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京都地方裁判所 平成13年(ワ)1269号 判決 2002年6月25日

原告

野中広務

同訴訟代理人弁護士

田中彰寿

宮川孝広

二之宮義人

北側勝

山地敏之

被告

岡留安則

他1名

被告ら訴訟代理人弁護士

牧野聡

折田泰宏

藤原東子

大杉光子

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金五〇〇万円及びこれに対する被告岡留安則においては平成一三年六月七日から、被告株式会社噂の真相においては同年五月二九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告に対して、被告株式会社噂の真相(以下「被告会社」という。)が発行する月刊誌「噂の真相」(以下「本件雑誌」という。)誌上に、別紙一記載の謝罪広告を別紙二記載の形式で一回掲載せよ。

二  被告らは、原告に対して、連帯して、一〇〇〇万円及びこれに対する訴状各送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二当事者の主張

一  事案の概要

本件は、衆議院議員である原告が、被告岡留安則(以下「被告岡留」という。)が編集兼発行人を務め、被告会社が発行する本件雑誌上に、原告が京都市営地下鉄東西線(以下「東西線」ともいう。)の建設工事に関し利権を得ている旨の記事を掲載されたため、その名誉を毀損されたとして、不法行為に基づき、損害賠償及び本件雑誌への謝罪広告の掲載を請求する事件である。

二  基礎となる事実(当事者間に争いのない事実)

(1)  当事者

原告は、衆議院議員である。

被告会社は、本件雑誌の発行販売を行っている株式会社である。

被告岡留は、被告会社の代表取締役であり、本件雑誌の編集兼発行人である。

(2)  被告会社は、本件雑誌二〇〇一年五月号に、別紙三記事要領の内容を含む「「ポスト森」の暫定総理説が消えない“闇将軍”野中広務の同和利権疑惑」と題する記事(以下「本件記事」という。)を掲載して、これを不特定多数の読者に頒布した。

三  主要な争点

(1)  本件記事が原告の社会的評価を低下させるに足りるものか。

ア 原告の主張

(ア) 別紙三記事要領①ないし⑥部分について

本件記事の別紙三記事要領①ないし⑥の部分(以下、本件記事のうち、別紙三記事要領①ないし⑩記載の部分については、例えば、「①部分」あるいは「①」のようにいう。)は、「部落解放同盟のA野太郎(以下「A野」という。)が握っているという東西線利権が、何らかの形で必ず原告に還流しているはず」という点を主要な内容とするものであるところ、その内容は、通常一般人には、東西線工事による利益、とりわけ、金銭的利益が原告にわたっていると理解されるものであって、これは、政治家にとって身の潔白を疑われる重大な事柄であるといえ、本件記事の当該記載部分は、原告の社会的評価を低下させるに足りるものである。

なお、被告らは、⑥部分の直後に「利権が原告に還流されているとみるのは、いささか早計過ぎる。」との論評を加えているから、原告の社会的評価を低下させるものには当たらないと主張する。しかし、本件記事には、上記論評の直後にこの論評を覆す記載(⑦)があり、通常の読み方をすれば、原告に利権が還流しているのは事実であるとの印象を与える構成となっているのは明らかである。

(イ) ⑦ないし⑩部分について

⑦ないし⑩部分は、「A野からB山松夫(以下「B山」という。)を通じて、原告に上納金が納められているという話まで出ている」という点を主要な内容とするものである。そして、この部分は、第三者からの伝聞の形式を取っているものの、本件記事全体の構成、題名の付け方を総合的に見れば、読者に原告が上納金を受領しているとの印象を与えるものであり、上納金を受領しているというのは、収賄をも連想させるものであって、政治家である原告の身の潔白を疑わせる重大な事柄であるといえ、原告の社会的評価を低下させるに足りるものである。

なお、被告らは、当該記事部分中に「もちろん、これだけの証言だけで、本誌はA野から原告に何らかの違法献金がなされていると断定するつもりはない。」と記載しているから問題がないとするが、その直後にこの記載を覆す内容の記載もあり、上記の記載があっても、原告が上納金を受領しているのは事実であるとの印象を与える構成となっているのは明らかである。

イ 被告らの主張

(ア) ①ないし⑥部分について

①ないし⑥の部分が原告の社会的評価を低下させるに足りるものであることは争う。

また、⑥部分の直後に、「しかし、いくら原告とA野が昵懇の間柄だといっても、それだけでA野が握る地下鉄東西線利権が原告に「還流」されているとみるのは、いささか早計過ぎる。」と利権が原告に還流しているはずとの関西のある同和団体幹部の証言をうち消すような論評を本件記事中に述べており、これも併せると①ないし⑥部分が原告の社会的評価を低下させるに足りるものとはいえない。

(イ) ⑦ないし⑩部分について

⑦ないし⑩部分は、A野から原告に対する何らかの金銭の流れがあることを記載したにすぎず、その上、「もちろん、これだけの証言だけで、本誌はA野から原告に何らかの違法献金がなされていると断定するつもりはない。」と記述しており、原告の社会的評価を低下させるに足りるものではない。

(2)  本件記事の摘示事実は真実かどうか。真実でないとしても真実と信じる相当な理由があったかどうか。

ア 被告らの主張

以下の取材内容及び事実に照らせば、本件記事の摘示事実は真実である。仮に真実でないとしても、被告岡留が真実と信じるについて相当な理由があった。

(ア) 本件記事執筆に当たってされた取材の内容

a 被告会社の担当記者(以下「記者」という。)は、平成一三年三月六日、東京在住の部落解放同盟関係者Aと会い、①部落解放同盟京都府連合会副委員長のA野及び全国自由同和会京都府連合会会長のC川竹夫(以下「C川」という。)が東西線延伸工事の利権を独占し、その背後に原告がいる旨、②A野及びC川と原告とは親しい旨を聞いた。

b 記者は、同月一二日に、A野と極めて近い部落解放同盟京都府連合会関係者Bと会い、A野の地下鉄利権について書かれた怪文書等の資料一式を受け取るとともに、①A野、C川及び原告の関係、②A野及びC川が公共事業に関して利権を得ている状況等を聞いた。

c 記者は、同日、京都財界の有力者で情報通のCと会い、「毎年八月一六日に京都の財界人などが集まって大文字の送り火を見るのだが、原告は、我々、財界人には会釈だけなのに、わざわざテーブルまで行ってA野に挨拶していた。そのため、地元財界人の間で、「二人はよっぽど親しい間柄なのだろう」とうわさされていた。」との旨を聞いた。

d 記者は、同月一三日に、全日本同和会関係者Dと会い、「①C川は原告の選挙を始め、原告一派の市議、府議の選挙に関して組織を挙げて応援していた。②C川と原告は持ちつ持たれつの関係であった。③C川は、当時自治大臣であった原告に対して、東西線の問題に関する陳情をした、A野はC川以上に原告と親しく、東西線工事がストップして一番困るのはA野なので、陳情はA野がすべきだが、さすがに部落解放同盟京都府連合会副委員長の立場の人間が、京都市のために原告に陳情に行くのはまずいので、A野の代わりに自民党京都府連の一員でもあるC川が陳情に行ったのだろう。」との旨を聞いた。

e 記者は、同日、大手新聞京都支局記者Eと会い、「東西線工事をめぐっては、計画当初から大物政治家の関与が取りざたされていた。東西線工事の談合の際、ゼネコンから金丸に多額の献金がされた。この金丸の下で地元対策をしていたのが当時金丸の京都での利益代理人であった原告である。原告は金丸の死後、この東西線利権を一手に掌握したと言われている。しかしその後、東西線の総事業費が二倍にふくれあがり、京都市の財政は東西線で破たん寸前まで追い込まれた。その京都市の窮地を救ったのが自治大臣時代の原告であって、原告はこの東西線に数百億もの補助金を引き出したといわれている。また、原告はA野やC川を使って延伸工事を取り仕切っている。」との旨を聞いた。

f 記者は、同月一四日、京都市関係者Fと会った。そして、Fから、全国自由同和会京都府連合会の機関誌である全国自由同和京都版の二〇〇一年一月一〇日号を受け取るとともに、「①東西線をめぐって、C川が原告に陳情したという話は事実である。京都市幹部やOBの意向を受けたものだと聞いている。その陳情の後、東西線に国から数百億の補助金が付いたと聞いている。②A野と原告が日野小学校の件で会ったという情報が流れたが、A野は周囲に「会って当たり前やないか、刎頸の友なんやから」と話していたという。A野と原告の仲は原告の「部落民宣言」以来の仲と聞いている。電話でのやりとりは頻繁にしているようだ。」との旨を聞いた。

g 記者は、同日、全国部落解放運動連合会関係者Gと会い、「①原告はもともと全国部落解放運動連合会よりであったが、副知事になってからは部落解放同盟に接近した。②A野は行政の評判もよく、行政はこの人をもっと利用しようと考え、肩書をどんどん与えている。C川はA野を抱き込んで、一般土木利権に食い込んでいる。③D原秘書は府議会、市議会と原告とのパイプだ。」との旨を聞いた。

h 記者は、同月一五日、京都市議会自民党関係者Hと会い、「伏見の市議B山は、自民党京都府連の幹事長で、原告の側近中の側近である。原告の選挙参謀も務めているのだが、このB山の後援会の大幹部がA野で、A野の地下鉄利権はこのB山を通じて原告に還流しているのではないかといわれている。」との旨を聞いた。

i 記者は、同月一六日、京都政界関係者Iと会い、「①京都の地下鉄をめぐってはA野と原告との間に、旧建設省事務次官E田梅夫が関与している。というより、原告の一の子分であるこの事務次官が中心となった。②東西線をめぐっては、原告が京都市に対し、「くい打ちはすべてA野に任せろ」と言った。このため、市交通局、市建設局は業者に対し、「地下鉄工事に関してはA野さんのところにいけ」と指示。これでA野は約一二億の利益を上げた。A野が東西線であげた膨大な利権に関しては現在、大阪国税局が調べている。京都、大阪両国税局にはA野に対する業者の苦情が殺到している。A野に近い私の知り合いも大阪国税局の事情聴取を受けたが、その際、担当官は、この知り合いに対し「A野から原告のところにお金が流れているのは間違いない。彼らは月に一回は必ず会っている。我々は原告が中にいる店にA野が入っていく写真まで撮っている。」と話し、「A野さんの事件に着手することになれば当然、八条口(原告の京都事務所)にも入る。」と言っていたという。」との旨を聞いた。

(イ) 東西線建設費に対する補助金交付の経緯

a 東西線の建設費は当初約二四五〇億円の計画であったが、平成六年二月になり約一五〇〇億円も増加し、さらに同年六月時点では、さらに八〇〇億円の建設費の上積みが発覚し、事業費総額は当初見込みの約二倍に膨張した。

そのため、この増額分について国の建設補助金が増額されなければ、地下鉄建設工事が継続できない事態に陥った。

しかし、平成六年九月の京都市議会における京都市助役の答弁によれば、国の財政状況として地下鉄補助金の総額の確保が厳しく、今後国の予算案が決まるまで引き続き強力に要望活動に取り組むとされるにとどまった。

b C川は、平成六年六月に自治大臣に就任した原告に、東西線建設費の補助金について陳情を行っている。原告は、陳情にきたC川に対して、京都市政の在り方について怒りつつも、C川の肩をぽんとたたいた。その後、国から京都市へ約六〇〇億円の補助金が交付された。

(ウ) A野が京都府、京都市の公共事業に強い影響力を有していたこと

A野は、部落解放運動を利用して、京都市当局に発言力を強め、京都府、京都市の大型公共工事が発注される際に、自らと関係が深いゼネコンや建設業者に受注させるまでの影響力を構築していった。そして、東西線建設工事や東西線延伸工事において、A野と関係の深いゼネコンが工事を受注している。

A野は、設計事務所から受注額の一パーセント、大手ゼネコンから受注額の一パーセントをそれぞれ手数料として徴収するとされ、「A野しんわ会」のメンバーである地元建設会社からは工事費の三パーセントを徴収するとされている。A野は、この手法で、東西線建設工事や東西線延伸工事で少なくとも五〇億円以上の不当な利益を上げているという。

イ 原告の主張

本件記事の摘示事実は、真実ではないし、被告らの主張する取材内容は、そのとおりの取材がされていたとしても、ほとんどが伝聞であり、原告への取材もないから、被告岡留が本件記事の摘示事実が真実であると信ずるについて相当の理由があるとはいえない。

(3)  損害

ア 原告の主張

原告は、地下鉄利権を上納金の形で受領しているかのような事実に基づかない報道をされた。そのため、原告は、政治家としての名誉と信用を著しく害せられ、著しく精神的苦痛を受けたのであり、この損害を慰謝するには、一〇〇〇万円が相当である。

イ 被告らの主張

争う。

(4)  謝罪広告の要否

ア 原告の主張

本件記事によって、原告の名誉は著しく害されたので、その毀損された名誉を回復するためには、別紙一記載の謝罪広告を別紙二記載の形式で本件雑誌に掲載させることが必要である。

イ 被告らの主張

争う。

第三当裁判所の判断

一  本件記事が原告の社会的評価を低下させるに足りるものかどうか(争点(1))。

(1)  雑誌に掲載された記事の内容が人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該記事について一般読者の普通の注意と読み方とを基準として解釈した意味内容に従って判断すべきである(最高裁判所昭和二九年(オ)第六三四号同三一年七月二〇日第二小法廷判決・民集一〇巻八号一〇五九頁)。この観点から、本件記事が原告の社会的評価を低下させるに足りるものかどうかを検討する。

(2)ア  《証拠省略》によると、本件記事には、別紙三記事要領記載のほか、以下の記載があることが認められる。

(ア) ①部分の前に、「▼京都地下鉄利権の“黒幕”は解同幹部」という小見出しがあり、それに引き続いて、本文として「関西のある同和団体幹部がこう証言する。「全自同のC川会長が(九四年)当時、野中先生を自治大臣室に訪ね、“東西線で財政危機に瀕した京都市を救ってくれ”と陳情しはったんは事実や。あの陳情は、野中先生と太いパイプを持つC川会長に、京都市幹部やOBが頼み込んで実現したもんなんやけど」」という記載がある。

(イ) ②部分と③部分の間に、A野が京都市等に対して影響力を有するに至った経緯を記載するとともに、A野が東西線工事を始めとする公共工事に関して設計事務所やゼネコン、下請企業から金員を受け取っている旨の記載がある。

イ (ア)の記載を考慮すると、①及び②部分は、一般読者の普通の注意と読み方によれば、「A野が東西線利権を裏で仕切っており、A野さんの意を受けてC川会長が原告の下に陳情に行った。」ことを内容とするものと認めることができる。そして、上記部分のこの内容と上記ア(イ)の部分を併せると、別紙三記事要領③、⑤及び⑥部分は、一般読者の普通の注意と読み方によれば、「A野が握る東西線利権が何らかの形で必ずA野と関係の深い原告に還流している」こと、すなわち、「A野は東西線工事によって金銭的利益を得ており、そのうちの一部はA野から原告に渡っている」ことを主な内容とするものと認めるのが相当である(なお、直接には、「利権が原告に還流しているはず」である旨の記載は、関西の同和団体幹部の証言内容として記載されているものであるが、本件記事全体からすると、その発言とおりの事実があることを内容とするものと認められ、第三者の発言の引用として記載されていることは、上記認定に影響しない。)。

ウ なお、被告らは、本件記事には、⑥部分の後に、「しかし、いくら野中とA野が昵懇の間柄だといっても、それだけでA野が握る地下鉄東西線利権が野中に「還流」されているとみるのは、いささか早計過ぎる。」(⑦)と記載していることから、本件記事は、東西線利権が原告に還流している旨の内容のものではなく、原告の社会的評価を低下させるに足りるものではない旨主張する。

しかし、本件記事には、上記被告らの主張の記載に引き続いて「が、京都の自民党関係者によると、実は地元に野中とA野を繋ぐ「太いパイプ」があるという。」(⑦)の記載があり(《証拠省略》)、さらに、それに続く⑧ないし⑩の部分は、後記認定のとおり、この太いパイプとは、B山であり、B山をパイプ役として原告に「上納金」が納められている旨の内容のものであって、これらによって、⑤部分の「関西のある同和団体の幹部の証言」が補強されており、⑦のうちの被告ら主張の記載があることによって、上記イの認定に影響を与えない。

エ また、本件記事のうち、⑦ないし⑩部分は、一般読者の普通の注意と読み方によれば、「A野は原告の側近といわれるB山を通じて、原告と常時連絡を取り合っており、B山をパイプ役としてA野から原告へ「上納金」(上記認定の①ないし⑥部分の主な内容を考慮すると、東西線利権の一部と解される。)が納められている。」ことを主な内容とするものと認めるのが相当である。

オ そして、上記イ及びエの記事の内容は、要するに「A野が、東西線工事によって金銭的利益を得ており、そのうちの一部はA野から原告にB山を通じて「上納金」として原告に渡っている。」ことを主な内容とするものであり、この内容は、衆議院議員である原告が、東西線建設工事という公共事業に関連して不法に金銭を得ているという趣旨のものであるから、原告の社会的評価を低下させるに足りるものであることは明らかである。

カ なお、被告らは、⑨部分で「もちろん、これだけの証言だけで、本誌はA野から原告に何らかの違法献金がなされていると断定するつもりはない。」と記載しており、本件記事は、上記認定のような趣旨のものとはならず、原告の社会的評価を低下させるに足りるものではない旨主張する。しかし、原告が東西線建設工事の補助金六〇〇億円を引き出したことは前述のとおりである旨及び東西線建設工事に原告と関係の深いA野が関与していることは事実である旨をそれぞれ記載しており(⑨、⑩)、これを併せ読めば、上記記載があったとしても、一般読者の普通の注意と読み方によれば、前記認定の内容のものと理解されると認められる。

二  本件記事の摘示事実は真実か、又は、真実であると信じる相当な理由があるか(争点(2))。

(1)  名誉毀損については、当該行為が公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図るものである場合には、摘示された事実が真実であることの証明があれば、その行為には違法性がなく、また、真実であることの証明がなくても、行為者がそれを事実だと誤信したことについて相当の理由があるときには、その行為は、故意又は過失を欠き、不法行為にならない(最高裁判所昭和三七年(オ)第八一五号同四一年六月二三日第一小法廷判決・民集二〇巻五号一一一八頁)。

そして、前記一で認定説示したとおり、本件記事の別紙三記事要領記載の部分の主な内容は、公共事業たる東西線建設工事に関し、衆議院議員である原告が不法に金銭を取得しているというものであるから、公共の利害に関するものであることは明らかである。また、本件記事は、公共の利害に関する事柄を記載しているのであって、特段の事情がない限り、その目的は専ら公益を図るものであると認めることができる。

(2)  しかし、本件記事の前記、原告が東西線建設工事に関し、A野の得た金銭の一部をA野からB山を通じて受け取っている旨の摘示事実が真実であることを認めるに足りる証拠はない。

(3)ア  被告らは、記者は、前記第二の三(2)ア(ア)のとおりの取材をしており、この取材内容に、同(イ)及び同(ウ)の主張事実を併せれば、上記摘示事実は、真実であるか、そうでないとしても真実であると信じる相当な理由があった旨主張する。

イ しかし、記者が、被告ら主張のとおりの取材を行い、その取材対象者から主張のとおりの話を聞いていたとしても、その内容は、前記第二の三(2)ア(ア)cの話以外は、専ら伝聞によるものであるところ、その伝聞内容について根拠は全く明らかにされていないし、記者がその根拠を尋ねたり、さらにその裏付けとなる事実を取材したことを認めるに足りる証拠もない。そして、仮に、C川が東西線建設工事について原告に陳情を行い、その後、国から京都市に対して、建設費について六〇〇億円の補助金が支出されたという事実があったとしても、その事実と上記の取材内容から、上記摘示事実が真実であると認めることはできないし(被告ら主張の前記第二の三(2)ア(ウ)の事実を認めるに足りる証拠はないが、仮にこの事実が認められたとしても変わりはない。)、上記のとおり、記者が伝聞にすぎない上記取材内容について裏付け取材をしたことを認めるに足りる証拠もないことを考慮すると、真実であると信じたことについて相当な理由があるということもできない。

三  損害(争点(3))

本件記事は、前記認定説示のとおり、衆議院議員たる原告が、東西線利権なるものの一部を上納金として受け取っているという、原告が違法行為を行っていることを内容とするものであり、これを掲載した本件雑誌が全国に頒布されたことによって、衆議院議員である原告の社会的評価が低下し、原告の名誉、信用が著しく毀損されたことは明らかである。

そして、上記のような本件記事の内容、原告が、自由民主党幹事長、内閣官房長官等を歴任した著名な政治家である(公知の事実)というその社会的地位などの一切の事情に照らすと原告の被った精神的苦痛を慰謝するには五〇〇万円をもって相当とする。

四  謝罪広告(争点(4))

謝罪広告については、その性質上、これを掲載させる必要性が特に高い場合に限って命ずるのが相当であるところ、本件記事によって原告の名誉が現実に毀損された程度、本件損害賠償請求が一部認容されることにより原告の損害が相当程度回復されることなどを考慮すると、原告が認める謝罪広告を掲載させる必要性までは認められない。

第四結論

以上によれば、原告の請求は、被告ら各自に対して五〇〇万円及び不法行為の後である訴状各送達の日の翌日から民法所定の年五分の割合の遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。よって、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条、六五条に、仮執行宣言について同法二五九条にそれぞれ従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水上敏 裁判官 亀井宏寿 尾河吉久)

<以下省略>

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