京都地方裁判所 平成13年(ワ)3444号 判決 2004年7月08日
原告
X1
原告
X2
原告
X3
原告
X4
原告
X5
原告
X6
原告
X7
原告
X8
8名訴訟代理人弁護士
稲村五男
中村和雄
森川明
渡辺馨
川中宏
村山晃
村井豊明
久保哲夫
飯田昭
荒川英幸
浅野則明
岩橋多恵
藤浦龍治
奥村一彦
藤澤眞美
被告
株式会社塚腰運送
代表者代表取締役
A
訴訟代理人弁護士
置田文夫
後藤美穂
神長信行
山村忠夫
菅野道生
訴訟復代理人弁護士
栗田昌裕
主文
1 原告X6及び同X7の訴えをいずれも却下する。
2 その余の原告らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告が原告ら8名に対し,別紙1「人事異動命令表」の各「発令年月日」欄記載の年月日に発令した,各「異動先」欄記載の異動先へ,その異動後「異動後職種」欄記載の職種へ人事異動するとした各命令は,いずれも無効であり,原告らはいずれも輸送技術課所属のドライバー職にあることを確認する。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
第2事案の概要
1 本件は,被告により人事異動命令を受けたとする原告ら8名が,被告に対し,(1) 別紙1「人事異動命令表」記載の人事異動命令(以下,本判決においては,同表記載の異動については,まとめて「本件人事異動」ということとする。)には業務上の必要性が存しない上,人事協議条項に違反し,かつ,原告らに著しい不利益を負わせるものであって,権利の濫用に当たる,また,(2) 同命令は,原告らが労働組合の組合員であることなどを理由として不利益な取扱をしたもので不当労働行為に当たる,から,同命令はいずれも無効であるとして,同命令の無効確認及び原告らが従来どおり被告輸送技術課所属のドライバー職にあることの確認を求める事案である。
2 当事者の主張
(1) 本案前の主張
ア 被告の主張
原告X6は,平成14年6月15日,原告X7は,平成15年6月15日,それぞれ被告を退職した。よって,上記2名の本件訴えは訴えの利益を欠くものであり,却下されるべきである。
イ 原告らの認否
上記両名が上記各年月日に被告を退職したことは認める。
(2) 請求原因
ア 被告は,一般貨物運送取扱事業,梱包事業等を目的とする株式会社である。被告には,子会社である有限会社や株式会社も含めて,(ア) 本社,(イ) a社事業部(京都営業所,名古屋支店等),(ウ) ロジスティクス事業部(上鳥羽営業所),アウトソーシング事業部(久世橋営業所,多賀営業所,滋賀営業所等)の職場がある。
イ 原告らは,いずれも被告に雇用される労働者で,本件人事異動発令前は,上記(ウ)のロジスティクス事業部の上鳥羽営業所の輸送技術課輸送部門(以下「輸送部門」という。)に所属し,ドライバー職としての業務に従事していた。
ウ 被告は,原告らに対し,本件人事異動をしたとして,各異動先における就労義務の存在を主張している。
エ よって,原告らは,被告に対し,上記人事異動命令が無効であり,原告らが輸送部門のドライバー職にあることの確認を求める。
(3) 請求原因に対する認否
請求原因事実は認める。ただし,別紙1「人事異動命令表」のうち,原告らに対する平成13年7月16日付けの人事異動命令及び原告X1に対する平成15年4月21日付けの久世橋営業所への人事異動命令以外は,いずれも人事異動命令ではなく,同一部署内での作業場所及び作業内容の指示にすぎず,現に原告らの従事する業務も同表記載の業務に限られない。
(4) 抗弁
被告は,原告らに対し,別紙1「人事異動命令表」のとおり,原告らに対する平成13年7月16日付けの人事異動命令をするとともに,原告X1に対する平成15年4月21日付けの久世橋営業所への人事異動命令をし,また,「発令年月日」欄記載の各年月日に,それぞれ「異動先」欄記載の職場における就労を命じた(本件人事異動)。
(5) 抗弁に対する認否
抗弁事実は認める。
(6) 再抗弁
ア 権利濫用の根拠事実
以下の事実からすれば,本件人事異動は権利の濫用である。
(ア) 本件人事異動には,以下のとおり,被告の業務上の必要性がない。
a 被告の,平成10年度の売上高は22億6991万3238円,平成11年度の売上高は25億0306万1429円,平成12年度の売上高は33億3912万7310円,平成13年度の売上高は28億1909万4551円であって,また,平成12年度には343万1386円,平成13年度には3790万9284円の営業利益を計上するなど,本件人事異動当時の被告の経営状況は極めて良好であった。
b 他方,被告は,以下のとおり,ことさらに輸送部門の業務を他の部門の担当に割り替えて,同部門の売上高を減少させる操作をした。
(a) 被告は,その取引先であるb社,株式会社c,d株式会社及び被告久世橋営業所については,その事業所の位置関係からして輸送部門が担当するのが最も合理的であるのに,滋賀営業所の担当とした。
(b) 株式会社a(以下「a社」という。)を荷主とする輸送については,従前被告a社事業部が輸送する以外には輸送部門がこれを担当してきたにもかかわらず,被告は,これを被告名古屋支店に担当させた。
(c) また,被告は,輸送部門の業務量を減らす為,a社の輸送についてe運輸などの傭車を使用した。
c 被告は,本件人事異動の後,新たに輸送部門の10トン車ドライバー,3トン(2トン)車ドライバー及び3トン車・4トン車ドライバーの募集を行い,平成14年7月1日ころには,Bという男性を,さらに,同年8月19日,Cを,それぞれ輸送部門の10トン車ドライバーとして採用した。他方,原告ら8名は上記募集に応じたが,被告は,原告らを一人も採用しなかった。
(イ) 被告は,本件人事異動において,なぜ4トン平車を4台,4トンユニック車を5台減車するのかについて説明をすることができず,また,技量や熟練度を考慮すれば基本給の高い者から順に異動させることには合理性が乏しいばかりか,原告X3より基本給の高い2名が異動の対象になっていない点,本件人事異動後ユニック車の運転手が不足したとして他の従業員にその資格を取得させている点などの点においても,人選が合理的ではない。
(ウ) 本件人事異動は,以下のとおり,分会との事前協議条項に違反して行われた。
a 平成6年10月10日,全日本運輸一般労働組合塚腰分会(その後,全日本建設交運一般労働組合京都地域支部塚腰分会となった。以下「分会」という。)が結成されたところ,分会は,同月28日,被告との間で,「会社は,組合員の身分,賃金,労働条件の変更については,一方的に行わず,労使協議して円満に解決する。」旨の条項(以下「本件人事協議条項」という。)を含む労使協定を締結した。
b 分会は,平成13年6月14日ころ,被告に対し,輸送部門の業務量の確保に関する労使協議を開催するよう申し入れた。しかし,被告は,上記労使協議を開催することなく,同月23日,原告らを含む輸送部門の分会員に対し,同部門の車両について4トン平車を4台,ユニック車を5台減車し,これに伴いドライバーを9名減員する旨通告した上,同月26日及び28日,原告らに対し,本件人事異動を同年7月中旬までに行う旨通告した。
c これに対して分会は,同月29日,被告に対して団体交渉を申し入れ,同年7月3日,6日,13日及び17日には団体交渉が開催されたものの,被告は,上記人事異動に従わない者については解雇すると述べるなど頑なな態度に終始した上,分会の要求に係る被告の経営状況が判明する資料も開示しなかった。
d 被告は,上記団体交渉中である同月10日,原告らに対し,同月16日発令に係る本件人事異動を通告した。そして,被告は,分会の再三の申入れにもかかわらず,本件人事異動後は団体交渉を拒否した。
(エ) 本件人事異動は,以下のとおり,原告らの生活及び仕事に著しい不利益を負わせるものである。
a 原告らは,被告に入社以来,いずれもドライバーとして長年にわたり勤務してきたものであって,他の職種への配転は予定されていなかった。
b 本件人事異動により原告らの賃金は年額で200万円程度も減少し,以下のような生活上の不利益を被っている。他方,本件人事異動の対象とされなかった従業員の賃金額は下がっていない。
(a) 原告X1は,昭和○年○月○日生れであり,平成7年に自宅を購入したことからローンの支払が大変な状況にある。原告X1の妻も家計を助けるために働いており,子供の結婚費用と貯蓄をも流用しなければならない状態である。
(b) 原告X2は,昭和○年○月○日生れであり,住宅ローンの支払が困難な状況である。
(c) 原告X3は,昭和○年○月○日生れであり,妻,高校3年生の長男及び中学校3年生の長女の4人家族である。原告X3の妻もパートで働いているが,生活が苦しい状況である。
(d) 原告X4は,昭和○年○月○日生れであり,病気の妻と私立高校在学中の長男がいる。原告X4の家計は非常に苦しく,厚生年金から100万円,銀行から100万円の借入をしている。
(e) 原告X5は,昭和○年○月○日生れであり,祖父を抱えた4人家族で,妻は内職・パートをしているが家計は苦しく,祖父の年金からも補助を受けている。
(f) 原告X7は,昭和○年○月○日生れである。原告X7は,家計をやりくりするため,生命保険の解約,自家用車の処分等を行った。そして,ローンや借金の返済に困ったことから,現在は京都地方裁判所に民事再生手続開始の申立てをしている。
(g) 原告X8は,昭和○年○月○日生れであり,妻と高校2年生の長男,中学校3年生の長女がいる。原告X8の妻は,家計を助けるために昼も夜も働いている。そして,原告X8は,自家用車を処分し,両親の年金からも援助を受けている。
イ 不当労働行為
(ア) 被告は,平成10年10月15日付けで,分会に対し,団体交渉における分会の出席者を5名までとし,時間を2時間までとする制限を設けることを申し入れ,また,同年12月12日付けで,分会旗掲揚や掲示板への掲示物の規制を申し入れた。更に,被告は,平成13年の春闘要求に基づく交渉の中で分会が従業員に対するアンケートを行ったことについて,分会の役員に始末書の提出を命じるなど,分会を嫌悪していた。
(イ) 平成13年度の分会において,原告X2は分会長,原告X5は副分会長,原告X8及び同X3は分会相談役,原告X7,同X4及びX1は分会執行委員であった。
(ウ) 本件人事異動の後,輸送部門の分会員であったD,E及びFは,いずれも分会を脱退した。
(エ) 以上からすれば,本件人事異動は,組合活動家である原告らに対し,狙い撃ち的に発令されたもので,組合活動家に不利益を与え,これによって他の労働者に対し見せしめとすることによって,分会の弱体化を図ったものというべきである。
(7) 再抗弁に対する認否
ア 再抗弁ア(権利濫用の根拠事実)について
(ア) 再抗弁アの(ア)のaの事実のうち,原告主張のとおり被告の売上高及び営業利益が計上されていることは認める。ただし,被告の企業グループ全体としては売上も利益も上がっていたが,輸送部門の売上は減少傾向にあった。
(イ) 同(ア)のbの(a)の事実のうち,原告の主張に係る4社との取引を滋賀営業所が担当していることは認める。それぞれ取引経緯や人的信頼関係などから滋賀営業所が担当しているものであり,また,輸送コストの点からしても,滋賀営業所が担当することに不合理はない。
(ウ) 同(ア)のbの(b)の事実のうち,被告がa社の輸送を優先的に名古屋支店に割り振ったことは認める。従前被告の名古屋支店の売り上げは,その9割を株式会社fが占めていたところ,同社が平成12年4月に閉鎖され,名古屋支店の売上が急激に落ち込んだため,同支店の存続を図るため,優先的に仕事を割り振ったものである。
(エ) 同(ア)のbの(c)の事実のうち,被告がe運輸などの傭車を使用していることは認める。平成13年ころ,a社事業部からの輸送依頼を輸送部門が断る事態が生じたため,上記事業部からe運輸などに傭車を依頼して対処するようになったものである。しかし,被告における傭車の使用率は別紙2「輸送技術課・輸送部門における生産高に対する外注傭車料と傭車比率」記載のとおりであり,被告が傭車に多くの仕事を任せていたということはない。
(オ) 同(ア)のcの事実のうち,被告がドライバーの募集を行ったこと,原告らを採用しなかったことは認める。上記ドライバー募集は,本件人事異動の1年後からであるし,募集したのはいずれも契約社員にすぎない。また,被告は,上記募集に応募した原告ら8名のうち4名について面接を実施したところ,同人らは,従前と同一の労働条件でなければドライバーに戻る意思がないなどと述べ,今回のドライバー募集には辞退したい旨を通告してきたものである。
(カ) 同(イ)の事実は否認ないし争う。
(キ) 同(ウ)のa及びbの事実,同cの事実のうち,原告の主張に係る年月日に団体交渉が開催されたこと,同dのうち,平成13年7月10日に被告が本件人事異動を通告したことはいずれも認める。ただし,本件人事協議条項は,平成11年7月14日付けで「会社は,組合員の身分,賃金,労働条件の変更については,問題が生じれば,事前に組合と協議し,円満に解決する。」と改正されている。本件人事異動後,団体交渉が開催されていないのは,被告に対して税務調査があったため,役員がその対処に忙殺されていたためであるが,その間でも被告は,電話や喫茶店等において分会幹部と話合いをするなどの対応をしてきた。
(ク) 同(エ)のaの事実のうち,原告らがドライバーとして勤務してきたことは認める。ただし,原告X3と同X4は,a社事業部の梱包業務を一時期担当していたことがあり,また,原告X5は,もともとは上記事業部の梱包業務に従事する臨時職員であった。
(ケ) 同(エ)のbの事実のうち,原告らの賃金が減少したことは否認し,その余の事実は不知。原告らの平成12年9月分から平成13年12月分までの賃金額は,別紙3「人事異動前と人事異動後の賃金の比較」のとおりであり,本件人事異動の前後である平成13年7月と同年8月とを比較すると,原告ら全員について賃金額が増加している。他方,本件人事異動の対象となっていない輸送部門のドライバーの賃金額は減少しており,仮に原告らが輸送部門に止まっていたとしても,原告らの賃金が減少したことは確実である。
イ 再抗弁イ(不当労働行為)について
再抗弁イの(イ)の事実は認め,その余の事実はいずれも争う。分会の組合員中,36名が執行役員であり,原告らの外にも組合活動を行っている者は多くいる。また,平成13年ころ,被告は,分会が就業時間中に組合活動を行ったことや,被告の事業場内で,許可なく,非組合員に対して半ば強制的にアンケートを行ったことから,非組合員から苦情が出たことを問題としたにすぎない。そして,被告は,上記のとおり,赤字を累積させていた輸送部門の改革策として,車両数削減と人員の再配置を決定したのであって,分会や組合員を攻撃しようとするなどの不当な目的はない。
(8) 再々抗弁―権利濫用の障害事実(再抗弁アに対して)
以下の事実からすれば,本件人事異動には被告の業務上の必要性があり,他方,原告らに対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものということはできないから,本件人事異動をもって権利の濫用ということはできない。
ア 以下のとおり,輸送部門の売上高は減少している。
(ア) 同部門は,a社から平成11年ないし12年ころには1か月1500万円から2000万円の売上を計上していたが,同社が4トン車による輸送を10トン車による輸送に切り替える方針としたことなどから,平成15年には1か月1000万円程度の売上に減少した。
(イ) 同部門は,株式会社g(以下「g社」という。)から,平成11年度には2億2578万4411円の,平成12年度には5億3609万9432円の売上を計上していたが,平成13年度の売上高は1億5920万4879円に減少した。加えて,g社は,平成12年ころ,半導体基盤の大型化に伴い,10トントラックによる輸送を求めるようになり,また,平成13年1月ころには,被告に対し,「装置の輸送に関してはエアサス・ウィング空調車使用を原則とする」,「特に寒冷地域への輸送に関しては車両荷室内温度を18~22℃を保持し,結露防止策を充分に講じなければならない」との車両指定を行うなどしたため,輸送部門の車両は1台を除いて不適切な車両となり,同社からの受注が減少した。
(ウ) a社とg社との取引は,被告の輸送部門の売上の8割ないし9割を占めていたため,同部門の売上は,平成10年度には4億3601万5784円,平成11年度には4億1877万0317円,平成12年度には3億7242万1830円,平成13年度には2億0284万7796円に減少した。
イ 被告は,本件人事異動については,(ア) 減車の対象となる車種を合理的に選定すること,(イ) 従業員の選定の基準を明確にすることを重視して人選を行ったところ,上記(ア)については,事業の採算性や今後見込まれる仕事量等を考慮すると,4トンユニック車を5台,4トン平車(幌車を含む)を4台減車することが合理的であるとの判断に至り,また,上記(イ)については,本件人事異動がコスト削減を目的とするものであることや,勤務成績等を基準にすると人選が恣意的になる可能性があることから,4トンユニック車及び4トン平車のドライバーで,基本給の高いものから順に減車数に応じて人選していくことが合理的かつ公平であると判断した。そして,本件人事異動当時の輸送部門所属の上記ドライバーの基本給は,別紙4「本件人事異動当時のドライバーの基本給」記載のとおりであることから,原告らを本件人事異動の対象とした。
ウ 被告は,本件人事異動について以下のとおり分会と誠実に交渉してきた。
(ア) 被告は,本件人事異動について,平成13年6月23日に輸送部門のミーティングを行って9台を減車する旨の方針を伝え,また,その数日後には,原告らに対し,個別面談を実施した。
(イ) 被告は,本件人事異動について,平成13年7月3日,同月6日,同月13日及び同月17日の4回にわたって,分会との間で団体交渉を行い,同月13日の団体交渉においては,分会から「我々の申し入れに対して一定の議論は終了したと考えている」との理解を得た。
エ 本件人事異動の対象となった原告らについても,賃金が著しく減少したものではなく,むしろ増加している(前記(7)のアの(ケ))ばかりか,異動後の職種においてもドライバー職からフォークリフト作業職,梱包作業職等への変更であって,ことさら負担の大きい困難な職種に変わったものではない。
(9) 再々抗弁に対する認否
ア 再々抗弁アの事実のうち,計算上の数値として輸送部門の売上高が減少している事実は認めるが,これは(6)のアの(ア)のbのとおり,被告が分会を嫌悪し,組合員である原告らの所属する輸送部門の仕事を他部門の担当に割り替えて,輸送部門の仕事を意図的に操作した結果であり,本来であれば,同課の売上高は,他部門と同様に増加していたはずである。
イ 同イの事実は否認する。人事異動の対象となる人員の選択にあたり,基本給の高い順から選ぶという基準は,人件費の削減という要素のみを考えた基準にすぎないし,また,被告の基準に従うとしても,原告X3より基本給の高い者が2名いるにもかかわらず,同人を本件人事異動の対象にしており,本件人事異動の人選には合理性がない。
ウ 同ウの事実のうち,被告が平成13年6月23日にミーティングを行ったこと,原告らに対して個別面談を実施したこと,団体交渉が開催されたことは認めるが,被告が分会と誠実に交渉してきたことは否認する。
エ 同エの事実のうち,原告らの平成12年9月分から平成13年12月分までの賃金額が別紙3「人事異動前と人事異動後の賃金の比較」のとおりであることは認めるが,その余の事実は否認する。本件人事異動後の原告らの賃金額は,残業や公出がほとんどないため,年額で200万円前後減少しているし,異動後の職種は,長年にわたりドライバー職に従事してきた原告らにとっては耐え難い不利益である。
第3当裁判所の判断
1 本案前の主張について
本件は,被告が原告らに対してした人事異動命令が無効であり,原告らが従前のドライバー職にあることの確認を求める訴訟であるところ,このような人事異動命令無効確認の訴えは,使用者との間における雇用契約上の地位の存在を前提とするものであるから,上記訴訟の係属中に当事者が雇用契約上の地位を喪失した場合には,当該訴訟は訴えの利益を欠くものというべきである(最高裁平成3年2月5日第三小法廷判決・裁判集(民事)162号85頁参照)。
これを本件についてみると,原告X6が平成14年6月15日に,原告X7が平成15年6月15日に,それぞれ被告を退職したことは当事者間に争いがなく,したがって,上記2名はいずれも被告との間における雇用契約上の地位を喪失したことが認められるから,同人らの本件訴えは,いずれも訴えの利益を欠くものというべきである。
2 請求原因について
請求原因事実は,当事者間に争いがない。
なお,本件人事異動は,原告ら(以下の判断は,原告ら8名のうち原告X6及び同X7を除くその余の6名に関するものではあるが,便宜上,「原告ら」と表記することとする。)についてその就業の場所又は従事すべき業務を変更するものといえるから,いわゆる配置転換に当たるものというべきである。被告は,別紙1「人事異動命令表」のうち,原告らに対する平成13年7月16日付けの人事異動命令及び原告X1に対する平成15年4月21日付けの久世橋営業所への人事異動命令以外は,いずれも人事異動命令ではなく,同一部署内での作業場所及び作業内容の指示にすぎず,現に原告らの従事する業務も同表記載の業務に限られない旨主張するけれども,これを認めるに足りる証拠はないから,被告の上記主張は,採用することができない。
3 抗弁について
抗弁事実は,当事者間に争いがない。
4 再抗弁ア(権利濫用の根拠事実)及び再々抗弁(権利濫用の障害事実)について
(1)ア 使用者は業務上の必要に応じ,その裁量により労働者の勤務場所や従事する業務の内容を決定することができるものというべきであるけれども,上記権限も無制約に行使することができるものではなく,これを濫用することは許されないと解されるところ,当該配置転換命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても,当該配置転換命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときには,当該配置転換命令は権利の濫用に当たるものというべきである(最高裁昭和61年7月14日第二小法廷判決・裁判集(民事)148号281頁参照)。
イ そこで,本件について,(ア) 本件人事異動の業務上の必要性,(イ) 本件人事異動の人選の合理性,(ウ) 被告の人事協議条項違反の有無,(エ) 本件人事異動により原告らの被る不利益,をそれぞれ検討する。
(2) 本件人事異動の業務上の必要性について
ア 上記に関する再抗弁アの(ア)のaないしc,再々抗弁アの事実のうち,被告の平成10年度の売上高は22億6991万3238円,平成11年度の売上高は25億0306万1429円,平成12年度の売上高は33億3912万7310円,平成13年度の売上高は28億1909万4551円であったこと,また,平成12年度には343万1386円,平成13年度には3790万9284円の営業利益を計上していたこと,他方,輸送部門の売上は,平成10年度には4億3601万5784円,平成11年度には4億1877万0317円,平成12年度には3億7242万1830円であったが,平成13年度には2億0284万7796円に減少していたこと,被告の取引先であるb社,株式会社c,d株式会社及び被告久世橋営業所の依頼に係る輸送については,滋賀営業所が担当していたこと,被告は,a社を荷主とする輸送については,優先的に名古屋支店に担当させていたこと,被告は,a社の輸送についてe運輸などの傭車を使用していたこと,被告は,本件人事異動の後,新たに輸送部門の10トン車ドライバー,3トン(2トン)車ドライバー及び3トン車・4トン車ドライバーの募集を行ったこと,原告ら8名は上記募集に応募したが,一人も採用されなかったことは,いずれも当事者間に争いがない。
イ 上記当事者間に争いのない事実に加えて,証拠(<証拠省略>)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 被告は一般貨物運送取扱事業等を目的とする株式会社であるところ,輸送部門では,本件人事異動当時,原告らを含めて23名の従業員が勤務し,4トントラックを11台(うち平車9台,幌車2台),4トン定温車1台,ユニック車9台,2トントラック1台及び10トントラック1台をそれぞれ保有していた。また,同部門の大口の取引先としてa社及びg社があり,同部門の1か月の売上の8割ないし9割を占めるときもあった。
(イ) a社は,従前被告に対しては4トントラックによる輸送を依頼していたが,これを10トントラックを用いる方針に転換したため,同トラックを1台しか保有しない輸送部門の受注量は減少し,また,a社自身の被告に対する販売量の低下も伴って,平成11年ころには1か月1500万円から2000万円あった同部門の売上は,平成13年には1か月1000万円に減少していた。
(ウ) g社は,従前被告に対して半導体製造装置等の輸送を依頼してきたところ,g社自身の販売量の減少により,被告とg社との取引は,平成11年度には2億2578万4411円,平成12年度には5億3609万9432円の受注金額であったものが,平成13年度には1億5920万4879円まで減少した。上記装置の製造には,6か月程度の時間を要するため,被告は,平成13年初めころには,同年以降g社からの受注が減少することを予測していた。加えて,同社は,平成13年1月ころ,被告に対し,上記装置の輸送には必ず空調機能付き製品車両を用いるよう要請した。被告は,上記要請に応え,また,輸送の効率を考慮して,g社の輸送の拠点である千葉県成田市に上記要請に適合した定温車を配備したが,他方,輸送部門保有に係るトラックについては,定温車1台を除いて上記要請を満たさないものとなったため,同部門のg社からの受注量が減少する結果となっていた。
(エ) 輸送部門の平成10年度の売上は4億3601万5784円,平成11年度は4億1877万0317円,平成12年度は3億7242万1830円であったが,上記(イ)及び(ウ)のとおりのa社とg社からの受注の減少により,平成13年度の同部門の売上高は2億0284万7796円に減少し,23名のドライバーのうち,実際に稼働しているのは10数名であり,稼働していないドライバーは待機している状態が生じていた。
(オ) 他方,被告は,輸送部門のドライバーに対しては,他の従業員と同一の基本給を支給した上,売上に応じた歩合給を支給することとし,更に90日分の賞与及び年間6万円の無事故手当等を支給することとしていた。また,同部門は,半導体製造装置等の精密機械の輸送を担当することなどから,高価格のトラックを使用していたため,その維持に費用を要し,更に,上記売上の計算については有料道路の料金を含むとされていたことから,有料道路の料金がかさむこととなるなど,同部門は,被告の事業所の中でも多額の経費を要する部門であった。
(カ) Gは,平成11年10月,被告の輸送技術課長兼経理・労務課長に就任したところ,平成13年初めころに輸送部門に関する上記状況を認識した。そして,同部門の売上高が減少し,更に減少が予測された一方,同部門には多額の経費を要していたことから,同部門の車両を削減することとして,本件人事異動を行うことを決めた。
ウ これに対し,原告らは,輸送部門の売上高が減少したのは,被告が分会を嫌悪し,組合員である原告らの所属する同部門の仕事を他部門の担当に割り替えて,輸送部門の仕事を意図的に操作した結果である旨主張するので,以下検討する。
(ア) 原告らは,被告の取引先であるb社,株式会社c,d株式会社及び株式会社塚腰運送久世橋営業所の輸送については,その事業所の位置関係から輸送部門が担当すべきであるのに,滋賀営業所の担当とされている旨主張する。
上記4社の輸送が滋賀営業所の担当さ(ママ)れていることは当事者間に争いがなく,証拠(<証拠省略>)によれば,なるほど,上記4社の所在地は滋賀営業所より輸送部門(上鳥羽営業所)に近いことが認められるけれども,他方,(a) b社から依頼される輸送については,最初の数回は輸送部門が行っていたものの,その後同部門がg社からの受注で多忙となったため,滋賀営業所が担当してきたものであること,(b) 株式会社cは,もともと滋賀営業所の顧客であって,営業上の信頼関係により滋賀営業所が担当していたこと,(c) d株式会社は,当初は輸送部門が担当していたが,その後に途絶した取引関係を滋賀営業所の営業努力により再開したため,そのまま滋賀営業所が担当していることが認められ,以上の事実に照らすと,上記各取引先については,地理的な位置関係にかかわらず,輸送部門(上鳥羽営業所)ではなく滋賀営業所が担当することをもって不合理であるということは困難である。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
(イ) また,原告らは,被告は輸送部門の業務量を減少させるため,a社を荷主とする輸送についてことさらに名古屋支店に担当させた旨主張する。
証拠(<証拠省略>)及び弁論の全趣旨によれば,なるほど,a社からの輸送依頼については,事業所の地理的関係もあって,従前そのほとんどを輸送部門が担当していたこと,a社から発注を受けるa社事業部の「営業収入」は平成12年度と平成13年度は約4億4000万円であり,また,「振替払出」(他部門への業務委託分)は,平成12年度と平成13年度では約2億1000万円で,いずれもそれほど変化がないのに対し,輸送部門の「振替受入」(他部門からの業務委託分)は,平成12年度は約3億2800万円であったものが,平成13年度は約1億6700万円に減少していること,他方,被告名古屋支店の「振替受入」額は,平成11年度は2423万9351円,平成12年度は3510万3759円,平成13年度は4582万2629円であって,1年ごとに約1000万円ずつ増加していることが認められるけれども,他方,被告がa社から発注を受ける業務は輸送の外にも梱包等の業務があり,平成12年から平成13年にかけては輸送の発注が減少したものであること,それでも被告は上記梱包等の業務に関して受注を増加させることで,a社からの営業収入としてはそれほどの減少が見られない結果となったものであること,被告名古屋支店は,a社の業務を扱う株式会社fを主たる顧客としていたところ,平成12年4月に同社が営業を止めたことから,同年5月以降同支店の売上が減少する事態となったこと,他方被告は,経営方針上中部地方に拠点を持つことが望ましいと考えたことから同支店を存置することとして,輸送上の効率が良い場合には順次名古屋支店に仕事を振り分けることとしたことが認められ,以上の事実に照らすと,a社からの輸送の依頼は従前輸送部門において受注していた経緯があるとしても,被告が名古屋支店の上記事情に鑑みてa社からの依頼の一部を同支店に割り振ることとしたことをもって必ずしも不合理ということはできず,したがって,被告が輸送部門の業務量を減少させるため,ことさらに名古屋支店に上記業務を担当させたとまでいうことはできないし,また,そもそもa社からの輸送業務の発注自体が減少していることは上記認定のとおりであることからすると,輸送部門の業務量の減少をもって,必ずしも被告が名古屋支店に仕事を担当させたことに主因があるということも困難である。
これに対し,原告X3は,被告が名古屋支店に無理な仕事の振り分けをしたために,名古屋から京都までトラックが空車のまま運行している旨供述するけれども,他のドライバーからの伝聞にすぎないものである上,その内容もあいまいであるといわざるを得ず,これを直ちに採用することができない。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
(ウ) 更に,原告らは,輸送部門の業務量を減らすため,被告はa社の輸送についてe運輸などの傭車を使用した旨主張する。
証拠(<証拠省略>)及び弁論の全趣旨によれば,なるほど,被告はa社の輸送について,e運輸からの傭車を使用していることが認められるけれども,他方,a社からの輸送依頼については,被告a社事業部が配車を行うとされているところ,平成13年初めころ被告に対するg社からの輸送依頼が急激に増加し,輸送部門において他社からの依頼を処理することが困難となってa社に関する上記事業部からの配車依頼を断る事態が生じたため,上記事業部において,輸送部門が傭車として使用していたe運輸に直接発注するようになり,以後その取引関係が継続しているため,同社の傭車を使用しているものであること,被告における傭車の使用比率は別紙2「輸送技術課・輸送部門における生産高に対する外注傭車料と傭車比率」記載のとおりであって,上記のとおり繁忙期であった平成13年初めころ以外には,本件人事異動前の傭車率は概ね4ないし6パーセント程度にすぎないことが認められ,以上の事実に照らすと,被告が輸送部門の業務量を減らすため,ことさらに傭車を使用していたということは困難である。
これに対し,甲33には,本件人事異動後である平成14年4月9日から同年8月20日までの間の被告のa社事業部からの配車922台のうち,335台が傭車ないし名古屋支店に振り分けられている旨,甲47には,平成14年4月9日から平成15年11月12日までの間の被告のa社事業部からの配車4491台のうち,1540台が傭車ないし名古屋支店に振り分けられている旨の記載があるけれども,原告X3本人によれば,上記各書面は,原告X8がa社事業部京都営業所東工場での勤務の際に作成したというものであって,別紙2「輸送技術課・輸送部門における生産高に対する外注傭車料と傭車比率」に照らし,その数値の正確性については疑問なしとしないばかりか,a社からの依頼については,名古屋支店の救済のために同支店に割り振ることがあることは上記認定のとおりであること,輸送部門においてはa社以外の依頼による輸送もあるものと考えられることからすると,仮に上記台数が正しいものとしても,上記台数のみから,被告が輸送部門の業務量を減らすため,ことさらに多数の傭車を使用していた事実を推認することは困難である。
また,原告X3は,a社事業部の作成に係る配車表には記載されず,輸送部門には知らされていない業務をe運輸が担当している旨供述するけれども,上記供述のみをもって,直ちに被告が輸送部門には内密でe運輸に業務を担当させているとまでいうことは困難であり,その他に上記事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
(エ) 原告らは,本件人事異動の後,被告は新たにドライバーを募集し,更に,これに原告らがこれ(ママ)に(ママ)応募したにもかかわらず,一人も採用しなかった旨主張する。
なるほど,被告は,本件人事異動の後,新たに輸送部門の10トン車ドライバー,3トン(2トン)車ドライバー及び3トン車・4トン車ドライバーの募集を行ったこと,原告ら8名は上記募集に応募したが,一人も採用されなかったことは,いずれも当事者間に争いがないけれども,証拠(<証拠省略>)によれば,被告が上記募集をしたのは,平成14年6月ころから平成15年8月ころにかけてであって,本件人事異動から約1年後のことである上,上記募集に係るドライバーはいずれも契約社員であること,被告の募集したドライバーは,従前から契約社員が担当していた10トントラックのドライバーや,京都市内の配送を担当する3トンないし4トントラックのドライバーであって,原告らが従前従事していた業務とはその内容が異なること,被告は,上記募集に応募した原告らのうち4名に面接したが,上記4名はいずれも契約社員であれば断る旨,その余の4名も同意見である旨述べたことから原告らをいずれも採用しなかったことが認められ,以上の事実に照らすと,被告による上記募集は,本件人事異動の目的や内容と必ずしも矛盾するということはできず,これをもって,本件人事異動に業務上の必要性がなかったということはできないというべきである。また,上記募集について原告らが採用されなかった上記事情に照らすと,被告がことさらに原告らを排除して上記募集をしたということもできない。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
エ 以上によると,本件人事異動は,平成13年初めころから輸送部門の売上が減少し,その後も続いて売上の減少が予測される一方,同部門についてはかねて多額の経費を要していたことから,事業としての採算性を確保する観点から行われたものというべきであって,業務上の必要性があるものというべきである。
(3) 本件人事異動の人選の合理性について
ア 証拠(<証拠省略>)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 被告は,本件人事異動当時の輸送部門の業務量や売上高に応じて,同部門の保有する上記認定に係るトラックの台数から最低限必要と考えられる台数を残してその余を削減することとし,Gにおいてその台数を同課次長と検討した結果,平成13年5月ころに同部門が保有していた24台(上記認定に係るトラックの車種に4トントラックを1台加算したもの)のうち10台を削減することとした。そして,同月に4トントラックを1台削減した上,その余のトラックについては,2トントラックを1台,4トントラックを合計7台,ユニック車を4台,4トン定温車を1台及び10トントラックを1台の合計14台を残し,4トントラックを4台,ユニック車を5台削減することとした。
(イ) ユニック車の運転については移動式クレーン等の資格を要するが,他方,4トントラックや4トン定温車の運転については普通免許を要するのみであることから,日常の業務においてユニック車を運転しているドライバーは,4トントラック等を運転することも可能ではあるけれども,輸送部門においては,日常の業務において乗車する車両がドライバー毎にほぼ固定されていた。そのため,被告は,上記トラックの削減については,本件人事異動当時に日常乗車していた車種を考慮し,更に,輸送部門の経費を削減するという上記認定に係る本件人事異動の目的を達成するため,ユニック車のドライバー9名,定温車のドライバー1名及びそれ以外の車種のドライバー13名について基本給の高い順に並べ,そのうち基本給の高い者からユニック車のドライバー5名,4トントラックのドライバー4名を本件人事異動の対象とすることとした。
(ウ) 被告が上記のとおり基本給の高い者の順に本件人事異動の対象とすることとしたのは,被告においては分会の結成以後,従業員に対する勤務評定制度を廃止していたことから,従業員の被告に対する貢献度等を評価するための情報がなく,そのため勤務成績等を基準にした人選では選定が恣意的になるおそれがあることから,客観的に明確な基準であり,かつ輸送部門の経費を削減して採算性を確保するという本件人事異動の目的に適うためであった。
イ(ア) 原告らは,基本給の高い者を異動させても,異動先の部署において結局同額の基本給を支給しなければならないから,事業の採算性の確保のために基本給の高い者を異動させることには合理性がない旨主張する。
証拠によれば,なるほど,本件人事異動によっても原告らの基本給に変動はないことが認められ,したがって,本件人事異動によっても,被告が支給すべき給与は少なくとも基本給に関しては削減になっていないということができるけれども,他方,本件人事異動は,輸送部門の売上が減少する一方,従前多額であった同部門の経費を削減して事業の採算性を確保する必要から行われたものであることは上記認定のとおりであることからすれば,同部門において基本給の高い者から他部署に異動させることは,同部門の経費の削減方法としては合理性を否定することは困難である。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
(イ) また,原告らは,被告は基本給の高い者を異動させたと言いながら,原告X3より基本給の高い者を異動させておらず,不合理である旨主張する。
証拠(<証拠省略>)及び弁論の全趣旨によれば,なるほど,本件人事異動当時の原告X3の基本給は1万0777円であるのに対し,本件人事異動の対象とはされなかったHの基本給は1万0807円であることが認められるけれども,他方,もともと被告は輸送部門から10台のトラックを削減することを決定したが,うち4トントラック1台は既に平成13年5月に削減の対象となっていたことから,4トンユニック車5台に対して4トントラックは4台を削減することとしたものであること,同部門においてはドライバーが日常乗車する車種がほぼ固定されていたことから被告はそれを考慮してトラックの削減を決定したものであることは上記認定のとおりであることに加えて,Hは4トントラックに乗車しており,4トントラックについては同人より基本給の高い者が4名いたことからHは本件人事異動の対象とはならなかったものであること,原告X3は4トンユニック車のドライバーの中では5番目に基本給が高かったため本件人事異動の対象とされたものであることが認められ,以上の事実に照らすと,原告X3が本件人事異動の対象とされ,Hがその対象とされなかったことが必ずしも不合理ということはできない。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
ウ 以上によると,本件人事異動の人選をもって不合理ということはできないというべきである。
(4) 本件人事異動についての人事協議条項違反の有無について
ア 上記に関する再抗弁アの(ウ)の事実及び再々抗弁ウの事実のうち,被告が,平成6年10月28日,分会との間で本件人事協議条項を締結したこと,被告が,平成13年6月23日,輸送部門のミーティングを行い,その席上で4トントラック4台及びユニック車5台を削減し,これに伴いドライバーを9名減員する旨通告したこと,被告が,同月26日及び28日,原告らに対し,本件人事異動を同年7月中旬までに行う旨通告したこと,被告は,分会の団体交渉開催の申入れに対し,同年7月3日,同月6日,同月13日及び同月17日に団体交渉を開催したこと,被告は,同月10日,原告らに対し,本件人事異動を通告したことは,当事者間に争いがない。
イ 上記当事者間に争いがない事実に加えて,証拠(<証拠省略>)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 本件人事協議条項は,平成11年7月14日付けで「会社は,組合員の身分,賃金,労働条件の変更については,問題が生じれば,事前に組合と協議し,円満に解決する。」と改正された。
(イ) 被告は,平成13年7月6日の団体交渉において,分会に対し,「輸送技術課/輸送部門について」と題する書面(<証拠省略>)等を交付したところ,同書面には,「減車の理由,目的,方針について」及び「減車の具体的方策」として,本件人事異動に至る経緯やその内容等が記載されていた。
(ウ) 被告は,同日の団体交渉において,分会に対し,経営資料の開示及び本件人事異動の対象となる原告ら及びIに関する異動後の労働条件を明らかにする旨を約した。
(エ) 被告は,同月10日,分会に対して,本件人事異動に関する申入書(<証拠省略>)を交付し,同書面において,異動先と職種を示して本件人事異動の内示を行うとともに,本件人事異動の対象となる従業員の身分は被告の正社員とすること,基本給及び家族手当について変更はないが,売上制から「残業公出制」に変更になること,職種としては,ドライバーから指定職種に変更になること,勤務場所に応じて交通費の変更や勤務時間の変更があり得ることを明らかにした。
(オ) 被告は,同月13日の団体交渉において,分会に対し,「残業・公出(日祝)と残業手当との相関図」,「減車対象者(配転対象者)の人選についての考え方と人選の実際」及び「配転者の損益状況とその詳細および今後の予測」と題する書面をそれぞれ交付し,本件人事異動対象者について,平成13年4月から6月までの生産高等を明らかにした。
(カ) 更に同年7月17日も団体交渉が開催されたが,本件人事異動に関する労使の意見が一致することはなかった。その後,分会は,同月23日に被告に対し,更に同年8月3日に団体交渉を開催するよう申し入れたところ,被告は,同年7月30日,分会に対し,本件人事異動に関する議論は尽くしたため,団体交渉を開催する必要はないと考えるが,新たな議題がある場合には同年8月8日に団体交渉を開催する用意がある旨通告した。
ウ 以上ア及びイの事実からすれば,被告は,平成13年6月23日の輸送部門のミーティングにおいて,原告らを含む分会員に対して本件人事異動の説明をし,更に,同年7月3日から同年7月17日にかけて4回にわたり団体交渉を行い,本件人事異動に至る経緯やその内容を説明した書面を交付するとともに,本件人事異動の直近3か月の経営状況が分かる資料の交付もした上,分会と議論をしたというのであるから,本件人事協議条項(平成11年7月14日付けで改正後のもの)の文言にも照らすと,本件人事異動について被告は,上記条項所定の「事前に組合と協議」を行ったものというべきである。
エ 原告らは,分会は,輸送部門の業務の減少を受けて,平成13年6月14日ころ,被告に対し,同部門における業務の確保をテーマとする労使協議会の開催を申し入れていたのに,被告は,これを無視して同月23日に同部門のミーティングにおいて本件人事異動を通告した,また,被告は,同年7月17日以降は,分会の再三の申入れにもかかわらず団体交渉を開催しなかったから,分会と誠実に交渉したとはいえない旨主張する。
なるほど,証拠(<証拠省略>)によれば,平成13年6月14日ころ,分会から労使協議会開催の申入れがあったこと,被告が本件人事異動を従業員に通告したのは同月23日のミーティングが初めてであったこと,同年7月17日の団体交渉後,分会は,同月23日,同年8月7日,同月21日及び同月30日に団体交渉開催の申入れをし,同年9月4日には京都府地方労働委員会に対して団体交渉あっせんの申立てをし,同委員会において団体交渉についてのあっせん案が示されたが,団体交渉は開催されなかったことが認められるけれども,本件人事協議条項(平成11年7月14日付けで改正後のもの)の文言は上記認定のとおりであって,本件人事異動について従業員に対する発表前に分会との協議を経ることや,分会の同意を得るに至るまでの交渉を継続すべきことまでが要求されているとは解されないことに加えて,被告は,平成13年6月23日のミーティングにおける本件人事異動の通告以降,4回にわたり団体交渉を開催するとともに,その内容等を明らかにしてきていることに照らすと,上記事情があることを考慮しても,上記ウの判断を左右するには足りないというべきである。
よって,原告らの上記主張は,採用することができない。
(5) 本件人事異動により原告らの被る不利益について
ア 上記に関する再抗弁アの(エ)の事実及び再々抗弁エの事実のうち,原告らが被告に入社以来,おおむねドライバーとして勤務してきたこと,本件人事異動前後の原告らの給与額が別紙3「人事異動前と人事異動後の賃金の比較」のとおりであることは,当事者間に争いがない。
イ 原告らは,被告に入社以来,おおむねドライバーとして勤務してきたことは当事者間に争いがないことは上記のとおりであることに加えて,証拠(<証拠省略>)及び弁論の全趣旨によれば,なるほど,本件人事異動により,原告らの担当する職種は,ドライバーからフォークリフト作業,梱包作業,配送・集荷作業等に変更されたこと,原告らの賃金は,平成13年8月までの平均支給額に比較すると相当程度減額されていることが認められるけれども,他方,本件人事異動によっても,原告らが被告の正社員であることに変更はないこと,原告らの賃金については,本件人事異動により,輸送部門においては売上制による歩合給であった部分が時間外手当の支給になるものの,原告らの基本給及び家族手当にはいずれも変更はなく,したがって,本件人事異動前である平成13年7月分の賃金と本件人事異動直後である同年8月分の賃金とを比較した場合には,原告ら全員について賃金額が増加していること(別紙3「人事異動前と人事異動後の賃金の比較」のとおり。),また,被告においては平成14年ころから,労働時間の短縮により全従業員について基本給の減額を行っていること,本件人事異動後の原告らの勤務場所は別紙1「人事異動命令表」記載のとおりであり,a社事業部の京都営業所東工場ないし西工場,もしくは久世橋営業所であって,輸送部門に通勤することに比して,通勤時間等にそれほどの変更があるものとは考えられないことが認められ,以上の事実に照らすと,原告らがドライバー職に長く従事してきたことや異動後に賃金額が減少していることを考慮しても,なお,本件人事異動が,原告らに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとまでいうことはできないというべきである。
なお,原告らは,原告らについては他の職種への配置転換は予定されていなかったかのような主張もするけれども,被告との間でそのような合意がなされたことを認めるに足りる証拠はない。
(6) 以上によれば,結局,本件人事異動は,被告の業務上の必要性に基づいて行われたものである上,その対象となった原告らに対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるということはできないから,これをもって権利の濫用ということはできない。
5 再抗弁イ(不当労働行為)について
(1) 再抗弁イのうち,平成13年度の分会において,原告X2は分会長,原告X5は副分会長,原告X8及び同X3は分会相談役,原告X7,同X4及びX1は分会執行委員であったことは当事者間に争いがなく,また,証拠(<証拠省略>)によれば,被告は,平成10年10月15日ころ,分会に対し,団体交渉の出席者の数について分会側は5名までとし,時間を2時間以内とすることについて申入れを行ったこと,被告は,同年12月2日ころ,分会に対し,分会掲示板の掲載の内容や分会旗の掲揚について申入れを行ったこと,被告は,平成13年5月22日ころ,分会の組合員が行ったアンケート活動について,分会の役員に対して始末書の提出を命じたことが認められるけれども,他方,本件人事異動については業務上の必要性が認められることは前記判断のとおりであることに加えて,証拠(<証拠省略>)によれば,平成13年度の分会においては,原告らを含めて31名の役員が存在しており,原告ら以外にも分会の活動を行っている者が相当数存在していたこと,被告は,分会が就業時間中に上記アンケートを行ったことについて,分会の役員に始末書の提出を命じたものであることが認められることに照らすと,上記認定に係る事実をもっても,直ちに,本件人事異動は被告が分会ないし分会の活動を嫌悪して行ったものであるとまでいうことは困難であり,その他に,本件人事異動は被告が分会ないし分会の活動を嫌悪して行ったものであることを認めるに足りる証拠はない。
(2) したがって,本件人事異動が不当労働行為に該当し,無効ということはできない。
6 まとめ
(1) 原告X6及び同X7の本件訴えは,訴えの利益を欠き不適法である。
(2) その余の原告らの請求については,本件人事異動を被告の権利の濫用ということはできず,また,本件人事異動が不当労働行為に該当し無効であるということはできない。
第4結論
よって,原告X6及び同X7の訴えは,訴えの利益を欠く不適法なものであるから,これをいずれも却下することとし,その余の原告らの請求は理由がないから,これをいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,第65条第1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判官 竹内努)
別紙1 人事異動命令表
<省略>
別紙2 輸送技術課・輸送部門における生産高に対する外注傭車料と傭車費比率
平成11年4月~平成14年1月
<省略>
別紙3 人事異動前と人事異動後の賃金比較
<省略>