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京都地方裁判所 平成13年(モ)11040号 決定 2001年5月28日

申立人 甲

右代表者代表取締役

甲野一郎

右代理人弁護士

家藤信正

相手方 乙

右代表者代表取締役

乙川二夫

主文

本件債権差押手続中止の申立てを棄却する。

理由

相手方の本件動産売買の先取特権(物上代位)に基づく債権差押手続を中止することが、本件民事再生手続における再生債権者の一般の利益に適合し、かつ、差押債権者である相手方に不当な損害を及ぼすおそれがないものとは認められない。

よって、申立人の本件申立ては理由がないから棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判官・宮城雅之)

別紙意見書

債権差押権者 代理人弁護士

苗村博子

第1 はじめに

再生手続きにおいては、本来担保権者は別除権として手続きの制約を受けずに、自由に行使することが出来ることを原則としている。

競売手続中止の制度は、この別除権の行使に一切の制約がないと、再生債務者の事業または経済生活の再生のために必要不可欠な財産が失われ、再生債務者の再生が困難となり、ひいては再生債権者の一般の利益があることから、被担保債権の弁済方法等について合意による解決を図るための一定の時間的余裕を与えようとするものである(「一問一答民事再生法」第六二頁)。

第2 再生債権者の一般の利益適合性

第1に述べたような中止命令の趣旨によれば、再生債権者の一般の利益に適合する場合とは、担保の目的物が事業または経済生活の再生のために必要不可欠な財産である場合で、これがなければ、破産に移行せざるを得ないようなものということになる。

債権差押権者が差し押さえた債権は、第三債務者らへの売掛金合計金六二五万八一七三円であり、再生債務者の企業規模からみて、この売掛金が回収できないことから、破産に移行するとは到底考えられない。また、差押債権の対価であったアルミニウムについては、再生債務者は今後、事業を廃止するとも聞き及んでおり、従前の取り引先であった第三債務者から債権を回収することによって、円滑な取引を継続する必要があるということもない。

同債権に対して、差押債権者が、第三債務者から回収してもなんら、再生債権者の一般の利益に不適合となるものではない。

第3 債権差押権者に不当な損害を及ぼすおそれについて

債権差押権者が、差し押さえたのは、売掛債権であり、現在第三債務者は、健全な経営を続けているものの、再生債務者の再生手続が、同社の事業に及ぼす影響はやはり無視できず、財務状況の悪化の可能性も考えざるを得ない。

そうなれば、差押債権の回収が出来ないことも十分懸念される。また、再生債務者から差押債権者に、どのように支払うかについての提示なども全くなされておらず、競売手続きの中止は、差押債権者に対し、不当な損害を及ぼすおそれが高いものである。

第4 まとめ

よって、本件手続中止は認められるべきでない。

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