記載されている。

(b) 被告は,甲査64,甲査65,甲査89(aリスト。ただし,この内容については,後記(エ)のとおり),甲査153及び甲査155の各リストを所持していた。

(c) 三菱重工業は,甲査66及び甲査67の各リストを所持しており,これらは5社の会合の出席者であるbが作成したものである。

甲査66には,「大型確定」と,甲査67には,「1順目は自由 12/9」,「2順目は自由」,「3順目は200T/日未満」,「□印8件は別扱い」,「バッティングしたら12/18までに結着」と,それぞれ記載されている。なお,日本鋼管が所持していた甲査76にも,「①200t/日以上 ②200t/日未満 12/9 2件 ①②双方から さらに1件 ②から 合計3件」という,12月9日に会合が開催されたことをうかがわせる記載がされている。

なお,三菱重工業の本社環境装置一課主務qが所持していたノート(甲査68)には,「9/14 13:30~」として「小 リストアップ」,「9/30 15:00~」として「大 調査」という記載があり,更に,「10」(10月と推認される。)の欄には,「小 対象案件確定 張付け数 何件?」,「大 決」という記載がされている。

(d) 日立造船は,甲査54から甲査56までの各リストを所持していた。

甲査55のリストは,環境事業本部東京営業部から,平成10年1月27日,ファクシミリで送信されたものであり,その送信書には,「中型の対象物件 送付します 1/30 ハリツケする予定です」と記載され,リストに記載された工事には加除訂正がされていた。この送信書の記載は,前記(a)で掲記した甲査58の「1/30 張付け」という記載と一致しており,平成10年1月30日に,いわゆる張り付け会議が開催されたことが推認される。

b 以上の各社が所持していた各リストの記載内容は,別紙5「日立造船,日本鋼管,川崎重工業,三菱重工業のリストの工事の記載状況一覧」(同表における査号証の番号は,いずれも甲査号証の番号に読み替える。以下同じ。)のとおりであるところ,同じころに作成されたものと解されるリストについては工事名の多くが一致していること,ほぼ同時期に,記載されなくなったり,いったん記載されていたのに抹消された工事があること,それらの工事の多くは,その後に作成されたリストには記載されていないことが認められる。また,上記各リストには,いわゆる張り付け会議や受注調整行為が存在したことをうかがわせる記載もあることが認められる。

そうすると,上記各リストは,今後受注予定者を決定しようとしている工事に関する情報を掲載しているものと解するのが自然であり,5社は,地方公共団体が計画しているストーカ炉の建設工事の情報を交換し,情報の共通化を図ろうとしていたものと推認することができる。

(エ) aリストの存在

a aリストの内容

aリスト(別紙3)は,被告の本社機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部西部営業部参事であるaが所持していたものである(甲査140)。

aリストは,その上部欄外の「H7.09.28」との記載からすると,平成7年9月28日ころに作成されたものと認めることができる。

aリストは,別紙3のとおり,「年度別受注予想」と題して,縦欄を,平成8年度,平成9年度,平成10年度,平成11年度,平成12年度以降という各年度に区分し,横欄を,「K」(被告),「M」(三菱重工業),「H」(日立造船),「N」(日本鋼管),「T」(タクマ)という5社の名称の頭文字と解される文字を記載し,それぞれを「-S」,「-F」に区分して,合計79件の工事を記載しているものであるが,この記載内容について検討する。

まず,S欄に記載された工事と工事一覧表に記載された工事とを対比すると,平成8年度から平成10年度までに発注されたストーカ炉の建設工事合計22件のうち,以下の工事が記載されていることが認められる(括弧内の番号は,工事一覧表記載の工事番号を示す。以下同じ。)。

(a) 平成8年度に発注された建設工事15件のうち12件(平成8年度の欄に45番・46番・49番から55番まで・58番,平成10年度の欄に56番,平成11年度の欄に59番が,それぞれ記載されている。)

(b) 平成9年度に発注された建設工事21件のうち9件(平成8年度の欄に76番・77番,平成9年度の欄に60番・61番・74番・79番・80番,平成10年度の欄に71番,平成11年度の欄に62番が,それぞれ記載されている。)

(c) 平成10年度に発注された建設工事7件のうち1件(平成9年度の欄に85番が記載されている。)

したがって,S欄に記載された工事は,平成7年9月28日ころの時点で,ストーカ炉の建設工事として発注が見込まれる工事を記載したものと推認することができる。

次に,S欄に記載された上記22件の工事について,工事一覧表に記載された落札状況と比較すると,そのうち3件(46番・52番・71番)をクボタが落札した以外は,5社のいずれかが落札していること,残りの19件については,80番(日立造船ではなくタクマが落札)を除いた18件につき,5社のうちaリストで当該工事名が記載された者が実際に落札していることが認められる。

b aリストの性質

以上のとおり,aリストの記載内容は,22件の工事のうち18件について,実際に落札した業者と同表で当該工事名が記載された者とが一致しているものであるが,各工事ごとに,技術力,営業力,過去の受注実績が伯仲している5社の中から1社を受注業者として予測し,これを上記のような高い精度で的中させるということが可能であるとは考え難い。しかも,22件の工事の中には,59番及び62番のように,発注時期を4年先の平成11年度と見込んでいながら,受注業者を正確に記載しているものも含まれている。

さらに,別紙5「日立造船,日本鋼管,川崎重工業,三菱重工業のリストの工事の記載状況一覧」記載のとおり,aリストが作成された平成7年9月28日ころ以降から平成10年9月ころまでにかけて,5社が作成した前記(ウ)掲記の各リストには,aリストに記載された79件の工事が,未発注の工事でありながら1件も記載されていない。この点,79件の工事の中には,例えば「東京-台船」工事のように,中止を含めて計画の見直しがされたものもあり(甲査81),発注の見通しは平成7年9月当時と必ずしも同じ状況とはいえないにもかかわらず,aリストの作成後に作成された5社のリストには一切記載がされていないということは,通常では想定し難い。しかも,79件の工事の中には,例えば,54番(福岡市・900トン),58番(京都市・700トン),60番(札幌市・900トン),61番(名古屋市・600トン)等のように,政令指定都市,県庁所在地等の地方公共団体が計画する工事であって,処理能力が600トン以上という大型工事も少なからず含まれているものであり,これらの情報について5社のいずれも入手していなかったというのは不自然というほかない。

これらにかんがみると,aリストには,もはや受注希望表明の対象でなくなった工事,すなわち既に受注予定者を決定した工事が記載されたものと推認するのが相当である。

以上によれば,aリストは,平成7年9月28日ころの時点で,平成8年度以降の各年度ごとに,ストーカ炉の建設工事として発注が見込まれる工事について,5社が既に受注予定者を決定した工事を会社別に一覧表に記載したものと認めることができる。

c これに対し,被告は,aリストは,実際の受注状況と対比すると,工事の処理能力,受注年度,受注業者等に多くの相違がある上,「大阪-舞洲」,「大阪-平野」及び「大阪-東淀」の各工事という,特命随意契約が締結されることが見込まれ,受注調整が不可能な工事も記載されていることなどに照らし,被告が独自に業界内の競争相手の動向を折り込んで受注予想を記載した社内資料にすぎない旨主張する。

確かに,工事一覧表と対比すると,aリストに記載された工事のうち,M-S欄の「久居」工事(52番),N-S欄の「日南市」工事(46番)及び「函南」工事(71番)並びにT-S欄の「東京-中央」工事(80番)については,割り振られた会社とは異なる会社が受注していることが認められる。

しかしながら,それ以外の工事については,同表に記載された者と実際の落札業者とが一致していること,落札業者が一致していない上記4件の工事のうち,「日南市」工事,「久居」工事及び「函南」工事は,5社以外のクボタが落札したものであることが認められ,5社についてみれば,ほぼaリストで割り振られた会社が実際に落札しており,同業他社による受注予想をこれほど高い精度で的中させるということは,通常では想定し難い。

また,証拠(甲査141,丙19,丙20)及び弁論の全趣旨によれば,「舞洲工場」の工事については,日立造船が,大阪市から,平成6年12月8日,見積書等の提出依頼を受け,見積書等を提出していたところ,平成7年8月31日付けで実施設計を依頼され,平成9年3月28日,特命随意契約の方法により請負契約を締結したこと,「平野工場」の工事については,平成7年12月11日,大阪市が公募し,平成11年2月8日,日本鋼管が特命随意契約の方法により請負契約を締結したことが認められ,「大阪-東淀」工事についても,同様に特命随意契約により発注される予想がされていたことが推認されるが,上記3件の工事については,大阪市が技術提案審査方式を採ることが判明する以前に,5社間で落札予定者が割り振られていた可能性もないわけではなく,上記事実をもって直ちに,aリストに記載された他の工事についてまで,決定された受注予定者を記載していたとの前記認定を左右するには足りない。

さらに,仮に,aリストが被告の受注予想を記載したものにすぎないとすれば,荏原製作所,クボタ等の5社に次ぐ受注実績を有するプラントメーカー等について一切記載がされていないということも不自然である。

したがって,aリストは被告の受注予想を記載した社内資料にすぎないとする被告の主張は,採用することができない。

(オ) 5社による入札状況の把握

5社は,ストーカ炉の建設工事の入札状況について,以下のとおり,数値化して把握していたことが認められる。

a 甲査106の3枚目のメモは,三菱重工業のqが所持していたものであるところ,これには,5社並びに荏原製作所及びクボタ(以下,これらを合わせて「7社」という。)の略称と解される記号及びそれぞれに対応する分数値が記載されている。

上記メモには,「5/25西村山100/100」,「6/2米子270/270」,「津島330/330」といった記載があり,これを工事一覧表と対比すると,81番の「西村山広域行政事務組合」(平成10年5月25日に日立造船が落札。処理能力100トン),83番の「米子市」工事(同年6月2日に日本鋼管が落札。処理能力270トン)及び84番の「津島市ほか11町村衛生組合」工事(同年6月10日に三菱重工業が落札。処理能力330トン)とそれぞれ一致することが認められる。

そして,分母の数値には,これらの各工事の処理能力(合計700トン)が加算され,落札業者に相当するN(日本鋼管),H(日立造船)及びM(三菱重工業)の分子の数値には,当該各落札工事の処理能力に相当するトン数が加算されていることが認められる。

このような記載にかんがみると,上記メモは,7社の入札状況を数値化して把握していたものと推認することができる。

b 甲査107の1枚目のメモは,被告のaが所持していたものであるところ(甲査140),これには,「H07.11.30現在(H8/2調整済)」という記載がされている。

上記メモには,7社の略称と解されるK(被告),M(三菱重工業),H(日立造船),N(日本鋼管),T(タクマ),E(荏原製作所)及びQ(クボタ)という記載ごとに,平成6年3月31日まで,平成7年3月31日まで,同年8月27日(前回)まで,同年11月30日(今回)までに分けて,A,B及びQ(BをAで除したもの)という各数値が記載されている。

上記メモのT欄の同年8月27日から同年11月30日までの間には,「11.30東金 210/210-5E」という記載があり,これを工事一覧表と対比すると,44番の「東金市外三町清掃組合」工事(同年11月30日に5社及び荏原製作所が指名を受け,タクマが落札。処理能力210トン)と一致することが認められる。

そして,T(タクマ)のBの数値をみると,前回の数値に,当該落札工事の処理能力トン数に相当する数値が加算されたものが,今回の数値とされていることが認められる。

このような記載にかんがみると,上記メモは,同年11月30日ころまでの7社の入札状況を数値化して把握していたものと推認することができる。

(カ) まとめ

以上を総合すると,5社間には,遅くとも平成7年9月28日までに,本件基本合意が成立していたものと認めるのが相当であり,これを左右するに足りる証拠はない。

ウ 本件入札における談合の存在

以上のとおり,5社間には,遅くとも平成7年9月28日までに,本件基本合意が成立していたものであるとすると,平成8年11月18日に実施された本件入札についても,本件基本合意に基づいて,受注予定者の決定が行われたものと推認するのが相当である。

現に,本件入札における談合の存在を推認させる証拠等として,次のようなものがある。

(ア) 前記イ(エ)認定のとおり,aリストは,5社が既に受注予定者を決定したストーカ炉の建設工事を,会社別に一覧表にまとめたものと認められるところ,平成8年度のK-S欄には「京都市-北700」という記載がされている。この記載は,5社間で本件工事の受注予定者として被告が決定されていたことを示しているものと認めるのが相当である。

これに対し,被告は,「京都市-北」とは,本件清掃工場ではなく,京都市北部クリーンセンターを表すものであると主張する。

しかしながら,弁論の全趣旨によれば,本件清掃工場は,処理能力が,当初の計画では900トンであったのが700トンに変更されたものであるところ,aリストに記載された処理能力とみられる「700」と一致しており,他方,京都市北部クリーンセンターは,処理能力が200トン×2=400トンのものであって,aリストの記載とは明らかに処理能力が異なるものである。しかも,弁論の全趣旨によれば,京都市が京都市北部クリーンセンターの建替え整備事業に係る環境影響評価準備書の概要を発表したのは平成12年6月,その発注・落札がされたのは平成13年であり,aリストが作成された平成7年9月の時点で,京都市による発注を推測し,当該受注予定を平成8年の計画として記載したと認めるのは不自然である。

したがって,上記記載は,本件工事に関するものというべきである。

(イ) 本件入札における入札の状況

本件入札に参加した7社の入札価格は,以下のとおりであり,被告及び荏原製作所以外の入札価格は,いずれも予定価格である222億8571万5000円を上回っていた(甲査29,弁論の全趣旨)。

そして,被告の落札率は,97.82%という著しく高い割合に達していた。

被告  218億円

荏原製作所  220億円

日立造船  225億円

日本鋼管  225億8000円

タクマ  229億7000円

三菱重工業  231億円

クボタ  233億5000万円

エ 被告の主張に対する検討

(ア) 被告は,原告らは,個別談合の内容や受注との因果関係について主張立証をすべきであるのに,何ら主張立証がされていない旨主張する。

しかしながら,一般に,談合は秘密裡に行われるものであり,原告らに,受注予定者を決定するための個別の協議について,その日時,場所,参加した担当者の氏名等の主張立証を求めるのは,著しい困難を強いるものであり,相当とはいえない。

本件入札については,前記判示のとおり,談合についての本件基本合意が認められるのみならず,aリストの記載によれば,本件工事について受注調整が行われたことが推認できるところ,これを左右するに足りる特別の事情はうかがわれないのであるから,談合の存在を認めるのが相当である。

(イ) 被告は,本件入札には,5社以外の荏原製作所及びクボタがアウトサイダーとして参加しているのに,被告がこれらに対して協力要請をしたという具体的事実が主張立証されていない旨主張し,荏原製作所及びクボタが弁護士法23条の2第1項に基づく照会に対して5社からの協力要請等を否定した回答書(丙14,丙15)を提出する。

しかしながら,前記イ(イ)aのとおり,三菱重工業のbは,「5社以外の会社が一緒に指名を受けた場合には,受注予定者が個別に当該会社に協力を求めて,受注予定者が受注できるようにしている。」旨供述しているほか,日本鋼管のhも,i等から,「5社に荏原及びクボタが加わって指名競争入札が行われる場合には,当社がチャンピオンになっている物件についても,これら2社と話合いを行う。7社に住重及びユニチカが加わった9社で指名競争入札が行われる場合には,当社がチャンピオンとなっている物件についても住重及びユニチカと話合いを行う。」との話を聞いた旨供述しており(甲査44),hが作成したメモにも「ストーカ炉は,大手5社が中核メンバーで,荏原とクボタは準メンバー。但し,住重,ユニチカ等は話合いの余地はある。」旨の記載がされている(甲査35)。

これに加えて,前記イ(オ)のとおり,三菱重工業のqや被告のaが,7社の入札状況を指数化して把握していたことが認められること,5社以外の者が落札した工事の平均落札率に比べて,5社のいずれかが落札した工事の平均落札率の方が高いこと,前記ウ(イ)認定のとおり,本件入札において,クボタの入札価格は予定価格を上回り,荏原製作所の入札価格は予定価格をわずかに下回っていたものであり,被告の落札率は97.82%という著しく高い割合であったこと等を総合考慮すると,少なくとも本件入札においては,被告は,荏原製作所及びクボタに自社が受注できるよう協力を求めていたものと推認するのが相当であり,上記回答書の内容や被告による協力要請の具体的態様が明らかではないことをもって,上記推認を左右するには足りないというべきである。

オ まとめ

以上を総合すれば,被告は,本件基本合意に基づき,本件入札において,他の入札参加業者と談合をして受注予定者となり,競争原理が働かないような状況で本件工事を不正に落札したことが認められ,これは不法行為を構成するというべきである。

(4)  争点4(本件溶融設備工事請負契約を随意契約の方法により締結したことの違法性)について

地方公共団体が締結する請負契約は,一般競争入札,指名競争入札,随意契約又はせり売りの方法によるものであり(法234条1項),指名競争入札,随意契約又はせり売りは,政令に定める場合に該当するときに限り,これによることができる(同条2項)。この規定を受けて,法施行令167条の2第1項各号は,随意契約によることができる場合を定めている。

そのうち,法施行令167条の2第1項2号の「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」に該当するかどうかは,契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている法及び法施行令の趣旨を勘案し,個々具体的な契約ごとに,当該契約の種類,内容,性質,目的等諸般の事情を考慮して当該地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解される(最高裁昭和57年(行ツ)第74号同62年3月20日第二小法廷判決・民集41巻2号189頁参照)。

そこで,以上の観点から本件溶融設備工事請負契約の締結について検討すると,弁論の全趣旨によれば,本件溶融設備工事請負契約は,本件ごみ処理設備工事請負契約の関連工事として,焼却炉等の基幹部分に設備を付加することを内容とするものであるから,技術的見地及び経済的見地に照らし,契約の相手方として,本件ごみ処理設備工事請負契約の相手方である被告を選定することには,首肯するに足りる理由があるということができる。

したがって,本件溶融設備工事請負契約をもって法施行令167条の2第1項2号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当すると判断したことに合理性を欠く点があるということはできず,本件溶融設備工事請負契約を随意契約の方法により締結したことに違法はないというべきである。

したがって,本件溶融設備工事請負契約の違法を前提とする原告らの予備的請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。

(5)  争点8(京都市の損害及びその額)について

ア 前記(3)で認定したとおり,本件入札において,被告を含む入札参加業者は,違法に談合を行い,あらかじめ被告を受注予定者に決定し,被告が本件工事を落札できるように互いの入札価格を調整したものである。

このような状況においては,被告は,他の入札参加業者との競争関係を何ら考慮することなく,専らその利益を最大にするため,予定価格に極めて近接する金額で入札することが可能となり,実際に,被告の落札率は97.82%という著しく高い割合であったことが認められるから,このような談合が行われず,入札参加業者間の自由競争によって落札業者が決定されていた場合と比較すると,本件入札における落札価額は不当につり上げられたものと認められる。

そうすると,京都市は,被告による違法な談合によって,本件入札について,談合が行われず,入札参加業者間の自由競争によって落札業者が決定されていた場合に形成されたであろう落札価格(以下「想定落札価格」という。)を前提とした契約金額と,実際の契約金額との差額分について,損害を被ったというべきである。

イ もっとも,想定落札価格なるものは,現実には存在しなかった価格であるから,具体的にこれを認定することは不可能である。しかも,落札価格は,入札当時の経済情勢,当該工事の種類・規模,競争者数,地域性等の多種多様な要因が複雑に絡み合って形成されるものであり,談合が価格形成に及ぼした影響を明らかにすることは困難であるといわざるを得ない。これらの事情にかんがみると,京都市が被った損害については,その性質上,金額の算定が極めて困難であるというべきであるから,民訴法248条を適用して認定するのが相当である。

そして,上記のように不確定要素の多い中で賠償金額を算定するに当たっては,入札参加業者は,予定価格を超えた入札価格では落札することができないので,予定価格を手堅くやや低めに予測するのが通常であること,想定落札価格は予定価格より低額とはなるが,損害額の算定が困難な中で被告に賠償責任を負わせる以上,控えめな認定をするのが相当であること,賠償額は社会通念上相当と考えられる額とすべきであること等の諸般の事情を考慮する必要があるものと解される。

以上のような諸般の事情に加えて,前記(3)で認定した5社による一連の談合行為の態様,本件工事の種類,規模,予定価格及び本件ごみ処理設備工事請負契約の契約金額,5社以外が入札に参加したストーカ炉の建設工事における落札価格の予定価格に占める割合(41番のように48.78%という低い割合がある一方,66番のように100%に達しているものもある。),その他本件に表れた一切の事情を総合考慮すると,被告の談合により京都市の被った損害額は,本件ごみ処理設備工事請負契約の契約金額の5%に相当する11億4450万円と認めるのが相当である。

なお,別紙2「公金支出経過等一覧」(1)から(5)までの小計75億8788万2000円の5%に相当する3億7939万4100円については,第1事件の訴状送達の日である平成12年5月8日から,同(6)から(8)までの小計153億0211万8000円の5%に相当する7億6510万5900円については,第1事件の請求の拡張申立書送達の日である平成13年5月26日から,それぞれ民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができるものというべきである。

第4結論

以上のとおり,原告らの主位的請求に係る訴えは,不適法であるから却下し,原告らの予備的請求に係る訴えは,被告に対し,11億4450万円及びうち3億7939万4100円に対する平成12年5月8日(第1事件の訴状送達の日)から,うち7億6510万5900円に対する平成13年5月26日(第1事件の請求の拡張申立書送達の日)から,各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を京都市に支払うよう請求する限度で理由があるからこれを認容し,その余については理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民訴法61条,65条1項,64条本文に従い,主文のとおり判決する。

なお,認容部分についての仮執行宣言は,相当でないからこれを付さないこととする。

(裁判長裁判官 水上敏 裁判官 森田浩美 裁判官 斗谷匡志)

別紙2公金支出経過等一覧

1 ごみ処理設備工事

支出命令日

支出日

支出額

(1) 平成 9年4月 9日

同月16日

9億9511万7000円

(2) 平成10年4月28日

同年5月15日

11億9662万5000円

(3) 平成10年4月28日

同年5月15日

1億2180万0000円

(4) 平成10年8月28日

同年9月 7日

5億7295万9000円

(5) 平成11年4月21日

同月27日

47億0138万1000円

(1)から(5)までの小計 75億8788万2000円

(6) 平成12年4月 6日

同月20日

46億3225万7000円

(7) 平成12年4月 6日

同月20日

41億1575万1000円

(8) 平成13年4月10日

同月20日

65億5411万0000円

(6)から(8)までの小計 153億0211万8000円

合計          228億9000万0000円

2 溶接設備工事

支出命令日

支出日

支出額

(1) 平成10年11月30日

同年12月3日

9749万2500円

(2) 平成13年4月10日

同月20日

18億5235万7500円

合計           19億4985万0000円

別紙3(省略)

別紙4(省略)

別紙5(省略)

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